説明

定電力制御回路

【課題】回路規模が小さく、且つ負荷の消費電力を高い精度で一定に制御できる定電力制御回路を提供する。
【解決手段】定電力制御回路10は、ヒータHに電流を供給する電流源11と、ヒータHの両端電圧の大きさに相当する検出信号を生成するA/D変換器12と、A/D変換器12に第1の基準電圧を与える離散制御型BGR16と、電流源11の出力電流の大きさを制御するための離散的な制御信号を生成する制御回路13と、離散的な制御信号を連続的な制御信号に変換するD/A変換器14と、D/A変換器14に第2の基準電圧を与える連続制御型BGR15とを備える。制御回路13は、連続制御型BGR15からA/D変換器12を介して第2の基準電圧の大きさに関するモニタ信号を入力し、モニタ信号が示す第2の基準電圧の変動量に基づいて離散的な制御信号を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定電力制御回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ヒータによって屈折率が制御される光導波路を備える光デバイス、およびその制御方法について記載されている。この光デバイスでは、ヒータに投入される電力を一定に制御するために、ヒータを流れる電流、及びヒータにかかる電圧の少なくとも一方に基づいて電力を制御する。
【0003】
また、非特許文献1には、波長可変レーザが記載されている。この波長可変レーザは、半導体光増幅器(SOA)、DFBレーザ、及び波長可変型光反射器(CSG−DBR:Chirped Sampled Grating Distributed Bragg Reflector)が一つの基板上に集積された構成を備える。波長可変型光反射器では、ヒータを用いた温度制御(ヒータの平均温度、温度傾斜)、及びDFBレーザの平均温度によって反射波長が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−44141号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】石川努他、「波長フィルタ機能を有するチューナブル反射器を用いた高出力単一ストライプ型フルバンドチューナブルレーザ」、電子情報通信学会技術研究報告、OPE2008−29(LQE2008−30)、2008年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば波長可変レーザの出力波長を制御するためのヒータといった負荷の消費電力を一定に制御する場合、これを精度良く制御することが望まれる場合がある。特に、波長可変レーザが高密度波長分割多重(DWDM)方式の通信装置に用いられる場合、出力波長の変動を防ぐため、ヒータに与える電力を高い精度で一定に制御することが求められる。
【0007】
特許文献1に記載された装置では、ヒータの両端電圧と、ヒータを流れる電流とを測定し、これらから算出される現消費電力が設定値に近づくようにヒータの消費電力を制御している。図5は、このような定電力制御回路100の構成を示す図である。この定電力制御回路100は、ヒータHの消費電力を一定に制御する回路であって、ヒータHに電流を供給する電流源101と、ヒータHを流れる電流を測定する電流モニタ回路102と、電流源101から供給される電流の大きさを制御する制御回路103とを備える。制御回路103は、ヒータHを流れる電流の大きさに関する値Imonを電流モニタ回路102からアナログ/ディジタル(A/D)変換器104を介して受け取り、また、ヒータHの両端の電圧VHmon及びVLmonの大きさに関する値をA/D変換器104から受け取って、これらの値からヒータHの消費電力を算出する。制御回路103は、算出した消費電力と設定値との差が小さくなるように、制御回路103を制御するための信号を、ディジタル/アナログ(D/A)変換器105を介して電流源101へ送る。
【0008】
また、図6は、電流モニタ回路102の構成の一例を示す回路図である。図6に示す電流モニタ回路102は、電流流路に設けられた抵抗器112と、抵抗器112の両端電圧を増幅するオペアンプ113とを含んでいる。
【0009】
しかしながら、ヒータの両端電圧及び電流を測定してヒータの消費電力を制御する定電力制御回路100のような方式には、次のような問題がある。すなわち、ヒータHの両端電圧に加えて電流も測定するので、回路規模が大きくなってしまう。特に、電流モニタ回路102は一般的に回路構成が大きく(図6を参照)、光送信器といった装置の小型化および低コスト化を妨げる一因となってしまう。例えば、波長可変XFP等の小型光トランシーバに搭載する場合、高い精度の定電力制御だけでなく、回路規模が小さいことが必要である。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、回路規模が小さく、且つ負荷の消費電力を高い精度で一定に制御できる定電力制御回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明による定電力制御回路は、負荷に与える電力を一定に制御する定電力制御回路であって、負荷に電流を供給する電流源と、負荷の両端の電圧の大きさに相当する離散的な検出信号を生成するA/D変換器と、A/D変換器に第1の基準電圧を与える離散型基準電圧回路と、検出信号に基づいて、電流源から出力される電流の大きさを制御するための離散的な制御信号を生成する制御部と、離散的な制御信号を連続的な制御信号に変換し、該連続的な制御信号を電流源に与えるD/A変換器と、D/A変換器に第2の基準電圧を与える連続型基準電圧回路とを備え、制御部は、負荷に与える電力が所定値に近づくように離散的な制御信号を生成するとともに、連続型基準電圧回路からA/D変換器を介して第2の基準電圧の大きさに関する離散的なモニタ信号を入力し、モニタ信号が示す第2の基準電圧の変動量に基づいて離散的な制御信号を補正することを特徴とする。
【0012】
この定電力制御回路においては、A/D変換器に第1の基準電圧を与える回路として離散型基準電圧回路が設けられており、A/D変換器に第2の基準電圧を与える回路として連続型基準電圧回路が設けられている。連続型基準電圧回路による第2の基準電圧は、温度によって変動し易い。一方、離散型基準電圧回路による第1の基準電圧は、温度によって変動し難い。上記定電力制御回路においては、このような特性差を利用する。すなわち、負荷の両端の電圧の大きさに相当する検出信号を生成するA/D変換器に対し、負荷の両端の電圧に加えて、連続型基準電圧回路から第2の基準電圧を入力する。この場合、A/D変換器から出力される、第2の基準電圧の大きさに関する離散的なモニタ信号は、変動し難い第1の基準電圧を基準に生成されるので、温度変化等による第2の基準電圧の変動量を高い精度で示すことができる。そして、制御部は、この離散的なモニタ信号が示す第2の基準電圧の変動量に基づいて、電流源から出力される電流の大きさを制御するための制御信号を補正する。この定電力制御回路によれば、回路規模が小さくて済み、且つ負荷の消費電力を高い精度で一定に制御できる。
【0013】
また、定電力制御回路は、連続型基準電圧回路が連続制御型のバンドギャップ基準電圧回路であり、離散型基準電圧回路が離散制御型のバンドギャップ基準電圧回路であることを特徴としてもよい。連続型基準電圧回路が連続制御型のバンドギャップ基準電圧回路である場合、第2の基準電圧は温度によって大きく変動し易い。一方、離散型基準電圧回路が離散制御型のバンドギャップ基準電圧回路である場合、第1の基準電圧は極めて変動し難い。従って、上述した定電力制御回路の上記効果をより効果的に得ることができる。
【0014】
また、定電力制御回路は、負荷が波長可変半導体レーザ素子に設けられた波長設定用のヒータであることを特徴としてもよい。波長可変半導体レーザ素子の波長設定用のヒータにおいては、消費電力を精度良く一定に制御することが極めて重要である。従って、上述した定電力制御回路がより有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回路規模が小さく、且つ負荷の消費電力を高い精度で一定に制御できる定電力制御回路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明による定電力制御回路の一実施形態の構成を示す図である。
【図2】図2は、連続制御型のバンドギャップ基準電圧回路を示す回路図である。
【図3】図3は、離散制御型のバンドギャップ基準電圧回路を示す回路図である。
【図4】図4は、離散制御型のバンドギャップ基準電圧回路から出力される第1の基準電圧の波形を示す図である。
【図5】図5は、或る定電力制御回路の構成を示す図である。
【図6】図6は、電流モニタ回路の構成の一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明による定電力制御回路の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明による定電力制御回路の一実施形態の構成を示す図である。本実施形態の定電力制御回路10は、負荷であるヒータHの消費電力を一定に制御するための回路である。ヒータHは、例えば波長可変半導体レーザ素子に設けられた波長設定用のヒータであるが、本実施形態の定電力制御回路10が制御対象とする負荷は、このようなヒータに限られるものではない。
【0019】
図1に示すように、定電力制御回路10は、電流源11、A/D変換器12、制御回路(制御部)13、D/A変換器14、連続制御型のバンドギャップ基準電圧回路(以下、連続制御型BGRと記す)15、及び、離散制御型のバンドギャップ基準電圧回路(以下、離散制御型BGRと記す)16を備える。
【0020】
電流源11は、ヒータHに電流を供給するための回路要素である。電流源11は、制御回路13からの制御信号に応じた大きさの電流IをヒータHに供給する。
【0021】
A/D変換器12の一つの入力端は、配線によってヒータHの一方の端子と接続されており、A/D変換器12の他の一つの入力端は、配線によってヒータHの他方の端子と接続されている。A/D変換器12は、ヒータHの両端の電圧V,Vを入力してアナログ/ディジタル変換を行い、これらの電圧V,Vの大きさに相当する離散的な検出信号D,Dを生成する。また、A/D変換器12には、連続制御型BGR15から、第2の基準電圧VBGR2が入力される。A/D変換器12は、第2の基準電圧VBGR2のアナログ/ディジタル変換を行い、離散的なモニタ信号DBGR2を生成する。A/D変換器12の出力端は、配線によって制御回路13に接続されている。A/D変換器12は、検出信号D及びD、並びにモニタ信号DBGR2を制御回路13へ出力する。
【0022】
制御回路13は、検出信号D及びDに基づいて、離散的な制御信号DACinを生成する。制御信号DACinは、電流源11から出力される電流Iの大きさを制御するための信号である。このとき、制御回路13は、検出信号D及びDから算出されるヒータHの消費電力が所定値(一定値)に近づくように、離散的な制御信号DACinを生成する。また、制御回路13は、連続制御型BGR15からA/D変換器12を介して、第2の基準電圧VBGR2の大きさに関する離散的なモニタ信号DBGR2を入力する。制御回路13は、モニタ信号DBGR2が示す第2の基準電圧VBGR2の変動量に基づいて制御信号DACinを補正する。制御回路13の出力端は配線によってD/A変換器14の入力端と接続されており、制御回路13は、補正した制御信号DACinをD/A変換器14へ出力する。
【0023】
D/A変換器14は、離散的な制御信号DACinを連続的な制御信号DACoutにディジタル/アナログ変換し、この連続的な制御信号DACoutを電流源11に与える。D/A変換器14の出力端は、配線によって、電流源11を構成するトランジスタの制御端子に接続されている。
【0024】
連続制御型BGR15は、本実施形態における連続型基準電圧回路である。連続制御型BGR15は、D/A変換器14の基準電圧端子と接続されており、D/A変換器14に第2の基準電圧VBGR2を与える。また、離散制御型BGR16は、本実施形態における離散型基準電圧回路である。離散制御型BGR16は、A/D変換器12の基準電圧端子と接続されており、A/D変換器12に第1の基準電圧VBGR1を与える。
【0025】
図2は、連続制御型BGR15の構成の一例を示す回路図である。図2に示す連続制御型BGR15は、それぞれダイオード接続(ベースとコレクタとが短絡)された一対のバイポーラトランジスタ151,152と、一方のバイポーラトランジスタ152と直列に接続された抵抗153と、オペアンプ154と、抵抗155及び156とを有する。一対のバイポーラトランジスタ151,152は、互いに電流密度が異なる。オペアンプ154の反転入力端子はバイポーラトランジスタ151のコレクタに接続されており、非反転入力端子は抵抗153を介してバイポーラトランジスタ152のコレクタに接続されている。オペアンプ154の出力端子は、抵抗155を介してバイポーラトランジスタ151のコレクタに接続されるとともに、抵抗156及び153を介してバイポーラトランジスタ152のコレクタに接続されている。オペアンプ154の出力端子は、この連続制御型BGR15の出力端としてD/A変換器14(図1を参照)に接続される。
【0026】
この連続制御型BGR15の動作について説明する。まず、バイポーラトランジスタ151,152のコレクタ電流Iは以下の数式(1)で表される。
【数1】


数式(1)において、V=kT/qであり、kはボルツマン定数、Tは絶対温度[K]、qは電気素量である。VBEはベース・エミッタ間電圧である。Iは飽和電流であり、次式(2)で表される。
【数2】


数式(2)において、bは比例定数、m≒−3/2、Eはバンドギャップエネルギーである。また、式(1)から、ベース・エミッタ間電圧VBE
【数3】


と表される。
【0027】
電流密度が異なる2つのバイポーラトランジスタ151,152に、同じ大きさの電流Iが流れる場合を考える。各バイポーラトランジスタ151,152の飽和電流をそれぞれIS1,IS2(但し、IS2=nIS1)とすると、それぞれのベース・エミッタ間電圧VBE1,VBE2は、
【数4】


となる。
【0028】
ここで、図2中の点P1,P2における電圧V,Vが一致するように抵抗153の抵抗値Rを設定すると、VBE1とVBE2との電圧差ΔVBEは以下の数式(5)のようになる。
【数5】


が温度に比例することから、電圧差ΔVBEは次式(6)のように正の温度係数をもつ。
【数6】


したがって、オペアンプ154が設けられない場合には、温度変化よる出力変動が生じることとなる。
【0029】
図2に示した連続制御型BGR15では、オペアンプ154によって、点P1の電圧Vと点P2の電圧Vとがほぼ等しくなるように、抵抗155及び156にかかる電圧を駆動する。ここで、抵抗155の抵抗値Rと抵抗156の抵抗値Rとは、R=Rを満たす。上式(1)〜(6)より、抵抗153を流れる電流Irは
【数7】


となる。従って、出力電圧Vout(すなわち第2の基準電圧VBGR2)は、式(8)のように表される。
【数8】

【0030】
上式(8)より、VBE2の値に合わせてn、R及びRを設定すれば、温度変化による出力変動の小さな基準電圧回路を構成できるとも考えられる。しかし現実には、製造プロセスの不均一性によってオペアンプ154に入力オフセット電圧が発生するので、出力電圧Voutに誤差及び温度特性が生じてしまう。
【0031】
これに対し、本実施形態の離散制御型BGR16は、このような誤差及び温度特性を好適に補正することができる。図3は、離散制御型BGR16の構成の一例を示す回路図である。図3に示す離散制御型BGR16は、連続制御型BGR15と同様の構成(バイポーラトランジスタ151,152、抵抗153、オペアンプ154、抵抗155及び156)に加えて、スイッチ161及び162を有する。スイッチ161は点P1及びP2とオペアンプの差動入力との間に設けられており、スイッチ162はオペアンプ154の作動出力に設けられている。これらのスイッチ161及び162は、外部から入力されるクロック信号CLKによって周期的に電圧の正負を反転させる。そして、第1の基準電圧VBGR1としてその平均値を得ることにより、上述した誤差や、温度変化による出力変動を相殺(補償)して、安定した第1の基準電圧VBGR1を得ることができる。
【0032】
図4は、離散制御型BGR16の出力電圧Voutの波形の一例を示す図である。出力電圧Voutは所望の電圧(ターゲット)から少しずれるが、正方向にずれた電圧と負方向にずれた電圧との平均を取ることによって、所望の安定した電圧(第1の基準電圧VBGR1)が得られる。離散的な信号を出力するA/D変換器12では、このような離散制御型BGR16を用いることができる。なお、D/A変換器14については、安定した連続的な電圧を出力する必要があるので、離散制御型BGRのスイッチから生じるノイズによって好ましくない影響を受けるおそれがある。従って、D/A変換器14には連続制御型BGRが好適である。
【0033】
以上の構成を備える定電力制御回路10の作用及び効果について説明する。通常、BGRといった基準電圧回路は、回路の小型化には極めて有効である一方、温度変化による出力電圧の変動が大きいという問題がある。その出力電圧の変動量は、例えば250ppm/℃程度である。図3に示した離散制御型BGRによればこのような出力変動を低減できるが、上述したように、D/A変換器14ではノイズの問題から離散制御型BGRを採用することは困難である。従って、高精度な電力制御を支えるD/A変換器14において工夫を要する。
【0034】
本実施形態の定電力制御回路10においては、連続制御型BGR15による第2の基準電圧VBGR2が温度によって変動し易く、離散制御型BGR16による第1の基準電圧VBGR1が温度によって変動し難いという、両者の特性差を利用する。すなわち、ヒータHの両端の電圧V,Vの大きさに相当する検出信号D,Dを生成するA/D変換器12に対し、ヒータHの両端の電圧V,Vに加えて、連続制御型BGR15から第2の基準電圧VBGR2を入力する。この場合、A/D変換器12から出力される、第2の基準電圧VBGR2の大きさに関する離散的なモニタ信号DBGR2は、変動し難い第1の基準電圧VBGR1を基準に生成されるので、温度変化等による第2の基準電圧VBGR2の変動量を高い精度で示すことができる。そして、制御回路13は、この離散的なモニタ信号DBGR2が示す第2の基準電圧VBGR2の変動量に基づいて、電流源11から出力される電流Iの大きさを制御するための制御信号DACoutを補正する。この定電力制御回路10によれば、回路規模が小さくて済み、ヒータHの消費電力を、温度変化によらず高い精度で一定に制御できる。
【0035】
ここで、定電力制御回路10における具体的な制御方法の一例を示す。A/D変換器12では、連続制御型BGR15から出力される第2の基準電圧VBGR2と、ヒータHの両端の電圧V及びVとが、離散的な信号DBGR2,D及びDに変換される。ここで、離散制御型BGR16は温度変化による出力の変動が小さいので、離散的な信号DBGR2によって精度の高いモニタ値が得られる。制御回路13では、A/D変換器12から得られた信号DBGR2,D及びDを用いて、D/A変換器14へ出力する制御信号DACinを算出する。このとき、ヒータHにおける降下電圧VHeaterは、VHeater=V−Vとして求まる。
【0036】
仮に、温度変化による連続制御型BGR15の出力変動を考慮しなかった場合、制御回路13は、算出した降下電圧VHeaterとD/A変換器14の出力信号DACoutから算出される電流Iとの積を消費電力の目標値と比較し、その差分に利得を乗じた値を制御信号DACinとしてD/A変換器14へ出力する。この場合、制御信号DACinに温度変化による変動が生じる。すなわち、所望の第2の基準電圧の値をVBGR20とすると、D/A変換器14の出力値は、想定に対してVBGR2/VBGR20倍に変化していることになる。例えば、D/A変換器14のビット数をxとし、D/A変換器14の設定値をDACin(LSB)とし、電流源11の出力電圧がD/A変換器14からの制御信号DACoutの値に比例しているとし、電流源11のコンダクタンスをgm(A/V)とした場合、実際の電流Iの値は、
【数9】


となる。一方、制御回路13内で用いられる電流Iの計算値IHCは、
【数10】


であり、このような実際の電流Iと計算値IHCとの違いに起因して、定電力制御に誤差が生じてしまう。
【0037】
これに対し、本実施形態に係る定電力制御回路10においては、D/A変換器14へ出力される制御信号DACinの値に予め(VBGR20/VBGR2)を乗じておくことで、温度変化による電流Iの変動分を補正することができる。すなわち、D/A変換器14に入力される補正後の制御信号をDACin’とすると、
【数11】


となる。従って、実際の電流Iの値は
【数12】


となり、計算値IHCと等しくなる。従って、電流モニタ回路を使用することなく高精度な定電力制御が可能となる。
【0038】
なお、制御信号DACinを補正する方法としては、上述したような制御信号DACinを直接的に変更する方法の他に、制御回路13の内部における計算値を変更する方法もある。例えば、制御回路13により算出される電流Iの計算値IHCにあらかじめ(VBGR2/VBGR20)を乗じることにより、補正後の計算値IHC
【数13】


となり、実際の電流Iの値と一致するので、結果的に制御信号DACinが補正される。連続制御型BGR15における所望の第2の基準電圧VBGR20は、電力との整合が取れていればよく、校正時に、所望の電力の測定と同時に得られる第2の基準電圧VBGR2と等しく設定すればよい。
【0039】
本実施形態においては、A/D変換器12に第1の基準電圧VBGR1を与える離散型基準電圧回路が離散制御型BGRによって構成されており、D/A変換器14に第2の基準電圧VBGR2を与える連続型基準電圧回路が連続制御型BGRによって構成されている。連続型基準電圧回路が連続制御型BGRである場合、第2の基準電圧VBGR2は温度によって大きく変動し易い。一方、離散型基準電圧回路が離散制御型BGRである場合、第1の基準電圧VBGR1は極めて変動し難い。従って、上述した定電力制御回路10による効果をより顕著に得ることができる。但し、連続型基準電圧回路及び離散型基準電圧回路は、連続制御型BGR及び離散制御型BGRに限られるものではない。
【0040】
また、本実施形態のように、定電力制御回路10の制御対象である負荷としては、波長可変半導体レーザ素子に設けられた波長設定用のヒータHが好適である。波長可変半導体レーザ素子の波長設定用のヒータHにおいては、消費電力を精度良く一定に制御することが極めて重要である。従って、上述した作用効果を奏する本実施形態の定電力制御回路10がより有効となる。
【符号の説明】
【0041】
10…定電力制御回路、11…電流源、12…A/D変換器、13…制御回路、14…D/A変換器、15…連続制御型BGR、16…離散制御型BGR、100…定電力制御回路、151,152…バイポーラトランジスタ、154…オペアンプ、153,155,156…抵抗器、161,162…スイッチ、CLK…クロック信号、DACin…離散的な制御信号、DACout…連続的な制御信号、DBGR2…モニタ信号、D,D…検出信号、H…ヒータ、VBGR1…第1の基準電圧、VBGR2…第2の基準電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に与える電力を一定に制御する定電力制御回路であって、
前記負荷に電流を供給する電流源と、
前記負荷の両端の電圧の大きさに相当する離散的な検出信号を生成するアナログ/ディジタル変換器と、
前記アナログ/ディジタル変換器に第1の基準電圧を与える離散型基準電圧回路と、
前記検出信号に基づいて、前記電流源から出力される電流の大きさを制御するための離散的な制御信号を生成する制御部と、
前記離散的な制御信号を連続的な制御信号に変換し、該連続的な制御信号を前記電流源に与えるディジタル/アナログ変換器と、
前記ディジタル/アナログ変換器に第2の基準電圧を与える連続型基準電圧回路と
を備え、
前記制御部は、前記負荷に与える電力が所定値に近づくように前記離散的な制御信号を生成するとともに、前記連続型基準電圧回路から前記アナログ/ディジタル変換器を介して前記第2の基準電圧の大きさに関する離散的なモニタ信号を入力し、前記モニタ信号が示す前記第2の基準電圧の変動量に基づいて前記離散的な制御信号を補正する、
ことを特徴とする定電力制御回路。
【請求項2】
前記連続型基準電圧回路が連続制御型のバンドギャップ基準電圧回路であり、
前記離散型基準電圧回路が離散制御型のバンドギャップ基準電圧回路である、
ことを特徴とする請求項1に記載の定電力制御回路。
【請求項3】
前記負荷が波長可変半導体レーザ素子に設けられた波長設定用のヒータである、ことを特徴とする請求項1または2に記載の定電力制御回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−227722(P2011−227722A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97094(P2010−97094)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】