説明

多結晶シリコンインゴットの製造方法及び多結晶シリコンインゴットの製造装置

【課題】坩堝内に装入された塊状のシリコン原料を効率良く溶解することができ、多結晶シリコンインゴットの生産効率を大幅に向上させることが可能な多結晶シリコンインゴットの製造方法及び多結晶シリコンインゴットの製造装置を提供する。
【解決手段】坩堝内に装入したシリコン原料を溶解してシリコン融液を生成し、このシリコン融液を凝固させて多結晶シリコンのインゴットを製出する多結晶シリコンインゴットの製造方法であって、前記坩堝内にシリコン原料を装入するシリコン原料装入工程S02と、前記シリコン原料と前記坩堝の底面部との接触面積を増大させるシリコン密接層を形成するシリコン密接層形成工程S01と、前記坩堝を加熱して前記坩堝内のシリコン原料を溶解し、前記シリコン融液を生成する加熱溶融工程S03と、前記坩堝を冷却して、前記坩堝内のシリコン融液を凝固させる凝固工程S04と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坩堝内に収容したシリコン原料を溶解してシリコン融液を生成し、このシリコン融液を坩堝内で凝固させることによって、多結晶シリコンのインゴットを製出する多結晶シリコンインゴットの製造方法及び多結晶シリコンインゴットの製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の少ない発電方式として太陽電池モジュールを利用したものが注目され、様々な分野で広く使用されている。このような太陽電池モジュールは、pn接合されたシリコンの半導体の板材からなるセルを複数備え、これらのセルが太陽電池用インターコネクタおよびバスバーによって電気的に接続された構成とされている。
最近では、太陽電池モジュールの普及に伴い、半導体の素材となるシリコン材の需要が高まっており、シリコン原料が不足する状況にある。
【0003】
ところで、前述の太陽電池モジュールを構成する半導体の素材として、坩堝内で一方向凝固させた多結晶シリコンインゴットが広く使用されている。
このような多結晶シリコンインゴットの製造装置としては、例えば、特許文献1,2に示すように、チャンバの内部空間に、石英ガラスなどで構成された有底筒状の坩堝と、坩堝が載置される冷却板と、坩堝の上方に位置する上部ヒータと、坩堝の下方に位置する下部ヒータと、が配設されたものが提案されている。
【0004】
この多結晶シリコンインゴットの製造装置を用いた多結晶シリコンインゴットの製造方法においては、坩堝内に塊状のシリコン原料を装入し、チャンバ内を例えばアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気とし、上部ヒータと下部ヒータにより上方と下方とから坩堝を加熱して坩堝内のシリコン原料を溶融させる。このとき、シリコン原料は、溶融とともにその全体の見掛けの体積が減じてゆき、シリコン融液の体積が、例えば前記見掛けの体積に対して2/3〜1/2程度になる。
【0005】
そして、坩堝内のシリコン原料を完全に溶融させた段階で、冷却板により坩堝の底面部側からシリコン融液を冷却するとともに上部ヒータによって坩堝の上部を加熱しておく。すると、シリコン融液は、坩堝の底面部から上方に向けて高温となる温度勾配に沿って一方向に結晶を成長させながら凝固してゆき、これにより、結晶性に優れた高純度の多結晶シリコンインゴットが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−290096号公報
【特許文献2】特開2000−319094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1、2に開示されているような従来の多結晶シリコンインゴットの製造方法においては、塊状のシリコン原料を坩堝内に装入していることから、塊状のシリコン原料同士、あるいは、坩堝の側壁部や底面部との間に、空隙が生じることになる。なお、塊状のシリコン原料の粒径を小さく設定することで、前述の空隙の発生を抑制することが可能であるが、シリコン原料の粒径を過度に小さくした場合には、比表面積が大きくなり、嵩比重が小さくなり、熱伝導の低下によってシリコン原料の溶解に時間が掛かり、炉の稼動効率が低下するとともに、石英坩堝が劣化してしまう。このため、シリコン原料の粒径は比較的大きく形成されることになり、前述の空隙の発生を避けることはできない。
【0008】
ここで、ヒータにより坩堝を加熱してシリコン原料を溶解する場合には、坩堝の底面部や側壁部と接触した部分からシリコン原料に熱が伝達されることになる。しかしながら、塊状のシリコン原料と坩堝の底面部や側壁部との間には、前述のように空隙が形成されていることから、熱が坩堝内のシリコン原料に効率良く伝達されず、シリコン原料の溶解に多くの時間が掛かり、効率良く多結晶シリコンインゴットを製出できないといった問題があった。また、シリコン原料の溶解に要する電力量が増大し、多結晶シリコンインゴットの製造コストが大幅に増大してしまうといった問題があった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、坩堝内に装入された塊状のシリコン原料を効率良く溶解することができ、多結晶シリコンインゴットの生産効率を大幅に向上させることが可能な多結晶シリコンインゴットの製造方法及び多結晶シリコンインゴットの製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題を解決するために、本発明の多結晶シリコンインゴットの製造方法は、坩堝内に装入したシリコン原料を溶解してシリコン融液を生成し、このシリコン融液を凝固させて多結晶シリコンのインゴットを製出する多結晶シリコンインゴットの製造方法であって、前記坩堝内にシリコン原料を装入するシリコン原料装入工程と、前記シリコン原料と前記坩堝の底面部との接触面積を増大させるシリコン密接層を形成するシリコン密接層形成工程と、前記坩堝を加熱して前記坩堝内のシリコン原料を溶解し、前記シリコン融液を生成する加熱溶融工程と、前記坩堝を冷却して、前記坩堝内のシリコン融液を凝固させる凝固工程と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
この構成の多結晶シリコンインゴットの製造方法によれば、前記坩堝の底面部に密接して前記シリコン原料と前記坩堝の底面部との接触面積を増大させるシリコン密接層を形成するシリコン密接層形成工程を備えているので、ヒータによる熱が、坩堝の底面部からシリコン密接層へと効率良く伝達されることになり、坩堝内のシリコン原料の溶解を促進することができる。よって、シリコン原料の溶解時間を短縮することができ、多結晶シリコンインゴットの生産効率の向上を図ることができる。また、シリコン原料の溶解に掛かる時間及び所要電力量を抑えることができ、多結晶シリコンインゴットの製造コストを大幅に削減することが可能となる。
【0012】
ここで、前記シリコン密接層形成工程は、前記坩堝の外部で予め生成したシリコン融液を前記坩堝内に注入し、シリコン融液からなるシリコン密接層を形成する構成とすることが好ましい。
この場合、シリコン密接層がシリコン融液からなるものとされているので、このシリコン融液を介してヒータによる熱を塊状のシリコン原料へと伝達させることができ、シリコン原料の溶解を促進することができる。また、シリコン融液は、塊状のシリコン原料同士の空隙やシリコン原料と坩堝の側壁部との間の空隙等に充填されることになるので、塊状のシリコン原料の溶解をさらに促進することができる。
【0013】
また、前記シリコン密接層形成工程は、前記坩堝の底面部に板状のシリコン原料を敷設することにより、前記シリコン密接層を形成する構成としてもよい。
この場合、前記坩堝の底面部に敷設された板状のシリコン原料がシリコン密接層とされており、ヒータによる熱が、坩堝の底面部から板状のシリコン原料へと効率良く伝達されることになる。すると、板状のシリコン原料が優先的に溶解され、シリコン融液が生成し、このシリコン融液が、シリコン原料同士の空隙やシリコン原料と坩堝の側壁部との間の空隙等に充填されることになり、塊状のシリコン原料の溶解を促進することができるのである。
【0014】
本発明の多結晶シリコンインゴットの製造装置は、シリコン原料が収容される有底筒状をなす坩堝と、この坩堝を加熱して収容したシリコン原料を溶解するヒータと、前記坩堝を冷却する冷却板と、を備えた多結晶シリコンインゴットの製造装置であって、前記坩堝の外部で予め生成したシリコン融液を前記坩堝内に供給するシリコン融液注入部を備えていることを特徴としている。
【0015】
この構成の多結晶シリコンインゴットの製造装置によれば、前記坩堝の外部で予め生成したシリコン融液を前記坩堝内に供給するシリコン融液注入部を備えているので、坩堝内にシリコン融液を注入して、前記坩堝の底面部に密接して前記シリコン原料と前記坩堝の底面部との接触面積を増大させるシリコン密接層を形成することが可能となり、このシリコン密接層を介してヒータによる熱をシリコン原料に効率良く伝達させることができ、坩堝内のシリコン原料の溶解を促進することができる。
【0016】
ここで、前記冷却板の上に前記坩堝が載置され、前記坩堝の下方側及び上方側に前記ヒータが配設されていることが好ましい。
この構成の多結晶シリコンインゴットの製造装置によれば、坩堝の下方側に配置されたヒータによる熱を、坩堝の底面部を介してシリコン密接層に効率良く伝達させることができ、シリコン原料の溶解を確実に促進することができる。また、坩堝の上方側にヒータが配設されるとともに冷却板の上に坩堝が載置されているので、坩堝の底面部側から上方に向けてシリコン融液を一方向凝固させることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、坩堝内に装入された塊状のシリコン原料を効率良く溶解することができ、多結晶シリコンインゴットの生産効率を大幅に向上させることが可能な多結晶シリコンインゴットの製造方法及び多結晶シリコンインゴットの製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造装置の概略説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法のフロー図である。
【図3】本発明の第1の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法におけるシリコン原料装入工程及びシリコン密接層形成工程を示す説明図である。
【図4】本発明の第2の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法のフロー図である。
【図5】本発明の第2の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法におけるシリコン原料装入工程及びシリコン密接層形成工程を示す説明図である。
【図6】本発明の第3の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法のフロー図である。
【図7】本発明の第3の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法におけるシリコン原料装入工程及びシリコン密接層形成工程を示す説明図である。
【図8】本発明の他の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。
まず、図1から図3を用いて、本発明の第1の実施形態である多結晶シリコンインゴット製造装置及び多結晶シリコンインゴットの製造方法について説明する。
【0020】
本実施形態である多結晶シリコンインゴット製造装置10は、内部空間を気密状態で保持可能なチャンバ11を備えており、このチャンバ11の内部空間に、有底筒状をなす坩堝12と、この坩堝12の上方に位置する上部ヒータ14と、坩堝12の下方に位置する下部ヒータ15と、坩堝12が載置される冷却板17と、坩堝12の外周を覆う断熱部材18と、坩堝12内にシリコン融液を供給するシリコン融液注入部20と、が配設されている。
【0021】
ここで、チャンバ11には、その内部空間に例えばアルゴンガスなどの不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段(図示なし)、及び、チャンバ11の壁部に冷却水を供給してこれを循環させる冷却材供給手段(図示なし)などが別途設けられている。
坩堝12は、石英ガラスで構成されており、底面部12Aと、この底面部12Aから立設された側壁部12Bと、を備えている。
【0022】
冷却板17は、例えばカーボンまたはシリコンカーバイド等で構成されており、略平板状をなしている。この冷却板17は、その内部に冷却材が流通する流路(図示なし)を備えており、この流路に、例えばアルゴンガスなどの冷却用不活性ガスまたは冷却水を供給する冷却材供給手段(図示なし)が接続されている。
【0023】
そして、シリコン融液注入部20は、坩堝12の外部でシリコン原料を溶融してシリコン融液を生成する溶融炉21と、この溶融炉21からシリコン融液を坩堝12内へと移送する移送管25と、を備えている。溶融炉21は、石英によって形成された炉本体22と、炉本体22を加熱する加熱手段23と、を備えている。
【0024】
以下に、この多結晶シリコンインゴット製造装置10を用いた多結晶シリコンインゴットの製造方法について、図2のフロー図及び図3の説明図を用いて説明する。
まず、坩堝12内に、シリコン融液注入部20を用いて、坩堝12の外部で予め溶融されたシリコン融液を注入し、坩堝12の底面部12Aと密接するシリコン密接層Mを形成する(シリコン密接層形成工程S01)。このように、本実施形態においては、シリコン融液が坩堝12の底面部12B側に貯留されることにより、シリコン密接層Mが形成されているのである。
【0025】
次いで、シリコン原料として塊状のシリコン原料Cを坩堝内に装入する(シリコン原料装入工程S02)。ここで、シリコン原料としては、11N(純度99.999999999)の高純度シリコンを砕いて得られた「チャンク」と呼ばれる塊状のものが使用される。この塊状のシリコン原料Cの粒径は、例えば、30mmから100mmとされている。このため、図3に示すように、シリコン原料C同士の間及び坩堝12の底面部12Aとシリコン原料Cとの間に空隙が形成されることになる。本実施形態では、これらの空隙に、シリコン密接層Mを構成するシリコン融液が充填されることになる。
【0026】
このように、シリコン密接層Mが形成された状態で、上部ヒータ14及び下部ヒータ15によって坩堝12を加熱し、坩堝12内のシリコン原料Cを溶解する(加熱溶融工程S03)。これにより、坩堝12内にシリコン融液が生成されることになる。
【0027】
次いで、下部ヒータ15による加熱を停止し、冷却板17内部に冷却材を供給することによって坩堝12を冷却し、坩堝12内部のシリコン融液を凝固させる(凝固工程S04)。このとき、上部ヒータ14を稼動した状態とすることにより、坩堝12内部においては、底面部12A側から上方に向かうにしたがい温度が高くなるように温度勾配が設けられることになる。これにより、坩堝12内のシリコン融液は、坩堝12の底面部12A側から上方に向けて一方向凝固されることになる。
このようにして、一方向凝固された多結晶シリコンインゴットが製出される。
【0028】
以上のような構成とされた本実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法によれば、坩堝12内にシリコン融液を注入することによって、坩堝12の底面部12Aに密接してシリコン原料Cと坩堝12の底面部12Aとの接触面積を増大させるシリコン密接層Mが形成されているので、上部ヒータ14及び下部ヒータ15(特に、下部ヒータ15)による熱が、坩堝12の底面部12Aからシリコン密接層Mへと効率良く伝達されることになり、坩堝12内に装入された塊状のシリコン原料Cの溶解を促進することができる。これにより、シリコン原料Cの溶解時間を短縮することができ、多結晶シリコンインゴットの生産効率の向上を図ることができる。また、シリコン原料Cの溶解に掛かる時間及び所要電力量を抑えることができ、多結晶シリコンインゴットの製造コストを大幅に削減することが可能となる。
【0029】
また、本実施形態では、シリコン融液によってシリコン密接層Mが形成されているので、図3に示すように、シリコン融液が、シリコン原料C同士の空隙やシリコン原料Cと側壁部12B及び底面部12Aとの間の空隙に充填されることになり、坩堝12の底面部12Aや側壁部12Bからの熱を塊状のシリコン原料Cに効率良く伝達させることができ、シリコン原料Cの溶解をさらに促進することができる。
【0030】
さらに、本実施形態においては、坩堝12の外部に設けられたシリコン融液注入部20が、チャンバ11内に配設されているので、不活性ガス雰囲気中で、シリコン密接層Mを構成するシリコン融液を生成・注入することができ、不純物等の混入を防止して高品質の多結晶シリコンインゴットを生成することができる。
【0031】
また、本実施形態では、上部ヒータ14を備え、かつ、冷却板17の上に坩堝12が載置されており、坩堝12内のシリコン融液を底面部12A側から上方に向けて一方向凝固させる構成とされているので、シリコン融液中の不純物が液相側に排出されることになり、高純度の多結晶シリコンインゴットを製出することができる。
【0032】
次に、図4及び図5を用いて、本発明の第2の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法について説明する。
この第2の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法においては、図4に示すように、まず、塊状のシリコン原料Cを坩堝内に装入する(シリコン原料装入工程S11)。ここで、シリコン原料としては、第1の実施形態と同様に11Nの高純度シリコンを砕いて得られた「チャンク」と呼ばれる塊状のものが使用され、図5に示すように、シリコン原料C同士の間及び坩堝12の底面部12Aとシリコン原料Cとの間に空隙が形成されることになる。
【0033】
次いで、塊状のシリコン原料Cを装入した坩堝12内に、シリコン融液注入部20を用いて、坩堝12の外部で予め溶融されたシリコン融液を注入し、坩堝12の底面部12Aと密接するシリコン密接層Mを形成する(シリコン密接層形成工程S12)。すなわち、本実施形態においては、シリコン融液が坩堝12の底面部12A側に貯留されることにより、シリコン密接層Mが形成されているのである。
【0034】
このように、シリコン密接層Mが形成された状態で、上部ヒータ14及び下部ヒータ15によって坩堝12を加熱し、坩堝12内のシリコン原料Cを溶解する(加熱溶融工程S13)。これにより、坩堝12内にシリコン融液が生成されることになる。
次いで、下部ヒータ15による加熱を停止し、冷却板17内部に冷却材を供給することによって坩堝12を冷却し、坩堝12内部のシリコン融液を凝固させる(凝固工程S14)。このとき、上部ヒータ14を稼動した状態とすることにより、坩堝12内部において、底面部12A側から上方に向かうにしたがい温度が高くなるように温度勾配を設けてシリコン融液を一方向凝固させる。
このようにして、一方向凝固された多結晶シリコンインゴットが製出される。
【0035】
以上のような構成とされた本実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法によれば、塊状のシリコン原料Cを坩堝12内に装入した後にシリコン融液を坩堝12内に供給するように、すなわち、シリコン原料装入工程S11の後にシリコン密接層形成工程S12が設けられているので、塊状のシリコン原料Cを坩堝12内に装入する作業を、従来と同様に行うことができる。また、シリコン融液を注入する際に、坩堝12内に装入された塊状のシリコン原料Cの温度が上昇することになり、塊状のシリコン原料Cの溶解をさらに促進させることができる。
【0036】
次に、図6及び図7を用いて、本発明の第3の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法について説明する。
この第3の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法においては、まず、図7に示すように、板状のシリコン原料Sを坩堝12の底面部12Aに敷設し、シリコン密接層Mを形成する(シリコン密接層形成工程S21)。なお、本実施形態では、板状のシリコン原料Sは、11Nの高純度シリコンから製出されており、その厚さが3mm以上10mm以下とされている。
【0037】
次いで、図7に示すように、塊状のシリコン原料Cを坩堝12内に装入する(シリコン原料装入工程S22)。ここで、塊状のシリコン原料Cとしては、第1、2の実施形態と同様に11Nの高純度シリコンを砕いて得られた「チャンク」と呼ばれる塊状のものが使用される。
【0038】
このように、シリコン密接層Mが形成された状態で、上部ヒータ14及び下部ヒータ15によって坩堝12を加熱し、坩堝12内のシリコン原料Cを溶解する(加熱溶融工程S13)。これにより、坩堝12内にシリコン融液が生成されることになる。
次いで、下部ヒータ15による加熱を停止し、冷却板17内部に冷却材を供給することによって坩堝12を冷却し、坩堝12内部のシリコン融液を凝固させる(凝固工程S14)。このとき、上部ヒータ14を稼動した状態とすることにより、坩堝12内部において、底面部12A側から上方に向かうにしたがい温度が高くなるように温度勾配を設けてシリコン融液を一方向凝固させる。
このようにして、一方向凝固された多結晶シリコンインゴットが製出される。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法によれば、坩堝12の底面部12Aに敷設された板状のシリコン原料Sがシリコン密接層Mとされており、上部ヒータ14及び下部ヒータ15による熱が、坩堝12の底面部12Aから板状のシリコン原料Sへと効率良く伝達され、板状のシリコン原料Sが優先的に溶解されてシリコン融液が生成することになる、すると、このシリコン融液が、塊状のシリコン原料C同士の空隙やシリコン原料Cと坩堝12の側壁部12Bとの間の空隙等に充填されることになり、シリコン原料Cの溶解を促進することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法及び多結晶シリコンインゴット製造装置について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、11Nの高純度シリコンであって、粒径30mmから100mmの塊状のシリコン原料を用いたもので説明したが、これに限定されることはなく、粒径、純度等は適宜選択することが好ましい。
【0041】
また、第1の実施形態においては、チャンバ内部にシリコン融液注入部を配設したものとして説明したが、これに限定されることはなく、図8に示すように、多結晶シリコンインゴット製造装置110を、チャンバ111の外にシリコン融液注入部120が配設され、チャンバ111に設けられた連通孔111Aを介して、チャンバ111内に配設された坩堝112にシリコン融液を注入する構成としてもよい。
また、チャンバの外側で坩堝内にシリコン融液を注入してもよい。
【0042】
さらに、第3の実施形態において、11Nの高純度シリコンからなり、厚さ3mmから10mmの板状のシリコン原料を敷設してシリコン密接層を形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、板状のシリコン原料の純度や厚さは、適宜選択することが好ましい。
【符号の説明】
【0043】
10、110 多結晶シリコンインゴット製造装置
12、112 坩堝
12A、112A 底面部
14、114 上部ヒータ(ヒータ)
15、115 下部ヒータ(ヒータ)
17、117 冷却板
20、120 シリコン融液注入部
M シリコン密接層
S 板状のシリコン原料
S01、S12、S21 シリコン密接層形成工程
S02、S11、S22 シリコン原料装入工程
S03、S13、S23 加熱溶融工程
S04、S14、S24 凝固工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝内に装入したシリコン原料を溶解してシリコン融液を生成し、このシリコン融液を凝固させて多結晶シリコンのインゴットを製出する多結晶シリコンインゴットの製造方法であって、
前記坩堝内にシリコン原料を装入するシリコン原料装入工程と、
前記シリコン原料と前記坩堝の底面部との接触面積を増大させるシリコン密接層を形成するシリコン密接層形成工程と、
前記坩堝を加熱して前記坩堝内のシリコン原料を溶解し、前記シリコン融液を生成する加熱溶融工程と、
前記坩堝を冷却して、前記坩堝内のシリコン融液を凝固させる凝固工程と、
を備えていることを特徴とする多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項2】
前記シリコン密接層形成工程は、前記坩堝の外部で予め生成したシリコン融液を前記坩堝内に注入し、シリコン融液からなるシリコン密接層を形成することを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項3】
前記シリコン密接層形成工程は、前記坩堝の底面部に板状のシリコン原料を敷設することにより、前記シリコン密接層を形成することを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項4】
シリコン原料が収容される有底筒状をなす坩堝と、この坩堝を加熱して収容したシリコン原料を溶解するヒータと、前記坩堝を冷却する冷却板と、を備えた多結晶シリコンインゴットの製造装置であって、
前記坩堝の外部で予め生成したシリコン融液を前記坩堝内に供給するシリコン融液注入部を備えていることを特徴とする多結晶シリコンインゴットの製造装置。
【請求項5】
前記冷却板の上に前記坩堝が載置され、前記坩堝の下方側及び上方側に前記ヒータが配設されていることを特徴とする多結晶シリコンインゴットの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−57472(P2011−57472A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206101(P2009−206101)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(390004879)三菱マテリアルテクノ株式会社 (201)
【Fターム(参考)】