説明

定着装置のローラ支持構造及び定着装置用転がり軸受

【課題】 ミスアライメントの発生防止等。
【解決手段】 外輪3bは、外径面の一端部に段差部7を備えている。段差部7は、軸線Xに対する直角度が所要精度に管理された垂直壁7aと、軸線Xと平行で、かつ、外径寸法が所要精度に管理された外径壁7bとで構成される。外輪3bは、段差部7の外径壁7bを取付フレーム2の内周2aに嵌合され、垂直壁7aを取付フレーム2の端面2bに当接させた状態で、取付フレーム2に装着される。転動体3cはセラミック材で形成することもできる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、静電転写複写機、レーザプリンタ、ADF、ソータ、RDH等の定着装置において、ローラを取付部材に対して回転自在に支持する支持構造及びその支持構造に用いる転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】例えば静電転写複写機の定着装置は、用紙上に転写されたトナー像を用紙に定着させるための装置で、定着ローラと加圧ローラとを主体として構成される。定着ローラは内部にヒータを備え、用紙に転写されたトナー像を加熱することにより用紙に定着させる。加圧ローラは、定着ローラを押圧する状態でこれと平行して配設され、定着ローラに従動して回転する。この加圧ローラは、定着ローラによって用紙に加熱定着されたトナー像を安定化させる役割をもつ。
【0003】図3は、従来の定着ローラの支持構造を示している。定着ローラ11は、その両軸端部に装着された一対の転がり軸受13で取付フレーム12に対して回転自在に支持される。転がり軸受13の内輪13aは耐熱ブッシュ14を介して定着ローラ11の軸端部に嵌着され、止め輪15によって軸方向に係止される。また、転がり軸受13の外輪13bは、取付フレーム12の内周に嵌合され、止め輪16によって軸方向に係止される。止め輪16は、外輪13bの外径面に形成された止め輪溝に嵌着され、取付フレーム12の端面と軸方向に当接することにより、外輪13bの軸方向位置決めを行う。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】転がり軸受13の外輪13bを止め輪16で取付フレーム12に係止する従来構造では、以下のような問題点があった。
【0005】(1)止め輪16の幅面の平坦度があまり高くなく、また、止め輪溝との間に若干の軸方向隙間があるため、取付フレーム12に対する直角度がでにくい。
【0006】(2)定着ローラ11の熱変位等によって、止め輪16の止め輪溝に対する嵌着力を超えるアキシャル荷重が加わった場合、止め輪16が弾性拡径してそのアキシャル荷重を支持しようとするため、定着ローラ11に対する直角度が維持できない。
【0007】(3)上記(1)(2)の事情によって、転がり軸受13の内輪13aと外輪13bとの間にミスアライメントが発生し、周囲環境温度が高いことと相俟って、転がり軸受13の寿命が短くなる傾向にあった。
【0008】(4)止め輪16の幅寸法を増大させ、止め輪溝に対する嵌着力を大きくすることで、アキシャル荷重に対する許容範囲を高めることもできるが、逆に、外輪13bの軌道面の変形を伴い、軸受機能に支障をきたす場合がある。
【0009】(5)外輪13bに止め輪溝を設けた従来構造では、外輪の強度上の問題からコンパクト化に限界がある。
【0010】本発明は、上述した従来構造におけるミスアライメントの問題を解消し、軸受寿命の向上を図ると共に、よりコンパクトなローラ支持構造を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明は、ローラの軸端部を転がり軸受で取付部材に対して回転自在に支持した定着装置のローラ支持構造において、転がり軸受の外輪の外径面に段差部を設け、この段差部を取付部材と軸方向に当接させて、外輪の軸方向位置決めを行う構成とした。
【0012】また、本発明は、定着装置のローラの軸端部に装着される内輪と、取付部材に装着される外輪とを備え、ローラの軸端部を取付部材に対して回転自在に支持する定着装置用転がり軸受において、外輪の外径面に、取付部材と軸方向に当接して、外輪の軸方向位置決めを行う段差部を設けた。
【0013】上記転がり軸受、特にローラがトナー像を加熱定着させるヒートローラである場合の当該転がり軸受は、内外輪間に配置される転動体をセラミック材で形成したものとするのがよい。この場合、内輪を、SiあるいはAlを含み、酸素含有量を13ppm以下とした鋼を焼入れした後、230℃〜300℃の高温で焼戻したもので形成するのが望ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0015】図2は、定着装置における定着ローラ1の支持構造を示している。定着ローラ1は、両軸端部1aに装着された一対の転がり軸受3で取付部材としての取付フレーム2に対して回転自在に支持される。定着ローラ1の外周にはPTFE等の樹脂材からなる樹脂層1bが設けられ、内部にはヒータ1cが配設される。また、定着ローラ1の一端には、駆動用のギヤ4(又はスプロケット)が連結される(又は一体に設けられる)。
【0016】図1は、定着ローラ1の軸端部1aを取付フレーム2に対して回転自在に支持する転がり軸受3を示している。この転がり軸受3は、定着ローラ1の軸端部1aに装着される内輪3aと、取付フレーム2に装着される外輪3bと、内輪3aの軌道面3a1と外輪3bの軌道面3b1との間に介在する複数の転動体、例えばボール3cと、ボール3cを円周所定位置に保持する保持器3dと、軸受内部を密封する一対のシール部材3eとを備えている。軸受内部にはグリースが封入される。
【0017】内輪3aは、例えば耐熱ブッシュ5を介して定着ローラ1の軸端部1aの外周に嵌着され、軸端部1aの外周に嵌着された止め輪6によって軸方向に係止される。つまり内輪3aと止め輪6は非接触である。
【0018】外輪3bは、外径面の一端部に段差部7を備えている。段差部7は、軸線Xに対する直角度が所要精度に管理された垂直壁7aと、軸線Xと平行で、かつ、外径寸法が所要精度に管理された外径壁7bとで構成される。外輪3bは、段差部7の外径壁7bを取付フレーム2の内周2aに嵌合され、垂直壁7aを取付フレーム2の端面2bに当接させた状態で、取付フレーム2に装着される。
【0019】段差部7の垂直壁7aが取付フレーム2の端面2bと当接することによって、外輪3bの軸方向位置、並びに、取付フレーム2および軸線Xに対する直角度が所要精度に確保され、同時に、段差部7の外径壁7bが取付フレーム2の内周2aと嵌合することによって、外輪3bの半径方向位置が所要精度に確保される。また、アキシャル荷重に対して、段差部7の垂直壁7aと取付フレーム2の端面2bとが当接してこれを支持するので、アキシャル荷重に対する許容範囲が広く、定着ローラ1の熱変位等に伴うミスアライメントが発生しにくい。さらに、外輪の外径面に止め輪溝を形成する従来構造に比べて、外輪3bの最小肉厚(外表面から軌道面3b1までの距離が最小となる部分の肉厚)を確保する上で有利であり、従来と同程度の強度を維持しつつ軸受サイズをダウンする等して、支持構造のコンパクト化を図ることができる。段差部7の外径壁7bの軸方向寸法は、外輪3bの強度確保、コンパクト化、加工コスト抑制を図るため、外輪3の軸方向寸法の20%程度とするのが好ましい。
【0020】図4は、転がり軸受3の他の実施形態を示している。この実施形態では、外輪3bの外径面の段差部7を、定着ローラ1の中央側に位置する端部に設けている。図1に示す構成に比べ、取付フレーム2に対する取付作業が容易になるという利点がある。
【0021】図5は、転がり軸受3の他の実施形態を示している。図4に示す実施形態と同様に、外輪3bの外径面の段差部7を、定着ローラ1の中央側に位置する端部に設けているが、この実施形態ではさらに、取付フレーム2の内周近傍部分を屈曲させて円筒部2cを形成し、その円筒部2cの内周を外輪3bの外径面に嵌合させている。図1および図4に示す構成に比べ、取付フレーム2に対する外輪3bの半径方向位置がより安定するという利点がある。
【0022】ところで、上記耐熱ブッシュ5は、■定着ローラ1の熱から他の部品を保護する、■定着ローラ1の熱バランスを保持する(平衡を保つ)、■定着ローラ1と取付フレーム2とを絶縁して定着ローラ1の帯電性を確保するために使用されるものであるが、その組込み性向上や昇温時の熱膨張を逃がすため、軸方向にスリットが設けられている。内輪3aと耐熱ブッシュ5との間、あるいは、耐熱ブッシュ5と軸端部1aとの間に隙間がある場合は、耐熱ブッシュ5のスリットが開いたり閉じたりすることで異音が発生する場合がある。このような場合には、内輪3aの内径面および端面にフッ素系樹脂をコーティングしたり、グリースを塗布することで、定着ローラ1の帯電性(絶縁性)を確保すると同時に、上記の異音発生を防止しているが、異音発生の完全防止は困難であり、また、工数の増加や高コスト化を招く。
【0023】この解決手段としては、図6に示すように、転がり軸受3の転動体3cをセラミック材で形成することが考えられる。この場合、転がり軸受3の内輪3aは断熱ブッシュ5を用いることなく、定着ローラ1の軸端部1aに直接装着される。内輪3aの軸端部1aへの固定は、図示のように内輪3aの内周面を軸端部1aの外周面に圧入する他、図1と同様に止め輪6を用いて行っても良い。
【0024】セラミック材は、絶縁性や断熱性に優れた特性を備えるので、上記のように耐熱ブッシュ5を省略しても上記■〜■の機能が害されることはない。断熱ブッシュ5が省略可能となることから、発音源をなくして異音の発生を完全に防止することができ、また、部品点数や組付け工数の削減による低コスト化を図ることができる。さらに、セラミック材を使用する場合の一般的効果である軸受の長寿命化も達成される。このように断熱ブッシュ5を省略する場合、定着ローラ1の絶縁性を如何に確保するかが問題となり、従来では、定着ローラ1以外の場所に絶縁材を使用するなどして絶縁性の確保に努めていたのであるが、上記構造であればこの種の絶縁構造は不要となる。
【0025】一方、セラミック材の熱伝導率は、鋼材料の1/10程度であるので、上記のように転動体3cをセラミック材で形成すると、定着ローラ1からの熱が内輪3aに溜まりやすくなり、軸受機能への悪影響が懸念される。従って、この場合は、例えば特公平6-33441 号公報等に開示される鋼材料を内輪3aの素材とするのがよい。この鋼材料は、SiあるいはAlを含み、酸素含有量を13ppm以下とした鋼を焼入れした後、230℃〜300℃の高温で焼戻したもので、長寿命と共に高い耐熱性、経年寸法安定性を具備するものである。
【0026】具体的に上記鋼材料は、重量比にして炭素0.95%〜1.10%、けい素あるいはアルミニウム1〜2%、マンガン1.15%以下、クロム0.90〜1.60%、残部鉄および不純物からなり、酸素含油量13ppm以下とした鋼素材を焼入れした後、230℃〜300℃の高温で焼もどしを行って残留オーステナイトを8%以下とし、かつ硬度を60HRC以上としたものである。この場合、焼入れと同時に鋼組織に浸炭処理を施すようにしてもよい。
【0027】もちろん耐熱性に富む材料である限り内輪3aの素材は上記のものに限定されず、例えば耐熱性を向上させるべく改質した軸受鋼(SUJ材)も使用可能である。
【0028】尚、上述した各実施形態は、定着装置における定着ローラの支持構造に関するものであるが、本発明は、定着装置における加圧ローラの支持構造にも同様に適用可能である。
【0029】
【発明の効果】本発明は以下に示す効果を有する。
【0030】(1)外輪の外径面に設けた段差部と取付フレームとの当接によって、外輪の軸方向位置決めを行うので、従来構造に比べて、外輪の取付フレームに対する取付精度を確保することが容易であり、しかも、外輪係止用の止め輪の装着作業が不要になるので、組立工程が簡略する。
【0031】(2)外輪の外径面に設けた段差部と取付フレームとの当接によってアキシャル荷重を支持することができるので、アキシャル荷重に対する許容範囲が広く、ローラの熱変位等に伴うミスアライメントが発生しにくい。
【0032】(3)ミスアライメントが発生しにくくなることにより、転がり軸受の寿命が増大する。
【0033】(4)従来構造に比べて、外輪の最小肉厚を確保する上で有利であり、従来と同程度の強度を維持しつつ軸受サイズをダウンする等して、ローラ支持構造のコンパクト化を図ることができる。
【0034】(5)転動体をセラミック材で形成することによって、耐熱ブッシュが不要となり、異音の発生が確実に防止可能となると共に、低コスト化も達成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態に係わる転がり軸受を示す断面図である。
【図2】実施形態に係わるローラ支持構造を示す断面図である。
【図3】従来のローラ支持構造を示す断面図である。
【図4】他の実施形態に係わる転がり軸受を示す断面図である。
【図5】他の実施形態に係わる転がり軸受を示す断面図である。
【図6】他の実施形態に係わる転がり軸受を示す断面図である。
【符号の説明】
1 定着ローラ
1a 軸端部
2 取付フレーム
3 転がり軸受
3a 内輪
3b 外輪
5 耐熱ブッシュ
7 段差部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ローラの軸端部を転がり軸受で取付部材に対して回転自在に支持した定着装置のローラ支持構造において、前記転がり軸受の外輪の外径面に段差部を設け、この段差部を前記取付部材と軸方向に当接させて、前記外輪の軸方向位置決めを行うことを特徴とする定着装置のローラ支持構造。
【請求項2】 転がり軸受の内輪と外輪の間に配置される転動体をセラミック材で形成した請求項1記載の定着装置のローラ支持構造。
【請求項3】 転がり軸受の内輪が、SiあるいはAlを含み、酸素含有量を13ppm以下とした鋼を焼入れした後、230℃〜300℃の高温で焼戻したものである請求項2記載の定着装置のローラ支持構造。
【請求項4】 定着装置のローラの軸端部に装着される内輪と、取付部材に装着される外輪とを備え、前記ローラの軸端部を取付部材に対して回転自在に支持する定着装置用転がり軸受において、前記外輪の外径面に、前記取付部材と軸方向に当接して、前記外輪の軸方向位置決めを行う段差部を設けたことを特徴とする定着装置用転がり軸受。
【請求項5】 内輪と外輪の間に配置される転動体をセラミック材で形成した請求項4記載の定着装置用転がり軸受。
【請求項6】 内輪が、SiあるいはAlを含み、かつ酸素含有量を13ppm以下とした鋼を焼入れした後、230℃〜300℃の高温で焼戻したものである請求項5記載の定着装置用転がり軸受。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2000−275994(P2000−275994A)
【公開日】平成12年10月6日(2000.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−76385
【出願日】平成11年3月19日(1999.3.19)
【出願人】(000102692)エヌティエヌ株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】