説明

定着ベルト及びその製造方法

【課題】本発明は、高速化、小型化が進むプリンター等のベルト定着方式に用いる定着ベルトにおいて、機械的特性、熱伝導性、柔軟性、及びトナーの離型性に優れ、さらに、ポリイミド層、金属層及び離型層の各層間の接着力が高く、耐久性に優れた定着ベルトを提供することにある。
【解決手段】基材がポリイミドからなる管状物の外面に金属層と、金属層の外面に離型層が形成された定着ベルトであって、前記金属層は溶射によって形成された金属堆積被膜で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真技術を利用した複写機、プリンター、ファクシミリ等の画像成形装置において、転写紙上の未定着トナー像を加熱、加圧して定着するために用いる定着ベルト及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザービームプリンター等の画像形成装置では、印刷や複写の最終段階で、紙をはじめとするシート状転写材上のトナー像を熱定着する方法として熱ローラー方式が多く用いられてきた。しかし、省エネルギーなどの観点から近年は、定着ベルトを用いたベルト定着方式が主流になってきている。
【0003】
これらのベルト定着方式の一例について図2に基づき説明すると、複写紙17の表面に形成したトナー像18を熱定着するために、定着ベルト11の内側にベルトガイド12と、セラミックヒーター13を備え、定着ベルト11を介してセラミックヒーター13と圧接させた加圧ロール14との間に、トナー像18を形成した複写紙17を順次送り込み、トナーを加熱溶融させ複写紙上に熱定着させる方法である。このベルト定着方式では極めて薄いフィルム状の被膜を有する定着ベルト11を介して、ヒーターが実質的に直接トナーを加熱するため、定着ベルト11と加圧ロール14の接触面N(ニップ面)が瞬時に所定の定着温度に達し、電源の投入から定着可能状態に達するまでの待ち時間がなく、また、消費電力も小さいく家庭用から産業用まで広く使用されている。15はサーミスタ、19は定着されたトナー像、16は加圧ロール14の芯金部である。
【0004】
ベルト定着方式に使用する定着ベルトとしては、耐熱性、機械的特性に優れたポリイミド管状物を基材として用いたものが特許文献1で開示されている。また、ステンレスなどの金属薄膜管状物を用いたものが特許文献2で開示されている。
【0005】
しかしながら、近年、プリンターや複写機は高速化の方向に進み、ベルト定着方式に用いる定着ベルトの特性も機械的特性、熱伝導性、耐熱性等より高い特性が要求され、特許文献1に開示されているポリイミド管状物では強度や座屈などの機械的特性が限界に近くなってきており、ポリイミド管状物の端部からの破壊や、紙詰まり時に折れ曲がりや、穴あきが発生する問題がある。このような問題点に対してポリイミド管状物の厚みを厚くして機械的特性を向上させる試みもあるが、管状物の熱伝導性が大きく低下することになり、トナーの熱定着に必要とする熱量が得られなく、ポリイミド管状物の機械的特性と熱伝導性とのバランスを取りながら、高速化に対しては妥協せざるを得ない状態であった。
【0006】
一方、特許文献2で提供されているステンレスなどの金属薄膜管状物を定着ベルトとして用いた場合には、熱伝導性、及び機械的特性については優れた特徴を有するため高速化、あるいは紙詰まりなどのトラブルに対しては対応ができる。しかしながら、近年のプリンターや複写機は熱効率、あるいはコンパクト化を考慮した設計から、定着ベルトの内径が20mm以下のものが使用されてきているため、小径の金属薄膜管状物を定着ベルトとして使用した場合には柔軟性に乏しく、図2の定着装置において加圧ロール14の加圧力を上げる必要があり、定着ベルト11と加圧ロール14のニップ面Nでの繰り返し疲労による破損や、折れ曲がりが発生する問題がある。また、セラミックスヒーター13が破損した場合、金属薄膜管状物が導体となり、漏電の危険性も有している。さらに厚みを50μm程度の薄膜状に加工するための工程が煩雑で、製造コスト上の問題も有している。
【0007】
このような問題を解決するために特許文献3、4には金属層とポリイミド樹脂層が積層された定着ベルトが提案されている。
【特許文献1】特開平07−178741号公報
【特許文献2】特開2002−055557号公報
【特許文献3】特開平06−222695号公報
【特許文献4】特開2002−292766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高速化、小型化、軽量化が進むプリンター等のベルト定着方式に用いる定着ベルトにおいて、機械的特性、熱伝導性、柔軟性、及びトナーの離型性に優れ、さらに、ポリイミド層、金属層及び離型層の各層間の接着力が強く、耐久性に優れた定着ベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成させるために本発明の定着ベルトは、基材がポリイミドからなる管状物の外面に、金属層、及び金属層の外面に離型層が形成された定着ベルトであって、前記金属層は、溶射によって形成された金属堆積被膜であることを特徴とする。
【0010】
前記ポリイミドが、芳香族テロラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンを有機極性溶媒中で重合したポリイミド前駆体を、加熱してイミド化したポリイミドであることを特徴とする。また、前記ポリイミドが熱伝導性微粒子を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明は前記金属層が溶射によって形成された金属堆積被膜であり、厚みが20μm以上300μm以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は前記離型層が、フッ素樹脂層、シリコーンゴム層、及びフッ素ゴム層から選ばれる少なくとも一つの層であることを特徴とする。また、前記離型層が、フッ素樹脂層、または内層にシリコーンゴム層が形成され、その表面にフッ素樹脂層が積層されている積層体であることを特徴とする。
【0013】
次に、本発明の定着ベルトの製造方法は、円筒状金型の表面にポリイミド前駆体溶液をキャスト成形してポリイミド前駆体溶液被膜を形成し、前記前駆体溶液被膜を少なくとも管状物としての強度が保持できる状態まで加熱してポリイミド管状物を作製した後、前記ポリイミド管状物の外面に、溶射方法によって金属堆積被膜を形成させ、さらに、前記金属堆積被膜の外面に離型層を形成し、その後、加熱して各層を一体化することを特徴とする。
【0014】
前記ポリイミド管状物のイミド化率が50〜90%の段階で、前記ポリイミド管状物の外面に、溶射方法によって、金属堆積被膜を形成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の定着ベルトは基層が柔軟なポリイミドからなり、その外面に溶射によって形成された金属堆積被膜層を有する構造であるため、小径であっても柔軟であり、且つ、金属層を有するため、機械的特性に優れ、紙詰まりなどによる定着ベルトの破損を解消できる。また、ポリイミドが熱伝導性微粒子を含み、その外面に金属層が形成されているため、熱伝導性に優れた定着ベルトを提供できる。また、本発明の定着ベルトの製造方法によれば、ポリイミド層に溶融金属が微粒子状で衝突して形成されるため、ポリイミド層と金属層の接着力が強く、また離型層は金属堆積被膜層の外面に投錨的な構造で成形されるため金属層と離型層の接着力も高く耐久性に優れた定着ベルトを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の定着ベルトの1例の模式断面図である。本発明の定着ベルトは、基材となるポリイミド管状物1の外面に、溶射によって形成された金属堆積被膜2が成形され、その外面に離型層3が成形された構成を有する。本発明の定着ベルトはポリイミド層と金属層が積層された構造であり、ポリイミド層はプラスチック材料が持つ柔軟性、絶縁性などの特性を生かし、また、金属層は熱伝導性及び機械的特性を生かし、それぞれの特性が複合化された特徴を有する定着ベルトである。本発明においては、金属層は溶射によって形成された金属堆積被膜であることが好ましい。溶射によって形成された金属層は、溶融し微粒子化した金属がポリイミド管状物の外面、あるいはすでに形成された金属被膜の表面に衝突し、それに沿って急激に広がって密着し、堆積し、被膜として形成されるため、冶金的に製造された緻密な結晶構造とは異なるため柔軟な金属層が得られるからである。
【0017】
また、溶射法で成形する金属材料は特に限定するものではなく、ステンレス鋼、アルミニウム、亜鉛、アルミニウム青銅、錫などを単体で、あるいはこれらの合金を使用することができる。金属被膜の形成はアーク溶射法、プラズマ溶射法などにより金属を溶融させ、ポリイミド層表面に金属微粒子を衝突させて被膜を形成していくため、溶射する金属材料の融点が1000度C以下であることが好ましい。
【0018】
融点が1000度C以上の金属材料をポリイミド層に溶射すると、金属堆積被膜の表面粗さが粗くなるため好ましくない。溶射によって成形された金属堆積被膜は一度溶融した金属微粒子の衝突によって形成されるため、その表面は複雑な凹凸状態で形成されるが、表面粗度はJIS−B0601による測定値Rzで、5〜10μmの範囲が好ましい。この範囲であると、金属層表面に離型層を成形する場合、凹部分に離型層材料が投錨的に入り込み、金属層と離型層の接着力を高めることができる。図3は金属堆積被膜の顕微鏡写真である。
【0019】
また、溶射方法は金属ワイヤーをアーク放電により溶融させて圧縮空気により溶融金属を微粒子化してポリイミド層に吹き付けて製膜するアーク溶射方法が好ましい。金属材料を十分に溶融させることができ、ポリイミド層表面に微細な金属堆積被膜を形成することができ、また、定着ベルトなどの小さい部材に対しても比較的コンパクトな設備で溶射できるからである。
【0020】
本発明の定着ベルトにおいて、基材となるポリイミドは芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを有機極性溶媒中で重合したポリイミド前駆体溶液を、加熱してイミド化したポリイミドであることが好ましい。ポリイミド前駆体が溶液状であると熱伝導性微粒子等を均一に分散でき、また、ポリイミド前駆体溶液の粘度や固形分濃度の調整が可能であり管状物の内径や、成形厚みを幅広い範囲で精度よく設定できるからである。
【0021】
ポリイミド管状物の厚みは5μm〜70μmの範囲が好ましく、より好ましくは10μm〜50μmの範囲である。ポリイミド層の厚みが前記の範囲であると柔軟性と熱伝導性の優れた定着ベルトが得られるからである。
【0022】
前記ポリイミド前駆体溶液は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの略等モルを有機極性溶媒中で反応させて得ることができる。前記、芳香族テトラカルボン酸二無水物の代表例としては、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,3′,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2′−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等が挙げられる。
【0023】
また、前記芳香族ジアミンの代表例としては、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3′−ジクロロベンジジン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ビフェニルジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルスルフィド−3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、4,4′−ジアミノフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルプロパン、m−キシリレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルヘプタメチレンジアミン等を挙げることができる。
【0024】
これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物、及び芳香族ジアミンは単独であるいは混合して使用することができる。またポリイミド前駆体溶液まで完成させてそれらの前駆体溶液を混合して使用することもできる。
【0025】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを反応させる有機極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、ピリジン、ジメチルテトラメチレンスルホン、テトラメチレンスルホン、炭酸プロピレン、γーブチロラクトン等があげられこれらの溶媒を単独でまたは混合して使用することが好ましい。
【0026】
上記、ポリイミド前駆体溶液は、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機極性溶媒中で通常は90℃以下で反応させることによって得られ、溶媒中の固形分濃度は、製造するポリイミド管状物の仕様や加工条件によって設定することができるが10〜50重量%である。
【0027】
また、有機極性溶媒中で芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させると、その重合状況によって溶液の粘度が上昇するが、使用に際しては所定の粘度に希釈して使用することができる。製造条件や作業条件によって通常1〜5000ポイズの粘度で使用される。より好ましくは700〜1500ポイズである。この範囲であるとポリイミド前駆体溶液を円筒状金型の表面に塗布しても均一な厚みの管状物を作製できるからである。
【0028】
また、本発明においては、前記ポリイミド層が熱伝導性微粒子を含むことが好ましい。定着ベルトとしてより熱伝導性を改善できるからである。ポリイミドに含有させる熱伝導性微粒子は絶縁性の無機微粒子が好ましく、例えば、窒化硼素、アルミナ、炭化ケイ素、チタン酸カリウム、窒化アルミ、酸化チタン、カーボンナノファイバー等が好ましい材料であり、これらを単体で、または混合して用いることができる。これらの中でも、窒化硼素、アルミナ、炭化ケイ素、窒化アルミはより好ましい熱伝導性微粒子である。
【0029】
熱伝導性微粒子の含有量は、通常10〜50重量%、好ましくは15〜40重量%である。熱伝導性微粒子の平均粒子径は、0.01〜10μmの範囲であり、好ましくは0.1〜5μmの範囲である。
【0030】
本発明においては、前記金属層が溶射によって形成された金属堆積被膜であり厚みが20μm以上300μm以下であることが好ましい。金属堆積被膜の厚みが20μm以下であると機械的特性や熱伝導性の特性が得られにくく、300μm以上の厚みになると定着ベルトとしての柔軟性が得られない。より好ましい厚みは50μm〜200μmの範囲である。
【0031】
本発明においては、離型層が、フッ素樹脂層、シリコーンゴム層、及びフッ素ゴム層から選ばれる少なくとも一つの層であることが好ましい。フッ素樹脂はより好ましい離型層材料であり、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)を単体で、または、これらを混合して用いることが好ましい。
【0032】
金属層の外面に離型層を形成させる方法は、ディッピング法、スプレー法、粉体塗装法、などで形成することができる。本発明においては、未焼成のフッ素樹脂ディスパージョンをディッピング法により塗布し、その後フッ素樹脂の融点以上の温度に加熱して焼成して、離型層を形成することが好ましい。フッ素樹脂ディスパージョンであると金属堆積被膜の凹形状面に含浸させたような状態で塗布でき、その後、フッ素樹脂を焼成することによって投錨的な構造に成形でき、接着力を向上することができるからである。また、離型層を塗布する前にプライマーなどの接着助剤を用いることで、より接着力を向上できる。
【0033】
本発明においては、前記離型層がフッ素樹脂層、または、内層にシリコーンゴム層が形成され、その表面にフッ素樹脂層が積層されている積層体であることが好ましい。フルカラーのプリンターや複写機では、赤、青、黄、黒の4色の基本トナーを用いてカラー画像を形成させるが、中間色の発色や色相を高めるためには、定着ベルトと加圧ロールのニップ面で4色のトナーを十分に溶融させ、混色させる必要がある。したがって、定着ベルトと加圧ロールが接触するニップ面の幅が広い方が好ましく、ニップ面を広くするためにはシリコーンゴムなどの弾性層が積層されていることが好ましい。シリコーンゴムとしては液状のものが好ましく、室温硬化型シリコーンゴム(シリコーンRTV)など市販されているものを使用できる。また、これらの弾性体層の中には熱伝導性を改良するために酸化鉄や酸化亜鉛、カーボンファイバーや金属フィラーなどを混合することが好ましい。
【0034】
前記弾性層は、定着ベルトの金属層とフッ素樹脂離型層の間に積層され、弾性層のゴム硬度はJIS A硬度で3度〜50度の範囲が好ましく、5度〜40度の範囲がより好ましい。熱定着時に溶融したカラートナー像を包み込み混色させるためには弾性層の硬度は
低い方が好ましいが、3度以下になるとシリコーンゴム中の低分子成分が、離型層と金属層間の接着性を阻害したり、離型層の表面に析出し、定着画像の低下を招くことになり好ましくない。また、弾性層の硬度が50度を超えると、柔軟性が低下し良質な画像を得ることができなく好ましくない。シリコーンゴム層の厚みは30μm以上500μm以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは前記ゴム硬度の特性と相乗してトナー像を包み込み、混色する効果から100〜300μmの範囲である。
【0035】
次に、本発明の定着ベルトの製造方法は、円筒状金型の表面にポリイミド前駆体溶液をキャスト成形してポリイミド前駆体溶液被膜を形成し、前記前駆体溶液被膜を少なくとも管状物としての強度が保持できる状態まで加熱してポリイミド管状物を作製した後、前記ポリイミド管状物の外面に、溶射方法によって金属堆積被膜を形成させ、さらに、前記金属堆積被膜の外面に離型層を形成し、その後、加熱して各層を一体化することを特徴とする製造方法である。
【0036】
まず、ポリイミド前駆体溶液を円筒状金型の表面にキャスト成形し、ポリイミド管状物を成形する方法は、本出願人らが提案している特許文献1、あるいは特許公開2004−291367号の方法で製造することができる。また、ポリイミド管状物を成形した後、溶射方法によって金属層を成形する場合、ポリイミド層はイミド化反応が完結するまでの段階のポリイミド半硬化管状物の表面に金属を溶射し、さらに、その金属層の外面に離型層を形成させた後、加熱してイミド化反応の完結処理と離型層の焼成処理を同時に行うことが好ましい。
【0037】
イミド化反応が完結するまでの段階のポリイミド半硬化管状物の表面に、金属を溶射すると、ポリイミド表面では金属微粒子が熱せれた状態で衝突し、ポリイミド層に突き刺さった状態で形成され、その後ポリイミドを再加熱することによってイミド化反応が完結し、ポリイミド層が収縮して強固な接着力が得られるからである。
【0038】
本発明の製造方法においては、前記ポリイミド半硬化管状物のイミド化率が50〜90%の段階で金属を溶射して金属堆積被膜を形成させることが好ましい。ポリイミド管状物のイミド化率が50%以下であると溶射時にポリイミド層が破壊する恐れがあり、また90%を超えると溶射によって形成される金属微粒子がポリイミド層表面に載積されたような状態で形成され、十分な接着力が得られない。また、ポリイミド管状物のイミド化反応を完結させた状態、あるいはイミド化率が90%以上のポリイミドであっても、ポリイミド層の表面をサンドペーパーやブラスト処理で粗面化することによって、接着力を向上させることができる。また、ポリイミド層の表面にあらかじめエポキシ樹脂や、ポリアミドイミド樹脂などのプライマー層を形成させた後、溶射によって金属層を形成することにより接着力を向上させることができる。
【0039】
以下に本発明の定着ベルト及びその製造方法について実施例に基づき詳細に説明する。本発明のイミド化率の測定はフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)(島津製作所製「IR−21」)を用いて測定した。
【実施例1】
【0040】
(1)ポリイミド管状物の作製
外径が18mm、長さ500mmのアルミ製金型を用意し、金型の表面に酸化珪素コーティング剤をディッピング法によりコーティングし加熱して焼付け、酸化珪素膜で被覆した金型を用いた。金型の表面粗度Rzは0.5μmであった。次いで900ポイズのポリイミド前駆体溶液(IST製「RC5063PyreMLワニス」)中に窒化硼素(BN)(三井化学製)を前記ポリイミド前駆体の固形分に対して27重量%均一に混合した前駆体溶液を用意した。
【0041】
前記窒化硼素混合ポリイミド前駆体溶液の中に、前記金型を400mm部分まで浸漬し、ポリイミド前駆体溶液を塗布したのち、内径18.8mmのリング状ダイスを前記金型の上部から挿入し、自重で走行させて金型の表面に400μmの厚みでポリイミド前駆体溶液をキャスト成形した。その後、第1次イミド化処理として120度Cのオーブンに入れ、30分間乾燥後、200度Cの温度まで20分間で昇温させ、同温度で20分間保持し、常温まで冷却して内径が18mmの半硬化ポリイミド管状物を作製した。このポリイミドのイミド化率は78%であった。
【0042】
(2)金属溶射処理
前記半硬化ポリイミド管状物を溶射口から150mmの距離に取り付け、343rpmの速度で回転させながらアーク溶射機(アークテクノ製「PC250iDEX」)を用い、亜鉛ワイヤーをアーク放電させ溶射し、約50μmの厚みの亜鉛堆積被膜を形成し、「ポリイミド・亜鉛層管状物」を得た。この堆積被膜表面の平均表面粗度Rzは6.5μmであった。
【0043】
(3)離型層の作製
ポリイミド管状物の外面に亜鉛堆積被膜が形成された前記「ポリイミド・亜鉛管状物」をフッ素樹脂プライマー液(デュポン製:商品名「テフロン855−003」)に浸漬し約4μmの厚みにコーティングした。その後、180度Cの温度で20分間乾燥し再び常温まで冷却した。
【0044】
次いでPTFEディスパーション(デュポン製:商品名「テフロン855−510」)に浸漬し引き上げ、15μmの厚みにコーティングした。その後、200度Cで10分間乾燥後、400度Cまで昇温し20分間加熱し、PTFE樹脂の焼成を行った後、金型と管状物を分離しポリイミド管状物の外面に亜鉛層、及びフッ素樹脂離型層で構成された定着ベルトを製作した。
【0045】
前記定着ベルトを図2に示す定着装置を有するプリンターに挿入し、毎分36枚の速度で印刷した結果、良好な画像と耐久性が得られ、5万枚の通紙テストで問題のない結果が得られた。
【実施例2】
【0046】
実施例1の条件で金型の表面にポリイミド前駆体溶液をキャスト成形して第1次イミド化処理を行い、その後、継続して第2次イミド化処理として200度Cから400度Cまで40分間で昇温し、同温度で20分間保持してイミド化反応を完結させたポリイミド管状物を作製した。その後、前記ポリイミド管状物表面のブラスト処理を行った。ブラスト処理後の平均表面粗度Rzは4.8μmであった。
【0047】
その後、実施例1と同様に亜鉛溶射処理、及び離型層の成形を行い、定着ベルトを作製した。この定着ベルトを図2に示す定着装置を有するプリンターに挿入し、毎分36枚の速度で印刷した結果、良好な画像と耐久性が得られ5万枚の通紙テストで問題のない結果が得られた。
【実施例3】
【0048】
実施例1で金属溶射処理を以下の方法に変更した以外は実施例1と同様に定着ベルトを作製した。金属溶射処理方法は、半硬化ポリイミド管状物を溶射口から200mmの距離に固定し、343RPMの速度で回転させながらアーク溶射機(アークテクノ製「PC250iDEX」)を用い、アルミニウム青銅ワイヤーをアーク放電させ溶射し約60μmの厚みのアルミニウム青銅堆積被膜を形成し、「ポリイミド・アルミニウム青銅層管状物」を得た。この堆積被膜表面の平均表面粗度Rzは8.2μmであった。さらに「ポリイミド・アルミニウム青銅層管状物」の外面に実施例1と同様の条件で離型層を成形し、定着ベルとを作製した。この定着ベルトを図2に示す定着装置を有するプリンターに挿入し、毎分36枚の速度で印刷した結果、良好な画像と耐久性が得られ5万枚の通紙テストで問題のない結果が得られた。
【実施例4】
【0049】
実施例3で得られたポリイミド管状物の外面にアルミニウム青銅が溶射された金属層を有する「ポリイミド・アルミニウム青銅層管状物」を用いた。前記「ポリイミド・アルミニウム青銅層管状物」の外面にプライマー(GE東芝シリコーン製「XP−81−405」)液A,B2液を予め1:1の割合で混合したものを用い刷毛で均一に塗布した後、室温(23度C)で20分乾燥後、150度Cのオーブンに入れ、20分間乾燥した。
【0050】
その後、前記プライマー層の表面に、液状シリコーンゴム(GE東芝シリコーン製「XE15−B9055」)A,Bの2液を予め1:1の割合で混合した液状シリコーンゴムを塗布しダイスを通過させて190μmの厚みに成形した。その後、150度Cの温度で20分一次加硫を行い、220度Cの温度で60分二次加硫を行い、「ポリイミド・アルミニウム青銅層管状物」の外面に190μmの厚みでシリコーンゴムが成形された3層構造の管状物を得た。同一の条件で作製したシリコーンゴムテストピースの硬度は32度であった。
【0051】
さらに、前記3層構造の管状物の外面を#500のサンドペーパーで軽く粗らし、表面をアルコールで洗浄した。次いでシリコーンゴム表面に液状プライマー(三井デュポンフロロケミカル製「PR−990CL」)を塗布し、室温で10分乾燥した。その後、粘度200センチポイズに調整したPFAディスパージョン(デュポン製「PFA920HPプラスENA−162−8」)の中に前記3層構造の管状物を浸漬し、所定の速度で引上げ、最終の厚みで15μmとなるようにコーティングし、常温で30分乾燥後、330度Cのオーブンに入れ、15分間焼成し目的とする定着ベルトを得た。
【0052】
この複合ベルトの内径は18mm、ポリイミド層40μm、シリコーンゴム層190μm、PFA樹脂層15μm、総厚みは約245μmであった。この定着ベルトの離型層の表面粗度Rzは1.5μmであった。この定着ベルトを図2に示す定着機構をもつタンデム型カラープリンターに装着し、4枚/分の速度で通紙定着を行った結果、2万枚の良好な画像が得られフルカラー画像の定着ベルトとして最も適していた。
【0053】
(比較例1)
実施例1のポリイミド前駆体溶液と窒化硼素を用い、窒化硼素の混合量を32重量%に変更し窒化硼素混合ポリイミド前駆体溶液を作製し、イミド化完結後の厚みが70μmとなるように実施例1と同様の条件で半硬化ポリイミド管状物を作製した。その後、金属溶射工程を省き、前記半硬化ポリイミド管状物の外面に直接、実施例1と同様のフッ素樹脂プライマー及びPTFEディスパージョンをコーティングしその後、400度Cまで加熱し、ポリイミドのイミド化反応の完結とPTFE樹脂の焼成を同時に行いポリイミド層とフッ素樹脂離型層からなる2層の定着ベルトを作製した。この定着ベルトを実施例1と同様のプリンターに装着し定着テストを行った結果、定着ベルトの座屈や破壊は発生しなかったが、連続通紙テストで熱伝導性が悪く、定着後の用紙の上を擦ると定着不足による汚れが発生した。
【0054】
(比較例2)
実施例1で作製したポリイミド管状物の第1次イミド化処理として、150度Cの温度で40分間加熱処理し半硬化ポリイミド管状物を作製した。このポリイミド被膜のイミド化率は37%であり、その後実施例1と同様に金属溶射処理を行ったところ、ポリイミド層が破壊した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の定着ベルトはモノクロ、あるいはフルカラー画像の定着ベルトとして熱伝導性と柔軟性と耐久性を兼ね備え、画像形成装置の高速化、小型化、軽量化の条件を満たすことができる定着ベルトである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の定着ベルトの模式断面図である。
【図2】ベルト定着方式の定着機構の概略断面図である。
【図3】金属堆積被膜の顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0057】
1:ポリイミド層
2:金属層
3:離型層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材がポリイミドからなる管状物の外面に金属層と、金属層の外面に離型層が形成された定着ベルトであって、前記金属層は溶射によって形成された金属堆積被膜で形成されていることを特徴とする定着ベルト。
【請求項2】
前記ポリイミドが、芳香族テロラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンを有機極性溶媒中で重合したポリイミド前駆体を、加熱してイミド化したポリイミドであることを特徴とする、請求項1に記載の定着ベルト
【請求項3】
前記ポリイミドが熱伝導性微粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の定着ベルト。
【請求項4】
前記金属層の厚みが20μm以上300μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の定着ベルト。
【請求項5】
前記離型層が、フッ素樹脂層、シリコーンゴム層、及びフッ素ゴム層から選ばれる少なくとも一つの層である請求項1に記載の定着ベルト。
【請求項6】
前記離型層が、フッ素樹脂層、または内層にシリコーンゴム層が形成され、その表面にフッ素樹脂層が積層されている積層体である請求項1〜5に記載の定着ベルト。
【請求項7】
円筒状金型の表面にポリイミド前駆体溶液をキャスト成形してポリイミド前駆体溶液被膜を形成し、前記前駆体溶液被膜を少なくとも管状物としての強度が保持できる状態まで加熱してポリイミド管状物を作製した後、前記ポリイミド管状物の外面に、溶射方法によって金属堆積被膜を形成させ、さらに、前記金属堆積被膜の外面に離型層を形成し、その後、加熱して各層を一体化することを特徴とする定着ベルトの製造方法。
【請求項8】
前記ポリイミド管状物のイミド化率が50〜90%の段階で、前記ポリイミド管状物の外面に、溶射方法によって、金属堆積被膜を形成させることを特徴とする請求項7に記載の定着ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−192985(P2007−192985A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9781(P2006−9781)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】