説明

密閉型圧縮機及び冷凍サイクル装置

【課題】流路抵抗の密着抵抗及びバルブプレートと吸込弁との密着抵抗を減少させることにより、効率を向上させ、さらに、振動を低減させる密閉型往復動圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機構部120に設けられた吸込弁125は、バルブプレート123の圧縮室121a側に吸込孔123aを覆うように設けられており、吸込弁125の先端部Pとバルブプレート123の吸込孔123aとの間に設けられた孔部125aを備え、シリンダ121の内壁面には径方向の深さL、バルブプレート123からの深さHの凹部124が形成され、吸込弁125の先端部Pが配置されており、孔部125aの面積をSとすると、S≧L×Hが成立する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭用冷蔵庫等に用いられる密閉型圧縮機、及び密閉型圧縮機が組み込まれた冷凍サイクル装置に関し、特に効率を向上させ、騒音を低減できるものに関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用冷蔵庫等の冷凍サイクル装置には、例えば密閉型往復動圧縮機が用いられている。密閉型往復動圧縮機では、吸込弁の損傷や、圧縮効率の向上のため、様々な工夫がなされているものがある。例えば、シリンダの内壁面に凹部を設け、この凹部とバルブプレートとの間にピンを設け、このピンを吸込弁に設けた孔に挿通させたものが知られている。これにより、吸込弁の先端がシリンダ内に入り込むことを防止するとともに、ピストンの上死点位置を吸込弁に近づけることが可能となる。このため、圧縮効率を向上させることができる(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−70746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した密閉型往復動圧縮機では、次のような問題があった。すなわち、吸込弁に孔を設け、ピンに挿通させているので、吸込弁先端側には十分な冷媒の流路が形成されず、流路抵抗が大きくなってしまう。このため、吸込弁の自励振動も発生しやすくなる。また、バルブプレートと吸込弁とが密着することで、開閉時に抵抗力が発生し、効率が低下する虞もある。
【0004】
そこで本発明は、冷媒の流路抵抗を減少させるとともに、バルブプレートと吸込弁との密着抵抗を減少させることで効率を向上させ、さらに、振動を低減させる冷凍サイクル装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明の密閉型往復動圧縮機及び冷凍サイクル装置は次のように構成されている。
【0006】
密閉ケースと、この密閉ケース内に設けられた電動機部と、上記密閉ケース内に設けられ、上記電動機部によって駆動され、圧縮室を形成するシリンダ、このシリンダ内を上記電動機部によって往復動自在に設けられたピストン、上記シリンダの端面に設けられ吸込孔及び吐出孔を有するバルブプレート、上記吸込孔及び上記吐出孔を開閉可能に設けられた吸込弁及び吐出弁を有する圧縮機構部とを備え、上記シリンダの端面側の上記シリンダ内周面には上記シリンダの径方向の深さL、上記バルブプレートからの深さHの凹部が形成され、上記吸込弁は、その先端部が上記凹部内にその変位量を規制された状態で位置する密閉型圧縮機において、上記吸込弁は、上記先端部と上記吸込孔に対応する位置との間に面積Sの孔部が設けられ、上記孔部の上記圧縮室に面する面積Sは、上記深さL、上記距離Hとの関係が、S≧L×Hであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、流路抵抗を減少させること及びバルブプレートと吸込弁との密着抵抗を減少させることで効率を向上させ、さらに、振動を低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る冷凍サイクル装置1の構成及び密閉型往復動圧縮機100を示す縦断面図、図2は同密閉型往復動圧縮機100に用いられる圧縮機構部120を示す断面図、図3は同圧縮機構部120の吸込弁125を示す説明図である。図1中Rは冷凍機油を、図2中Fは冷媒の流路を示す。
【0009】
冷凍サイクル装置1は密閉型往復動圧縮機100と、密閉型往復動圧縮機100の吐出側に接続された凝縮器200と、凝縮器200に接続された膨張装置300と、膨張装置300に接続された蒸発器400とが連結されて構成されている。
【0010】
密閉型往復動圧縮機100は、密閉ケース101内にスプリング102により電動機部130の固定子132を介して弾性的に支持されるフレーム110と、このフレーム110の上部に配置された圧縮機構部120と、フレーム110の下部に配置された上記電動機部130とを備えている。また、密閉ケース101は、密閉ケース101を密閉するための上蓋101aを備えている。圧縮機構部120と電動機部130とは、フレーム110に設けられた枢支用孔111に嵌合軸支された回転軸140により連結されており、電動機部130により圧縮機構部120が駆動される。
【0011】
圧縮機構部120は、フレーム110の上面に載置され圧縮室121aを形成するシリンダ121と、後述するクランクピン141からボールジョイント機構部150を介して連結され圧縮室内を往復動自在に配置されたピストン122とを備えている。ボールジョイント機構部150は、回転軸140のクランクピン141に回転自在に嵌合された大端部151と、この大端部151に結合された連接部材152と、連接部材152に設けられたボール153とを備えており、ボール153とピストン122とが回転自由に形成されるように、ボール153とピストン122とはピストン122に一体形成された嵌合部154により嵌合されている。
【0012】
電動機部130は、回転軸140に固着された回転子131と、フレーム110に固定された固定子132とを備えている。回転子131は永久磁石を有するとともに、固定子132はコイルが集中巻方式により巻かれている。
【0013】
回転軸140には、フレーム110上面に鍔部142を介し、回転軸140が回転するとき所定量偏心回転する中心軸を備えたクランクピン141が設けられている。
【0014】
シリンダ121の端面はバルブプレート123で閉塞されるとともに、シリンダ121内壁面には凹部124が設けられている。
【0015】
バルブプレート123は吸込孔123aと吐出孔123bとを有し、吸込孔123aと吐出孔123bに対応して吸込弁125及び吐出弁126が設けられている。また、バルブプレート123のシリンダ121とは反対側の面は、バルブカバー127で覆われており、バルブカバー127は、さらに内部を二分する仕切り部を有している。バルブカバー127の仕切り部の一方は吸込孔123aを覆うように設けられた吸込室127aが、他方は吐出弁126を覆うように設けられた吐出室127bが形成されている。吸込室127aは密閉ケース内空間を介して蒸発器400に連通され、吐出室127bは吐出管128を介して凝縮器200に接続されている。
【0016】
図2、3に示すように吸込弁125は、先端部P側が揺動自在に設けられるとともに、先端部Pは、シリンダ121内径より外側に位置するように設けられ、凹部124に収容される形状となっている。さらに、吸込弁125は、バルブプレート123の圧縮室121a側に吸込孔123aを覆うように設けられている。また、吸込弁125の先端部Pとバルブプレート123の吸込孔123aとの間には孔部125aが設けられている。吸込孔123aを吸込弁125により閉じた状態(吸込弁125の閉弁)において、圧縮室121aに面する孔部125aの面積をS、上述した凹部124のボア長さ(シリンダ121の径方向の深さ)をL、凹部124の深さ(バルブプレート123からの深さ)をHとすると
S≧L×H …(1)
との関係が成立する。
【0017】
このように構成された冷凍サイクル装置1では、まず密閉型往復動圧縮機100の電動機部130に外部エネルギ(例えば商用電源等)を供給することにより回転子131が回転し、回転子131に固着された回転軸140が回転する。回転軸140の回転により回転軸140に一体形成されたクランクピン141は偏心回転する。クランクピン141の偏心回転はボールジョイント機構部150によりピストン122の往復動に変換され、ピストン122は、圧縮室121a内を往復動する。このピストン122の往復動により冷媒が圧縮される。圧縮された冷媒は吐出孔123bから吐出弁126を介し、吐出室127bを通り、吐出管128を介して密閉型往復動圧縮機100から凝縮器200に吐出され、さらに膨張装置300及び蒸発器400を順次通過する。蒸発器400を通過した冷媒は、冷媒管を介して密閉型往復動圧縮機100の密閉ケース内空間に導かれ、さらに吸込室127aを通り、吸込孔123aから吸込弁125を介して圧縮室121aへと戻る。
【0018】
ここで、冷媒が吸込弁125を通過するとき、吸込孔123aから冷媒が圧縮室121a方向へと流れ、かつ、圧縮室121aで、ピストン122がバルブプレート123とは反対(バルブプレート123から離れる)方向へ移動する。このため、圧縮室121a内は低圧状態となり、これにより、開弁していた吐出弁126は閉弁し、吸込弁125は開弁(図2に示す二点鎖線の吸込弁125参照)する。吸込弁125が開弁するときに、凹部124により、吸込弁125を受け止め、吸込弁125の変位を規制することで、吸込弁125の損傷等を防止している。
【0019】
このように吸込弁125が開弁した場合、開弁した吸込弁125に設けられた孔部125aにより、冷媒の流路は吸込弁125側部と孔部125a(孔部125aによる冷媒の流路F)とにより十分に形成され、圧縮室121aに冷媒が充満する。
【0020】
上述したように、本実施の形態に係る冷凍サイクル装置1によれば、吸込弁125に孔部125aを設けることにより、十分な流路を確保することができるため、流路抵抗が減少し、効率が向上する。すなわち、孔部125aを有さない場合には、凹部124と吸込弁125の先端部Pとで流路が断たれてしまうため、吸込弁125の側面方向でしか流路が確保できないが、本実施の形態に係る吸込弁125ではそのような不具合を解消できる。また、流路抵抗の減少に伴い吸込弁125の自励振動が抑制されるため、騒音が低減される。
【0021】
さらに、吸込弁125に孔部125aを設けることにより、吸込弁125の面積が孔部125aの面積Sだけ減少するため、冷凍機油Rの表面張力によるバルブプレート123と吸込弁125との密着面積が減少する。密着面積が減少すれば密着抵抗が減少するので、吸込弁125が開弁する際の遅れが減少し、吸込弁125の円滑な開閉により吸込弁125部の効率が向上する。
【0022】
なお、孔部125aの面積S、凹部124のボア長さL、凹部124の深さHとの間で、S≧L×Hとの関係が成立するようにすることで、十分な流路を確保することができる。
【0023】
図4は本発明の第2の実施の形態に係る冷凍サイクル装置1Aの密閉型往復動圧縮機100Aに用いられる圧縮機構部120Aを示す断面図、図5は同圧縮機構部120Aの吸込弁125Aを示す説明図である。なお、図4、5において図1〜3と同一機能部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0024】
図4、図5に示すように、バルブプレート123Aは吸込孔123cを2つと吐出孔123bとを有し、吸込孔123cと吐出孔123bとに対応して吸込弁125Aと吐出弁126とが設けられている。
【0025】
吸込弁125Aは、バルブプレート123Aの圧縮室121a側に吸込孔123cを覆うように設けられており、吸込弁125Aの先端部Pは、シリンダ121内径より外側に位置するように形成されている。また、吸込弁125Aの先端部Pとバルブプレート123Aの吸込孔123cとの間には孔部125aが設けられている。上記バルブプレート123Aの2つの吸込孔123cは、吸込弁125Aの先端部Pと基端部側Kを通る中心線Xに対して対称となる位置に設けられている。
【0026】
上述した本実施の形態に係る冷凍サイクル装置1Aによれば、吸込弁125Aに孔部125aを設け、バルブプレート123Aに吸込孔123cを2つ備えることにより、より多くの流路を確保することができ、流路抵抗が減少し、効率が向上する。また、流路抵抗が減少するため、流路抵抗による吸込弁125Aの自励振動が抑制されるため、騒音が低減される。
【0027】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上述した例では、密閉ケース101の上部に圧縮機構部120、下部に電動機部130を配置していると説明したが、密閉ケース101の下部に圧縮機構部120を、上部に電動機部130でも応用可能である。また、上述した例ではフレーム110とシリンダ121は別に設けていたが、フレーム110とシリンダ121を一体でも適用可能である。また、吸込孔123a、123cを1つ又は2つ設けると上述したが、複数設けても適用可能である。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る冷凍サイクル装置の構成及び密閉型往復動圧縮機を示す縦断面図。
【図2】同密閉型往復動圧縮機に用いられる圧縮機構部を示す断面図。
【図3】同圧縮機構部の吸込弁を示す説明図。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る冷凍サイクル装置の密閉型往復動圧縮機に用いられる圧縮機構部を示す断面図。
【図5】同圧縮機構部の吸込弁を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1,1A…冷凍サイクル装置、100,100A…密閉型往復動圧縮機、101…密閉ケース、102…スプリング、110…フレーム、111…枢支用孔、120…圧縮機構部、121…シリンダ、121a…圧縮室、122…ピストン、130…電動機部、123…バルブプレート、123a…吸込孔、123b…吐出孔、127…バルブカバー、128…冷媒管、140…回転軸、141…クランクピン、150…ボールジョイント機構部、151…大端部、152…連接部材、153…ボールジョイント、154…嵌合部、200…凝縮器、300…膨張装置、400…蒸発器、P…先端部、K…基端部側。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉ケースと、
この密閉ケース内に設けられた電動機部と、
上記密閉ケース内に設けられ、上記電動機部によって駆動され、圧縮室を形成するシリンダ、このシリンダ内を上記電動機部によって往復動自在に設けられたピストン、上記シリンダの端面に設けられ吸込孔及び吐出孔を有するバルブプレート、上記吸込孔及び上記吐出孔を開閉可能に設けられた吸込弁及び吐出弁を有する圧縮機構部とを備え、
上記シリンダの端面側の上記シリンダ内周面には上記シリンダの径方向の深さL、上記バルブプレートからの深さHの凹部が形成され、
上記吸込弁は、その先端部が上記凹部内にその変位量を規制された状態で位置する密閉型圧縮機において、
上記吸込弁は、上記先端部と上記吸込孔に対応する位置との間に面積Sの孔部が設けられ、上記孔部の上記圧縮室に面する面積Sは、上記深さL、上記距離Hとの関係が、
S≧L×H
であることを特徴とする密閉型圧縮機。
【請求項2】
上記バルブプレートは、吸込孔を2つ備え、この2つの吸込孔は上記吸込弁の基端部から上記先端部を通る中心線に対し対称の位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】
請求項1、2いずれか記載の密閉型圧縮機と、
上記密閉型圧縮機に接続された凝縮器と、
上記凝縮器に接続された膨張装置と、
上記膨張装置に接続された蒸発器とを備えたことを特徴とする冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−69758(P2008−69758A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251651(P2006−251651)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(399023877)東芝キヤリア株式会社 (320)
【Fターム(参考)】