説明

妨害波検出回路、受信装置および妨害波検出方法

【課題】デジタル変調方式に基づく無線通信において、目的電波と比較して低レベルの妨害波を受信信号の中から検出できるようにすること。
【解決手段】妨害波検出回路は、受信したアナログ信号をデジタル復調して得られた時系列信号の各時点における信号点に対する収束点を推定する収束点推定部と、時系列信号と収束点との各時点における差分を誤差信号として算出する誤差算出部と、誤差信号を時間領域から周波数領域へ変換する変換部と、周波数領域に変換された誤差信号に基づいて、時系列信号に含まれる妨害波の成分を検出する検出部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信における妨害波を検出する妨害波検出回路、受信装置および妨害波検出方法に関し、特に、シングルキャリアタイプの通信/放送のQAM(Quadrature Amplitude Modulation:直角位相振幅変調)復調方式やPSK(Phase Shift Keying:位相偏移変調)復調方式において妨害波を検出する妨害波検出回路、妨害波検出回路を備えた受信装置、および、妨害波検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル放送受信器の復調性能への要求は年々厳しくなっており、例えば、ノイズ等の妨害への耐性も要求されている。シングルキャリアを用いた通信のQAM変調方式やPSK変調方式の受信信号の復調において、連続波(CW:Continus Wave)妨害は受信性能に大きな影響を与える。低レベルのCW妨害であっても、変調方式が高次になるに従って特性が大きく劣化する。したがって、低レベルのCW妨害を精度よく検出し、除去することで、受信性能の向上を図る必要がある。
【0003】
特許文献1に記載された受信装置は、スペクトラム解析によりCW妨害を検出し、除去することを目的とする。この受信装置は、復調後の信号自体に高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourie Transform)を施し、そのパワースペクトラムの最大をCW妨害として検出する。
【0004】
図9は、特許文献1に記載された受信装置の構成を示すブロック図である。アンテナ部100で受信された信号はチューナ部101で所定のチャネルを選局し、A/D(Analog to Digital)変換器102でA/D変換される。その後、直交検波回路103で直交検波を行い、乗算器104で周波数シフトを行い、周波数誤差を取り除く。FFT回路105は、時間軸領域の信号を周波数領域の信号に変換する。FFT後の信号は、等化回路106で等化処理され、その後、誤り訂正回路107で誤り訂正処理が行われる。
【0005】
FFT後の信号は、広帯域AFC(Automatic Frequency Control)回路108でキャリア単位の周波数誤差を検出し、時間軸処理回路109に加えられる。
【0006】
また、FFT後の信号は分岐されて妨害検出回路110に入力され、妨害検出回路110はCW妨害を検出する。妨害検出回路110の出力により可変ノッチフィルタ111のノッチが妨害存在位置に設定されるよう制御される。乗算器104の出力を分岐した信号に、可変ノッチフィルタ111を適用し、可変ノッチフィルタ111で妨害が除去された信号を用いて、時間軸処理回路109で、シンボル同期、狭帯域AFC、クロック再生を行う。
【0007】
図10は、特許文献1に記載された受信装置によるCW妨害の検出動作について説明するための模式図である。妨害検出回路110は、CW妨害が狭帯域でパワーが極めて高いものとして、所定のスレッショールド(閾値)を設定し、スペクトルにおいてスレッショールド以上のパワーの箇所をCW妨害であると判定し、その周波数を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−174218号公報(第6、7頁、図1、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以下の分析は、本発明者によってなされたものである。
【0010】
特許文献1に記載された受信装置は、送信データを含む目的電波のレベルと比較して相対的にCW妨害のレベルが低い場合には、CW妨害を検出することができず、受信性能が劣化するという問題がある。
【0011】
その理由は、送信データとCW成分が混在した信号にFFTを行うため、CW妨害のレベルが低い場合は周りの周波数成分に埋もれてしまい、CW妨害と判定することができないからである。このとき、CW妨害が存在しても除去できず、受信性能を劣化させてしまうことになる。
【0012】
そこで、デジタル変調方式に基づく無線通信において、目的電波と比較して低レベルの妨害波を受信信号の中から検出できるようにすることが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の視点に係る妨害波検出回路は、
受信したアナログ信号をデジタル復調して得られた時系列信号の各時点における信号点に対する収束点を推定する収束点推定部と、
前記時系列信号と前記収束点との各時点における差分を誤差信号として算出する誤差算出部と、
前記誤差信号を時間領域から周波数領域へ変換する変換部と、
周波数領域に変換された前記誤差信号に基づいて、前記時系列信号に含まれる妨害波の成分を検出する検出部と、を備える。
【0014】
本発明の第2の視点に係る受信装置は、
受信したアナログ信号をデジタル復調して得られた時系列信号の各時点における信号点に対する収束点を推定する収束点推定部と、
前記時系列信号と前記収束点との各時点における差分を誤差信号として算出する誤差算出部と、
前記誤差信号を時間領域から周波数領域へ変換する変換部と、
周波数領域に変換された前記誤差信号のスペクトルを解析し、前記時系列信号に含まれる妨害波の成分として、連続波(CW:Continuous Wave)の振幅および周波数を抽出する検出部と、
少なくとも前記CWの振幅および周波数に基づいて、前記時系列信号から前記CWの成分を除去する妨害波除去部と、を備える。
【0015】
本発明の第3の視点に係る妨害波検出方法は、
受信したアナログ信号をデジタル復調して得られた時系列信号の各時点における信号点に対する収束点を推定する推定工程と、
前記時系列信号と前記収束点との各時点における差分を誤差信号として算出する工程と、
前記誤差信号を時間領域から周波数領域へ変換する工程と、
周波数領域に変換された前記誤差信号に基づいて、前記時系列信号に含まれる妨害波の成分を検出する検出工程と、を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る妨害波検出回路、受信装置および妨害波検出方法によると、デジタル変調方式に基づく無線通信において、目的電波と比較して低レベルの妨害波を受信信号の中から検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態に係る受信装置の構成を一例として示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る受信装置の動作を一例として示すフローチャートである。
【図3】QAM変調方式における理想的な信号点配置と、CW妨害による影響を受けた信号点配置を模式的に示す図である。
【図4】第1の実施形態に係る受信装置によるCW妨害検出を模式的に示す図である。
【図5】第1の実施形態に係る受信装置の構成の変形例を示すブロック図である。
【図6】第1の実施形態に係る受信装置の構成の変形例を示すブロック図である。
【図7】第2の実施形態に係る受信装置の構成を一例として示すブロック図である。
【図8】第2の実施形態に係る受信装置の動作を一例として示すフローチャートである。
【図9】特許文献1に記載された受信装置の構成を示すブロック図である。
【図10】特許文献1に記載された受信装置によるCW妨害検出動作について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
はじめに、本発明の概要について説明する。なお、この概要に付記する図面参照符号は、専ら理解を助けるための例示であり、本発明を図示の態様に限定することを意図するものではない。
【0019】
図1を参照すると、本発明に係る妨害波検出回路(20)は、受信したアナログ信号をデジタル復調して得られた時系列信号の各時点における信号点に対する収束点を推定する収束点推定部(21)と、時系列信号と収束点との各時点における差分を誤差信号として算出する誤差算出部(22)と、誤差信号を時間領域から周波数領域へ変換する変換部(FFT部23)と、周波数領域に変換された誤差信号に基づいて、時系列信号に含まれる妨害波の成分を検出する検出部(50)と、を備える。
【0020】
ここで、収束点推定部(21)は、デジタル復調の方式に応じて決まる理想的な信号点のうちの各時点における信号点との距離が最も短い信号点を、上記の収束点と推定するようにしてもよい。
【0021】
また、検出部(50)は、周波数領域に変換された誤差信号のスペクトルを解析し、妨害波の成分として、連続波(CW:Continuous Wave)の振幅および周波数を抽出するようにしてもよい。
【0022】
図7を参照すると、検出部(60)は、時系列信号を取得した時刻におけるCWの位相を誤差信号に基づいて算出するとともに、当該時刻から時系列信号に含まれる妨害波の除去を開始する時刻までの期間およびCWの周波数に基づいて当該期間におけるCWの位相の回転量を算出し、算出した位相と位相の回転量に応じて、当該開始時刻におけるCWの位相を求めるようにしてもよい。
【0023】
なお、上記の時系列信号は、図1に示すように、受信したアナログ信号をデジタル復調するとともに伝送路特性を補償して得られた時系列信号であってもよい。
【0024】
図1を参照すると、本発明に係る受信装置(10)は、受信したアナログ信号をデジタル復調して得られた時系列信号の各時点における信号点に対する収束点を推定する収束点推定部(21)と、時系列信号と収束点との各時点における差分を誤差信号として算出する誤差算出部(22)と、誤差信号を時間領域から周波数領域へ変換する変換部(FFT部23)と、周波数領域に変換された誤差信号のスペクトルを解析し、時系列信号に含まれる妨害波の成分として、連続波(CW:Continuous Wave)の振幅および周波数を抽出する検出部(50)と、少なくともCWの振幅および周波数に基づいて、時系列信号からCWの成分を除去する妨害波除去部(17)と、を備える。
【0025】
図7を参照すると、妨害波除去部(37)は、CWの振幅、周波数、および、前記開始時刻における位相に基づいて、時系列信号からCWの成分を除去するようにしてもよい。特に、妨害波検出回路(40)は、CWの振幅、周波数、および、前記開始時刻における位相に基づいてCWと逆位相の信号を生成して、前記時系列信号に足し合わせることにより、前記時系列信号からCWの成分を除去するようにしてもよい。
【0026】
さらに具体的な構成として、図1を参照すると、本発明に係る受信装置(10)は、シングルキャリアタイプの通信/放送のQAM復調やPSK復調装置であって、CW(Continus Wave:連続波)妨害のノイズ検出において、伝送路特性補償後の信号より収束点情報を推定する収束点推定部(21)と、伝送路特性補償後の信号と収束点推定部(21)からの収束点情報(28)とに基づいて誤差信号(27)を算出する誤差算出部(22)と、算出した誤差信号(27)よりFFT後の誤差信号のスペクトラムを生成するFFT部(23)と、誤差信号のスペクトラム解析を行ない、CW妨害の強さ・周波数・位相等を求めて妨害波除去部(17)に情報として渡すスペクトラム解析部(24)と、を備えていてもよい。
【0027】
本発明に係る妨害波検出回路および受信装置は、受信したアナログ信号をデジタル復調して得られた時系列信号の各時点における信号点に対する収束点を推定し、時系列信号と収束点との各時点における差分を、誤差信号として算出する。かかる構成によると、受信信号に含まれる送信データの成分と妨害波の成分とを分離し、妨害波の成分のみを抽出することが可能となる。さらに、時間領域で求められた妨害波の成分を周波数領域へと変換することにより、CW妨害による妨害波を検出することができる。したがって、本発明に係る妨害波検出回路および受信装置によると、デジタル変調方式に基づく無線通信において、受信信号に含まれる妨害波のレベルが送信データのレベルと比較して低い場合であっても、妨害波を検出することが可能となる。
【0028】
(実施形態1)
第1の実施形態に係る受信装置について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の受信装置10の構成を一例として示すブロック図である。
【0029】
図1を参照すると、受信装置10は、アンテナ部11と、周波数を低下させるミキサ12と、発振器13と、所望の帯域以外を減衰させるバンドパスフィルタ(BPF:Band−Pass Filter)14と、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器15と、クロック同期や周波数同期を行うデジタル復調部16と、CW妨害を検出する妨害波検出回路20と、CW妨害を除去する妨害波除去部17と、波形等化等で伝送路特性の補償を行う伝送路特性補償部18と、符号化された信号を復号する復号部19とを備える。
【0030】
妨害波検出回路20は、収束点を推定して収束点情報28として出力する収束点推定部21と、収束点情報28に基づいて誤差を算出する誤差算出部22と、誤差信号27に対してFFT演算を行うFFT部23と、誤差信号のスペクトラム29を解析し、CW妨害の有無とその周波数および強さを、CW妨害強さ・周波数26として検出するスペクトラム解析部24とを備える。
【0031】
アンテナ部11は、RF(Radio Frequency)信号を受信し、ミキサ12へRF信号を出力する。
【0032】
ミキサ12は、アンテナ部11からRF信号を、発振器13から発振用信号をそれぞれ入力し、周波数ダウンコンバート後の信号をBPF14へ出力する。
【0033】
BPF14は、ミキサ12からダウンコンバート後の信号を入力し、A/D変換器15へフィルタリング後の信号を出力する。
【0034】
A/D変換器15は、BPF14からフィルタリング後のアナログ信号を入力し、A/D変換後のデジタル信号をデジタル復調部16へ出力する。
【0035】
デジタル復調部16は、A/D変換器15からA/D変換後のデジタル信号を入力し、同相および直交位相成分の分離、搬送波周波数およびタイミングの同期等が行われた、デジタル復調後信号25を妨害波除去部17へ出力する。
【0036】
妨害波除去部17は、デジタル復調部16からデジタル復調後信号25を入力するとともに、スペクトラム解析部24からCW妨害強さ・周波数26を入力する。CW妨害が存在する場合には、妨害波除去部17はCW妨害除去後の信号を伝送路特性補償部18へ出力する。一方、CW妨害がない場合には、妨害波除去部17は、デジタル復調後信号25をそのまま伝送路特性補償部18へ出力する。
【0037】
本実施形態におけるCW妨害除去の方法については、特に限定しない。CW妨害除去の一例として、ノッチフィルタ等で検出されたCW周波数の大きさを減衰させる方法等がある。
【0038】
CW妨害検出時には、伝送路特性補償部18は、デジタル復調後信号25からCW妨害を除去した後の信号を、妨害波除去部17から受信する。一方、CW妨害未検出時には、伝送路特性補償部18は、デジタル復調部16の信号をスルーした信号を、妨害波除去部17から受信する。伝送路特性補償部18は、受信した信号に対して、伝送路の特性に応じて波形等化等の補償を行った後の信号を、復号部19、収束点推定部21、および、誤差算出部22に出力する。
【0039】
復号部19は、伝送路特性補償部18から伝送路特性補償後の信号を入力し、復号後の信号を出力する。
【0040】
収束点推定部21は、伝送路特性補償部18から伝送路特性補償後の信号を入力し、推定された収束点情報28を、誤差算出部22へ出力する。一例として、収束点推定部21は、入力された伝送路特性補償後の信号の信号点と変調方式で定められた収束点とを比較し、最も確からしい収束点を送信された信号の収束点であると推定する。
【0041】
誤差算出部22は、伝送路特性補償部18から伝送路特性補償後の信号を入力するとともに、収束点推定部21から収束点情報を入力し、誤差信号27を求めてFFT部23へ出力する。一例として、誤差算出部22は、伝送路特性補償後の信号の信号点と収束点のそれぞれの軸の値の引き算を行うことで誤差信号27を求める。
【0042】
FFT部23は、誤差算出部22から誤差信号27を入力し、FFT後の誤差信号のスペクトラム29をスペクトラム解析部24へ出力する。
【0043】
スペクトラム解析部24は、FFT部23から誤差信号のスペクトラム29を入力し、CW妨害強さ・周波数26を妨害波除去部17へ出力する。一例として、スペクトラム解析部24は、入力された誤差信号のスペクトラム29から、他より強い周波数成分として現れるCW妨害の周波数と強さの情報を検出する。
【0044】
図2は、本実施形態に係る受信装置の動作を一例として示すフローチャートである。図2は、特に、CW妨害検出の動作を詳細に示す。図2を参照して、本実施形態に係る受信装置10(図1)の動作について説明する。
【0045】
アンテナ部11は、RF信号を受信する(ステップS1)。
【0046】
ミキサ12および発振器13は、RFの周波数をIF(Intermediate Frequency)またはベースバンドまでダウンコンバートし、BPF14により不要帯域を減衰させ、A/D変換器15によりデジタル値へ変換する(ステップS2)。
【0047】
デジタル復調部16は、クロックや信号の周波数や位相ずれを補正する(ステップS3)。
【0048】
収束点推定部21は、伝送路補償後の信号の信号点と変調方式で定められた複数の収束点とを比較し、座標上で伝送路補償後の信号の信号点と最も距離の近い収束点を、送信された信号の収束点であると推定する(ステップS4)。
【0049】
誤差算出部22は、伝送路特性補償後の信号と、収束点推定後の収束点情報28から誤差を算出することで、誤差信号27を生成する(ステップS5)。
【0050】
FFT部23は、誤差算出部22から出力された誤差信号をFFT演算し、誤差信号の周波数成分毎の強さを表す誤差信号のスペクトラム29を生成する(ステップS6)。
【0051】
スペクトラム解析部24は、入力された誤差信号のスペクトラム29から、各周波数成分の強さと平均、前後の周波数成分のレベルとの差等の情報を算出する(ステップS7)。
【0052】
スペクトラム解析部24は、解析結果に基づいて、スペクトラム中の周波数成分の中でレベルの高い(強い)周波数成分があるかを判断する(ステップS8)。
【0053】
レベルの高い周波数成分が存在する場合には(ステップS8のYes)、スペクトラム解析部24は、レベルの高い周波数成分の強さと周波数の情報を検出する(ステップS9)。
【0054】
次に、妨害波除去部17は、誤差信号のスペクトラム解析部24から出力するCW妨害強さ・周波数26を元にCW妨害除去を行う(ステップS10)。
【0055】
一方、レベルの高い周波数成分がない場合には(ステップS8のNo)、ステップS11へ進む。
【0056】
伝送路特性補償部18は、マルチパス等のCW妨害以外の伝送路における妨害要因を波形等化等で補償する(ステップS11)。
【0057】
復号部19は、伝送路補償後の信号を入力し、復号を行う(ステップS12)。
【0058】
図3は、QAM変調方式における信号点配置を示す図である。図3(a)は、QAM変調方式における理想的な信号点配置を示す。一方、図3(b)は、CW妨害による影響を受けた信号点配置を示す。図4は、本実施形態に係る受信装置10によるCW妨害の検出動作を模式的に示す図である。図3および図4を参照して、本実施形態の受信装置10による妨害波の検出メカニズムを説明する。
【0059】
ここでは、変調方式のデータの単位を「シンボル」とし、シンボルを同相(In−phase)のI軸、直角位相(Quadrature)のQ軸の複素平面上にプロットした点を「信号点」とし、信号点の配置を「コンスタレーション(信号点配置図)」とする。
【0060】
図3(a)は、DVB−C(Digital Video Broadcasting−Cable、欧州CATVデジタル方式)の資料EN 300 429 V1.2.1(1998−04)のP−14から、変調方式として16QAMの場合のコンスタレーション例を示したものである。図3(a)は、直交したI軸、Q軸と、16個の信号点の配置関係を表しており、放送に用いられる規格と変調方式により理想的な配置は一意的に決まる。理想的な信号点配置の各信号点を、「収束点」と定義する。
【0061】
図3(a)の”1011”のように、収束点にはそれぞれ情報が割り当てられており、信号点から最も近い収束点の情報を送信側が送信した情報として用いる。
【0062】
図3(b)は、図3(a)の理想的なコンスタレーションに対して、伝送路におけるCW妨害の影響を受けた場合のコンスタレーションを示す。実際の伝送路では、図3(a)に示すような理想的な配置からずれが生じてしまう。図3(b)の白丸は、図3(a)における収束点を示す。一方、図3(b)の黒丸は、CW妨害の影響を受けた信号点を示す。CW妨害の影響を受けると、信号点は、CW妨害のレベルと周波数に応じて、図3(b)に示すように収束点から一定の距離を円状に周回する。図3(b)を参照すると、信号点(黒丸)は、収束点(白丸)から一定の距離を円状に周回するようにして配置されている。
【0063】
図4は、本実施形態に係る受信装置10によるCW妨害の検出動作を模式的に示す図である。
【0064】
図4(a)は、CW妨害の影響を受けたデジタル復調後信号のシンボル4つ分の信号点配置を示す。図4(a)を参照すると、信号点は収束点から一定の距離だけ離れた箇所に配置されている。時刻t1〜t4は、信号点が配置された時刻を例示している。図4(a)に示した場合には、時刻t1〜t4の順に信号点が配置されている。
【0065】
図4(b)は、図4(a)のようにCW妨害の影響を受けたデジタル復調後信号に対してFFTを行った結果のスペクトラムを示す。図4(b)の横軸は周波数を示し、縦軸はレベルを示す。デジタル復調後信号では、図4(a)の時刻t1〜t4における信号点のように、信号点の大きな移動が生じる。信号点の移動は周波数成分となりスペクトラムに大きなレベルとして現れるため、CW妨害成分のスペクトラムは、図4(b)に示すように他の周波数成分に埋もれてしまう。
【0066】
図4(c)は、図4(a)の誤差信号の信号点を示す。収束点推定部21は、図4(a)の時刻t1の信号点と座標上で最も近い白丸を収束点として推定する(図2のステップS4)。誤差算出部22は、図4(a)の時刻t1の信号点の座標から時刻t1の信号点に対する収束点を差し引いて、図4(c)の時刻t1の信号点に対する誤差を求める(ステップS5)。誤差算出部22は、これを時刻t1からt4まで各シンボルについて順に繰り返す。すると、図4(c)に示す誤差信号が得られる。このように、誤差信号は受信信号と収束点の誤差から得られる信号であり、デジタル復調後信号から送信側の情報を除いた信号成分に相当する。このとき、誤差信号には、妨害成分のみが含まれる。
【0067】
FFT部23は、図4(c)の誤差信号に対してFFTを行う(ステップS6)。図4(d)は、FFTの結果として得られるスペクトラムを示す。ここでは、一例として、時刻t1からt4の4つのシンボルのみを図示しているが、実際にはFFTを行うのに十分な数のシンボルが必要とされる。
【0068】
図4(d)は、妨害成分のみのスペクトラムを示す。特に、CW妨害は単一周波数の妨害であることから、スペクトラム中において、他の妨害波と比較して強いレベルのピークとして生じる。したがって、スペクトラム解析部24は、図4(d)のスペクトラムからレベルの強い周波数を探すことで、容易にCW妨害を検出することができる(ステップS7〜S9)。
【0069】
本実施形態の受信装置10によると、FFT解析前に受信信号の信号点と変調方式から収束点を推定し、信号点と推定収束点の誤差信号を算出し、誤差信号のみを解析することで、低レベルのCWも精度良く検出することが可能となる。
【0070】
なお、本実施形態に係る受信装置10に対して、種々の変形が可能である。図5および図6は、実施形態に係る受信装置10の構成の変形例を示すブロック図である。本実施形態では、図1に示すように、妨害波検出回路20は、伝送路特性を補償した信号を伝送路特性補償部18から受信するものとした。一方、図5に示すように、妨害波検出回路20aは、妨害波除去部17から出力された信号を受信するようにしてもよい。また、図6に示すように、妨害波検出回路20bは、デジタル復調部16から出力されたデジタル復調後信号25を受信するようにしてもよい。図1に示すように、妨害波検出回路20が伝送路特性を補償した後の信号を受信する場合には、補償前の信号を受信する場合(図5、図6)と比較して、コンスタレーションの乱れが低減し、FFT後のスペクトラムにおいてCW成分のピークが鮮明となる。
【0071】
(実施形態2)
第2の実施形態に係る受信装置について、図面を参照して説明する。図7は、本実施形態の受信装置30の構成を一例として示すブロック図である。
【0072】
図7を参照すると、受信装置30は、アンテナ部11、ミキサ12、発振器13、バンドパスフィルタ(BPF)14、A/D変換器15、デジタル復調部16、妨害波検出回路40、妨害波除去部37、伝送路特性補償部18、および、復号部19を備える。
【0073】
本実施形態の受信装置30は、第1の実施形態の受信装置10(図1)と比較すると、妨害波除去部37および妨害波検出回路40の構成において相違する。なお、受信装置30(図7)の要素のうちの、受信装置10(図1)に含まれる要素と同一の符号を付した要素については、第1の実施形態と同様の構成であることから、説明を省略する。
【0074】
妨害波除去部37は、デジタル復調部16からデジタル復調後信号25を入力するとともに、CW妨害位相算出部34からCW妨害の強さ・周波数・位相35を入力する。CW妨害が存在する場合には、妨害波除去部37はCW妨害除去後の信号を伝送路特性補償部18へ出力する。妨害波除去部37は、CW妨害の強さ、周波数および位相に応じてCW妨害と逆位相の信号を作成して、デジタル復調後信号25に加算することで、CW妨害を減衰させるようにしてもよい。一方、CW妨害がない場合には、妨害波除去部37は、デジタル復調後信号25をそのまま伝送路特性補償部18へ出力する。
【0075】
図7を参照すると、妨害波検出回路40は、収束点推定部21、誤差算出部22、FFT部23、スペクトラム解析部24、誤差位相算出部33、および、CW妨害位相算出部34を備える。妨害波検出回路40は、誤差位相算出部33およびCW妨害位相算出部34をさらに備える点において、第1の実施形態の受信装置10における妨害波検出回路20(図1)と相違する。なお、妨害波検出回路40(図7)の要素のうちの、妨害波検出回路20(図1)に含まれる要素と同一の符号を付した要素については、第1の実施形態と同様の構成であることから、説明を省略する。
【0076】
誤差位相算出部33は、誤差算出部22から誤差信号27を入力し、誤差信号の位相情報36をCW妨害位相算出部34へ出力する。一例として、誤差位相算出部33は、誤差信号の位相情報36を算出するために、誤差信号27のI軸、Q軸の値から、例えばArctan(Q/I)の近似計算等を行うようにしてもよい。
【0077】
CW妨害位相算出部34は、誤差信号のスペクトラム解析部24からCW妨害強さ・周波数26の情報を入力するとともに、誤差位相算出部33から誤差信号の位相情報36を入力し、CW妨害の強さ・周波数・位相35の情報を妨害波除去部37へ出力する。一例として、CW妨害位相算出部34は、CW妨害の周波数と、妨害波除去部37からCW妨害位相算出部34までの遅延時間とに基づいて、妨害波除去部37におけるCW妨害の位相を算出することができる。CW妨害位相算出部34は、CW妨害の周波数に遅延時間を乗ずることで、該遅延時間におけるCW妨害の位相の回転量を算出することができる。CW妨害位相算出部34は、誤差位相算出部33から受けたCW妨害の位相に対して、算出した位相の回転量を足し合わせることで、CW妨害の現在の位相を求めることができる。
【0078】
図8は、本実施形態に係る受信装置30(図7)の動作を一例として示すフローチャートである。図8におけるステップS1ないしS9、および、ステップS11、S12は、第1の実施形態に係る受信装置10(図1)の動作(図2)と同一であることから、説明を省略する。
【0079】
誤差位相算出部33は、誤差信号の位相を算出する(ステップS21)。
【0080】
CW妨害位相算出部34は、CW妨害の周波数と誤差信号位相から、妨害波除去部37におけるCW妨害の現在の位相を算出する(ステップS22)。
【0081】
妨害波除去部17では、入力されたCW妨害の強さ・周波数・位相35の情報を元にCW妨害除去を行う(ステップS23)。
【0082】
本実施形態の受信装置30は、第1の実施形態の受信装置10とは異なり、誤差信号から位相を算出することで、FFT演算では判別することができないCW妨害の位相を算出する。このとき、妨害波除去部37は、CW妨害信号の逆位相の信号を作成し、CW妨害信号の影響を受けたデジタル復調後信号25に加算することで、CW妨害を除去することが可能となる。
【0083】
なお、上記の特許文献等の先行技術文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0084】
10、30 受信装置
11 アンテナ部
12 ミキサ
13 発振器
14 バンドパスフィルタ(BPF)
15 A/D変換器
16 デジタル復調部
17、37 妨害波除去部
18 伝送路特性補償部
19 復号部
20、20a、20b、40 妨害波検出回路
21 収束点推定部
22 誤差算出部
23 FFT部
24 スペクトラム解析部
25 デジタル復調後信号
26 CW妨害強さ・周波数
27 誤差信号
28 収束点情報
29 誤差信号のスペクトラム
33 誤差位相算出部
34 CW妨害位相算出部
35 CW妨害の強さ・周波数・位相
36 誤差信号の位相情報
50、60 検出部
100 アンテナ部
101 チューナ部
102 A/D変換部
103 直交検波回路
104 乗算器
105 FFT回路
106 等化回路
107 誤り訂正回路
108 広帯域AFC回路
109 時間軸処理回路
110 妨害検出回路
111 可変ノッチフィルタ
t1〜t4 時刻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信したアナログ信号をデジタル復調して得られた時系列信号の各時点における信号点に対する収束点を推定する収束点推定部と、
前記時系列信号と前記収束点との各時点における差分を誤差信号として算出する誤差算出部と、
前記誤差信号を時間領域から周波数領域へ変換する変換部と、
周波数領域に変換された前記誤差信号に基づいて、前記時系列信号に含まれる妨害波の成分を検出する検出部と、を備える妨害波検出回路。
【請求項2】
前記収束点推定部は、前記デジタル復調の方式に応じて決まる理想的な信号点のうちの前記各時点における信号点との距離が最も短い信号点を、前記収束点と推定することを特徴とする、請求項1に記載の妨害波検出回路。
【請求項3】
前記検出部は、周波数領域に変換された前記誤差信号のスペクトルを解析し、前記妨害波の成分として、連続波(CW:Continuous Wave)の振幅および周波数を抽出することを特徴とする、請求項1または2に記載の妨害波検出回路。
【請求項4】
前記検出部は、前記時系列信号を取得した時刻における前記CWの位相を前記誤差信号に基づいて算出するとともに、該時刻から前記時系列信号に含まれる妨害波の除去を開始する時刻までの期間および前記CWの周波数に基づいて該期間における前記CWの位相の回転量を算出し、算出した位相と位相の回転量に応じて、該開始時刻における前記CWの位相を求めることを特徴とする、請求項3に記載の妨害波検出回路。
【請求項5】
前記時系列信号は、受信したアナログ信号をデジタル復調するとともに伝送路特性を補償して得られた時系列信号であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の妨害波検出回路。
【請求項6】
受信したアナログ信号をデジタル復調して得られた時系列信号の各時点における信号点に対する収束点を推定する収束点推定部と、
前記時系列信号と前記収束点との各時点における差分を誤差信号として算出する誤差算出部と、
前記誤差信号を時間領域から周波数領域へ変換する変換部と、
周波数領域に変換された前記誤差信号のスペクトルを解析し、前記時系列信号に含まれる妨害波の成分として、連続波(CW:Continuous Wave)の振幅および周波数を抽出する検出部と、
少なくとも前記CWの振幅および周波数に基づいて、前記時系列信号から前記CWの成分を除去する妨害波除去部と、を備えることを特徴とする受信装置。
【請求項7】
前記妨害波除去部は、前記CWの振幅、周波数、および、前記開始時刻における位相に基づいて、前記時系列信号から前記CWの成分を除去することを特徴とする、請求項6に記載の受信装置。
【請求項8】
前記妨害波除去部は、前記CWの振幅、周波数、および、前記開始時刻における位相に基づいて前記CWと逆位相の信号を生成して、前記時系列信号に足し合わせることにより、前記時系列信号から前記CWの成分を除去することを特徴とする、請求項7に記載の受信装置。
【請求項9】
受信したアナログ信号をデジタル復調して得られた時系列信号の各時点における信号点に対する収束点を推定する推定工程と、
前記時系列信号と前記収束点との各時点における差分を誤差信号として算出する工程と、
前記誤差信号を時間領域から周波数領域へ変換する工程と、
周波数領域に変換された前記誤差信号に基づいて、前記時系列信号に含まれる妨害波の成分を検出する検出工程と、を含むことを特徴とする妨害波検出方法。
【請求項10】
前記推定工程において、前記デジタル復調の方式に応じて決まる理想的な信号点のうちの前記各時点における信号点との距離が最も短い信号点を、前記収束点と推定することを特徴とする、請求項9に記載の妨害波検出方法。
【請求項11】
前記検出工程において、周波数領域に変換された前記誤差信号のスペクトルを解析し、前記妨害波の成分として、連続波(CW:Continuous Wave)の振幅および周波数を抽出することを特徴とする、請求項9または10に記載の妨害波検出方法。
【請求項12】
前記検出工程において、前記時系列信号を取得した時刻における前記CWの位相を前記誤差信号に基づいて算出するとともに、該時刻から前記時系列信号に含まれる妨害波の除去を開始する時刻までの期間および前記CWの周波数に基づいて該期間における前記CWの位相の回転量を算出し、算出した位相と位相の回転量に応じて、該開始時刻における前記CWの位相を求めることを特徴とする、請求項11に記載の妨害波検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−106112(P2013−106112A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246980(P2011−246980)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】