説明

大型ペリクルの製造方法

【課題】 粘着層の厚みの不均一、表面の凹凸を改善し、貼付力の低下やフォトマスクの汚染や露光装置の破損の心配のない大型ペリクルの製造方法を提供する。
【解決手段】 少なくともペリクル膜と、前記ペリクル膜が貼り付けられたペリクル枠と、前記ペリクル枠の他方の端面に設けられた粘着層とを有する、ペリクル面積が1500cm2以上の大型ペリクルにおいて、前記粘着層を前記ペリクル枠に構成する際に、前記粘着層の粘着剤を少なくとも1種類以上の液体と実質的に均一な混合物の状態で前記ペリクル枠に付着させることを特徴とする。前記粘着層の粘着剤と実質的に均一に混合される液体が炭素を含む液体であること、混合される液体の1気圧における沸点が25℃以上250℃以下であること、液体の表面張力が5mN/m以上80mN/m以下であることが、それぞれ好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトリソグラフィー技術を用いた半導体回路やLCD(液晶ディスプレイ)製造工程で使用されるフォトマスクやレティクルに異物が付着することを防止するために用いられるペリクルに関するものであり、特にペリクル面積が1500cm2以上の寸法を有する大型ペリクルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フォトリソグラフィー技術を用いた半導体回路やLCDの製造は、フォトマスクが用いられ、ペリクルと呼ばれる部材を取り付けフォトマスクのパターン表面への異物の付着を防止している。
ペリクルは、一般的に金属製又はセラミクス製枠等の一方の面に、光学的に透明な薄膜を設置し、その反対の面に、フォトマスクに貼り付けるための粘着層が設けられている。粘着層を介してペリクルをフォトマスクのパターン面に貼付け、異物のフォトマスクのパターン面への付着を防止している。
【0003】
ペリクルを用いない場合、フォトマスクのパターン面に異物が付着すると、その異物が半導体ウエハー等の露光表面上で結像し回路に欠陥を発生させる。フォトマスクの少なくともパターン面にペリクルを貼り付けた場合、異物はフォトマスクのパターン面に付着せず、ペリクルの表面に付着する。ペリクル表面に付着した異物は焦点位置がずれ、半導体ウエハー等の露光表面上で結像することがなく、回路に欠陥は発生しない。
ペリクルはフォトマスクに均一な高さで貼り付けられることが求められており、粘着層もその厚さが均一で表面に凹凸が無いことが求められる。
従ってペリクル枠に粘着層を構成する際には、粘着剤をペリクル枠に均一な厚さで表面の凹凸無く付着させる必要がある。
【0004】
粘着層は、一般的に、単独あるいは複数の粘着剤の層3(図1)、またはペリクル枠2に接する粘着性を有する層4、粘着性を持たない層5、フォトマスクに接する粘着性を有する層6から成っている(図2)。
粘着層の厚さの均一性、表面の平滑性は、ペリクルの性能を決める重要な要素の一つである。
従来は、厚さの均一性や表面の平滑性を向上させるために粘着剤の付着量を調整したりしたが、必ずしも十分ではなく、粘着層の厚さの不均一や表面の凹凸により粘着層のしていた。
その結果、フォトマスクに貼り付けたペリクルが時間を経て剥がれ落ち、フォトマスクの汚染や露光装置の破損の原因にもなっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、大型ペリクルの製造において、前述の問題点に鑑み粘着層の厚みの不均一、表面の凹凸を改善することによって、前述の従来の問題の発生を抑止することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る大型ペリクルの第1の発明の要旨は、従来の問題点を根本から解決する技術であり、少なくともペリクル膜と、前記ペリクル膜が貼り付けられたペリクル枠と、前記ペリクル枠の他方の端面に設けられた粘着層とを有する、ペリクル面積が1500cm2以上の大型ペリクルにおいて、前記粘着層を前記ペリクル枠に構成する際に、前記粘着層の粘着剤を少なくとも1種類以上の液体と実質的に均一な混合物の状態で前記ペリクル枠に付着させることを特徴とする大型ペリクルの製造方法である。
【0007】
本発明に係る大型ペリクルの第2の発明の要旨は、前記粘着層の粘着剤と実質的に均一に混合される液体が炭素を含む液体である大型ペリクルの製造方法である。
本発明に係る大型ペリクルの第3の発明の要旨は、前記粘着層の粘着剤と実質的に均一に混合される液体の1気圧における沸点が25℃以上250℃以下である大型ペリクルの製造方法である。
本発明に係る大型ペリクルの第4の発明の要旨は、前記粘着層基材を実質的に均一に分散あるいは可溶する液体の表面張力が5mN/m以上80mN/m以下である大型ペリクルの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
前述の第1の発明による大型ペリクルにおいては、粘着層の粘着剤が少なくとも1種類以上の液体と実質的に均一な混合物の状態でペリクル枠に付着させることから、混合した液体の持つ流動性、レベリング性により、粘着層の高さの均一性、および表面の平滑度が大きく向上し、粘着層の粘着力が十分増加する。
その結果、ペリクルをフォトマスクに貼り付けた後に粘着層の粘着力が不足するために剥がれ落ちるといったことが無くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
前述の第1および第2の発明による大型ペリクルにおいては、粘着剤と混合される液体はペリクルをフォトマスクに貼り付けた後で徐々に気体となって放出される。
この気体が、露光光源であるエキシマレーザーによりいわゆるヘイズと呼ばれるフォトマスクの汚染の原因になる可能性があることから、ペリクルは、粘着層から発生する気体を極めて少なくする必要がある。
このために、粘着基材と液体の混合物をペリクル枠に付着させた後に加熱し液体成分を気化し除去する。
該液体の沸点が250℃を超える場合、液体を気化させるために250℃以上にペリクルを加熱する必要が生じる。
【0010】
ペリクル枠は、一般的にアルミニウム合金製であり、この場合、熱によるペリクル枠の酸化、変形が強く起こり、製品としての使用が不可能になる。従って、前記液体の1気圧における沸点は、250℃以下であることが望ましい。
また、フォトリソグラフィーによる大型LCD製造工程は極めて清浄度が高く、室温が一定のクリーンルームで行われている。その多くは装置精度への影響を考慮し、室温が25℃前後に保たれている。
前記液体の沸点が25℃未満の場合、粘着層基材と少なくとも1種類以上の液体との実質的に均一な混合物をペリクル枠に付着させた時点で混合物中の液体が直ちに急激に気化し、粘着層中あるいは粘着層の表面付近に残留すると粘着層表面に凹凸が発生しペリクルがフォトマスクに均一に貼り付かない原因になる。
【0011】
従って、前記液体の1気圧における沸点は、25℃以上であることが望ましい。
前述の第4の発明による大型ペリクルにおいては、液体の表面張力が80mN/mより大きいと、粘着剤と液体の混合物をペリクル枠2に付着させた後の粘着層7の形状は図3のようになり、表面の凹凸が大きく、露光部分に粘着層がはみ出し正常な露光を妨げてしまう。
一方、表面張力が5mN/mより小さい場合、粘着層7の形状は図4のようになり、表面の凹凸は小さくなるが、粘着層に所望の厚みを付与するために付着量を増すと、粘着剤がペリクル枠から垂れ落ちてしまう。
従って、前記液体の表面張力は、5mN/m以上80mN/m以下が望ましい。
【実施例】
【0012】
以下の実施例および比較例には、公知の技術にて黒色アルマイト処理を施したアルミニウム合金枠にフッ素系ポリマーペリクル膜を接着したペリクル枠を用意した。
[実施例1]
シリコーン系粘着剤にn−デカンを均一に混合し、これを公知の技術でペリクル枠に付着させ粘着層を形成した。この時の粘着層の高さのばらつきは±0.02mmであった。
【0013】
[実施例2]
シリコーン系粘着剤にエチルメチルケトンCH3COC25;沸点=79.6℃、を均一に混合し、これを公知の技術でペリクル枠に付着させ粘着層を形成した。その後ペリクル全体を80℃まで加熱した。この時の粘着層には気泡は発生せず、表面の凹凸も見られなかった。またフォトマスクに貼り付け露光を行ったが、ヘイズの発生は見られなかった。
[実施例3]
シリコーン系粘着剤にヘキサンC614;表面張力=18.40mN/m、を均一に混合し、これを公知の技術でペリクル枠に付着させ粘着層を形成した。粘着層を所望の厚さ1.0mmまで厚くすることができた。
【0014】
[比較例1]
シリコーン系粘着剤のみを公知の技術でペリクル枠に付着させ粘着層を形成した。この時の粘着層の高さのばらつきは±0.15mmであった。
[比較例2]
シリコーン系粘着剤にネオペンタン(CH34C;沸点=9.5℃、を均一に混合し、これを公知の技術でペリクル枠に付着させ粘着層を形成した。その後ペリクル全体を80℃まで加熱した。この時粘着層内部、および表面近傍に気泡が多数発生し、粘着層の凹凸も大きく、製品として使用できなかった。
[比較例3]
シリコーン系粘着剤にビフェニルC6565;沸点=254.9℃、を均一に混合し、これを公知の技術でペリクル枠に付着させ粘着層を形成した。その後ペリクル全体を255℃まで加熱した。この時のペリクル枠は酸化され変色、パーティクルの発生が見られた。さらに全体にゆがみが発生し、製品として使用できなかった。
【0015】
以上詳述したとおり、本発明による大型ペリクルは、少なくともペリクル膜と前記ペリクル膜が貼り付けられたペリクル枠と、前記ペリクル枠の他方の端面に設けられた粘着層を有するペリクル面積が1500cm2以上の大型ペリクルにおいて、粘着層をペリクル枠に構成する際に、粘着層の粘着剤を少なくとも1種類以上の液体と実質的に均一な混合物の状態で、ペリクル枠に付着させることを特徴としている。
この結果、粘着層の高さの均一性、および表面の平滑度が大きく向上し、粘着層の粘着力が十分増加することで、フォトマスクに貼り付けたペリクルの落下を防止できる。
【0016】
また、本発明による大型ペリクルは、粘着剤と実質的に均一に混合される液体が炭素を含む液体であることを特徴とする大型ペリクルの製造方法である。
また、本発明による大型ペリクルは、粘着剤と実質的に均一に混合される液体の1気圧における沸点が25℃以上250℃以下であることを特徴とする大型ペリクルの製造方法である。
この結果、ペリクル枠の変形、酸化を防止することができ、かつ粘着層表面が平滑なペリクルを得ることができ、フォトマスクへの貼り付きが均一になる。
また、本発明による大型ペリクルは、粘着層基材を実質的に均一に分散あるいは可溶する液体の表面張力が5mN/m以上80mN/m以下であることから、正常な露光を妨げることも無く、表面の凹凸が小さく、かつ粘着層に所望の厚みを付与することができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明によれば、ペリクル面積が1500cm2以上の大型ペリクルにおいて、表面の凹凸が小さく、かつ粘着層に所望の厚みを付与することが簡易にできるから、フォトリソグラフィー技術を用いた半導体回路やLCD(液晶ディスプレイ)を製造する技術分野に裨益するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ペリクルの断面の一例を示す説明図である。
【図2】ペリクルの断面の他の例を示す説明図である。
【図3】表面張力が80mN/mより大きい場合にペリクル枠上に構成した粘着層の形状を示す説明図である。
【図4】表面張力が5mN/mより小さい場合にペリクル枠上に構成した粘着剤の形状を示す説明図である。
【符号の説明】
【0019】
1:ペリクル膜
2:ペリクル枠
3:粘着剤
4:粘着層の内、ペリクル枠に接する粘着性を有する部分
5:粘着層の内、粘着性を持たない部分
6:粘着層の内、フォトマスクに接する粘着性を有する部分
7:粘着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともペリクル膜と、前記ペリクル膜が貼り付けられたペリクル枠と、前記ペリクル枠の他方の端面に設けられた粘着層とを有する、ペリクル面積が1500cm2以上の大型ペリクルにおいて、前記粘着層を前記ペリクル枠に構成する際に、前記粘着層の粘着剤を少なくとも1種類以上の液体と実質的に均一な混合物の状態で前記ペリクル枠に付着させることを特徴とする大型ペリクルの製造方法。
【請求項2】
前記粘着層の粘着剤と実質的に均一に混合される液体が炭素を含む液体である請求項1に記載の大型ペリクルの製造方法。
【請求項3】
前記粘着層の粘着剤と実質的に均一に混合される液体の1気圧における沸点が25℃以上250℃以下である請求項1または請求項2に記載の大型ペリクルの製造方法。
【請求項4】
前記粘着層基材を実質的に均一に分散あるいは可溶する液体の表面張力が5mN/m以上80mN/m以下である請求項1または請求項2に記載の大型ペリクルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−10786(P2007−10786A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188724(P2005−188724)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】