説明

実長測定装置

【課題】地図の表面上の経路を簡易且つ正確に測定する実長測定装置を提供する。
【解決手段】地図の表面をなぞった経路の長さを計測する実長測定装置で、なぞり部と赤外線送出部と超音波送出部とが備えられる第一体と、なぞり部でなぞった経路の長さを求める第二体とで構成され、第二体に、赤外線送出部からの赤外線を受信する赤外線受信部と、超音波送出部からの超音波を受信する複数の超音波受信部と、赤外線受信部で受信された赤外線に対する複数の超音波受信部で受信された超音波夫々の遅延時間差によって超音波送出部から複数の超音波受信部までの夫々の距離を求めて第一体の位置を確知し、この確知を第一体からの赤外線と超音波とを受信する毎に行い、第一体の位置の変化量を累積加算して経路の長さを求める演算部とが備えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面地図などの測定対象物の所定の表面をなぞって、なぞった経路の長さから実際の長さ(実長)を求める実長測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平面地図の表面に印刷された任意の地点間の経路の実長を求める場合に用いられる実長測定装置25として、図4に示すような、棒状の握持体26の先端に測輪27と呼ばれる歯車状の車輪を具備したもの(以下、従来例という)があり、この実長測定装置25は、測輪27を平面地図の表面上の所定区間を転動させ、この転動した測輪27の歯車27の歯28の歯数を計数し、この歯数の計数値と歯のピッチ間隔とから該測輪27を転動させた経路の長さを求め、この経路の長さに、例えば、地図の縮尺を掛けて対象区間の実長を求めるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この従来例を用いて平面地図の表面上の経路の実長を求める場合、例えば、計測する経路が複雑で、急な湾曲部や折曲部があると、従来例を握持する手の方向を変えたり、手の中で従来例を軸回動して向きを変えたりしなければならず厄介で手間がかかり、しかも、測輪を転動させる位置がずれて誤差が生じやすいという問題があった。
【0004】
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたもので、測定対象物の表面上の経路が複雑であっても簡易且つ正確な実長を求めることのできる実長測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0006】
平面地図,立体地図,設計図,ワークなどの測定対象物1の所定の表面2をなぞり、このなぞった経路3の長さから該経路3の実長を求める実長測定装置であって、握持部11の先端になぞり部4を備え移動する第一体5と、この第一体5のなぞり部4でなぞった前記測定対象物1の前記経路3の長さから前記経路3の実長を求める第二体6とで構成され、前記第一体5には、赤外線を繰返し送出する赤外線送出部7と超音波を繰返し送出する超音波送出部8とが設けられ、また、前記第二体6は、前記赤外線送出部7からの赤外線を受信する赤外線受信部9と前記超音波送出部8からの超音波を受信する複数の超音波受信部10とを有し、更に、前記赤外線受信部9で受信された赤外線に対して遅延する複数の前記超音波受信部10夫々で受信された超音波夫々の遅延時間差によって前記超音波送出部8から複数の前記超音波受信部10までの夫々の距離を求めて前記第一体5の位置を確知し、この第一体5の位置の確知を移動途時の前記第一体5から繰返し送出される赤外線と超音波とを受信する毎に行い、この第一体5の位置の変化量を累積加算することで前記第一体5でなぞった経路3の長さを求め、この経路3の長さから該経路3の実長を求める演算部12とが設けられていることを特徴とする実長測定装置に係るものである。
【0007】
また、請求項1記載の実長測定装置において、前記演算部12には、周囲の温度,気圧若しくは空気の流速の変化による前記超音波の伝搬速度若しくは前記遅延時間の変動を補正する補正手段が設けられていることを特徴とする実長測定装置に係るものである。
【0008】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の実長測定装置において、前記第二体6には、前記測定対象物1の表面2の形状に応じて定まる次元数以上の個数の前記超音波検出部10が設けられていることを特徴とする実長測定装置に係るものである。
【0009】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の実長測定装置において、前記第一体5は、下端に前記なぞり部4が設けられ、また、下端側に前記赤外線送出部7と前記超音波送出部8とが近接して設けられていることを特徴とする実長測定装置に係るものである。
【0010】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の実長測定装置において、前記第一体5は、前記赤外線送出部7から繰返し送出される赤外線及び前記超音波送出部8から繰返し送出される超音波が夫々前記第一体5の軸芯線を中心として放射状に送出されるように構成されていることを特徴とする実長測定装置に係るものである。
【0011】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の実長測定装置において、前記なぞり部4の先端は、球面状に形成されていることを特徴とする実長測定装置に係るものである。
【0012】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の実長測定装置において、前記なぞり部4の先端には、転動自在な球体が設けられていることを特徴とする実長測定装置に係るものである。
【0013】
また、請求項1〜7いずれか1項に記載の実長測定装置において、前記なぞり部4は、筆記機能を有していることを特徴とする実長測定装置に係るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上述のように第一体の先端になぞり部を設け、このなぞり部の位置を赤外線と超音波との遅延時間差から確知し、なぞり部でなぞった経路の長さを求めるようにしたから、前述した従来例と異なり、手を持ち替えたり、手の方向を変えたり、手の中で軸回動して向きを変えたりする必要がなく、また、所定の経路を正確になぞることができ、従って、この経路からのずれを可及的に低減でき、よって、第一体のなぞり部で測定対象物の所定の表面をなぞるだけで正確な実長を簡単に求めることが可能な極めて実用的な実長測定装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施例に係る実長測定装置の使用例である。
【図2】本実施例に係る実長測定装置の動作説明図である。
【図3】本実施例に係る実長測定装置における経路の実長を求める方法の説明図である。
【図4】従来例に係る実長測定装置である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0017】
第一体5の握持部11を握持して、平面地図などの測定対象物1の所定の表面2をなぞり部4でなぞる際、この第一体5に備えられた赤外線送出部7から赤外線が繰り返し送出されると共に超音波送出部8から超音波が繰り返し送出される。
【0018】
この場合、例えば、この赤外線送出部7と超音波送出部8とから夫々赤外線と超音波とが繰り返し同時に送出されるようにすると、第二体6に設けられた赤外線受信部9で受信される赤外線に対して、該第二体6に複数設けられた超音波受信部10の夫々で受信される超音波は遅れて受信されることになる。
【0019】
そこで、演算部12で、赤外線受信部9で受信された赤外線に対する、複数の超音波受信部10の夫々で受信される超音波夫々の遅延時間差によって超音波送出部8から複数の超音波受信部10までの夫々の距離を算出できることになり、従って、第一体5の位置が特定され、この第一体5の位置の特定を、第一体5から送出された赤外線と超音波とを受信する毎に行い、第一体5の変化量を累積加算すると第一体5でなぞった経路3の長さを求めることができることになる。
【0020】
例えば、図1に示す二次元平面の場合で第二体6にはこの2次元平面と平行な横方向に二個の超音波送出部8を有する場合で説明する。まず、この二個の超音波送出部8の座標を(x,y),(x,y)とすると、次の式1及び2によって図1に示すX1及びX2の位置座標を求め、
【0021】
【数1】

【0022】
【数2】

【0023】
このX1とX2の位置座標を式3から位置の変化量を求めることができる。
【0024】
【数3】

【0025】
本実施例はこのように変化量を累積加算して所定の経路3の実長を求めている。
【0026】
次いで、この第一体5でなぞった経路3の長さと、例えば、測定対象物1の縮尺若しくは倍率とから経路3の実長を求めることができる。
【0027】
以上、第一体の先端になぞり部を設け、このなぞり部の位置を赤外線と超音波との遅延時間差から計測しなぞり部でなぞった経路3の実長を求めるようにしたから、第一体5のなぞり部4で測定対象物1の所定の表面2をなぞるだけで、経路3の曲がりが複雑で、急な湾曲部や折曲部があっても容易にその経路3の実長を求めることが可能であり、また、この場合、前述した従来例とは異なり、第一体5を握持する手を持ち替えたりする必要がなく、また、経路3からのずれも可及的に低減できることになるため簡易且つ正確な実長を求めることができる極めて実用的な実長測定装置となる。
【実施例】
【0028】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0029】
本発明は平面地図,立体地図,建築・設備・機械の設計図,ワーク等にも適用できるが、図1に示す本実施例は、平面地図を測定対象物1とし、この平面地図(以下、単に地図という)の所定の表面2をなぞって経路3の長さを求め、この経路3の実長を求める実長測定装置15である。
【0030】
本実施例の実長測定装置15は、手で握持して地図の表面をなぞるなぞり部4を先端に備えた第一体5と、この第一体5でなぞった経路3の長さから経路3の実長を求める第二体6とで構成され、この第二体6は、赤外線送出部7と超音波送出部8と演算部12とで構成されている。尚、この第二体6は、予め地図に対して固定した位置に配置される。
【0031】
具体的には、第一体5は、赤外線を繰返し送出する赤外線送出部7と超音波を繰返し送出する超音波送出部8とを備えた構成である。
【0032】
また、第二体6は、赤外線送出部7からの赤外線を受信する赤外線受信部9と超音波送出部8からの超音波を受信する複数の超音波受信部10とを有し、更に、赤外線受信部9で受信された赤外線に対して遅延する複数の超音波受信部10夫々で受信された超音波夫々の遅延時間差によって超音波送出部8から複数の超音波受信部10までの夫々の距離を求めて第一体5の位置を確知し、この第一体5の位置の確知を移動途時の第一体5から繰返し送出される赤外線と超音波とを受信する毎に行うことで第一体5の位置の変化を求め、この変化量を累積加算することで第一体5でなぞった経路3の長さを求め、この経路3の長さから該経路3の実長を求める演算部12とが設けられている。
【0033】
詳細には、第一体5は、ペン様の棒状体であって、握持部11の下端に、地図の表面をなぞるペン様のなぞり部4が設けられ、この握持部11の下端部に、赤外線を送出する赤外線送出部7と超音波を送出する超音波送出部8とが設けられて、赤外線と超音波とを繰返し略同時に送出するように制御されると共に、赤外線送出部7から送出される赤外線、及び、超音波送出部8から送出される超音波のいずれも、この第一体5の軸芯線を中心として略放射状に送出される構成である。
【0034】
また、握持部11の外面にこの第一体5の電源のオンオフを行う電源スイッチ19と、なぞり(即ち、トレース)の開始や終了を指定する測定スイッチ20とが設けられている。尚、他の構成でも勿論よく、この第一体5をノック式ボールペン状に構成して、例えば、電源スイッチ19をノック式ボールペン状のノック部に設けると共に、なぞり部4に押圧センサを設けて測定スイッチ20を構成し、所定押圧力の検出によってトレース開始若しくは終了を検知する構成でもよい。
【0035】
また、握持部11の下端側には、超音波送出部8が設けられ、また、赤外線送出部7は、この超音波送出部8の上側に出来るだけ超音波送出部8と近接して設けられている。超音波送出部8と赤外線送出部7との距離差に起因する誤差、及び、なぞり部4と超音波送出部8との距離差に起因する誤差を低減するためである。
【0036】
また、超音波送出部8は、第一体5の下端側に環状のセラミックス部材を備え、このセラミックス部材から超音波が第一体5の軸芯を中心にして放射状に送出されるように構成されている。
【0037】
また、この赤外線送出部7は、超音波送出部8より上部の近接位置に環状の樹脂部材を備えて、この樹脂部材から赤外線が第一体5の軸芯を中心にして放射状に送出されるように構成されている。
【0038】
更になぞり部4の位置を正確に確知するために、第一体5の下端側に設けた超音波送出部8に対して十分離れた位置、例えば、握持部11の上端側に第二超音波送出部を設けてもよい。このようにすると、超音波送出部8とこの第二超音波送出部とから超音波を順次送出して超音波受信部10で受信し、超音波送出部8と第二超音波送出部との位置を確知してこの両者の傾斜を求めてなぞり部4の位置を確知できるため、なぞり部4でなぞった経路の距離が正確に行われることになる。
【0039】
また、なぞり部4は、先端がボールペン様に先細に形成されると共に、この先端のなぞり面は球状に形成されて、地図や図面などを円滑になぞれるようにしている。
【0040】
従って、電源スイッチ19をオンして第一体5の握持部11を持ってペン様に形成された先細のなぞり部4を測定対象物1の所定の表面2に当て、所定の経路3上のトレース(なぞり)開始点に置いてから、測定スイッチ20をオンして経路3上をなぞると、この経路2の途中に、例えば、急な湾曲部分や折曲部分があっても、ボールペンのペン先のように滑らかに、しかも経路2を殆ど外れることなくなぞることができ、トレース(なぞり)終了点で測定スイッチ20をオフして終了するまでの距離及び誤差などの情報を簡単、正確に第二体6に送出できることになり、従って、従来のような測輪が不要であるため、経路3をなぞる方向を変える際に、第一体5を持つ手を持ち替えたり、第一体5の向きを変えたりする必要も無いから、経路3からのずれも可及的に低減できて、第一体5のなぞり部4を測定対象物1の所定の表面2の上をなぞるだけで手軽に経路3の実長を求めることができることになる。
【0041】
また、赤外線送出部7からの赤外線を受信する赤外線受信部9と超音波送出部8からの超音波を受信する複数の超音波受信部10とを有し、更に、赤外線受信部9で受信された赤外線に対して遅延する複数の超音波受信部10夫々で受信された超音波夫々の遅延時間差によって超音波送出部8から複数の超音波受信部10までの夫々の距離を求めて第一体5の位置を確知し、この第一体5の位置の確知を移動途時の第一体5から繰返し送出される赤外線と超音波とを受信する毎に行うことで第一体5の位置の変化を求め、この変化量を累積加算することで第一体5でなぞった経路3の長さを求め、この経路3の長さから該経路3の実長を求める演算部12とが設けられた構成である。
【0042】
また、上述の赤外線送出部7及び超音波送出部8からは赤外線及び超音波が同じ送出タイミングで、48msec毎に周期的に繰返し送出されるように構成している。この繰返し周期は、第一体5の移動速度若しくは演算部12の演算速度との関係から適切に設定された。
【0043】
この繰返し周期毎に、詳しくは、後述するが、例えば、図1に示す二次元平面の場合で第二体6にはこの2次元平面と平行な横方向に二個の超音波送出部8を有する場合で説明すると、図1に示す二次元平面の場合で第二体6にはこの2次元平面と平行な横方向に二個の超音波送出部8を有する場合で説明する。
【0044】
まず、この二個の超音波送出部8の座標を(x,y),(x,y)とすると、次の式4及び式5によって図1に示すX1及びX2の位置座標を求め、
【0045】
【数1】

【0046】
【数2】

【0047】
このX1とX2の位置座標を式3から位置の変化量を求めることができる。
【0048】
【数3】

【0049】
本実施例はこのように変化量を累積加算して所定の経路3の実長を求めている。
【0050】
詳細には、この演算部12には、周囲の温度,気圧若しくは空気の流速の変化による前記超音波の伝搬速度若しくは前記遅延時間の変動を補正する補正手段が設けられている。
【0051】
具体的には、計測した遅延時間差に基づいて、第一体5に設けた超音波送出部8から第二体6に設けた複数の超音波受信部10までの夫々の距離を算出して第一体5の位置を算出する際、超音波送出部8から超音波受信部10までの前記距離は、周囲の空気の温度,気圧、流速の変動による超音波の伝搬速度乃至遅延時間への影響が補正される。
【0052】
本実施例の第二体6は、この補正された距離を用いて、第一体5から送出される赤外線と超音波とを受信する毎に第一体5の位置の算出を行い、この算出した第一体5位置の変化の大きさを累積加算して第一体5でなぞった経路3の長さを算出し、この経路3の長さから該経路3の実距離を算出するように構成している。
【0053】
この距離の補正手段は、第二体6で測定対象物1の表面形状に応じて定まる次元数以上の個数の超音波検出部10が備えられて後述する式5の非線形連立方程式を数値解析することで、周囲の空気の温度,気圧,流速の変動による超音波の伝搬速度の変動乃至超音波遅延時間の変動を補正する。
【0054】
具体的には、測定対象物1が、2次元である平面地図1の場合、超音波検出部10が3個若しくは4個備えられ、また、測定対象物1が、3次元である立体地図1の場合、超音波検出部10が4個備えられることが必要である。本実施例では、超音波検出部10を4個備えた第二体6を用いて、2次元である平面地図1上の経路3の長さを計測している。
【0055】
本実施例はこのような個数の超音波検出部10を備え、更に演算部12は距離算出にあたり後述の補正手段が備えられることで、演算部12は、使用される環境条件、具体的には、温度変動,気圧変動,空気流などがあっても、超音波の伝達特性を補正した状態で、超音波送出部8から4個の超音波受信部10までの夫々の距離を算出でき、従って、第一体5の位置と正確に算出できることになり、この算出した第一体5の位置から経路3の長さを算出し、この長さと地図1の縮尺とから経路3の実距離を算出できることになる。
【0056】
本実施例の第二体6は、平坦な基準底面を備え、この基準底面に対して所定位置に赤外線受信部及び4個の超音波受信部10の夫々を設け、略直方体状のケース17に収容され、前記第一体5から送出された赤外線及び超音波の双方を受信できるように構成されている。
【0057】
また、4個の超音波受信部10同士は超音波の波長に対して可及的に十分に離間し、更に2個の超音波受信部10は基準底面に平行に設けると共に、超音波の波長に対し十分に離して配設して計測誤差を可及的に低減可能とした構成である。
【0058】
また、このケース17の上面に液晶表示部18を設けてこの液晶表示部18で距離などの計測結果を表示して直ちに確認できる構成である。
【0059】
以上、本実施例は上述のように構成したから、従来のような測輪が不要であるため、第一体5を持つ手を持ち替えたりする必要も無く、また、なぞり部4が滑らかに滑るように移動できるため測定対象物1の表面2を円滑になぞることができ、従って、設定した経路からのずれを可及的に低減でき、また、第一体5の先端で測定対象物の表面の上をなぞるだけで手軽に経路3の長さを算出して実距離を周囲の温度変動,気圧変動、風の影響を著しく低減して極めて正確な計測ができることになる。
【0060】
また、本実施例の第一体5は、なぞり部4の先端を球面状に形成したが、なぞり部4の先端に転動自在な球体を設けることでもよい。
【0061】
また、なぞり部4に筆記機能を備え、具体的には、内部にマーカインク溜めを備え、第一体5を測定対象物1の表面2に押圧するとマーカインク溜めからマーカインクが出るようにして、地図上にマーカを塗って測定済みの個所を確認できるように構成してもよい。または、なぞり部4にシャープペンシルの芯を設けた構成とすることで地図上の測定済みの個所を確認できる構成にしてもよい。
【0062】
次に、本実施例の実長測定装置15において、第一体5で地図1をなぞった際に第二体6がこの第一体5の位置を算出して経路の実距離を算出する距離算出手順を以下に説明する。この距離算出手順は、第二体6の演算部12に備えられ、また、上述の補正手段を含んでいる。
【0063】
第一体5の先端部分に設けた赤外線送出部7と超音波送出部8とから予め定めた一定周期Tで同じタイミングで赤外線と超音波とが送出される。
【0064】
第一体5からは赤外線と超音波とが略一様に周囲に放射されて、近傍に配置された第二体6の赤外線受信部9及び超音波受信部10の夫々で検出される。
【0065】
第二体6は、赤外線受信部9が1個備えられているのに対して、超音波受信部10は4個備えられている。
【0066】
ここで、算出すべき第一体5の位置の座標を(x,y,z)とし、第二体6の4個の超音波検出部10夫々の座標を(xi,yi,zi)とする。但し、iは4個の超音波検出部10夫々に付与した1〜4の番号である。
【0067】
また、赤外線は略光速で伝搬するのに対して、超音波は低速であり、赤外線と超音波とを同時に送出すると、赤外線は瞬時に受信されるのに対して超音波は遅れて受信されるから、赤外線に対して遅延する受信超音波夫々の遅延時間(Δτ)を、第一体5のなぞり部4から第二体6の4個の超音波受信部10夫々に伝播するのに要した時間と見なすことができることになる。
【0068】
従って、第一体5の超音波送出部8の位置(x,y,z)から第二体6の4個の超音波受信部10夫々の位置(xi,yi,zi)までの距離rは、超音波速度をv(m/s)として、
【0069】
【数4】

【0070】
と表せるから、第一体5の位置(x,y,z)は、第二体6の4個の超音波検出部10夫々の位置(xi,yi,zi)を中心とする、半径rの距離に存在する三次元空間の点で表せることになり、
【0071】
【数5】

【0072】
の関係があることになる。
【0073】
従って、例えば、超音波受信部10が3個(N=3)で、超音波速度が常に一定であれば、この式から第一体5の座標を(x,y,z)を決定することができることになる。
【0074】
ところが、この超音波速度v(m/s)は、静止した空気中であっても概ね、
【0075】
【数6】

【0076】
で表せることから分かるように温度依存性があり、更に、実際には、気圧変化や空気の流れなどによる局所的な密度変動などがある場合には更に超音波速度が変動するため、この超音波音速は、一定と見なすことは適当でなく、しかも、この超音波速度は簡単に管理できるパラメータではない。
【0077】
そのため、本実施例は、この温度などで変動し得る分を補正量δとし、この補正量δを算出できるようにするため、超音波受信部10を4個設けて第一体5の座標(x,y,z)と補正量δとを同時に算出できるようにしたものである。
【0078】
即ち、式4〜式6から、
【0079】
【数7】

【0080】
となるから、
【0081】
【数8】

【0082】
となる非線形連立方程式を解いて解(x,y,z,δ)を求めることによって、第一体5の位置(x,y,z)を算出できるようにしたものである。
【0083】
式8のような非線形連立方程式は、例えば、ニュートン・ラフソン法などによって近似解を得ることができる。
【0084】
具体的には、式8の初期の近似解を(x',y',z',δ')、補正値の解の組を(Δx,Δy,Δz,Δδ)とすると、
【0085】
【数9】

【0086】
の関係があり、式7のfを(x',y',z',δ')の周りに1次のテイラー展開すると、
【0087】
【数10】

【0088】
になるから、i=1〜4について纏め、f(x',y',z',δ')=0とすると、
【0089】
【数11】

【0090】
の線形連立方程式が得られる。
【0091】
従って、補正値の解の組(Δx,Δy,Δz,Δδ)は、
【0092】
【数12】

【0093】
で表せることになり、一回目の近似解(x,y,z,δ)は
【0094】
【数13】

【0095】
で表せることになる。
【0096】
このようにして得た(x,y,z,δ)を次の近似解(x',y',z',δ')として、同様にして式10から新たな近似値(x,y,z,δ)を得る。以下、この操作を繰返し、補正値の解の組(Δx,Δy,Δz,Δδ)が十分小さくなった時点で計算を打ち切って最終的な近似解(x,y,z,δ)を得ている。
【0097】
こうして経路3上の任意の各位置(即ち、一定周期T毎に測定した際のj番目の位置)における解(x,y,z,δ)を逐次近似して得ることができる。同様に、(j+1)番目の位置における解(xj+1,yj+1,zj+1,δj+1)を得る。
【0098】
次いで、(j+1)番目の位置とj番目の位置との差分を算出して位置の変化量を算出し、この変化量の大きさを累積加算すると経路3の長さLを算出できる。
【0099】
【数14】

【0100】
但し、jは、経路3上の第一体5の位置を一定周期T毎に測定した回数の順序番号である。
【0101】
次いで、この経路3の長さLに地図の縮尺を掛けて実距離を算出する。
【0102】
第二体6の演算部12は、以上の距離算出手段を備えて、赤外線受信部9で受信された赤外線に対して複数の超音波受信部10夫々で受信される超音波の遅延時間差Δτiを測定して、第一体5に設けられた超音波送出部8から、複数夫々の超音波受信部10との間を伝播する超音波の速度を補正する補正量δjと、経路3上の任意の位置における第一体5の位置(xj,yj,zj)とを算出して、第一体5を移動させた際の経路3の長さLを求め、次いで、地図の縮尺とから経路3の実距離を算出し、第二体6の表示部に表示させている。
【0103】
本実施例では、補正量を上述のδの値を用いたが、(1+δ)=kとしてこの係数kを補正量としてもよいし、(1+δ)・v0=vとして、この速度vそのものを補正量として扱ってもよい。
【0104】
尚、測定対象物1が2次元の場合、第二体6に設ける超音波検出部10の個数が2個若しくは3個の場合には、式4、5による第一体5の位置座標若しくは補正量の決定は幾何学的且つ解析的に行え、上述のニュートン・ラフソン法のように各位置毎に多数回の繰返し計算を行わずに済むため極めて容易な計算で済み、従って、演算部12における演算処理量を著しく低減できる。
【0105】
また、更に、第一体5をトレースする計測開始に先立って実長測定装置15の校正を行う校正手順を設けて、使用環境と同様な環境条件の下で第二体6に対して第一体5を予め定めた位置に配設させた状態で上述の補正量δを決定し、この補正量δを決定後は校正手順を解除し、次いで、上記計測手順に基づいて、第一体5をなぞった線長の長さを計測するようにしてもよい。
【0106】
また、補正量の算出を行わず、例えば、使用温度を室温に限定し、且つ、測定対象物1が平面の地図1や設計設備図面の場合、この測定対象物1は2次元であるから、超音波検出部10は2個備えれば十分であり、測定対象物1が立体形状の地形図1の場合、測定対象物1は3次元であるから、超音波検出部10は3個を備えれば十分であることも勿論である。
【0107】
また、本実施例では、地図1は所定の縮尺で縮小されたものであるが、所定の倍率で拡大された図面であってもよい。
【符号の説明】
【0108】
1 測定対象物
2 表面
3 経路
4 なぞり部
5 第一体
6 第二体
7 赤外線送出部
8 超音波送出部
9 赤外線受信部
10 超音波受信部
11 握持部
12 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面地図,立体地図,設計図,ワークなどの測定対象物の所定の表面をなぞり、このなぞった経路の長さから該経路の実長を求める実長測定装置であって、握持部の先端になぞり部を備え移動する第一体と、この第一体のなぞり部でなぞった前記測定対象物の前記経路の長さから前記経路の実長を求める第二体とで構成され、前記第一体には、赤外線を繰返し送出する赤外線送出部と超音波を繰返し送出する超音波送出部とが設けられ、また、前記第二体は、前記赤外線送出部からの赤外線を受信する赤外線受信部と前記超音波送出部からの超音波を受信する複数の超音波受信部とを有し、更に、前記赤外線受信部で受信された赤外線に対して遅延する複数の前記超音波受信部夫々で受信された超音波夫々の遅延時間差によって前記超音波送出部から複数の前記超音波受信部までの夫々の距離を求めて前記第一体の位置を確知し、この第一体の位置の確知を移動途時の前記第一体から繰返し送出される赤外線と超音波とを受信する毎に行い、この第一体の位置の変化量を累積加算することで前記第一体でなぞった経路の長さを求め、この経路の長さから該経路の実長を求める演算部とが設けられていることを特徴とする実長測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の実長測定装置において、前記演算部には、周囲の温度,気圧若しくは空気の流速の変化による前記超音波の伝搬速度若しくは前記遅延時間の変動を補正する補正手段が設けられていることを特徴とする実長測定装置。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の実長測定装置において、前記第二体には、前記測定対象物の表面の形状に応じて定まる次元数以上の個数の前記超音波検出部が設けられていることを特徴とする実長測定装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の実長測定装置において、前記第一体は、下端に前記なぞり部が設けられ、また、下端側に前記赤外線送出部と前記超音波送出部とが近接して設けられていることを特徴とする実長測定装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の実長測定装置において、前記第一体は、前記赤外線送出部から繰返し送出される赤外線及び前記超音波送出部から繰返し送出される超音波が夫々前記第一体の軸芯線を中心として放射状に送出されるように構成されていることを特徴とする実長測定装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の実長測定装置において、前記なぞり部の先端は、球面状に形成されていることを特徴とする実長測定装置。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか1項に記載の実長測定装置において、前記なぞり部の先端には、転動自在な球体が設けられていることを特徴とする実長測定装置。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の実長測定装置において、前記なぞり部は、筆記機能を有していることを特徴とする実長測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−32316(P2012−32316A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173230(P2010−173230)
【出願日】平成22年7月31日(2010.7.31)
【出願人】(505384438)株式会社小泉測機製作所 (1)
【Fターム(参考)】