説明

定着装置、及び、画像形成装置

【課題】小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても発熱部材の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、製造コストが比較的安価であって、装置の大型化が軽減される、電磁誘導加熱方式の定着装置、及び、画像形成装置を提供する。
【解決手段】磁束を発生させて発熱部材の発熱層を誘導加熱する励磁コイルと、励磁コイルに対向して励磁コイルによって発生される磁束を打ち消す方向の磁束を幅方向の一部に発生させる消磁コイル26と、を備える。そして、消磁コイル26として、渦巻状のコイル・パターン26aが形成されたプリント基板を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ、又は、それらの複合機等の画像形成装置とそこに設置される定着装置とに関し、特に、電磁誘導加熱方式を用いた定着装置、及び、画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複写機、プリンタ等の画像形成装置において、装置の立ち上がり時間が短く省エネルギー化された、電磁誘導加熱方式の定着装置が広く用いられている。
そして、このような電磁誘導加熱方式の定着装置では、幅方向サイズが小さな記録媒体(小サイズ紙)を連続的に定着した場合等に発熱部材(又は定着部材)の両端部が過昇温してしまう不具合を防止するために、発熱部材を誘導加熱する励磁コイルの他に、励磁コイルによって発生される磁束を消失させるように磁束を発生させる消磁コイルを幅方向両端部に設ける技術が知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
なお、これらの励磁コイルと消磁コイルとは、いずれも、表面が絶縁された細い銅線からなるリッツ線を束ねて形成したものが、一般的に用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の電磁誘導加熱方式の定着装置は、小サイズ紙が通紙されるときに、幅方向両端部に設置された消磁コイルによって、発熱部材の非通紙領域に作用する磁束が減ぜられるために、発熱部材(又は定着部材)の非通紙領域における過昇温を抑止する効果が充分に期待できる。
しかし、消磁コイルは、幅方向サイズの異なる複数の記録媒体の非通紙領域の温度制御をおこなうために励磁コイルに近接するように幅方向に複数並設する必要があるとともに、その形状が励磁コイルに比べて複雑になるため、その製造工程数が多くて組立作業にも手間がかかって製造コストが高価になっていた。さらに、励磁コイルに対向するように比較的厚みのある消磁コイルを設けるために、定着装置における誘導加熱部が大型化してしまっていた。
【0004】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても発熱部材の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、製造コストが比較的安価であって、装置の大型化が軽減される、電磁誘導加熱方式の定着装置、及び、画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の請求項1記載の発明にかかる定着装置は、発熱層を有する発熱部材と、前記発熱部材に対向するとともに、磁束を発生させて当該磁束によって前記発熱層を誘導加熱する励磁コイルと、前記励磁コイルに対向するとともに、前記励磁コイルによって発生される前記磁束によって誘導電流が流れて当該磁束を打ち消す方向の磁束を幅方向の一部に発生させる消磁コイルと、を備え、前記消磁コイルを、渦巻状のコイル・パターンが形成されたプリント基板としたものである。
【0006】
また、請求項2記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1に記載の発明において、前記励磁コイルは、前記消磁コイルを介在して前記発熱部材に対向するように配設されたものである。
【0007】
また、請求項3記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項2に記載の発明において、前記励磁コイルを前記発熱部材の側で保持するコイルガイドを備え、前記消磁コイルは、一体成形によって前記コイルガイドとともに形成されたものである。
【0008】
また、請求項4記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項3のいずれかに記載の発明において、前記消磁コイルは、幅方向サイズの異なる複数の記録媒体の非通紙領域にそれぞれ対応して調整範囲を可変できるように幅方向に複数配設され、複数の前記消磁コイルを有する電気回路をそれぞれ開閉するスイッチング素子を備え、前記スイッチング素子による前記電気回路の開閉によって前記調整範囲における前記発熱層の加熱量を調整制御するものである。
【0009】
また、請求項5記載の発明にかかる定着装置は、前記請求項1〜請求項4のいずれかに記載の発明において、前記発熱部材を、トナー像を溶融する定着部材、又は/及び、前記定着部材を加熱する加熱部材としたものである。
【0010】
また、この発明の請求項6記載の発明にかかる画像形成装置は、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の定着装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、消磁コイルとして、渦巻状のコイル・パターンが形成されたプリント基板を用いているため、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても発熱部材の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、製造コストが比較的安価であって、装置の大型化が軽減される、電磁誘導加熱方式の定着装置、及び、画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1における画像形成装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の画像形成装置に設置された定着装置を示す断面図である。
【図3】励磁コイル及び消磁コイルを幅方向にみた模式図である。
【図4】消磁コイルを示す上面図である。
【図5】誘導加熱部によって発生される磁束の状態を示す図である。
【図6】消磁コイルの配置を変えたときの、磁束の状態を示す図である。
【図7】非通紙領域における定着ローラの昇温特性を示すグラフである。
【図8】通紙領域における定着ローラの昇温特性を示すグラフである。
【図9】この発明の実施の形態2における定着装置を示す断面図である。
【図10】この発明の実施の形態3における定着装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0014】
実施の形態1.
図1〜図8にて、この発明の実施の形態1について詳細に説明する。
まず、図1にて、画像形成装置全体の構成・動作について説明する。
図1において、1は画像形成装置としてのタンデム型カラー複写機の装置本体、2は入力画像情報に基づいたレーザ光を発する書込み部、3は原稿Dを原稿読込部4に搬送する原稿搬送部、4は原稿Dの画像情報を読み込む原稿読込部、7は転写紙等の記録媒体Pが収容される給紙部、9は記録媒体Pの搬送タイミングを調整するレジストローラ、11Y、11M、11C、11BKは各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)のトナー像が形成される感光体ドラム、12は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上を帯電する帯電部、13は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に形成される静電潜像を現像する現像部、14は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に形成されたトナー像を記録媒体P上に重ねて転写する転写バイアスローラ、15は各感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上の未転写トナーを回収するクリーニング部、を示す。
【0015】
また、16は転写ベルト17を清掃する転写ベルトクリーニング部、17は複数色のトナー像が記録媒体P上に重ねて担持されるように記録媒体Pを搬送する転写ベルト、19は記録媒体P上のトナー像(未定着画像)を定着する電磁誘導加熱方式の定着装置、を示す。
【0016】
以下、画像形成装置における、通常のカラー画像形成時の動作について説明する。
まず、原稿Dは、原稿搬送部3の搬送ローラによって、原稿台から図中の矢印方向に搬送されて、原稿読込部4のコンタクトガラス5上に載置される。そして、原稿読込部4で、コンタクトガラス5上に載置された原稿Dの画像情報が光学的に読み取られる。
【0017】
詳しくは、原稿読込部4は、コンタクトガラス5上の原稿Dの画像に対して、照明ランプから発した光を照射しながら走査させる。そして、原稿Dにて反射した光を、ミラー群及びレンズを介して、カラーセンサに結像する。原稿Dのカラー画像情報は、カラーセンサにてRGB(レッド、グリーン、ブルー)の色分解光ごとに読み取られた後に、電気的な画像信号に変換される。さらに、RGBの色分解画像信号をもとにして画像処理部で色変換処理、色補正処理、空間周波数補正処理等の処理をおこない、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのカラー画像情報を得る。
【0018】
そして、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色の画像情報は、書込み部2に送信される。そして、書込み部2からは、各色の画像情報に基づいたレーザ光(露光光)が、それぞれ、対応する感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に向けて発せられる。
【0019】
一方、4つの感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKは、それぞれ、図1の時計方向に回転している。そして、まず、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKの表面は、帯電部12との対向部で、一様に帯電される(帯電工程である。)。こうして、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上には、帯電電位が形成される。その後、帯電された感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK表面は、それぞれのレーザ光の照射位置に達する。
書込み部2において、4つの光源から画像信号に対応したレーザ光が各色に対応してそれぞれ射出される。各レーザ光は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの色成分ごとに別の光路を通過することになる(露光工程である。)。
【0020】
イエロー成分に対応したレーザ光は、紙面左側から1番目の感光体ドラム11Y表面に照射される。このとき、イエロー成分のレーザ光は、高速回転するポリゴンミラーにより、感光体ドラム11Yの回転軸方向(主走査方向)に走査される。こうして、帯電部12にて帯電された後の感光体ドラム11Y上には、イエロー成分に対応した静電潜像が形成される。
【0021】
同様に、マゼンタ成分に対応したレーザ光は、紙面左から2番目の感光体ドラム11M表面に照射されて、マゼンタ成分に対応した静電潜像が形成される。シアン成分のレーザ光は、紙面左から3番目の感光体ドラム11C表面に照射されて、シアン成分の静電潜像が形成される。ブラック成分のレーザ光は、紙面左から4番目の感光体ドラム11BK表面に照射されて、ブラック成分の静電潜像が形成される。
【0022】
その後、各色の静電潜像が形成された感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK表面は、それぞれ、現像部13との対向位置に達する。そして、各現像部13から感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に各色のトナーが供給されて、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上の潜像が現像される(現像工程である。)。
その後、現像工程後の感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK表面は、それぞれ、転写ベルト17との対向部に達する。ここで、それぞれの対向部には、転写ベルト17の内周面に当接するように転写バイアスローラ14が設置されている。そして、転写バイアスローラ14の位置で、転写ベルト17上の記録媒体Pに、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に形成された各色のトナー像が、順次重ねて転写される(転写工程である。)。
【0023】
そして、転写工程後の感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK表面は、それぞれ、クリーニング部15との対向位置に達する。そして、クリーニング部15で、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上に残存する未転写トナーが回収される(クリーニング工程である。)。
その後、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK表面は、不図示の除電部を通過して、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BKにおける一連の作像プロセスが終了する。
【0024】
他方、感光体ドラム11Y、11M、11C、11BK上の各色のトナーが重ねて転写(担持)された記録媒体Pは、図中の矢印方向に走行して、分離チャージャ18との対向位置に達する。そして、分離チャージャ18との対向位置で、記録媒体Pに蓄積された電荷が中和されて、トナーのちり等を生じさせることなく記録媒体Pが転写ベルト17から分離される。
その後、転写ベルト17表面は、転写ベルトクリーニング部16の位置に達する。そして、転写ベルト17上に付着した付着物が転写ベルトクリーニング部16に回収される。
【0025】
ここで、転写ベルト17上に搬送される記録媒体Pは、給紙部7からレジストローラ9等を経由して搬送されたものである。
詳しくは、記録媒体Pを収納する給紙部7から、給紙ローラ8により給送された記録媒体Pが、不図示の搬送ガイドを通過した後に、レジストローラ9に導かれる。レジストローラ9に達した記録媒体Pは、タイミングを合わせて、転写ベルト17の位置に向けて搬送される。
【0026】
そして、フルカラー画像が転写された記録媒体Pは、転写ベルト17から分離された後に定着装置19に導かれる。定着装置19では、定着ローラと加圧ローラとの間(定着ニップ部である。)にて、カラー画像(トナー)が記録媒体P上に定着される。
そして、定着工程後の記録媒体Pは、不図示の排紙ローラによって、装置本体1外に出力画像として排出されて、一連の画像形成プロセスが完了する。
【0027】
次に、画像形成装置本体1に設置される定着装置19の構成・動作について詳述する。
図2に示すように、定着装置19は、誘導加熱部24(磁束発生手段)、発熱部材としての定着ローラ20、加圧ローラ30、温度検知手段としての温度センサ55、等で構成される。
ここで、発熱部材としての定着ローラ20(定着部材)は、SUS304等の非磁性材料からなる中空構造の芯金23の表面に、弾性層22、発熱層21等を形成した多層構造体である。
【0028】
詳しくは、定着ローラ20は、その外径が40mm程度であって、芯金23上に、弾性層22、発熱層21、離型層(不図示である。)、等が積層されている。
芯金23は、アルミニウム、ステンレス鋼、鉄、セラミック等の高剛性材料で形成され、肉厚が2.0mm程度に設定され、外径が22mm程度に設定されている。本実施の形態1では、芯金23の材料として、アルミニウムを用いている。
弾性層22は、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等の弾性材料からなり、層厚が9mm程度に設定され、ゴム硬度が加圧ローラ30よりも低くなるように設定されている。これにより、ニップ部から送出される記録媒体Pの分離性が高められるとともに、良好な定着画像を得ることができる。本実施の形態1では、定着ローラ20の加熱効率を高めるために、弾性層22の材料として、断熱性に優れた発泡シリコーンゴムを用いている。
発熱層21は、銅、銀、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル等の誘導加熱に適した良伝導の金属材料で形成され、層厚が10μm程度に設定されている。本実施の形態1では、発熱層21として、銅を用いている。この発熱層21は、誘導加熱部24(磁束発生手段)から発せられる磁束によって電磁誘導加熱される。
定着ローラ20の離型層は、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)、PFA(四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体樹脂)等のフッ素化合物で形成され、層厚が5〜50μm程度に設定されている。離型層は、トナー像(トナー)Tが直接的に接する定着ローラ20表面のトナー離型性を高めるとともに、定着ローラ20の柔軟性を高めるためのものである。
このように本実施の形態1における定着ローラ20は、トナー像を溶融する定着部材として機能するとともに、誘導加熱部24によって直接的に加熱される発熱部材としても機能することになる。
【0029】
加圧ローラ30は、アルミニウム、銅等からなる円筒部材32上にフッ素ゴム、シリコーンゴム等の弾性層31が形成されたものである。加圧ローラ30の弾性層31は、肉厚が0.5〜2mmで、アスカー硬度が60〜90度となるように形成されている。加圧ローラ30は、定着ローラ20に圧接している。そして、定着ローラ20と加圧ローラ30との当接部(定着ニップ部である。)に、記録媒体Pが搬送される。
【0030】
誘導加熱部24は、定着ローラ20の外周面に対向するように配設されている。誘導加熱部24は、励磁コイル25、消磁コイル26(コイル・パターン状導体)、第1コア28、第2コア29(センターコア)、コイルガイド27(絶縁保持部材)、等で構成される。
【0031】
励磁コイル25は、外周面が絶縁被覆された外径0.15mmの銅線が90本束ねられた線束であって、定着ローラ20の外周面に消磁コイル26を介在して対向するように配設されている。詳しくは、図3を参照して、励磁コイル25は、第2コア29の周りを周回するように、定着ローラ20の表面を覆うコイルガイド27上の全域にわたって渦巻状に配設されている。励磁コイル25の幅方向の長さは、定着ローラ20の幅方向(回転軸方向)の長さ(A3サイズよりやや大きく、310mm程度である。)とほぼ等しい。励磁コイル25は、直線部と曲線部とを有するが、定着ローラ20に作用する磁束が均一になるように直線部の長さが定着ローラ20の幅方向の長さとほぼ等しくなるように設定されている。
図2に示すように、励磁コイル25は、電源部70に接続されていて、交番電流の供給により発熱層21を誘導加熱するための磁束を発生する。
【0032】
消磁コイル26は、図4に示すように渦巻状のコイル・パターンが形成されたプリント基板であって、励磁コイル25に対向するように配設されている。そして、励磁コイル25によって発生される磁束によって消磁コイル26に誘導電流が流れて(逆起電力が誘起されて)、消磁コイル26から励磁コイル25の磁束を打ち消す方向の磁束が幅方向の一部(非通紙領域である。)に発生される。
ここで、消磁コイル26は、幅方向サイズの異なる複数の記録媒体Pの非通紙領域にそれぞれ対応して調整範囲を可変できるように幅方向に並設された複数の消磁コイル26A〜26Cで構成される。
具体的に、図3を参照して、3対の消磁コイル26A〜26Cが幅方向に並設されている。詳しくは、A5サイズ(148mm)の端部とB5サイズ(182mm)の端部との間に第1の消磁コイル26Aが配設され、B5サイズの端部とA4サイズ(210mm)の端部との間に第2の消磁コイル26Bが配設され、A4サイズの端部とA3サイズ(297mm)の端部との間に第3の消磁コイル26Cが配設されている。また、図4を参照して、これらの消磁コイル26A〜26Cは、それぞれ、スイッチング素子としての切替スイッチ51を有する電気回路に接続されている。消磁コイル26A〜26Cや切替スイッチ51を備えた電気回路は、電源部70(励磁コイル25)とは電気的に接続されておらず、電源部70を有する電気回路に対して独立した閉回路である。
【0033】
そして、可変された調整範囲に応じて3対の消磁コイル26A〜26Cのうちその調整範囲に配設された消磁コイルを有するすべての電気回路の切替スイッチ51が同時に開閉される。すなわち、3対の消磁コイル26A〜26Cに対応した各切替スイッチ51による電気回路の開閉によって、所望の調整範囲における発熱層21の加熱量(発熱量)を調整制御する。
具体的に、A5サイズの記録媒体Pが通紙される場合には、その非通紙領域(調整範囲)に配設された3対の消磁コイル26A〜26C(切替スイッチ51)がすべて閉鎖され、非通紙領域の加熱量が調整される。B5サイズの記録媒体Pが通紙される場合には、その非通紙領域に配設された2対の消磁コイル26B、26Cが閉鎖される。A4サイズの記録媒体Pが通紙される場合には、その非通紙領域に配設された1対の消磁コイル26Cが閉鎖される。さらに、A3サイズ(297mm)の記録媒体Pが通紙される場合には、すべての消磁コイル26A〜26Cが開放される。
このような構成により、幅方向サイズの異なる記録媒体Pを通紙しても、非通紙領域の過昇温が防止されて、定着ローラ20の幅方向の温度分布が均一化される。特に、本実施の形態1では、複数対の消磁コイル26A〜26Cを、周方向ではなく、幅方向に配設しているために、誘導加熱部24の周方向の厚みを薄くすることができる。
【0034】
なお、本実施の形態1では、図3を参照して、温度検知手段としての温度センサ55が、各消磁コイル26A〜26Cの対向位置に対応した位置と、幅方向中央部と、に配設されている。そして、これらの温度センサ55の検知結果に基いて、消磁コイル26A〜26Cの開閉や励磁コイル25への電力供給を制御している。
【0035】
ここで、消磁コイル26は、励磁コイル25のように外周面が絶縁被覆された銅線を束ねて構成したリッツ線ではなくて、図4に示すように渦巻状のコイル・パターンが形成されたフィルム状(又は、板状)のプリント基板である。
詳しくは、図4を参照して、消磁コイル26は、絶縁体からなる基材26c上に、銅メッキからなるコイル・パターン26a(コイル状の回路パターン)を形成したものである。具体的に、基材26c上に無電解メッキによってパターンを形成した後に、そのパターン上に電気メッキを施して、その厚さを100μmまで成長させることで、コイル・パターン26aが形成される。なお、コイル・パターン26aは、導電性材料のメッキにより作成しても良いし、電鋳により作成しても良いし、さらに導電性塗料の塗布により作成しても良い。
また、消磁コイル26の基材26cの中央部には、第2コア29との干渉を避けるための貫通穴26c1が形成されている。また、コイル・パターン26aの両端部には、それぞれ、切替スイッチ51を含むスイッチング回路と接続するための端子部26bが形成されている。さらに、図示は省略するが、コイル・パターン26aの表面は、端子部26bを除いて、絶縁体からなる被膜層(保護層)で覆われている。
なお、基材26cや被膜層の材料としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPS、フッ素樹脂、液晶ポリマー等の絶縁性の耐熱樹脂材料を用いることができる。本実施の形態1では、基材26cの材料としてフィルム状のPEEKを用いていて、被膜層の材料としてポリイミドを用いている。
【0036】
このように、本実施の形態1では、消磁コイル26として、渦巻状のコイル・パターン26aが形成されたプリント基板を用いているため、製造コストが比較的安価であって、定着装置19の大型化を軽減することができる。
詳しくは、消磁コイル26は、上述したように、電解処理等により回路パターンを形成する製造工程を経て形成されるものであるため、その製造工程や組立作業が非常に簡易であって、リッツ線からなる励磁コイルに比べて安価な製造コストで製造することができる。さらに、回路パターン化された消磁コイル26は、リッツ線からなる励磁コイルに比べて、その厚さ(図4の紙面垂直方向の高さである。)が極めて薄くなるため、励磁コイル25に対向するように配設した場合であっても誘導加熱部24の厚さ(定着ローラ20の径方向に沿った厚さである。)を薄くすることができる。なお、図2等において、視認を容易とするために、消磁コイル26の厚さを誇張して厚く図示している。
【0037】
図2を参照して、保持部材としてのコイルガイド27は、耐熱性が高く絶縁性を有するポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK、PES、PPS、フッ素樹脂、液晶ポリマー等の樹脂材料からなり、定着ローラ20との対向面の側で励磁コイル25及び消磁コイル26を保持する。本実施の形態1では、コイルガイド27の材料として、PPSを用いている。
【0038】
第1コア28は、定着ローラ20の外周面に対して励磁コイル25及び消磁コイル26を介して周方向に対向するように配設されている。第1コア28の材料としては、フェライト、パーマロイ等の強磁性体であって電気抵抗率の高いものが好ましい。
第2コア29は、第1コア28よりも定着ローラ20の外周面に近接して対向するとともに、幅方向(図2の紙面垂直方向である。)に延設されている。第2コア29の幅方向の長さは、定着ローラ20の幅方向(回転軸方向)の長さとほぼ等しい。また、図3を参照して、第2コア29は、3組の消磁コイル26A〜26Cとの干渉を避けるために、幅方向に隙間(又は切欠)が設けられている。第2コア29の材料としては、フェライト、パーマロイ等の強磁性体であって電気抵抗率の高いものが好ましい。なお、第2コア29は、一体成型によるものである必要はなく、短いI型のコアを定着ローラ20とほぼ等しい長さになるように連結して構成することもできる。
【0039】
また、図2及び図3を参照して、定着ローラの外周面に対向する位置であって、非通紙領域に対応する幅方向端部には、定着ローラ20の温度を検知する温度検知手段としての温度センサ55が配設されている。本実施の形態1では、温度センサ55として、定着ローラ20表面の温度を非接触で検知するサーモパイルを用いている。サーモパイルは、反応速度が早いため、細やかな温度制御が可能となる。そして、温度センサ55による定着温度の検知結果に基いて、上述した切替スイッチ51による電気回路(消磁コイル26A〜26C)の開閉制御がおこなわれる。これにより、定着ローラ20の調整範囲(非通紙領域)の過昇温を確実に抑止することができる。なお、温度センサ55としては、サーモパイルの他に、接触型のサーミスタ等を用いることもできる。
【0040】
このように構成された定着装置19は、次のように動作する。
不図示の駆動モータによって、定着ローラ20が図2の時計方向に回転駆動されると、ニップ部における摩擦力によって加圧ローラ30も反時計方向に回転(従動)する。そして、定着部材としての定着ローラ20は、誘導加熱部24との対向位置(対向面)で、誘導加熱部24から発生される磁束によって加熱される。
【0041】
詳しくは、不図示の電源部から励磁コイル25に10kHz〜1MHz(好ましくは、20kHz〜800kHzである。)の高周波交番電流を流すことで、励磁コイル25から発熱層21に向けて磁力線が双方向に交互に切り替わるように形成される。このように交番磁界が形成されることで、定着ローラ20の発熱層21に渦電流が生じて、発熱層21はその電気抵抗によってジュール熱が発生して誘導加熱される。こうして、定着ローラ20は、自身の発熱層21の誘導加熱によって加熱される。このとき、消磁コイル26の動作が適宜に制御されて、定着ローラ20の幅方向の加熱範囲が調整される。
【0042】
その後、誘導加熱部24によって加熱された定着ローラ20表面は、加圧ローラ30との当接部に達する。そして、搬送される記録媒体P上のトナー像T(トナー)を加熱して溶融する。
詳しくは、先に説明した作像プロセスを経てトナー像Tを担持した記録媒体Pが、不図示のガイド板に案内されながら定着ローラ20と加圧ローラ30との間に送入される(矢印Y1の搬送方向の移動である。)。そして、定着ローラ20から受ける熱と加圧ローラ30から受ける圧力とによってトナー像Tが記録媒体Pに定着されて、記録媒体Pは定着ローラ20と加圧ローラ30との間から送出される。
定着位置を通過した定着ローラ20表面は、その後に再び誘導加熱部24との対向位置に達する。
このような一連の動作が連続的に繰り返されて、画像形成プロセスにおける定着工程が完了する。
【0043】
以下、図5を用いて、励磁コイル25の他に消磁コイル26を配置することで、定着ローラ20(発熱部材)の加熱を抑制するメカニズムについて説明する。図5は、誘導加熱部24によって発生される磁束の状態を示す図である。
図5(A)は、消磁コイル26が電気的にオープンな状態(切替スイッチ51が開放された状態となっている。)における磁束の状態を示している。図5(A)に示すように、切替スイッチが開放された場合(消磁コイル26が動作しない場合)、励磁コイル25から発生する磁束B1は、コア28、29を経路として発熱層21を通過して再びコア28、29に戻る。このとき、磁束B1は発熱層21を通過する磁気回路を形成することになる。そのため、発熱層21に誘導電流が流れて、発熱層21はジュール熱により発熱する。
このとき、消磁コイル26は電気的にオープンであるために、コイルとしてではなく、単なる絶縁された部材となり、励磁コイル25の磁束B1に大きな影響を与えない。これは、金属の面積がある大きさ以上でなければ、その金属には渦電流が流れないという現象によるものである。
【0044】
図5(B)は、消磁コイル26が電気的にショートしている状態(第3の切替スイッチ51が閉鎖された状態となっている。)における磁束の状態を示している。図5(B)に示すように、励磁コイル25から発生する磁束B1は、消磁コイル26(26c)から発生する磁束B2により打ち消されて、非常に弱い磁束となる。詳しくは、励磁コイル25から発生した磁束B1は、その大部分が消磁コイル26を貫いた後に、発熱層21に達する。その際、消磁コイル26では、コイルの電磁気的特性により、貫いた磁束B1を打ち消す方向に逆起電力が発生して、それにともない消磁コイル26に電流が流れて、磁束B1を打ち消す磁束B2を発生させる。こうして、発熱層21を加熱させる磁束B1は非常に弱くなり、消磁コイル26に対向する位置(幅方向両端部)において定着ローラ20の加熱量を低下させることができる。
本実施の形態1では、切替スイッチ51の制御によって、図5(A)の状態と図5(B)の状態とを切り替えて、定着ローラ20の幅方向の発熱量分布を最適化している。
【0045】
なお、上述の説明では簡単のため消磁コイル26がオープンであるとき励磁コイル25の磁束に大きな影響を与えないとしたが、実際には少量ながら励磁コイル25からの磁束を消費する。しかし、本実施の形態1における消磁コイル26は、薄肉で断面積の小さなコイル・パターン26aで構成されているために、消磁コイル26がオープンであるときに発熱層21の加熱効率にロスを生じさせにくくなる。
【0046】
ここで、本実施の形態1では、定着ローラ20の外周面側から、消磁コイル26、励磁コイル25、の順に配置している。これは、励磁コイル25から発生する磁束をより多く消磁コイル26に通すためである。
本実施の形態1では、励磁コイル25と消磁コイル26とが電気的に接続されていないため、消磁コイル26の起電力は励磁コイル25から発生する磁束によって誘起される逆起電力だけである。したがって、電源から消磁コイル26に電力を供給する構成と比較すると、励磁コイル25、消磁コイル26、発熱部材20の位置関係が、消磁コイル26の発熱抑制率に大きな影響を与える。
図6は、励磁コイル25から発生する磁束の状態をさらに詳しく示した図である。図6に示すように、励磁コイル25から発生する磁束は、コア28、29を通るもの(図5で示したものである。)の他に、発熱層21を直接透過して加熱する漏れ磁束が存在する。
【0047】
したがって、図6(A)に示すように、励磁コイル25、消磁コイル26、発熱部材20の順に配置した場合(本実施の形態1の構成である。)、励磁コイル25からの磁束は、コアを通る磁束も漏れ磁束も消磁コイル26を貫くために、そのほとんどが消磁コイル26の磁束によって打ち消されることになる。すなわち、消磁コイル26の発熱抑制効果が高められる。
これに対して、図6(B)に示すように、消磁コイル26、励磁コイル25、発熱部材20の順に配置した場合、励磁コイル25から発生した磁束のうちコアを通る磁束だけが消磁コイルによって打ち消されて、漏れ磁束は消磁コイルの影響を受けず発熱層21を加熱してしまう。すなわち、消磁コイル26の発熱抑制効果は不充分なものになってしまう。
【0048】
図7は、B5サイズの記録媒体を連続的に通紙したときの、非通紙領域における定着ローラの昇温特性を示すグラフである。
図7において、グラフQ1は本実施の形態1における定着装置を用いたときの昇温特性を示し、グラフQ2は消磁コイル26の配置が異なる定着装置(図6(B)に示すように、消磁コイル26、励磁コイル25、発熱部材20の順に配置した定着装置である。)を用いたときの昇温特性を示し、グラフQ0は消磁コイル26が設置されていない定着装置を用いたときの昇温特性を示す。また、図7中の破線は、通紙領域の定着温度を示す。
本実施の形態1では、通紙領域の端部の温度が第1の設定温度(180℃である。)以上になったときに対応する消磁コイル26B、26Cを閉状態にして、第2の設定温度(定着設定温度の170℃である。)以下になったときに消磁コイル26B、26Cを開状態にするように制御している(消磁コイル26Aは常に開状態である。)。
【0049】
図7に示すように、連続通紙が開始されると、記録媒体が接触する定着ローラ20の「通紙領域」の温度は定着設定温度である170℃を維持するように制御される。そのため、記録媒体から熱量が奪われない定着ローラの「非通紙領域」の温度は上昇していく。したがって、消磁コイルを設置していない定着装置(グラフQ0)はそのまま端部が昇温しつづける。
これに対して、本実施の形態1における定着ローラ20は、端部の温度が第2の設定温度(180℃)に到達した時点で、消磁コイル26B、26Cが閉状態となる。これにより、図に示すように、定着ローラ20の端部の発熱が抑制されて、端部の温度が均一に保たれる。
なお、グラフQ2に示すように、消磁コイル26の配置が異なる定着装置であっても、本実施の形態1のものと同様に、定着ローラ20の端部の発熱が抑制されて端部の温度が均一に保たれる効果が発揮されるものの、本実施の形態1のものと比べて、180℃から170℃に温度が低下するまでの速度が若干遅くなることが確認された。これは、先に図6で説明したように、消磁コイル26の配置による発熱抑制効果の違いによるものである。
【0050】
図8は、通紙領域における定着ローラ20の昇温特性(立ち上がり特性)を示すグラフである。
図8において、実線グラフは本実施の形態1における定着装置を用いた場合の昇温特性を示し、破線グラフは従来の定着装置(リッツ線からなる消磁コイルを用いたものである。)を用いた場合の昇温特性を示す。
図8の結果から、コイル・パターン化された消磁コイル26を用いた場合には立ち上がり時間が11秒となり、リッツ線からなる消磁コイルを用いた場合に比べて立ち上がり時間が遅くなるものの、その差は1秒程度で微差であって定着ローラ20の加熱効率はほとんど差異がないものといえる。
【0051】
以下、連続通紙時の制御について簡単に説明する。
記録媒体の連続通紙が開始されると、まず、その記録媒体が小サイズ紙(A3サイズよりも小さなサイズである。)であるかが判別される。その結果、記録媒体が小サイズ紙ではないものと判別された場合、複数の消磁コイル26A〜26Cのすべてを開状態にして、本フローを終了する。
これに対して、記録媒体が小サイズ紙であるものと判別された場合、さらに温度センサ55によって検知された非通紙領域の温度t1が所定値t2よりも高いかが判別される。
その結果、通紙領域の温度t1が所定値t2よりも高いと判別された場合には、非通紙領域の温度を下げる必要があるものとして、対応する消磁コイルを閉状態にする。これに対して、非通紙領域の温度t1が所定値t2以下であると判別された場合には、非通紙領域の温度を上げる必要があるものとして、対応する消磁コイルを開状態にする。
その後、同一サイズの記録媒体の連続通紙が終了しているかが判別され、連続通紙が継続されていると判別された場合には、上述したステップ(非通紙領域の温度t1が所定値t2よりも高いかを判別するステップである。)以降のフローが繰り返される。そして、連続通紙が終了したものと判別された場合には本フローを終了する。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態1では、消磁コイル26として、渦巻状のコイル・パターン26aが形成されたプリント基板を用いているため、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても定着ローラ20(発熱部材)の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、製造コストが比較的安価であって、定着装置19の大型化を軽減することができる。
【0053】
なお、本実施の形態1では、定着ローラ20として、芯金23上に、弾性層22、発熱層21、離型層、が積層されたものを用いた。しかし、定着ローラ20の構成はこれに限定されることなく、例えば、定着ローラ20として、芯金上に、断熱層、発熱層、酸化防止層、弾性層、離型層が順次積層されたものを用いることもできる。
【0054】
実施の形態2.
図9にて、この発明の実施の形態2について詳細に説明する。
図9は、実施の形態2における定着装置19を示す断面図であって、前記実施の形態1における図2に相当する図である。本実施の形態2における定着装置19は、複数の消磁コイル26A〜26Cがコイルガイド27とともに一体成形にて形成されている点が、前記実施の形態1のものとは相違する。
【0055】
本実施の形態2における定着装置も、前記実施の形態1のものと同様に、発熱部材としての定着ローラ20を誘導加熱する励磁コイル25の他に、励磁コイル25によって発生される磁束によって誘導電流が流れて定着ローラ20に作用する磁束を打ち消す方向の磁束を発生させる消磁コイル26A〜26Cが幅方向両端部に設けられている。そして、本実施の形態2においても、消磁コイル26A〜26Cとして、渦巻状のコイル・パターン26aが形成されたプリント基板を用いている。
【0056】
ここで、図9を参照して、本実施の形態2における定着装置は、前記実施の形態1のものとは異なり、消磁コイル26A〜26Cが一体成形によってコイルガイド27とともに形成されている。
詳しくは、消磁コイル26A〜26Cは、インサート成形によってコイルガイド27の内部(又は、表面)に形成されている。具体的な製造方法は、コイルガイド27の金型内に消磁コイル26を装填して、その金型内に樹脂(本実施の形態2では、液晶ポリマーを用いている。)を注入して、消磁コイル26の端子部26b以外を溶融樹脂で包んで固化させることで、消磁コイル26と一体化したコイルガイド27を作成するものである。コイルガイド27から露出した端子部26bは、前記実施の形態1のものと同様に、切替スイッチ51を含むスイッチング回路に接続される。
【0057】
このように、消磁コイル26A〜26Cを一体成形によってコイルガイド27とともに形成することで、誘導加熱部24の厚さ(定着ローラ20の径方向に沿った厚さである。)をさらに薄くすることができる。さらに、誘導加熱部24の製造工程や組立作業がさらに簡易なものになる。
なお、本実施の形態2では、消磁コイル26A〜26Cをインサート成形によってコイルガイド27と一体成形したが、インサート成形以外の成形方法を用いて消磁コイル26A〜26Cをコイルガイド27と一体成形してもよい。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態2でも、前記実施の形態1と同様に、消磁コイル26として、渦巻状のコイル・パターン26aが形成されたプリント基板を用いているため、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても定着ローラ20(発熱部材)の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、製造コストが比較的安価であって、定着装置19の大型化を軽減することができる。
【0059】
実施の形態3.
図10にて、この発明の実施の形態3について詳細に説明する。
図10は、実施の形態3における定着装置19を示す断面図である。本実施の形態3における定着装置19は、定着部材として定着ベルト60を用いている点が、定着部材として定着ローラ20を用いている前記各実施の形態のものとは相違する。
【0060】
図10に示すように、本実施の形態3における定着装置19は、誘導加熱部24、発熱部材としての定着ベルト60(定着部材)、加熱部材としての支持ローラ41、定着補助ローラ50、加圧ローラ30、等で構成される。
【0061】
ここで、定着補助ローラ50は、ステンレス鋼等からなる芯金の表面に、シリコーンゴム等の弾性層を形成したものである。定着補助ローラ50の弾性層は、肉厚が1〜5mmで、アスカー硬度が30〜60度となるように形成されている。
【0062】
加熱部材としての支持ローラ41は、SUS304(非磁性ステンレス)で形成された第1非磁性材料層41aと、銅のめっき層からなる第2非磁性材料層41b(銅層)と、で構成される発熱層を有する。
支持ローラ41は、図10の時計方向に回転する。そして、発熱部材としての支持ローラ41の発熱層41a、41bは、誘導加熱部24から発せられる磁束によって誘導加熱される。
【0063】
発熱層を備えた定着ベルト60は、支持ローラ41及び定着補助ローラ50(2つのローラ部材である。)に張架・支持されている。
定着ベルト60は、内周面側から、発熱層(第1非磁性材料層及び第2非磁性材料層で構成されている。)、ニッケルからなる酸化防止層、シリコーンゴム等からなる弾性層、フッ素化合物からなる離型層、が積層されている。
定着ベルト60は、図10の時計方向に走行する。そして、定着ベルト60の発熱層は、誘導加熱部24から発せられる磁束によって直接的に誘導加熱される。
誘導加熱部24は、前記実施の形態1のものと同様に、励磁コイル25、消磁コイル26A〜26C、第1コア28、第2コア29、コイルガイド27、等で構成される。そして、前記各実施の形態と同様に、消磁コイル26A〜26Cとして、渦巻状のコイル・パターン26aが形成されたプリント基板を用いている。
【0064】
このように構成された定着装置19は、次のように動作する。
定着補助ローラ50の回転駆動によって、定着ベルト60は図10中の時計方向に周回するとともに、支持ローラ41も時計方向に回転して、加圧ローラ30も反時計方向に回転する。定着ベルト60は、誘導加熱部24との対向位置で加熱される。
【0065】
詳しくは、不図示の電源部から励磁コイル25に10kHz〜1MHz(好ましくは、20kHz〜800kHzである。)の高周波交番電流を流すことで、励磁コイル25から支持ローラ41及び定着ベルト60に向けて磁力線が双方向に交互に切り替わるように形成される。このように交番磁界が形成されることで、支持ローラ41表面と定着ベルト60の発熱層とに渦電流が生じて、支持ローラ41及び発熱層の電気抵抗によってジュール熱が発生して、支持ローラ41及び発熱層が加熱される。こうして、定着ベルト60は、発熱した支持ローラ41から受ける熱と、自身の発熱層の発熱と、によって加熱される。すなわち、定着ベルト60は、誘導加熱部24によって直接的に加熱される発熱部材として機能するとともに、誘導加熱部24によって間接的に加熱される(支持ローラ41を介して加熱される。)発熱部材として機能することになる。
【0066】
その後、誘導加熱部24によって加熱された定着ベルト60表面は、加圧ローラ30との当接部に達する。そして、搬送される記録媒体P上のトナー像T(トナー)を加熱して溶融する。
定着位置を通過した定着ベルト60表面は、その後に再び誘導加熱部24との対向位置に達する。
このような一連の動作が連続的に繰り返されて、画像形成プロセスにおける定着工程が完了する。
【0067】
以上説明したように、本実施の形態3においては、消磁コイル26として、渦巻状のコイル・パターン26aが形成されたプリント基板を用いているため、小サイズ紙が連続的に通紙された場合等であっても定着ベルト60及び支持ローラ41(発熱部材)の非通紙領域における過昇温を効率的かつ確実に抑止するとともに、製造コストが比較的安価であって、定着装置19の大型化を軽減することができる。
【0068】
なお、本実施の形態3では、定着ベルト60と支持ローラ41とがどちらも誘導加熱部24によって電磁誘導加熱される構成とした。これに対して、定着ベルト60及び支持ローラ41のうちいずれか一方のみが、誘導加熱部24によって電磁誘導加熱される構成とすることもできる。例えば、定着ベルト60に発熱層を設けない場合には、支持ローラ41のみが誘導加熱部24によって電磁誘導加熱される発熱部材として機能するとともに、定着ベルト60を加熱する加熱部材としても機能することになる。その場合も、本実施の形態3と同様の効果を得ることができる。
【0069】
また、本実施の形態3では、定着ベルト60を介して支持ローラ41の外周面に対向する位置に誘導加熱部24を配設したが、支持ローラ41の外周面に直接的に対向するように誘導加熱部24を配設することもできる。すなわち、誘導加熱部24を、定着ベルト60を介することなく、支持ローラ41に直接的に対向させることができる。その場合にも、本実施の形態3と同様の効果を得ることができる。
【0070】
なお、本発明が前記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、前記各実施の形態の中で示唆した以外にも、前記各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、前記構成部材の数、位置、形状等は前記各実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 画像形成装置本体(装置本体)、
19 定着装置、
20 定着ローラ(定着部材、発熱部材)、
21 発熱層、 22 弾性層、 23 芯金、
24 誘導加熱部、
25 励磁コイル、
26、26A〜26C 消磁コイル、
27 コイルガイド、
28 第1コア、
29 第2コア(センターコア)、
30 加圧ローラ、 41 支持ローラ(加熱部材)、
50 定着補助ローラ、
51 切替スイッチ(スイッチング素子)、
55 温度センサ(温度検知手段)、
60 定着ベルト(定着部材、発熱部材)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0072】
【特許文献1】特開2009−145421号公報
【特許文献2】特開2008−40176号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱層を有する発熱部材と、
前記発熱部材に対向するとともに、磁束を発生させて当該磁束によって前記発熱層を誘導加熱する励磁コイルと、
前記励磁コイルに対向するとともに、前記励磁コイルによって発生される前記磁束によって誘導電流が流れて当該磁束を打ち消す方向の磁束を幅方向の一部に発生させる消磁コイルと、
を備え、
前記消磁コイルは、渦巻状のコイル・パターンが形成されたプリント基板であることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記励磁コイルは、前記消磁コイルを介在して前記発熱部材に対向するように配設されたことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記励磁コイルを前記発熱部材の側で保持するコイルガイドを備え、
前記消磁コイルは、一体成形によって前記コイルガイドとともに形成されたことを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記消磁コイルは、幅方向サイズの異なる複数の記録媒体の非通紙領域にそれぞれ対応して調整範囲を可変できるように幅方向に複数配設され、
複数の前記消磁コイルを有する電気回路をそれぞれ開閉するスイッチング素子を備え、
前記スイッチング素子による前記電気回路の開閉によって前記調整範囲における前記発熱層の加熱量を調整制御することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記発熱部材は、トナー像を溶融する定着部材、又は/及び、前記定着部材を加熱する加熱部材であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の定着装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−58655(P2012−58655A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204198(P2010−204198)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】