説明

天井吊下型減震装置

【課題】地震が起きた場合であっても吊ボルトの折損が生じるのを防止できる天井吊下型減震装置を提供する。
【解決手段】減震装置本体12および弾性体14とで構成された天井吊下型減震装置10であって、弾性体14は、弾性体取付用孔12cよりも大径で上側片12aの上面側に配置される上側弾性体14a、弾性体取付用孔12cよりも大径で上側片12aの下面側に配置される下側弾性体14bおよび上側弾性体14aと下側弾性体14bとを連結し弾性体取付用孔12c内に配置される連結部材14cにより構成されており、弾性体14には上側弾性体14aの上端部から下側弾性体14bの下端部に至るボルト挿通用孔14dが形成されており、上側片12aと接する下側弾性体14bの上面が上側片12aに向けた凸曲面状に形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の天井や床下から吊り下げられた吊ボルトと、吊ボルトに吊持支持されているダクト、配管或いは空調機といった機械器具類との間に介装して用いられ、地震によって受ける破壊的な運動エネルギーを、限られた揺れ移動空間あるいは振動自由度内での運動を通じて消費させることにより、地震時における保護対象機器の安全性を確保する減震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の天井や床下(以下、「天井等」という。)に配管やダクト或いは空調機といった機械器具類(以下、「保護対象機器」という。)を敷設する方法として、天井等から吊り下げられた吊ボルトの下端部に吊持支持具を取り付け、この吊持支持具によって保護対象機器を吊持支持することが従来から一般に行われていた。
【0003】
保護対象機器からは各種振動が発生するが(例えば配管やダクトの場合は、その内部を流体が流れることによって振動が発生するし、空調機の場合はモーター等による振動が発生する)、これら振動が吊ボルトを介して天井等に伝達されるのを防止するため、吊ボルトと吊持支持具との間に防振具を介装することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−36289号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
天井等から垂設された吊ボルトの下端に吊持支持具を介して吊持支持されている保護対象機器は、地震による破壊的な運動エネルギーを受ると、吊ボルトにおける天井等との接続部分(図1のXで示した部分)を中心として振り子のように前後左右に大きく揺れることとなる。
【0006】
このとき、吊ボルトにおける天井との接続部分Xには過大な応力が集中的且つ繰り返して加わり、その結果、当該部分が疲労して吊ボルトが折損し、保護対象機器の落下事故が生じるという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、地震が起きた場合であっても吊ボルトの天井等との接続部分に集中的な応力が加わるのを軽減させ、吊ボルトの折損防止を目的とした天井吊下型減震装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載した発明は「弾性体取付用孔12cが設けられている上側片12aと、上側片12aの下方に所定間隔を隔てて配置され、吊持支持具Mを介して保護対象機器Pが取り付けられる下側片12bとを備える減震装置本体12および、上側片12aの弾性体取付用孔12cに取り付けられた弾性体14により構成された天井吊下型減震装置10であって、弾性体14は、弾性体取付用孔12cよりも大径で上側片12aの上面側に配置される上側弾性体14a、弾性体取付用孔12cよりも大径で上側片12aの下面側に配置される下側弾性体14bおよび上側弾性体14aと下側弾性体14bとを連結し弾性体取付用孔12c内に配置される連結部材14cにより構成されており、弾性体14には上側弾性体14aの上端部から下側弾性体14bの下端部に至るボルト挿通用孔14dが形成されており、上側片12aと接する下側弾性体14bの上面が上側片12aに向けた凸曲面状に形成されている」ことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載した発明は、「上側片12aと下側弾性体14bとの間には、弾性体14よりも摩擦係数の小さな材質からなり、上向き碗状に形成された皿座20がさらに介装されている」ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1〜2に記載の発明によれば、保護対象機器Pが地震による破壊的な運動エネルギーを受けて前後左右に振れると、減震装置本体12が弾性体14の連結部分14cを中心として保護対象機器Pの動きに合わせて振り子状に自由に回転することができる。保護対象機器Pが前後左右に振れる際に発生する運動エネルギーは、弾性体14によって効果的に吸収され、吊ボルトBに伝達される振動が大幅に軽減される。したがって、吊ボルトBにおける天井Sとの接続部分Xに応力が集中的に加わることが軽減され、吊ボルトBの折損が生じるのを防止できる。
【0011】
そして、請求項2に記載の発明のように、上側片12aと下側弾性体14bとの間に弾性体14よりも摩擦係数の小さな(換言すれば、滑りやすい)材質からなる皿座20を設けるようにすれば、減震装置本体12の回転運動がよりスムーズに行われることとなるので、弾性体14に不所望な振動が伝達されるのを軽減でき、その結果、吊ボルトBの折損や破断といった問題が生じるのをより効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の一実施例の天井吊下型減震装置の使用状態を示す図である。
【図2】弾性体の平面図である。
【図3】弾性体の正面図である。
【図4】無負荷状態における天井吊下型減震装置を示す部分断面図である。
【図5】振動発生時における天井吊下型減震装置を示す部分断面図である。
【図6】無負荷状態における第二実施例の天井吊下型減震装置を示す部分断面図である。
【図7】振動発生時における第二実施例の天井吊下型減震装置を示す部分断面図である。
【図8】図6実施例における変形例を示す図である。
【図9】図6実施例におけるさらに別の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図面に従って説明する。図1は、本発明にかかる第1実施例の天井吊下型減震装置10(以下、単に「減震装置10」という。)の使用状態を示す図である。
【0014】
この図が示すように、本発明の減震装置10は、天井等Sから吊り下げられた吊ボルトBと、保護対象機器(本実施例では、その一例として配管を取り上げる)Pを吊持支持する吊持支持具Mとの間に介装して使用されるものであり、減震装置本体12と弾性体14とで大略構成されている。
【0015】
減震装置本体12は、矩形枠状の部材で、本実施例では、金属等の剛性材料からなる板材を矩形枠状に曲折形成し、その端部同士を上面側で重ね合わせて互いに溶接することによって形成されている。
【0016】
減震装置本体12の上側片12aには、後述する弾性体14を取り付けるための弾性体取付用孔12cが形成されており、この弾性体取付用孔12cに弾性体14が取り付けられている。
【0017】
また、上側片12aの下方にて所定間隔を経て配置されている下側片12bには、吊持支持具Mの上面に立設されているボルトMbを挿通するためのボルト挿通用孔12dが形成されている。
【0018】
なお、上側片12aに形成されている弾性体取付用孔12cは、後述する弾性体14の連結部材14cの外径よりも若干大きく設定されており、下側片12bに形成されているボルト挿通用孔12dは、ボルトMbの外径よりも僅かに大きく設定されている。
【0019】
弾性体14は、ゴム等の弾性材料からなる略瓢箪形状の部材であり(図2〜図3参照)、上端部が切り欠かれた略球形の上側弾性体14aと、上側弾性体14aよりも大径で下端部が切り欠かれた略球形の下側弾性体14bと、上側弾性体14aと下側弾性体14bとを連結する略円柱状の連結部材14cとで構成されている。上側弾性体14aの上側片12aと接する側の面である下面ならびに、下側弾性体14bの上側片12aと接する側の面である上面は、上側片12a側に向かう凸球面状となるように構成されている。
【0020】
弾性体14には、上側弾性体14aの上面から下側弾性体14bの下面に至るボルト挿通用孔14dが形成されており、その内側面中段部分から上側の部分には、例えば、炭素鋼や硬質樹脂といった非弾性体からなる筒状のパイプ14eがインサートされている。なお、ボルト挿通用孔14dの内径は、天井吊ボルトBの外径よりもやや大きめに設定されており、ボルト挿通用孔14dの内側面とパイプ14eの内側面とは面一となるように形成されている。
【0021】
減震装置本体12に対する弾性体14の取り付けは、以下のようにして行う。すなわち、弾性体14を減震装置本体12の上側片12aの下側に配置し、小径側の上側弾性体14aをその側方から挟んで撓ませて上側片12aの弾性体取付用孔12cに押し込み、連結部材14cを弾性体取付用孔12cに嵌め込む(換言すれば、上側弾性体14aと下側弾性体14bとの間に上側片12aを挟み込む)。これにより、減震装置10の組み立てが完了する。なお、上側弾性体14aおよび下側弾性体14bの外径は、上側片12の弾性体取付用孔12cの内径よりも大きく設定されているので、使用時において弾性体14が上側片12aから抜け落ちることはない。
【0022】
減震装置10を使用する際には、天井Sから吊り下げられている吊ボルトBの下端部を弾性体14のボルト挿通用孔14dに挿通するとともにその挿通端部にナットNを螺合して減震装置10の上下方向の位置を固定する。
【0023】
次に、吊持支持具Mの上端部に立設されているボルトMbを減震装置本体12の下側片12bのボルト挿通用孔12dに挿通し、吊持支持具Mに吊持支持されている保護対象機器Pの高さ調整を行った後、ボルトMbの挿通端部にナットNを螺合して位置を固定する。
【0024】
以上により、減震装置10を利用した保護対象機器Pの吊持支持が完了する。なお、図4は、無負荷状態の弾性体14の状態を示す部分断面図であり、図5は、保護対象機器Pの自重により弾性体14(より詳しくは下側弾性体14b)に負荷がかかった状態を示す部分断面図である。
【0025】
地震が起きて保護対象機器Pに破壊的な運動エネルギーが加わり、保護対象機器Pが水平方向に揺れると、図5の二点鎖線で示したように、減震装置本体12が弾性体14の連結部材14cとの連結部分を中心にして振り子のように前後左右に揺れる。このとき、減震装置本体12は上述した連結部材14との連結部分を中心として円滑な回転運動をすることになるので、保護対象機器Pが前後左右に揺れることにより発生する運動エネルギーは、吊持支持具Mならびに減震装置本体12を介して弾性体14に伝達され、弾性体14において振動エネルギーが効果的に吸収されて熱エネルギーに変換される。
【0026】
したがって、吊ボルトBに伝達される振動は大幅に低減され、吊ボルトBの天井Sとの接続部分Xに加わる応力は小さくなり、その結果、吊ボルトBの折損が生じるのを防止できる。
【0027】
なお、図5を参照して分かるように、下側弾性体14bに負荷がかかった状態では、下側弾性体14bが保護対象機器Pの自重に応じて上下方向に撓むのであるが、この撓み量は保護対象機器Pの自重に応じて変化する。すなわち、保護対象機器Pの自重が大きくなればなるほど、上側弾性体14bと上側片12aとの接触面積が大きくなり、保護対象機器Pの自重に応じた振動吸収効果が期待できる。
【0028】
本実施例において、弾性体14はゴムなどの弾性材料から構成されていることから、減震装置本体12が前後左右に振り子状に揺れると、揺れる際に弾性体14と減震装置本体12との間に働く摩擦力が弾性体14に不所望に加わることとなり、弾性体14における振動吸収効果が減殺される結果となりかねない。
【0029】
かかる問題を解消するためには、減震装置本体12と弾性体14との間で不所望な摩擦力が発生するのを防止すればよく、かかる目的を具現化するための一例として、図6〜図7に示すように、減震装置本体12と上側弾性体14aとの間に減震装置本体12との間の摩擦力(静摩擦係数ならびに動摩擦係数)が小さな材質(例えば金属)からなる上向き椀状(凸球面状)に形成された皿座20を設けるようにすることができる。
【0030】
このような皿座20を設けることで、減震装置本体12が振り子状に揺れる際、減震装置本体12と弾性体14との間で不所望な摩擦力が生じるのを防止でき、吊ボルトBに不所望な振動が伝達されるのを抑えることができる。
【0031】
なお、弾性体14の形状、特に下側弾性体14bの形状は、減震装置本体12(或いは皿座20)と接する上面部分が中心から外方に向かうにしたがって、離れていくように設定されていればよく、その胴体部分の形状は上述実施例に限定されるものではない。
【0032】
例えば、図8実施例に示すように、胴体部分を切除してもよいし、図9に示すように、胴体部分を蛇腹状に形成してもよい。図9のように胴体部分を蛇腹状に形成した場合には、下側弾性体14bが上下に撓みやすくなるので、減震装置本体12の振動エネルギーをより効果的に吸収することができる。
【符号の説明】
【0033】
10…天井吊下型減震装置
12…減震装置本体
12a…上側片
12b…下側片
12c…弾性体取付用孔
12d…ボルト挿通用孔
14…弾性体
14a…上側弾性体
14b…下側弾性体
14c…連結部材
14d…ボルト挿通用孔
14e…パイプ
20…皿座
B…吊ボルト
M…吊持支持具
Mb…ボルト
P…保護対象機器
S…天井
X…境界部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体取付用孔が設けられている上側片と、前記上側片の下方に所定間隔を隔てて配置され、吊持支持具を介して保護対象機器が取り付けられる下側片とを備える減震装置本体および、前記上側片の弾性体取付用孔に取り付けられた弾性体により構成された天井吊下型減震装置であって、
前記弾性体は、前記弾性体取付用孔よりも大径で前記上側片の上面側に配置される上側弾性体、前記弾性体取付用孔よりも大径で前記上側片の下面側に配置される下側弾性体および前記上側弾性体と前記下側弾性体とを連結し前記弾性体取付用孔内に配置される連結部材により構成されており、
前記弾性体には、前記上側弾性体の上端部から前記下側弾性体の下端部に至るボルト挿通用孔が形成されており、前記上側片12aと接する前記下側弾性体の上面が前記上側片に向けた凸曲面状に形成されていることを特徴とする天井吊下型減震装置。
【請求項2】
前記上側片と前記下側弾性体との間には、前記弾性体よりも摩擦係数の小さな材質からなり、上向き碗状に形成された皿座がさらに介装されていることを特徴とする請求項1に記載の天井吊下型減震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−108524(P2013−108524A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251865(P2011−251865)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000224994)特許機器株式会社 (59)
【Fターム(参考)】