説明

密封型ロールネック軸受

【課題】取付け剛性が高く、ロールネック部に対する組付け性に優れ、且つ高いシール性能を有する密封型ロールネック軸受を提供する。
【解決手段】密封型ロールネック軸受40は、一対の内輪43,44の突き合わせ部の外周面43d,44dに装着されたシール装置51を備える。シール装置51は、内周面に嵌合部54及びラジアルリップ部55を備える弾性シール部材53と、少なくとも嵌合部54の径方向外方を覆うように設けられた芯金52とを有し、嵌合部54を一方の内輪外周面43dに嵌合させることによってシール装置51に高い取付け剛性を付与すると共に、ラジアルリップ部55を他方の内輪外周面44dに摺接させることにより、両内輪43,44の偏芯に追従させて高いシール性能を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封型ロールネック軸受に関し、より詳細には、例えば、鉄鋼設備の圧延機に使用される優れたシール性能を有する密封型ロールネック軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼設備の熱間圧延機や冷間圧延機に使用される密封型ロールネック軸受(4列円錐ころ軸受)1は、図9に示すように、外輪2及び複列外輪3と、一対の複列内輪4と、外輪2と複列内輪4、及び複列外輪3と複列内輪4間に転動自在に配設された複数の円錐ころ5とを備え、複列内輪4がロール6のロールネック部7にすきまばめ(ルーズフィット)されて使用される。一対の複列内輪4の軸端側の一端には、内輪押え部材であるフィレットリング8が配置されて複列内輪4の軸方向の位置決めを行う。フィレットリング8の内周面には、Oリングなどのシール9が配設されてロールネック部7の外周面との間をシールしている。
【0003】
チョック(ハウジング)10の軸側端部とフィレットリング8、及びチョック10のロール側端部とロールネック部7との間には、それぞれチョックシール11、12が配置されている。また、それぞれの外輪2の外方側部には、チョック10の内周面との間がOリング13でシールされたシールホルダー14が設けられており、シールホルダー14に固着されるオイルシール15が、複列内輪4の外周面に摺接して密封型ロールネック軸受1がシールされる。
【0004】
このような密封型ロールネック軸受1は、大きな荷重が作用すると共に、周囲がスケール圧延水に覆われた大変過酷な使用環境で使用される。そのため、Oリング9やチョックシール11、12が損傷を受けると、複列内輪4の内周面側から密封型ロールネック軸受1内に水、異物などが浸入する場合があり、軸受寿命が短くなる虞がある。従って、両端に備わるシール部材(Oリング9やチョックシール11、12)の耐久性が課題として挙げられ、ゴム材料の耐熱性向上、リップ形状設計などの改良により、軸受内への水、異物などの浸入に対する改善がなされてきている。
【0005】
一方、密封型ロールネック軸受1の複列内輪4は、ロールネック部7とルーズフィットし、フィレットリング8により軸方向位置決めがされているが、フィレットリング8の内周面に設けられたシール9は、メンテナンスなどのためにロールネック部7からの着脱が繰り返されることで破損する可能性がある。シール9が損傷を受けると、軸端側からルーズフィットしている嵌め合い面を通じて水、異物などが浸入し、一対の複列内輪4の突合せ面から密封型ロールネック軸受1内にも浸入してしまう虞がある。そのため、密封型ロールネック軸受1は、複列内輪4端部の突合せ部にもシール装置(中間シール)16を備えて水などの浸入防止を図った構造が一般的に採用されている。
【0006】
また近年の軸受周りの設計構造としては、フィレットリング8の着脱容易性が求められており、フィレットリング8にシール9を備えない構造なども増えてきている。そのため、フィレットリング8の内周面を通過して複列内輪4の内周面(ロールネック部7との嵌め合い面)に浸入する圧延水量も増える傾向にあり、シール装置16には、更に高い密封性能が求められるようになっている。
【0007】
このような密封型ロールネック軸受のシール装置としては、種々の構造が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)
【0008】
特許文献1に記載の圧延機のロールネック用軸受のシール装置20は、図10に示すように、芯金21と弾性シール部材22とを備え、内輪23、24の環状段部に装着されている。弾性シール部材22は、その内周面に設けられた2つの径方向突起(ラジアルリップ部)26、27と、両側面に設けられた2つの軸方向突起28、29とを有する。径方向突起26、27は、内輪23、24の小径端部外周面23a、24aと摺接し、軸方向突起28、29は、内輪23、24の大径部端面23b、24bと摺接して、内輪23、24の突き合わせ面25から浸入する水や異物をシールする。
【0009】
特許文献2に記載の密封四列円錐ころ軸受のシール装置30は、図11に示すように、互いに軸方向で向かい合う一対の内輪31、32の突き合せ部の周囲に配置されている。シール装置30では、合成樹脂製の環状のシール部材33の外周側に芯金35が一体に設けられ、内周側に一対の環状リブ(ラジアルリップ部)34が形成されている。環状リブ34は、内輪31、32の延長部の外周面31a、32aに摺接して、内輪31、32の接合部をシールする。
【特許文献1】特開2002−178013号公報
【特許文献2】特開平6−17824号公報
【特許文献3】特開昭55−47017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、図10、図11に示すシール装置20,30は、金属製の芯金21,35と一体成型された弾性シール部材のラジアルリップ部26,27,34を、内輪23,24,31,32の外周面に摺接させてシールする構造を有しており、シール装置20,30に内輪23,24,31,32を挿入する作業の際、多少の心ズレが生じても、シール内径のリップに沿って内輪23,24,31,32が挿入されるため、組立性が比較的よい特徴を有する。その一方、ラジアルリップ部26,27,34のみで内輪端部の突合せ部外周面に取付くため、シール装置20,30の取付け剛性が低い問題がある。このため、特に圧延機の圧延速度が1800mpmを越えるような高速で圧延される場合、内輪23,24,31,32と共回り(シール嵌合面は殆ど摺動しない)するシール装置20,30に遠心力や振動が作用すると、ラジアルリップ部26,27,34の挙動が生じて、ラジアルリップ部26,27,34と内輪外周面との接触状態が不安定となり、シール性能が低下するという問題がある。
【0011】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、取付け剛性が高く、ロールネック部に対する組付け性に優れ、且つ高いシール性能を有する密封型ロールネック軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)複数の外輪と、
複数の内輪と、
該外輪と該内輪との間に配置される複数のころと、
互いに突き合うように配置される前記内輪の両端部の周囲に配置されて、芯金及び弾性シール部材を有するシール装置と、
を備える密封型ロールネック軸受であって、
前記弾性シール部材の内周面は、前記両端部の一方の外周面と嵌合する嵌合部と、前記両端部の他方の外周面と摺接するラジアルリップ部を有し、
前記芯金は、前記弾性シール部材の外周側で、前記嵌合部の径方向外方を少なくとも覆うことを特徴とする密封型ロールネック軸受。
(2) 前記ラジアルリップ部の内径は、前記嵌合部の内径より小さいことを特徴とする(1)に記載の密封型ロールネック軸受。
(3) 前記嵌合部は、略一様な内径を持った平坦状に形成され、
前記芯金の一端は、軸方向において、前記両端部の突き合せ面と前記ラジアルリップ部との間に位置することを特徴とする(1)又は(2)に記載の密封型ロールネック軸受。
(4) 前記嵌合部は、軸方向において略対称な曲面状に形成され、
前記芯金の一端は、軸方向において、前記両端部の突き合せ面と前記ラジアルリップ部との間に位置することを特徴とする(1)又は(2)に記載の密封型ロールネック軸受。
(5) 前記嵌合部は、前記ラジアルリップ部と反対側に拡径するテーパ形状に形成され、
前記芯金の一端は、軸方向において、前記ラジアルリップ部を越えて延出することを特徴とする(1)又は(2)に記載の密封型ロールネック軸受。
【発明の効果】
【0013】
本発明の密封型ロールネック軸受によれば、突き合わせ配置される内輪の両端部に配置されるシール装置は、内周面に嵌合部及びラジアルリップ部を備える弾性シール部材と、弾性シール部材の外周側で、嵌合部の径方向外方を少なくとも覆う芯金とを有する。そして、嵌合部を一方の内輪外周面に嵌合させることによって、シール装置に高い取付け剛性を持たせて耐久性を向上させる。また、ラジアルリップ部を他方の内輪外周面に摺接させることにより、両内輪の偏芯に追従させて、高速回転時にシール装置に遠心力や振動が作用しても高いシール性能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る密封型ロールネック軸受の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態の密封型ロールネック軸受の要部縦断面図、図2(a)は図1における円IIで囲まれた部分の拡大図、図2(b)は、シール装置単品の要部断面図、図3は図2に示すシール装置が取り付けられた状態の断面図である。
【0016】
図1に示すように、第1実施形態の密封型ロールネック軸受(密封型4列円錐ころ軸受)40は、一対の外輪41及び複列外輪42と、一対の複列内輪43,44と、外輪41と複列内輪43,44、及び複列外輪42と複列内輪43,44間に4列に配設され、保持器46によって回動自在に保持された複数の円錐ころ45とを備える。
【0017】
軸方向中央に配置された複列外輪42と、その軸方向両側に配置された外輪41との間には、外輪間座47がそれぞれ配置されて一対の外輪41及び複列外輪42の軸方向の位置決めがなされる。また、外輪41の軸方向外側には、オイルシール49を内蔵する円環状のシールホルダー48が配置され、複列内輪43,44から軸方向外方に延設された小径部43a,44aの外周面との間をオイルシール49によってシールしている。また、シールホルダー48の外周面には、Oリング50が装着されて、図示しないチョックとの間を封止する(図9参照)。
【0018】
図2も参照して、互いに突き合うように配置される一対の複列内輪43,44の両端部である肩部は、それぞれ段付形状に形成されており、軸方向内方に延設された小径端部43b,44bの突き合せ面43c,44c同士が互いに突き合うように配置されている。小径端部43b,44bの外周面側には、シール装置51が配設されている。シール装置51は、例えば、金属によってリング状に成形され、断面略L字状に折り曲げ形成された芯金52と、該芯金52に一体に成形された円環状の弾性シール部材53とを有する。弾性シール部材53の材料としては、特に限定されないが、弾性の大きなゴム系材料、例えばニトリル系ゴム、アクリル系ゴム、フッ素系ゴム等が使用される。
【0019】
弾性シール部材53の内周面には、略一様な内径を持った平坦状に形成された嵌合部54と、径方向内方に突出して形成されたラジアルリップ部55とが、軸方向に並んで形成されている。ラジアルリップ部55の内径D2は、嵌合部54の内径D1より僅かに小さくなっている(D2<D1)。
【0020】
シール装置51は、嵌合部54が一方の複列内輪43(図2においては左側の複列内輪)の小径端部43bの外周面43dに嵌合し、ラジアルリップ部55が他方の複列内輪44(図2においては右側の複列内輪)の小径端部44bの外周面44dに締め代を持って嵌合する。ラジアルリップ部55は、一定の締め代を持って他方の複列内輪44の小径端部44bの外周面44dに摺接する。
【0021】
芯金52は、弾性シール部材53の外周側に設けられ、径方向内向きフランジ部52aの外周側から軸方向に延び、その一端(図中右端部)52bは、軸方向において小径端部43b,44bの突き合せ面43c,44cとラジアルリップ部55との間に位置する。即ち、芯金52は、嵌合部54の径方向外方を覆うように形成され、ラジアルリップ部55の径方向外方には設けられていない。
【0022】
このようなシール装置51の軸受への組付けは、先ず、装着用治具(例えば、当て木、円環リング等)を用いて軟質のハンマー等で叩いてシール装置51の嵌合部54を一方の複列内輪43の小径端部43bの外周面43dに圧入する。略一様な内径を持って平坦状に形成された嵌合部54が外周面43dに圧入されることによって、シール装置51は取付け剛性が高い状態で取り付けられる。次いで、ラジアルリップ部55に他方の複列内輪44の小径端部44bの外周面44dを嵌合させる。この嵌合に要する力は、複列内輪44の自重程度の弱い力で嵌合可能である。
【0023】
また、ラジアルリップ部55は、適度の締め代を持って小径端部44bの外周面44dに嵌合するので、両複列内輪43,44の外周面43d、44dが多少偏芯していても、これに容易に追従することができ、シール性能が良好に維持される。またこの時、ラジアルリップ部55は締め代を持って嵌合するため、弾性を有するラジアルリップ部55が弾性変形する。
【0024】
従って、図3(b)に示すように、芯金52が嵌合部54及びラジアルリップ部55の全長に亘って径方向外方を覆うように形成されていると、芯金52や弾性シール部材53の構成、ラジアルリップ部55の締め代の大きさ等によっては、ラジアルリップ部55の弾性変形によってシール装置51全体が図中破線で示すように変形した取付け状態となり、嵌合部54での取付け剛性が若干低下する可能性がある。一方、本実施形態のシール装置51は、芯金52がラジアルリップ部55の径方向外方には設けられていないので、図3(a)に破線で示すように、ラジアルリップ部55近傍のみが局部的に弾性変形(膨らむ)し、嵌合部54での取付け剛性に影響を及ぼすことが防止される。
【0025】
以上説明したように、本実施形態の密封型ロールネック軸受40によれば、シール装置51は、嵌合部54が一方の複列内輪43の外周面43dに圧入されて取り付けられるので、シール装置51が高い取付け剛性を有する。また、他方の複列内輪44の外周面44dには、締め代を有するラジアルリップ部55が嵌合するので、両外周面43d、44dが多少偏芯していても、これに追従することができ、高いシール性能が確保される。さらに、シール装置51を複列内輪44に挿入する際の作業性も良好となる。
【0026】
また、ラジアルリップ部55の内径D2が、嵌合部54の内径D1より小さいので、ラジアルリップ部55が複列内輪44の外周面44dに大きな締め代を持って嵌合し、両複列内輪43,44の偏芯に対してラジアルリップ部55を追従させて、より高いシール性能が得られる。
【0027】
さらに、嵌合部54が、略一様な内径を持った平坦状に形成され、芯金52の一端52bは、軸方向において、小径端部43b,44bの突き合せ面43c、44cとラジアルリップ部55との間に位置するようにしたので、複列内輪44の外周面44dとラジアルリップ部55との嵌合によって生じるラジアルリップ部55の弾性変形が、嵌合部54の取付け剛性に影響を及ぼすことが抑制され、嵌合部54での複列内輪43との確実な嵌合によってシール装置51は高い取付け剛性を確保することができる。
【0028】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の密封型ロールネック軸受に装着されるシール装置について図4を参照して説明する。図4は本発明の第2実施形態であるシール装置が装着された密封型ロールネック軸受の要部拡大断面図である。尚、本実施形態は、シール装置の嵌合部の形状が第1実施形態と異なるのみで、それ以外の構成は、第1実施形態のものと同様であるので、同一部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
【0029】
第2実施形態のシール装置51の弾性シール部材53は、内方に突出する、軸方向において略対称な曲面状に形成された嵌合部54と、径方向内方に突出して形成されたラジアルリップ部55とが、軸方向に並んで形成されており、嵌合部54が一方の複列内輪43の小径端部43bの外周面43dに嵌合し、ラジアルリップ部55が他方の複列内輪44の小径端部44bの外周面44dに一定の締め代を持って摺接する。
【0030】
芯金52の一端52bは、軸方向において、小径端部43b,44bの突き合せ面43c,44cとラジアルリップ部55との間に位置する。即ち、芯金52は、嵌合部54の径方向外方のみを覆うように形成され、ラジアルリップ部55の径方向外方には設けられていない。このように、嵌合部54の断面形状を緩やかなR形状とすることにより、外周面43dとの嵌合面積を大きくして高い取付け剛性を確保すると共に、外周面43dの挿入を容易にして組付け性の向上が図られている。
【0031】
従って、本実施形態の密封型ロールネック軸受40では、嵌合部54は、軸方向において略対称な曲面状に形成され、芯金52の一端は、軸方向において、小径端部43b,44bの突き合せ面43c,44cとラジアルリップ部55との間に位置するようにしたので、複列内輪44の外周面44dとラジアルリップ部55との嵌合によって生じるラジアルリップ部55の弾性変形が、嵌合部54の取付け剛性に影響を及ぼすことが抑制でき、嵌合部54での複列内輪43との確実な嵌合によってシール装置の高い取付け剛性を確保することができる。
その他の構成及び効果は、第1実施形態の密封型ロールネック軸受40と同様であるので説明を省略する。
【0032】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の密封型ロールネック軸受に装着されるシール装置について図5を参照して説明する。図5は本発明の第3実施形態であるシール装置が装着された密封型ロールネック軸受の要部拡大断面図である。尚、本実施形態は、シール装置の嵌合部の形状が第1実施形態と異なるのみで、それ以外の構成は、第1実施形態のものと同様であるので、同一部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
【0033】
第3実施形態のシール装置51の弾性シール部材53は、図5に示すように、その内周面にテーパ形状の嵌合部54と、径方向内方に突出して形成されたラジアルリップ部55とを備える。嵌合部54は、ラジアルリップ部55と反対側に拡径し、角度θのテーパ形状に形成されている。また、芯金52は、径方向内向きフランジ部52aから軸方向に延び、その一端52bは軸方向においてラジアルリップ部55を越えて延出して形成されている。即ち、芯金52は、嵌合部54及びラジアルリップ部55に亘って、径方向外方を覆うように形成されている。
【0034】
このようなシール装置51は、テーパ形状の嵌合部54が一方の複列内輪43の外周面43dに嵌合し、ラジアルリップ部55が他方の複列内輪44の外周面44dに締め代を持って挿入される。このとき、他方の複列内輪44の外周面44dと嵌合するラジアルリップ部55の弾性変形によって、図5(b)に破線で示すように、シール装置51の取付状態が変化して、テーパ形状の嵌合部54の略全面が一方の複列内輪43Aの外周面43dに接触する。これにより、嵌合部54が広い面積で外周面43dと嵌合するので、シール装置51は取付け剛性が高められた状態で取り付けられる。また、嵌合部54がテーパ形状に形成されているので、複列内輪43と容易に嵌合させることができ、組付け性能により優れたものとなる。
【0035】
従って、本実施形態の密封型ロールネック軸受40では、嵌合部54は、ラジアルリップ部55と反対側に拡径するテーパ形状に形成され、芯金52の一端52bは、軸方向において、ラジアルリップ部55を越えて延出するようにしたので、ラジアルリップ部55を複列内輪44の外周面44dに嵌合させたときのラジアルリップ部55の弾性変形の力により、シール装置51の取付け状態を変化させてテーパ状の嵌合部54の略全面を内輪外周面43dに接触させ、これによりシール装置51に高い取付け剛性を付与することができる。また、嵌合部54を複列内輪43に容易に嵌合させることができるので、組付け性能のより優れたものとなる。
その他の作用及び効果は、第1実施形態の密封型ロールネック軸受40と同様であるので説明を省略する。
【0036】
尚、本発明は、前述した各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、本発明のシール装置は、互いに突き合わされる複数の内輪の両端部の周囲に配置されればよく、両端部である両方の肩部が段付形状を有しない構成であってもよい。また、本発明は、ころとして円筒ころを備えた密封形ロールネック軸受であってもよい。
【実施例】
【0037】
本発明の効果を確認するため、図8(a)及び(b)に示す本発明のシール装置と、図8(c)に示す従来のシール装置とを用いて、シール性能について2つの試験を行った。
【0038】
図6はシール装置のシール性能を試験するためのシール性能試験装置の概略構成図、図7は回転時におけるシール装置のラジアル振れ量試験装置の概略構成図、図8(a)〜(c)は本シール性能試験に用いた各シール装置の断面図である。尚、図8(a)に示す実施例1のシール装置は、第1実施形態で説明したものと同一構成を有し、図8(b)に示す実施例2のシール装置は、第2実施形態で説明したものと同一構成を有する。
【0039】
実施例及び比較例ともに、嵌合部54及びラジアルリップ部55が嵌合する複列内輪43,44の外周面43d,44dの直径は310mmである。図8(a)に示す実施例1、及び図8(b)に示す実施例2の嵌合部54の締め代は0.4mm、ラジアルリップ部55の締め代は0.8mmである。また、図8(c)に示す比較例の嵌合部54及びラジアルリップ部55の締め代は、共に0.8mmである。
【0040】
先ず、図6に示すシール性能試験装置60によるシール性能試験について説明する。シール性能試験装置60では、支持軸受61によって支持され、モータ62によって回転駆動される回転軸63の外周面に、密封型ロールネック軸受の一対の内輪を模した第1リング64及び第2リング65が、端面同士が突き合わされて嵌合している。第1リング64と第2リング65の互いに突き合わされる両端部64a,65aの外周面には、試験対象物であるシール装置51が装着される。また、第1リング64及び第2リング65とハウジング66との間で、シール装置51の両側には、一対のオイルシール67が配置されている。供給源(ポンプ)68から供給される所定量の水は、ロータリジョイントを介して回転軸62の内部に設けられた水供給路69を通過して、両端部64a,65aの突き合せ面に向けて補給される。補給された水のうち、第1リング63及び第2リング64の内周面から逃がされた水は、容器70によって回収され、シール装置51を通過した水は、ハウジング66の下方に設けられた容器71によって回収される。
【0041】
本シール性能試験では、実施例及び比較例ともに、所定の回転数(750rpm、1000rpm、1300rpm、1600rpmの4条件)で第1リング64及び第2リング65を回転軸63と共に回転させながら、供給源68から両端部64a,65aに50cc/minの割合で水道水を間欠補給して5時間の試験を行った後、シール装置51から漏れて容器71に溜った水量を計測してシール性能の評価を行った。尚、試験はそれぞれ2回ずつ行い、その試験結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から分かるように、比較例のシール装置においては、略1300rpm付近に変極点が見られ、それ以上の高速域で漏れ量が増大している。これに対して、本発明のシール装置(実施例1、2)51は、いずれも低速域から高速域までの全領域に亘って水漏れ量が少なく、優れたシール性能を有することが分かる。
【0044】
次に、上記の結果を検証するため、図7に示すラジアル振れ量試験装置80により、シール装置の回転速度とラジアル方向振れとの相関関係を測定した。ラジアル振れ量試験装置80は、所定の回転数で回転する第1リング64と第2リング65の両端部64a,65aの外周面に装着されたシール装置51の芯金52の外周側に、φ5mの渦電流センサ81を取付け、回転時における芯金52のラジアル方向振れ量を測定した。試験結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から分かるように、実施例、比較例共に低速域での振れは、芯金52の真円度(精度)に起因するものであり、回転に伴う振れの変化は、1300rpm以上の高速域において見られる。特に、比較例のシール装置の振れは、1300rpm以上の回転数で増加する傾向があるのに対して、実施例1,2のシール装置51の振れの増大は少なく、シール性能試験装置60によるシール性能試験結果とよく一致することが確認された。
【0047】
比較例と実施例の試験結果に差が生じた原因は、比較例のシール装置は、2点のラジアルリップ部のみで第1リング64と第2リング65に支持されているので取付け剛性が不足し、高速域での遠心力の作用によってシール装置の振れ廻りが生じてシール性能が低下したものと考えられる。
【0048】
以上の試験結果から、本発明の密封型ロールネック軸受は、高速回転においても、内輪への取付け剛性が高められ、互いに突き合わされる内輪間で生じる偏芯にも追従して、高いシール性を確保できることが確認された。また、これによって、過酷な条件で使用される圧延装置のロールネック軸受として、長期間に亘って安定した性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1実施形態の密封型ロールネック軸受の要部縦断面図である。
【図2】図1における円Aで囲まれた部分の拡大図(a)、及びシール装置の要部断面図(b)である。
【図3】図2に示すシール装置が取り付けられた状態の断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態であるシール装置が装着された密封型ロールネック軸受の要部拡大断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態であるシール装置が装着された密封型ロールネック軸受の要部拡大断面図である。
【図6】シール装置のシール性能を試験するシール性能試験装置の概略構成図である。
【図7】回転時におけるシール装置のラジアル振れ量試験装置の概略構成図である。
【図8】(a)〜(c)は比較試験に用いたシール装置の断面図である。
【図9】ロールネック部に装着された従来の密封型ロールネック軸受の縦断面図である。
【図10】一対の内輪に取り付けられた従来のシール装置の縦断面図である。
【図11】一対の内輪に取り付けられた他の従来のシール装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0050】
40 密封型ロールネック軸受
41 外輪
42 複列外輪(外輪)
43,44 複列内輪(内輪)
43c,44c 突き合せ面
43d,44d 外周面
45 円錐ころ(ころ)
51 シール装置
52 芯金
53 弾性シール部材
54 嵌合部
55 ラジアルリップ部
D1 嵌合部の内径
D2 ラジアルリップ部の内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の外輪と、
複数の内輪と、
該外輪と該内輪との間に配置される複数のころと、
互いに突き合うように配置される前記内輪の両端部の周囲に配置されて、芯金及び弾性シール部材を有するシール装置と、
を備える密封型ロールネック軸受であって、
前記弾性シール部材の内周面は、前記両端部の一方の外周面と嵌合する嵌合部と、前記両端部の他方の外周面と摺接するラジアルリップ部を有し、
前記芯金は、前記弾性シール部材の外周側で、前記嵌合部の径方向外方を少なくとも覆うことを特徴とする密封型ロールネック軸受。
【請求項2】
前記ラジアルリップ部の内径は、前記嵌合部の内径より小さいことを特徴とする請求項1に記載の密封型ロールネック軸受。
【請求項3】
前記嵌合部は、略一様な内径を持った平坦状に形成され、
前記芯金の一端は、軸方向において、前記両端部の突き合せ面と前記ラジアルリップ部との間に位置することを特徴とする請求項1又は2に記載の密封型ロールネック軸受。
【請求項4】
前記嵌合部は、軸方向において略対称な曲面状に形成され、
前記芯金の一端は、軸方向において、前記両端部の突き合せ面と前記ラジアルリップ部との間に位置することを特徴とする請求項1又は2に記載の密封型ロールネック軸受。
【請求項5】
前記嵌合部は、前記ラジアルリップ部と反対側に拡径するテーパ形状に形成され、
前記芯金の一端は、軸方向において、前記ラジアルリップ部を越えて延出することを特徴とする請求項1又は2に記載の密封型ロールネック軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−156421(P2009−156421A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337770(P2007−337770)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】