説明

太陽電池の電極形成用組成物及び該電極の形成方法並びに該形成方法により得られた電極を用いた太陽電池

【課題】本発明の太陽電池の電極形成用組成物を用いて形成された電極は、長年使用しても高導電率及び高反射率を維持することができ、経年安定性に優れ、かつ密着性に優れた電極が得られる。
【解決手段】太陽電池の電極形成用組成物は金属ナノ粒子を分散媒に分散して構成される。上記金属ナノ粒子は75重量%以上の銀ナノ粒子を含有する。また金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾される。更に金属ナノ粒子は一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有する。組成物中に金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を更に含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の電極を形成するための組成物と、この組成物を用いて電極を形成する方法並びにこの形成方法により得られた電極を用いた太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電極の形成方法として、Ag粉末と、V、Mo、Wのうち少なくとも1種類の金属もしくはその化合物と、ガラスフリットと、有機ビヒクルとからなることを特徴とする太陽電池用導電性組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。上記特許文献1に示される太陽電池用導電性組成物では、この組成物を印刷した基板を550℃で5分間焼成してAg電極を形成している。特許文献1に示される太陽電池用導電性組成物を用いることで、Ag電極の焼結性を著しく促進させることができる。特に700℃以下の低温焼成における電極の導電性や膜強度を向上させることができ、低温焼成化による低コスト化や、基板素子の処理温度に上限制約がある場合の電極形成に寄与することが可能である。
【0003】
また、金属粉末と、酸化物粉末と、ビヒクルとを配合してなる導電ペーストであって、金属粉末が、Ag、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属粉末であり、酸化物粉末が、Bi、Fe及びAgからなる群より選ばれた少なくとも1種と、周期表第V属元素、第VI属元素より選ばれた少なくとも1種から構成される結晶性の複合酸化物粉末であることを特徴とする導電ペーストが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。上記特許文献2では、導電ペーストを印刷したウエハを最高温度750℃で焼成して電極を形成している。この特許文献2に示される導電ペーストでは、接触抵抗が低く、接着強度が大きい電極を確実に形成することができる。
【0004】
更に、一導電型を呈する半導体基板の一主面側に他の導電型を呈する領域を形成するとともに、この半導体基板の一主面側に反射防止膜を形成し、この反射防止膜上と半導体基板の他の主面側に銀粉末、有機ビヒクル及びガラスフリットからなる電極材料を焼き付ける太陽電池素子の形成方法において、反射防止膜上に焼き付ける電極材料が、Ti、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr成分のうちのいずれか一種又は複数種を含有することを特徴とする太陽電池素子の形成方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。上記特許文献3では、700℃でペーストを焼き付けて太陽電池素子を形成している。特許文献3に示される方法によれば、電極材料を反射防止膜上から塗布して焼き付けても、オーミックコンタクト性(曲線因子)がよく、引っ張り強度の強い太陽電池素子が得られる。
【特許文献1】特開平10−326522号(請求項2、段落[0022]、段落[0031])
【特許文献2】特開平11−329070号(請求項1〜3、段落[0009]、段落[0031])
【特許文献3】特開2001−313400号(請求項1、段落[0027]、段落[0039])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1〜3に示されるように、基材がシリコン基板やセラミックス基板、ガラス基板の場合では、基材への接着強度を高めるためにガラスフリットを用いるか、或いはその代用物質を用いた高温焼成タイプの厚膜ペーストを使用して、密着強度の高い膜を形成することができる。しかしながら、上記特許文献1〜3に示される電極を形成する組成物は、500℃以上の温度で焼成する必要があり、上記温度では基材を傷めてしまう問題があった。
また、基材として有機ポリマー等の高分子基板を用いた場合では、接着強度を高めるために有機系接着剤を用いる導電性接着剤や、有機バインダを用いる低温ポリマータイプの厚膜ペーストも使用されている。このタイプのペーストは200℃以下の焼成によりバインダが熱収縮を起こし、含有されている導電性微粒子が相互に接触することで電気伝導が得られている。しかし粒子間を絶縁物であるバインダが介在するなどの理由により、導電性微粒子間の接触抵抗成分が大きく、形成された電極は体積抵抗率が高く、低い導電率に留まってしまう問題があった。
【0006】
本発明の目的は、長年使用しても高導電率及び高反射率を維持することができ、経年安定性に優れ、かつ密着性に優れた電極を得ることができる、太陽電池の電極形成用組成物及び該組成物を用いた太陽電池用電極の形成方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、130〜400℃という低温の焼成プロセスにより、長年使用しても高導電率及び高反射率を維持することができ、経年安定性に優れ、かつ密着性に優れた電極を得ることができる、太陽電池の電極の形成方法及び該形成方法により得られた電極を用いた太陽電池を提供することにある。
本発明の更に別の目的は、成膜時に真空プロセスを必要とせず、良好なテクスチャ構造を有し、更にはテクスチャ構造の平均表面粗さを制御することが可能な、太陽電池の電極形成用組成物及び該電極の形成方法及び該形成方法により得られた電極を用いた太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、金属ナノ粒子が分散媒に分散した太陽電池の電極形成用組成物であって、金属ナノ粒子が75重量%以上の銀ナノ粒子を含有し、金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され、金属ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有し、組成物中に金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を更に含むことを特徴とする。
この請求項1に記載された組成物では、組成物中に金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を更に含むため、この組成物を用いて太陽電池の電極を形成すると、実質的に有機物を含有しない銀を主成分とする電極が得られ、この電極は基材との密着性に優れる。また、この組成物を用いて電極を形成すると、金属ナノ粒子間の焼結による粒成長の抑制効果を与えるので、良好なテクスチャ構造を有する電極を形成することができる。また、テクスチャ構造の平均表面粗さを制御することができる。本発明の組成物を用いた電極の形成では、成膜時に真空プロセスを必要としないため、プロセスの制約が小さく、また製造設備のランニングコストを大幅に低減することができる。
【0008】
請求項8に係る発明は、請求項1ないし6いずれか1項に記載の電極形成用組成物を基材上に湿式塗工法で塗工して焼成後の厚さが0.1〜2.0μmの範囲内となるように成膜する工程と、上面に成膜された基材を130〜400℃で焼成する工程とを含む太陽電池の電極の形成方法である。
この請求項8に記載された太陽電池の電極の形成方法では、130〜400℃という低温での焼成により、金属ナノ粒子の表面を保護していた分散媒中の有機分子が脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、実質的に有機物を含有しない銀を主成分とする電極が得られ、また、添加物として組成物中に含まれる金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物又はシリコーンオイルにより、基材との化学的な結合又はアンカー効果の増大、或いは130〜400℃の焼成工程における金属ナノ粒子と基材との濡れ性の改善により、形成された電極は基材との密着性に優れる。この請求項8に記載された形成方法では、組成物を基材上に湿式塗工して成膜し、成膜した基材を焼成する簡易な工程で電極を形成することができる。このように、成膜時に真空プロセスを必要としないため、プロセスの制約が小さく、また製造設備のランニングコストを大幅に低減することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上述べたように、本発明の電極形成用組成物は、分散媒に分散された金属ナノ粒子が75重量%以上の銀ナノ粒子を含有し、炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で金属ナノ粒子を化学修飾し、金属ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有し、組成物中に金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を更に含むので、この組成物を用いて太陽電池の電極を形成すると、実質的に有機物を含有しない銀を主成分とする電極が得られ、この電極は基材との密着性に優れる。また、この組成物を用いて電極を形成すると、金属ナノ粒子間の焼結による粒成長の抑制効果を与えるので、良好なテクスチャ構造を有する電極を形成することができる。また、テクスチャ構造の平均表面粗さを制御することができる。本発明の組成物を用いた電極の形成では、成膜時に真空プロセスを必要としないため、プロセスの制約が小さく、また製造設備のランニングコストを大幅に低減することができる。
【0010】
また上記電極形成用組成物を基材上に湿式塗工法で塗工して焼成後の厚さが0.1〜2.0μmの範囲内となるように成膜し、この上面に成膜された基材を130〜400℃で焼成すれば、金属ナノ粒子の表面を保護していた分散媒中の有機分子が脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、実質的に有機物を含有しない銀を主成分とする電極が得られる。この結果、上記と同様に、電極の形成された太陽電池を長年使用しても、導電率及び反射率が高い状態に維持されるので、経年安定性に優れた電極を得ることができる。また、添加物として組成物中に含まれる金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物又はシリコーンオイルにより、基材との化学的な結合又はアンカー効果の増大、或いは130〜400℃の焼成工程における金属ナノ粒子と基材との濡れ性の改善により、形成された電極は基材との密着性に優れる。本発明の太陽電池の電極の形成方法では、組成物を基材上に湿式塗工して成膜し、成膜した基材を焼成する簡易な工程で電極を形成することができる。このように、成膜時に真空プロセスを必要としないため、プロセスの制約が小さく、また製造設備のランニングコストを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の太陽電池の電極形成用組成物は、金属ナノ粒子が分散媒に分散した組成物である。上記金属ナノ粒子は75重量%以上、好ましくは80重量%以上の銀ナノ粒子を含有する。銀ナノ粒子の含有量を全ての金属ナノ粒子100重量%に対して75重量%以上の範囲に限定したのは、75重量%未満ではこの組成物を用いて形成された太陽電池の電極の反射率が低下してしまうからである。また金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾される。金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1〜3の範囲に限定したのは、炭素数が4以上であると焼成時の熱により保護剤が脱離或いは分解(分離・燃焼)し難く、上記電極内に有機残渣が多く残り、変質又は劣化して電極の導電性及び反射率が低下してしまうからである。
【0012】
金属ナノ粒子は一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上、好ましくは75%以上含有することが好適である。一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の含有量を、数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対して70%以上の範囲に限定したのは、70重量%未満では金属ナノ粒子の比表面積が増大して有機物の占める割合が大きくなり、焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し易い有機分子であっても、この有機分子の占める割合が多いため、電極内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して電極の導電性及び反射率が低下したり、或いは金属ナノ粒子の粒度分布が広くなり電極の密度が低下し易くなって、電極の導電性及び反射率が低下してしまうからである。更に上記金属ナノ粒子の一次粒径を10〜50nmの範囲内に限定したのは、統計的手法より一次粒径が10〜50nmの範囲内にある金属ナノ粒子が経時安定性(経年安定性)と相関しているからである。
【0013】
本発明の太陽電池の電極形成用組成物が有する特徴ある構成は、組成物中に金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を更に含むところにある。添加物として組成物中に含まれる金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物又はシリコーンオイルにより、基材との化学的な結合又はアンカー効果の増大、或いは130〜400℃の焼成工程における金属ナノ粒子と基材との濡れ性の改善により、導電性を損なうことなく、基材との密着性を向上させることができる。
【0014】
また、この組成物を用いて電極を形成すると、金属ナノ粒子間の焼結による粒成長の抑制効果を与えるので、良好なテクスチャ構造を有する電極を形成することができる。また、テクスチャ構造の平均表面粗さを制御することができる。本発明の組成物を用いた電極の形成では、成膜時に真空プロセスを必要としないため、プロセスの制約が小さく、また製造設備のランニングコストを大幅に低減することができる。
【0015】
上記金属酸化物等が含まれない組成物を用いて電極を形成すると、形成した電極の表面粗さが大きくなるが、電極表面の凹凸形状には光電変換効率を最適化する条件があるとされており、単に表面粗さが大きいだけでは、光電変換効率に優れた電極表面を形成することはできない。本発明の組成物のように、金属酸化物等の種類、濃度等を調整することで、最適化された表面粗さの表面を形成することが可能となる。
【0016】
添加物の含有量は金属ナノ粒子を構成する銀ナノ粒子の重量の0.1〜20%、好ましくは0.2〜10%である。添加物の含有量が0.1%未満では基材と電極との密着性が向上せず、添加物の含有量が20%を越えると形成した電極の導電性に悪影響を及ぼし、体積抵抗率が2×10-5Ω・cmを越える不具合を生じる。
【0017】
金属酸化物としては、アルミ、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム及びアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む酸化物或いは複合酸化物が挙げられる。複合酸化物とは具体的には酸化インジウム−酸化錫系複合酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化アンチモン−酸化錫系複合酸化物(Antimony Tin Oxide:ATO)、酸化インジウム−酸化亜鉛系複合酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)等である。また金属水酸化物としては、アルミ、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム及びアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む水酸化物が挙げられる。また有機金属化合物としては、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、インジウム及び錫の金属石鹸、金属錯体或いは金属アルコキシドが挙げられる。例えば、金属石鹸は、酢酸ニッケル、酢酸銀、クエン酸銅、酢酸錫、酢酸亜鉛、シュウ酸亜鉛等が挙げられる。また金属錯体はアセチルアセトン亜鉛錯体、アセチルアセトンクロム錯体、アセチルアセトンニッケル錯体等が挙げられる。また金属アルコキシドはジルコニウムブトキシド、チタニウムイソプロポキシド、メチルシリケート、イソアナトプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。シリコーンオイルとしてはストレートシリコーンオイル並びに変性シリコーンオイルの双方を用いることができる。変性シリコーンオイルは更にポリシロキサンの側鎖の一部に有機基を導入したもの(側鎖型)、ポリシロキサンの両末端に有機基を導入したもの(両末端型)、ポリシロキサンの両末端のうちのどちらか一方に有機基を導入したもの(片末端型)並びにポリシロキサンの側鎖の一部と両末端に有機基を導入したもの(側鎖両末端型)を用いることができる。変性シリコーンオイルには反応性シリコーンオイルと非反応性シリコーンオイルとがあるが、その双方の種類ともに本発明の添加物として使用することができる。なお、反応性シリコーンオイルとは、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシ変性、カルビノール変性、メルカプト変性、並びに異種官能基変性(エポキシ基、アミノ基、ポリエーテル基)を示し、非反応性シリコーンオイルとは、ポリエーテル変性、メチルスチリル基変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、フッ素変性、並びに親水特殊変性を示す。
【0018】
一方、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子は、Au、Pt、Pd、Ru、Ni、Cu、Sn、In、Zn、Cr、Fe及びMnからなる群より選ばれた1種又は2種以上の混合組成又は合金組成からなる金属ナノ粒子であり、この銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子は全ての金属ナノ粒子100重量%に対して0.02重量%以上かつ25重量%未満、好ましくは0.03重量%〜20重量%含有する。銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子の含有量を全ての金属ナノ粒子100重量%に対して0.02重量%以上かつ25重量%未満の範囲に限定したのは、0.02重量%未満では特に大きな問題はないけれども、0.02〜25重量%の範囲内においては、耐候性試験(温度100℃かつ湿度50%の恒温恒湿槽に1000時間保持する試験)後の電極の導電性及び反射率が耐候性試験前と比べて悪化しないという特徴があり、25重量%以上では焼成直後の電極の導電性及び反射率が低下し、しかも耐候性試験後の電極が耐候性試験前の電極より導電性及び反射率が低下してしまうからである。
【0019】
また銀ナノ粒子を含む金属ナノ粒子の含有量は、金属ナノ粒子及び分散媒からなる組成物100重量%に対して2.5〜95.0重量%、好ましくは3.5〜90重量%含有することが好適である。銀ナノ粒子を含む金属ナノ粒子の含有量を金属ナノ粒子及び分散媒からなる組成物100重量%に対して2.5〜95.0重量%の範囲としたのは、2.5重量%未満では特に焼成後の電極の特性には影響はないけれども、必要な厚さの電極を得ることが難しく、95.0重量%を越えると組成物の湿式塗工時にインク或いはペーストとしての必要な流動性を失ってしまうからである。
【0020】
また本発明の電極形成用組成物を構成する分散媒は、アルコール類、或いはアルコール類含有水溶液からなることが好適である。分散媒として使用するアルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセロール、イソボニルヘキサノール及びエリトリトールからなる群より選ばれた1種又は2種以上が挙げられる。アルコール類含有水溶液は、全ての分散媒100重量%に対して、1重量%以上、好ましくは2重量%以上の水と、2重量%以上、好ましくは3重量%以上のアルコール類とを含有することが好適である。例えば、分散媒が水及びアルコール類のみからなる場合、水を2重量%含有するときはアルコール類を98重量%含有し、アルコール類を2重量%含有するときは水を98重量%含有する。水の含有量を全ての分散媒100重量%に対して1重量%以上の範囲にしたのは、1重量%未満では、組成物を湿式塗工法により塗工して得られた膜を低温で焼結し難く、また焼成後の電極の導電性と反射率が低下してしまい、アルコール類の含有量を全ての分散媒100重量%に対して2重量%以上の範囲にしたのは、2重量%未満では、上記と同様に組成物を湿式塗工法により塗工して得られた膜を低温で焼結し難く、また焼成後の電極の導電性と反射率が低下してしまうからである。
【0021】
更に分散媒、即ち金属ナノ粒子表面に化学修飾している保護分子は、水酸基(−OH)又はカルボニル基(−C=O)のいずれか一方又は双方を含有することが好ましい。水酸基(−OH)が銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤に含有されると、組成物の分散安定性に優れ、塗膜の低温焼結にも効果的な作用があり、カルボニル基(−C=O)が銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤に含有されると、上記と同様に組成物の分散安定性に優れ、塗膜の低温焼結にも効果的な作用がある。
【0022】
このように構成された太陽電池の電極形成用組成物の製造方法を説明する。
(a) 炭素骨格の炭素数を3とする有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された銀ナノ粒子を用いる場合
先ず硝酸銀を脱イオン水等の水に溶解して金属塩水溶液を調製する。一方、クエン酸ナトリウムを脱イオン水等の水に溶解させて得られた濃度10〜40%のクエン酸ナトリウム水溶液に、窒素ガス等の不活性ガスの気流中で粒状又は粉状の硫酸第一鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第一鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製する。次に上記不活性ガス気流中で上記還元剤水溶液を撹拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合する。ここで、金属塩水溶液の添加量は還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が30〜60℃に保持されるようにすることが好ましい。また上記両水溶液の混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液中のクエン酸イオンと第一鉄イオンのモル比がいずれも3倍モルとなるようにする。金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の撹拌を更に10〜300分間続けて金属コロイドからなる分散液を調製する。この分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションや遠心分離法等により分離した後、この分離物に脱イオン水等の水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理し、更に引き続いてアルコール類で置換洗浄して、金属(銀)の含有量を2.5〜50重量%にする。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、金属ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有するように調製する、即ち数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の占める割合が70%以上になるように調整する。なお、金属ナノ粒子と記載したが、この(a)の場合では、数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が70%以上になるように調整している。
【0023】
数平均の測定方法は、先ず、得られた金属ナノ粒子をTEM(Transmission Electron Microscope、透過型電子顕微鏡)により約50万倍程度の倍率で撮影する。次いで、得られた画像から金属ナノ粒子200個について一次粒径を測定し、この測定結果をもとに粒径分布を作成する。次に、作成した粒径分布から、一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子が全金属ナノ粒子で占める個数割合を求める。
【0024】
これにより炭素骨格の炭素数が3である有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された銀ナノ粒子が分散した分散体が得られる。
続いて、得られた分散体を分散体100重量%に対する最終的な金属含有量(銀含有量)が2.5〜95重量%の範囲内となるように調整する。また、分散媒をアルコール類含有水溶液とする場合には、溶媒の水及びアルコール類をそれぞれ1%以上及び2%以上にそれぞれ調整することが好ましい。次に、この分散体に金属酸化物、金属水酸化物及び有機金属化合物からなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を更に含ませる。添加物の含有量は銀ナノ粒子の重量の1/1000〜1/5の範囲内となるように調整する。これにより炭素骨格の炭素数が3である有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された銀ナノ粒子が分散媒に分散し、金属酸化物、金属水酸化物及び有機金属化合物からなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物が更に含まれた電極形成用組成物が得られる。
【0025】
(b) 炭素骨格の炭素数を2とする有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された銀ナノ粒子を用いる場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをりんご酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより炭素骨格の炭素数が2である有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された銀ナノ粒子が分散した分散体が得られる。
(c) 炭素骨格の炭素数を1とする有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された銀ナノ粒子を用いる場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをグリコール酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより炭素骨格の炭素数が1である有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された銀ナノ粒子が分散した分散体が得られる。
(d) 銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を構成する金属としては、Au、Pt、Pd、Ru、Ni、Cu、Sn、In、Zn、Fe、Cr又はMnが挙げられる。金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、塩化金酸、塩化白金酸、硝酸パラジウム、三塩化ルテニウム、塩化ニッケル、硝酸第一銅、二塩化錫、硝酸インジウム、塩化亜鉛、硫酸鉄、硫酸クロム又は硫酸マンガンに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体(太陽電池の電極形成用組成物)が得られる。
なお、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1や2とする場合、金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、上記種類の金属塩に替えること以外は上記(b)や上記(c)と同様にして分散体を調製する。これにより、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1や2である分散体(太陽電池の電極形成用組成物)が得られる。
【0026】
金属ナノ粒子として、銀ナノ粒子とともに、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含有させる場合には、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を第1分散体とし、上記(d)の方法で製造した銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含む分散体を第2分散体とすると、75重量%以上の第1分散体と25重量%未満の第2分散体とを第1及び第2分散体の合計含有量が100重量%となるように混合する。なお、第1分散体は、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体に留まらず、上記(b)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体や上記(c)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を使用しても良い。
【0027】
このように製造された分散体(太陽電池の電極形成用組成物)を用いて電極を形成する方法を説明する。
先ず上記分散体(太陽電池の電極形成用組成物)を基材上に湿式塗工法で塗工する。この湿式塗工法での塗工は、焼成後の厚さが0.1〜2.0μm、好ましくは0.3〜1.5μmの範囲内となるように成膜する。上記基材は、シリコン、ガラス、透明導電材料を含むセラミックス、高分子材料又は金属からなる基板のいずれか、或いはシリコン、ガラス、透明導電材料を含むセラミックス、高分子材料及び金属からなる群より選ばれた2種以上の積層体であることができる。また基材は太陽電池素子又は透明電極付き太陽電池素子のいずれかであることが好ましい。透明電極としては、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、アンチモンドープ酸化錫(Antimony Tin Oxide:ATO)、ネサ(酸化錫SnO2)、IZO(Indium Zic Oxide)、AZO(アルミドープZnO)等などが挙げられる。更に、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)のような誘電体薄膜が基材表面に形成されていてもよい。高分子基板としては、ポリイミドやPET(ポリエチレンテレフタレート)等の有機ポリマーにより形成された基板が挙げられる。上記分散体は太陽電池素子の光電変換半導体層の表面や、透明電極付き太陽電池素子の透明電極の表面に塗布される。基材上に形成された分散体の膜厚を、焼成後の厚さが0.2〜2.0μmの範囲内となるよう限定したのは、0.2μm未満では太陽電池に必要な電極の表面抵抗値が不十分となり、2.0μmを越えると特性上の不具合はないけれども、材料の使用量が必要以上に多くなって材料が無駄になるからである。更に上記湿式塗工法は、スプレーコーティング法、ディスペンサコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法又はダイコーティング法のいずれかであることが特に好ましいが、これに限られるものではなく、あらゆる方法を利用できる。スプレーコーティング法は分散体を圧縮エアにより霧状にして基材に塗布したり、或いは分散体自体を加圧し霧状にして基材に塗布する方法であり、ディスペンサコーティング法は例えば分散体を注射器に入れこの注射器のピストンを押すことにより注射器先端の微細ノズルから分散体を吐出させて基材に塗布する方法である。スピンコーティング法は分散体を回転している基材上に滴下し、この滴下した分散体をその遠心力により基材周縁に拡げる方法であり、ナイフコーティング法はナイフの先端と所定の隙間をあけた基材を水平方向に移動可能に設け、このナイフより上流側の基材上に分散体を供給して基材を下流側に向って水平移動させる方法である。スリットコーティング法は分散体を狭いスリットから流出させて基材上に塗布する方法であり、インクジェットコーティング法は市販のインクジェットプリンタのインクカートリッジに分散体を充填し、基材上にインクジェット印刷する方法である。スクリーン印刷法は、パターン指示材として紗を用い、その上に作られた版画像を通して分散体を基材に転移させる方法である。オフセット印刷法は、版に付けた分散体を直接基材に付着させず、版から一度ゴムシートに転写させ、ゴムシートから改めて基材に転移させる、インクの撥水性を利用した印刷方法である。ダイコーティング法は、ダイ内に供給された分散体をマニホールドで分配させてスリットより薄膜上に押し出し、走行する基材の表面を塗工する方法である。ダイコーティング法には、スロットコート方式やスライドコート方式、カーテンコート方式がある。
【0028】
次に上面に成膜された基材を大気中若しくは窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で130〜400℃、好ましくは200〜400℃の温度に、5分間〜1時間、好ましくは15〜40分間保持して焼成する。基材上に形成された分散体の膜の焼成温度を130〜400℃の範囲に限定したのは、130℃未満では金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の電極内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して導電性及び反射率が低下してしまい、400℃を越えると低温プロセスという生産上のメリットを生かせない、即ち製造コストが増大し生産性が低下してしまうからである。更に基材上に形成された分散体の膜の焼成時間を5分間〜1時間の範囲に限定したのは、5分間未満では金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の電極内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して電極の導電性及び反射率が低下してしまい、1時間を越えると特性には影響しないけれども、必要以上に製造コストが増大して生産性が低下してしまうからである。
【0029】
上記太陽電池の電極形成用組成物では、一次粒径10〜50nmとサイズの比較的大きい金属ナノ粒子を多く含むため、金属ナノ粒子の比表面積が減少し、保護剤の占める割合が小さくなる。この結果、上記組成物を用いて太陽電池の電極を形成すると、上記保護剤中の有機分子が焼成時の熱により脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、実質的に有機物を含有しない銀を主成分とする電極が得られる。従って、上記電極の形成された太陽電池を長年使用しても、有機物が変質又は劣化するということがなく、電極の導電率及び反射率が高い状態に維持されるので、経年安定性に優れた電極を得ることができる。具体的には、上記電極を、温度を100℃に保ちかつ湿度を50%に保った恒温恒湿槽に1000時間収容した後であっても、波長750〜1500nmの電磁波、即ち可視光領域から赤外線領域までの電磁波を80%以上電極により反射できるとともに、電極の導電性、即ち電極の体積抵抗率を2×10-5Ω・cm未満と極めて低い値に維持できる。
【0030】
上記条件で焼成することにより、基材上に導電性塗膜を形成することができる。形成した導電性塗膜は、金属ナノ粒子間の焼結による粒成長の抑制効果が与えられるため、良好なテクスチャ構造を有する。また、使用する組成物中の添加物の種類及び添加量によって、テクスチャ構造の平均表面粗さを制御した塗膜を得ることができる。形成した導電性塗膜は、平均表面粗さが10〜100nmの範囲内となっていることが好ましい。平均表面粗さが上記範囲内であれば、サブストレート型太陽電池を構成する裏面電極が有するテクスチャ構造に適した範囲となる。形成した導電性塗膜は、組成物中に含まれる金属ナノ粒子を構成する金属そのものが有する比抵抗に近い比抵抗が得られ、また、組成物中に含まれる金属ナノ粒子を構成する金属そのものの反射率に近い優れた反射率が得られる。
【0031】
このように、本発明の電極の形成方法は、上記電極形成用組成物を基材上に湿式塗工法で塗工して成膜する工程と、上面に成膜された基材を上記温度範囲内で焼成する工程とを含む。この形成方法では、組成物を基材上に湿式塗工して成膜し、成膜した基材を焼成する簡易な工程で電極を形成することができる。このように、成膜時に真空プロセスを必要としないため、プロセスの制約が小さく、また製造設備のランニングコストを大幅に低減することができる。更に、このようにして形成された電極を用いた太陽電池は、長年使用しても高導電率及び高反射率を維持することができ、経年安定性に優れる。
【実施例】
【0032】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1〜32>
先ず硝酸銀を脱イオン水に溶解して金属塩水溶液を調製した。一方、クエン酸ナトリウムを脱イオン水に溶解させて得られた濃度26%のクエン酸ナトリウム水溶液に、温度35℃の窒素ガス気流中で粒状の硫酸第一鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第一鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製した。次いで上記窒素ガス気流を温度35℃に保った状態で、マグネチックスターラーの撹拌子を100rpmの回転速度で回転させて上記還元剤水溶液を撹拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合した。ここで、金属塩水溶液の添加量は還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が40℃に保持されるようにした。また上記両水溶液の混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液中のクエン酸イオンと第一鉄イオンのモル比がいずれも3倍モルとなるようにした。金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の撹拌を更に15分間続けて金属コロイドからなる分散液を得た。この分散液のpHは5.5であり、分散液中の金属粒子の化学量論的生成量は5g/リットルであった。この得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、更に引き続いてメタノールで置換洗浄して、金属(銀)の含有量を50重量%にした。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの銀ナノ粒子を数平均で71%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が71%になるように調整した。得られた銀ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾されていた。
【0033】
次に、このように調整した銀ナノ粒子10重量部を水、エタノール及びメタノールを含む混合溶液に分散させた。分散液に次の表1に示す添加物を1重量部加えることにより電極形成用組成物を得た。続いて得られた組成物を次の表1に示す基材上に焼成後の厚さが300nmとなるようにスピンコーターで塗布した後に、200℃で20分間焼成することにより、基材上に電極を形成した。なお、添加物のうち、金属酸化物と金属水酸化物は、1〜100nmの平均粒径を有する水、エタノール混合系コロイドの形態で添加した。
【0034】
<比較例1〜5>
実施例1〜32と同様の方法により調整した平均粒径が約20nmの銀ナノ粒子10重量部を水、エタノール及びメタノールを含む混合溶液に分散させた。この分散液を添加物を加えることなく電極形成用組成物とした。得られた組成物を次の表1に示す基材上に焼成後の厚さが300nmとなるようにスピンコーターで塗布した後に、200℃で20分間焼成することにより、基材上に電極を形成した。
【0035】
<比較試験1>
実施例1〜32及び比較例1〜5で得られた電極を形成した基材について、導電性及び基材への接着性を評価した。導電性は、四端子法により測定し算出した体積抵抗率(Ω・cm)として求めた。具体的には、電極の体積抵抗率は、先ず焼成後の電極の厚さをSEM(日立製作所社製の電子顕微鏡:S800)を用いて電極断面から電極の厚さを直接計測し、次に四端子法による比抵抗測定器(三菱化学製ロレスタGP)を用い、この測定器に上記実測した電極の厚さを入力して測定した。基材への密着性は、電極を形成した基材への接着テープ引き剥がし試験により定性的に評価し、『良好』とは、基材から接着テープのみが剥がれた場合を示し、『中立』とは、接着テープの剥がれと基材表面が露出した状態が混在した場合を示し、『不良』とは、接着テープ引き剥がしによって基材表面の全面が露出した場合を示す。その結果を、表1に示す。
【0036】
【表1】

表1から明らかなように、金属酸化物、金属水酸化物又は有機金属化合物を添加物として含んでいない組成物を用いた比較例1〜5では、導電率は10-6オーダーの数値を示したが、接着性評価はいずれも例も『不良』を示し、形成した電極が接着テープによって剥がれてしまい、基材表面が露出してしまっていた。一方、実施例1〜32では、優れた導電性を有し、また接着性評価も、『良好』か『中立』を示しており、電極形成用組成物に金属酸化物、金属水酸化物及び有機金属化合物からなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を加えることで、導電性を損なうことなく、基材との密着性を向上させることができることが確認された。
【0037】
<実施例33〜57及び比較例6,7>
先ず、次の表2及び表3に示す金属ナノ粒子を形成する種類の金属塩を脱イオン水に溶解して金属塩水溶液を調製した。また、クエン酸ナトリウムを脱イオン水に溶解して濃度が26重量%のクエン酸ナトリウム水溶液を調製した。このクエン酸ナトリウム水溶液に、35℃に保持された窒素ガス気流中で粒状の硫酸第1鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第1鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製した。
【0038】
次いで、上記窒素ガス気流を35℃に保持した状態で、マグネチックスターラーの攪拌子を還元剤水溶液中に入れ、攪拌子を100rpmの回転速度で回転させて、上記還元剤水溶液を攪拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合した。ここで、還元剤水溶液への金属塩水溶液の添加量は、還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が40℃に保持されるようにした。また上記還元剤水溶液と金属塩水溶液との混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液のクエン酸イオンと第1鉄イオンのモル比がいずれも3倍モルとなるようにした。還元剤水溶液への金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の攪拌を更に15分間続けることにより、混合液内部に金属粒子を生じさせ、金属粒子が分散した金属粒子分散液を得た。金属粒子分散液のpHは5.5であり、分散液中の金属粒子の化学量論的生成量は5g/リットルであった。
【0039】
得られた分散液は室温で放置することにより、分散液中の金属粒子を沈降させ、沈降した金属粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。分離した金属凝集物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外濾過により脱塩処理した後、更にメタノールで置換洗浄することにより、金属の含有量を50重量%にした。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して、粒径が100nmを越える比較的大きな金属粒子を分離することにより、一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で71%含有するように調整した。即ち、数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の占める割合が71%になるように調整した。得られた金属ナノ粒子は、炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤が化学修飾されていた。
【0040】
次に、得られた金属ナノ粒子10重量部を水、エタノール及びメタノールを含む混合溶液90重量部に添加混合することにより分散させ、更にこの分散液に次の表2及び表3に示す添加物を表2及び表3に示す割合となるように加えることで、実施例33〜57及び比較例6,7の塗布試験用組成物をそれぞれ得た。なお、実施例33〜57の塗布試験用組成物を構成する金属ナノ粒子は、75重量%以上の銀ナノ粒子を含有している。
【0041】
<比較試験2>
実施例33〜57及び比較例6,7で得られた塗布試験用組成物を次の表2及び表3に示す基材上に焼成後の厚さが102〜2×103nmとなるように様々な成膜方法で塗布した後に、次の表2及び表3に示す熱処理条件で焼成することにより、基材上に導電性塗膜を形成した。
【0042】
形成した導電性塗膜について、導電性、反射率、塗膜厚さ及び平均表面粗さをそれぞれ求めた。導電性評価は上記比較試験1と同様にして行った。塗膜の反射率評価は、紫外可視分光光度計と積分球の組み合わせにより、波長800nmにおける塗膜の拡散反射率を測定した。塗膜厚さはSEMによる断面観察により測定した。平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)によって得られた表面形状に関する評価値をJIS B0601に従って評価することで得た。その結果を表4及び表5にそれぞれ示す。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

表4及び表5より明らかなように、実施例33〜57の組成物を用いて形成した導電性塗膜と、比較例6の組成物を用いて形成した導電性塗膜とを比較すると、比抵抗及び反射率は同等であるが、塗膜の平均表面粗さは比較例6が110nmであるのに対し、実施例33〜57が10〜100nmの範囲内と、サブストレート型太陽電池を構成する裏面電極が有するテクスチャ構造に適した範囲の表面粗さが得られていることが確認できた。また、比較例7の組成物を用いて形成した導電性塗膜では、金属ナノ粒子に含まれる銀ナノ粒子の割合が75重量%より小さくなると、体積抵抗率が上昇し、800nmにおける反射率は低下することが判った。
【0047】
<実施例58,59及び比較例8,9>
実施例34で使用した塗布試験用組成物を次の表6に示す基材上に焼成後の厚さがそれぞれ100nm(実施例58)、500nm(実施例59)、50nm(比較例8)及び70nm(比較例9)となるように様々な成膜方法で塗布した後に、次の表6に示す熱処理条件で焼成することにより、基材上に導電性塗膜を形成した。
【0048】
形成した導電性塗膜について、上記比較試験2と同様にして比抵抗、反射率、塗膜厚さ及び平均表面粗さをそれぞれ求めた。その結果を表7にそれぞれ示す。
【0049】
【表6】

【0050】
【表7】

表7より明らかなように、膜厚以外は同一条件で製造した膜について、膜厚が100nm未満の比較例8及び9に比べて、実施例58及び59のように膜厚が100nm以上であると、反射率については90%以上、比抵抗については4×106Ω・cm以下の値でほぼ一定値を示すことが判った。これは、膜厚が100nm未満では、焼結によって連続膜を形成することができず、入射光の一部が膜を透過することによる反射率の低下や、粒子間の接触点不足による比抵抗の増大が生じたためと考えられる。
【0051】
<実施例60,61及び比較例10,11>
次の表8に示す金属ナノ粒子10重量部を水、エタノール及びメタノールを含む混合溶液90重量部に添加混合することにより分散させ、更にこの分散液にメチルシリケートを添加物として組成物中に1重量%の割合で含むように加えることで、実施例60,61及び比較例10,11の塗布試験用組成物をそれぞれ得た。
【0052】
<比較試験3>
実施例60,61及び比較例10,11で得られた塗布試験用組成物をガラス基板上に102〜2×103nmの膜厚となるようにディスペンサコーティング方法で塗布した後に、大気雰囲気下、320℃で20分間焼成することにより、基材上に導電性塗膜を形成した。
【0053】
形成した導電性塗膜について、導電性、反射率及び接着性評価をそれぞれ求めた。導電性及び接着性評価は上記比較試験1と同様にして行い、反射率評価は上記比較試験2と同様にして行った。その結果を表9にそれぞれ示す。
【0054】
【表8】

【0055】
【表9】

表9より明らかなように、銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子の炭素骨格の炭素数が3より大きくなると、体積抵抗率が上昇し、800nmにおける反射率が低下することが判った。更に、平均粒径10〜50nmの銀ナノ粒子の占める数平均が70%より小さくなると、体積抵抗率が上昇し、800nmにおける反射率が低下することが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子が分散媒に分散した太陽電池の電極形成用組成物であって、
前記金属ナノ粒子が75重量%以上の銀ナノ粒子を含有し、
前記金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され、
前記金属ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有し、
前記組成物中に金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物及びシリコーンオイルからなる群より選ばれた1種又は2種以上の添加物を更に含む
ことを特徴とする太陽電池の電極形成用組成物。
【請求項2】
分散媒がアルコール類、或いはアルコール類含有水溶液からなる請求項1記載の太陽電池の電極形成用組成物。
【請求項3】
金属酸化物がアルミ、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム及びアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む酸化物或いは複合酸化物である請求項1記載の太陽電池の電極形成用組成物。
【請求項4】
金属水酸化物がアルミ、シリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、錫、インジウム及びアンチモンからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む水酸化物である請求項1記載の太陽電池の電極形成用組成物。
【請求項5】
有機金属化合物がシリコン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅、亜鉛、モリブデン、インジウム及び錫の金属石鹸、金属錯体或いは金属アルコキシドである請求項1記載の太陽電池の電極形成用組成物。
【請求項6】
添加物の含有量が銀ナノ粒子の重量の0.1〜20%である請求項1記載の太陽電池の電極形成用組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか1項に記載の電極形成用組成物を基材上に湿式塗工法で塗工して太陽電池用電極を形成する方法。
【請求項8】
請求項1ないし6いずれか1項に記載の電極形成用組成物を基材上に湿式塗工法で塗工して焼成後の厚さが0.1〜2.0μmの範囲内となるように成膜する工程と、
前記上面に成膜された基材を130〜400℃で焼成する工程と
を含む太陽電池の電極の形成方法。
【請求項9】
基材上面に形成する電極の平均表面粗さが10〜100nmの範囲内である請求項7又は8記載の太陽電池の電極の形成方法。
【請求項10】
基材がシリコン、ガラス、透明導電材料を含むセラミックス、高分子材料又は金属からなる基板のいずれか、或いは前記シリコン、前記ガラス、前記透明導電材料を含むセラミックス、前記高分子材料及び前記金属からなる群より選ばれた2種以上の積層体である請求項7又は8記載の太陽電池の電極の形成方法。
【請求項11】
基材が太陽電池素子又は透明電極付き太陽電池素子のいずれかである請求項7又は8記載の太陽電池の電極の形成方法。
【請求項12】
湿式塗工法がスプレーコーティング法、ディスペンサコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法又はダイコーティング法のいずれかである請求項7又は8記載の太陽電池の電極の形成方法。
【請求項13】
請求項7ないし12いずれか1項に記載の電極の形成方法により形成した電極を用いたことを特徴とする太陽電池。

【公開番号】特開2008−135190(P2008−135190A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305508(P2006−305508)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】