説明

密閉形スクロール圧縮機

【課題】本発明の目的は、スクロール圧縮機の性能向上とモータプロテクタの小型化・圧縮機の小型化を同時に図った密閉形スクロール圧縮機を提供する。
【解決手段】フレーム下方部に設けたバランスウエイトの外縁部近傍にあって、モータ電流の異常増加とガス温度の異常増加によりモータコイルを通電せしめるモータ回路をダイレクトカット機能を有するモータプロテクタ手段をモータコイルエンド部の上方部に絶縁シート手段を介して縛りひもにて固定したことを特徴とするヘリウム用密閉形スクロール圧縮機。
【効果】本発明によれば、該バランスウエイト周囲の高速なガス流れによるモータプロテクタへの強制冷却効果によって該プロテクタの小型化と圧縮機の小型化が図れる。またバランスウエイトによる攪拌損失の低減効果が得られ、省エネルギーを同時に実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に関し、特に、冷凍・空調用のヘリウム用スクロール圧縮機の全体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘリウム用スクロール圧縮機における従来の公知例として、特許文献1に開示されているように、モータ保護装置となるモータプロテクタを内蔵した構造例がある。また、冷凍・空調用のスクロール圧縮機においては、特許文献2に開示されているように、フレーム下方部のモータ室にバランスウェイトを配置した構造例がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−009777号公報
【特許文献2】特開2009−281165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、モータ室内のガス流による冷却効果が発揮できるように吐出管近傍の位置としているため、モータプロテクタの配置に制約ができることになる。このため、モータのコイルエンド部の中性点リード線とプロテクタ端子部との結線作業およびプロテクタの固定作業性にも制約が伴い、モータのコイルエンド成形作業性にも融通性がなくなり、モータ製作作業全体のコストが増加する。
【0005】
また、プロテクタ周囲のガス流速が2〜3m/S前後と低く、ガス流によるプロテクタへの冷却作用にも限界があり、モータプロテクタの電流容量を増加させなければならず、該プロテクタの更なる小型化ができないという課題がある。
【0006】
また、モータプロテクタの電流容量増加に伴うモータプロテクタ本体の寸法アップによって、モータ室のスペース拡大と高さ方向の増加が必要となり、延いては圧縮機全高が高くなるとともに、圧縮機全体としての大型化・重量増加という課題が懸念される。
【0007】
本発明は、モータプロテクタの冷却効果を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的は、
密閉容器内に、スクロール圧縮機部と電動機部を収納すると共に、前記スクロール圧縮機部は円板状鏡板に渦巻状のラップを直立する固定スクロールと旋回スクロールとをラップを互いに内側にしてかみ合わせ、旋回スクロールを回転軸に連設する偏心機構に係合し、旋回スクロールを自転することなく固定スクロールに対し旋回運動させ、固定スクロールには中心部に開口する吐出口と外周部に開口する吸入口を設け、吸入口よりガスを吸入し、両スクロールにて形成される圧縮室を中心に移動させ容積を減少してガスを圧縮し、吐出口より圧縮ガスを吐出した密閉形スクロール圧縮機において、
フレーム下方部に設けたモータ室内のバランスウェイトの外縁部近傍にあって、モータ電流の異常増加とガス温度の異常増加によりモータコイルを通電せしめるモータ回路をダイレクトカット機能を有するモータプロテクタ手段をモータコイルエンド部の上方部に絶縁シート手段を介して縛り紐にて固定したことを特徴とする密閉形スクロール圧縮機構造により達成される。
【0009】
また、上記本発明の目的は、
モータによって駆動される回転軸と、
前記回転軸の回転によって駆動されるスクロール圧縮機部と、
回転による前記スクロール圧縮機部のアンバランスを打ち消すためのバランスウェイトと、
前記モータのモータコイルエンドに固定されたモータプロテクタとを備えた密閉形スクロール圧縮機において、
前記モータプロテクタは、前記モータコイルエンドに縛り紐により固定され、
前記バランスウェイトは、その回転により、前記モータプロテクタの近傍に流れを発生させる部分を有する
ことを特徴とする密閉形スクロール圧縮機
により達成される。
【0010】
上記バランスウェイトは、半円筒状の第一の重り部とこれより径の小さい半円筒状の第二の重り部からなり、第一の重り部の外縁部寸法R1は上側モータコイルエンド部の外半径Rm2,内側半径Rm2とのほぼ中間の寸法関係となるR1≒(Rm1+Rm2)/2に設定すること、または、R1>(Rm1+Rm2)/2に設定することを特徴とする。
【0011】
また、油インジェクションによる冷却機能を備えたヘリウム用密閉形スクロール圧縮機において上記構造を適用するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、モータプロテクタの冷却効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の縦形タイプのヘリウム用密閉形スクロール圧縮機の全体構造の一実施例を示す縦断面図。
【図2】モータステータ3a縦断面図。
【図3】モータステータ3a平面図。
【図4】モータプロテクタ91周囲のモータ回路図例である。
【図5】バランスウェイト9の平面図。
【図6】バランスウェイト9の縦断面図。
【図7】図1のA−A断面図。
【図8】ガス案内通路手段47周辺部の縦断面図。
【図9】図1のバランスウェイト9がモータプロテクタ91に接近した状態を示す部分断面図。
【図10】図1の上からみた圧縮機平面図。
【図11】本発明のヘリウム用スクロール圧縮機を適用した冷凍システム全体を示す系統図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を用いて本発明の一実施例を詳細に説明する。図1は、縦形構造における注油式密閉形ヘリウム用スクロール圧縮機の一実施例を示す縦断面図である。図2と図3は、モータステータ3aとモータプロテクタ91を組み合わせた部品まとめを示す縦断面図と平面図である。図4は、モータ回路図である。図5と図6は、バランスウェイト9の平面図と縦断面図である。
【0015】
該バランスウェイト9は、軸の回転によるスクロール圧縮機部のアンバランスを打ち消すためのものであり、旋回スクロール6の旋回運動に伴い発生する遠心力とロータウエイト12側の遠心力を相殺するための部品で、フレーム7の下方部にあってモータ室1b1の上方部に設置している。
【0016】
該バランスウェイト9は、半円筒状の第一の重り部9aとそれより径の小さな半円筒状の第二の重り部9bからなる。
【0017】
図1において、密閉容器1内に、スクロール圧縮機部(5,6)とモータ部3を収納すると共に、前記スクロール圧縮機部は円板状鏡板に渦巻状のラップを直立する固定スクロール5と旋回スクロール6とをラップを互いに内側にしてかみ合わせ、旋回スクロール6を回転軸14に連設する偏心軸14aに係合し、旋回スクロール6を自転することなく固定スクロール5に対し旋回運動させ、固定スクロール5には中心部に開口する吐出口10と外周部に開口する吸入口15を設け、吸入口15よりガスを吸入し、両スクロール5,6にて形成される圧縮室8を中心に移動させ容積を減少してガスを圧縮し、吐出口10より圧縮ガスを容器室(吐出室)1a内、連通路18(18a,18b)を介して、モータ室1bに移動させ、さらに吐出管20を介し器外にガスを吐出する密閉形スクロール圧縮機構造を示す。
【0018】
作動ガスがヘリウムガスである場合には、作動ヘリウムガスを冷却するための油インジェクション管31を密閉容器1に貫通して前記固定スクロール5の鏡板部5aに設けた油注入用のポート22に接続した油注入機構部を備える。前記吐出口10から吐出されたインジェクション油がミスト状油となって、ヘリウムガスとの混合流体の流れとなり、上記容器室1aから、連通路18(18a,18b)介して、モータ室1bに移動することになる。
【0019】
上記フレーム7の外縁部に設けた通路18bの下流側に、図7,図8に示すように矩形状の上記混合流体のガス案内通路手段47を設ける。該ガス案内通路手段47は油分離機構となるのもので、該通路手段の出口部47bは水平方向流れとなるように、上記鉛直方向の流れを方向変換するために衝突板部47aを設ける。該ガス案内通路手段47の開口部47bは、対向するモータコイルエンド部3gの外側面部に対向するように設定している。
【0020】
前記した図1と図7に示すように、フレーム下方部に設けたバランスウェイト9の外縁部近傍にあって、モータ電流の異常増加とガス温度の異常増加によりモータコイルを通電せしめるモータ回路をダイレクトカット機能を有するモータプロテクタ91をモータコイルエンド部3g,3cの上方部に薄膜状の絶縁シート手段150aを介して縛り紐186にて固定している。
【0021】
モータ回路図を図4に示す。スター結線の中性点3kにモータプロテクタ91を装備する回路となる。3相に対してモータプロテクタ91に2箇所の接点部91p(電流遮断部)を構成し、本構成により、モータ電流の異常増加とガス温度の異常増加によりモータコイル部3eを通電せしめるモータ回路をダイレクトカット機能を有するモータプロテクタ91を示したものである。このため、該接点部は常時閉じている。異状時に開くものである。
【0022】
図3に示すように、91a,91b,91cは、プロテクタピン部である。3eはモータコイル部である。なお、70aはハーメチック端子である。図4において、該接点部91p,91p2の構造としては、バイメタル方式構造(図示せず)がある。なお、該モータプロテクタ91は、雰囲気温度が正常時に戻れば、バイメタル方式構造により、接点が閉じて再度回路に電流が流れるという自動復帰式である。
【0023】
図2と図5に示すように、バランスウェイト9の重り部9aの外半径寸法R1は、モータコイルエンド部3g,3cの外半径Rm2,内側半径Rm2との寸法関係を、R1≒(Rm1+Rm2)/2に、即ち同等寸法に設定している。または、更に乱流の流れを誘起させるために、R1>(Rm1+Rm2)/2に設定するものである。
【0024】
また、プロテクタを配置する中心位置(径寸法位置)となるRpu寸法(図3)に対して、重り部9aの外半径寸法のR1寸法と同程度とする。重り部9bの外半径R2寸法は、コイルエンド部内側寸法Rm2より適宜小さい寸法としている。本構成とすることにより、バランスウェイト9の外縁部となる錘り部9a周囲の周速が数十m/秒となり(圧縮機の径が数十mm、回転数が数千回転の場合)、モータ室1b1内のガス流(もしくは油との混合体)が、該バランスウェイト9に衝突して流れに乱れを促進し、乱流域でのプロテクタ周囲・雰囲気条件となさしめることができ、該混合体によるモータプロテクタ91への強制冷却効果を高くすることができる。図7に、該バランスウェイト9周囲の乱れた混合体の流れ様相を示す。
【0025】
分かりやすく言うと、バランスウェイトの形状を工夫してモータプロテクタ91の周囲を掻き混ぜることにより、モータプロテクタ91を冷却するものである。バランスウェイト9は、その回転により、モータプロテクタの近傍(実施例では、その上面及び側面)に流れを発生させる部分を有する。これが、半円筒状の第一の重り部9a、及び、それより径の小さな半円筒状の第二の重り部9bである。当該部分によって密閉容器内に乱流を発生させ、モータプロテクタ91を冷却させる。
【0026】
従って、モータプロテクタ91をその乱流の中に配置するために、縛り紐186にてモータコイルエンド部3g,3cの上方部に固定している。モータプロテクタ91とモータコイルエンド部3g,3cとの間には絶縁シート手段150aを配設している。縛り紐186で固定することで、モータプロテクタ91とバランスウェイト9との距離を可及的に小さくして乱流をモータプロテクタ91に最大限ぶつけることが可能となる。モータプロテクタ91をカバーなどで覆うことなく剥き出しにすれば冷却効果が高まることは言うまでも無い。
【0027】
なお、従来機においては、掻き混ぜる手段が無くプロテクタ周囲の流速は数m/秒程度以下であるので、本実施例においては、約十倍の冷却効果が得られることになる。また、モータコイルエンド部3g,3cの上部への冷却効果(コイルエンド本体への油とガスの混合流体による強制冷却作用)も得られ、モータコイル温度も低下させることができる。
【0028】
なお、図7に示すように、モータプロテクタ91は、前記混合流体のガス案内通路手段47と吐出管20のほぼ中間位置のコイルエンド部上面に配置する。従来例の吐出管20の流出口近傍に設置する必要はなく、プロテクタの配置に大きな制約事項はなくなる。
【0029】
また、図9に示すように、階段状のバランスウェイト9の外側空間の近傍となるコイルエンド3cの上部にモータプロテクタ91を配置し、第二の重り部9bの下端面9kがロータエンドリング3jに対向するように軸方向に延伸して設定し、本構造にて該バランスウェイト9の小型化,コンパクト化を図ると共に、該空間(モータ室1b1)の省スペース化を図る。
【0030】
図1から図3及び図7,図9に示すように、モータプロテクタ91は、本体外郭部表面が充電露出部としており、上記したように該モータプロテクタ91の下端面とモータコイルエンド部の上方端面部とを薄膜状の絶縁シート手段150aのみを介して、縛り紐186(186a,186b)にて固定した、いわゆる裸の状態で固定する構造にする。該絶縁シート手段150aとしては、比較的軟質性で耐熱性があるポリエステル系合成樹脂材(シート材)がある。
【0031】
本構成により、該モータプロテクタ91の周囲を流れるガス流または、油との混合流体による強制冷却機能を大きく向上させることができるので、モータプロテクタの最大作動電流値となる過負荷条件におけるMCC値を更に高くすることができる。また過電流の遮断部となるプロテクタ接点部91pの長寿命化を更に図ることができる。11は、バランスウェイト9とモータロータ3bの軸方向位置を決める円筒状のカラー部材である。上記のとおり、本実施例では、バランスウェイト9の形状とコイルエンド部の寸法とモータプロテクタ配置とを特定し、三者の関係を設定している。なお61は補助フレームであり、64は補助軸受である。
【0032】
図1に示すように、圧縮機上部の吸入管17と油インジェクション管31をエルボ構造とし、その両者の高さをほぼL=L関係とする。このために、吸入管サイズを吐出管サイズより小さくする。例えば、吸入管サイズを5/8インチサイズとし、吐出管サイズを3/4インチサイズとしている。一方、油インジェクション管31のサイズは1/2インチサイズとする。即ち、圧縮機上部の吸入管と油インジェクション管をエルボ構造とするとともに、吸入管サイズを吐出管サイズ(外径)より約15%程度小さくして、吸入管位置高さと油インジェクション管位置高さをほぼ同一高さとする。
【0033】
本構成とすることにより、ヘリウム用密閉型スクロール圧縮機の全高さを低く設定できる。このため、圧縮機ユニットの小型・軽量化にも波及効果が得られる。通常の空調用圧縮機では、吸入管サイズは吐出管サイズより2ランクから3ランク大きい外径サイズの50%増加となる。このような構造は、ヘリウム圧縮機固有な構造となる。
【0034】
ここで、図1のヘリウム用スクロール圧縮機を例にとり、作動ヘリウムガスの流れとインジェクションされた冷却油の流れを説明する。図1において、ヘリウムガスを冷却するための油インジェクション管31を密閉容器1の上フタ2aに貫通して固定スクロール5の鏡板部5aに設けた油注入用のポート22に接続し、該ポート22の開口部は、旋回スクロール6のラップ6bの歯先面に対向して開口している。
【0035】
密閉容器1内の吸入管17側となる上部にはスクロール圧縮機構部が、下側にはモータ部3が収納されている。そして、密閉容器1内は吐出室1aとフレーム7をはさんでモータ室1bとに区画されている。スクロール圧縮機構部は、固定スクロール5と旋回スクロール6を互いに噛み合せて圧縮室(密閉空間)8を形成している。固定スクロール5は、円板状の鏡板5aと、これに直立したインボリュート曲線あるいはこれに近似の曲線に形成されたラップ5bとからなり、その中心部に吐出口10、外周部に吸入口15を備えている。旋回スクロール6も円板状の鏡板6aと、これに直立し、固定スクロールのラップと同一形状に形成されたラップ6bと、鏡板の反ラップ面に形成されたボス部6cとからなっている。
【0036】
フレーム7は中央部に主軸受40を形成し、この軸受部に回転軸14が支承され、回転軸先端の偏心軸14aは、上記ボス部6cに旋回運動が可能なように挿入されている。またフレーム7には固定スクロール5が複数本のボルトによって固定され、旋回スクロール6はオルダムリングおよびオルダムキーよりなるオルダム機構38によってフレーム7に支承され、旋回スクロール6は固定スクロール5に対して、自転しないで旋回運動をするように形成されている。回転軸14にはモータ軸14bを一体に連設し、モータ部3を直結している。固定スクロール5の吸入口15には密閉容器1の上フタ2aを貫通して吸入管17が接続され、吐出口10が開口している吐出室1aはフレーム7の外縁部の通路18a,18bを介してモータ室1b(1b1,1b2)と連通している。
【0037】
このモータ室1bは密閉容器中央部のケーシング部2bを貫通する吐出管20に連通している。吐出管20は上記通路18a,18bの位置に対してほぼ反対側の位置に設置している。モータ室1bは、モータステータ3aの上部空間(モータ室1b1)とモータステータ3aの下部空間(モータ室1b2)とに区分している。この両側の空間(1b1,1b2)を連通するように、モータステータ3aとケーシング部2b内壁面2m側との間に油とガスの流路部となる円弧状の通路25(25a,25b,25c,25d、図3,図7参照)を形成している。また、モータエアーギャップの隙間26も通路となり、該隙間26を介して空間(モータ室1b1)と空間(モータ室1b2)とが連通している。
【0038】
このような容器内部のモータ室1b1,1b2のガスと油の混合体の流れによって、60℃〜70℃の比較的低温なインジェクション油によるモータへの直接冷却及び本実施例の構成であるモータプロテクタ91本体部と周辺部への直接冷却が可能となる。その空間(モータ室1b1)にて、ガス中の油はガスから分離されて下方に通路25を介して周囲部材3a,3h,3g,2b,7,14を冷却しながら流れるものである。
【0039】
なお図3の3fは排出管74を通す半円弧状溝部である。またOfは、モータ中心軸である。吸入管17と固定スクロール5との間には高圧部と低圧部とをシールするOリング53を設けている。また、旋回スクロール6の鏡板の背面には、スクロール圧縮機部2とフレーム7で囲まれた空間36(以下背圧室と呼ぶ)が形成され、この背圧室36には旋回スクロールの鏡板に穿設した細孔6d(図1参照)を介し、吸入圧力と吐出圧力の中間の圧力Pbが導入され、旋回スクロール6を固定スクロール5に押付ける軸方向の付与力を与えている。
【0040】
潤滑油23は密閉容器1の底部に溜められており、この潤滑油23は回転軸14a,14b内に設けた偏心穴13による遠心ポンプ効果により油吸上管27へ吸上げられるとともに回転軸14内を流れ、旋回軸受32に供給される。該旋回軸受32に供給されて排出された油は、ころ軸受の主軸受40に落下しフレーム下端部に移動して排出管74に導かれて、底チャンバ部の油溜め部に戻るようになる。
【0041】
一方、前記旋回軸受32に供給されて排出された油は、環状のシールリング構造からなるシール手段85を経て、背圧室36に移動する。背圧室36に移動した油は、前記穴6dを介してスクロールラップの圧縮室8へ注入され圧縮ガスと混合され、次いでヘリウムガスと共に吐出室1aへ吐出される。前記密閉容器1の底部には、該底部の潤滑油23を器外へ取出す油取り出し管30が設けられている。
【0042】
図11は、前記の圧縮機100をヘリウム用スクロール圧縮機ユニット装置800およびヘリウム冷凍装置の実施例である。図11に示すように、密閉容器1の底部に溜められた潤滑油23は、密閉容器1内の圧力(吐出圧力Pd)と前記圧縮室8の圧力(吐出圧力と吸入圧力との間の圧力)との差圧によって油取り出し管30の流入部30aから該油取り出し管30内に流入していく。油取り出し管30内へ流入した油は外部油配管51を通って油冷却器33へ至り、ここで適宜冷却された後、油配管36a,36bを介して油インジェクション管31およびポート22を経て差圧を利用し流入せしめ圧縮室8へ注入される。271は、油流量調節弁である。この様にして圧縮室8へ注入された油は、該圧縮室8内において作動ガスの冷却作用およびスクロールラップ先端部等の摺動部を潤滑する役目を果す。
【0043】
吐出管20から吐出されたヘリウムガスはガス冷却器710を経て、油分離器700に至り、ここで油を分離した後、油吸着器812に至り、配管720に移動し、次にヘリウムガスはヘリウム冷凍機860で断熱膨張し、冷熱源を発生し、極低温が得られる。その後、再び配管730、さらにサージタンク732を経て吸入管路736を通り、常温の吸入ガスとして圧縮機100に戻る。油配管740は、油分離器700と吸入配管736とを接続して、分離した油を圧縮機吸入側に戻すものである。なお、本構造は、油インジェクション構造を備えていない空調用・冷凍用密閉形スクロール圧縮機においても、上記したヘリウム用密閉形スクロール圧縮機と同一の作用・効果が得られるものである。
【0044】
以上の実施例によれば、モータプロテクタの冷却効果を高めることができる。これによって、モータプロテクタ自体の小型化が可能となり、延いては圧縮機の小型化を図ることができる。そして小型の密閉形スクロール圧縮機を提供することができる。
【0045】
より具体的には、以下の通りである。
【0046】
バランスウェイト周囲のガス流と油ミストとの混合体の流速は、数十m/s以上(例えば40〜)となることから、この高速流速によるモータプロテクタ全体の強制冷却効果が最大限に発揮できる。該プロテクタの周囲を流れる乱流のガス流または、油との混合流体による強制冷却機能が大きく向上することで、上記のモータプロテクタの最大作動電流値(MCC値)を更に高くすることができる。即ち該プロテクタの作動電流上限の増加、延いてはプロテクタの小型化を図ることができるものである。
【0047】
また、バランスウェイト周囲のガス流速は高速でほぼ均一であるため、モータプロテクタの配置に制約がなくなり、取付性が向上する。また、上記の効果とともに、モータ室のスペースの狭小化を図ることができるので、圧縮機の高さ寸法を低く設定でき、圧縮機の小型化への効果がある。
【0048】
更に、高速の混合体の流れを誘起することにより、プロテクタ本体の冷却効果とともに、周辺のコイルエンド上部への強制冷却効果も発生するので、コイル温度の低下効果も発揮できて、モータ自体の長寿命化が図れる。
【0049】
特に、ヘリウム用スクロール圧縮機においては、圧縮機高さの吸入管と油インジェクション管をエルボ構造とし、その両者の高さをほぼ同一高さの関係としているため、低背丈なコンパクトの圧縮機構造となり、圧縮機ユニットの小型・軽量化が図れる。延いては低コスト化が実現できる。
【符号の説明】
【0050】
1 密閉容器
1b,1b1,1b2 モータ室
3 モータ部
3a モータステータ
3b モータロータ
3h,3g モータコイルエンド部
5 固定スクロール
6 旋回スクロール
7 フレーム
8 圧縮室
9 バランスウェイト
10 吐出口
14 回転軸
14a 偏心軸
15 吸入口
17 吸入管
18a,18b,25 通路
20 吐出管
22 ポート
23 潤滑油
30 油取り出し管
31 油インジェクション管
32 旋回軸受
38 オルダム機構
40 主軸受
47 ガス案内通路手段
91 モータプロテクタ
150a 絶縁シート手段
186 縛り紐

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に、スクロール圧縮機部と電動機部を収納すると共に、前記スクロール圧縮機部は円板状鏡板に渦巻状のラップを直立する固定スクロールと旋回スクロールとをラップを互いに内側にしてかみ合わせ、旋回スクロールを回転軸に連設する偏心機構に係合し、旋回スクロールを自転することなく固定スクロールに対し旋回運動させ、固定スクロールには中心部に開口する吐出口と外周部に開口する吸入口を設け、吸入口よりガスを吸入し、両スクロールにて形成される圧縮室を中心に移動させ容積を減少してガスを圧縮し、吐出口より圧縮ガスを吐出した密閉形スクロール圧縮機において、フレーム下方部に設けたモータ室内のバランスウエイトの外縁部近傍にあって、モータ電流の異常増加とガス温度の異常増加によりモータコイルを通電せしめるモータ回路をダイレクトカット機能を有するモータプロテクタ手段をモータコイルエンド部の上方部に絶縁シート手段を介して縛りひもにて固定したことを特徴とする密閉形スクロール圧縮機。
【請求項2】
モータによって駆動される回転軸と、
前記回転軸の回転によって駆動されるスクロール圧縮機部と、
回転による前記スクロール圧縮機部のアンバランスを打ち消すためのバランスウェイトと、
前記モータのモータコイルエンドに固定されたモータプロテクタとを備えた密閉形スクロール圧縮機において、
前記モータプロテクタは、前記モータコイルエンドに縛りひもにより固定され、
前記バランスウェイトは、その回転により、前記モータプロテクタの近傍に流れを発生させる部分を有する
ことを特徴とする密閉形スクロール圧縮機。
【請求項3】
請求項1または2記載のバランスウエイトは、半円筒状の第一の重り部とこれより径の小さい半円筒状の第二の重り部からなり、第一の重り部の外縁部寸法R1は、上側モータコイルエンド部の外半径Rm2,内側半径Rm2とのほぼ中間の寸法関係となるR1≒(Rm1+Rm2)/2に設定すること、または、R1>(Rm1+Rm2)/2に設定することを特徴とする請求項1記載の密閉形スクロール圧縮機。
【請求項4】
作動ガスがヘリウムガスであり、密閉容器内に、スクロール圧縮機部と電動機部を収納すると共に、前記スクロール圧縮機部は円板状鏡板に渦巻状のラップを直立する固定スクロールと旋回スクロールとをラップを互いに内側にしてかみ合わせ、旋回スクロールを回転軸に連設する偏心機構に係合し、旋回スクロールを自転することなく固定スクロールに対し旋回運動させ、固定スクロールには中心部に開口する吐出口と外周部に開口する吸入口を設け、吸入口よりガスを吸入し、両スクロールにて形成される圧縮室を中心に移動させ容積を減少してガスを圧縮し、吐出口より圧縮ガスを吐出し、上記作動ヘリウムガスを冷却するための油インジェクション管を密閉容器に貫通して前記固定スクロールの鏡板部に設けた油注入用ポートに接続した油注入機構部を備えたヘリウム用密閉形スクロール圧縮機において、フレーム下方部に設けたモータ室内のバランスウエイトの外縁部近傍にあって、モータ電流の異常増加とガス温度の異常増加によりモータコイルを通電せしめるモータ回路をダイレクトカット機能を有するモータプロテクタ手段をモータコイルエンド部の上方部に絶縁シート手段を介して縛りひもにて固定したことを特徴とするヘリウム用密閉形スクロール圧縮機。
【請求項5】
請求項3記載の階段状のバランスウエイトにおいて、第二の重り部の下端面がロータエンドリング上面に対向するように軸方向に延伸して設定したことを特徴とする請求項1記載または請求項3記載の密閉形スクロール圧縮機。
【請求項6】
圧縮機上部の吸入管と油インジェクション管をエルボ構造とするとともに、吸入管サイズを吐出管サイズより小さくして、吸入管位置高さと油インジェクション管位置高さをほぼ同一高さとしたことを特徴とする請求項1記載または請求項4記載の密閉形スクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−52490(P2012−52490A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197249(P2010−197249)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】