説明

大電力高周波出力装置

【課題】アンテナから出力される高周波電力を低下させることなく、反射波電力による最終段電力増幅器の破壊を防止することが可能な大電力高周波出力装置を提供する。
【解決手段】大電力高周波出力装置は、高周波電力を増幅して出力する増幅部と、増幅部の出力側に設けられ、制御信号に基づいて入力インピーダンスを変化させて高周波電力を出力する可変インピーダンス整合部と、高周波電力を出力するアンテナと、アンテナからの反射波電力を、増幅部に入力された高周波電力で直交検波して、同相および直交検波出力信号を出力する直交検波部と、同相および直交検波出力信号に応じて制御信号を生成し、可変インピーダンス整合部に送出する制御部とを備えている。制御部は、同相および直交検波出力信号から得られた反射波電力の位相情報に基づいて、反射波電力の位相が予め定められた範囲内に入るよう可変インピーダンス整合部の伝送路の移相量を変化させる制御信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RF帯からマイクロ波帯で動作する大電力高周波出力装置に関する。より具体的には、大電力高周波出力装置において、高周波電力増幅器を効率よく保護するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護が世界的に問題となっており、シリコン・カーバイト(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの高速動作と高耐圧および大電力密度を備えた材料を用いたパワー半導体が、大電力を取り扱う機器の省エネルギーデバイスとして注目されている。
【0003】
RF帯からマイクロ波帯の高周波を利用する、通信システムの基地局の送信用パワー増幅器への展開をはじめとして、数百Wの高周波電力を照射することにより食品を加熱する電子レンジなどの調理機器へのパワー半導体の利用も開発が進められている。
【0004】
これらの機器では、大電力と高効率とを両立させるために、アンテナに最も近い、即ち、最終段の電力増幅器は飽和に近い非線形動作状態で使用するのが一般的である。従って、電力増幅器が安定に動作するためには電力増幅器の次段に接続される回路の入力インピーダンスと、電力増幅器の出力インピーダンスとの整合が非常に重要である。
【0005】
このインピーダンス整合が最適な状態からずれると、出力パワーの低下や効率の低下を招くこととなり、最悪の場合には電力増幅器の破壊を招く場合もある。
【0006】
また、電力増幅器からアンテナまでの全てのインピーダンス整合を最適にしたとしても、機器の使用状態やアンテナ周囲の環境変化などにより、アンテナのインピーダンス整合が崩れることにより、アンテナで反射が起こり、その反射波電力が逆流し、電力増幅器へ入力されることにより、電力増幅器の出力電力および効率の低下、最悪の場合には破壊に至る場合もある。特に、電子レンジ等の調理機器の場合、アンテナ周囲の空間が非常に狭いことと、調理する食品の形状や物性などにより、アンテナのインピーダンス状態は非常に複雑となり、大きな反射波電力が発生する確率は非常に高くなる。
【0007】
従来、アンテナのインピーダンス整合が崩れた場合でも電力増幅器の安定動作を確保するために、電力増幅器の出力側にアイソレータを配置し、アンテナからの反射波電力が電力増幅器へ逆流するのを阻止する方法が一般的に使われている。この従来例の構成と動作を、図17を参照して説明する。
【0008】
図17は、従来例の高周波電力出力装置300の構成を示すブロック図である。高周波電力出力装置300は、高周波電力を発振する高周波電力発振部301、高周波電力増幅器302、インピーダンス整合部303、アイソレータ304が直列に接続され、アイソレータ304の出力にアンテナ305が接続されている。高周波電力発振部301の出力電力は高周波電力増幅器302で増幅され、インピーダンス整合部303とアイソレータ304を介してアンテナ305より放出される。機器の使用状態やアンテナ周囲の環境変化などにより、アンテナのインピーダンス整合が崩れると、アンテナで反射が起こり、その反射波電力の逆流が発生するが、高周波電力増幅器302の出力に配置されたインピーダンス整合部303とアンテナ305の間にアイソレータ304が直列に配置されていることにより、アンテナから逆流してきた反射波電力は、アイソレータ304により、その電力の大半を吸収されてしまうので、高周波電力増幅器302へ入力される反射波電力は極僅かとなり、高周波電力増幅器302は出力電力が低下することもなく破壊も回避することができる。
【0009】
また、アイソレータを使用せずに、アンテナからの反射波電力による電力増幅器の破壊を防止することを目的とした従来技術として、反射波電力を検出し、その反射波電力の大きさに応じて電力増幅器と負荷(アンテナ)との間に配置した可変減衰器の減衰量を増やして、電力増幅器への反射波電力の注入量を減らすことで、電力増幅器の破壊を防止する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
また、アイソレータを使用せずに、アンテナからの反射波電力による、電力増幅器の破壊を防止することを目的とした従来技術として、電力増幅器(トランジスタ)で消費される電流を監視し、電流が予め定められた規定値を超えないように、電力増幅器(トランジスタ)のバイアスを制御することにより、電力増幅器に過電流が流れるのを防ぎ、破壊を防止する方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−166153号公報
【特許文献2】特開2002−076791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、アイソレータは取り扱う電力が大きくなるほど形状も大きくなり、大きなコストの上昇を招く。また、特許文献1の方法では電力増幅器出力とアンテナ間に減衰器を配置し、その減衰量を大きくすることで電力増幅器への反射波電力を抑制しているので、同時にアンテナから出力される高周波電力も低下してしまう。
【0012】
また、特許文献2の方法では、反射波電力が逆流して電力増幅器に入力された時に、電力増幅器の電流の増加を察知し、電流を減少させるように動作するので、これも特許文献1の方法と同様に、アンテナから出力される高周波電力が低下してしまう。
【0013】
本発明の目的は、アンテナから出力される高周波電力を低下させることなく、反射波電力による最終段電力増幅器の破壊を防止することができる、大電力高周波出力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による大電力高周波出力装置は、高周波電力を受け取り、増幅して出力する高周波電力増幅部と、前記高周波電力増幅部の出力側に設けられ、入力された制御信号に基づいて入力インピーダンスを変化させて前記高周波電力を出力する可変インピーダンス整合部と、前記可変インピーダンス整合部から出力された前記高周波電力を出力するアンテナと、前記アンテナからの反射波電力を、前記高周波電力増幅部に入力された前記高周波電力で直交検波して、同相検波出力信号および直交検波出力信号を出力する直交検波部と、前記同相検波出力信号および前記直交検波出力信号に応じて前記制御信号を生成し、前記可変インピーダンス整合部に送出する制御部とを備えており、前記制御部は、前記同相検波出力信号および直交検波出力信号から得られた反射波電力の位相情報に基づいて、前記反射波電力のインピーダンスが、前記高周波電力増幅部が破壊されない範囲内に入るよう、前記可変インピーダンス整合部の伝送路の移相量を変化させる制御信号を生成する。
【0015】
前記高周波電力増幅部の出力からみた前記可変インピーダンス整合部の入力における、前記反射波電力のインピーダンスは、第1インピーダンス領域の値または第2インピーダンス領域の値の一方に分類可能であり、前記第1インピーダンス領域は、前記高周波電力増幅部を流れる電流が過電流状態となることによって前記高周波電力増幅部が破壊されるインピーダンスを含み、前記第2インピーダンス領域は、前記高周波電力増幅部を流れる電流の電流値が耐破壊限界を超えないことにより、前記高周波電力増幅部が破壊されないインピーダンスを含み、前記制御部は、前記反射波電力のインピーダンスが前記第2インピーダンス領域内に入るような前記制御信号を生成して、前記可変インピーダンス整合部の伝送路の移相量を変化させてもよい。
【0016】
前記制御部は、アナログ形式の前記同相検波出力信号および前記直交検波出力信号をそれぞれデジタル形式に変換する変換器、および、前記第2インピーダンス領域を特定するための制御テーブルを保持した記憶部を有しており、前記デジタル形式の前記同相検波出力信号、前記直交検波出力信号および、前記制御テーブルに基づいて、前記制御信号を生成してもよい。
【0017】
前記記憶部は、半導体メモリであってもよい。
【0018】
前記制御部は、前記制御信号を、1ビット以上のデジタル信号に変換して送出してもよい。
【0019】
前記制御部は、前記制御信号を、アナログ信号に変換して送出してもよい。
【0020】
前記制御部は、前記制御信号を、パルス幅変調(PWM)信号に変換して送出してもよい。
【0021】
前記大電力高周波出力装置は、前記高周波信号を発振して、前記高周波電力増幅部および前記直交検波部に入力する高周波電力発振部をさらに備えていてもよい。
【0022】
前記大電力高周波出力装置は、前記可変インピーダンス整合部の出力と前記アンテナとの間に設けられ、前記可変インピーダンス整合部の出力電力を前記アンテナへ送出し、かつ、前記アンテナからの前記反射波電力を取り出す方向性結合器をさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の高周波電力出力装置によれば、アンテナからの反射波電力を直交検波し、高周波電力増幅器出力からみた可変インピーダンス整合部の入力における反射波のインピーダンスによって高周波電力増幅器が破壊されないよう、可変インピーダンス整合部で調整する。これにより、アイソレータ等の高価な部品を使用せず、かつ、高周波電力増幅器の高周波出力電力を低下させずに、アンテナのインピーダンス不整合に起因するアンテナからの反射波電力による高周波電力増幅器の破壊を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による大電力高周波出力装置の概念を説明する。その後、大電力高周波出力装置の実施形態を説明する。
【0025】
図1は、本発明の大電力高周波出力装置100の基本構成を示すブロック図である。高周波電力を発振する高周波電力発振部101、高周波電力増幅器102、可変インピーダンス整合部103、方向性結合器104が直列に接続され、方向性結合器104の出力にアンテナ107が接続されている。さらに、直交検波部105、制御部106が備えられており、方向性結合器104の逆方向電力出力と、高周波電力発振部101の出力がそれぞれ直交検波部105の入力に接続され、直交検波部105の検波出力が制御部106の入力に接続されている。制御部の出力は可変インピーダンス整合部103のインピーダンス制御信号入力に接続されている。
【0026】
高周波電力発振部101の出力電力は高周波電力増幅器102で増幅され、可変インピーダンス整合部103と方向性結合器104を介して、アンテナ107より放出される。機器の使用状態やアンテナ周囲の環境変化などにより、アンテナのインピーダンス整合が崩れると、アンテナで反射が起こり、その反射波電力がアンテナ107から方向性結合器104、可変インピーダンス整合部103を介して逆流し、高周波電力増幅器102へ入力される。
【0027】
一方、方向性結合器104の逆方向電力出力からはアンテナ107からの反射波電力が出力され、直交検波部105へ入力される。直交検波部105では高周波電力発振部101の出力信号で、方向性結合器104から入力された反射波電力を直交検波する。このとき、高周波電力発振部101の出力信号と反射波電力の周波数は同一であるので、直交検波部105での直交検波は、完全な同期検波となる。直交検波部105からは同相検波出力信号および直交検波出力信号が出力され、制御部106へ入力される。
【0028】
制御部106は、直交検波部105から入力された同相検波出力信号および直交検波出力信号から、反射波電力の位相情報を検出して、可変インピーダンス整合部103の伝送路の移相量を変化させる。「移相量」とは、高周波信号の位相の変化量を意味する。
【0029】
このとき制御部106は、高周波電力増幅器102の出力からみた、可変インピーダンス整合部103の入力インピーダンスを変化させて、検出した反射波電力の位相情報が予め定められた範囲内となるように、可変インピーダンス整合部103へのインピーダンス制御信号を制御する。「予め定められた範囲内」とは、高周波電力増幅器102が破壊されないインピーダンス範囲内を意味する。
【0030】
この構成によれば、アンテナから電力増幅器へ逆流する反射波電力を取出し、直交検波し、同相検波出力信号および直交検波出力信号を基に、電力増幅器出力からみた可変インピーダンス整合部の入力における反射波のインピーダンスが、予め定められた範囲内になるように制御できるので、高周波電力増幅器の高周波出力電力を低下させずに、アンテナからの反射波電力による高周波電力増幅器の破壊を防止することができる。
【0031】
以下、大電力高周波出力装置の実施形態を説明する。
【0032】
図2は、本実施形態による大電力高周波出力装置200のブロック構成図である。
【0033】
大電力高周波出力装置200は、高周波電力発振部201、高周波電力バッファアンプ208、最終段高周波電力増幅器202、可変インピーダンス整合部203、方向性結合器204、直交検波部205、制御部206、反射波低域通過フィルタ209、反射波バッファアンプ210、発振信号低域通過フィルタ211、電力分配器220より構成される。さらに、直交検波部205は、π/2移相器212、同相(I)側ミキサー213、直交(Q)側ミキサー214により構成され、制御部206は、同相(I)側アナログ−デジタル変換器215、直交(Q)側アナログ−デジタル変換器216、演算処理部217、データ記憶装置218、インピーダンス制御信号出力部219より構成される。
【0034】
高周波電力発振部201は、通常、電圧制御発振器(VCO)とフェーズ・ロックド・ループ(PLL)、またはデジタル制御発振器(DCO)とデジタル・フェーズ・ロックド・ループ(DPLL)で構成されるが、これに限るものではなく、安定した発振周波数が得られる構成であれば他の構成でも構わない。
【0035】
高周波電力発振部201から出力された高周波電力信号は、高周波電力バッファアンプ208で増幅されたのち、電力分配器220を経て最終段高周波電力増幅器202でさらに増幅され、可変インピーダンス整合部203、方向性結合器204を経てアンテナ207より放出される。
【0036】
方向性結合器204は、2本の平行なマイクロストリップ線路204aおよび204bによつ誘導結合を利用した回路である。マイクロストリップ線路204aおよび204bを利用すると、非常に簡単な構成で低通過損失の方向性結合器が得られる。
【0037】
方向性結合器204は以下のように機能する。すなわち、入力端子P1から入力された信号は、マイクロストリップ線路204aを経て出力端子P2から出力されると同時に、マイクロストリップ線路204aとマイクロストリップ線路204bの誘導結合により、順方向出力端子P4からも出力されるが、逆方向出力端子P3からは出力されない。同様に、出力端子P2から入力された信号は、マイクロストリップ線路204aを経て入力端子P1から出力されると同時に、マイクロストリップ線路204aとマイクロストリップ線路204bの誘導結合により、逆方向出力端子P3からも出力されるが、順方向出力端子P4からは出力されない。
【0038】
入力端子P1から出力端子P2、および出力端子P2から入力端子P1への通過電力損失と、逆方向出力端子P3および順方向出力端子P4より出力される電力の大きさは、マイクロストリップ線路204aとマイクロストリップ線路204bの誘導結合の大きさによって決まる。結合を大きくすれば、逆方向および順方向出力端子P3およびP4より出力される電力は大きくなるが、通過電力損失も大きくなる。逆に、結合を小さくすれば、逆方向および順方向出力端子P3およびP4より出力される電力は小さくなるが、通過電力損失は小さくできる。一般的に、取り出したい信号の要求されるダイナミックレンジの幅と、許容される通過電力損失により結合の大きさは決められる。
【0039】
本実施形態においては、順方向出力端子P4から出力された電力は、終端抵抗221で消費され、逆方向出力端子P3から反射波電力の一部が取り出される。よって、方向性結合器204を利用することにより、インピーダンス整合部203からアンテナ207へ高周波電力信号を通過させ、アンテナ207からインピーダンス整合部203へ逆流する反射波の一部を取り出すことができる。
【0040】
通常、大電力信号を出力する高周波電力増幅器の出力インピーダンスは非常に低くなり、数Ω以下となる場合が一般的である。可変インピーダンス整合部203の入力インピーダンスは、最終段高周波電力増幅器202の出力インピーダンスと最適な整合がとれるように構成されている。
【0041】
機器の使用状態やアンテナ周囲の環境変化などにより、アンテナ207のインピーダンス整合が崩れると、アンテナ207で高周波電力信号の反射が起こり、その反射波電力が、方向性結合器204の出力端子P2に逆流する。そしてその反射波電力は、方向性結合器204、可変インピーダンス整合部203を介して最終段高周波電力増幅器202の出力へ入力されることになる。
【0042】
アンテナ207からの反射波信号の一部は、方向性結合器204の逆方向出力端子P3を経て直交検波器205に向けて出力され、反射波低域通過フィルタ209に入力される。反射波低域通過フィルタ209は、高周波電力発振部201で出力される周波数の高調波を抑圧するよう遮断周波数が決められている。反射波低域通過フィルタ209で高調波成分を抑圧された反射波電力は、反射波バッファアンプ210によって、後段の直行検波部205で直行検波するのに十分な電力まで増幅されたのち、直交検波部205へ入力される。ここで、反射波電力が直交検波するのに十分であり、増幅の必要が無い場合は、反射波バッファアンプ210は省いてもよいことは言うまでもない。直交検波部205へ入力された反射波電力は、2分配され、それぞれ、同相(I)側ミキサー213および直交(Q)側ミキサー214へ入力される。
【0043】
一方、電力分配器220で分配された高周波電力バッファアンプ208の出力電力の一部は、発振信号低域通過フィルタ211に入力される。このフィルタは前述の反射波低域通過フィルタ209と同様の特性を持ち、高周波電力発振部201で出力される周波数の高調波を抑圧するよう遮断周波数が決められている。発振信号低域通過フィルタ211で高調波成分を抑圧された発振信号電力は、直交検波部205へ入力される。直交検波部205へ入力された発振信号電力は、π/2移相器212に入力され、入力された発振信号電力に対して、同相の同相発振信号電力と、π/2だけ位相シフトした直交発振信号電力が出力される。同相発振信号電力は同相(I)側ミキサー213へ、直交発振信号電力は直交(Q)側ミキサー214へそれぞれ入力される。
【0044】
同相(I)側ミキサー213は、反射波電力を、π/2移相器212から入力された同相発振信号電力と積算することによる検波、即ち、反射波電力を同相発振信号電力で同期検波し、2つの入力信号の乗算結果として、同相(I)成分検波信号が出力され、制御部206へ入力される。同様に、直交(Q)側ミキサー214は、反射波電力を、π/2移相器212から入力された直交発振信号電力で同期検波し、直交(Q)成分検波信号が出力され、制御部206へ入力される。このとき、図2には示していないが、同相(I)成分検波信号および直交(Q)成分検波信号のS/N比を向上する目的で、同相(I)側ミキサー213および直交(Q)側ミキサー214のそれぞれの出力に低域通過フィルタを配置してもよい。
【0045】
直交検波部205の同相(I)側ミキサー213および直交(Q)側ミキサー214より出力され制御部206へ入力された同相(I)成分検波信号および直交(Q)成分検波信号は、それぞれ、同相(I)アナログ−デジタル変換器215および直交(Q)アナログ−デジタル変換器216へ入力され、デジタル信号に変換されて、演算処理部217へ入力される。
【0046】
演算処理部217は、反射波電力を発振信号電力で直交同期検波して得られた同相(I)成分検波信号および直交(Q)成分検波信号より、反射波電力のインピーダンスをデジタル演算により算出し、その演算結果を基に、データ記憶装置218に格納されたインピーダンス制御信号データを参照して、インピーダンス制御信号を決定し、インピーダンス制御信号出力部219を経て、可変インピーダンス制御部203へ出力する。
【0047】
インピーダンス制御信号出力部219は、演算処理部217から入力されたインピーダンス制御信号を、可変インピーダンス整合部203の可変素子の素子値制御方法に合わせた信号形式に変換して、可変インピーダンス整合部203へ送出する。ここで述べる信号形式には、1ビット以上のデジタルデータ形式、アナログ電圧形式、更には、パルス幅変調(PWM)信号形式などが含まれる。
【0048】
上記構成によれば、反射波電力を直交検波して得られた同相検波出力信号および直交検波出力信号を、デジタル信号に変換するので、高速なデジタル演算処理が可能となり、反射波電力のインピーダンスを高速かつ容易に正確に算出することができる。よって、正確なインピーダンス制御信号を高速に可変インピーダンス整合部203へ送出し、可変インピーダンス整合部203を制御することができる。その結果、高周波電力増幅器202の高周波出力電力を低下させずに、アンテナからの反射波電力による高周波電力増幅器202の破壊を防止することができる。
【0049】
図3は、一般的な高周波電力増幅器の出力整合回路の回路構成を示す。
【0050】
高周波電力増幅器401の出力(ドレイン)に、ある一定の電気長を有するマイクロストリップ線路403、直流カット用コンデンサ404が直列に接続され、直流カット用コンデンサ404は、出力整合回路の出力端子405に接続され、次段の回路に接続される。高周波電力増幅器401の出力の直近には、シャント用コンデンサ402の一端が接続され、シャント用コンデンサ402の他端は接地されている。更に、高周波電力増幅器401の出力とマイクロストリップ線路403の間にインダクタ406の一端が接続されており、インダクタ406の他端にはバイパスコンデンサ407の一端が接続され、バイパスコンデンサ407の他端は接地されている。また、インダクタ406とバイパスコンデンサ407の接続点は、直流電源供給端子408に接続されていて、この直流電源供給端子から高周波電力増幅器401の駆動電源(Vdd)を供給する。なお、高周波電力増幅器401の入力部の回路についての説明は、本発明に特に関連しない。よって説明は省略する。
【0051】
インダクタ406は、高周波電力増幅器401の出力インピーダンス整合に影響しないよう、動作周波数において、十分にインピーダンスが大きくなるようにインダクタンス値を選定される。図3では、インダクタ406は、高周波電力増幅器401とマイクロストリップ線路403の間に接続されているが、マイクロストリップ線路403と直流カット用コンデンサ404の間に接続しても構わない。
【0052】
通常は、シャント用コンデンサ402とマイクロストリップ線路403で、高周波電力増幅器401の出力インピーダンスの整合をとるが、直流カット用コンデンサ404をインピーダンス整合用のコンデンサとして使用しても構わない。
【0053】
図4は、マイクロストリップ線路403の電気長が変化した場合のインピーダンスの変化を模式的に示した図である。初期のインピーダンスをA点とした場合、マイクロストリップ線路403の電気長を長くした場合にはB点に、逆に、電気長を短くした場合はC点に、それぞれインピーダンスが変化する。従って、マイクロストリップ線路403の電気長を変化させることで、伝送線路の移相量を変化させることができる。
【0054】
また、直流カット用コンデンサ404をインピーダンス整合用可変素子として使用して、コンデンサの静電容量を変化させた場合、初期のインピーダンスを図4に示すA点とすると、直流カット用コンデンサ404の静電容量を大きくした場合にはB点に、逆に、静電容量を小さくした場合はC点に、それぞれインピーダンスが変化する。従って、直流カット用コンデンサ404の静電容量を変化させることで、伝送線路の移相量を変化させることができる。
【0055】
可変インピーダンス制御部203は、制御部206のインピーダンス制御信号出力部219より適切な信号形式に変換されて入力されたインピーダンス制御信号により、上記のマイクロストリップ線路403や直流カット用コンデンサ404などの可変素子の素子値を変化させることによって、信号伝送線路の移相量を変化し、最終段高周波電力増幅器202の出力からみた可変インピーダンス整合部203の入力インピーダンスを変化させるように動作するよう構成される。
【0056】
すなわち、同相検波出力信号および直交検波出力信号を基に、電力増幅器202の出力からみた可変インピーダンス整合部203の入力における反射波のインピーダンスを電力増幅器202が破壊されないインピーダンス領域に制御することで、高周波出力電力を低下させずに、アンテナからの反射波電力による高周波電力増幅器の破壊を防止することが可能な大電力高周波出力装置200を実現することができる。
【0057】
なお、本実施形態においては、反射波のインピーダンスを検出するために方向性結合器を利用した。しかしこれは例である。他の構成によっても実現できる。
【0058】
ここで、図5および6を参照しながら、電力増幅器202が破壊されないインピーダンス領域を説明する。
【0059】
図5は、電力増幅器202のドレイン電流(Id)ロードプルデータの一例を示す。このような増幅器出力のインピーダンスに対するドレイン電流の分布は、一般に使われるロードプル法により、容易に測定できる。
【0060】
たとえば制御部206のデータ記憶装置218は、図5に示すドレイン電流(Id)ロードプルデータを予め保持している。演算部217は、反射波のインピーダンスを検出し、検出したインピーダンスを用いて保持されているロードプルデータを参照して、インピーダンスの調整の要否を決定し、必要な場合にはさらにそのロードプルデータに基づいてインピーダンスを調整する。
【0061】
本実施形態では、ドレイン電流(Id)=500mAにおいて増幅器が過電流により破壊されるとする。この電流値も実験等によって特定することが可能である。
【0062】
Id>500mAとなる領域、即ち、図5中のドレイン電流(Id)=500mAによって囲まれる領域が、電力増幅器202が過電流により破壊されるインピーダンス領域となる。この領域を、以下「破壊領域」という。
【0063】
従って、「電力増幅器が破壊されない領域」とは、電流値が耐破壊限界以下となる、図5中のドレイン電流(Id)=500mAによって囲まれる破壊領域の外の領域を意味している。制御部206は、電力増幅器202が破壊されない領域に反射波電力のインピーダンスが入るよう、インピーダンス制御信号を生成し、可変インピーダンス整合部203を制御する。なお、図から明らかなように、反射波電力のインピーダンスは「破壊領域」か「破壊領域以外の領域」かに分類することが可能であり、そのいずれに属するかによって、後の制御方法が異なっている。
【0064】
次に、図6を参照しながら、検出した反射波電力のインピーダンスに応じたインピーダンスの制御方法を説明する。図6は、位相を回す方向を説明するための図である。
【0065】
まず、反射波電力のインピーダンスが破壊領域外にある場合、たとえば図6中D点に位置している場合には、移相制御を行う必要はない。制御部206は、位相を変化させるインピーダンス制御信号を出力しないため、可変インピーダンス整合部203の移相量に変化はない。
【0066】
次に、反射波電力のインピーダンスが破壊領域内にある場合、たとえば図6中A、B、C点に位置している場合には、以下のように移相量を制御する。
【0067】
原則としては、破壊領域外へインピーダンスを変化させるために、制御部206は、移相量が少ない方向に移相する。そして、インピーダンスが破壊領域のほぼ中央にあることにより、移相量がどの方向においても同等の場合には、実軸に近づける方向に移相する。
【0068】
図6中A、B、C点を例に挙げて説明する。
【0069】
反射波電力のインピーダンスが図6のA点に位置する場合、移送量の最も小さい方向である、A→A'の方向へインピーダンスを移相するよう、インピーダンスが制御される。この移送を実現するためには、図8〜10に関連して後述するように、直列のインダクタLのインダクタンス値を大きくする、または、直列コンデンサCの静電容量を小さくすればよい。
【0070】
また、反射波電力のインピーダンスが図6のB点に位置する場合、移送量の最も小さい方向である、B→B' の方向へインピーダンスを移相するよう、インピーダンスが制御される。この移送を実現するためには、図8〜10に関連して後述するように、直列のインダクタLのインダクタンス値を小さくする、または、直列コンデンサCの静電容量を大きくすればよい。
【0071】
一方、反射波電力のインピーダンスが図6のC点に位置する場合、インピーダンスが破壊領域のほぼ中央にあるため、C→C' の方向へインピーダンスを移相するよう、インピーダンスが制御される。この移送を実現するためには、図8〜10に関連して後述するように、直列のインダクタLのインダクタンス値を小さくする、または、直列コンデンサCの静電容量を大きくすればよい。
【0072】
なお、「インピーダンスが破壊領域のほぼ中央にある」とは、インピーダンスを破壊領域の外へ動かすために回さなければいけない位相角度、すなわち、図6における、A→A’の角度およびB→B’の角度、が実質的に同じになることをいう。
【0073】
次に、図7を参照しながら、大電力高周波出力装置200の初期動作を説明する。初期動作を特にとりあげる理由は、システム起動時により安全に動作させるためである。システム起動時は反射波電力のインピーダンスが制御できていないため、その状態において電力増幅器202を高出力動作させると、電力増幅器202が破壊される可能性がある。そこで、システム起動時は、電力増幅器202は低出力動作させ、反射波のインピーダンスを検出し、反射波インピーダンスの破壊領域外への制御が完了した後に、電力増幅器202を通常の高出力動作させるように制御するのが好ましい。
【0074】
図7は、大電力高周波出力装置200の初期動作のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0075】
ステップS1において、電力増幅器202は低出力で動作を開始する。次のステップS2において、制御部206は反射波のインピーダンスを検出する。そしてステップS3において、反射波のインピーダンスが破壊領域内か否かを判定する。破壊領域内であればステップS4に進み、図6とともに説明した方法によってインピーダンスの移相量を制御する。一方、破壊領域内でなければステップS5に進む。
【0076】
ステップS5においては位相が制御されているため、電力増幅器202は高出力で動作する。その後も通常の高出力動作を行うが、常時または間欠的に反射波のインピーダンスを監視し(ステップS6)、必要に応じてステップS2以降の処理を行う。
【0077】
このようにシステム起動時の初期制御をすることにより、システム起動時の反射波インピーダンスが破壊領域内であった場合に、いきなり増幅器が破壊してしまうのを防ぐことができる。
【0078】
次に、図8〜10を参照しながら、本実施形態による可変インピーダンス整合部203の構成例を説明する。
【0079】
図8に示すように、高周波電力増幅器651の出力(ドレイン)は、第1の直流カット用コンデンサ602、マイクロストリップ線路603、第2の直流カット用コンデンサ604、出力端子606の順に直列に接続されている。また、高周波電力増幅器651の出力とGND間に、シャント用コンデンサ601が接続されている。また、マイクロストリップ線路603と第2の直流カット用コンデンサ604の間に抵抗器605の一端が接続され、抵抗器605の他端は、制御電圧入力端子607に接続されている。また、高周波電力増幅器651の出力にインダクタ652の一端が接続され、インダクタ652の他端は直流電源供給端子654の一端に接続されている。更に、インダクタ652と直流電源供給端子654の間とGND間にバイパスコンデンサ653の一端が接続されている。
【0080】
このとき、マイクロストリップ線路603は、誘電体に強誘電体を使用した、強誘電体基板上に形成されている。また、第1の直流カット用コンデンサ602および第2の直流カット用コンデンサ604は、インピーダンス整合に影響しないように、回路が動作する周波数において、インピーダンスが十分に小さくなるように、それぞれのコンデンサの容量値が選定されている。また、インダクタ652は、インピーダンス整合に影響しないように、回路が動作する周波数において、インピーダンスが十分に大きくなるようにインダクタのインダクタンス値が選定されている。
【0081】
また、抵抗器605は、通常は、数百Ω〜数kΩの抵抗値を有する固定抵抗器を用いるが、回路が動作する周波数において、インピーダンスが十分に大きくなるインダクタンス値を有するインダクタを用いてもよい。
【0082】
図8の構成において、制御電圧入力端子607に直流電圧を印加すると、直流的には回路はOPENであるので、抵抗器605を介してもマイクロストリップ線路603には、制御電圧入力端子607に印加した直流電圧と同じ電圧が印加されることになり、マイクロストリップ線路603を形成する強誘電体基板に同電圧が印加された状態となる。強誘電体は、印加する電圧を変化させることにより、その誘電率が変化する材料である。従って、強誘電体基板上に形成したマイクロストリップ線路に直流電圧を印加し、その電圧を変化させることにより、伝送線路とGND間の誘電率が変化し、その結果、マイクロストリップ線路の電気長が変化する。従って、制御電圧入力端子607に印加する直流電圧を変化させることにより、マイクロストリップ線路603の電気長を変化させ、結果として、移相量を変化させることができる。
【0083】
図8の構成の場合、制御電圧入力端子607に直流電圧を供給する、インピーダンス制御信号出力部219は、演算処理部217より入力されたインピーダンス制御信号を直流電圧に変換して、制御電圧入力端子607に供給するので、デジタル−アナログ変換器で構成するか、もしくは、インピーダンス制御信号出力部219と制御電圧入力端子607の間に積分器(図示せず)を配置して、パルス幅変調(PWM)信号出力で構成するのが好ましいが、それに限るものではない。
【0084】
続いて、図9に示すように、高周波電力増幅器751の出力(ドレイン)に、シャント用コンデンサ701、第1の直流カット用コンデンサ702、インダクタ752のそれぞれの一端が接続されており、シャント用コンデンサ701の他端はGNDに、第1の直流カット用コンデンサ702の他端は第1の高周波スイッチ706のCommon端子に、インダクタ752の他端はバイパスコンデンサ753、及び直流電源供給端子754にそれぞれ接続され、バイパスコンデンサ753の他端はGNDに接続されている。
【0085】
第1の高周波スイッチ706の、(a)側端子は第1のマイクロストリップ線路703の一端に、(b)側端子は第2のマイクロストリップ線路704の一端に、それぞれ接続され、第1のマイクロストリップ線路703の他端は第2の高周波スイッチ707の(a)側端子に、第2のマイクロストリップ線路704の他端は第2の高周波スイッチ707の(b)側端子にそれぞれ接続されている。第2の高周波スイッチ707のCommon端子は第2の直流カット用コンデンサ705の一端に接続され、第2の直流カット用コンデンサ705の他端は出力端子708に接続されている。
【0086】
更に、第1の高周波スイッチ706の制御端子と第2の高周波スイッチ707の制御端子が接続されており、制御信号入力端子709に接続されている。制御信号入力端子709に入力された制御信号により、第1の高周波スイッチ706と第2の高周波スイッチ707は同時に動作し、第1の高周波スイッチ706と第2の高周波スイッチ707が共に(a)端子側に接続された状態(以下、この状態を第1の状態と称す)と、第1の高周波スイッチ706と第2の高周波スイッチ707が共に(b)端子側に接続された状態(以下、この状態を第2の状態と称す)の2通りの状態が選択的に制御される。
【0087】
また、第1の直流カット用コンデンサ702および第2の直流カット用コンデンサ705は、インピーダンス整合に影響しないように、回路が動作する周波数において、インピーダンスが十分に小さくなるように、それぞれのコンデンサの容量値が選定されている。また、インダクタ752は、インピーダンス整合に影響しないように、回路が動作する周波数において、インピーダンスが十分に大きくなるようにインダクタのインダクタンス値が選定されている。
【0088】
ここで、第1のマイクロストリップ線路703及び第2のマイクロストリップ線路704は、それぞれ電気長が異なるよう設計されており、第1の高周波スイッチ706と第2の高周波スイッチ707を、制御信号入力端子709に入力する制御信号を切換えて、上記第1の状態及び第2の状態に経路を切換えることにより、マイクロストリップ線路部分の電気長を、予め設定された2種類の電気長に、選択的に切換えることができ、結果として、2種類の移相量を選択的に切換えることができる。
【0089】
図9の構成の場合、電気長の異なる2種類のマイクロストリップ線路を切換えて、2種類の移相量を切換える構成としたが、それに限るものではなく、3種類、またはそれ以上の種類のマイクロストリップ線路を切換える構成としてもよい。
【0090】
また、図9の構成の場合、制御信号入力端子709に制御信号を供給する、インピーダンス制御信号出力部219は、演算処理部217より入力されたインピーダンス制御信号を、1ビット以上の2値信号に変換して、制御信号入力端子709に出力する構成とするのが好ましい。
【0091】
図10に示すように、高周波電力増幅器851の出力(ドレイン)に、シャント用コンデンサ801、マイクロストリップ線路802、インダクタ852のそれぞれの一端が接続されており、シャント用コンデンサ801の他端はGNDに、インダクタ852の他端はバイパスコンデンサ853の一端、及び直流電源供給端子854にそれぞれ接続され、バイパスコンデンサ853の他端はGNDに接続されている。マイクロストリップ線路802の他端は、第1の直流カット用コンデンサ803の一端に接続され、第1の直流カット用コンデンサ803の他端は、インダクタ807、及びバラクタダイオード804のアノード端子に接続され、インダクタ807の他端は、GNDに接続されている。
【0092】
バラクタダイオード804のカソード端子は、インダクタ806、及び第2の直流カット用コンデンサ805のそれぞれの一端に接続され、インダクタ806の他端は、制御電圧入力端子809に接続され、第2の直流カット用コンデンサ805の他端は出力端子808に接続されている。
【0093】
また、第1の直流カット用コンデンサ803および第2の直流カット用コンデンサ805は、インピーダンス整合に影響しないように、回路が動作する周波数において、インピーダンスが十分に小さくなるように、それぞれのコンデンサの容量値が選定されている。また、インダクタ852、804、806はいずれも、インピーダンス整合に影響しないように、回路が動作する周波数において、インピーダンスが十分に大きくなるようにそれぞれのインダクタのインダクタンス値が選定されている。
【0094】
図10では、インダクタ852は、高周波電力増幅器851の出力とマイクロストリップ線路802の間に接続されているが、マイクロストリップ線路802と第1の直流カット用コンデンサ803の間に接続しても構わない。
【0095】
図10の構成において、制御電圧入力端子809に直流電圧を印加すると、直流的には、インダクタ806、バラクタダイオード804、インダクタ807の直列回路となるので、バラクタダイオード804のカソード端子とアノード端子間に、逆バイアス電圧が掛かることになる。バラクタダイオードは、カソード端子とアノード端子間の逆バイアス電圧を変化させることにより、その両端子間の静電容量が変化する特性を有する。従って、バラクタダイオードのカソード端子とアノード端子間の逆バイアス電圧を変化させることにより、その両端子間の静電容量が変化し、その結果、伝送路の直列コンデンサの静電容量が変化する。従って、制御電圧入力端子809に印加する直流電圧を変化させることにより、伝送路の直列コンデンサの静電容量を変化させ、結果として、伝送路の移相量を変化させることができる。
【0096】
図10の構成の場合、制御電圧入力端子809に直流電圧を供給する、インピーダンス制御信号出力部219は、演算処理部217より入力されたインピーダンス制御信号を直流電圧に変換して、制御電圧入力端子809に供給するので、デジタル−アナログ変換器で構成するか、もしくは、インピーダンス制御信号出力部219と制御電圧入力端子809の間に積分器(図示せず)を配置して、パルス幅変調(PWM)信号出力で構成するのが好ましいが、それに限るものではない。
【0097】
上記したように、本実施形態によれば、機器の使用状態やアンテナ周囲の環境変化などにより、アンテナのインピーダンス整合が崩れることにより、アンテナで反射が起こった場合でも、アンテナから電力増幅器へ逆流する反射波電力を取出し、直交検波し、同相検波出力信号および直交検波出力信号を基に、電力増幅器出力からみた可変インピーダンス整合部の入力における反射波のインピーダンスを電力増幅器が破壊されないインピーダンス領域に制御することで、高周波電力増幅器の高周波出力電力を低下させずに、アンテナからの反射波電力による高周波電力増幅器の破壊を防止することができる、大電力高周波出力装置を実現することができる。
【0098】
図11は、電子レンジ901の外観図である。電子レンジ901は大電力高周波出力装置200を備えており、大電力高周波出力装置200のアンテナ207から出力される大電力高周波により、食品を加熱することができる。
【0099】
また図12は、携帯電話等の基地局の電波塔902の外観図である。電波塔902は大電力高周波出力装置200を備えており、大電力高周波出力装置200のアンテナ207から出力される大電力高周波により、通信を行うことができる。
【0100】
図11に示す電子レンジ901および図12に示す電波塔902のいずれについても、アイソレータ等の高価な部品は不要である。また、高周波電力増幅器の高周波出力電力を低下させずに、アンテナのインピーダンス不整合に起因するアンテナからの反射波電力による高周波電力増幅器の破壊を防止することができる。
【0101】
これまでは、方向性結合器を用いて反射波信号の一部を取り出すとして説明した。しかしながら方向性結合器は例であり、他の構成を利用することもできる。以下、図13および14を参照しながら説明する。
【0102】
図13は、方向性結合器に代えて、サーキュレーター253を用いた大電力高周波出力装置200の一部の構成を示す。
【0103】
サーキュレーター253は、同じ周波数で動作する送信回路及び受信回路を1つのアンテナに接続する場合などに用いられる磁石を用いた高周波受動素子である。あるポートに入力された信号は、特定の次のポートからのみ出力される。図13によれば、端子P1→端子P2,端子P2→端子P3,端子P3→端子P1の方向にのみ信号が通過する。
【0104】
よって、サーキュレーター253は、可変インピーダンス整合部203からの高周波電力信号を端子P1で受けて端子P2からアンテナ207へ向けて通過させることができる。また、アンテナ207からの反射波信号を端子P2で受けて端子P3から直交検波器209の方へ向けて分波することができる。
【0105】
なお、方向性結合器に比べると、サーキュレーター253では反射波の分波レベルは大きくなるため、直交検波器206前の増幅器(図2の反射波バッファアンプ210)の利得を小さくできるか、もしくは省くことができる。
【0106】
図14は、方向性結合器に代えて、ハイブリッド・カプラ263を用いた大電力高周波出力装置の一部の構成を示す。
【0107】
ハイブリッド・カプラ263は、マイクロストリップ線路による位相操作により、方向性結合器と同様の出力を得る回路要素である。ハイブリッド・カプラ263のあるポートに入力された信号は、特定の次のポートからのみ出力される。具体的には、端子P1から端子P2への信号は端子P3には出力されない。一方、端子P2に入力された信号は、端子P3に出力される。
【0108】
よって、ハイブリッド・カプラ263は、可変インピーダンス整合部203からの高周波電力信号を端子P1で受けて端子P2からアンテナ207へ向けて通過させることができる。また、アンテナ207からの反射波信号を端子P2で受けて端子P3から直交検波器209の方へ向けて分波することができる。
【0109】
方向性結合器214に比較すると、ハイブリッド・カプラ263は、結合度を大きくでき、反射波の分波レベルも大きく取れる。ただし、通過損失はより大きくなるので、ロスと結合度とを最適化することが必要となる。
【0110】
上述した実施形態において、図6を参照しながら、位相を回す方向(移相制御方法)を説明した。図6の方法では、回す角度が小さくなる方向に移送制御を行った。
【0111】
しかしながら、一度移送制御を行った後、再び反射状態が変わって、再度移送制御を行う場合には、できるだけ初期のインピーダンス、すなわち、可変素子の素子値が、制御可能範囲の中央付近になるインピーダンスに近づけるように制御することが好ましい。そこで、以下のような移送制御を行えばよい。なお、上述のように「可変素子」とは、マイクロストリップ線路403や直流カット用コンデンサ404(図3)などに相当する。
【0112】
以下、図15および16を参照しながら、異なる位相制御方法を説明する。
【0113】
図15は、図6と異なる方法による、位相を回す方向を説明するための図である。また図16は、制御素子に関する制御電圧と素子値との関係を示す図である。図15および図16に記載の点A〜Fはそれぞれ対応している。
【0114】
図16に示すように、可変素子の素子値の可変範囲は有限である。ただし、位相可変素子として用いる素子の種類により、可変範囲の幅や素子の感度は異なる。可変範囲の中央付近と、上限または下限付近とを比較すると、制御電圧の変化量に対しては素子値の変化量(感度)は異なる。上限または下限では、可変範囲の中央付近よりも感度が衰えている。そこで、可能な限り、可変範囲の中央領域に相当する素子値を採用することが望ましい。
【0115】
ここで図15を参照する。制御素子の初期のインピーダンスをA点とする。図15に示すとおり、A点は破壊領域外なので制御は行わない。また、図16に示すように、A点は制御素子の制御範囲のほぼ中央の領域である。
【0116】
次に、負荷の状態が変わり、インピーダンスがB点に変化したと仮定する。図16によれば、制御素子の状態(素子値)はA点とB点で同じである。インピーダンスを破壊領域外に変更するために、インピーダンスがC点に移動するように位相を制御する。制御素子はC点で動作する。ここまでは上述の図6に示す制御方法と同様である。
【0117】
次に、再び負荷の状態が変わり、D点にインピーダンスが変化したと仮定する。制御素子の状態はC点のままである。ここで、先の説明によれば、インピーダンスがE点に移動するよう制御が行われる。
【0118】
しかしながら、本変形例においては、インピーダンスがF点に移動するよう制御が行われる。E点へ動かす場合には、F点に動かすよりは位相の回転量は小さくてすむ。しかしながら制御素子が可変上限に近づいてしまうため、可変幅の中央値へ近づくよう、インピーダンスをF点に移動させる。これにより、次の変化に対応し易くなる。
【0119】
本実施形態においては、インピーダンスを調整する際、演算部217(図2)が、反射波のインピーダンスを検出し、検出したインピーダンスを用いてデータ記憶装置218に保持されているロードプルデータを参照し、インピーダンスの調整の要否を決定し、必要な場合にはさらにそのロードプルデータに基づいてインピーダンスを調整するとした。
【0120】
このような処理は、一般にマイコンを用いることが必要となるため、回路規模や処理時間で問題が出てくる可能性がある。
【0121】
そこで他の例として、位相を回す方向と量を示すデータに対応する制御信号に関する情報をデータ記憶装置218に記憶しておき、必要に応じて出力してもよい。予め実験等で取得したロードプル情報を基に、反射波のインピーダンス値に対して、位相を回す方向と量を求めておき、それに対応するインピーダンス制御信号出力部219への信号情報を記憶装置に格納しておく。
【0122】
ただし、この場合は、インピーダンス値の分解能を高くする、即ちより正確に制御するに従い、メモリ容量も増大するため、実用上どのまでの分解能が必要かを個別に決定する必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の大電力高周波出力装置によれば、通信用基地局用増幅器や、電子レンジなどの高周波を使用した調理機器への展開が容易となり、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明の大電力高周波出力装置100の基本構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態による大電力高周波出力装置200のブロック構成図である。
【図3】一般的な高周波電力増幅器の出力整合回路の回路構成を示す図である。
【図4】マイクロストリップ線路403の電気長が変化した場合のインピーダンスの変化を模式的に示した図である。
【図5】電力増幅器202のドレイン電流(Id)ロードプルデータの一例を示す図である。
【図6】位相を回す方向を説明するための図である。
【図7】大電力高周波出力装置200の初期動作のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図8】可変インピーダンス整合部の第1の構成例を示す図である。
【図9】可変インピーダンス整合部の第2の構成例を示す図である。
【図10】可変インピーダンス整合部の第3の構成例を示す図である。
【図11】電子レンジ901の外観図である。
【図12】携帯電話等の基地局の電波塔902の外観図である。
【図13】方向性結合器に代えて、サーキュレーター253を用いた大電力高周波出力装置200の一部の構成を示す図である。
【図14】方向性結合器に代えて、ハイブリッド・カプラ263を用いた大電力高周波出力装置の一部の構成を示す図である。
【図15】図6と異なる方法による、位相を回す方向を説明するための図である。
【図16】制御素子に関する制御電圧と素子値との関係を示す図である。
【図17】従来例の高周波電力出力装置300の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0125】
100 本発明の大電力高周波出力装置
101 高周波電力発振部
102 高周波電力増幅器
103 可変インピーダンス整合部
104 方向性結合器
105 直交検波部
106 制御部
107 アンテナ
200 本発明実施例の大電力高周波出力装置
201 高周波電力発振部
202 最終段高周波電力増幅器
203 可変インピーダンス整合部
204 方向性結合器
205 直交検波部
206 制御部
207 アンテナ
208 高周波電力バッファアンプ
209 反射波低域通過フィルタ
210 反射波バッファアンプ
211 発振信号低域通過フィルタ
212 π/2移相器
213 同相(I)側ミキサー
214 直交(Q)側ミキサー
215 同相(I)側アナログ−デジタル変換器
216 直交(Q)側アナログ−デジタル変換器
217 演算処理部
218 データ記憶装置
219 デジタル−アナログ変換器
220 電力分配器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電力を受け取り、増幅して出力する高周波電力増幅部と、
前記高周波電力増幅部の出力側に設けられ、入力された制御信号に基づいて入力インピーダンスを変化させて前記高周波電力を出力する可変インピーダンス整合部と、
前記可変インピーダンス整合部から出力された前記高周波電力を出力するアンテナと、
前記アンテナからの反射波電力を、前記高周波電力増幅部に入力された前記高周波電力で直交検波して、同相検波出力信号および直交検波出力信号を出力する直交検波部と、
前記同相検波出力信号および前記直交検波出力信号に応じて前記制御信号を生成し、前記可変インピーダンス整合部に送出する制御部と
を備えた大電力高周波出力装置であって、
前記制御部は、前記同相検波出力信号および直交検波出力信号から得られた反射波電力の位相情報に基づいて、前記反射波電力のインピーダンスが、前記高周波電力増幅部が破壊されない範囲内に入るよう、前記可変インピーダンス整合部の伝送路の移相量を変化させる制御信号を生成する、大電力高周波出力装置。
【請求項2】
前記高周波電力増幅部の出力からみた前記可変インピーダンス整合部の入力における、前記反射波電力のインピーダンスは、第1インピーダンス領域の値または第2インピーダンス領域の値の一方に分類可能であり、
前記第1インピーダンス領域は、前記高周波電力増幅部を流れる電流が過電流状態となることによって前記高周波電力増幅部が破壊されるインピーダンスを含み、
前記第2インピーダンス領域は、前記高周波電力増幅部を流れる電流の電流値が耐破壊限界を超えないことにより、前記高周波電力増幅部が破壊されないインピーダンスを含み、
前記制御部は、前記反射波電力のインピーダンスが前記第2インピーダンス領域内に入るような前記制御信号を生成して、前記可変インピーダンス整合部の伝送路の移相量を変化させる、請求項1に記載の大電力高周波出力装置。
【請求項3】
前記制御部は、アナログ形式の前記同相検波出力信号および前記直交検波出力信号をそれぞれデジタル形式に変換する変換器、および、前記第2インピーダンス領域を特定するための制御テーブルを保持した記憶部を有しており、
前記デジタル形式の前記同相検波出力信号、前記直交検波出力信号および、前記制御テーブルに基づいて、前記制御信号を生成する、請求項2に記載の大電力高周波出力装置。
【請求項4】
前記記憶部は、半導体メモリである、請求項3に記載の大電力高周波出力装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記制御信号を、1ビット以上のデジタル信号に変換して送出する、請求項3に記載の大電力高周波出力装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記制御信号を、アナログ信号に変換して送出する、請求項3に記載の大電力高周波出力装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記制御信号を、パルス幅変調(PWM)信号に変換して送出する、請求項3に記載の大電力高周波出力装置。
【請求項8】
前記高周波信号を発振して、前記高周波電力増幅部および前記直交検波部に入力する高周波電力発振部をさらに備えた、請求項1に記載の大電力高周波出力装置。
【請求項9】
前記可変インピーダンス整合部の出力と前記アンテナとの間に設けられ、前記可変インピーダンス整合部の出力電力を前記アンテナへ送出し、かつ、前記アンテナからの前記反射波電力を取り出す方向性結合器をさらに備えた、請求項8に記載の大電力高周波出力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−301747(P2009−301747A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151942(P2008−151942)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】