説明

多結晶シリコンインゴットの製造方法及び多結晶シリコンインゴット

【課題】(001)、(111)方位を向く結晶が多く存在し、かつ、底部における酸素濃度が高い部分が少なく、生産歩留まりを大幅に向上させることができる多結晶シリコンインゴット、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン融液を底面から上方に向けて一方向凝固させる多結晶シリコンインゴットの製造方法であって、ルツボ20の底面にはシリカ多層コーティング層27が配設されており、前記ルツボ20内における凝固過程を、前記ルツボ20の底面を基準として、0mmから高さX(10mm≦X<30mm)までの第1領域A1と、高さXから高さY(30mm≦Y<100mm)までの第2領域A2と、高さY以上の第3領域A3と、に区分けし、前記第1領域A1における凝固速度V1が、10mm/h≦V1≦20mm/hの範囲内に設定され、前記第2領域A2における凝固速度V2が、1mm/h≦V2≦5mm/hの範囲内に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ製ルツボ内においてシリコン融液を一方向凝固することによって多結晶シリコンインゴットを鋳造する多結晶シリコンインゴットの製造方法、及び、この製造方法によって得られる多結晶シリコンインゴットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
前述の多結晶シリコンインゴットは、例えば特許文献1に記載されているように、所定の厚さにスライスされて多結晶シリコンウェハとされ、太陽電池用基板の素材として利用されている。太陽電池においては、太陽電池用基板(多結晶シリコンウェハ)の素材である多結晶シリコンインゴットの特性が、変換効率等の性能を大きく左右することになる。
特に、多結晶シリコンに含有される酸素や不純物が多いと、太陽電池の変換効率が大幅に低下するため、太陽電池用基板となる多結晶シリコン中の酸素量や不純物量を低減する必要がある。
【0003】
ここで、ルツボ内で一方向凝固させた多結晶シリコンインゴットでは、凝固開始部分である底部及び凝固終了部分である頂部において、酸素量や不純物量が高くなる傾向にあるため、これら底部及び頂部を切断除去して使用している。
詳述すると、ルツボ内でシリコン融液を上方に向けて一方向凝固させた場合、固相から液相に向けて不純物が排出されることから、固相部分の不純物量が低くなり、凝固終了部分である頂部において不純物量が非常に高くなる。
【0004】
また、シリカ製ルツボ内にシリコン融液を貯留した際に、ルツボを構成するシリカからシリコン融液へと酸素が混入する。また、シリコン融液内の酸素は、SiOガスとして液面から放出される。ここで、凝固開始時には、ルツボの底面及び側面から酸素が混入することから、凝固開始時点ではシリコン融液内の酸素量が高くなり、凝固開始部分である底部での酸素量が高くなるのである。なお、底面側での凝固が進行すると、側面からのみ酸素が混入することになるため、徐々に酸素量は低減することになる。
【0005】
そこで、従来、例えば特許文献2に示すように、シリカ製ルツボの内面(側面及び底面)にSiコーティング層を形成したルツボを用いることにより、酸素の混入を抑制する技術が提供されている。
また、多結晶シリコンインゴットを一方向凝固させる場合、非特許文献1に記載されているように、例えば0.2mm/min(12mm/h)といった一定の凝固速度に設定し、生産効率の向上を図っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−245216号公報
【特許文献2】特開2001−198648号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Noriaki Usami,Kentaro Kutsukake,Kozo Fujiwara,and Kazuo Nakajima ; “Modification of local structures in multicrystals revealed by spatially resolved x-ray rocking curve analysis”,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS 102,103504(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、太陽電池における変換効率は、太陽電池用基板となる多結晶シリコン中の酸素量や不純物量以外に、この多結晶シリコンの結晶品質にも大きく影響されることが知られている。一方向凝固により成長した多結晶シリコンインゴットは、インゴットの高さ方向に伸びた柱状晶の集合体であるが、凝固方向に直交する断面において、優先結晶方位である(001)、(111)方位を向く結晶の割合が多いほど、太陽電池の変換効率が向上することになる。
【0009】
しかしながら、特許文献2及び非特許文献1に記載されているように、Siコーティング層を形成したルツボを使用した場合には、Siがシリコン融液と化学的に濡れないことから、凝固の開始点となる核発生が起りにくく、核の数が少なくなる傾向にある。すると、凝固の開始時点で成長を始めた結晶がそのまま成長してしまうため、優先結晶方位である(001)、(111)方位以外の方位に成長した結晶が残存してしまうことになる。特に、多結晶シリコンインゴットの中央より下部側部分では、その傾向が顕著であることから、多結晶シリコンインゴットにおいて下部側部分の変換効率が低くなる傾向があった。
【0010】
すなわち、従来の多結晶シリコンインゴットの製造方法においては、酸素量を低減するためにSiコーティング層を形成したルツボを使用すると、結晶方位がランダムとなり、太陽電池の変換効率を向上させることができなかった。
一方、核発生を起り易くするために、Siコーティング層を形成していないルツボを使用した場合には、酸素の混入を抑えることができず、多結晶シリコンインゴット内の酸素量が増加し、やはり、太陽電池の変換効率を向上させることができなかった。
このように、従来の多結晶シリコンインゴットの製造方法においては、酸素量の低減と、結晶方位の調整とを両立することができなかったのである。
【0011】
また、最近では、太陽電池においては、さらなる変換効率の向上が求められており、従来よりも酸素濃度の低い(具体的には、酸素濃度が4×1017atm/cm以下)多結晶シリコンが求められている。
ここで、従来の多結晶シリコンインゴットでは、Siコーティング層を形成したルツボを用いてもシリコン融液内への酸素の混入を完全に防ぐことはできず、やはり、前述のように、凝固開始部である底部側の酸素濃度が高くなる。ここで、製品としての多結晶シリコンにおける酸素量の上限値を低く設定した場合、多結晶シリコンインゴットにおいて底部側を大きく切断除去する必要がある。このため多結晶シリコンインゴットから製品される多結晶シリコンが少なくなり、多結晶シリコンの生産効率が大幅に低減してしまうといった問題があった。
【0012】
本発明は、上述した状況に鑑みてなされたものであって、優先成長方位である(001)、(111)方位を向く結晶が多く存在し、かつ、底部における酸素濃度が高い部分を少なくし、製品として多結晶シリコンの生産歩留まりを大幅に向上させることができる多結晶シリコンインゴットを鋳造することが可能な多結晶シリコンインゴットの製造方法及び多結晶シリコンインゴットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る多結晶シリコンインゴットの製造方法は、ルツボ内において溶融シリコンを、その底面から上方に向けて一方向凝固させる多結晶シリコンインゴットの製造方法であって、前記ルツボは、シリカで構成され、その側壁内面には窒化珪素コーティング層が形成され、その底面にはシリカが配設されており、前記ルツボ内における凝固過程を、前記ルツボの底面を基準として、0mmから高さXまでの第1領域と、高さXから高さYまでの第2領域と、高さY以上の第3領域と、に区分けし、この高さXが10mm≦X<30mm、高さYが30mm≦Y<100mmとされており、 前記第1領域における凝固速度V1が、10mm/h≦V1≦20mm/hの範囲内に設定され、前記第2領域における凝固速度V2が、1mm/h≦V2≦5mm/hの範囲内に設定されていることを特徴としている。
【0014】
この構成の多結晶シリコンインゴットの製造方法においては、前記ルツボ内における凝固過程を、前記ルツボの底面を基準として、0mmから高さXまでの第1領域と、高さXから高さYまでの第2領域と、高さY以上の第3領域と、に区分けし、第1領域と第2領域における凝固速度を規定している。
【0015】
ここで、前記ルツボは、シリカで構成され、その側壁内面には窒化珪素コーティング層が形成され、その底面にはシリカが配設されているので、凝固の開始点となるルツボの底面においてはシリカが露呈していることになる。ここで、シリカは、シリコン融液と化学的に濡れることから、核発生が容易に起り、この核を起点として凝固の初期段階において微細な数多くの結晶が形成されることになる。なお、この微細な結晶群はランダムな結晶方位を有している。本発明では、前記第1領域における凝固速度V1を10mm/h≦V1≦20mm/hの範囲内と比較的速く設定しているので、この第1領域においてランダムな結晶方位を有する多数の結晶群を発生させることが可能となる。
【0016】
そして、第2領域において、凝固速度V2を1mm/h≦V2≦5mm/hと比較的遅くすると、ランダムな結晶方位を有する結晶群の選択成長が起り、優先成長方位を向く結晶が主に成長することになり、結晶方位の揃った大きな柱状晶からなる多結晶シリコンインゴットを鋳造することが可能となる。ここで、シリコンの優先成長方位が(001)、(111)方位であることから、前述の柱状晶はこれらの方位を向くことになり、太陽電池の変換効率の向上を図ることが可能となるのである。
【0017】
また、前記第1領域において凝固速度V1を10mm/h≦V1≦20mm/hの範囲内と比較的速く設定しているので、ルツボの底面部分に固相をすばやく形成することにより、ルツボの底面からシリコン融液への酸素の混入を抑制することができる。また、第1領域の高さXが10mm≦X<30mmとされているので、ルツボの底面からシリコン融液への酸素の混入を確実に抑制することができる。
【0018】
さらに、前記第2領域における凝固速度V2を1mm/h≦V2≦5mm/hの範囲内にと比較的遅く設定しているので、この第2領域においてシリコン融液内の酸素を液面から放出させることが可能となり、シリコン融液内の酸素量を大幅に低減することができる。さらに、上述のように、結晶の選択成長を確実に行うことができる。
そして、第1領域及び第2領域の高さYが30mm≦Y<100mmとされているので、酸素量が高い部分の長さ、及び、結晶がランダムな方位を向いている部分の長さ、を短くでき、製品となる多結晶シリコンの生産歩留まりを大幅に向上させることができる。
【0019】
なお、凝固速度V1が10mm/h未満であると核発生が不十分となり、ランダムな結晶方位を有する多数の結晶群を発生させることができなくなってしまう。また、凝固速度V1が20mm/hを超えると、第1領域の高さXを薄くすることができなくなる。
このため、前記第1領域における凝固速度V1を10mm/h≦V1≦20mm/hの範囲内に設定している。
また、凝固速度V2が1mm/h未満であると固相が再溶融してしまうおそれがある。また、凝固速度V2が5mm/hを超えると、結晶の選択成長および酸素の放出を十分に行うことができなくなる。このため、前記第2領域における凝固速度V2を1mm/h≦V2≦5mm/hの範囲内に設定している。
【0020】
ここで、前記第2領域の高さY−Xが、10mm≦Y−X≦40mmの範囲内に設定されていることが好ましい。
この場合、前記第2領域の高さY−Xが、Y−X≧10mmとされているので、結晶の選択成長を行う時間及びシリコン融液内の酸素を外部へと放出する時間が確保され、優先成長方位の結晶を選択して成長させることができるとともに、多結晶シリコンインゴット内の酸素量を確実に低減することができる。一方、前記第2領域の高さY−Xが、Y−X≦40mmとされているので、酸素量が高い部分及び結晶がランダムな方位を向いている部分の長さを確実に短くすることができる。
【0021】
また、前記第3領域における凝固速度V3が、5mm/h≦V3≦30mm/hの範囲内に設定されていることが好ましい。
この場合、前記第3領域における凝固速度V3が、V3≧5mm/hとされているので、多結晶シリコンインゴットの生産効率を確保することができる。一方、前記第3領域における凝固速度V3が、V3≦30mm/hとされているので、一方向凝固を円滑に実施することができる。
【0022】
さらに、前記ルツボの底面には、スラリー層とスタッコ層とが積層されたシリカ多層コーティング層が形成されていることが好ましい。
この場合、ルツボの底面に、シリカを含むスラリーを塗布したスラリー層と、シリカ粒子をスタッコ(まぶす)したスタッコ層とが積層されたシリカ多層コーリング層が形成されているので、多結晶シリコンインゴットの底部割れを抑制することができる。なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、このスラリー層とスタッコ層は、合計で3層以上4層以下とすることが好ましい。
【0023】
本発明に係る多結晶シリコンインゴットは、前述の多結晶シリコンインゴットの製造方法によって製造された多結晶シリコンインゴットであって、前記ルツボの底面に接触していた底部から高さ40mmの部分の水平断面において、結晶の成長方位をEBSD法で測定し、(100)、(101)、(111)を頂点とするステレオ三角形内の方位分布を求め、このステレオ三角形を、各辺の二等分点と前記ステレオ三角形の重心とを結ぶ線によって(100)側領域、(101)側領域、(111)側領域に3分割し、これらの各領域に占める結晶方位分布を電子線回折パターンの相対強度比率で示した結果、(101)側領域に分布する割合が10%以下とされていることを特徴としている。
【0024】
この構成の多結晶シリコンインゴットにおいては、前記ルツボの底面に接触していた底部から高さ40mmの部分において、結晶方位分布を電子線回折パターンの相対強度比率で示した結果、ステレオ三角形の(101)側領域に分布する割合が10%以下とされており、(001)側領域及び(111)側領域に分布する割合が大きくなっているので、前記ルツボの底面に接触していた底部から高さ40mmの部分において、すでに、結晶の選択成長が十分に行われていることになる。よって、この部分を太陽電池用基板として利用した場合でも、太陽電池の変換効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0025】
また、前記ルツボの底面に接触していた底部から高さ30mmの部分の断面中心部における酸素濃度が4×1017atm/cm以下とされていることを特徴としている。
この構成の多結晶シリコンインゴットにおいては、前記ルツボの底面に接触していた底部から高さ30mmの部分の断面中心部における酸素濃度が4×1017atm/cm以下とされていることから、底部から高さ30mmの部分を十分に製品化することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
このように、本発明によれば、底部における酸素濃度が高い部分を少なくし、製品として多結晶シリコンの歩留まりを大幅に向上させることができる多結晶シリコンインゴットを鋳造することが可能な多結晶シリコンインゴットの製造方法及び多結晶シリコンインゴットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態である多結晶シリコンインゴットの概略説明図である。
【図2】図1に示す多結晶シリコンインゴットの底部から40mmの部分の水平断面において、結晶の成長方位をEBSD法で測定した結果をステレオ三角形に表示した図である。
【図3】図1に示す多結晶シリコンインゴットを製造するのに使用される多結晶シリコンインゴット製造装置の概略説明図である。
【図4】図3に示す多結晶シリコンインゴット製造装置において用いられるルツボの概略説明図である。
【図5】図4に示すルツボ内におけるシリコン融液の凝固状態を示す説明図である。
【図6】本発明の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法における凝固速度設定を示すパターン図である。
【図7】実施例における多結晶シリコンインゴット内の酸素量測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例における本発明例の多結晶シリコンインゴット内の結晶方位分布を電子線回折パターンの相対強度比率で示したグラフである。
【図9】実施例における比較例の多結晶シリコンインゴット内の結晶方位分布を電子線回折パターンの相対強度比率で示したグラフである。
【図10】実施例における従来例の多結晶シリコンインゴット内の結晶方位分布を電子線回折パターンの相対強度比率で示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法及び多結晶シリコンインゴットについて、添付した図面を参照にして説明する。
本実施形態である多結晶シリコンインゴット1は、太陽電池用基板として使用される多結晶シリコンウエハの素材となるものである。
【0029】
この多結晶シリコンインゴット1は、図1に示すように、本実施形態では四角形柱状をなしており、その高さHは、200mm≦H≦350mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、H=300mmに設定されている。また、四角形面は、一辺が約680mmの正方形をなしている。
ここで、この多結晶シリコンインゴット1の底部側部分S1は酸素濃度が高く、多結晶シリコンインゴット1の頂部側部分S2は不純物濃度が高いことから、これら底部側部分S1及び頂部側部分S2は切断除去され、製品部S3のみが多結晶シリコンウェハとして製品化されることになる。
【0030】
そして、この多結晶シリコンインゴット1においては、図2に示すように、底部から高さ40mmの部分の水平断面において、結晶の成長方位をEBSD法で測定し、(001)、(101)、(111)を頂点とするステレオ三角形内の方位分布を求め、このステレオ三角形を、各辺の二等分点と前記ステレオ三角形の重心とを結ぶ線によって(001)側領域、(101)側領域、(111)側領域に3分割し、これらの各領域に占める結晶方位分布を電子線回折パターンの相対強度比率で示した結果、(101)側領域に分布する割合が10%以下とされている。すなわち、(001)側領域及び(111)側領域に分布する結晶方位を向く結晶が多く存在しているのである。
【0031】
また、この多結晶シリコンインゴット1においては、底部から高さ30mmの部分の断面中心部における酸素濃度が4×1017atm/cm以下となるように構成されている。なお、本実施形態では、この断面中心部から5mm×5mm×5mm角の測定サンプルを採取し、赤外線蛍光分析(IPS)法によって酸素濃度を測定している。
【0032】
次に、この多結晶シリコンインゴット1を製造する際に用いられる多結晶シリコンインゴット製造装置10について、図3を参照して説明する。
この多結晶シリコンインゴット製造装置10は、シリコン融液Lが貯留されるルツボ20と、このルツボ20が載置されるチルプレート12と、このチルプレート12を下方から支持する床下ヒータ13と、ルツボ20の上方に配設された天井ヒータ14と、を備えている。また、ルツボ20の周囲には、断熱材15が設けられている。
チルプレート12は、中空構造とされており、供給パイプ16を介して内部にArガスが供給される構成とされている。
【0033】
ルツボ20は、水平断面形状が角形(四角形)又は丸形(円形)とされており、本実施形態では、角形(四角形)とされている。
このルツボ20は、図4に示すように、シリカからなるルツボ本体21と、このルツボ本体21の側壁内側に設けられたSiコーティング層22と、ルツボ本体21の底面20aに設けられたシリカ多層コーティング層27と、を備えている。
【0034】
ここで、Siコーティング層22は、図4に示すように、0.2〜4.0μmのSi粉末24と、ナトリウムを10〜6000ppm含有するシリカ25と、からなる混合体素地内に、50〜300μmの微細溶融シリカ砂26が分散された構造とされている。そして、Siコーティング層22の最表面はSi粉末24とナトリウム含有シリカ25とからなる混合体素地が配置されている。
【0035】
また、シリカ多層コーティング層27は、スラリー層28と、スタッコ層29とが積層配置された多層構造とされており、スラリー層28及びスタッコ層29との合計が3層以上4層以下とされている。ここで、スラリー層28は、粒度10μm以上50μm以下のフィラーとコロイダルシリカの水分散液を混合したスラリーを塗布することで形成されるものである。また、スタッコ層29は、粒度0.3mm以上3mm以下のシリカ粒子を散布(まぶす)ことによって形成されるものである。
【0036】
次に、本実施形態である多結晶シリコンインゴット1の製造方法について説明する。本実施形態では、前述した多結晶シリコンインゴット製造装置10を用いて多結晶シリコンインゴット1を鋳造する構成とされている。
【0037】
まず、側壁内面にSiコーティング層22が形成され、底面にシリカ多層コーティング層27が形成されたルツボ20内に、シリコン原料を装入する。ここで、シリコン原料としては、11N(純度99.999999999)の高純度シリコンを砕いて得られた「チャンク」と呼ばれる塊状のものが使用される。この塊状のシリコン原料の粒径は、例えば、30mmから100mmとされている。
【0038】
このシリコン原料を、天井ヒータ14と床下ヒータ13とに通電して加熱する。これにより、ルツボ20内には、シリコン融液Lが貯留されることになる。
次に、床下ヒータ13への通電を停止し、チルプレート12の内部に供給パイプ16を介してArガスを供給する。これにより、ルツボ20の底部を冷却する。さらに、天井ヒータ14への通電を徐々に減少させることにより、ルツボ20内のシリコン融液Lは、ルツボ20の底部から冷却され、底部から上方に向けて一方向凝固することになる。
【0039】
このとき、チルプレート12へのArガスの供給量及び天井ヒータ14への通電量を制御することによって、ルツボ20内のシリコン融液Lの凝固速度、すなわち、固液界面の上方への移動速度が調整されることになる。
そして、本実施形態では、ルツボ20内のシリコン融液Lの凝固過程を3つの領域に区分けし、それぞれの領域毎に凝固速度を設定している。
【0040】
詳述すると、ルツボ20内における凝固過程を、ルツボ20の底面20aを基準として、0mmから高さXまでの第1領域A1と、高さXから高さYまでの第2領域A2と、高さY以上の第3領域A3と、に区分けし、高さXを10mm≦X<30mm、高さYを30mm≦Y<100mmの範囲内となるように設定している。また、第2領域A2の高さY−Xが、10mm≦Y−X≦40mmの範囲内となるように設定している。
本実施形態では、X=20mm、Y=40mmとし、第2領域A2の高さY−Xを20mmとしている。
【0041】
そして、それぞれの領域における凝固速度は、次のように設定されている。第1領域A1における凝固速度V1は10mm/h≦V1≦20mm/hの範囲内に設定され、第2領域A2における凝固速度V2は1mm/h≦V2≦5mm/hの範囲内に設定され、第3領域A3における凝固速度V1は5mm/h≦V1≦30mm/hの範囲内に設定されている。
より具体的には、図6に示すように、底部から20mmまでの第1領域A1における凝固速度V1が15mm/h、20mmから40mmまでの第2領域A2における凝固速度V2が3mm/h、40mmから300mmまでの第3領域A3における凝固速度V3が5.8mm/hに設定されているのである。そして、多結晶シリコンインゴット1全体の平均凝固速度は、6.5mm/hとされている。
【0042】
このようにして、図1に示す四角柱状の多結晶シリコンインゴット1が、一方向凝固法によって成形されるのである。
【0043】
以上のような構成とされた本実施形態である多結晶シリコンインゴット1の製造方法及び多結晶シリコンインゴット1においては、ルツボ20内における凝固過程を、ルツボ20の底面20aを基準として、0mmから高さXまでの第1領域A1と、高さXから高さYまでの第2領域A2と、高さY以上の第3領域A3と、に区分けし、それぞれの領域における凝固速度を規定している。
【0044】
ここで、本実施形態では、ルツボ20の側壁内面にSiコーティング層22が形成され、底面20aにシリカ多層コーティング層27が形成されているので、凝固の開始点となるルツボ20の底面20aにおいては、シリコン融液Lと化学的に濡れるシリカが露呈していることになり、核発生を促進することができる。よって、0mmから高さXまでの第1領域A1における凝固速度V1を10mm/h≦V1≦20mm/hの範囲内と比較的速く設定することで、前述の核を起点としてランダムな結晶方位を有する多数の結晶群を発生させることが可能となる。
【0045】
そして、第2領域A2において、凝固速度V2を1mm/h≦V2≦5mm/hと比較的遅くすると、ランダムな結晶方位を有する結晶群の選択成長が起り、優先成長方位を向く結晶が主に成長することになり、結晶方位の揃った大きな柱状晶からなる多結晶シリコンインゴット1を鋳造することが可能となる。ここで、シリコンの優先成長方位が(001)、(111)方位であることから、図2に示すように、前述の柱状晶として、これらの方位を向くものが多く存在することになり、太陽電池の変換効率の向上を図ることが可能となる。
【0046】
また、第1領域A1における凝固速度V1を10mm/h≦V1≦20mm/hの範囲内と比較的速く設定しているので、ルツボ20の底面20aに固相をすばやく形成することにより、ルツボ20の底面20aからシリコン融液Lへの酸素の混入を抑制することができる。また、第1領域A1の高さXが10mm≦X<30mmとされており、本実施形態ではX=20mmとされているので、ルツボ20の底面20aからシリコン融液Lへの酸素の混入を確実に抑制することができる。
【0047】
また、第2領域A2における凝固速度V2を1mm/h≦V2≦5mm/hの範囲内にと比較的遅く設定しているので、この第2領域A2においてシリコン融液L内の酸素を液面から放出させることが可能となり、シリコン融液L内の酸素量を大幅に低減することができる。そして、第1領域A1及び第2領域A2の高さYが30mm≦Y<100mmとされ、本実施形態ではY=40mmとされているので、酸素量が高い部分の長さを短くでき、製品となる多結晶シリコンの歩留まりを大幅に向上させることができる。
【0048】
なお、凝固速度V1が10mm/h未満であると核発生が不十分となり、ランダムな結晶方位を有する多数の結晶群を発生させることができなくなってしまう。また、凝固速度V1が20mm/hを超えると、第1領域の高さXを薄くすることができなくなる。このため、第1領域A1における凝固速度V1を10mm/h≦V1≦20mm/hの範囲内に設定している。
また、凝固速度V2が1mm/h未満であると固相が再溶融してしまうおそれがある。また、凝固速度V2が5mm/hを超えると、結晶の選択成長および酸素の放出を十分に行うことができなくなる。このため、第2領域A2における凝固速度V2を1mm/h≦V2≦5mm/hの範囲内に設定している。
【0049】
さらに、第2領域A2の高さY−Xが、10mm≦Y−X≦40mmの範囲内に設定されており、本実施形態ではY−X=20mmとされているので、結晶の選択成長を行う時間及びシリコン融液内の酸素を外部へと放出する時間が確保され、優先成長方位の結晶を選択して成長させることができるとともに、多結晶シリコンインゴット内の酸素量を確実に低減することができる。
【0050】
また、第3領域A3における凝固速度V3が、5mm/h≦V3≦30mm/hの範囲内に設定され、本実施形態ではV3=5.9mm/hに設定されているので、多結晶シリコンインゴットの生産効率を確保することができるとともに、一方向凝固を円滑に実施することができる。
【0051】
さらに、ルツボ20の底面に、シリカを含むスラリーを塗布したスラリー層27と、シリカ粒子をスタッコ(まぶす)したスタッコ層28とが積層されたシリカ多層コーリング層27が形成されているので、多結晶シリコンインゴット1の底部割れを抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態である多結晶シリコンインゴット1は、ルツボ20の底面に接触していた底部から高さ40mmの部分の水平断面において、結晶の成長方位をEBSD法で測定し、(001)、(101)、(111)を頂点とするステレオ三角形内の方位分布を求め、このステレオ三角形を、各辺の二等分点と前記ステレオ三角形の重心とを結ぶ線によって(001)側領域、(101)側領域、(111)側領域に3分割し、これらの各領域に占める結晶方位分布を電子線回折パターンの相対強度比率で示した結果、(101)側領域に分布する割合が10%以下とされているので、この底部から高さ40mmの部分において既に選択成長が行われていることになり、この部分を太陽電池用基板として利用した場合に、変換効率を向上させることが可能となる。
【0053】
さらに、本実施形態である多結晶シリコンインゴット1は、ルツボ20の底面20aに接触していた底部から高さ30mmの部分の断面中心部における酸素濃度が4×1017atm/cm以下とされているので、底部から高さ30mmの部分を十分に製品化することが可能となる。
【0054】
以上、本発明の実施形態である多結晶シリコンインゴットの製造方法及び多結晶シリコンインゴットについて説明したが、これに限定されることはなく、適宜設計変更することができる。
例えば、図2に示す多結晶シリコンインゴット製造装置によって、多結晶シリコンインゴットを鋳造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の構造の多結晶シリコンインゴット製造装置によって多結晶シリコンインゴットを鋳造してもよい。
また、多結晶シリコンインゴットの大きさや形状は、本実施形態に限定されることはなく、適宜設計変更してもよい。
【実施例】
【0055】
本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果を示す。本実施形態で説明した多結晶シリコンインゴット製造装置を用いて、680mm角×高さ300mmの多結晶シリコンインゴットを鋳造した。
本発明例として、図4に示すように、側壁内面にSiコーティング層を形成し、底面にシリカ多層コーティング層を形成したルツボを用いて、前述の実施形態に記載したパターンで凝固速度を変化させて多結晶シリコンインゴットを鋳造した。すなわち、図6に示すように、底部から20mmまでの第1領域A1における凝固速度V1を15mm/h、20mmから40mmまでの第2領域A2における凝固速度V2を3mm/h、40mmから300mmまでの第3領域A3における凝固速度V3を5.8mm/hに設定した。なお、多結晶シリコンインゴット1全体の平均凝固速度は6.5mm/hとなり、凝固に要した時間は52.7hであった。
【0056】
また、比較例として、側壁内面及び底面(すなわち、内面全体)にSiコーティング層を形成したルツボを使用し、本発明例と同様に図6に記載されたパターンで凝固速度を変化させて多結晶シリコンインゴットを鋳造した。
さらに、従来例として、側壁内面及び底面(すなわち、内面全体)にSiコーティング層を形成したルツボを使用し、凝固速度を5.1mm/hで一定として多結晶シリコンインゴットを鋳造した。なお、凝固に要した時間は59hであった。
【0057】
このようにして得られた本発明例、比較例、従来例の多結晶シリコンインゴットについて、高さ10mm,25mm,50mm,100mm,150mm,200mm,250mm,290mmの各8箇所において、水平断面中央部から5mm×5mm×5mmの測定サンプルを採取し、赤外線蛍光分析(IPS)法により、シリコン中の酸素濃度を測定した。測定結果を図7に示す。
【0058】
また、本発明例、比較例、従来例の多結晶シリコンインゴットについて、高さ20mm,40mm,60mm,100mm,200mm,280mmの各6箇所において、水平断面中央部から5mm×5mm×5mmの試験片を切り出し、EBSD法により結晶方位分布を測定した。そして、(001)、(111)、(101)を頂点とするステレオ三角形内の方位分布を求め、このステレオ三角形を、各辺の二等分点と前記ステレオ三角形の重心とを結ぶ線によって、(001)側領域、(101)側領域、(111)側領域に3分割し、これらの各領域に占める結晶方位分布を電子線回折パターンの相対強度比率で示した。結果を、本発明例の測定結果を図8に、比較例の測定結果を図9に、比較例の測定結果を図10に示す。
【0059】
従来例では、図7に示すように、底部近傍において酸素濃度が非常に高くなっており、底部から高さ50mmの部分でも酸素濃度が4×1017atm/cmを超えていた。 また、比較例及び本発明例では、図7に示すように、従来例に比べると酸素濃度が低く、底部の僅かな部分においてのみ酸素濃度が高くなっており、高さ20mmの部分ですでに酸素濃度が酸素濃度が4×1017atm/cm以下であった。
【0060】
また、本発明例においては、図8に示すように、底部から40mmの水平断面において、結晶方位が(101)領域にある結晶の比率が10%以下となっており、(001)、(111)方位への選択成長が行われていることが確認される。すなわち、本発明例では、底部から40mmの部分から(001)、(111)方位の向く結晶が成長しているのである。
【0061】
これに対して、比較例においては、図9に示すように、結晶方位が(101)領域にある結晶の比率が底部から離間するにしたがい漸次減少する傾向が確認されるが、底部から100mmの部分でも、結晶方位が(101)領域にある結晶の比率が10%を超えている。よって、この100mmまでの部分を太陽電池用基板として使用した場合、太陽電池の変換効率が低下してしまうことになる
【0062】
また、従来例においては、図10に示すように、底部から200mmの部分でも、結晶方位が(101)領域にある結晶の比率が20%を超えており、結晶の成長方位の制御が全く行われていなかった。
以上のことから、本発明によれば、優先成長方位である(001)、(111)方位を向く結晶が多く存在し、かつ、底部における酸素濃度が高い部分を少なくした多結晶シリコンインゴットを鋳造することが可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0063】
1 多結晶シリコンインゴット
20 ルツボ
22 Siコーティング層
27 シリカ多層コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボ内において溶融シリコンを、その底面から上方に向けて一方向凝固させる多結晶シリコンインゴットの製造方法であって、
前記ルツボは、シリカで構成され、その側壁内面には窒化珪素コーティング層が形成され、その底面にはシリカが配設されており、
前記ルツボ内における凝固過程を、前記ルツボの底面を基準として、0mmから高さXまでの第1領域と、高さXから高さYまでの第2領域と、高さY以上の第3領域と、に区分けし、この高さXが10mm≦X<30mm、高さYが30mm≦Y<100mmとされており、
前記第1領域における凝固速度V1が、10mm/h≦V1≦20mm/hの範囲内に設定され、前記第2領域における凝固速度V2が、1mm/h≦V2≦5mm/hの範囲内に設定されていることを特徴とする多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項2】
前記第2領域の高さY−Xが、10mm≦Y−X≦40mmの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項3】
前記第3領域における凝固速度V3が、5mm/h≦V3≦30mm/hの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項4】
前記ルツボの底面には、スラリー層とスタッコ層とが積層されたシリカ多層コーティング層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴットの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴットの製造方法によって製造された多結晶シリコンインゴットであって、
前記ルツボの底面に接触していた底部から高さ40mmの部分の水平断面において、結晶の成長方位をEBSD法で測定し、(100)、(101)、(111)を頂点とするステレオ三角形内の方位分布を求め、このステレオ三角形を、各辺の二等分点と前記ステレオ三角形の重心とを結ぶ線によって(100)側領域、(101)側領域、(111)側領域に3分割し、これらの各領域に占める結晶方位分布を電子線回折パターンの相対強度比率で示した結果、(101)側領域に分布する割合が10%以下とされていることを特徴とする多結晶シリコンインゴット。
【請求項6】
前記ルツボの底面に接触していた底部から高さ30mmの部分の断面中心部における酸素濃度が4×1017atm/cm以下とされていることを特徴とする請求項5に記載の多結晶シリコンインゴット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−201737(P2011−201737A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71700(P2010−71700)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】