説明

密閉型電池

【課題】内部短絡を防止し、誤作動を起こすことなく、安全機構が速やかに作動する密閉型電池を提供する。
【解決手段】内部に、電極体とその上面に配置された絶縁体を収納した外装缶の開口部が、圧力増大によって作動する安全機構を有する封口体により、絶縁ガスケットを介して、カシメ封口された密閉型電池において、外装缶は内側に突出した凸部を備える溝入れ部を有し、絶縁体は、周縁鍔部と、周縁鍔部に続く周縁鍔部よりも一方面側が盛り上がった肉厚の本体部とを有してなり、絶縁体は、本体部の盛り上がり面を封口体側に向けた状態で、溝入れ部凸部よりも電極体側に配置され、溝入れ部凸部が絶縁体の周縁鍔部に当接することによって、電極体が外装缶内に位置決めされた構造であり、電極体の封口体側の端面と封口体の下面との間でかつ外装缶の内壁と絶縁ガスケットとで囲まれた電池内空間内に占める絶縁体の体積占有率が、70〜77%に規制されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉型電池の安全性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、長期にわたって繰り返し使える高容量高性能な電池として、携帯機器や電気自動車の駆動電源、或いは大型蓄電装置などの用途に広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池のような密閉型電池においては、内部短絡時や過充電時に、電池内にガスが揮発又は発生し、電池内圧が上昇する。このような電池内圧の上昇は、電池破裂のような重大な問題を引き起こす恐れがある。
【0004】
このため、密閉型電池には、電池内圧が所定圧力以上となったときに、電流遮断したり、電池内のガスを外部に放出させたりする安全機構が組み込まれている。
【0005】
また、ガス発生の一因となる内部短絡を防止するために、封口体と電極体との間に設けられる絶縁体の形状を改良することが行われている(特許文献1〜3参照)。
【0006】
特許文献1には、電池製造時の圧着工程における電極群の変形を防止するとともに、リード線と電池ケースとの溝部内面とを確実に絶縁して短絡の発生を防止することを目的として、電池ケースの内周面に接する外径を有するリング状の平面部と、平面部の封口板を臨む面から該面に対して垂直に立ち上がる円筒状の胴体部と、胴体部の封口板側の端部から封口板に向けて延び、胴体部から離反するにつれてその外径が小さくなる筒状の折れ曲がり部とを含むものを絶縁リングとして使用することが提案されている。
【0007】
特許文献2には、落下時の内部短絡を防止すると共に、電池組立時に電解液注入を短時間で行うことができる密閉型非水二次電池を提供することを目的として、電極群と電池蓋との間に配置される絶縁体が、中央平面部と環状の壁部と壁部の外側の鍔部から構成され、鍔部底面は中央部底面より電極群側に位置し、複数の貫通孔が形成されている構成とすることが提案されている。
【0008】
特許文献3には、電池ケース内の電極郡の一方の極の極板上端部から導出したリードの一端を蓋の底面に接続した円筒形電池において、リードと電池ケースおよびリードと電極体上面との接触を確実に防止することを目的として、前記電極群の上面と蓋との間に配された絶縁板を、内部に注液孔とガス抜き孔とリード挿入孔とを有するとともに、リード挿入孔より外縁側には少なくともリード挿入孔を挟んで対面する位置に小壁部が設けられていて、絶縁板の底面は電極体上面と接している構成とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−9841号公報
【特許文献2】特開平09−283112号公報
【特許文献3】特開平07−220716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3に開示される技術は、密閉型電池において、内部短絡が生じることを抑制して、電池内圧が異常に上昇することを未然に抑制する技術である。よって、特許文献1〜3は、圧力異常時に、電池の安全を保つことについては考慮していないが、電池内圧が異常に上昇したときには、電池の安全を保つための安全機構が必要であり、この安全機構は速やかに作動するものが好ましい。
【0011】
例えば、封口体に、脆弱部が内圧上昇により破断して電流を遮断する安全機構を設けた場合、その脆弱部の強度を弱くすることにより、安全機構の作動圧力を小さくできる。しかしながら、脆弱部の強度を弱くした場合、電池に衝撃が加えられたときに、上記安全機構が誤作動を起こすという問題が生じる。
【0012】
本発明は、このような問題を解消するものであり、内部短絡を防止しつつ、誤作動を起こすことなく、電池内圧が上昇したときに安全機構が速やかに作動する密閉型電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、開口部を有する有底円筒形の外装缶と、電池内圧の増大によって作動する安全機構を有する封口体と、絶縁ガスケットと、外装缶の内部に収容された電極体と、外装缶の内部で且つ電極体の上面に収納配置された絶縁体と、を備え、外装缶の開口部が、絶縁ガスケットを介して封口体によりカシメ封口された密閉型電池において、外装缶が、内側に突出した凸部を備える溝入れ部を有し、絶縁体は、周縁鍔部と、周縁鍔部に続く周縁鍔部よりも一方面側が盛り上がった肉厚の本体部と、を有してなり、絶縁体が、その本体部の盛り上がり面を封口体側に向けた状態で、溝入れ部凸部よりも電極体側に配置され、溝入れ部凸部が絶縁体の周縁鍔部に当接することによって、電極体が外装缶内に位置決めされた構造であり、電極体の封口体側の端面と封口体の下面との間でかつ外装缶の内壁と絶縁ガスケットとで囲まれた電池内空間(以下、電池内上部空間と称する)内に占める絶縁体の体積占有率が、70〜77%に規制されていることを特徴とする。
【0014】
外装缶の開口部を絶縁ガスケット及び封口体を用いてカシメ封口する場合、外装缶の封口体と電極体との中間に、壁面を内側に突出した溝入れ部を設け、この溝入れ部の上方に絶縁ガスケット及び封口体が配置される。しかし、溝入れ部が設けられると、封口体と電極体との間の距離が開き、封口体と電極体との間に形成される空間が広くなる。この空間には、電池の構成要素が配置されることがないため、この空間はデッドスペースとなる。また、この空間は、ガスの貯蔵空間として作用するので、ガスが発生しても、電池内圧が上昇しにくくなる。
【0015】
本発明は、周縁鍔部と、周縁鍔部に続く周縁鍔部よりも一方面側が盛り上がった肉厚の本体部とからなる絶縁体を用い、その絶縁体を、その本体部の盛り上がり面を封口体側に向けた状態で、溝入れ部凸部よりも電極体側に配置し、これにより、電池内上部空間内に占める絶縁体の体積占有率を70〜77%となるように構成する。
【0016】
これにより、少量の発生ガスで、電池内圧が安全機構の作動圧力以上にまで上昇することができ、その結果として、発生ガスが電池内部から封口体内部へ速やかに移動する。つまり、電池内圧が上昇したときに、速やかに安全機構を作動させることができる。また、本発明では、電池内上部空間内に占める絶縁体の体積占有率の下限値を70%に規定しているので、上部空間が無用なガスを貯蔵空間として作用することがない。一方、内部短絡などで電池内温度が上昇し、絶縁体が溶融した場合、その熱溶融物が安全機構に流れ込む恐れがあるが、絶縁体の体積占有率の上限値を77%に規定しているため、電池の上部空間を23%以上確保でき、この空間が熱溶融物をストックする緩衝空間として作用する。よって、絶縁体が溶融した場合でも、熱溶融物がただちに安全機構に悪作用することを防止することができる。
【0017】
さらに、本発明では、溝入れ部凸部が絶縁体の周縁鍔部に当接することによって、電極体が封口体側に移動することを防止しているので、電池に衝撃や振動等が加わっても、電極体が他の部材に接触して内部短絡を起こすことを防止することができる。
【0018】
上記密閉型電池において、絶縁体は熱可塑性樹脂からなる構成とすることができる。熱可塑性樹脂は、溶融点が比較的低いが、安価であり、射出形成等により簡単に成形でき、よって、絶縁体を低コストで製造できるからである。
【0019】
上記密閉型電池においては、絶縁体本体部の盛り上がり面およびその反対側の面の双方を、平坦面とする構成とすることができる。
【0020】
絶縁体本体部の盛り上がり面を平坦面とすると、電池内部から封口体内部へのガスの移動が妨げにくくなる。絶縁体本体部の盛り上がり面とは反対側の面(絶縁体の下面)を平坦面とすることにより、溝入れ部凸部を絶縁体の周縁鍔部に当接して、絶縁体を電極体に押し付けたときに、絶縁体により電極体が破損することを抑制できる。
【0021】
ここで、絶縁体の体積占有率は、電池内上部空間の体積に対する絶縁体の体積の割合として定義される。絶縁体には、通常、封口体と電極体とを電気的に接続する電極タブを通すための貫通孔が設けられており、この貫通孔の体積は、絶縁体の体積から除かれる。
【0022】
なお、電極体の封口体側端面とは、電極体に絶縁体が押し付けられた後の、電極体の封口体側の端の最も高い位置を含み、電極体の捲回軸に垂直な平面のことをいう。また、封口体の電極体側下面には凹凸があってもよい。
【0023】
絶縁体の体積は、公知の方法を用いて測定することができる。例えば、アルキメデス法を用いて求めることができる。または、設計図をもとに計算して求めてもよいし、絶縁体の各部分の寸法を画像処理測定装置を用いて測定することもできる。
【0024】
電池内上部空間の体積についても、設計図に基づいて求めることができるし、画像測定処理装置を用いて測定することもできる。画像処理測定装置を用いて前記空間体積を求める場合、例えば、電池の縦断面を観察し、電極体の封口体側端面と封口体の電極体側下面との間の距離、溝入れ部の寸法等を求めることができる。また、電池の横断面を観察し、封口体の電極体側下面と電極体の封口体側端面との間の空間の径等を求めることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、電極体上に絶縁体が配置されているため内部短絡を防止でき、さらに本体部が封口体側に盛り上がった絶縁体を用いて電池内上部空間内に占める絶縁体の体積占有率を適切に調節しているため、電池異常時に安全機構が速やかに作動する密閉型電池を提供することができる。また、本発明では、安全機構を構成する脆弱部の強度を従来より低く設定する必要がないため、衝撃により安全機構が誤作動することも防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る密閉型リチウムイオン二次電池の部分拡大断面図である。
【図2】図1の電池内上部空間19を説明するための拡大断面図である。
【図3】図3(a)は実施例1で用いた上部絶縁体の上面図であり、図3(b)は鎖線X3に沿った断面図であるである。
【図4】図4(a)は実施例2で用いた上部絶縁体の上面図であり、図4(b)は鎖線X4に沿った断面図である。
【図5】図5(a)は比較例1及び2で用いた上部絶縁体の上面図であり、図5(b)は鎖線X5に沿った断面図である。
【図6】図6(a)は比較例3で用いた上部絶縁体の上面図であり、図6(a)は鎖線X6に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を、図面を参照しながら説明する。以下の説明では、本発明を円筒形リチウムイオン二次電池に適用した場合について説明する。
【0028】
図1に、密閉型電池の一例である円筒形リチウムイオン二次電池の部分断面図を示す。図1のリチウムイオン二次電池は、円形底面を有する円筒状の外装缶1を有しており、この外装缶1内には、発電要素が収容されている。発電要素は、捲回型電極体2と、電極体2に含浸された電解質(図示せず)とから構成される。捲回型電極体2は、正極3と、負極4と、正極3と負極4とを離間するセパレータ5と、を渦巻状に巻回することにより形成されている。電解質は、非水溶媒に、電解質塩を溶解させることにより調製される。
【0029】
外装缶1には、電極体2の封口体側端面21より上方の位置に、内側に突出した環状の凸部6を備える溝入れ部が設けられている。溝入れ部凸部6の上方には、封口体7が配置され、外装缶1は、外装缶1の開口部に絶縁ガスケット8を介して封口体7をかしめ固定することにより、密閉されている。
【0030】
封口体7は、金属製の端子キャップ9、弁板10、及び弁キャップ11と、PTC素子12とを有している。PTC素子12は、端子キャップ9と弁板10との間に配置されている。弁板10と弁キャップ11との間には、絶縁性の内部ガスケット13が配置されており、弁板10と弁キャップ11は、接続部24において、電気的に接続されている。端子キャップ9及び弁キャップ11には、それぞれガス抜き孔9a及び11aが設けられている。
【0031】
弁板10と弁キャップ11とは、ガス排出と電流遮断とを担う安全機構として機能する。具体的には、弁板10は、通常状態では、弁キャップ11と電気的に接続されており、電池内圧が所定値以上になると、接続部24において弁板10が弁キャップ11から離れて、電極体2から端子キャップ9への通電が遮断される。さらに電池内圧が上昇すると、弁板10が破断して、電池内部のガスが外部空間へと放出される。
【0032】
正極3には、正極タブ14の一端が電気的に接続されており、正極タブ14の他端は、封口体7の下面20に電気的に接続されている。負極4には、負極タブ(図示せず)の一端が電気的に接続されており、負極タブの他端は、外装缶1の内底部(図示せず)に電気的に接続されている。
【0033】
電極体2の封口体側端面21上には、上部絶縁体15が配置され、電極体2と外装缶1の内底部との間には、環状の下部絶縁板(図示せず)が配置されている。上部絶縁体15は、正極タブが通る貫通孔18を有する。
【0034】
上部絶縁体15は、円形の外周形状を有する周縁鍔部17と、周縁鍔部17に続く周縁鍔部17よりも一方面側が盛り上がった肉厚の本体部16とから構成されている。図1の上部絶縁体15において、本体部16は、円柱状の形状を有する。この上部絶縁体15は、本体部16の盛り上がり面22を、封口体7側に向けた状態で、溝入れ部凸部6よりも電極体2側に配置されており、これにより、電池内上部空間19内に占める上部絶縁体15の体積占有率が70〜77%に規制されている。
【0035】
ここで、電池内上部空間19を、図2を用いて説明する。電池内上部空間19(図2の斜線部)は、その上下を、封口体の下面20と、電極体の封口体側端面とで挟まれている。つまり、電池内上部空間19の上面が封口体の下面20であり、電池内上部空間19の下面が、電極体の封口体側端面を含み、外装缶1にまで延びた仮想平面25である。電池内上部空間19の側面は、外装缶1の内壁と、封口体7と外装缶1との間に配された絶縁ガスケット8とで囲まれている。なお、明瞭化のため、図2において、上部絶縁体及び電極タブは図示していない。
【0036】
肉厚の本体部16の盛り上がり面22を封口体7側に向けた状態で、上記上部絶縁体15を電極体2上に配置することにより、電池内上部空間19内のガスが充満できる空間、ひいては電池内のガスが充満できる空間の体積を、従来よりも減少させることができる。よって、発生したガスが少量であるうちに、電池内圧が安全機構の作動圧力以上にまで上昇し、その結果として、発生ガスが電池内部から封口体内部へ速やかに移動する。つまり、電池内圧が上昇したときに、速やかに安全機構を作動させることができる。
【0037】
また、上部絶縁体15の体積占有率を70%以上とすることにより、上部絶縁体15と封口板7との間の空間が、発生ガスの貯蔵空間として作用することがない。
【0038】
上部絶縁体15の体積占有率を77%以下とすることにより、内部短絡などにより電池内温度が上昇し、上部絶縁体15が溶融した場合でも、その熱溶融物がただちに安全機構に悪作用することを防止できる。
【0039】
上部絶縁体15が溶融すると、その溶融物が、封口体7内に流れ込み、弁キャップ11のガス抜き孔11aを大きく塞ぐことがある。この場合、電池内に溜まったガスが、封口体7内に移動しにくくなるため、安全機構が作動するまでに時間を要することがある。さらには、安全機構が作動するまでに時間を要すると、安全機構が作動するまでの間に、電池内圧が上昇し電池が変形することがある。
【0040】
しかしながら、上部絶縁体15の体積占有率を77%以下とし、電池内上部空間19内に、電池内上部空間19の体積の23%以上を占める空間を設ければ、この空間が、溶融物をストックする緩衝空間として作用する。このため、電池内温度が上昇して、上部絶縁体15が溶融した場合でも、その溶融物により、封口体7の弁キャップ11のガス抜き孔11aが大きく塞がれることがない。この結果、電池内圧の増加に伴い、速やかに封口体7内の圧力も増加し、その結果、電池内圧が上昇したときに安全機構を速やかに作動させることができる。さらには、電池内圧が上昇することによる電池変形を、従来の環状の薄い上部絶縁体を用いた場合と同程度に抑えることができる。
【0041】
上記のように、上部絶縁体15が溶融した場合でも、安全機構に悪作用を与えることを防止できるため、上部絶縁体15の構成材料としては、絶縁性で、弾性率の高い樹脂材料を、溶融点の高いものから低いものまで、特に限定することなく用いることができる。例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、耐熱性の高いエンジニアリングプラスチックなどを用いることができる。
【0042】
なかでも、上部絶縁体15の構成材料としては、ポリオレフィン樹脂のような熱可塑性樹脂が特に適している。熱可塑性樹脂は、溶融点が比較的低いが安価であり、また射出形成等により簡単に成形できる。よって、熱可塑性樹脂を用いることにより、上部絶縁体を低コストで作製できる。
【0043】
また、図1の電池においては、溝入れ部凸部6を上部絶縁体15の周縁鍔部17に当接させて、周縁鍔部17を電極体2に押さえ付けることにより、電極体2が外装缶1内に位置決めされている。これにより、電池に衝撃や振動が加わった場合でも、外装缶1内で、電極体2及び上部絶縁体15がずれることが抑制される。よって、電極体と電極タブ又は外装缶とが接触して、内部短絡が生じることを防止できる。
【0044】
図1に示されるように、上部絶縁体15において、本体部16の盛り上がり面22およびその反対側の面(上部絶縁体の下面)23の双方が、平坦面であることが好ましい。本体部16の盛り上がり面22を平坦面とすることにより、電池内部から封口体7内部へのガスの移動が妨げられにくくなる。また、上部絶縁体15の下面23を平坦面とすることにより、上部絶縁体15が電極体2に押し付けられたときに、電極体2が上部絶縁体15により破損することを防止できる。
【0045】
正極タブ14用の貫通孔18は、本体部16に設けられることが好ましい。貫通孔18を厚みのある本体部16に設けることにより、特に正極タブ14と外装缶1との接触による内部短絡をより確実に防止することができる。
【0046】
電池内のガスが充満できる空間を減少させることができれば、上部絶縁体15の本体部16は、中実であってもよいし、中空であってもよい。本体部16が中空である場合、本体部16は、その中空部が電池内の空間と連通しない構造とされる。
【0047】
図1に示される電池は、例えば、以下のようにして作製することができる。正極および負極の間にセパレータを介在させ、これらを渦巻状に巻回して電極体を作製する。このとき、正極に正極タブを溶接しておくとともに、負極に負極タブを溶接しておく。この後、電極体を上記のような上部絶縁体と環状の下部絶縁板とで挟み、この電極体を金属製の外装缶に挿入し、正極タブを封口体に溶接し、外装缶の内底部と負極タブとを溶接する。次いで、外装缶の上部外周部に、溝入れ部となる環状の凸部を形成する。このとき、凸部が上部絶縁体の周縁鍔部を当接し、電極体に押さえ付けるようにする。この後、外装缶内に非水電解質を注液し、外装缶の開口部の環状の凸部の上に絶縁ガスケットを介して封口体を配置し、外装缶の開口部を封口体にかしめ付けることにより、外装缶を密閉する。このようにして、密閉型電池が作製される。
【実施例】
【0048】
以下の実施例では、図1に示されるような円筒形リチウムイオン二次電池を作製した。
【0049】
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質として、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とコバルト酸リチウムとの混合物(質量比1:9)を用いた。正極活物質と、正極導電剤であるカーボンと、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)粉末とを、正極活物質:カーボン:PVdF=94:3:3の質量比で、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に投入、混練して、正極スラリーを調製した。
【0050】
正極スラリーを、厚さ15μmのアルミニウム箔製の芯体の両面に、ドクターブレード法により塗布し、乾燥し、圧縮ローラーで圧延して、正極集電体の両面に正極活物質層を形成した。こうして、正極板を得た。
【0051】
<負極の作製>
負極活物質である黒鉛粉末と、結着剤であるスチレンブタジエンゴム(SBR)(スチレン:ブタジエン=1:1)のディスパージョンとを、水に分散させた。得られた混合物に、更に、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)を添加し、混練して、負極スラリーを調製した。得られた負極スラリーにおいて、黒鉛とSBRとCMCとの質量比は、95:3:2とした。
【0052】
この負極スラリーを、厚みが10μmの銅箔製の芯体の両面に、ドクターブレード法により塗布し、乾燥し、圧縮ローラーで圧縮して、負極活物質層を形成した。こうして、負極板を得た。
【0053】
<電解質の調製>
フッ化エチレンカーボネート(FEC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とを20:80(体積比、20℃)の混合比で含む混合溶媒に、LiPFを1モル/リットルの濃度で溶解して、電解質を得た。
【0054】
<電池の組み立て>
正極板にアルミニウム製の正極タブを溶接し、負極板にニッケル製の負極タブを溶接した。こののち、正極板と負極板とポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータ(厚み22μm)とを捲回して、捲回型電極体を得た。
【0055】
得られた捲回型電極体の上下面にそれぞれ上部絶縁体及び環状の下部絶縁板を配置し、有底円筒形の外装缶内に上記電極体を挿入し、正極タブを封口体に溶接し、負極タブを外装缶の内底部に溶接した。
【0056】
ここで、上部絶縁体としては、図3に示されるような形状のものを用いた。上部絶縁体は、ポリプロピレンから構成した。なお、図3において、各寸法の長さの単位はmmである。このことは、図4〜6でも同じである。
【0057】
次に、外装缶の所定位置に、内側に突出した凸部を備える環状の溝入れ部を形成し、この溝入れ部凸部を上部絶縁体の周縁鍔部に当接させて、周縁鍔部を電極体に押さえ付けて、電極体を外装缶内に位置決めした。
【0058】
次いで、上記電解質5.2gを外装池缶内に注液し、封口体を絶縁ガスケットを用いてカシメ固定して、円筒形リチウムイオン二次電池を作製した。外装缶としては、有底円筒状の鉄製缶の表面に半光沢ニッケルメッキを施したものを用いた。
【0059】
封口体には、図1に示されるような、弁板と弁キャップとからなる、ガス排出と電流遮断とを備えた安全機構を設けておいた。この安全機構において、弁板が弁キャップから離れるときの設計圧力(電流遮断の設計圧力)は、1.0MPaとした。また、弁板が破断して、ガスを外装缶外に排出するときの設計圧力(ガス排出の設計圧力)は、2.0MPaとした。
【0060】
このようにして、18650サイズ(直径18mm、高さ65mm)の電池を作製した。作製した電池の定格容量は2000mAhとした。電池内上部空間における上部絶縁体の体積占有率は、77%とした。
【0061】
(実施例2)
図4に示される上部絶縁体を用いたこと以外、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。実施例2において、上部絶縁体の体積占有率は70%とした。
【0062】
(比較例1)
図5に示される上部絶縁体を用いたこと以外、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。比較例1において、上部絶縁体の体積占有率は17%とした。本比較例で用いた上部絶縁体は、従来一般的に用いられている環状の薄い絶縁板であり、本比較例における体積占有率は、従来のリチウムイオン二次電池における一般的な値である。
【0063】
(比較例2)
電解質量を5.6gとしたこと以外、比較例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。比較例2においても、上部絶縁体の体積占有率は17%とした。
【0064】
(比較例3)
図6に示される上部絶縁体を用いたこと以外、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。比較例3において、上部絶縁体の体積占有率は64%とした。
【0065】
(比較例4)
上部絶縁体の本体部の厚さを2.1mmとして、上部絶縁体の体積占有率を80%としたこと以外、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0066】
実施例1〜2及び比較例1〜4の各電池における上部絶縁体の体積占有率(%)及び電解質量(g)を表1に示す。
【0067】
[評価]
実施例1〜2及び比較例1〜4の電池を、以下のような過充電試験、バーナー試験、落下試験に供した。
【0068】
《過充電試験》
まず、実施例1〜2及び比較例1〜4の各電池を、3個ずつ、室温において、電流値2Aで、電池電圧が4.2Vになるまで充電して、満充電状態とした。
【0069】
この後、充電後の各電池を、室温において、2Aの充電電流で過充電した。このとき、過充電の開始後、電流遮断機構が作動するまでの時間を測定した。得られた結果を、電流遮断時間(分)として、表2に示す。
【0070】
《バーナー試験》
実施例1〜2及び比較例1〜4の各電池を、3個ずつ、上記過充電試験と同様にして、満充電状態とした。満充電状態の各電池の缶底をガスバーナーであぶった。バーナー試験は、電池内部よりガスが排出されたのを確認できた時点で終了した。
【0071】
試験前後の溝入れ部凸部の長さ(図1の長さL)を測定し、試験前の溝入れ部凸部の長さに対する試験後の溝入れ部凸部の長さの比を求めた。得られた結果を、溝入れ部変化率(%)として、表2に示す。溝入れ部凸部の長さは、画像処理測定装置を用いて測定した。
【0072】
《落下試験》
放電状態の実施例1〜3及び比較例1〜3の各電池を、電池の封口体側、電池の缶底部側、電池の任意の側面部が下となるように、1.85mの高さから1回ずつ落下させた。この3方向における1回ずつの落下を1セットとし、10セットを行った。
【0073】
試験前後の電池の質量を測定して、試験後の電池質量の減少量を求めた。得られた結果を、減少量(mg)として、表2に示す。この落下試験は、実施例及び比較例の各電池につき、3個ずつ行った。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
過充電試験において、体積占有率が70%の実施例2の電池の平均電流遮断時間は33.7分であるのに対し、体積占有率が17%の比較例1及び体積占有率が64%の比較例3の各電池の平均電流遮断時間は、それぞれ36.2分及び34.2分であり、0.5分以上長くなっている。よって、上部絶縁体の体積占有率を70%以上とすることにより、安全機構の作動タイミングを早めることができることがわかる。
【0077】
バーナー試験において、体積占有率が77%の実施例1の電池の平均溝入れ部変化率は120.7%であり、従来より一般的に用いられている上部絶縁体(体積占有率17%)を用いた比較例1及び2の電池の平均溝入れ部変化率(112.3%及び110.3%)と同程度であった。
【0078】
一方で、体積占有率が80%の比較例4の電池は、平均溝入れ部変化率が135.7%であり、実施例1の電池の平均溝入れ部変化率より15%程度大きくなっていた。比較例4の電池において、溝入れ部変化率が大きくなったのは、以下のように考えられる。すなわち、バーナーの熱により、ポリプロピレン製の上部絶縁体が溶融し、その溶融物が、弁キャップに設けられたガス抜き孔を部分的に塞ぎ、電池内から封口体内へのガスの排出効率が低下する。その結果、安全機構が作動するまでの間に、電池内圧が増加し、電池が変形したと考えられる。よって、上部絶縁体の体積占有率の上限値を77%とすることにより、電池内温度の上昇により、熱可塑性樹脂からなる上部絶縁体が溶融した場合でも、平均溝入れ部の変化を、従来と同程度に抑制することができる。
【0079】
なお、従来、安全機構を速やかに作動させるために、電池内に充填される電解質量を増加させて、ガスが充満できる空間を減少させる工夫が行われてきた。電解質量を5.6gとした比較例2と、電解質量を5.2gとした実施例1〜2とを比べると、平均電流遮断時間は同程度であるが、落下試験における実施例1〜2の電池の質量の平均減少量はそれぞれ0.7mg及び0.3mgと非常に少ないのに対し、比較例2の電池の質量の平均減少量は23.0mgと大きくなっている。
【0080】
この結果から、電解質量を増加した場合、電解質が漏液しやすくなることが分かる。さらに、電解質量を増加させることは、電池コストの増加を招く。また、電解質量を増加させた場合、電解質の漏液が生じやすくなるため、電池のシール性を高める必要も生じる。このことも、電池コストのさらなる増加を招く。
【0081】
一方で、本発明では、上部絶縁体の体積を増加させることにより、ガスが充満できる空間を減少させており、電解質量を増加させる必要がないため、電池のシール性を従来よりも高める必要がない。特に、ポリプロピレンのようなポリオレフィン樹脂からなる上部絶縁体は、安価に製造できる。よって、本発明により、電池コストを大きく増加させることなく、電池の安全性が高めることができる。
【0082】
(追加事項)
上記実施例では、リチウムイオン二次電池を例として説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ニッケル−水素蓄電池やニッケルカドミウム蓄電池等の密閉型電池にも適用できる。また、上記実施例では、ガス排出と電流遮断とを備えた安全機構を用いたが、所定の電池内圧で作動して、電池内のガスを電池外に放出するガス放出弁のみからなる安全機構を用いてもよい。
【0083】
上部絶縁体の本体部及び周縁鍔部の厚さ、並びに周縁鍔部の幅は、上部絶縁体の体積占有率、溝入れ部凸部の寸法等に応じて適宜選択される。また、上部絶縁体の本体部の形状は、円柱状に限定されない。例えば、弁キャップのガス抜き孔が塞がれにくくなるように、円柱体の上部が凹状に凹んだ本体部を用いることもできる。
【0084】
また、上部絶縁体15は、外装缶1と電極体2との接触により内部短絡を防止するため、電極体2の径と同じかそれ以上の径を有することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上説明したように、本発明によれば、内部短絡を防止できるとともに、電池内圧が上昇したときに安全機構が速やかに作動する密閉型電池を簡便な手法で実現できる。よって、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0086】
1 外装缶
2 捲回型電極体
3 正極
4 負極
5 セパレータ
6 溝入れ部凸部
7 封口体
8 絶縁ガスケット
9 端子キャップ
9a、11a ガス抜き孔
10 弁板
11 弁キャップ
12 PTC素子
13 内部ガスケット
14 正極タブ
15 上部絶縁体
16 本体部
17 周縁鍔部
18 貫通孔
19 電池内上部空間
20 封口体の下面
21 電極体の封口体側端面
22 本体部の盛り上がり面
23 上部絶縁体の下面
24 接続部
25 仮想平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する有底円筒形の外装缶と、
電池内圧の増大によって作動する安全機構を有する封口体と、
絶縁ガスケットと、
前記外装缶の内部に収容された電極体と、
前記外装缶の内部で且つ前記電極体の上面に収納配置された絶縁体と、を備え、
前記外装缶の開口部が、前記絶縁ガスケットを介して前記封口体によりカシメ封口された密閉型電池において、
前記外装缶は、内側に突出した凸部を備える溝入れ部を有し、
前記絶縁体は、周縁鍔部と、前記周縁鍔部に続く前記周縁鍔部よりも一方面側が盛り上がった肉厚の本体部と、を有してなり、
前記絶縁体は、前記本体部の盛り上がり面を前記封口体側に向けた状態で、前記溝入れ部凸部よりも前記電極体側に配置され、
前記溝入れ部凸部が前記絶縁体の周縁鍔部に当接することによって、前記電極体が外装缶内に位置決めされた構造であり、
前記電極体の封口体側の端面と前記封口体の下面との間でかつ前記外装缶の内壁と前記絶縁ガスケットとで囲まれた電池内空間内に占める前記絶縁体の体積占有率が、70〜77%に規制されている、
ことを特徴とする密閉型電池。
【請求項2】
請求項1に記載の密閉型電池において、
前記絶縁体が、熱可塑性樹脂からなる、
ことを特徴とする密閉型電池。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の密閉型電池において、
前記絶縁体本体部の盛り上がり面およびその反対側の面の双方が、平坦面である、
ことを特徴とする密閉型電池。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の密閉型電池において、
前記電極体は、前記電極体と前記封口体とを電気的に接続する電極タブをさらに備え、
前記絶縁体には、前記電極タブを通す貫通孔が設けられている、
ことを特徴とする密閉型電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−93294(P2013−93294A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236287(P2011−236287)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】