説明

多重暗号化機能を備えたカメラシステムおよびその運用方法

【課題】
プライバシーの保護を目的として画像を暗号化して保存する防犯カメラがある.このカメラでは,画像を復元できるのがカメラの所有者でないため,画像の閲覧にカメラの所有者と画像の復元手段を持った者の2者の合意が必要であり,プライバシーの保護が可能になる.しかし画像の閲覧に3者以上の合意を必要とするような運用形態には対応できない.
【解決手段】
本特許のカメラは直列に接続された複数の暗号化装置を備える.カメラの所有者以外に,画像の閲覧に同意が必要な2者がそれぞれの暗号鍵(鍵A(16)および鍵B(17))を用意し,撮影された画像はそれぞれの鍵で順次暗号化される.画像の閲覧に際しては,カメラの所有者によるが画像データの提供,および復号のために鍵Aおよび鍵Bの提供があってはじめて画像の復元が可能になる.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防犯カメラ,特にプライバシー保護機能を備えた防犯カメラに関するものである.
【背景技術】
【0002】
公共の場所に設置された防犯カメラは犯罪を未然に防ぐ防犯効果,さらに犯罪が発生した後の犯人特定に関して大きな効力を発揮する一方,不特定多数の人が撮影されることに起因するプライバシーの侵害は大きな問題となっている.
【0003】
この状況を解決するために,画像の暗号化機能を備えた防犯カメラが開発されている.このカメラは撮影した画像を保存する際に,それを暗号化してから保存する.この暗号化されたデータを復号する手段を有するのは,画像を閲覧できるは住民から信任された者,たとえば警察であり,住民を含めそれ以外の者は復号する手段を持たない.一方住民から信任された者としてここでは警察を仮定して話しを進めると,警察も防犯カメラの持ち主である住民から暗号化された画像データの提供は受けなければ画像を閲覧することができない.したがって,重大事件が発生した場合のように,住民および警察の両者が画像閲覧の必要性を認める状況になって初めて画像が閲覧できるので,プライバシー侵害の問題が解決される.
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−44311号公報
【0005】
【特許文献2】特開2010−118959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし上記の機構が有効に働くのは防犯カメラの所有者,あるいは管理者である場合である.たとえば行政が,犯罪が多発する地域に一括して防犯カメラを導入しようとする場合など,防犯カメラの管理は住民ではなく行政機関になる.導入する防犯カメラは暗号化機能が備わっていたとしても,このような使い方では行政と警察が合意すれば住民の了解無しに画像が閲覧できる.プライバシーが保護されるべき主体は住民であるので,このような使い方では,たとえば防犯カメラに暗号化の機能が備わっていたとしても,プライバシーの保護が達成できない.
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため,本発明のカメラは撮像装置と複数の画像暗号化装置と画像データ記録装置を備える.
【0008】
撮像装置によって撮影された画像は複数の画像暗号化装置に順次入力され,暗号化される.すなわち画像は第1の画像暗号化装置に入力され,その出力は第2の画像暗号化装置に入力され,これが画像暗号化装置の数だけ繰り返される.最後の画像暗号化装置の出力は画像データ記録装置に蓄えられる.ここで各画像暗号化装置の鍵は,画像を閲覧可能とするために合意が必要なそれぞれの主体(警察,行政,地域住民など)が少なくとも各一段の復号化が可能なように,各主体と鍵が対応して設定されている.
犯罪が起こった場合などで,画像を閲覧することに全ての主体が同意した場合,それぞれが持つ暗号化鍵を持ち寄ることにより,画像の撮影過程で行った全ての暗号化を復号できるので,画像が閲覧できる.一方,もし少なくとも一つの主体が閲覧に同意しない場合には,それに対応する暗号が解除できず,画像は閲覧できない.これによって当初の目的が実現できる.
【発明の効果】
【0009】
本発明のカメラおよびその運用によって,撮影された画像に関係する全ての主体の同意が得られた場合のみその画像を閲覧することが可能なになり,これを活用すれば,たとえばプライバシーを保護しながら防犯カメラの有効性を発揮させることができる.
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の最も単純な運用形態の説明図である.
【図2】画像の暗号化にRSA公開鍵を利用した場合の説明図である.
【図3】画像の暗号化にRSA公開鍵を利用し,復号手段をカメラ内部に持った場合の説明図である.
【図4】暗号化の一例を説明するための説明図である.
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は合意が必要な主体を住民と警察の2者とし,本発明を最も単純な形で実現した実施形態の説明図である.カメラの撮像装置によって画像が撮影(11)されると,警察が提供した鍵(16)(鍵Aと記載)によって第1の画像暗号化装置で暗号化(12)(タイプA暗号化と記載)される.その出力データはさらに住民が提供する鍵(15)(鍵Bと記載)によって第2の画像暗号化装置で暗号化(13)(タイプB暗号化と記載)され,その出力が画像データ記録装置に記録(14)される.画像の閲覧には,記録されている暗号化後の画像データをまず住民によって第2の暗号化装置で行われたタイプBの暗号化が解除(17)され,次に警察によって第1の暗号化装置で行われたタイプAの暗号化が解除(18)されるので,当初カメラによって撮影された画像(19)が閲覧できる.
【0012】
以上の実施形態では鍵Aによる暗号化と鍵Bによる暗号化を別々に行ったが,それらを組み合わせて1つの暗号化鍵として暗号化を1回行う実現も可能である.たとえば鍵Aを5文字,鍵Bを5文字とし,それらを連結した10文字を暗号化のための鍵として暗号化する.画像の復号は警察が提供する鍵Aと住民が提供する鍵Bとを連結して一つの鍵とし,復号を行う.この場合,復号手段は警察と住民のどちらが所有していてもよく,さらには両者以外の第三者が所有してもよい.
【0013】
以上の例では住民と警察の2者の合意を考えたが,複雑な状況ではたとえば住民と警察に加え,行政の3者の同意も必要にした方がより良くプライバシーの保護が機能する場合もある.このような場合には第1(タイプA),第2(タイプB)の暗号化の後に更に第3(タイプC)の暗号化を施し,第3の暗号化(タイプC)の復号手段を行政のみが所有すれば良い.更に多くの者の同意が必要な場合には,このような暗号化を同意が必要な者の数だけ施せば良い.この場合にも2つの鍵による暗号化の説明で述べたように,鍵自体を必要な個数に分割し,それらを連結した一つの鍵による暗号化を行ってもよい.またここではこの暗号化の目的としてプライバシーの保護をあげたが,本発明の複数の者の合意によってのみ画像が閲覧できるという機能は,それが必要とされるそれ以外の目的に対しても利用することができる.
【0014】
上記で説明した本発明のカメラにおいて,撮像装置としてはCCDデバイスなどを利用することができ,画像暗号化装置はカメラに内蔵された組み込み型コンピュータとメモリによって実現することができる.また画像データ記録装置はハードディスクやSDカードなどの半導体記録装置を利用できる.また画像の復号手段はパソコン上で動作するソフトウエアなどで実現できる.
【0015】
図1に示した実施形態で注意すべきことは暗号化・復号化のための鍵の管理である.住民や警察などのそれぞれの主体は,自身が管理する鍵を他の主体に知られてはならない.しかしながら,カメラに於いて暗号化するためには鍵の情報をカメラ内に設定・保持しなければならず,その過程で鍵情報は漏洩しやすいことは欠点である.
【0016】
図2に示す実施形態は暗号化方式にRSA暗号を用いることによって,暗号のための公開鍵と,復号のための秘密鍵に鍵を分離することによって上述の問題を解決したものである.住民および警察それぞれ独自の秘密鍵と公開鍵を生成する.
【0017】
図2では住民は暗号化用の公開鍵B(24)と復号化用の秘密鍵B(25)を生成(21)する.同様に警察も公開鍵A(23)と秘密鍵A(26)を生成(22)する.住民と警察のそれぞれは画像の暗号化用の公開鍵をカメラに設定するが,これは公開鍵であるので,それが他の主体に知れても画像の復号はできない.一方復号用の秘密鍵は警察,住民ともに他の主体に知られないように管理する.画像の復元は,カメラに保存されている画像データをまず住民が自身の秘密鍵B(25)で復号(17)し,それを警察に渡す.警察は同様に自身の秘密鍵(26)によって復号(18)し画像を閲覧できる状態にする.
【0018】
さて,図2で示したカメラと運用形態では,住民・警察共に画像データの復号化手段を持たなければならない.これの具体的な一つの例はPCとその上で動作するプログラムによって実現できる.しかしより簡便には,その機能をカメラに内蔵することもできる.このような実施形態を図3に示す.
【0019】
画像の撮影から保存までは図2の実施形態と同様であるが,画像の復号化は住民が秘密鍵B(25),警察が秘密鍵A(26)を持ち寄り他の主体に知られないようにカメラに設定する.住民が持ち寄った鍵によりタイプBの復号(31)が,警察が持ち寄った鍵によりタイプAの復号(32)がカメラ内よって実行され,画像(19)が閲覧できる状態になる.もちろんこの場合には,必要な復号が終了したら,カメラ内の秘密鍵の情報は破棄される.
【0020】
図2および図3では合意の主体を住民と警察の2者を想定した例を述べたが,もちろん本発明の適用はこれ以外でも良く,更に暗号化装置を必要なだけ直列に接続することによって,同意が必要な主体が3者以上の場合も容易に実現することができる.
【0021】
また上記の実施形態において,RSA暗号のような公開鍵・秘密鍵による暗号方式で実現するほど暗号強度が必要でない場合には,公開鍵を暗号化鍵,秘密鍵を復号鍵に置き換
えて実装すれば良い.このようにすれば暗号化鍵が知れても直ちに復号ができないことから一定強度の暗号強度が確保される上,暗号化および復号のプロセスにも大きな計算量を必要としない.
【0022】
図4は,2段階の暗号化において,最初の暗号化後の画像ファイルから,特別な追加情報なしで,元の画像のモザイク画像が得られるようにした例を示している.この例では,閲覧権者に応じて,画像を画素よりも荒い区分で分割しその区分内で画素を暗号キーに基づいて入れ替えることを特徴とする画像の暗号化方法を示している.図4では閲覧権者が2名いる場合を説明している.撮影された画像を10x10の画素単位に分割し,100個の画素のRGBの各要素,合計300個の値をキーKbに基づいて置換する.さらに,画像全体のRGBの各要素をキーKaに基づいて置換する.この結果を暗号化して保存データとする.閲覧権者は復号化キーを持ち,1人の閲覧権者はキーKaを持ち,もう1人の閲覧権者はキーKaとKbの両方を持つ.
【0023】
画像を閲覧する際には,閲覧権者は復号化キーと所有するキーを画像閲覧装置に入力し,画像閲覧装置は復号化キーで画像を復号化した後に,入力されたキーに基づいて,画像の構成要素の置換を元に戻し,画像を表示する.入力されたキーがKaだけであれば各10x10の画像内部の置換を元に戻すことはできないので,各10x10の画像の構成要素が置換されたままの画像が表示されることになる.入力されたキーがKaとKbであるときには,各10x10の画像内の置換も元に戻すことが可能となるため,撮影された画像がそのまま表示されることとなる.
【0024】
入力されたキーがKaだけの場合,得られた画像に対し,各10x10画素に平均化処理(モザイク化処理)することにより,見やすい画像となる.この平均化処理を施した画像は,もと画像に対して,各10x10画素に平均化処理(モザイク化処理)を施したものと一致する.これは,各10x10画素に画素の入替がなされているだけであり,それらの平均値は変化しないからである.
【0025】
この例では,入替の暗号化は1段階のみであるが,例えば,第一段階は3×3画素,第二段階は6×6画素,第三段階は12×12画素と,暗号キーを4つ使った4段階の暗号化を行うことで,閲覧権の強度を4通りに設定できる.すなわち,キーKaだけを持つものは,12×12画素の平均化操作を行うことにより,現画像に同じ平均化操作を行ったと同じモザイク化画像が得られる.同様に,キーKaとキーKbを持つ者は,6×6画素のモザイク画像を得ることができる.キーKa,キーKbとキーKcを持つ者は,3×3画素のモザイク画像を得ることができる.そして,全てのキー,キーKa,キーKb,キーKcとキーKdを持つものは,原画像と同じ画像を得ることができる.
【0026】
上記の例では,区分内での画素の処理は,単純な入替を例に取ったが,その他,様々な方法が考えられる.画素内の各RGBの輝度値の平均値を保存するだけなら,各画素に対し,合計がゼロとなるような適当な数字の組み合わせをつくり,それを加えてもよい.さらに,これに対し,上記の入替操作を追加しても良い.
【0027】
上記のプロセスは,カメラをインターネットに接続した環境下で使用する際にも,有効である.例えば,裁判所などによる犯罪捜査の緊急度・重大度に応じて,インターネットを通じて,自動的にキーが提供される仕組みを作ることにより,より迅速な捜査が可能となる.
【0028】
メモリは,カメラとは異なる場所に分散設置・集中設置してもよいが,データ通信量を抑制する上で,個々のカメラがメモリを内蔵する方式が好ましい.インターネット等で必要な画像ファイルを送る際も,必要な部分のみを送ることにより,システム全体の効率化を図ることができる.
【0029】
画像ファイルの形式を独自にものとすることにより,再生は,専用のソフトウェアでなければできないようにすると,さらに,安全性は高まる.




【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像装置と複数の鍵による画像暗号化装置と画像データ記録装置を備えたカメラ.
【請求項2】
暗号化装置で暗号化に使用される鍵と,その復号に必要な鍵が同一でない暗号方式を採用した請求項1のカメラ.
【請求項3】
復号に必要な鍵を一時的に外部から入力することによって,画像を復号することができる手段を備えた請求項2のカメラ.
【請求項4】
暗号化装置で暗号化に使用される鍵として公開鍵暗号の公開鍵を用い,復号に使用する鍵としてその秘密鍵を用いた請求項2のカメラ.
【請求項5】
暗号化装置で暗号化に使用される鍵として公開鍵暗号の公開鍵を用い,復号に使用する鍵としてその秘密鍵を用いた請求項3のカメラ.
【請求項6】
画像を閲覧することに同意が必要な複数の主体それぞれが独自の暗号化鍵を持ち,それら全ての鍵を用いて順次画像を暗号化するように設定した請求項1のカメラと,画像の閲覧が必要になった場合にそれぞれの主体が自身の鍵で復号する手段をもつ,カメラの運用方法.
【請求項7】
画像を閲覧することに同意が必要な複数の主体それぞれが独自の暗号化鍵を持ち,それら全ての鍵を用いて順次画像を暗号化するように設定した請求項2のカメラと,画像の閲覧が必要になった場合にそれぞれの主体が自身の鍵で復号する手段をもつ,カメラの運用方法.
【請求項8】
画像を閲覧することに同意が必要な複数の主体それぞれが独自の暗号化鍵を持ち,それら全ての鍵を用いて順次画像を暗号化するように設定した請求項3のカメラと,画像の閲覧が必要になった場合にそれぞれの主体が復号のための鍵をカメラに入力することによって画像を閲覧する,カメラの運用方法.
【請求項9】
画像を閲覧することに同意が必要な複数の主体それぞれが独自の暗号化鍵を持ち,それら全ての鍵を用いて順次画像を暗号化するように設定した請求項4のカメラと,画像の閲覧が必要になった場合にそれぞれの主体が自身の鍵で復号する手段をもつ,カメラの運用方法.
【請求項10】
画像を閲覧することに同意が必要な複数の主体それぞれが独自の暗号化鍵を持ち,それら全ての鍵を用いて順次画像を暗号化するように設定した請求項5のカメラと,画像の閲覧が必要になった場合にそれぞれの主体が復号のための鍵をカメラに入力することによって画像を閲覧する,カメラの運用方法.
【請求項11】
画像を画素よりも荒い区分で分割し,その各区分内の画素に対し暗号キーに基づいた処理を加えることを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9のカメラ.

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−114556(P2012−114556A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259953(P2010−259953)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(709003492)特定非営利活動法人e自警ネットワーク研究会 (6)
【出願人】(507266037)イージケイシステム株式会社 (5)
【Fターム(参考)】