説明

宇宙ステーション用の排水処理装置及び方法

【課題】宇宙ステーション内において、簡易な構成で被処理水を処理することができる宇宙ステーション用の排水処理装置及び方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る宇宙ステーション用の排水処理装置10Aは、宇宙ステーション等で利用した排水又は人体排出水等の被処理水11を活性汚泥の生物分解により処理する生物分解処理装置12と、該生物分解処理装置12で前処理された前処理水13から固形物14aを膜分離する膜分離装置14と、前記固形物14aを分離した分離水16を蒸留又は凍結して生産水17を得る生産水製造装置18と、生物分解処理の際に、酸素を供給する酸素供給装置19とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙ステーションまたは将来の月・火星ミッションに搭載される排水処理技術(尿処理、生活排水処理)に用いる宇宙ステーション用の排水処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙ステーションまたは将来の月・火星ミッションにおいて、排出される排水又は作業員から排出される尿を再利用することが提案されており、その一つとして水の膜蒸留方法がある。
【0003】
排出水には不純物があるので、膜蒸留装置により膜蒸留した後において、蒸留水に含まれる不純物を吸着除去する必要がある。
【0004】
このため、前処理として不純物を活性炭により吸着することが提案されているが、人体から排出されるアンモニアは前記活性炭では吸着除去できない、という問題がある。
【0005】
前記膜蒸留を用いた排水処理方法は、蒸発を伴うため、純粋な処理水を得ることができることから、広い用途で再生水を使用することが可能である。
一方、膜蒸留方法は有機物による膜表面のファウリングや、低沸点成分の処理水中への同伴が起こるため、被処理水側の成分調整が必要となる場合がある。
今回、宇宙ステーション等で作業する作業員から排出される尿では、たんぱく質などの有機物や尿素が分解して生成したアンモニア等が含まれるが、これらの分解で増殖するバクテリア等が、膜蒸留性能を劣化させる要因となる。
【0006】
そこで、劣化要因除去対策として、有機物等の活性炭吸着による除去(前処理)方法や、処理水中のアンモニアのイオン交換樹脂または活性炭吸着による除去(後処理)方法等が提案されている。
【0007】
ここで、膜蒸留の後処理として吸着法を採用した一例を図4に示す。
図4に示すように、従来の排水浄化装置は、送液管54により供給された被処理水を蒸留するパーベーパレーション装置2と、2つの不純物吸着装置3、3と、それぞれの不純物吸着装置3、3に設けられた再生装置とから構成される。前記パーベーパレーション装置2における透過膜201としては、カチオン基を有する緻密質膜からなる透過膜を用いている(特許文献1参照)。なお、符号202は透過側(二次側)であり、203は供給側(一次側)である。
【0008】
また、不純物吸着装置3としては、無機質多孔粒体等の吸着剤であり、前記無機質多孔粒体としては、活性炭、シリカゲル、活性アルミナ、バーミキュライト、木炭、ゼオライト等がある。図示例の被処理水の連続浄化装置1においては、二つの不純物吸着装置3、3が設けられており、送気管53に介装された方向制御弁61の切替により交互に再生している。
この不純物吸着装置3にはそれぞれ再生装置が設けられている。この再生装置は加熱手段4と減圧手段(例えば真空ポンプ等、図示せず)とを備え、吸着剤を減圧した状態で加熱することにより再生する装置である。減圧条件は10Pa以下の圧力とされ、また加熱条件は、100〜200℃とされる。尚、図示例の水の連続浄化装置1においては、再生装置を構成する減圧手段は、後流側に設けられている。
【0009】
【特許文献1】特開2006−095526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、不純物吸着装置3として用いる無機質多孔粒体(活性炭等)は、再生を繰り返したとしても、最後には破過による吸着剤の交換が必須であり、高濃度の除去対象物を含む被処理水であれば、破過の速度が速くなり、この結果吸着剤の交換頻度が多くなる、という問題がある。
【0011】
また、宇宙空間では、クルーの作業時間は制限されており、機器のメンテナンス時間は最小限となることが要求されており、吸着剤の交換頻度が増えることは宇宙用機器として致命的であり、レスメンテナンスな設備が求められている。
【0012】
さらに、破過によって交換した吸着剤は、地上へ返還することとなり、その交換費用と手間がかかるという問題もある。
【0013】
本発明は、前記問題に鑑み、宇宙ステーション内において、簡易な構成で被処理水を処理することができる宇宙ステーション用の排水処理装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、宇宙ステーション等で利用した排水又は人体排出水等の被処理水を活性汚泥の生物分解により処理する生物分解処理装置と、前記固形物を分離した分離水を蒸留又は凍結して生産水を得る生産水製造装置と、前記生物分解処理の際に、酸素を供給する酸素供給装置とを具備することを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理装置にある。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、該生物分解処理装置で前処理された前処理水から固形物を膜分離する膜分離装置を具備することを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理装置にある。
【0016】
第3の発明は、第1の発明において、該生物分解処理装置が膜分離活性汚泥装置(MBR)であることを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理装置にある。
【0017】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、酸素供給装置に、酸素濃縮装置から更に酸素を供給してなることを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理装置にある。
【0018】
第5の発明は、第1乃至4のいずれか一つの発明において、前記生産水製造装置が、膜蒸留装置又は凍結濃縮装置であることを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理装置にある。
【0019】
第6の発明は、被処理水中の有機物を除去すると共に、アンモニアを酸化させる生物分解処理工程と、前記生物分解処理工程で前処理された前処理水から固形物を膜分離する膜分離工程と、膜分離工程で固形物を分離した分離水を蒸留又は凍結する生産水製造工程とを含むことを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理方法にある。
【0020】
第7の発明は、第6の発明において、前記生産水製造工程が、膜蒸留工程又は凍結濃縮工程であることを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理方法にある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、活性汚泥の生物分解による生物分解処理装置により、有機物の分解とアンモニアの酸化とが同時に達成でき、膜蒸留装置における劣化要因を取り除くことができる。
生物分解処理工程は自己増殖により性能が維持されるため、吸着剤のような交換作業が不要となると共に、増加した固形物(微生物)は、必要に応じて膜分離工程によって除去されるため、系内の微生物量も一定範囲に維持することができる。
【0022】
これにより、人間の生命維持に欠くことのできない水を再利用することができ、宇宙での人間の長期滞在が可能となることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0024】
本発明による実施例に係る宇宙ステーション用の排水処理装置について、図面を参照して説明する。
図1は、実施例1に係る宇宙ステーション用の排水処理装置の概略図である。
図1に示すように、本実施例に係る宇宙ステーション用の排水処理装置10Aは、宇宙ステーション等で利用した排水又は人体排出水等の被処理水11を活性汚泥の生物分解により処理する生物分解処理装置12と、該生物分解処理装置12で前処理された前処理水13から固形物14aを膜分離する膜分離装置14と、前記固形物14aを分離した分離水16を蒸留又は凍結して生産水17を得る生産水製造装置18と、生物分解処理の際に、酸素を供給する酸素供給装置19とを具備するものである。
【0025】
本実施例においては、前記生産水17を得るための生産水製造装置18としては、例えば膜蒸留装置又は凍結濃縮装置を例示することができる。
ここで、膜蒸留装置は、蒸気は通すが液は通さない疎水性多孔膜を用いて、膜の両側に高温の分離水16と冷却水を流し、高温の分離水16から水蒸気が膜を透過し、冷却水側に移動して生産水17を得る装置である。
また、前記凍結濃縮装置は、分離水16を凍結させ、生成した氷と溶液を分離することにより生産水17を得る装置である。
【0026】
本実施例では、前記生産水製造装置18の前処理装置として、活性汚泥の生物分解により処理する生物分解処理装置12を配し、被処理水11中の有機物の除去とアンモニアの酸化とを同時に行わせ、例えば膜蒸留装置又は凍結濃縮装置等の性能を劣化させる不純物を除去するようにしている。
【0027】
ここで、前記生物分解処理装置12には、尿中に含まれる有機物、アンモニアを酸化する機能を持つバクテリア、真菌(酵母、カビ)、原生動物を含んだ活性汚泥と称される微生物集落を含むものである。
また、前記活性汚泥を生物分解処理装置内に維持するために、付着担体と称される固形物(例えばセラミックス、ガラス、砂、プラスチック等)に担持させ、これを充填するようにしてもよい。
【0028】
生物分解処理装置12からの前処理水13中には、微生物を担体で担持していない場合には、微生物(固体)を含んでいるため、膜分離装置14を設け、これにより固形物14aの除去を行った後、分離水16を生産水製造装置18へ供給して、生産水17を製造するようにしている。
【0029】
また、前記膜分離装置14で分離された粒子等の固形物14aや、生産水製造置18の濃縮により溶解度を越えた析出成分等の固形物18aは、脱水装置21での脱水処理工程を経て固形物22として回収処分される。なお、脱水された水は生物分解処理装置12の前流側に、返送水23として返送され、被処理水11と共に再度処理される。
【0030】
ここで、前記膜分離装置14は、該生物分解処理装置12で前処理された前処理水13から固形物14aを膜分離するものであればいずれでも良いが、例えばMF膜(精密濾過膜)やUF膜(限外濾過膜)等を用いるようにすればよい。
【0031】
また、生物分解処理装置12において、活性汚泥を処理槽内に維持するために、付着担体等に固形物に充填する場合や、MBR(Membrane Bio Reactor:膜分離活性汚泥装置)を用いることが特に好ましい。
この膜分離活性汚泥装置(MBR)は、活性汚泥法と膜分離法を組み合わせたプロセスであり、通常分離膜としては精密濾過膜(MF膜)又は限外濾過膜(UF膜)が使用され、この膜の固液分離作用で汚泥流出を阻止することができ、バイオリアクターの生物濃度を高められ、この結果装置の小型化が可能であると共に余剰汚泥の生成量が少ないものとなる。
よって、MBRを用いた場合においては、固形物流失が防止されるので、本実施例においても膜分離装置14を省略するようにしてもよい。
【0032】
また、前記生物分解処理装置12には、所定量の酸素の供給が必須であるが、その酸素は宇宙ステーションのキャビンからの空気を生物分解処理装置12と並列に配置した酸素供給装置19を通して供給するようにしている。
【0033】
ここで、前記酸素供給装置19としては、キャビン内の空気から酸素を分離するものであればいずれでも良いが、例えば人工肺を例示することができる。
【0034】
さらに、酸素供給の効率を高めるために、キャビン内の空気を酸素濃縮装置25(PSA(Pressure Swing Adsorption)、酸素富化膜等)で濃縮し、更に供給することも可能である。
ここで、酸素濃縮装置25はキャビン内での空気24を取込み、酸素(O2)を濃縮し、窒素(N2)を分離するものである。
この場合には、例えば人工肺でのガス供給量が少なくなり、人工肺のコンパクト化を図ることができる。
なお、酸素供給装置19の人工肺からは二酸化炭素(CO2)が排出される。
【0035】
このような、宇宙ステーション用の排水処理装置を用いて宇宙ステーション内で発生する排水や尿等は以下の工程により処理される。
(工程1)
先ず、生物分解処理装置12により、被処理水11中の有機物を除去すると共に、アンモニアを酸化させる生物分解処理工程。
(工程2)
前記生物分解処理工程で前処理された前処理水13から固形物を膜分離する膜分離工程。
(工程3)
膜分離工程で固形物14aを分離した分離水16を膜蒸留又は凍結濃縮等により生産水17を製造する生産水製造工程。
【0036】
このように、工程1における生物分解による生物分解処理工程により、有機物の分解とアンモニアの酸化とが同時に達成でき、膜蒸留装置や凍結濃縮装置における劣化要因を取り除くことができる。
生物分解処理工程は自己増殖により性能が維持されるため、吸着剤のような交換作業が不要となると共に、増加した固形物(微生物)は、必要に応じて工程2の膜分離工程によって除去されるため、系内の微生物量も一定範囲に維持することができる。
これにより、工程3における生産水製造工程により、人間の生命維持に欠くことのできない生産水17を製造することができ、宇宙での人間の長期滞在を可能にすることができる。
よって、本実施例の宇宙ステーション用の排水処理装置を備えた宇宙ステーションの生命維持装置は、長期間に亙って連続的に良質な生産水を製造することができる。
【実施例2】
【0037】
本発明による実施例に係る宇宙ステーション用の排水処理装置について、図面を参照して説明する。
図2は、実施例2に係る宇宙ステーション用の排水処理装置の概略図である。
図2に示すように、本実施例に係る宇宙ステーション用の排水処理装置10Bは、宇宙ステーション等で利用した排水又は人体排出水等の被処理水11中に酸素を供給する酸素供給装置19と、酸素が供給された被処理水を活性汚泥の生物分解により処理する生物分解処理装置(MBR)12と、活性汚泥により処理された前処理水13を蒸留又は凍結して生産水17を得る生産水製造装置18とを具備するものである。
【0038】
本実施例では、人工肺等の酸素供給装置19を直列に設け、直接酸素を被処理水11内に供給するようにしている。
また、生物分解処理装置12においては、付着担体による微生物の固定化法や、膜分離活性汚泥法(MBR)としているので、実施例1のような被処理水中に微生物が混入することが解消され、膜分離装置の設置が不要となる。
【0039】
また、図3に示す宇宙ステーション用の排水処理装置10Cのように、生物分解処置装置12の処理後の前処理水13の一部を生物分解処理装置12の上流に戻し、循環を行うことで、高濃度の被処理物(有機物、アンモニア)を含む水に対しても処理可能となる。尚、循環する液の比率は有機物、アンモニアの初期濃度によって決定されるものである。
【0040】
本実施例によれば、実施例1の効果に加え、生物分解処理装置12の下流に設けた膜分離装置が不要となり、システム全体の簡素化(コンパクト化)を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係る宇宙ステーション用の排水処理技術によれば、簡単な構成により有害物質や尿を前処理することができ、膜蒸留装置や凍結濃縮装置における劣化要因を取り除くことができ、宇宙ステーションの生命維持装置に用いて適している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1に係る宇宙ステーション用の排水処理装置の概略図である。
【図2】実施例2に係る宇宙ステーション用の排水処理装置の概略図である。
【図3】実施例2に係る宇宙ステーション用の他の排水処理装置の概略図である。
【図4】従来の排水浄化装置の概略図である。
【符号の説明】
【0043】
10A、10B、10C 宇宙ステーション用の排水処理装置
11 被処理水
12 生物分解処理装置
13 前処理水
14a 固形物
14 膜分離装置
16 分離水
17 生産水
18 生産水製造装置
18a 固形物
19 酸素供給装置
21 脱水装置
22 固形物
23 返送水
24 空気
25 酸素濃縮装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙ステーション等で利用した排水又は人体排出水等の被処理水を活性汚泥の生物分解により処理する生物分解処理装置と、
固形物を分離した分離水を蒸留又は凍結して生産水を得る生産水製造装置と、
生物分解処理の際に、酸素を供給する酸素供給装置とを具備することを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
該生物分解処理装置で前処理された前処理水から固形物を膜分離する膜分離装置を具備することを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理装置。
【請求項3】
請求項1において、
該生物分解処理装置が膜分離活性汚泥装置であることを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
酸素供給装置に、酸素濃縮装置から更に酸素を供給してなることを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つにおいて、
前記生産水製造装置が、膜蒸留装置又は凍結濃縮装置であることを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理装置。
【請求項6】
被処理水中の有機物を除去すると共に、アンモニアを酸化させる生物分解処理工程と、
前記生物分解処理工程で前処理された前処理水から固形物を膜分離する膜分離工程と、
膜分離工程で固形物を分離した分離水を蒸留又は凍結する生産水製造工程とを含むことを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記生産水製造工程が、膜蒸留工程又は凍結濃縮工程であることを特徴とする宇宙ステーション用の排水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−119963(P2010−119963A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296586(P2008−296586)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】