説明

密封構造および軸受装置

【課題】蓋部材の着脱が行い易くて、利便性に優れると共に、長い使用期間が経過した後でも、蓋部材が外れにくい密封構造および軸受装置を提供すること。
【解決手段】車軸1と同期回転する油切り4の外周面に環状溝64を形成する。蓋部材50を、合成ゴム製で蓋状の第1部材80と、環状の第2部材81とで構成する。蓋部材50の環状部70の内周側に係合部82を形成し、この係合部82を環状溝64に係合する。環状部70に軸方向の密封部71側に行くにしたがって外径が大きくなる円錐外周面90を形成する。第1部材80に対して第2部材81を軸方向の密封部71側に相対移動して、第2部材81の弾性部96の円錐内周面97を第1部材80の円錐外周面90に圧接する。第2部材81の金属部96の円筒部で弾性部96を径方向の内方に押さえ付けることにより、係合部82が浮き上がらないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、密封構造に関し、特に、鉄道車両の車軸装置に使用すれば好適な密封構造に関する。また、本発明は、密封構造および転がり軸受を備える軸受装置に関し、特に、鉄道車両の車軸装置に使用すれば好適な軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密封構造としては、実開平1−80569号公報(特許文献1)に記載されているものがある。
【0003】
この密封構造は、鉄道車両の車軸装置の一部をなしている。この密封構造は、軸部材と、筒部材と、合成樹脂製の蓋部材(キャップ)とを備え、上記筒部材の内周面は、上記軸部材の外周面に接触している。上記筒部材は、軸部材と同期回転し、軸部材に対して静止している。上記筒部材は、環状突起を有し、その環状突起は、筒部材の外周面から径方向の外方に突出している。一方、上記蓋部材は、環状部と、一つの密封部とを有し、環状部の軸方向の一方の端部のみが開口している。上記蓋部材の上記環状部は、上記筒部材の外周面に外嵌されて固定されている。上記蓋部材の上記環状部の内周面は、環状溝を有している。上記環状突起を、その環状溝に嵌合して係合することにより、蓋部材を、筒部材に係合して固定するようになっている。
【0004】
上記従来の密封構造は、蓋部材を、弾性を有する合成樹脂で形成することにより、筒部材からの蓋部材の着脱を容易にして、上記車軸装置の各種部品のメンテナンスを容易に行うことができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1−80569号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の密封構造は、蓋部材が、弾性を有する合成樹脂からなっているから、蓋部材の着脱が容易でメンテナンスを容易に行うことができる一方、蓋部材の経年変化の程度が大きくて、時間の経過とともに、蓋部材が外れやすくなる。
【0007】
特に、上記従来の密封構造のように、蓋部材が、軸部材と同期して回転する構成では、蓋部材が常時遠心力を受けることになり、上記経年変化が大きくなり、蓋部材が更に外れ易くなる。
【0008】
一方、上記蓋部材が外れ易いという課題を回避するために、蓋部材を剛性が大きくて経年変化が小さい金属で形成すると、蓋部材が外れにくくなる一方、蓋部材の着脱が行いにくくなって、車軸装置の各種部品のメンテナンスが行いにくくなって、利便性が悪化する。
【0009】
そこで、本発明の課題は、蓋部材の着脱が行い易くて、利便性に優れると共に、長い使用期間が経過した後でも、蓋部材が外れにくい密封構造を提供することにある。また、本発明の課題は、そのような密封構造を有する軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、この発明の密封構造は、
外周面を有する軸部材と、
上記外周面に径方向に対向する内周面と、外周面とを有する筒部材と、
上記軸部材の上記外周面および上記筒部材の上記外周面のうちの一方の外周面に固定される蓋部材と
を備え、
上記一方の外周面は、環状溝を有し、
上記蓋部材は、
弾性材からなる一方、環状部と、この環状部の軸方向の一端側の開口を密封する密封部とを有して、上記環状部が、軸方向の上記密封部側に行くにしたがって、外径が大きくなるテーパ外周面を有する蓋状の第1部材と、
上記環状部の上記テーパ外周面に摩擦係合するテーパ内周面を有する環状の弾性部と、上記弾性部の外周面に固定された環状の金属部とを有する環状の第2部材と
を有し、
上記弾性部は、上記環状溝に嵌り込んで上記環状溝に係合している係合部を有し、
上記金属部は、上記係合部に径方向に重なる部分を有していることを特徴としている。
【0011】
上記弾性材には、例えば、樹脂材(天然および合成の両方を含む)や、ゴム材(天然および合成の両方を含む)が含まれる。また、上記弾性部は、弾性材からなり、上記金属部は、金属材からなるものとする。
【0012】
本発明によれば、上記第2部材のテーパ内周面によって、上記第1部材のテーパ外周面が、径方向の内方に付勢される構成であるから、軸部材または筒部材の外周面の環状溝に係合している上記第1部材の係合部が、径方向の外方に浮き上がりにくくて、上記第1部材の係合部が、環状溝から容易に抜け出ることがない。
【0013】
また、本発明によれば、剛性が高くて経年変化を起こしにくい第2部材の環状の金属部が、第1部材の係合部に径方向に重なる部分を有しているから、係合部において金属部に径方向に重なる部分を、金属部によってサポートできて、支持できる。したがって、係合部において金属部に径方向に重なる部分が、容易に環状溝から抜け出ることがない。
【0014】
したがって、長い使用期間が経過した後においても、軸部材または筒部材に対する蓋部材の係合が容易に解けることがない。
【0015】
また、本発明によれば、第2部材を、軸方向の密封部側とは反対側に移動させて、蓋状の第1部材に対する第2部材の摩擦結合を解除した後、環状溝に対する第1部材の係合部の係合を解くだけで、蓋部材を、軸部材または筒部材から簡易に取り外すことができる。したがって、本発明によれば、蓋部材の着脱が行い易くて、利便性が優れたものになる。
【0016】
また、一実施形態では、
上記環状部は、上記テーパ外周面の大径側の端部から径方向の内方側に延在する径方向内方側延在部を有し、
上記第2部材は、軸方向の上記環状部の上記テーパ外周面の大径側に、上記環状部の上記テーパ外周面の大径側の端部よりも径方向の内方に位置する内方部分を有し、
上記環状部の上記テーパ外周面の大径側の端部と、径方向内方側延在部との間に位置する角部は、上記内方部分に接触している。
【0017】
上記実施形態によれば、上記第2部材の上記内方部分が上記角部から軸方向の密封部側に力を受ける。したがって、軸部材または筒部材に蓋部材が係合している最中に、第2部材が上記環状部に対して軸方向の上記密封部側とは反対側に相対移動して、第2部材と第1部材との係合が解けることがない。
【0018】
また、本発明の軸受装置は、
本発明の密封構造を備え、
上記筒部材は、外輪を含み、
上記軸部材に固定された内輪と、
上記外輪と上記内輪との間に配置された複数の転動体と
を備えることを特徴としている。
【0019】
本発明によれば、本発明の密封構造を備えるから、密封構造の蓋部材を、容易に着脱することができ、また、密封構造において、長い使用期間が経過した後でも、蓋部材が軸部材または筒部材から容易に外れることがない。
【発明の効果】
【0020】
本発明の密封構造および軸受装置によれば、蓋部材の着脱が行い易くて、利便性が優れたものになる。また、長い使用期間が経過した後でも、蓋部材が軸部材または筒部材から容易に外れることがない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の軸受装置の一実施形態の鉄道車両用車軸装置の軸方向の断面図である。
【図2】図1の雌ねじ部材の周辺の拡大断面図である。
【図3】油切りと、蓋部材との係合部の拡大模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の軸受装置の一実施形態の鉄道車両用車軸装置の軸方向の断面図である。
【0024】
この鉄道車両用車軸装置は、鉄道車両の車軸1と、図示しない軸箱と、複列円筒ころ軸受2と、環状の後蓋3と、油切り4と、雌ねじ部材5と、蓋部材50とを備える。上記車軸1、油切り4および雌ねじ部材5は、軸部材を構成している。
【0025】
上記複列円筒ころ軸受2は、上記軸箱の内周面に対して車軸1を回転自在に支持している。上記複列円筒ころ軸受2は、内輪6、外輪8、転動体としての複数の第1円筒ころ10、および、転動体としての複数の第2円筒ころ11を有する。上記内輪6は、外周に互いに軸方向に隣接する第1円筒軌道面21および第2円筒軌道面22を有している。
【0026】
一方、上記外輪8は、軸部材の外周面に径方向に対向する内周面を有している。上記外輪8は、上記軸箱の内周面に内嵌されて固定されている。上記軸箱および外輪8は、筒部材を構成している。言い換えれば、上記外輪8は、筒部材に含まれている。また、上記車軸1、油切り4、雌ねじ部材5、蓋部材50、上記軸箱および外輪8は、密封構造を構成している。
【0027】
上記外輪8は、内周に互いに軸方向に隣接する第1円筒軌道面31および第2円筒軌道面32を有している。上記外輪8は、第1円筒軌道面31の軸方向の両側に鍔部を有し、また、第2円筒軌道面32の軸方向の両側に鍔部を有している。
【0028】
上記複数の第1円筒ころ10は、内輪6の第1円筒軌道面21と、外輪8の第1円筒軌道面31との間に、第1保持器41に保持された状態で、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。また、上記複数の第2円筒ころ11は、内輪6の第2円筒軌道面22と、外輪8の第2円筒軌道面32との間に、第2保持器42に保持された状態で、周方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0029】
上記後蓋3は、車軸1の外周面に外嵌されて固定されている。上記後蓋3の軸方向の一方側(鉄道車両の車輪側とは反対側)の端面は、内輪6の軸方向の他方側の端面に当接している。一方、上記後蓋3の軸方向の他方側の端面は、車軸1の径方向に広がる段部に当接している。このように、上記後蓋3を、車軸1の段部に当接させることにより、後蓋3を、車軸1の所定位置に固定するようになっている。
【0030】
上記油切り4は、環状部材である。上記油切り4は、複列円筒ころ軸受2の軸方向の後蓋3側とは反対側に位置している。油切り4の軸方向の他方側(軸方向の内輪6側)の端面は、内輪6の一方側の端面に当接している。上記油切り4の軸方向の他方側の端面における径方向の外方の部分は、第1円筒ころ10に当接している。
【0031】
上記雌ねじ部材5は、車軸1の外周面に形成された雄ねじに螺合している。上記雌ねじ部材5の軸方向の他方側の端面は、油切り4の軸方向の一方側の端面に当接している。上記雌ねじ部材5のねじ込み量を調整することにより、複列円筒ころ軸受2のアキシアル方向の予圧を調整するようになっている。
【0032】
上記蓋部材50は、一方の外周面の一例としての油切り4の外周面の軸方向の一方側の端部に固定されている。
【0033】
また、上記外輪8の軸方向の油切り4側の内周面には、筒状のシールケース37が、取り付けられ、外輪8の軸方向の後蓋3側の内周面には、筒状のシールケース38が取り付けられている。また、上記シールケース37と油切り4との間は、密封装置47で密封され、シールケース38と後蓋3との間は、密封装置48で密封されている。
【0034】
図2は、図1の雌ねじ部材5の周辺の拡大断面図である。
【0035】
図2に示すように、上記油切り4の外周面は、軸方向の蓋部材50側の端部に、環状溝64を有する。上記環状溝64は、断面台形状の形状を有している。
【0036】
上記蓋部材50は、弾性材の一例としての合成ゴム材からなる蓋状の第1部材80と、環状の第2部材81とを有し、第1部材80は、環状部70と、密封部71とを有する。上記密封部71は、環状部70の軸方向の一端側の開口を隙間なく密封している。
【0037】
図2に示すように、上記環状部70は、その環状部70の内周側に、上記環状溝64に対応する断面台形状の係合部82を有し、その係合部82は、環状溝62に嵌入して環状溝62に係合している。また、上記環状部70はテーパ外周面の一例としての円錐外周面90を有している。上記円錐外周面90の外径は、軸方向の密封部71側に行くにしたがって大きくなっている。
【0038】
上記第2部材81は、環状の弾性部95と、環状の金属部96とを有する。上記弾性部95は、弾性材の一例としての合成ゴム材からなっている一方、金属部96は、金属材からなっている。
【0039】
上記弾性部95は、テーパ内周面の一例としての円錐内周面97を有している。上記円錐内周面97の内径は、軸方向の密封部71側に行くにしたがって大きくなっている。上記円錐内周面97は、環状部70の円錐外周面90に圧接し、円錐外周面90に摩擦係合している。
【0040】
上記金属部96は、断面略L字状の形状を有している。上記金属部96は、円筒部98と、径方向延在部99とを有する。上記円筒部98は、弾性部95の外周面に固着される一方、径方向延在部99は、弾性部95の軸方向の密封部71側とは反対側の端面に固着されている。図2に示すように、上記係合部82において軸方向の密封部71側とは反対側の端から、軸方向の寸法において係合部82全体の略2/3位に位置する部分までは、金属部96の円筒部98に径方向に重なっている。
【0041】
上記第1部材80の断面台形状の係合部82を、油切り4の断面台形状の環状溝64に係合した後、第1部材80に対して第2部材81を軸方向の密封部71側に相対移動して、円錐内周面97を円錐外周面90に圧接し、円錐内周面97を円錐外周面90に摩擦係合する。このようにして、上記第2部材81で第1部材80を径方向の内方に押圧することにより、係合部82が環状溝64から抜けないようにして、蓋部材50を油切り4に確実に係合して固定するようになっている。
【0042】
図3は、油切り4と、蓋部材50との係合部の拡大模式断面図である。
【0043】
図3に示すように、上記環状溝64は、第1テーパ外周面67、円筒外周面68および第2テーパ外周面69を有する。上記第1テーパ外周面67は、第2テーパ外周面69よりも軸方向の複列円筒ころ軸受2(図1参照)側(軸方向の内方側)に位置している。上記第1テーパ外周面67の外径は、軸方向の外方側に行くにしたがって小さくなっている。上記円筒外周面68は、第1テーパ外周面67の軸方向の外方側に位置して第1テーパ外周面67につながっている。また、上記第2テーパ外周面69は、円筒外周面68の軸方向の外方側に位置して円筒外周面68につながっている。上記第2テーパ外周面69の外径は、軸方向の外方側に行くにしたがって大きくなっている。
【0044】
上記環状部70は、円錐外周面90、径方向内側延在部の一例としての径方向延在面91および円筒外周面92を有する。上記円錐外周面90は、第1部材80の軸方向の開口側の端から軸方向の密封部71側に延在している。上記円錐外周面90の外径は、軸方向の密封部71側に行くにしたがって大きくなっている。上記径方向延在部91は、円錐外周面90の軸方向の密封部71側の端から径方向の内方に広がっている。また、上記円筒外周面92は、径方向延在部91の径方向の内方側の端から軸方向の密封部71側に延在している。
【0045】
また、上記環状部70は、第1テーパ内周面101、第1円筒内周面102、第2テーパ内周面103および第2円筒内周面104を有する。上記第1テーパ内周面101の内径は、軸方向の密封部71側(軸方向の外方側)に行くにしたがって小さくなっている。上記第1円筒内周面102は、第1テーパ内周面101の軸方向の外方側の端部から軸方向の外方側に延在している。上記第2テーパ内周面103は、第1円筒内周面102の軸方向の外方側の端部につながっている。上記第2テーパ内周面103の内径は、軸方向の外方側に行くにしたがって大きくなっている。上記第2円筒内周面104は、第2テーパ内周面103の軸方向の外方の端部から軸方向の外方側に延在している。上記第1テーパ内周面101は、第1テーパ外周面67に対応した形状をしており、第1円筒内周面102は、円筒外周面68に対応した形状をしている。また、上記第2テーパ内周面103は、第2テーパ外周面68に対応した形状をしている。また、第2円筒内周面104は、油切り4において環状溝64よりも軸方向の外方側に位置する円筒外周面105に対応した形状をしている。
【0046】
図3に示すように、上記第2部材81の弾性部95の内周面は、環状の凹部である逃げ110を有する。この逃げ110は、円錐内周面97の大径側に位置している。図3に示すように、環状部70において、円錐外周面90と径方向延在面91との角部は、逃げ110内に入り込んで、逃げ110の軸方向の密封部71側の側面に接触している。この角部は、逃げ110の内面から軸方向の内方側(軸方向の密封部70側とは反対側)かつ径方向の内方側に力を受けている。このように、上記角部を、逃げ110内に嵌入させることにより、第2部材81に軸方向の外方側の外力を作用させて、第2部材81が、第1部材80の円錐外周面90からの垂直抗力に基づく軸方向の内方側の力によって軸方向の内方側に移動することを防止し、第2部材81と第1部材80との係合が解けることを防止している。
【0047】
上記実施形態の密封構造によれば、上記第2部材81の円錐内周面97によって、第1部材80の円錐外周面90が、径方向の内方に付勢される構成であるから、油切り4の外周面の環状溝64に係合している第1部材80の係合部82が、径方向の外方に浮き上がりにくくて、第1部材80の係合部82が、環状溝64から容易に抜け出ることがない。
【0048】
また、上記実施形態の密封構造によれば、剛性が高くて経年変化を起こしにくい第2部材81の環状の金属部96が、第1部材80の係合部82に径方向に重なる部分を有しているから、係合部82において金属部96に径方向に重なる部分が、金属部96によってサポート支持されて、容易に環状溝96から抜け出ることがない。
【0049】
したがって、長い使用期間が経過した後においても、油切り4に対する蓋部材50の係合が容易に外れることがない。
【0050】
また、上記実施形態の密封構造によれば、第2部材81の軸方向の密封部71側の端部を径方向の外方に変形させて、逃げ110から上記角部を外した後、第2部材81を、軸方向の密封部71側とは反対側に移動させて、第1部材80に対する第2部材81の摩擦結合を解除した後、環状溝64に対する第1部材80の係合部82の係合を解くだけで、蓋部材50を、油切り4から簡易に取り外すことができる。また、この逆の動作を行うことによって、簡易かつ確実に、蓋部材50を油切り4に固定できる。したがって、上記蓋部材50の着脱が行い易くて、利便性が優れたものになる。
【0051】
尚、上記実施形態の密封構造では、蓋部材50の第1部材80および第2部材81の弾性部95が、合成ゴムからなっていたが、蓋部材の第1部材は、天然ゴム、天然樹脂または合成樹脂からなっていても良く、その他の弾性に富んだ材料からなっていても良い。また、第2部材の弾性部も、天然ゴム、天然樹脂または合成樹脂からなっていても良く、その他の弾性に富んだ材料からなっていても良い。
【0052】
また、上記実施形態の密封構造では、環状溝64が断面略等脚台形状の形状を有し、係合部82が、環状溝64の断面形状に対応する断面形状を有していた。しかしながら、この発明では、環状溝の断面形状および環状溝に嵌合する係合部の断面形状は、如何なる形状であっても良い。例えば、環状溝において蓋部材の密封部側の側面形状を、略径方向に広がる平面形状にすると、軸部材または筒部材に対する蓋部材の係合の強さを大きくすることができる。
【0053】
また、上記実施形態の密封構造では、蓋部材50の内周面が、油切り4(軸部材の一部)の外周面に固定される構成であった。しかしながら、この発明では、蓋部材の内周面が、筒部材の外周面、例えば、ハウジング部材の外周面に固定される構成であっても良い。また、筒部材を、ハウジング部材と、ハウジング部材に内嵌されて固定された転がり軸受の外輪と、その外輪の内周面に内嵌された環状部材とで構成し、蓋部材の内周面を、その環状部材の外周面に固定する構成であっても良い。尚、この場合において、環状部材の外周面が環状溝を有していることは言うまでもない。
【0054】
また、上記実施形態の密封構造では、上記係合部82において軸方向の密封部71側とは反対側の端から、軸方向の寸法において係合部82全体の略2/3位に位置する部分までが、金属部96の円筒部98に径方向に重なっていた。しかしながら、この発明では、係合部は、金属部の円筒部に径方向に重なっている部分を有していさえすれば良い。ここで、重なる部分が大きいと確実な係合を獲得できる一方、軸部材または筒部材に対する蓋部材の着脱が行いにくくなる。このことから、本発明においては、係合部において軸方向の密封部側とは反対側の端から、軸方向の寸法において係合部全体の1/2以上3/4以下に位置する部分までが、金属部の円筒部に径方向に重なるようにすれば、好ましい。
【0055】
また、上記実施形態の密封構造では、環状部70に、テーパ外周面としての円錐外周面90を形成すると共に、弾性部95にテーパ内周面としての円錐内周面97を形成したが、この発明では、テーパ外周面は、軸方向の片側にいくにしたがって、外径が大きくなる条件を満たす環状外周面であれば、いかなる形状の環状外周面であっても良い。また、テーパ内周面も、軸方向の片側にいくにしたがって、内径が大きくなる条件を満たす環状内周面であれば、いかなる形状の環状内周面であっても良い。
【0056】
また、上記実施形態の軸受装置では、転がり軸受が、複列円筒ころ軸受2であったが、この発明の軸受装置では、転がり軸受において、転動体は、軸方向に一列または複数列配置されていても良く、かつ、転動体は、円錐ころ、円筒ころ、凸面ころ、または、円錐ころと円筒ころとの組み合わせであっても良い。また、外輪または内輪は、一体型であっても、複数の環状部材からなる複合型であってもどちらでも良い。
【0057】
尚、上記実施形態の密封構造は、鉄道車両用車軸装置の一部をなしていたが、この発明の密封構造が、軸部材の端部を覆う必要がある装置であれば如何なる装置に適用されても良いことは言うまでもない。また、この発明の軸受装置が、鉄道車両用車軸装置でなくても良いことも言うまでもなく、軸部材と、転がり軸受と、その軸部材の一端部を覆う蓋部材を有する如何なる装置であっても良いことも、言うまでもない。
【符号の説明】
【0058】
1 車軸
2 複列円筒ころ軸受
4 油切り
5 雌ねじ部材
6 内輪
8 外輪
10 第1円筒ころ
11 第2円筒ころ
50 蓋部材
64 環状溝
70 環状部
71 密封部
80 第1部材
81 第2部材
82 係合部
90 円錐外周面
95 弾性部
96 金属部
97 円錐内周面
98 金属部の円筒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面を有する軸部材と、
上記外周面に径方向に対向する内周面と、外周面とを有する筒部材と、
上記軸部材の上記外周面および上記筒部材の上記外周面のうちの一方の外周面に固定される蓋部材と
を備え、
上記一方の外周面は、環状溝を有し、
上記蓋部材は、
弾性材からなる一方、環状部と、この環状部の軸方向の一端側の開口を密封する密封部とを有して、上記環状部が、軸方向の上記密封部側に行くにしたがって、外径が大きくなるテーパ外周面を有する蓋状の第1部材と、
上記環状部の上記テーパ外周面に摩擦係合するテーパ内周面を有する環状の弾性部と、上記弾性部の外周面に固定された環状の金属部とを有する環状の第2部材と
を有し、
上記弾性部は、上記環状溝に嵌り込んで上記環状溝に係合している係合部を有し、
上記金属部は、上記係合部に径方向に重なる部分を有していることを特徴とする密封構造。
【請求項2】
請求項1に記載の密封構造を備え、
上記筒部材は、外輪を含み、
上記軸部材に固定された内輪と、
上記外輪と上記内輪との間に配置された複数の転動体と
を備えることを特徴とする軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−180956(P2010−180956A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25041(P2009−25041)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】