説明

多目的レーダ監視システム

本発明は森林火災のようなRCSが低い対象物(110,140,150,160,190)を検出するレーダシステム(100)を開示する。このシステムは、機構的に固定された複数のアンテナ(220)を備え、レーダエネルギーを送信する複数の送信局(120)と、機構的に固定された複数のアンテナ(220)を備え、前記複数の送信局から送信されたレーダエネルギーの反射波を受信する複数の受信局(130)とを有する。前記送信局と前記受信局との複数アンテナ(220)は地面に対して実質的には平行なメインビーム(221)をもち、前記複数の受信局の少なくともサブセットには、第1と第2の受信信号を記録する手段と、前記信号の内の一方を前記信号の他方から減算する手段とを備える。前記送信局と前記受信局とは10〜100MHzの周波数範囲で機能するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、森林火災のようなレーダ断面積(RCS)が低い対象物を検出するレーダシステムを開示する。そのシステムは、機構的に固定された複数のアンテナを備え、レーダエネルギーを送信する複数の送信局を有する。また、そのシステムは、機構的に固定された複数のアンテナを備え、前記複数の送信局から送信されたレーダエネルギーの反射波を受信する複数の受信局も備える。本発明のシステムでは、前記送信局と前記受信局との複数アンテナは地面に対して実質的には平行なメインビームをもつ。
【背景技術】
【0002】
森林火災を検出する現在の方法は相対的に費用がかかり、複雑である。小型飛行機が何度も飛行して森林火災を検出する“マニュアル的な(人手による)”方法は費用がかかるものである。森林火災を検出する公知の自動的なシステムとして特許文献1が開示されている。
【特許文献1】米国特許第5,959,589号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このシステムが課題として抱えると思われる欠点には、そのシステムは可動部と異なる種類のセンサとを含むためにシステムが相対的に複雑であるという点がある。
【0004】
従って、安価であり、現在知られているシステムよりも効率的な自動火災検出システムの必要がある。コストを安くする1つの方法は、多目的に利用可能なシステム、即ち、火災の検出のみならず、防火担当官庁以外のユーザが検出することを望む監視性に乏しい他の対象を検出するシステムを提供することである。そのようなシステムでは、システムの種々のユーザ間で費用を分担できる。
【0005】
そのようなユーザの例にはスティルス飛行機のような監視しずらい物体を検出することを望む軍事ユーザや、例えば、雪崩の被害者や人里離れた地域で行方不明になった人々を捜索することを望む救急サービスのような民間ユーザがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのようなシステムが本発明によって提供され、本発明では森林火災のようなRCS(レーダ断面積)の小さい物体を検出するレーダシステムを提供する。そのシステムは、機構的に固定された複数のアンテナを備え、レーダエネルギーを送信する複数の送信局と、機構的に固定された複数のアンテナを備え、前記複数の送信局から送信されたレーダエネルギーの反射波を受信する複数の受信局とを備える。
【0007】
前記送信局と前記受信局との複数のアンテナは地面に対して実質的には平行なメインビームをもち、前記複数の受信局の少なくともサブセットには、第1と第2の受信信号を記録する処理手段と、前記信号の内の一方を前記信号の他方から減算する処理手段とを備える。また、前記送信局と前記受信局とは10〜800MHzの周波数の範囲内、好ましくは、10〜100MHzの周波数の範囲内で機能するように構成される。
【0008】
なお、上述の処理手段の1つ、或は両方は複数の受信局とともに配置されても良いし、或は、それらの局から離れた場所に配置されても良い。
【0009】
本発明のシステムにより、監視性の小さい目標物の検出が、単純で従って安価であり、維持費用も安く、展開するのにも安価である、複数の個々の局により可能となる。
【0010】
次に本発明を添付図面を参照して詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1には、本発明のシステム100が模式的に示されている。その図面にはシステムにより検出される対象物が含まれている。それらは、例えば、陸上車輌/船舶100、雪崩140、例えば、発電所のような感度の高い対象物150、森林火災160、航空機170、この例ではレーダ断面積(RCS)の小さい航空機である。本発明のシステムはRCSの小さい対象物を検出する能力をもっているので、そのシステムはRCSの大きな対象物も検出する能力を本来的に備えている。
【0012】
その図にはシステム構成要素の例も参照番号を付して示されており、それらは次のとおりである。即ち、複数の送信局120と、複数の受信局である。それら送信局と受信局は夫々、電磁波エネルギーを送信、受信するようになっている。
【0013】
図1の連続線は海岸線を示しており、図1の破線は2つの地方、国などの境界線を示している。
【0014】
従って、図1は、“スティルス”航空機170、森林火災160、(警告を与えることができたり、犠牲者を救出する努力を始めることが可能であるために)雪崩140などような検出することが望まれるかもしれないRCSの小さい対象物の例を示している。本発明を用いて突き止めることが望まれる他の対象物の例には、人里離れた場所で迷った人々や、上述の雪崩の犠牲者がある。本発明の信号はまた、発電所150のような感度の高い設置物のための監視システムとしても用いられる。
【0015】
広大な領域をカバーするために本発明のシステムは、そのような広大な領域にわたって電磁波エネルギーを伝播させる必要がある。言うまでもないことであるが、このことはできるだけ簡単で安価な方法で実行される。図1は、このことが本発明によりどのように成し遂げられるのかを示している。このシステムでカバーすることが望まれる領域には、電磁波エネルギー、レーダエネルギーを送信する複数の送信局120が展開されている。
【0016】
図1から分かるように、システムは必ずしも複数の送信局120と同じ場所に設置される必要はない複数の受信局130も含んでいる。加えて、送信局の数が受信局の数と同じである必要はない。好ましくは、送信局120の数は受信局130の数より多いと良い。
【0017】
複数の受信局130は、複数の送信局120から送信され、システム100でカバーされる領域に存在する対象物から反射されたエネルギーを受信するようになっている。受信局130で受信される途中で何の反射もない送信局からの直接のエネルギーは、後に続く信号処理における基準信号として用いられると良い。
【0018】
システム100は、かなり数多くの送信局と受信局とを含んでいるので、これらの局のコストを低く抑えることが重要である。本発明によれば、このことを行う1つの方法は、送信局と受信局に機構的に固定された単純なアンテナを備えることである。このことは回転台上の可動アンテナを用いる最も良く知られたレーダアンテナとは対照的である。
【0019】
送信局の1つ、幾つか、或は全てが用いられて同時に送信を行うかもしれない。同様に、多かれ少なかれ任意の数の送信局が任意の時間に用いられるかもしれない。送信のために用いられるかもしれない1つの方法は、“時分割多重化”という以前から知られた方法である。即ち、各局にはその局が送信できる時間スロットが割当てられ、それら送信局は1つの同じ周波数で送信するか、或は多くの異なる周波数で送信をする。
【0020】
言及されるかもしれない別の送信方法は、“符号分割多重化”である。即ち、数多くの異なる送信局が同時に同じ周波数で、しかし、受信局が受信信号を区別可能な符号化された信号で送信を行う。
【0021】
種々の送信局により送信される信号間での分解を成し遂げるためのさらに別の方法は、周波数分割多重化である。即ち、各送信局にはそれ自身に送信周波数が割当てられる。これらの方法は独自に用いられても良いし、他の方法のいずれかと組み合わされて用いられても良い。
【0022】
図2は以前より用いられている種類のアンテナ210の例を示している。その図に示されているように、公知のアンテナは地面に対して仰角のあるビーム211をもっている。これは、仰角のあるビームであれば、例えば、航空機からの反射よりも高い程度まで地面からの反射を抑制するという事実のためである。
【0023】
図2はまた、前に述べたように、本発明のシステム100の送信局120と受信局130のアンテナの実施例を示している。それら送信局と受信局のアンテナ両方ともに必ずしも必要ではないが、適切に静止したタイプのものである。そのアンテナはダイポールアンテナでも良いし、或はモノポールアンテナでも良い。また、アレイアンテナも本発明の範囲内のものとして考えられる。アレイアンテナの1つの利点には、それが方位角方向のセクタで送信と受信とを行い、これにより、後続の信号処理を容易にする点にある。
【0024】
図2は本発明の送信局と受信局のアンテナ220のアンテナビーム221を示している。その図に示されているように、これらのビーム221には仰角がつけられていない。むしろ、それらは地面沿いに照射している。地面沿いに照射しているビームの定義は、アンテナの位相中心からアンテナのメインビームの最大値を通る線が、そのアンテナ近傍の地面に基本的には平行であることである。
【0025】
本発明のシステムの送信局のアンテナの特徴の有益な副次的な効果は、地面に沿ったビームをもつアンテナは、仰角のあるビームをもつアンテナと比べて製造するのがかなり容易であり、安価であることである。従って、そのシステムのコストは提案したアンテナ220により低減される。
【0026】
しかしながら、代替策として、所謂“傾斜ビーム”を採用するアンテナを除外すべきではない。これは電気的に或は機械的に実行される。
【0027】
このシステムのアンテナ220の更に別の特徴は、それらが、一端に給電接続部を備えた単純なダイポールアンテナとして実現される点にある。
【0028】
アンテナ220のビーム221は基本的には地面に沿ったものであるが、大抵の航空機は依然としてこれらのアンテナにより照射され、従って、システム100により検出可能である。
【0029】
しかしながら、地面沿いに照射するアンテナを用いることの明白な示唆とは、検出することが望まれる対象物からのみならず、システム100の送信局の周囲にある幅広い対象物からの反射波も受信することである。従って、望まれない反射波の受信を克服するための解決策を見出さねばならない。
【0030】
今まで、システムの送信局120と受信局130のアンテナ220に主に焦点を合わせて説明をしてきた。しかしながら、本発明のシステム100は、送信局と(主として)受信局の中にあるか、或はこれらに接続された、受信した反射波を望ましい方法で処理する手段も備えている。
【0031】
前記処理手段は数多くの受信局に配置されるか、或は、代替案としては、受信局は受信した信号を、受信局に接続された中央処理局に単に転送するだけでも良い。これには種々の変形や組み合わせもあり得る。即ち、受信局の幾つか、或は全てがその処理手段のいくつかを備え、中央処理局が“半分処理された”データを受信するのである。これらの組み合わせも全て、本発明の範囲の中にある。
【0032】
本発明の処理手段は次の原理に従って作用する。即ち、何の対象物も存在しない地表からのレーダ反射波、目標物が存在し、それが何かの手段により知られる時の地表からのレーダ反射波は“バックグラウンドの定義”として処理手段により記録される。時間的に後の時点で対象物を検出することが必要なとき、この“バックグラウンドの定義”がその時点で受信されたレーダ反射波から減算するために用いられる。このようにして、地上からのエコーが抑制され、監視性の低い対象物からのレーダ“エコー”が明瞭に浮かび上がる。
【0033】
バックグラウンドを減算する方法の変形例として、あまり安定していないバックグラウンドエコーも次のように除去される。即ち、(複数の)受信局における処理手段が一連のバックグラウンド応答を記録するために備えられている。応答ごとに、種々の公知の積分技術を差分の残りのアレイに適用して、遮断することが望まれるバックグラウンドエコーを抑制するように、互いに対して減算を行うと良い。
【0034】
図3にはバックグラウンド減算が模式的に示されている。即ち、時間的に第1の地点T1で始まり、時間間隔Δt1だけ離れた数多くのレーダ反射波x1〜x11が受信される、T1で、そして、反射波が受信される期間中には、システム100によってカバーされる領域に森林火災などがないことが知られている。
【0035】
上述した対象物、即ち、森林火災などを検出することが望まれる時間的に後の地点T2では、レーダ反射波の第2の時系列x21〜x31が記録される。第2の時系列のレーダ反射波は時間間隔Δt2だけ離れている。時間間隔Δt1とΔt2とは必ずしも同じである必要はない。
【0036】
それから、第1の時系列の反射波が第2の時系列の反射波から次のようにして減算される。即ち、x21−x1,x22−x2,……,x31−x11を計算し、これら反射波に生じえる差異が検出することが望まれている対象物の存在を示す。閾値が設定され、そのような差分の振幅が閾値を超えるなら対象物の存在が示唆される。
【0037】
上述の方法とは別の信号処理の方法が本発明の処理手段に用いられても良い。そのような信号処理方法は、ドップラー処理、時間可変減衰器、ダイナミックレンジの広い受信器、或は、アダプティブフィルタのような技術を1つ以上含んでいても良い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に従うシステムの概要を示す図である。
【図2】本発明のシステムに用いられるアンテナを示す図である。
【図3】本発明のシステムにより記録される一連の信号を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
森林火災のようなRCSが低い対象物(110,140,150,160,190)を検出するレーダシステム(100)であって、
機構的に固定された複数のアンテナ(220)を備え、レーダエネルギーを送信する複数の送信局(120)と、
機構的に固定された複数のアンテナ(220)を備え、前記複数の送信局から送信されたレーダエネルギーの反射波を受信する複数の受信局(130)とを備え、
前記送信局と前記受信局との複数アンテナ(220)は地面に対して実質的には平行なメインビーム(221)をもち、
前記レーダシステムは、
前記複数の受信局の少なくともサブセットには、第1と第2の受信信号を記録する手段と、前記信号の内の一方を前記信号の他方から減算する手段とを備え、
前記送信局と前記受信局とは10〜800MHzの周波数範囲内で機能するように構成されていることを特徴とするレーダシステム。
【請求項2】
前記送信局(120)と前記受信局(130)とは10〜100MHzの周波数範囲内で機能するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のレーダシステム。
【請求項3】
前記受信局(130)のサブセットには複数の信号を記録する処理手段と、前記複数のの信号の内の1つの信号とその前の信号との間の差分を抽出する処理手段と、前記差分を積分する手段とを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーダシステム。
【請求項4】
前記送信局(120)と前記受信局(130)のアンテナ(220)は1端からの給電部を備えたモノポールアンテナであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーダシステム。
【請求項5】
前記送信局(120)と前記受信局(130)のアンテナ(220)は中央に給電部を備えたダイポールアンテナであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーダシステム。
【請求項6】
前記複数のアンテナの少なくとも1つはアレイアンテナであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーダシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−522154(P2008−522154A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−542965(P2007−542965)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001763
【国際公開番号】WO2006/059926
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(598036300)テレフオンアクチーボラゲット エル エム エリクソン(パブル) (2,266)
【Fターム(参考)】