説明

子宮内膜癌および卵巣癌におけるESR1増幅の検出

本発明は、子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患に起因する腫瘍を抗エストロゲン療法に対して反応性であると特定するin vitroでの方法に関する。さらに、本発明は、子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患を有する候補患者を抗エストロゲン療法に適すると特定するin vitroでの方法に関する。さらなる態様において、本発明は、子宮内膜又は卵巣癌を発症する危険がある、子宮内膜又は卵巣の非癌性増殖性疾患を有する個人を特定するin vitroでの方法を提供する。本発明はまた、上記の方法を実施するためのキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患に起因する腫瘍を抗エストロゲン療法に対して反応性であると特定するin vitroでの方法に関する。さらに、本発明は、子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患を有する候補患者を抗エストロゲン療法に適すると特定するin vitroでの方法に関する。さらなる態様において、本発明は、子宮内膜又は卵巣癌を発症する危険がある、子宮内膜又は卵巣の非癌性増殖性疾患を有する個人を特定するin vitroでの方法を提供する。本発明はまた、上記の方法を実施するためのキットを提供する。
【背景技術】
【0002】
子宮内膜癌は、先進国における最も一般的な女性生殖系悪性疾患である。EUでは、子宮内膜癌は、女性における癌の約6%を占め、総発生率は17/100000人/年であり、死亡率は3.5/100000人/年である。エストロゲン依存性子宮内膜腫瘍(I型)は、子宮内膜腫瘍の大部分(>90%)を占めている。それらは、一般的に低い悪性度を有し、すなわち、十分又は中等度に分化しており、主として類内膜型である。この形の癌を有する患者は、しばしば肥満、糖尿病、未経産及び高血圧であるか、又は閉経が遅い。I型腫瘍は、しばしば増殖症、特に異型増殖症を伴う。抵抗のないエストロゲン様刺激及びエストロゲン受容体(ER)の過剰発現がこの群の腫瘍の背後の推進力として一般的に認められる(非特許文献1)。しかし、乳癌と異なり、疾患の早期及び進展期における抗エストロゲン療法の結果は、大部分は失望させるものであった(非特許文献2)。特に、ER陽性乳癌の治療について広く記載されている強力なER阻害薬であるタモキシフェンの成功は、子宮内膜癌では限られたものであると思われる。明らかに療法を開始する前にタモキシフェンのような作用物質に反応する患者を特定する手段を提供することが好ましいと思われる。
【0003】
卵巣癌は、女性の癌による死因の第5位であり、2番目に多く一般的に診断される女性生殖系悪性疾患である。経済的に発展している国は、最も高い率を示している。非家族性卵巣癌の原因は通常不明である。しかし、最近の研究で、10年間又はより遅く高用量エストロゲン補充療法による治療を受けた閉経女性におけるリスクが高いことが示された。妊娠及び経口避妊法の防護効果は、疾患の誘発における排卵の直接的な役割を示唆するものであるが、危険因子を悪性転化に関連づける説得力のあるメカニズムは提案されていない(非特許文献3)。
【0004】
6q25.1に位置し、エストロゲン受容体のαアイソタイプをコードするESR1遺伝子の増幅が、子宮内膜又は卵巣癌などの子宮内膜及び卵巣の癌性及び非癌性増殖性疾患の一般的な特徴であることが今回驚くべきことに発見された。ESR1遺伝子の増幅は、これに関して検討した子宮内膜癌の22.7%で、卵巣癌の7.5%に認められ、すべての組織学的サブタイプにおいて起った。子宮内膜又は卵巣のESR1増幅腫瘍は、タモキシフェン及び抗エストロゲン療法にしばしば用いられている類似の作用物質に対する特に強い反応を示す。結果として、ESR1増幅の検出は、重要な臨床上の意味があり、診断及び予後の推定に、並びに子宮内膜又は卵巣癌などの子宮内膜及び卵巣の増殖性疾患に罹患している特定の患者について用いる特定の治療プロトコールに関する意思決定のためのツールとしても用いることができる。
【0005】
ゲノムDNAの増幅は、例えば、さもなければ成長速度を制限するような遺伝子の高レベルの過剰発現により、腫瘍細胞の成長を促進することを目的とする選択過程の結果である。したがって、増幅遺伝子は、腫瘍細胞にとって生命にかかわるほどに重要であり、新たな遺伝子特異療法の特に魅力的な標的である。例えば、乳癌において、30を超える増幅領域が古典的比較ゲノムハイブリッド形成法(CGH)により検出された。例えば、非特許文献4を参照のこと。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Silverberg S.G.ら、Tumours of the uterine corpus: Epithelial tumors and related lesions. WHO classification of tumours(Tavassoli F.A. & Devilee、P.編)中、221〜249頁(IARC Press、Lyon、2003年)
【非特許文献2】Thigpen T.ら、(2001年)、J Clin Oncol、第19巻、364〜7頁
【非特許文献3】Lee K.R.ら、(2003年) WHO classification of tumors(Tavassoli F.A. & Devilee、P.編)中、221〜249頁(IARC Press、Lyon、2003年)
【非特許文献4】O’Connellら、(2003年)、Breast Cancer Res Treat、第78巻、347〜357頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エストロゲンは、ステロイドホルモンの群に属する。女性における3つの主要な天然エストロゲンは、エストラジオール、エストリオール及びエストロンである。思春期から閉経までは、エストロゲンの産生は、主として卵巣で起る。卵巣がもはやエストロゲンを産生しない閉経後では、体脂肪がこれらのホルモンの主な源である。他のステロイドホルモンと同様に、エストロゲンは、シグナル伝達分子として作用し、エストロゲン調節の標的である組織の細胞内に存在するエストロゲン受容体に結合することによりそれらの機能を示す。エストロゲン受容体αアイソタイプ(又はER−α)及びエストロゲン受容体βアイソタイプ(又はER−β)と呼ばれる2種のヒトエストロゲン受容体が存在する。該アイソタイプは、異なる染色体位置に認められる異なる遺伝子であるそれぞれESR1及びESR2によりコードされ、多数のmRNAスプライス変異型が疾患及び正常組織の両方において両受容体について存在する(例えば、Deroo & Korach(2006年)、Journal of Clinical Investigation、第116巻、561〜570頁を参照)。
【0008】
すべてのステロイド受容体と同様に、エストロゲン受容体(すなわち、α及びβアイソタイプ)は、転写活性化、DNA結合、核局在化、リガンド結合及び二量体化を担うタンパク質の別個の領域(ドメイン)を有するモジュール構造を示す(Peters及びKhan(2003年)、Mol Endocrin、第13巻(2号)、286〜296頁を参照)。ER−α及びER−βは、リガンド結合(AF−2)及びDNA結合ドメインにおける高度の相同性を有しているが、活性化機能(AF−1)ドメインが異なっている。AF−1ドメインの比較により、エストロゲン応答エレメント上の活性はER−αのほうがER−βよりはるかに強いことが示唆される(Cowley S.M.ら(1999年)、J Steroid Biochem Mol Biol 、第69巻、165〜175頁)。ER−βの機能及び臨床上の意味については比較的わずかなことが知られているが、ER−βは、ER−αの機能を相殺し、エストロゲン刺激増殖の低下をまねくと一般的に考えられている(Omoto Y.ら(2003年)、Oncogene、第22巻、5011〜5020頁)。
【0009】
ヒトエストロゲン受容体αは、ヒトの第6染色体の6q25.1に位置するESR1遺伝子によりコードされる。配列番号1のヌクレオチド配列は、ESR1コード配列を、ESR1コード配列の上流(配列の5’末端)に位置する約1Mbの配列及びESR1コード配列の下流(配列の3’末端)に位置する約1.38Mbの配列と一緒に示す。ESR1遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号1に示す配列の位置1048135におけるヌクレオチドで始まり、配列番号1に示す配列の位置1343855で終わる。本明細書で用いるように、「ESR1遺伝子」及び「ESR1コード配列」は、同義で用い、転写され、このDNA実体に関連すると思われるプロモーター及びエンハンサー構造を含まない配列番号2に示すmRNAにスプライスされるゲノム配列を意味する。ESR1遺伝子配列はまた、ヒトの第6染色体の集合ヌクレオチド配列が提供されるNCBI GenBank ID NT_025741.14のもとに入手可能である。「ヒトゲノムBuild 36」と呼ばれている配列部分において、ESR1遺伝子は、ヌクレオチド152170379〜152466099を含む。ESR1遺伝子は、転写後のスプライスで切除されるいくつかのイントロンを含む。スプライスされたESR1 mRNA配列のヌクレオチド配列は、配列番号2に示されており、NCBI GenBank ID NM_000125のもとに入手可能である。エストロゲン受容体αタンパク質の対応するアミノ酸配列は、配列番号3に示されており、NCBI GenBank ID NM_000125のもとに入手可能である。ESR1遺伝子の多数の対立遺伝子変異型が存在する。例えば、Modugnoら、2001年、Clin Cancer Res.、第7巻(10号)、309頁又はMansur Adeら、2005年、Arch Med Res.、第36巻(5号)、511頁を参照のこと。
【0010】
エストロゲン受容体(α及びβアイソタイプ)は、通常、標的細胞の核に位置する。ステロイドホルモンの作用の受入れられているモデルによれば、エストロゲン受容体は、ホルモンが存在しない場合には不活性の状態にある。エストロゲンが核内に入ったとき、エストロゲン受容体はエストロゲンに結合する。エストロゲンの結合時に、受容体は二量体を形成し、それが次に、アクチベータータンパク質1(AP1)又はエストロゲン応答遺伝子のプロモーター領域におけるSP1部位とのタンパク質−タンパク質相互作用により直接的又は間接的にエストロゲン応答エレメントDNA配列に結合する。この結合は、プロモーターへの補助調節タンパク質(コアクチベーター又はコレプレッサー)の動員をもたらし、それにより、遺伝子発現の増加又は減少をまねく。変化した遺伝子発現は、関係する組織の種類によって、異なる態様で細胞の挙動に影響を及ぼし得る。乳房組織などの一部の標的組織において、健常女性におけるエストロゲンの主な作用は、細胞増殖を誘導することである。例えば、エストロゲンは、乳汁の産生を準備するために、乳腺を裏打ちする細胞の増殖を引き起す。2つのアルファ単位又は2つのベータ単位からなるホモ二量体受容体のほかに、混合二量体も存在し得る。異なる組織は、2つのアイソタイプを異なる割合で発現し、したがって、エストロゲンによる刺激に対して異なる応答を有する。
【0011】
特定の細胞型の増殖を促進する能力は、エストロゲン分子の正常な機能の範囲内にあるが、乳癌などの癌を発症する危険の増大も伴う(Lawson J.S.ら(1999年)、Lancet、第354巻、1787〜1788頁)。一旦癌細胞が形成したならば、これらの細胞の増殖を刺激するシグナル分子を有することは非常に望ましくない。結果的に、所定の患者の乳癌細胞がエストロゲン受容体を発現しているか否かを判断するために、エストロゲン受容体のαアイソタイプの発現の免疫組織化学的検出が日常的に行われる(Andersen J.及びPoulsen H. S.(1989年)、Cancer、第64巻、1901〜1908頁)。乳癌について、乳癌の2/3以上が診断時にエストロゲン受容体のαアイソタイプの発現を示すことが知られている(Stierer M.ら(1993年)、Ann Surg、第218巻、13〜21頁)。これらの癌は、エストロゲン受容体陽性又はER陽性と一般的に呼ばれている。残りの乳癌症例においては、エストロゲン受容体αタンパク質を細胞内に検出することができない。これらの癌は、エストロゲン受容体陰性又はER陰性である。ER陽性乳癌は現在、いわゆる選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERMs)及び/又はアロマターゼインヒビターを用いた抗エストロゲン療法により治療している。例えば、タモキシフェンのようなエストロゲンアンタゴニストは、通常、腫瘍の外科的除去の後にER陽性乳癌患者にしばしば適用される。
【0012】
係属中の欧州特許出願第06116106.3号において、抗エストロゲン療法に対して特に良好な反応を示す、乳癌に罹患したER陽性患者の群内のサブグループを特定することが可能であることが示された。ゲノムレベルでESR1遺伝子の増幅を示す乳癌患者の腫瘍はタモキシフェンによる抗エストロゲン療法に対して明らかに高い反応を示すことを実証することができた。これらの患者は、例えば、タモキシフェンを用いた抗エストロゲン療法に特に適すると分類された。
【0013】
本発明の過程において、増幅したESR1遺伝子を有する腫瘍の類似のサブグループを子宮内膜及び卵巣癌について特定することができることがさらに発見された。したがって、本発明の方法は、ESR1遺伝子が増幅されているという証拠に基づいて、抗エストロゲン療法に対する子宮内膜及び卵巣の増殖性疾患に起因する腫瘍の反応性を予測することを可能にする。腫瘍の性質及び分子的特性により合った適切な治療スケジュールをデザインするために、そのような情報は有用であると言える。例えば、腫瘍が抗エストロゲン療法、例えば、タモキシフェンの投与に対して特に良好な反応性を示す場合には、併用化学療法を適用する必要がなく、患者に抗エストロゲン単独療法を受けさせることができる。或いは、化学療法が依然として療法の一部である場合、同じ治療結果を維持しつつ、化学療法薬の用量を減少させることが可能であろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ESR1遺伝子の増幅は、ヒト染色体上のESR1遺伝子を組み立てるゲノム配列部分の同時増幅を一様に伴う。ESR1配列の増幅を検出することにより直接的に、またESR1遺伝子を含む又はその両端に隣接するヌクレオチド配列の増幅を検出することにより間接的にESR1遺伝子増幅事象を見分けることが可能であることが示された。したがって、本発明の第1の態様によれば、子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患に起因する腫瘍を抗エストロゲン療法に対して反応性であると特定するin vitroでの方法を提供する。該方法は、
a)配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド配列部分を選択する工程と、
b)前記腫瘍の細胞サンプル中で前記ヌクレオチド配列部分が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されているかどうかを検出する工程と、
c)前記ヌクレオチド配列部分が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されている場合に、前記腫瘍を抗エストロゲン療法に対して反応性であると分類する工程と
を含む。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患に起因する腫瘍を有する候補患者を抗エストロゲン療法に適すると特定するin vitroでの方法を提供する。該方法は、
a)配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド配列部分を選択する工程と、
b)前記腫瘍の細胞サンプル中で前記ヌクレオチド配列部分が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されているかどうかを検出する工程と、
c)前記ヌクレオチド配列部分が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されている場合に、前記患者を抗エストロゲン療法に適する患者と分類する工程と
を含む。
【0016】
したがって、本発明はまた、上記に示した工程a)及びb)、並びに配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド配列部分又はそのような部分と少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されている場合に、患者に抗エストロゲン療法を受けさせる工程を含む、子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患に起因する腫瘍に罹患している患者を治療する方法を提供する。本発明の好ましい実施形態によれば、腫瘍は、子宮内膜癌又は卵巣癌に起因する。しかし、ESR1増幅は、子宮内膜又は卵巣癌においてだけでなく、異型性を有する複雑型子宮内膜増殖症などの子宮内膜及び卵巣の良性増殖性疾患の有意な部分においても検出することができる。
【0017】
遺伝子増幅は、突然変異と同様に、遺伝子変異を構成する。一般に、増幅は、mRNAを著しく過剰発現させ、タンパク質を生じさせることにより、遺伝子活性を調節する。正常上皮組織においては、エストロゲン受容体のαアイソタイプの機能は、細胞増殖を促進するシグナルの受取りと変換にある。ESR1増幅は、非癌性及び癌性増殖性疾患における細胞増殖に対して同様な影響を有する。増殖速度の増加は、さらなる遺伝子変異を獲得する危険、ひいては癌を発症する危険を増大させる。したがって、ESR1増幅は、悪性転化の可能性の増加を伴う子宮内膜又は卵巣の非癌性増殖性疾患を示すことがあり得る。ESR1増幅状態の分析は、本明細書で述べる子宮内膜又は卵巣のそのような非癌性増殖性疾患を有する患者における予後マーカーとしての役割を果たし得る。
【0018】
さらなる態様によれば、本発明は、したがって、子宮内膜又は卵巣癌をそれぞれ発症する危険がある子宮内膜又は卵巣の非癌性増殖性疾患に起因する腫瘍を有する個人を特定するin vitroでの方法を提供する。該方法は、
a)配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド配列部分を選択する工程と、
b)前記腫瘍の細胞サンプル中で前記ヌクレオチド配列部分が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されているかどうかを検出する工程と、
c)前記ヌクレオチド配列部分が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されている場合に、前記個人を子宮内膜又は卵巣癌をそれぞれ発症する危険がある個人であると分類する工程と
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】表1において、子宮内膜癌におけるESR1増幅のFISH分析の結果を示し、表2において、子宮内膜癌におけるエスロゲン受容体発現の免疫組織化学分析の結果を示す図である。
【図2】表3において、子宮内膜癌におけるESR1増幅とエストロゲン受容体発現との関連を示し、表4において、卵巣癌におけるESR1増幅のFISH分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による方法は、子宮内膜又は卵巣の細胞及び/又は組織を含むサンプルを用いるin vitroでの方法である。細胞及び組織は、問題の領域、特に腫瘍に由来する。組織サンプルの源は、例えば、新鮮、凍結及び/又は保存組織サンプル、生検材料、細胞学的塗沫標本又は吸引液からの固形組織であってよい。好ましくは、サンプルは、子宮内膜又は卵巣生検に由来するものである。子宮内膜又は卵巣生検は、さらなる分子的かつ/又は組織学的検査のために細胞又は組織を除去することを含む。例えば、子宮内膜又は卵巣生検材料サンプルは、通常、患者の子宮内膜又は卵巣に癌細胞が存在するかどうかを判定するために用いられる。従来、生検及びその後の病理学的分析は、子宮内膜又は卵巣癌を確認するための唯一の決定的方法である。それにもかかわらず、ESR1増幅の検出を血液サンプルにおいても可能であると予想される。この目的のために、腫瘍細胞を末梢血から分離し、増幅の検出に供した。血液から腫瘍細胞を分離する方法としては、ろ過法(Vonaら(2000年)、Am J Pathol、第156巻、57頁に記載されている「上皮腫瘍細胞のサイズによる分離(ISET)」)又は免疫磁気(Brandtら(1998年)、Int J Cancer、第76巻、824頁)又はフローサイトメトリー法(Wongら(1995年)、Br J Surg、第82巻、1333頁)などがある。さらに、ESR1増幅の検出は、骨髄細胞から得られる細胞においても可能であるはずである。
【0021】
従来技術において、子宮内膜又は卵巣生検材料又は細胞学的塗沫標本を得る種々の方法が知られている。これらの生検方法は、当技術分野でよく知られており、多数の刊行物及び標準的教科書に記載されている(例えば、S.K. Rosevear、Handbook of gynaecological management、Blackwell Science、2002年又はM. Jamesら、Obstetrics and Gynaecology: A Problem−Solving Approach、Bailliere Tindall、1999年を参照)。例えば、子宮内膜生検材料は、Pipelle又はNorak掻爬器を用いることにより得ることができる。掻爬器を子宮頚管を経て子宮腔内に挿入し、子宮組織を除去する。子宮内膜塗沫標本は、細胞ブラシ又は子宮洗浄法により得ることができる。卵巣生検材料は、腹腔鏡下生検法により得ることができる。
【0022】
検査するサンプルは、子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患に罹患している患者から得る。子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患は、異常かつ/又は非制御細胞増殖を伴う、それぞれ子宮内膜又は卵巣組織の状態を意味する。そのような増殖性疾患において、子宮内膜又は卵巣に腫瘍、すなわち、過度の細胞分裂に起因し、有用な身体機能を果たさない細胞の異常な塊が形成される。子宮内膜又は卵巣の腫瘍は、良性腫瘍と悪性腫瘍に区別される。したがって、腫瘍形成につながる増殖性子宮内膜又は卵巣疾患は、良性又は悪性疾患であり得る。
【0023】
悪性腫瘍は、患者が子宮内膜又は卵巣癌に罹患していることを意味する、一般的に癌である。癌は、隣接組織に侵入し、破壊し、転移巣を造る潜在性がある。子宮内膜癌の主な種類は、類内膜、漿液性及び明細胞腺癌である。卵巣癌の主な種類は、漿液性、ムチン、類内膜及び明細胞腺癌である。子宮内膜又は卵巣癌の診断及び分類は、当技術分野でよく知られており、多数の刊行物で考察されている(例えば、Tavassoli F.A.ら(2003年)、World Health Organization: Tumours of the Breast and Female Genital Organs、WHO/IARC Classification of Tumoursを参照)。
【0024】
良性腫瘍は、隣接組織に侵入せず、転移巣を広げないことを特徴とする。通常、良性腫瘍は、腫瘍組織の外科的除去の後に再発しない。本明細書で用いるように、良性腫瘍は、非癌性増殖性子宮内膜及び卵巣疾患に起因する。そのような非浸潤性疾患はまた、後期において癌性疾患をしばしばもたらすことが知られている前癌状態を含む。本発明のさらなる態様によれば、増殖性子宮内膜及び卵巣疾患は、子宮内膜増殖症(異型性を有さない単純型増殖症、異型性を有さない複雑型増殖症、単純型異型増殖症、複雑型異型増殖症)及び低悪性度の卵巣腫瘍(漿液性、ムチン様、類内膜及び明細胞境界腫瘍並びにブレンナー境界腫瘍)からなる良性疾患の群から選択される。これらの状態は、医学の分野で知られており、標準的教科書及び多数の刊行物に詳細にさらに記載されている(例えば、Tavassoli F.A.ら(2003年)、World Health Organization: Tumours of the Breast and Female Genital Organs、WHO/IARC Classification of Tumoursを参照)。
【0025】
本発明によれば、腫瘍細胞のゲノムにおける増幅したESR1遺伝子を有する腫瘍を伴う増殖性疾患を有する個人は、例えば、タモキシフェンの投与による抗エストロゲン療法に特に適することが発見された。これらの患者の腫瘍は、抗エストロゲン療法に対して特に反応性であることが示された。本発明の目的のために、腫瘍又は患者に関する文脈における「反応性」は、前記腫瘍又は前記患者に関する疾患状態の改善につながる、特定の適用された療法に対する有用な臨床反応が得られることを意味する。同様に、特に反応性とは、有用な臨床反応が、同じ療法を受けさせたESR1増幅を有さない患者の腫瘍(例えば、ESR1遺伝子の増幅のないER陽性又はER陰性)と比較して強いことを意味する。
【0026】
腫瘍に関して、有用な臨床反応は、腫瘍サイズの減少、成長の緩徐化及び/又は転移巣を広げる傾向の低下(悪性腫瘍の場合)による腫瘍サイズの安定化を含んでよい。好ましくは、抗エストロゲン療法に対して反応性である腫瘍は、療法中又はその後にサイズが減少する。子宮内膜又は卵巣の非癌性増殖性疾患を有する特定の患者に関して、臨床反応は、子宮内膜又は卵巣癌を発症する危険の低下も含んでいてよい。子宮内膜又は卵巣癌を有する特定の患者に関して、臨床反応は、疾患の進行の遅延又は緩徐化、及び特に治療を受けない場合の生存期間と比較して患者の生存期間を延長させることも含んでいてよい。
【0027】
「抗エストロゲン治療」又は「抗エストロゲン療法」は、エストロゲンとエストロゲン受容体、好ましくはエストロゲン受容体のαアイソタイプとの間の自然に発生する相互作用を妨げることを目標とする手段を意味する。具体的には、抗エストロゲン治療又は抗エストロゲン療法は、細胞増殖などのエストロゲン誘発性反応を生じさせるエストロゲン受容体のシグナル変換機能の阻止をもたらす手段を含む。そのような手段は、例えば、エストロゲン受容体、好ましくは受容体のαアイソタイプに対するエストロゲンの結合の競合的阻害により作用する活性作用物質又は薬物の投与を含む。治療上有効な量で投与するとき、これらの作用物質又は薬物は、エストロゲン受容体、好ましくは受容体のαアイソタイプに結合し、それにより、エストロゲンがこの受容体に結合することを阻止する。本発明によれば、これらの化合物は、「エストロゲンアンタゴニスト」と呼ばれる(下記を参照)。エストロゲンアンタゴニストのほかに、他の現行の抗エストロゲン戦略は、治療上有効な量の選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーター(例えば、フルベストラント)を投与することによるエストロゲン受容体、好ましくは受容体のαアイソタイプの不安定化及び分解、又は治療上有効な量のアロマターゼ阻害薬(例えば、アナストゾール、エクゼメスタン)を投与することによるエストロゲン合成の破綻を含む。
【0028】
「治療上有効な量」という用語は、哺乳類、好ましくはヒトにおける疾患又は障害を治療するのに有効な薬物の量を意味する。子宮内膜又は卵巣の癌性又は非癌性増殖性疾患の場合、治療上有効な量の薬物は、通常、腫瘍の成長を抑制し(すなわち、ある程度まで遅くし、好ましくは停止させる)、かつ/又は腫瘍のサイズを減少させる。子宮内膜又は卵巣癌の場合、それは、周囲臓器内への癌細胞の浸潤を抑制し(すなわち、ある程度まで遅くし、好ましくは停止させる)、腫瘍の転移を抑制する(すなわち、ある程度まで遅くし、好ましくは停止させる)こともできる。さらに、それは、既存の癌細胞を殺滅することができる。治療上有効な量の薬物は、子宮内膜又は卵巣癌などの子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患に伴う1つ又は複数の症状も軽減することができる。療法については、薬物投与の有効性は、例えば、疾患の進行までの時間(TTP)を評価し、かつ/又は奏功率(RR)を決定することにより、測定することができる。療法の有効性を決定する方法は、特定の障害に依存するものであり、さらに当業者によく知られている(Kelloff G.F.ら(2005年)、Eur J Cancer、第41巻、491〜501頁)。抗エストロゲン治療薬として投与した特定の作用物質の最適用量及び投与方法は、いくつかの抗エストロゲン薬に関する最新技術において詳細に記載されている。例えば、タモキシフェンに関しては、治療上有効な用量は、1年から数年まで、例えば、2〜5年の期間にわたり10〜100mg/日であってよい。5年間にわたる約60mg/日の用量が文献に報告されている(Kungら(2003年)、J Clin Endocrinol Metab、第88巻(7号)、3130頁)。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、上記の方法で言及した抗エストロゲン療法は、エストロゲンアンタゴニストの投与を含む。本発明によれば、「エストロゲンアンタゴニスト」という用語は、エストロゲン受容体、好ましくはエストロゲン受容体のαアイソタイプ(ホモ二量体又はヘテロ二量体)に結合し、それにより、それぞれのアゴニスト(エストロゲン)の作用を阻害又は実質的に低下させる化合物を意味する。エストロゲンアンタゴニストは、競合又は非競合アンタゴニストであってよい。競合エストロゲンアンタゴニストは、エストロゲン受容体についてエストロゲン(又は他のアゴニスト)と競合する。エストロゲン受容体に競合エストロゲンアンタゴニストが結合することにより、アゴニストであるエストロゲンは、受容体に結合することが阻止される。そのような競合エストロゲンアンタゴニストの例は、タモキシフェンである。これに対して、非競合アンタゴニストは、他の手段によりエストロゲン受容体に拮抗する。例えば、トリロスタン(Modrenal,Bioenvision)は、アロステリックであると推定される非競合的方法でER−α及びER−β受容体のAF−1ドメインに結合する。AF−1ドメインは、タンパク質−タンパク質相互作用(エストロゲン結合ではない)及びトリロスタン結合に関与し、それにより、活性化の先行条件である受容体の二量体化の調節に寄与する(Puddlefoot J.R.ら(2002年)、Int J Cancer、第101巻、17〜22頁)。競合又は非競合エストロゲンアンタゴニストは、補遺に記載されているプロトコールを含むNational Institutes of Health(NIH)publication no. 03−4504(2002年)に記載されているもののような一般的なエストロゲン受容体結合アッセイにより見いだすことができる。
【0030】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、エストロゲンアンタゴニストは、タモキシフェン(例えばAstra ZenecaからNovaldexとして、又は他の製造業者から、例えば、Jenoxifen、Kessar、Nourytam、Tamobeta、Tamofen、Tamokadin、Tamoxasta、Tamox−GRY、Tamoxifen AL、Tamoxifen−biosyn、Tamoxifen cell pharm、Tamoxifen Heumann、Tamoxifen Hexal、Tamoxifen medac、Tamoxifen−ratiopharm、Tamoxigenat、Tamoximerck、Tamoxistad、Zemideなどの商品名で購入できる)、ラロキシフェン(例えばEli LillyからRevistaとして購入できる)、クロミフェン(例えばHexalからClomhexalとして購入できる)、トレミフェン(GTx Inc.からFarestonとして購入できる)、トリロスタン(Bioenvision、UKのみからModrenalとして購入できる)又はその機能性誘導体からなる群から選択される。本発明の特に好ましい実施形態によれば、エストロゲンアンタゴニストは、タモキシフェン又はその機能性誘導体である。さらなる好ましい実施形態によれば、タモキシフェンは、治療効果を最大化するために子宮内膜癌などの増殖性子宮内膜疾患を治療するためのプロゲステロンなどのホルモンと併用して投与される。機能性誘導体は、一般的に上記の化合物から化学修飾により得られる。タモキシフェンの場合、そのような誘導体は、例えば、4−ヒドロキシ−タモキシフェン及び4−ヒドロキシ−N−デスメチル−タモキシフェン(エンドキシフェン)を含む。
【0031】
或いは、抗エストロゲン療法は、エストロゲン合成を妨げる作用物質の投与を含んでいてよい。エストロゲンの産生を阻害、阻止又は減少させることにより、エストロゲン受容体、好ましくはエストロゲン受容体αに対するエストロゲン(エストラジオールなど)の結合の減少を達成することができる。エストロゲン合成を妨げる作用物質は、例えば、アロマターゼ阻害薬を含む。アロマターゼは、シトクロムP450を含む酵素の群に属し、エストロゲンの産生における重要な段階である、アンドロゲンのエストロゲンへの芳香族化を触媒する。アロマターゼ酵素の阻害は、エストロゲンレベルの低下(低エストロゲン)をもたらす。アロマターゼ阻害薬は、アナストロゾール(Astra ZenecaからArimidexとして購入できる)、レトロゾール(Novartis PharmaceuticalsからFemaraとして購入できる)、ホルメスタン(NovartisからLentaronとして購入できる)及びエキセメスタン(PharmaciaからAromasinとして購入できる)などの化合物を含む。アロマターゼ阻害薬は、アロマターゼ酵素を用いる一般的な酵素阻害アッセイにより特定することができる。そのようなアッセイの例は、Matsuiら(2005年)、J Pharm Biomed Anal、第38巻(2号)、307〜12頁に記載されている。
【0032】
他の態様によれば、抗エストロゲン療法は、エストロゲン受容体、好ましくはエストロゲン受容体αの発現をダウンレギュレートする作用物質の投与を含む。好ましくは、エストロゲン受容体の発現をダウンレギュレートする作用物質は、フルベストラント又はその機能性誘導体である。フルベストラントは、Astra ZenecaからFaslodexの名称で入手することができる。フルベストラントは、エストロゲン受容体、好ましくはエストロゲン受容体αへのエストロゲンの結合を阻止するエストロゲン受容体アンタゴニストである。さらに、それは該受容体のダウンレギュレーションを誘発する(Morris C.及びWakeling A.、Endocr Relat Cancer(2002年)、第9巻(4号)、267〜76頁;Gradishar W. J.、Oncologist、(2004年)、第9巻(4号)、378〜84頁)。エストロゲン受容体のダウンレギュレーションを誘発する他の化合物は、低分子干渉RNA(siRNA)、標的特異的(例えば、ER)mRNA(Grunwellerら(2005年)、Current Medicinal Chemistry、第12巻(26号)、3143〜3161頁)又はMelnickら(2005年)、JCO、第23巻(17号)、3957〜3970頁で総説されているような転写の他の修飾因子を含んでいてよい。
【0033】
抗エストロゲン療法は、単独療法として、又は化学療法及び/若しくは放射線との併用療法で実施することができる。好ましくは、抗エストロゲン療法は、単独療法として実施される。本発明の一態様によれば、抗エストロゲン療法は、転移を予防するために子宮内膜又は卵巣癌に罹患している患者においてアジュバント療法として実施する。抗エストロゲン療法は、癌の発症を予防するために子宮内膜又は卵巣癌を発症する危険度が高い患者の予防的治療にも有用であり得る。抗エストロゲン療法は、化学療法と比較して忍容性が優れていることから、症状がない時間を延長するために進行及び再発性子宮内膜又は卵巣癌を有する女性における待期的療法にしばしば用いられる。
【0034】
通常、癌などの子宮内膜又は卵巣の腫瘍は、第1の治療段階で外科的手段により除去され、ほとんどの症例でその後にアジュバント療法が行われる。現在では、例えば、その後の放射線療法又は化学療法を伴う又は伴わない完全又は部分的子宮切除術又は卵巣切開術などの、いくつかの外科的アプローチが確立された。腫瘍の外科的除去が可能でない場合、例えば、健常組織の浸潤が非常に進展した状態である場合、子宮切除術又は卵巣切開術の前に腫瘍のサイズを減少させるために、化学療法がしばしば用いられる。
【0035】
アジュバント療法の主な目的は、原発腫瘍から広がり、前記腫瘍の外科的除去の後に存続する可能性がある癌細胞を根絶することである。したがって、治療は、通常全身的に、例えば、作用物質が体内に循環することを可能にする経口摂取又は血流への注入により行われる。患者をアジュバント療法により治療しなければならないかどうかは、疾患の後期で転移を起す患者の個別の危険性及び腫瘍サイズ、腫瘍の組織学的種類などの他のいくつかの因子、並びに疾患の攻撃性のグレードに依存する。これらの因子に基づいて、患者を転移を起す低、中又は高危険度に帰属させる。子宮内膜又は卵巣癌のアジュバント療法は、単独又は併用での抗エストロゲン療法又は化学療法を含んでいてよい。
【0036】
アジュバント療法に関連して、化学療法は、シクロホスホミド、メトトレキサート及び5−フルオロウラシルなどの物質を用いて、いわゆるCNFスキームに従って一般的に実施される。或いは、アントラサイクリンを含む作用物質に基づく化学療法も利用できる。他の頻繁に用いられている化学療法剤としては、アルキル化剤、例えば、チオテパ、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスファオルアミド及びトリメチロロメラミンなどのエチレンイミン及びメチルアメラミン;ブスルファン及びピポスルファンなどのスルホン酸アルキル;イホスファミド、クロルアムブシル、エストラムスチン、クロルナファジン、コロホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、ノベムビキン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミドなどの窒素マスタード;ホテムスチン、ロムスチン、カルムスチン、クロロゾトシン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロソ尿素;カルボコン、ベンゾドーパ、メツレドーパ、ウレドーパなどのアジリジン;6−メルカプトプリン、フルダラビン、チオグアニンなどのプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフル、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5−FUなどのピリミジン類似体;及びカルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロソ尿素などがある。しかし、主としてそれぞれの作用物質の作用機序が非特異的であるため、化学療法は、患者にとってかなりの副作用を伴う過酷な療法である。したがって、低用量化学療法を用いずに、又は用いて効果的に治療することができる患者を特定することは極めて望ましい。これに関連して、タモキシフェンの投与などの抗エストロゲン療法に対する高度の臨床反応を示す患者を特定することは極めて妥当である。したがって、一態様において、本発明は抗エストロゲン療法に対する高度の反応を示し、したがって、併用化学療法の必要のない、又は低用量化学療法との併用での、抗エストロゲンの投与に基づく治療プロトコールに供するのに適するエストロゲン受容体陽性患者のサブグループを特定する適切な手段を提供する。したがって、本発明は、より良好な予後並びに治療中の患者の全般的な状態の改善に寄与する。このように、有効な治療は、化学療法の不快で、健康を脅かす影響を伴うことがはるかに少なく、同時に高レベルの医療効果を維持する方法で行うことができる。
【0037】
本発明はまた、増幅状態への変化が特定の療法中、例えば、タモキシフェン又は他の抗エストロゲン薬による治療中に起ったかどうかをモニターするために、腫瘍を、本明細書に記載するような抗エストロゲン療法に対して反応性であると特定するための方法を連続的に、例えば、3、6、9、12又は18カ月の期間内に2回行う、抗エストロゲン療法に対する腫瘍又は患者の反応性の長期調査の適切な方法を提供する。該方法は、子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患に起因する所定の腫瘍が抗エストロゲン療法に対する抵抗性を発生するかどうかを評価するのに特に適しているであろう。
【0038】
低いレベルの増幅、正常なESR1遺伝子コピー数を有する腫瘍細胞、又はESR1の喪失を有する細胞は、抗エストロゲン療法に対して最適な反応を示さないか、又はそのような療法を免れさえすると思われる。そのような細胞は、抗エストロゲン療法のもとで選択優位性を有すると考えられ、ホルモン不応性(抵抗性)腫瘍の発生の源であると思われる。そのような効果は、アントラサイクリン療法の分子標的であるトポイソメラーゼ2αについて知られている。in vitroで行われた試験で、TOP2A異常を有さない細胞株又はTOP2Aの欠失を有する細胞株は、TOP2A増幅又は過剰発現を有する細胞株よりアントラサイクリン療法に対する感受性が低いことが示唆された(Jarvinenら(2000年)、Am J Pathol、第156巻、839頁)。つい最近、この所見は、391例の乳癌患者を含む臨床試験において確認された(Scandinavian Breast Group Trial 9401(2006年)、J Clin Oncol、第24巻(16号)、2428頁)。したがって、癌患者からの連続生検におけるESR1増幅状態の変化のモニタリングは、抗エストロゲン療法に対する反応の予測の潜在的マーカーであると思われる。
【0039】
本発明の方法は、ESR1遺伝子増幅の予言的影響力に基づいている。ESR1増幅は、配列番号1におけるヌクレオチド1048135〜1343855により示されるESR1コード配列又はこのコード配列の少なくとも一部を直接標的にする手段により好都合なことに検出することができる。これに加えて、ESR1増幅は、ESR1コード配列の外側に位置する配列番号1の配列部分の増幅を検出することによっても確認することができる。一般的に、特定の遺伝子の増幅は、前記遺伝子の5’又は3’に位置するゲノム配列の同時増幅につながる。したがって、増幅時に重複する染色体フラグメントは、単一遺伝子の配列を含むだけでなく、ESR1増幅を確認するためのマーカーとして用いることができる追加のゲノム配列も一様に含む。実施例6で記載するように、ESR1コード配列を含む約2.7Mbのサイズを有する配列範囲(配列番号1に示されている)は、ESR1コード配列の増幅を確認するのに適することが発見された。具体的には、ESR1コード配列の外側に位置し、配列番号1により含まれる配列は、ESR1コード配列も増幅される場合に増幅されることが発見された。すなわち、それらはESR1コード配列と同時増幅される。これは、配列番号1の配列部分の増幅、例えば、配列番号1の配列のまさに5’又は3’末端に位置する配列の増幅が検出される場合、ESR1の増幅が推定されることを意味する。
【0040】
ESR1の増幅を確認するために選択することができるESR1コード配列の外側に位置するヌクレオチド配列部分は、配列番号1に示す配列の位置1から位置1048135まで及ぶ領域に位置していてよい。例えば、該ヌクレオチド配列部分は、配列番号1に示す配列のヌクレオチド100000〜1048135、200000〜1048135、300000〜1048135、400000〜1048135、500000〜1048135、600000〜1048135、700000〜1048135、750000〜1048135、760000〜1048135、770000〜1048135、780000〜1048135、790000〜1048135、800000〜1048135、810000〜1048135、820000〜1048135、830000〜1048135、840000〜1048135、850000〜1048135、860000〜1048135、870000〜1048135、880000〜1048135、890000〜1048135、900000〜1048135、910000〜1048135、920000〜1048135、930000〜1048135、940000〜1048135、950000〜1048135、960000〜1048135、970000〜1048135、980000〜1048135、990000〜1048135、1000000〜1048135の間、より好ましくは1010000〜1048135、1020000〜1048135、1030000〜1048135、1040000〜1048135、1041000〜1048135、1042000〜1048135、1043000〜1048135、1044000〜1048135、1045000〜1048135、1046000〜1048135、1047000〜1048135、1048000〜1048135の間に位置していてよい。同様に、該ヌクレオチド配列部分は、配列番号1に示す配列の位置1343855から2725892まで及ぶ領域内のヌクレオチドの間に位置していてよい。例えば、該ヌクレオチド配列部分は、配列番号1に示す配列のヌクレオチド1343855〜1344000、1343855〜1345000、1343855〜1346000、1343855〜1347000、1343855〜1348000、1343855〜1349000、1343855〜1350000、1343855〜1351000、1343855〜1352000、1343855〜1353000、1343855〜1354000、1343855〜1355000、1343855〜1356000、1343855〜1357000、1343855〜1358000、1343855〜1359000、1343855〜1360000、1343855〜1370000、1343855〜1380000、1343855〜1390000、1343855〜1400000、1343855〜1410000、1343855〜1420000、1343855〜1430000、1343855〜1440000、1343855〜1450000、1343855〜1460000、1343855〜1470000、1343855〜1480000、1343855〜1490000、1343855〜1500000、1343855〜1510000、1343855〜1520000、1343855〜1530000、1343855〜1540000、1343855〜1550000、1343855〜1560000、1343855〜1570000、1343855〜1580000、1343855〜1590000、1343855〜1600000、1343855〜1610000、1343855〜1620000、1343855〜1630000、1343855〜1640000、1343855〜1650000、1343855〜1660000、1343855〜1670000、1343855〜1680000、1343855〜1690000、1343855〜1700000、1343855〜1800000、1343855〜1900000、1343855〜2000000、1343855〜2100000、1343855〜2200000、1343855〜2300000、1343855〜2400000、1343855〜2500000又は1343855〜2725892の間に位置していてよい。
【0041】
ESR1の増幅を、ESR1コード配列の外側に位置する配列番号1の配列部分の増幅を検出することにより試験し、選択した配列部分の増幅をサンプル中に検出することができない場合、これは、ESR1の増幅が試験した細胞に存在しないという結論を必ずしも認めるものではない。これらの場合、染色体におけるアンプリコン(すなわち、ESR1遺伝子及びフランキング領域からなる増幅されたゲノム配列部分)はサイズがより小さいと思われ、そのため、ESR1遺伝子により近接した、又はESR1遺伝子に直接由来する配列番号1のヌクレオチド配列部分を用いたさらなる検出アッセイを行うべきである。当業者は、各ESR1増幅事象においてそれぞれ強制的な同時増幅を受けるESR1遺伝子の5’末端及び3’末端におけるフランキング領域を決定するのに問題がないであろう。したがって、「最小」アンプリコンは、単に、例えば、ESR1コード配列に直接結合するプローブを用いてFISHによりESR1増幅について多数の腫瘍細胞サンプルをスクリーニングし、その後、特定されたアンプリコンの5’及び3’末端を決定することによって、当業者が容易に決定することができる。そのような最小アンプリコンを受け取ったならば、コード配列の外側の増幅配列に基づきESR1増幅を明確に確認するだけでなく、試験結果が陰性である場合にはそのような配列に基づいてESR1増幅を排除することも可能である。最小アンプリコンを用いる方法において、ESR1増幅を示す本質的にすべての腫瘍細胞が特定される。したがって、好ましい態様によれば、ESR1コード配列と強制的な同時増幅する、検出工程用の配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド配列部分を選択する。
【0042】
すべてのESR1増幅腫瘍細胞を特定する方法を確立する別の可能性は、分析のためのESR1コード配列を選択することである。したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、配列番号1の選択されるヌクレオチド配列は、配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1コード配列の少なくとも一部を含む。この特定の実施形態によれば、ESR1遺伝子の少なくとも一部の増幅は直接試験される。配列部分は、ESR1のコード配列の一部及びESR1コード配列の3’又は5’末端のフランキング領域の一部を含むように選択することができる。選択されるヌクレオチド配列は、例えば、FISH検定法に用いるプローブとしての配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855により供給される完全なESR1コード配列を含んでいてもよい。本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、配列番号1の選択されるヌクレオチド配列部分は、配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1コード配列内に位置する。
【0043】
本発明のすべての方法は、配列番号1による配列に含まれる選択されるヌクレオチド配列部分、例えば、ESR1コード配列が腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されているかどうかを腫瘍の細胞サンプル中で検出する工程を含む。この目的のために選択する配列番号1のヌクレオチド配列部分は、本質的に任意のサイズであってよい。好ましくは、例えば、非特異的ハイブリッド形成による増幅の偽陽性検出を排除するのに十分に大きいサイズを有するヌクレオチド配列部分を用いる。一般的に、該配列部分は、20、30、40、50、100又は150ヌクレオチドを超えるサイズを有する。ヌクレオチド配列部分のサイズは、前記配列部分の増幅を検出する方法に依存する(下記を参照)。例えば、増幅を検出するためにFISH検定法を用いる場合、配列部分は、好ましくは数キロ塩基、例えば、40、50、60、70、80、100、120、140、160、180、200、300又は400キロ塩基のサイズを有するものとする。これに対して、増幅の検出をPCRにより行う場合、配列部分は、標準的PCR条件下で容易に得られるPCR産物のサイズ、例えば、150、200、300、400又は500bpを有するものとする。増幅の検出をサザンブロッティングにより行う場合、選択するヌクレオチド配列部分は、サザンブロッティングで通常用いられる一般的なDNAプローブに対応する30、40、50、60ヌクレオチドの範囲にあってよい。
【0044】
本明細書で用いるように、「選択されるヌクレオチド配列部分が増幅されているかどうかを検出すること」は、配列番号1の選択されるヌクレオチド配列部分が、同じ個人のバランスのとれた核型を有する正常細胞、好ましくは正常な二倍体体細胞のゲノムと比べて試験した腫瘍細胞のゲノムにおいて増加したコピー数で存在するかどうかを検討することを意味する。哺乳類などの二倍体生物は、通常、それらの体細胞中に遺伝子配列などの所定のゲノムヌクレオチド配列の2つのコピー(対立遺伝子)を有する。したがって、哺乳類体細胞のバランスのとれた核型は、所定のヌクレオチド配列、例えば、ESR1遺伝子の2つのコピーを一様に含む。
【0045】
配列番号1から選択したヌクレオチド配列部分が細胞サンプル中で増幅されている場合、バランスのとれた核型を有する正常細胞と比較したとき、前記ヌクレオチド配列部分のより多くのコピーが試験した細胞のゲノムに存在する。したがって、選択されるヌクレオチド配列部分が細胞のゲノムにおいて増幅されている場合、前記ヌクレオチド配列部分のコピー数は2を超える。例えば、前記ヌクレオチド配列部分のコピー数は、1個の細胞当たり3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、30、40、50又は100コピーまでであってよい。前記ヌクレオチド配列部分のコピー数は、哺乳類体細胞のバランスのとれた核型と比較して少なくてもよく、これは、細胞が、関連する染色体、例えば、ヒトの第6染色体のヌクレオチド配列部分の1つ又は両コピーを喪失したことを意味する。ヌクレオチド配列部分が増幅されなかった場合、前記配列の2つのコピーが1個の細胞当たり存在するはずである。
【0046】
一般的に、遺伝子、遺伝子フラグメント又は1つを超える遺伝子を含む染色体のより大きい部分の増幅は、問題の遺伝子、フラグメント又は部分について得られたシグナルの数又は強度(特定の検出方法による)を同じDNAサンプルからの参照配列のシグナルの数又は強度と比較して評価することにより判断する。例えば、コピー数が知られている配列(すなわち、増幅事象を受けない遺伝子又は非コードDNAストレッチからの)は、参照として用いることができる。参照配列の性質は、増幅事象を決定する特定の方法、例えば、PCR、サザンブロッティング、FISHなどに依存する(下記を参照)。例えば、蛍光in situハイブリッド形成検定法において、ヒトの第6又は17染色体の動原体の配列を内因性参照として好都合なことに用いることができると思われる。或いは、コピー数を評価するためにPCRアプローチを用いる場合、参照遺伝子は、ヒトアルブミングリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、β−アクチン、β−2ミクログロブリン、ヒドロキシメチルビランシンターゼ、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼI、リボソームタンパク質L13a、コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体(サブユニットA)、TATAボックス結合タンパク質、ユビキチンC、β−グロビン(HBB)、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK1)、リボソームタンパク質L4(RPL4)、大リボソームタンパク質P0(RPLP0)、真核伸長因子1(EEF1A1)、真核翻訳伸長因子1(EEF1G)、コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体A(SDHA)、マスルブラインド様2(Muscleblind−like 2)(MBNL2)、28SリボソームRNA(28S)、18SリボソームRNA(18S)などの「ハウスキーピング遺伝子」として一般的に用いられている1つ又は複数の遺伝子を含んでいてよい。内部参照を試験サンプルの細胞又はDNA、例えば、バランスのとれた核型を有する正常体細胞と同時に試験する場合、対照サンプルと比較して試験サンプル中で有意により多くの検出シグナル(ESR1遺伝子のコピー数と相関している)が得られていることが示されている限り、ESR1遺伝子のコピーの個別の数を決定することは必要でないと言える。
【0047】
配列番号1の選択されるヌクレオチド配列部分の増幅状態は、当技術分野でよく知られている方法により検出することができる。増幅状態は、細胞サンプルのゲノムDNAの分析により一般的に決定される。ゲノムDNAは、PCRに基づく方法について通常要求されるように、増幅状態の決定の前に分離し、かつ/又は精製することができる。精製のために、QIAgen Genomicチップシステム(QIAgen、Hilden、Germany)などの市販のキットを用いることができる。ヒト組織からの細胞などの異なる種類の細胞からゲノムDNAを精製する他の方法は、Sambrook J.ら(2001年)、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)、Cold Spring Harbor Laboratory Pressに述べられている。他方で、蛍光in situハイブリッド形成検定法(FISH)のような細胞遺伝学的方法又は免疫組織化学を用いる場合、完全な細胞又は組織部分を用いることができ、最初の工程でDNAを分離する必要はない。
【0048】
遺伝子増幅事象を特定し、かつ/又はDNA実体(遺伝子など)のコピー数を決定するいくつかの方法は、当技術分野で記載された。本発明によれば、配列番号1の前記ヌクレオチド配列部分が増幅されているかどうかを検出する工程は、前記ヌクレオチド配列部分とハイブリッド形成するプローブを用いるDNA分析を含む。最も好ましくは、プローブは、配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1コード配列又はその一部とハイブリッド形成する。本明細書で用いるように、プライマー又はプローブに関する文脈における「ハイブリッド形成」は、プライマー又はプローブが、標的ポリヌクレオチド、例えば、試験する細胞のゲノムDNAにおけるESR1遺伝子又はESR1遺伝子のような同じアプリコン上に位置するそれへのフランキング領域との非共有結合性相互作用を形成することを意味する。好ましくは、ハイブリッド形成は、特異的ハイブリッド形成である。本明細書で用いるように、プローブ又はプライマーの特異的ハイブリッド形成は、プローブ又はプライマーが、それが相補性を示す標的DNA配列とのみ実質的にハイブリッド形成し、無関係の配列と実質的にハイブリッド形成しないことを意味する。プローブ又はプライマーと標的配列との間の配列の同一性のレベルが十分に高い場合に、プローブ又はプライマー特異的ハイブリッド形成が起る。一般的に、約50、60、70又は80%、より好ましくは90又は95、96、97、98又は99%の配列同一性を共有するヌクレオチド配列が特異的にハイブリッド形成する。
【0049】
特異的にハイブリッド形成したプローブ又はプライマーは、厳格な条件下でその標的配列とハイブリッド形成した状態を維持する。本明細書で用いるように、「厳格な条件」は、プローブ又はプライマーと標的配列との配列が実質的に同一である場合にプローブ又はプライマーが標的配列とハイブリッド形成した状態を維持することだけを実質的に可能にする環境をもたらす温度と塩の条件である。厳格な条件は、配列依存性であり、環境パラメーター下で異なる。一般的に、厳格な条件は、規定されたイオン強度及びpHでの特定の配列の熱的融点より約5℃〜20℃低いように選択される。熱的融点は、標的配列の50%が完全に一致した(すなわち、完全に相補的である)プローブとハイブリッド形成する温度(規定されたイオン強度及びpHのもとでの)である。例えば、厳格な条件は、42℃〜65℃の温度範囲でのハイブリッド形成を含んでいてよい。用いるハイブリッド形成溶液及び洗浄緩衝液は、高いイオン強度のもの、例えば、SDS又は他の界面活性剤を添加又は添加しない6倍SSC緩衝液であってよい。
【0050】
核酸のハイブリッド形成の条件及び厳格さの計算は、Sambrook J.ら(2001年)、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)、Cold Spring Harbor Laboratory Press及びHaymes B.D.ら(1985年)、in Nucleic Acid Hybridization、A Practical Approach、IRL Press、Washington D.C.に見いだすことができる。さらに、最適なプローブ及びプライマーの構築の助けとなるコンピュータプログラム、例えば、Vector NTIによるInforMax(Invitrogenにより販売)又はPrimer PremierによるPremier Biosoftが入手可能である。
【0051】
配列番号1から選択されるヌクレオチド配列部分の増幅状態の検出に用いる核酸プローブ又はプライマーは、選択される配列部分又はその一部の完全な相補体(例えば、ESR1コード配列の範囲内の配列又はESR1のフランキングゲノム領域に位置する配列)であってよく、或いはそれと実質的に相補的であってよい。「完全な」相補的プローブ又はプライマーは、プローブ又はプライマー分子のすべてのヌクレオチドが標的配列の対応する位置のヌクレオチドと相補的であることを意味する。プライマー又はプローブにおける1つ又は複数のヌクレオチドが標的配列における対応するヌクレオチドと相補的でないが、特異的ハイブリッド形成が起るように十分な数の相補的ヌクレオチドが存在する場合、プローブ又はプライマーは標的配列と「実質的に相補的」である。
【0052】
プローブと対応するヌクレオチド配列部分との特異的ハイブリッド形成により、組織サンプルなどのサンプル中の前記ヌクレオチド配列部分のコピーの数の検出が可能になる。この目的のために、プローブは検出可能なラベルを含むものとする。分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的又は化学的手段により検出可能な化合物又は組成物を含む、多数の各種物質がDNAプローブを標識するために当技術分野で入手可能である。標識は、検出可能な物質をプローブにカップリングさせる(すなわち、物理的に結合させる)ことによるプローブの直接的標識、並びに直接的に標識される他の試薬による活性化によるプローブの間接的標識を含むことを意図する。間接的標識の例は、蛍光標識ストレプトアビジンにより検出できるようなビオチンによるDNAプローブの末端標識を含む。或いは、プローブは、次に標識第二抗体により標識又は認識することができる抗ジゴキシゲニン抗体で検出できるジゴキシゲニンで標識することができる。本発明に用いるための検出可能な標識としては、磁気ビーズ(例えば、Dynabeads)、蛍光色素(フルオレセイン、テキサスレッド、ローダミン、CY3、CY5、Alexa色素、緑色蛍光タンパク質及びその他)、標識用放射性同位元素(例えば、H、125I、35S、14C又は2P)、酵素(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ及びELISAに一般的に用いられるその他のもの)、及びコロイド状金(例えば、高い効率で緑色光を散乱する直径40〜80nmの粒径範囲の金粒子)又は着色ガラス若しくはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)ビーズなどの比色標識などがある。DNAプローブを標識するための他の多数のシステム及び化合物は、当技術分野で知られている。
【0053】
本発明によれば、配列番号1の選択されるヌクレオチド配列部分、例えば、ESR1のコード配列内に位置する配列が増幅されるかどうかを検出する工程は、サザンブロッティングを含んでいてよい。サザンブロッティングは、複雑な混合物内の特定のDNA配列の位置を特定する確立された方法である。ゲノムDNAなどのDNAを制限酵素で消化し、アガロースゲル中でのゲル電気泳動により分離する。その後、DNAをアガロースゲルから膜(ナイロン又はニトロセルロース膜など)上に移し、検出する配列に特異的な標識DNAプローブとともにインキュベートする。プローブとハイブリッド形成したゲノムDNA由来のDNAフラグメントの位置は、標識を検出することによって表示することができる。ESR1遺伝子が増幅されている場合、少なくとも2つのフラグメント(同じ又は異なるサイズの)がサザンブロッティングで検出される。サザンブロッティングに用いられるプローブは、通常、増強されたシグナル強度を与えるシステムにより検出することができる分子で直接標識されている(抗ジゴキシゲニン抗体によるジゴキシゲニン検出又はセイヨウワサビペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン及びその後の化学発光基質への曝露によるビオチン検出など)。或いは、サザンブロッティングプローブは、しばしば放射性標識されており、強いシグナルを発生する。結果として、サザンブロッティングに用いるプローブは、他のハイブリッド形成アプローチと比較して、長さがかなり短いものであってよい(下記を参照)。通常、プローブは、15〜20bp、より好ましくは25、30、35、40、45、50又は55bpまでのサイズを有する。
【0054】
特に好ましい態様によれば、配列番号1の選択されるヌクレオチド配列部分、例えば、ESR1のコード配列内に位置する配列が増幅されるかどうかを検出する工程は、蛍光in situハイブリッド形成(FISH)を含む。標識プローブを用いたFISH分析を実施するためのプロトコールは、当技術分野で利用可能である(例えば、Cherifら(1989年)、Hum Genet.、1989年3月、第81巻(4号)、358頁又はHyytinenら(1994年)、Cytometry、第16巻(2号)、93頁を参照)。そのようなin situハイブリッド形成検定法において、検査する細胞又は組織を通常ガラススライドなどの固体支持体に固定する。細胞は、外科的サンプルの捺印標本の場合には完全であってよく、或いは組織切片の場合には切断されていてよい。その後、細胞を一般的に熱又はアルカリで変性する。次いで、細胞を中等度の温度のハイブリッド形成溶液と接触させて、タンパク質をコードする核酸配列に特異的な標識プローブをアニーリングする。プローブは、一般的に、例えば、1つ又は複数の蛍光リポーターで標識されている。次いで、標的をあらかじめ定めた厳密さで、又は適切なシグナル対ノイズ比が得られるまで厳密さを増大させて洗浄する。蛍光標識核酸プローブを細胞DNA標的とハイブリッド形成させる場合、蛍光顕微鏡を用いてハイブリッド形成プローブを直接見ることができる。異なる蛍光色を有する複数の核酸プローブを用いることにより、同時多色分析(すなわち、異なる遺伝子又は配列について)を標的細胞について1工程で行うことができる。蛍光色素により直接標識した核酸プローブは、多層検出手順(例えば、抗体に基づくシステム)の必要をなくし、迅速な処理を可能にし、非特異的バックグラウンドシグナルも減少させる。FISH検定法に用いる蛍光色素により直接標識した核酸プローブは、サザンブロッティングに用いるものより通常長い。従来の蛍光in situハイブリッド形成(FISH)は、一般的に、固定し、変性した染色体とのハイブリッド形成のためのクローン化ゲノムプローブを用いる。これらのゲノムプローブは、一般的に大きく、数100キロ塩基までのサイズを有するゲノム挿入断片を受入れるコスミド、酵母又は細菌人工染色体などのベクターに最も頻繁にクローンされる。本発明によれば、FISHプローブは、1、5、10、20、30、40、50、60又は100kbまで、或いは200、300又は400kbのサイズを有していてよい。FISHプローブは、直接的に標識されている(例えば、蛍光色素により)か、又は間接的に標識されていてよい(例えば、ジゴキシゲニン又はビオチンなどのハプテンにより)。本発明によれば、試験サンプル(例えば、生検由来の組織の細胞)のゲノムDNAとのハイブリッド形成の結果を直接観察できるように、蛍光標識を用いることが最も好ましい。内因性の参照として、ヒトの第6又は17染色体の動原体の配列をFISH検定法に好都合なことに用いることができると思われる(実施例を参照)。Vysis Inc.、Downer’s Grove、Illinois、USAによる購入可能なSpectrumOrange− SpectrumGreen−及びSpectrumRed−標識キットなどの蛍光標識のための標識キットが種々の製造業者から入手できる。FISH検定法は、遺伝子増幅事象の検出、例えば、乳癌におけるしばしば増幅した癌遺伝子であると報告されているオーファン受容体チロシンキナーゼErb−B2(HER−2又はneuとも呼ばれている)をコードするerb−B2(HER−2/neu)遺伝子の検出に広く用いられている。例えば、すべてが参照により含められている、Masoodら(1998年)、Ann Clin Lab Sci.、第28巻(4号)、215頁、Pressら(2002年)、J Clin Oncol.、2002年、第20巻(14号)、3095頁を参照のこと。
【0055】
配列番号1から選択されるヌクレオチド配列部分、例えば、ESR1のコード配列内に位置する配列の増幅の可能性を検出するさらなる代替法は、比較ゲノムハイブリッド形成(CHG)を含む。この細胞遺伝学的方法では、染色体物質におけるコピー数の異常について全ゲノムを1工程でスキャンすることができる。CGHは、例えば、Kallioniemi O.ら(1992年)、Science、第258巻、818〜821頁(通常のCGH)又はSolinas−Toldo S.ら(1997年)、Genes Chromosomes Cancer、第4巻、399〜407頁(マトリックスCGH)に詳細に記載されている。CGHにおいて、腫瘍細胞(試験DNA)などの検討する細胞又は細胞集団の完全なゲノムDNAを、一般的に正常な健常細胞のゲノムDNA(参照DNA)を対照としてハイブリッド形成検定法におけるプローブとして用いる。試験及び参照DNAを異なるように標識し、健常者からの中期染色体伸展標本(通常のCGH)又は定義されたDNA配列のアレイ(数キロ塩基のクローン化ヒトゲノムフラグメント又はオリゴヌクレオチド;アレイ又はマトリックスCGH)からなる標的マトリックス上で共ハイブリッド形成させる。例えば、いわゆるGeneChips(Affymetrix Santa Clara、CA)を用いる場合、参照DNAの同時共ハイブリッド形成を用いずにCGHを実施することも可能である。
【0056】
バランスのとれた核型対照DNAと比較したときに得られた又は失われた染色体領域は、参照ゲノムDNAの全体染色と比較してそれらの染色の増加又は減少により検出することができる。コピー数が増加した領域は、対照DNAと比較して強いシグナルを生ずる。陰性対照として、健常組織、好ましくは身体の同じ部分の組織(例えば、健常子宮内膜又は卵巣組織)からの参照DNAを試験することもできる。参照DNAは、腫瘍組織のドナー又は他の健常ドナー由来であってよい。変異は、DNA増加及び喪失と分類され、染色体及び染色体下レベルでのコピー数変化を含む特徴的なパターンを示す。充実性腫瘍の分析のためにCGHを用いることにより、以前に検出されなかった増幅を含む多くの再現性のある染色体コピー数異常が明らかになった。例えば、CGHを用いることにより、様々な腫瘍における染色体3q26〜27及び20q13における増幅が検出され、卵巣癌及び乳癌においてそれぞれ増幅されるPIK3CA及びZNF217などの標的遺伝子の特定につながった。本明細書で用いるように、CGHという用語は、マトリックスCGH、アレイCGH並びに分離標識DNA及び固体表面上に固定された相補的DNAを用いた比較ゲノムハイブリッド形成の他のあらゆる方法を含む。最も都合のよいことに、CGH法はアレイに基づくハイブリッド形成方式を用いて行う。アレイは、一般的に、1つ又は複数の表面に結合した非常に多数の異なるプローブ又は標的核酸を含む。好ましくは、表面は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ニトロセルロース、ナイロン、ガラス、石英、シリコーン、ポリホルムアルデヒド、セルロース又は酢酸セルロースなどの固体表面である。好ましい実施形態において、多数の核酸(又は他の部分)が1つの連続表面又は互いに近接して並べられた多数の表面に結合している。アレイ方式において、多数の異なるハイブリッド形成反応を同時に行わせることができる。アレイ、特に核酸アレイは、当業者に知られている様々な方法により、例えば、ピペットを用いたスポッティングにより、又はオリゴヌクレオチド合成技術により作製することができる。アレイを作製する方法は、例えば、Xing W.L.及びCheng J.(編)、Biochips、Technology and Applications、Springer、Berlin 2003年に記載されている。
【0057】
標識プローブを用いるハイブリッド形成に基づく検定法のほかに、配列番号1から選択されるヌクレオチド配列部分、例えば、ESR1のコード配列内に位置する配列の増幅は、PCRに基づく方法によっても検出することができる。したがって、さらなる好ましい態様によれば、配列番号1の選択されるヌクレオチド配列部分が増幅されているかどうかを検出する工程は、PCR、好ましくは定量的PCR(qPCR)を含む。好ましくは、PCRでは、配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1コード配列又はその一部とハイブリッド形成する少なくとも1つのプライマーを用いる。
【0058】
qPCRに関するプロトコールは、当業者に知られており、例えば、Bartlett及びStirling(2003年)、PCR Protocols(Methods in Molecular Biology)、2nd edition、Humana Press、Totawa、NJ、USAに見いだすことができる。定量的PCRは、PCR産物の定量をさらに可能にする、核酸分子を増幅する方法である。定量は、PCRの終了後に産物から得られたシグナルを既知の濃度及び/又はコピー数の外因性配列からの対照サンプルを用いて事前に作製した標準曲線と比較することによって達成することができる(例えば、Bustin S.A.(2004年)、A−Z of Quantitative PCR(IUL Biotechnology、No.5)(Iul Biotechnology Series)International University Line、La Jolla、USAを参照)。
【0059】
或いは、内因性ハウスキーピング遺伝子又は校正の目的のための配列を用いた内部標準化を用いることもできる。この方法において、2種のゲノム配列を1本の反応管内で2組のプライマー対を用いて同時に共増幅する。1つの配列は、DNA増幅を受けない1つのコピー遺伝子に属し、試験配列(例えば、配列番号1から選択されるヌクレオチド配列部分)の相対的なDNAコピー数の差を測定するための内因性参照としての役割を果たす。PCR反応においてDNA産物の量は各サイクルで2倍になるため、反応の終了時の総DNA収率は、サンプル中に最初に存在していた鋳型DNAの量に依存する。試験遺伝子が増幅されている場合、PCRの後には参照遺伝子と比較して試験遺伝子の豊富なPCR産物が存在する。参照遺伝子と試験遺伝子のPCR産物の量の比は、組織サンプル中の2つの遺伝子の間のコピー数の差を反映する。そのようなPCRアプローチは、例えば、Brandt B.ら(1995年)、Gene、第159巻、29〜34頁により二重差次的ポリメラーゼ連鎖反応(ddPCR)と記載された。
【0060】
定量の他の可能性は、標的特異的プライマーを含む共通の標的配列が両端に隣接した中性DNAフラグメントからなる外因的に添加した標準を用いる競合的PCRを用いることにある。このPCRにおいて、1組のプライマー(標的配列又は遺伝子に特異的)を用いて標的配列又は遺伝子及び中性DNAフラグメントを増幅する。中性DNAフラグメントは、同じ試薬に対して標的DNAと競合し、それにより、内部標準として働く。内部標準は、標的遺伝子と異なるサイズのPCR産物を生ずるようにデザインされている。定量的競合的PCRは、同じ反応において同じプライマーに対して競合する2つの鋳型を標的とする。反応に加えた内部標準の量を知ることによって、存在する標的DNA、この場合には配列番号1から選択されるヌクレオチド配列の量を決定することができる。ゲル電気泳動、毛管電気泳動又はリアルタイムPCRシステムなどの種々の方法及び装置を用いてPCR産物の量を決定することができる。
【0061】
特定の好ましい実施形態によれば、配列番号1の選択されるヌクレオチド配列部分が増幅されているかどうかを検出する工程は、リアルタイムPCRを含む。リアルタイムPCR法を用いる場合、DNA産物の量は、配列非特異的蛍光色素(例えば、SybrGreen)又は配列特異的蛍光標識プローブ(Taqmanプローブ、FRETプローブ、分子ビーコン)を用いてPCR中にオンラインで検出することができる。リアルタイム定量的PCR法は、当業者によく知られており、従来技術において非常に詳細に記載された。概要については、Barlett及びStirling(2003年)、PCR Protocols(Methods in Molecular Biology)、2nd edition、Humana Press、Totowa、NJ、USAを参照のこと。
【0062】
本発明によるPCRに基づく方法については、PCR産物を得るために用いるオリゴヌクレオチドプライマーは、配列番号1に示す配列に由来する。好ましい実施形態によれば、PCRに用いる少なくとも1つのプライマーは、配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1遺伝子のコード配列又はその一部とハイブリッド形成する。したがって、プライマーは、ESR1コード配列内に位置する、又はESR1をコードする配列からフランキング領域内に及ぶ産物を生成する。さらなる好ましい実施形態によれば、両プライマーは、ESR1遺伝子のコード配列とハイブリッド形成し、これは、得られるPCR産物(すなわち、配列番号1から選択されるヌクレオチド配列部分)がESR1コード配列内に完全に位置することを意味する。
【0063】
本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、ESR1遺伝子の増幅状態は、エストロゲン受容体αに対して特異的な抗体を用いた免疫組織化学(IHC)により間接的に検出することができる。ER発現の免疫組織化学的検出は、増殖性子宮内膜又は卵巣疾患の組織切片において行う。病理学者は、染色を分析し、生理的ER発現と非生理的ER発現とを区別することが要求される。生理的ER発現(正常なESR1コピー数)は、異なる染色強度を示す異なる細胞核による不均一な染色パターンを特徴とする。さらに、ER染色はすべての細胞核で認められるとは限らない。これに対して、ESR1増幅細胞は、増殖性疾患のすべての細胞核における均一な広がり及び均一に強い染色を示す。
【0064】
本発明はまた、子宮内膜又は卵巣癌に起因する原発腫瘍の転移巣の抗エストロゲン療法に対する反応性を決定するin vitroでの方法に関する。該方法は、
a)配列番号1の配列に含まれるヌクレオチド配列部分を選択する工程と、
b)前記腫瘍の細胞サンプル中で前記ヌクレオチド配列部分の増幅状態を検出する工程と、
c)細胞サンプル中の前記ヌクレオチド配列部分が増幅されている場合に、前記転移巣を抗エストロゲン療法に対して反応性であると分類する工程と
を含む。
【0065】
原発子宮内膜又は卵巣癌とそれらの転移巣との間にそれらのESR1の増幅状態に関する差はない。これに関して検査したすべての転移巣は、ESR1増幅を示す原発腫瘍由来である場合、ESR1増幅を示した。同様に、ESR1増幅を示さない原発腫瘍由来である場合、ESR1増幅を示した転移巣は認められなかった。したがって、原発腫瘍のESR1増幅状態は、その転移巣を代表する。アジュバント抗エストロゲン療法は、通常身体から外科的に除去された原発腫瘍ではなく、残存腫瘍細胞及び転移巣を標的とするため、この知見は重要である。
【0066】
本発明のさらなる態様によれば、上記で説明した方法の1つを実施するのに適するキットを提供する。具体的には、キットは、配列番号1のヌクレオチド配列部分が細胞サンプル(又は血液若しくは骨髄サンプル)中で増幅されているかどうかを検出するための手段及び試薬を含む。例えば、キットは、配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド配列部分にハイブリッド形成する1つ又は複数のプローブを含んでいてよい。特に、プローブは、配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1遺伝子のコード配列又はその一部とハイブリッド形成する。さらに、キットは、核酸ハイブリッド形成複合体の検出を可能にするためのプローブを標識する試薬をさらに含んでいてよい。好ましくは、1つ又は複数のプローブと標的配列との間で形成される複合体を可視化するための試薬も提供する。本発明のさらなる好ましい態様によれば、PCRに基づく検出方法用のキットを提供する。そのようなキットは、配列番号1の配列に含まれる配列を有するPCR産物を生成させるためのオリゴヌクレオチドプライマーを含む。好ましくは、キットは、配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1コード配列又はその一部とハイブリッド形成する少なくとも1つのプライマーを含む。キットは、PCRに基づく反応、特に、定量的PCR又は定量的リアルタイムPCR反応に適する1つ又は複数のポリメラーゼ酵素、緩衝液、ヌクレチオド及び/又は色素も含む。一般的に、オリゴヌクレオチドプライマーは、長さが約10nt、50nt又は100nt、好ましくは長さが約15nt〜40ntである。オリゴヌクレオチドプライマーは、配列の増幅を可能にするのに十分である、配列番号1に示す配列との同一性/相同性を示す。一般的に、オリゴヌクレオチドプライマーは、配列番号1に示すヌクレオチド配列の、また特にヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲の配列の少なくとも6個、より通常8、10、15、20、30、40、45又は50個の連続ヌクレオチドを含む。オリゴヌクレオチドプライマー又はプローブは、化学的に合成することができる。
【0067】
さらなる態様によれば、本発明は、腫瘍細胞がそれらのゲノムDNAにおける増幅されたESR1遺伝子を有する、すなわち腫瘍細胞のゲノムが増幅されたESR1遺伝子を示す、子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患に起因する腫瘍を有する患者の治療用の薬剤の調製のための抗エストロゲン化合物の使用に関する。好ましい実施形態によれば、子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患は、それぞれ子宮内膜癌又は卵巣癌である。したがって、本発明は、とりわけ、タモキシフェンなどの抗エストロゲン療法に対して有意に高い反応を示すER陽性子宮内膜癌又は卵巣癌患者のサブグループを治療するための薬剤を提供する。本明細書で用いるように、抗エストロゲン化合物は、エストロゲンとエストロゲン受容体、好ましくはエストロゲン受容体αとの間の天然に存在する相互作用を妨げることを標的とする任意の化合物である。抗エストロゲン化合物の投与は、細胞増殖などのエストロゲン誘発性反応をもたらすエストロゲン受容体のシグナル変換機能の遮断をもたらす。抗エストロゲン化合物は、エストロゲン受容体、好ましくはエストロゲン受容体αに対するエストロゲンの結合を競合的に阻害することによって作用することができる。治療上有効な量で投与するとき、抗エストロゲン化合物は、エストロゲン受容体、好ましくはエストロゲン受容体αに結合し、それにより、エストロゲンと受容体の結合を遮断する。抗エストロゲン化合物は、上述のようなエストロゲンアンタゴニスト、エストロゲン受容体ダウンレギュレーター又はアロマターゼ阻害薬を含む。
【0068】
さらなる好ましい実施形態によれば、抗エストロゲン化合物は、上記で定義したエストロゲンアンタゴニストである。薬剤を調製するために用いるエストロゲンアンタゴニストは、好ましくは、タモキシフェン、ラロキシフェン、クロミフェン、トレミフェン、トリロスタン又はその機能性誘導体からなる群から選択される。最も好ましくは、エストロゲンアンタゴニストは、タモキシフェン又はその機能性誘導体である。或いは、薬剤を調製するために用いる抗エストロゲン化合物は、エストロゲン合成を妨げる作用物質、好ましくはアロマターゼ阻害薬である。アロマターゼ阻害薬は、アナストロゾール、レトロゾール、ホルメスタン、エクゼメスタン又はその機能性誘導体からなる群から選択することができる。薬剤を調製するために用いるエストロゲンアンタゴニストは、フルベストラント又はその機能性誘導体などのエストロゲン受容体、好ましくはエストロゲン受容体αの発現をダウンレギュレートする作用物質であってもよい。化合物は、当技術分野でよく知られている投与方法に従って用いることができる。
【0069】
本発明は、本発明を例示することを単に意味するものであり、本発明を限定することを意図しない以下の実施例によってより明らかになるであろう。
【実施例】
【0070】
分割表分析及びカイ二乗検定を用いて、組織学的腫瘍分類、悪性度、病期と遺伝子増幅との関係を試験した。
【0071】
1.子宮内膜及び卵巣癌におけるESR1増幅
1.1 組織
2つの組織マイクロアレイ(TMA)を本試験に用いた。ホルマリン(緩衝中性4%水溶液)で固定し、パラフィン包埋した腫瘍物質を用いた。組織学的悪性度及び組織学的腫瘍分類を定義するために、すべての腫瘍のすべてのスライドを2人の病理学者が調べた。368例の子宮内膜癌患者の原発腫瘍から子宮内膜癌TMAを作製し、本試験に用いた。患者の年齢の中央値は69(範囲31〜92)歳であった。生存率生データは、バーゼル大学の癌登録から入手するか、又は患者の担当医から収集した。平均フォローアップ期間は、20カ月であった(範囲1〜173カ月)。病期、悪性度、腫瘍径及びリンパ節の状況は、一次病理報告書から得た。卵巣癌TMAは、種々の組織学的サブタイプの297例の原発卵巣癌から作製した。患者の年齢の中央値は58(範囲24〜84)歳であった。複雑型子宮内膜増殖症を有していたが、子宮内膜癌のない15例の患者からの通常の大きい切片を大学臨床センター(Hamburg、Eppendorf)の病理学研究所の資料保管施設から選択した。
【0072】
1.2 蛍光in situハイブリッド形成(FISH)
ハイブリッド形成の前に、TMA切片をパラフィン前処理試薬キット(Paraffin Pretreatment Reagent Kit)プロトコール(Vysis、Downers Grove、IL)に従って処理した。FISHは、ESR1遺伝子の一部を含むジゴキシゲニン化BACプローブ(BAC RP11−450E24、RZPD、Germany)を用いて実施した。プローブの配列は、配列1のヌクレオチド1.064.232〜ヌクレオチド1.203.918の範囲の配列に対応していた。参照として、Vysisから購入したSpectrum−Orange標識第6染色体動原体プローブ(CEP6)を用いた。ハイブリッド形成及びハイブリッド形成後洗浄は、「LSI手順」(Vysis)に従った。蛍光イソチオシアン酸塩(FITC)結合ヒツジ抗ジゴキシゲニン(Roche Diagnostics、Rotkreuz、Switzerland)を用いたプローブの可視化は、記載された通りであった(Wagner U.ら(1997年)、Am J Pathol、第151巻、753〜759頁)。スライド標本をアンチフェド溶液中125ng/mlの4’,6−ジアミノ−2−フェニルインドールで対比染色した。
【0073】
動原体6及びESR1遺伝子プローブの各組織スポットにおける蛍光シグナルの数を評価した。ESR1の変化は、ESR1及び動原体6の遺伝子コピー数の比に基づいて定義した。動原体6コピーより少なくとも2倍多いESR1を含む組織(比≧2.0)は、「ESR1増幅」とみなした。増幅に関する基準に達しない動原体6コピーより多いESR1を含む組織は、「ESR1増加」(比が>1.0であるが、<2.0)とみなした。他のすべての分析可能な組織(比が1.0)は、「ESR1正常」とみなした。
【0074】
1.3 免疫組織化学
エストロゲン受容体αタンパク質の免疫組織化学的検出は、上述のTMA及び一次抗体としての抗体NCL−L−ER−6F11(Novocastra、Newcastle、UK)を用いて実施した。TMAスライド標本を脱パラフィン処理し、圧力鍋中で、pH6クエン酸緩衝液(Retrievit 6 #BS−1006−00、BioGenex、San Ramon、CA)中120℃で12分間インキュベートした。内因性ペルオキシダーゼをブロックした後、前希釈(1:1000)一次抗体を加え、スライド標本を4℃で一夜インキュベートした。Vectastain ABC Eliteシステムを抗体結合の検出に用いた。IHC採点は、Allredスコア(Harvey J.M.ら(1999)、J Clin Oncol、第17巻、1474〜1481頁)に従って行った。簡単に述べると、エストロゲン受容体染色の強度を4段階スケール(0〜3)で、ER陽性腫瘍細胞の部分を5段階(1〜5)スケールで記録した。両パラメーターの組合せにより8段階スコアとなり、すべてのサンプルが>2である場合、ER陽性とみなす。
【0075】
1.4 結果
ESR1 FISH分析は、子宮内膜癌のアレイ組織サンプル368例中176例(48%)において成功であった。欠落結果は、TMA上での組織サンプルの欠落(n=56、15%)又はFISHシグナルの欠如(n=136、37%)に起因していた。ESR1増幅(ESR1:動原体6比≧2)は、40例(22.7%)の腫瘍及び15例中3例(20%)の複雑型増殖症で認められた。他の10例(5.7%)の癌は、ESR1増加を示した。増幅は通常低いレベルであり、FISHシグナルは4〜9であった。8例の増幅腫瘍のみが10以上(最大15)のESR1遺伝子コピーを有していた。表1に示すように、ESR1増幅は、組織学的サブタイプ、腫瘍病期(p=0.6167)及び悪性度(p=0.4763)を含む組織病理学的パラメーターと無関係であった。ESR1コピー数の変化も患者予後と無関係であった。
【0076】
さらに、ESR1コピー数を162例の卵巣癌において分析した。残りの例については解釈可能なFISHシグナルの欠如(n=77)又は組織サンプル中の腫瘍細胞の欠如(n=58)のため、分析は失敗した。ESR1増幅は、解釈可能な162例中12例(7.4%)で認められた。1つの別の卵巣腫瘍は、ESR1コピー数の増加を示した。ESR1増幅は、乳頭癌と比較して類内膜卵巣癌のサブタイプにおいて特に頻繁であった(15.2%、p=0.09)。すべての増幅は低いレベルであり、ESR1遺伝子コピーは4〜6(中央値4.5)であった。結果を表4に要約する。
【0077】
ERタンパク質発現レベルを分析するために、免疫組織化学を適用した。分析は、アレイサンプル368中299(81%)で成功した。組織スポットにおける腫瘍細胞の欠如(n=20、5%)又は組織スポットの欠落(n=49、14%)のため結果が得られなかった。95%を超える腫瘍が少なくとも弱いER発現を示した。最も強い染色(Allredによるスコア7〜8)がサンプル299中114(38%)で認められ、低悪性度腫瘍と関連していた(p=0.0266)。ER発現は、患者の予後と無関係であった。すべてのIHC結果を表2に要約する。
【0078】
ERタンパク質レベルに対するESR1増幅の影響を検討するために、ESR1遺伝子コピー数を免疫組織化学的ERタンパク質発現レベルと比較した。FISH及びIHCの両方に関するデータは、176例の腫瘍から入手可能であった。ER発現(スコア3〜8)は、ESR1増幅腫瘍と有意に関連していた(p=0.0026)。中等度から強度のER発現(スコア5〜8)がESR1増幅腫瘍の95%で認められたが、ESR1コピー数の変化のない腫瘍の68%でのみ認められた。ESR1コピー数とER発現レベルとの関連を表3に示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患に起因する腫瘍を抗エストロゲン療法に対して反応性であると特定するin vitroでの方法であって、
a)配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド配列部分を選択する工程と、
b)前記腫瘍の細胞サンプル中で前記ヌクレオチド配列部分が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されているかどうかを検出する工程と、
c)前記ヌクレオチド配列部分が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されている場合に、前記腫瘍を抗エストロゲン療法に対して反応性であると分類する工程と
を含む方法。
【請求項2】
子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患に起因する腫瘍を有する候補患者を抗エストロゲン療法に適すると特定するin vitroでの方法であって、
a)配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド配列部分を選択する工程と、
b)前記腫瘍の細胞サンプル中で前記ヌクレオチド配列部分が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されているかどうかを検出する工程と、
c)前記ヌクレオチド配列部分が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されている場合に、前記患者を抗エストロゲン療法に適する患者と分類する工程と
を含む方法。
【請求項3】
前記抗エストロゲン療法がエストロゲンアンタゴニストの投与を含む、請求項1から2に記載の方法。
【請求項4】
前記エストロゲンアンタゴニストがタモキシフェン、ラロキシフェン、クロミフェン、トレミフェン、トリロスタン又はそれらの機能性誘導体からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記エストロゲンアンタゴニストがタモキシフェン又はその機能性誘導体である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記抗エストロゲン療法がエストロゲン合成を妨げる作用物質の投与を含む、請求項1から2に記載の方法。
【請求項7】
前記エストロゲン合成を妨げる作用物質がアロマターゼ阻害薬である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アロマターゼ阻害薬がアナストロゾール、レトロゾール、ホルメスタン、エクゼメスタン又はそれらの機能性誘導体からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記抗エストロゲン療法がエストロゲン受容体の発現をダウンレギュレートする作用物質の投与を含む、請求項1から2に記載の方法。
【請求項10】
前記エストロゲン受容体の発現をダウンレギュレートする薬物がフルベストラント又はその機能性誘導体である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗エストロゲン療法が単独療法として実施される、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記子宮内膜の増殖性疾患が子宮内膜癌である、請求項1から11に記載の方法。
【請求項13】
前記卵巣の増殖性疾患が卵巣癌である、請求項1から11に記載の方法。
【請求項14】
子宮内膜又は卵巣癌をそれぞれ発症する危険がある子宮内膜又は卵巣の非癌性増殖性疾患に起因する腫瘍を有する個人を特定するin vitroでの方法であって、
a)配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド配列部分を選択する工程と、
b)前記腫瘍の細胞サンプル中で前記ヌクレオチド配列部分が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されているかどうかを検出する工程と、
c)前記ヌクレオチド配列部分が前記腫瘍細胞のゲノムにおいて増幅されている場合に、前記個人を子宮内膜又は卵巣癌を発症する危険がある個人であると分類する工程と
を含む方法。
【請求項15】
前記ヌクレオチド配列部分が、配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1コード配列の少なくとも一部を含む、請求項1から14に記載の方法。
【請求項16】
前記ヌクレオチド配列部分が、配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1コード配列内にある、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ヌクレオチド配列部分が増幅されているかどうかの検出が、前記ヌクレオチド配列部分とハイブリッド形成するプローブを用いるDNA分析を含む、請求項1から16に記載の方法。
【請求項18】
前記プローブが配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1コード配列又はその一部とハイブリッド形成する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記プローブが検出可能な標識を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記ヌクレオチド配列部分が増幅されているかどうかを検出する工程が、サザンブロッティングを含む、請求項1から19に記載の方法。
【請求項21】
前記ヌクレオチド配列部分が増幅されているかどうかを検出する工程が、蛍光in situハイブリッド形成(FISH)を含む、請求項1から19に記載の方法。
【請求項22】
前記ヌクレオチド配列部分が増幅されているかどうかを検出する工程が、PCRを含む、請求項1から19に記載の方法。
【請求項23】
前記PCRが、配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1コード配列又はその一部とハイブリッド形成する少なくとも1つのプライマーを用いる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ヌクレオチド配列部分が増幅されているかどうかを検出する工程が、定量的PCRを含む、請求項22から23に記載の方法。
【請求項25】
前記ヌクレオチド配列部分が増幅されているかどうかを検出する工程が、定量的リアルタイムPCRを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
配列番号1のヌクレオチド配列部分が増幅されているかどうかを検出する手段を含む、請求項1から25の一項に記載の方法を実施するためのキット。
【請求項27】
配列番号1のヌクレオチド配列のヌクレオチド配列部分とハイブリッド形成するプローブを含む、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記プローブが、配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1遺伝子のコード配列又はその一部とハイブリッド形成する、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
核酸ハイブリッド形成複合体の検出を可能にするプローブを標識するための試薬をさらに含む、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
配列番号1の配列に含まれる配列を有するPCR産物を生成させるためのオリゴヌクレオチドプライマーを含む、請求項26に記載のキット。
【請求項31】
配列番号1のヌクレオチド位置1048135〜1343855の範囲のESR1コード配列又はその一部とハイブリッド形成する少なくとも1つのプライマーを含む、請求項30に記載のキット。
【請求項32】
PCRに基づく反応に適する1つ又は複数のポリメラーゼ酵素、緩衝液、ヌクレオチド及び/又は色素をさらに含む、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
腫瘍細胞がそれらのゲノムDNAにおける増幅されたESR1遺伝子を有する、子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患に起因する腫瘍を有する患者の治療用の薬剤の調製のための抗エストロゲン化合物の使用。
【請求項34】
子宮内膜又は卵巣の増殖性疾患が、子宮内膜癌又は卵巣癌である、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
前記抗エストロゲン化合物が、タモキシフェン、ラロキシフェン、クロミフェン、トレミフェン、トリロスタン又はそれらの機能性誘導体からなる群から選択される、請求項33又は34に記載の使用。
【請求項36】
前記抗エストロゲン化合物が、アナストロゾール、レトロゾール、ホルメスタン、エクゼメスタン若しくはそれらの機能性誘導体又はフルベストラント若しくはその機能性誘導体からなる群から選択される、請求項33又は34に記載の使用。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−527231(P2010−527231A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502497(P2010−502497)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/054169
【国際公開番号】WO2008/122629
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(506126185)
【Fターム(参考)】