説明

安全運転支援システム及び方法、これに用いる車両及び車載機

【課題】路車間通信が不完全な状態で安全運転支援が続行されるのを未然に防止することができる安全運転支援システムを提供する。
【解決手段】道路を走行する車両Cの運転室に設けられる投受光器20を有する車載機2と、道路の所定範囲にダウンリンク領域が設定された投受光器8を有する光ビーコン4とを備えている。車載機2と光ビーコン3との間で光信号による双方向通信を行い、車両C側において、受信したダウンリンク情報に含まれる支援情報に基づいてドライバに対して安全運転支援を行う。車載コンピュータ19は、前記支援情報に基づいてドライバに対する安全運転支援の制御を行う。さらに、車両Cのワイパ14の運転を検出し、この検出信号に基づいて安全運転支援を停止させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路側に設置した光ビーコンと車両に搭載した車載機との間で光信号による双方向通信を行い、ドライバに対して安全運転支援を行う安全運転支援システム及び方法、これに用いる車両及び車載機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
路車間通信システムを利用した交通情報サービスとして、光ビーコン、電波ビーコン又はFM多重放送を用いたいわゆるVICS(Vehicle Information and Communication System)が既に展開されている。このうち、光ビーコンは近赤外線を通信媒体とした光通信を採用しており、車載機との双方向通信が可能となっている。
具体的には、車両の保持するビーコン間の旅行時間情報等を含むアップリンク情報が車載機からインフラ側の光ビーコンに送信され、逆に、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報及び車線通知情報等を含むダウンリンク情報が光ビーコンから車載機に送信されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記光ビーコンは、車載機との間で双方向通信を行う投受光器(ビーコンヘッド)を備えており、この投受光器は、ダウンリンク情報を送出する発光ダイオード(LED)と、車載機からのアップリンク情報を受信するフォトセンサとを備えている。他方、上記車載機も、光ビーコンの投受光器との間で双方向通信を行うために、LEDとフォトセンサとを有する投受光器(車載ヘッド)を備えている。そして、車載機の投受光器は、車両の運転室内において、フロントガラスの手前側のダッシュボード上等に設置されている。
【0004】
このような路車間通信システムを、ドライバに対する安全運転支援を行うことができる安全運転支援システムとして利用することが提案されている(例えば、特願2006−121692号、特願2006−121700号)。このシステムは、光ビーコンからのダウンリンク情報として、前方の信号機に関する信号機情報や、その信号機がある交差点手前の停止線までの距離情報を含ませ、これら情報を受信した車両側において当該情報を利用してブレーキ制御や減速指示等の制御を行うことができる。例えば前記信号機情報は、前方の信号機の灯色の情報及びその信号機が赤になるまでの時間情報であり、車両がこの信号機情報を交差点手前の上流側で受信することにより、交差点手前で信号機が赤信号に切り替わることを予め車両側に認識させ、車両の制御手段がエンジンとブレーキ装置とを制御することにより自動的に減速させ、交差点手前の停止線に従って車両を停止させることができる。
【特許文献1】特開2005−268925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この路車間通信システム(安全運転支援システム)では、光ビーコンと車載機との間は近赤外線を通信媒体として光通信により双方向通信を行っている。このため、降雨時において、車両のフロントガラスのためのワイパが車載機の投受光器の前を遮ると、路車間通信が正常に行われない場合がある。すなわち、降雨時にワイパを作動させ、ダッシュボード上に設置した車載機のフォトセンサの前をワイパが通過した場合、光ビーコンからのダウンリンク情報のうちの一部(数フレームから十数フレーム程度)が受信できなくなる確率が高くなる。
【0006】
したがって、ワイパが動いていることにより車載機がダウンリンク情報のうちの前記信号機情報や前記距離情報を適切に受信できなかった場合、車両の制御手段は、信号機が赤に切り替わるタイミングや停止線までの距離情報を正確に認識することができず、安全運転支援の制御を正確に行うことができない。このように、従来では、ワイパが動いていることにより光ビーコンからのダウンリンク情報を適切に受信していない場合であっても、ドライバはそれに気付かないまま安全運転支援の制御が行われているものとして車両走行を継続するおそれがあり、ドライバが安全運転支援を過信していると、前方の交差点において事故を引き起こす可能性も考えられる。
【0007】
本発明はこのような実情に鑑み、路車間通信が不完全な状態で安全運転支援が続行されるのを未然に防止することができる安全運転支援システム及び方法、これに用いる車両及び車載機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の安全運転支援システムは、道路を走行する車両の運転室に設けられる投受光器を有する車載機と、前記道路の所定範囲にダウンリンク領域が設定された投受光器を有する光ビーコンとを備え、前記車載機と前記光ビーコンとの間で光信号による双方向通信を行い、前記車両側において、受信したダウンリンク情報に含まれる支援情報に基づいてドライバに対して安全運転支援を行う安全運転支援システムであって、前記車両が、前記支援情報に基づいてドライバに対する安全運転支援の制御を行う支援制御部と、車両のワイパの運転を検出する検出部と、この検出部の検出信号に基づいて前記支援制御部による安全運転支援を停止させる停止部とを備えているものである。
【0009】
そして、この安全運転支援システムによる安全運転支援方法は、道路を走行する車両の運転室に設けられる投受光器を有する車載機と、前記道路の所定範囲にダウンリンク領域が設定された光ビーコンの投受光器との間で光信号による双方向通信を行い、前記車両側において受信したダウンリンク情報に含まれる支援情報に基づいて車両がドライバに対して安全運転支援を行うことができる安全運転支援方法であって、前記車両のワイパが動いていると、前記車載機は前記安全運転支援を停止させる。
【0010】
このように、本発明の安全運転支援システム及び方法によれば、車載機の投受光器と光ビーコンの投受光器との間で光通信による双方向通信を行い、ダウンリンク情報に含まれる支援情報に基づいて車両は安全運転支援を行うことができる。そして、車両のワイパが動いていると、この安全運転支援を停止させることができる。これにより、ワイパが光通信を遮ることにより車載機がダウンリンク情報を適切に受けることができないおそれがある状態では、安全運転支援の制御が行われないようにすることができる。つまり、路車間通信が不完全な状態で安全運転支援が続行されるのを未然に防止することができる。
【0011】
また、本発明の車両は、車体と、この車体の駆動及び制動を制御する制御装置と、道路の所定範囲にダウンリンク領域が設定された光ビーコンの投受光器との間で光信号による双方向通信を行うために運転室に設けられた投受光器を有する車載機とを備えた車両であって、受信したダウンリンク情報に含まれる支援情報に基づいてドライバに対する安全運転支援の制御を行う支援制御部と、ワイパの運転を検出する検出部と、この検出部による検出信号に基づいて前記支援制御部による安全運転支援を停止させる停止部と、を備えているものである。
この車両によれば、車両のワイパが運転していると、支援制御部による安全運転支援を停止部は停止させることができるので、ワイパが光通信を遮ることにより路車間通信が不完全となり、この不完全な状態で安全運転支援が続行されるのを未然に防止することができる。
【0012】
そして、この車両において、前記停止部が作動して安全運転支援が停止したことをドライバに報知する出力部を備えているのが好ましい。これによれば、安全運転支援が停止したことをドライバは認識でき、安全運転支援に頼ることなく運転することが必要であると判断することができる。なお、この出力部としては、安全運転支援が停止したことをドライバに、視覚で注意喚起するディスプレイ装置や、音声で注意喚起するスピーカ等を採用することができる。
【0013】
また、この車両において、前記車載機が前記支援制御部と前記検出部と前記停止部とを備えているのが好ましい。これによれば、この車載機を車両に搭載することで、支援制御部と検出部と停止部とを備えた車両とすることができる。したがって、この車載機を既存の車両に搭載することによりこの発明の車両を構成することができる。
【0014】
また、この発明は、道路を走行する車両の運転室に設けられる投受光器を有する車載機であり、前記道路の所定範囲にダウンリンク領域が設定された光ビーコンの投受光器との間で光信号による双方向通信を行い、前記車両側において、受信したダウンリンク情報に含まれる支援情報に基づいてドライバに対して安全運転支援の制御を行わせることができる車載機であって、車両のワイパの運転を検出する検出部と、この検出部による検出信号に基づいて前記安全運転支援を停止させる停止部とを備えているものである。
この車載機によれば、車両のワイパが運転していると、車載機の停止部が安全運転支援を停止させることができるので、ワイパが光通信を遮ることにより路車間通信が不完全となり、この不完全な状態で安全運転支援が続行されるのを未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両のワイパが運転していると、安全運転支援を停止させることができるので、ワイパが光通信を遮ることにより路車間通信が不完全な状態となり、この不完全な状態で安全運転支援が続行されるのを未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明の車載機を含む路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。
図1に示すように、この路車間通信システムは、インフラ側の交通管制システム1と、道路Rを走行する各車両Cに搭載された車載機2とから構成されている。交通管制システム1は、管制室に設けられた中央装置3と、道路Rの各所に多数設置された光ビーコン(光学式車両感知器)4とから構成されており、光ビーコン4は、近赤外線を通信媒体とした光通信によって車載機2との間で双方向通信を行う。なお、中央装置3は交通管制室に設けられている。
【0017】
〔光ビーコンの構成〕
光ビーコン4は、電話回線等の通信回線5を介して中央装置3と接続された通信インタフェースである通信部6と、この通信部6が接続されたビーコン制御機7と、この制御機7のセンサ用インタフェースに接続された複数(図例では4つ)の投受光器(ビーコンヘッド)8とを備えている。
各投受光器8は、筐体9の内部に発光ダイオード(LED)10とフォトセンサ11を収納して構成されている(図3参照)。このうち、LED10は、近赤外線よりなるダウンリンク情報を後述する通信領域Aに発光し、フォトセンサ11は、車載機2からの近赤外線よりなるアップリンク情報を受光する。
【0018】
図2は、上記光ビーコン4の平面図である。
図2に示すように、本実施形態の光ビーコン4は、同じ方向の複数(図例では4つ)の車線R1〜R4を有する道路Rに設置されており、各車線R1〜R4に対応して設けられた前記複数の投受光器8と、これらの投受光器8を一括制御する制御部である一台の前記ビーコン制御機7とを備えている。
上記ビーコン制御機7は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)を有するプログラマブルなマイコンよりなり、通信部6による中央装置3との双方向通信と、各投受光器8による車載機2との路車間通信との制御を行う通信制御部として機能する。なお、このビーコン制御機7による路車間通信の内容については後述する。
【0019】
ビーコン制御機7は、道路脇に立設した支柱12に設置されており、各投受光器8は、支柱12から道路R側に水平に架設した架設バー13に取り付けられ、道路Rの各車線R1〜R4の直上に配置されている。
各投受光器8のLED10は、各車線R1〜R4の直下よりも上流側に向けて近赤外線を発光しており、これにより、車載機2との間で路車間通信を行うための通信領域Aが当該投受光器8の上流側(図2の右側)に設定されている。
【0020】
図3は、光ビーコン4の通信領域Aを示す側面図である。
図3に示すように、この通信領域Aは、後述する車載機2の投受光器20がダウンリンク情報を受信することができるダウンリンク領域(図3において実線のハッチングを設けた領域)DAと、光ビーコン4の投受光器8がアップリンク情報を受信することができるアップリンク領域(図3において破線のハッチングを設けた領域)UAとからなる。
【0021】
光ビーコン(光学式車両感知器)4の「近赤外線式インタフェース規格」では、アップリンク領域UAは、ダウンリンク領域DAの車両進行方向の上流部分(図3の右側部分)と重複しており、ダウンリンク領域DAとアップリンク領域UAの上流端cは互いに一致している。
従って、ダウンリンク領域DAの車両進行方向長さは通信領域A全体の同方向長さと一致する。
【0022】
また、上記規格では、一般道向けの光ビーコン4の場合で、ダウンリンク領域DAの下流端aは、投受光器8の直下の1.0〜1.3m上流側に位置し、ダウンリンク領域DAの下流端aからアップリンク領域UAの下流端bまでの距離は2.1mと規定され、アップリンク領域UAの下流端bから同領域UAの上流端cまでの距離は1.6mと規定されている。この場合、通信領域Aの車両進行方向の全長は3.7mとなる。
もっとも、各領域DA,UAの車両進行方向長さは上記各数値に限定されない。また、図3に仮想線で示すように、ダウンリンク領域DAの上流端c’をアップリンク領域の上流端cよりも更に上流側(図3の右側)に位置させる場合もある。
【0023】
〔車載機及び車両の構成〕
図4は、光ビーコン4と通信する前記車載機2と、この車載機2が搭載された車両Cの概略構成図である。
図4に示すように、この車両Cは、ドライバの搭乗席(図示せず)を有する車体15と、この車体15のフロントガラス上の雨水等の異物をふき取るワイパ14と、このワイパ14の動作を制御するワイパ制御部27と、車体15に搭載された前記車載機2と、車両Cの各部を統合制御する電子制御装置(ECU)16と、車体15を駆動するエンジン17と、車体15を制動するブレーキ装置18と、車両Cの現時の速度を常時検出している速度検出器26とを備えている。
【0024】
ワイパ制御部27は、図示しないが、運転席内に設けられドライバが操作するスイッチと、バッテリ(図示せず)から電力の供給を受け前記スイッチの切り換えによりワイパ14を駆動させる動力部とを有しており、ワイパ14を運転状態と停止状態とに切り換えたり、ワイパ14の運転速度を変更したりする。なお、ワイパ制御部27は、図示しないが、車体15に設けられ雨滴を検出するセンサと、このセンサの検出信号に基づいて前記動力部を自動的に作動させる制御部とをさらに有したものであってもよい。
ECU16は、ドライバのアクセル操作に基づくエンジン17の駆動制御や、ブレーキ操作に基づく制動制御等、車両Cに対する各種の制御を行う。
【0025】
車載機2は、車載コンピュータ19と、このコンピュータ19のセンサ用インタフェースに接続された投受光器(車載ヘッド)20と、搭乗席のドライバに対するヒューマンインタフェースとしてのディスプレイ21及びスピーカ装置22とを備えている。
車載機2の投受光器20も、光ビーコンの投受光器8と同様に、発光ダイオード(LED)とフォトセンサを備えている(図示せず)。このうち、LEDは、近赤外線よりなるアップリンク情報を発光し、フォトセンサは、通信領域Aに発光された近赤外線よりなるダウンリンク情報を受光する。車載機2のうちの少なくとも投受光器20は車両Cの運転室内に設けられており、投受光器20の具体的な設置場所は、前記ワイパ14があるフロントガラスの手前側のダッシュボード上である。
【0026】
車載コンピュータ19は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)を有するプログラマブルなマイコンよりなり、投受光器20による光ビーコン4との路車間通信の制御処理を行う。
また、車載コンピュータ19は、所定の各機能を実行するプログラムを記憶装置に格納しており、このプログラムが実行する機能部として検出部23、支援制御部24及び停止部25を備えている。
【0027】
〔車載コンピュータの処理内容〕
車載コンピュータ19の検出部23はワイパ14の運転を検出する。具体的に説明すると、この車載コンピュータ19はワイパ用インタフェースを有しており、このインタフェースには信号線を介してワイパ制御部27が接続されている。ワイパ制御部27の前記動力部が動くことによりワイパ14が異物をふき取る運転状態にあると、ワイパ制御部27からワイパ14の運転信号を検出部23は受けることができる。これにより、検出部23はワイパ14が運転を開始したこと及び運転中であることを検出できる。
【0028】
車載コンピュータ19の支援制御部24は、車載機2が受信したダウンリンク情報に含まれる支援情報に基づいてドライバに対する安全運転支援の制御を行う。この安全運転支援は後にも説明するが、例えば、信号機情報や距離情報等の支援情報に基づく車両Cの減速制御やドライバへの報知制御が含まれる。この信号機情報は、光ビーコン4の下流側にある信号機の灯色が変わるタイミング情報等であり、距離情報は、ダウンリンク領域DAから光ビーコン4の下流側の所定位置(例えば、車両走行方向の前方の交差点手前に設けられている停止線)までの長さ情報である。
【0029】
これらの信号機情報及び距離情報がダウンリング情報に含まれていることにより、支援制御部24は、前方の信号機が赤に変わる時点で車両Cが交差点内に進入していないように、ECU16にブレーキ装置18を作動させて車両Cを減速したり、信号機が赤に変わることを前記ディスプレイ21やスピーカ装置22によってドライバに報知する。
【0030】
車載コンピュータ19の停止部25は、ワイパ14が運転状態にあることを前記検出部23が検出した場合に、つまり、前記ワイパ制御部27からのワイパ14の運転信号を検出部23が受けた場合に、この検出部23の検出信号に基づいて支援制御部24による安全運転支援を停止させるものである。また、車載コンピュータ19は、この停止部25が作動して安全運転支援が停止されると、その旨の注意喚起表示をディスプレイ30に表示させたり、或いは、その旨の音声出力をスピーカ装置22から発声させたりして、ドライバに報知する。なお、ディスプレイ21とスピーカ装置22の双方で、安全運転支援の停止をドライバに報知することにしてもよい。
【0031】
ディスプレイ21は、ナビゲーション装置やテレビジョン装置の画像表示部を構成する車載ディスプレイや、車体15のフロントガラス面に図形を架空表示するヘッドアップディスプレイ等よりなる。また、スピーカ装置22は、搭乗席の車体15のフロントパネルやドア等に設けられたスピーカよりなる。これらのディスプレイ21及びスピーカ装置22は、ワイパ14の運転に伴う安全運転支援の停止をドライバに報知する出力部として機能する。
【0032】
〔路車間通信〕
図5は、通信領域Aにおいて光ビーコン4の投受光器8と車載機2の投受光器20との間で行われる双方向での路車間通信の手順を示している。以下、図5を参照しつつ、この路車間通信の内容を説明する。
まず、光ビーコン4のビーコン制御機7は、各車線R1〜R4に対応する各投受光器8から、ダウンリンクの切り替え前の第一情報として、車線通知情報を含む第一のダウンリンク情報28を、各車線R1〜R4のダウンリンク領域DAに所定の送信周期で常に送信し続けている(図5のF1)。なお、この段階では、車線通知情報には未だ車両IDは格納されていない。
【0033】
車載機2を搭載した車両Cがダウンリンク領域DAの上流側部分に進入すると、車載機2の投受光器20が車線通知情報(車両ID無し)を含む第一のダウンリンク情報28を受信する。この際、車載機2の車載コンピュータ19は、当該車両Cが通信領域A内に存在していることを認識する。その後、車載コンピュータ19はアップリンク情報29の送信を開始し(図5のF2)、このアップリンク情報29を光ビーコン4の投受光器8に対して所定の送信周期で送信する(図5のF3)。
【0034】
車載コンピュータ19は、アップリンク情報29の送信をアップリンク領域UA(図3参照)において行い、そのアップリンク情報29に当該車両Cに特定の車両IDを格納して当該アップリンク情報29を送信する。
なお、車載コンピュータ19は、ビーコン間の旅行時間情報を有している場合には、この情報もアップリング情報29に含ませる。また、車載コンピュータ19は、光ビーコン4のビーコン制御機7がダウンリンクの切り替えを行ったことを認識するまで、当該アップリンク情報29を送信し続ける。
【0035】
一方、光ビーコン4の投受光器8がアップリンク情報29を受信すると(図5のF4)、ビーコン制御機7は、ダウンリンクの切り替え後の第二情報として、上記車両ID情報を有する車載機2のための車線通知情報を含む第二のダウンリンク情報30の送信を開始し(図5のF5)、このダウンリンク情報30の送信を所定時間内において可能な限り繰り返す(図5のF6)。
上記車線通知情報には、車線R1〜R4ごとに車両IDを格納するフィールドがあり、各車両IDに対して車線番号を付与することができる。このため、異なる車線R1〜R4を走行する各車両Cの車載コンピュータ19は、その格納フィールド内のいずれに自車両の車両IDが含まれるかを判断することにより、自車両がどの車線R1〜R4を走行しているかを認識できる。
【0036】
第二のダウンリンク情報30には、車両IDを含む車線通知情報の他に、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報、及び、ドライバに対する安全運転支援のための前記支援情報等が含まれている。
この支援情報には、光ビーコン4の下流側の信号機の灯色が変わるタイミング情報である前記信号機情報や、ダウンリンク領域DAから光ビーコン4の下流側の所定位置(例えば、前方の交差点手前にある停止線)までの長さ情報である距離情報等が含まれる。
【0037】
図5に示すように、第二のダウンリンク情報30は、単一又は複数の最小フレーム31で構成されている。前記「近赤外線式インタフェース規格」によれば、この最小フレーム31のデータ量は合計128バイトと規定され、ヘッダ部32に5バイト、実データ部33に123バイトが割り当てられている。
【0038】
なお、前記規格によれば、第二のダウンリンク情報30は、1〜80個の最小フレーム31で構成することができ、送信可能時間は250msに設定されている。また、このダウンリンク情報30は送信すべき情報量に対応した任意数の最小フレーム31で構成され、上記送信可能時間の範囲内で繰り返し送信される。
最小フレーム31の送信周期は約1msである。従って、例えば、三つの最小フレーム31で一つのダウンリンク情報30を構成する場合には、ダウンリンク情報30の送信周期は約3msになるので、当該ダウンリンク情報30は所定の送信可能時間(250m)の間に約80回繰り返して送信されることになる。
【0039】
車載機2の車載コンピュータ19は、第二のダウンリンク情報30を受信した時点(図5のF7)で光ビーコン4でのダウンリンクの切り替えを認識し、この時点でアップリンク情報29の送信を停止する。
このように、車載機2の車載コンピュータ19は、支援情報を含むダウンリンク情報30を受け、この支援情報に基づいて安全運転支援の制御を開始する(図5のF8)。
【0040】
〔安全運転支援〕
安全運転支援は、光ビーコン4の投受光器8よりも車両走行方向の下流側にある所定位置において、車両Cを所定の速度に自動的に減速させたり、車両Cを自動的に停止させたりすることができる操作である。そして、図6は支援情報を得た車両において行われる安全運転支援の制御を説明する説明図である。この実施形態では、道路Rの前方の交差点Bにある信号機35の灯色に応じて車両を自動的に減速させ、交差点Bの手前に設けられている停止線Pに従って車両Cを自動的に停止させることができる安全運転支援である。このために、受信する支援情報としては、前方の信号機35の灯色の情報及びその信号機35が赤になるまでの時間の情報を有する信号機情報、及び、ダウンリンク領域DAから前方の停止線Pまでの長さ情報である距離情報(図6のL)を少なくとも含んでいる。なお、この距離情報は、例えばダウンリンク領域DAの上流端cから停止線Pまでの距離とすることができ、また、この距離情報は光ビーコン4を設置する際に測定したものであり、ビーコン制御機7に記憶させてある。
【0041】
これにより、車載コンピュータ19の支援制御部24は、信号機情報、距離情報、及び速度検出器26から入力される現在の走行速度の情報を利用して、現走行位置から停止線Pまでの残りの距離を随時演算する。そして、支援制御部24とECU16とが連携し、支援制御部24による演算結果に基づいて、ECU16はエンジン17及びブレーキ装置18を制御し、車両Cを停止線Pに従って停止させることができる。
【0042】
なお、この安全運転支援システムにおいて、第二のダウンリンク情報30の最初の送信時(図5のT0)から、車載機2が前記支援情報の受信を完了するまでに、車両Cはある距離だけ進行することとなる。このため、受信した距離情報に誤差が生じてしまう。そこで、各ダウンリンク情報30の最小フレーム31中に、アップリンク情報29を受信した後の最初のダウンリンク情報の送信を基準とした経過情報をさらに含ませ、支援制御部24は、この経過情報及び現在の走行速度の情報を用いて前記距離情報を補正し、停止線Pまでの距離を求めるのが好ましい。
【0043】
このように支援制御部24は、受信した距離情報を補正することにより停止線Pまでの実際の距離をより正確に認識することができ、車両Cを停止線Pで正確に停止させることができる。なお、前記経過情報としては、最初のダウンリンク情報の送信を基準とした時間情報としたり、最初のダウンリンク情報の送信を基準とした回数情報としたりできる。なお、回数情報の場合は、この回数情報にダウンリンク情報30の送信周期を乗算することにより、最初のダウンリンク情報の送信時からの経過時間を求めることができる。
【0044】
このように、本実施形態によれば、車載コンピュータ19の支援制御部24は、車載機2の投受光器20により受信した支援情報に基づいてドライバに対する安全運転支援の制御を行うことができる。さらに、この実施形態では、この投受光器20の直ぐ前方にあるフロントガラスのワイパ14が雨滴をふき取る動作を行っていると、ワイパ制御手部27からワイパ14の運転信号が出力され、この運転信号が車載コンピュータ19に入力される。そして、車載コンピュータ19の検出部23は、前記運転信号を受けることによりワイパ14が運転状態にあることを検出する。そして、車載コンピュータ19の停止部25は、検出部23の検出信号に基づいて支援制御部24による安全運転支援を停止させることができる。
【0045】
したがって、降雨時(降雪時を含む)にワイパ14が運転を開始し、ダッシュボード上に設置した車載機2の投受光器20の前をワイパ14が通過すると、このワイパ14が光ビーコン4の投受光器8からの近赤外線を遮ることになる。これにより、車載機2の投受光器20がダウンリンク情報(数フレームから十数フレーム程度)を完全に受信することができなくなるおそれが生じると、ワイパ14の運転の開始と同時に停止部25は安全運転支援を停止させ、前方の所定位置を目標として車両Cを所定の速度に減速させたり、車両Cを停止させたりする制御を行わせない。これにより、光ビーコン4と車載機2との間の路車間通信が不完全な状態で安全運転支援システムが続行されるのを未然に防止することができる。
【0046】
また、車載機2の投受光器20がアップリンク情報の送信を行った際に、ワイパ14が投受光器20の前を通過すると、ワイパ14が投受光器20からの近赤外線を遮るおそれがある。これにより、前記アップリンク情報が光ビーコン4に到達しないことがある。このように、車両Cがアップリンク領域内に存在する間に車載機2が送信を試みたアップリンク情報が、ワイパ14によって遮断されてしまった場合、光ビーコン4はダウンリンクの前記切り替えを行うことができず、車載機2に対して前記信号機情報等を含むダウンリンク情報の送信を開始しないため、結果的に、車載機2は安全運転支援の制御を正確に行うことができない事態に陥る。
しかし、本発明によれば、ワイパ14の運転の開始と同時に停止部25は安全運転支援を停止させることができるので、光ビーコン4と車載機2との間の路車間通信が不完全な状態で安全運転支援システムが続行されるのを未然に防止することができる。
【0047】
そして、車載コンピュータ19は、停止部25が作動して安全運転支援が停止されると、その旨の注意喚起表示をディスプレイ30に表示させたり、或いは、その旨の音声出力をスピーカ装置22から発声させたりして、ドライバに報知する。なお、ディスプレイ21とスピーカ装置22の双方で、安全運転支援の停止をドライバに報知することにしてもよい。これにより、安全運転支援が停止したことをドライバは予め認識でき、安全運転支援に頼ることなく運転することが必要であると判断することができる。
【0048】
また、ドライバの操作等によりワイパ14を停止させると、車載コンピュータ19の検出部23はワイパ14の停止を検出する。すなわち、ワイパ制御部27の前記動力部が停止することによりワイパ14が停止状態になると、検出部23はワイパ制御部27からの運転信号を受けなくなることにより、ワイパ14の停止を検出することができる。これにより、停止部25は機能しなくなり、支援制御部24は安全運転支援を行わせることができる状態に復帰する。
【0049】
また、本発明において、車載機2が支援制御部24と検出部23と停止部25とを備えていることにより、この車載機2を車体15に取り付けることで、安全運転支援についての機能を備えた車両Cとすることができる。したがって、既存の車両Cに本発明の車載機2を取り付けることにより、安全運転支援を行わせたり、ワイパ14の運転開始により安全運転支援を停止させたりすることができる車両Cが得られる。
【0050】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、車載コンピュータ19の各機能部23,24,25は、車両Cの電子制御装置(ECU)16に組み込むこともできる。
また、安全運転支援として車両Cを停止線Pで停止させる場合を説明したが、これ以外であってもよく、図示しないが、例えば前方のカーブの手前の所定位置において、車両の走行速度を、当該カーブを安全に曲がることができる適正速度に減速させる安全運転支援としてもよい。また、支援情報としての距離情報を図6では、ダウンリンク領域DAの上流端cから停止線Pまでの距離としたが、これ以外であってもよく、例えばダウンリンク領域DAの下流端aから停止線Pまでの距離としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の安全運転支援システムとして利用する路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の光ビーコンの平面図である。
【図3】上記光ビーコンの通信領域を示す側面図である。
【図4】光ビーコンと通信する車載機と、この車載機が搭載された車両の概略構成図である。
【図5】通信領域で行われる路車間通信の手順とデータ内容を示す概念図である。
【図6】支援情報を得た車両において行われる安全運転支援の制御を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0052】
2 車載機
4 光ビーコン
8 投受光器(ビーコン側)
14 ワイパ
15 車体
16 電子制御装置(ECU)
19 車載コンピュータ
20 投受光器(車載機側)
21 ディスプレイ(出力部)
22 スピーカ装置(出力部)
23 検出部
24 支援制御部
25 停止部
28 第一のダウンリンク情報
29 アップリンク情報
30 第二のダウンリンク情報
A 通信領域
C 車両
R 道路
DA ダウンリンク領域
UA アップリンク領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路を走行する車両の運転室に設けられる投受光器を有する車載機と、前記道路の所定範囲にダウンリンク領域が設定された投受光器を有する光ビーコンと、を備え、前記車載機と前記光ビーコンとの間で光信号による双方向通信を行い、前記車両側において、受信したダウンリンク情報に含まれる支援情報に基づいてドライバに対して安全運転支援を行う安全運転支援システムであって、
前記車両が、前記支援情報に基づいてドライバに対する安全運転支援の制御を行う支援制御部と、車両のワイパの運転を検出する検出部と、この検出部の検出信号に基づいて前記支援制御部による安全運転支援を停止させる停止部と、を備えていることを特徴とする安全運転支援システム。
【請求項2】
道路を走行する車両の運転室に設けられる投受光器を有する車載機と、前記道路の所定範囲にダウンリンク領域が設定された光ビーコンの投受光器との間で光信号による双方向通信を行い、前記車両側において受信したダウンリンク情報に含まれる支援情報に基づいて車両がドライバに対して安全運転支援を行うことができる安全運転支援方法であって、
前記車両のワイパが動いていると、前記車載機は前記安全運転支援を停止させることを特徴とする安全運転支援方法。
【請求項3】
車体と、この車体の駆動及び制動を制御する制御装置と、道路の所定範囲にダウンリンク領域が設定された光ビーコンの投受光器との間で光信号による双方向通信を行うために運転室に設けられた投受光器を有する車載機と、を備えた車両であって、
受信したダウンリンク情報に含まれる支援情報に基づいてドライバに対する安全運転支援の制御を行う支援制御部と、ワイパの運転を検出する検出部と、この検出部による検出信号に基づいて前記支援制御部による安全運転支援を停止させる停止部と、を備えていることを特徴とする車両。
【請求項4】
前記停止部が作動して安全運転支援が停止したことをドライバに報知する出力部を備えている請求項3に記載の車両。
【請求項5】
前記車載機が前記支援制御部と前記検出部と前記停止部とを備えている請求項3又は4に記載の車両。
【請求項6】
道路を走行する車両の運転室に設けられる投受光器を有する車載機であり、前記道路の所定範囲にダウンリンク領域が設定された光ビーコンの投受光器との間で光信号による双方向通信を行い、前記車両側において、受信したダウンリンク情報に含まれる支援情報に基づいてドライバに対して安全運転支援の制御を行わせることができる車載機であって、
車両のワイパの運転を検出する検出部と、この検出部による検出信号に基づいて前記安全運転支援を停止させる停止部と、を備えていることを特徴とする車載機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−108040(P2008−108040A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289731(P2006−289731)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】