説明

対物レンズ、および対物レンズを備える光学データ記憶装置

【課題】近視野光学領域でも遠視野光学領域でも適用可能な互換ドライブ用対物レンズ、および対物レンズを備える光学データ記憶装置を提供する。
【解決手段】遠視野モードと近視野モードとの間で切替可能な対物レンズ2であり、レンズ4と、可変屈折率を有する光学素子8と、固浸レンズ6とを共通光軸A上に配列して備え、光学素子8は、固浸レンズ6の凸側面9に配置され、光軸Aの方向に互いに隣接して配置された上面5および下面7を有し、下面7は、固浸レンズ6の凸側面9の形状に適合された凹形状を有し、上面5は、固浸レンズ6の凸側面9の曲率よりも小さい曲率を有し、遠視野モードでは光学素子8と固浸レンズ6との屈折率の差が小さく、固浸レンズ6と光学素子8は実質的に単一の光学素子として機能するのに対し、前記差が近視野モードでは大きく、そのため固浸レンズ6の光学効果は近視野モードで著しくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠視野モードと近視野モードの間で切替可能な対物レンズに関し、さらに、光記録媒体から読み出し、かつ/または光記録媒体に書き込むための、上述の対物レンズ付きの光ヘッドを備える装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、情報技術は、より複雑な用途またはマルチメディアの用途により、増大するデータ量に直面している。したがって、高記憶容量を有する取り外し可能データ記憶デバイスが、例えば高解像度の映画またはビデオゲームで必要とされる。情報技術のかなり初期には磁気記憶デバイスが支持されたが、現在ではCD(コンパクトディスク)、DVD(デジタル多目的ディスク)またはBD(ブルーレイディスク)などの光記憶媒体が、取り外し可能データ記憶媒体の市場で優位を占めている。
【0003】
光学データの記憶は一般に、読出し/書込みシステムの光学解像度によって制限される。光学解像度を高める直截な方法には、集束ビームおよび開口角すなわち開口数NAを、レンズの複雑さを代償として広げることが含まれる。さらなる手法は、光記録媒体の許容傾斜限界を狭めること、または走査レーザの波長を青色もしくは近紫外線の範囲内まで短くすることである。光学データ記憶システムの焦点スポットサイズを縮小する別の手法は、高開口数を有する近視野光学部品を使用することである。この高開口数は、一般に固浸レンズ(SIL)を利用して得られる。CD、DVDまたはBDのような従来のシステムは、古典光学によって記述される光学遠視野領域で動作するのに対して、上述の新システムは、近視野光学によって記述される光学近視野領域で作動する。従来のシステムでは、作動距離、すなわち光記憶媒体の表面と読出し/書込みヘッドの第1の光学面との間の空隙は100μm程度である。対照的に、近視野光学を用いるシステムでは、50nm程度の非常に小さな作動距離すなわち空隙が必要になる。近視野光学部品を用いて記録および/または読出しをする光学記憶システムが開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
異なる記憶媒体の間での互換性を実現するために、いわゆる互換ドライブが必要になる。これらのドライブは、異なる媒体世代、例えばブルーレイディスクならびに近視野光記憶媒体に属する記憶媒体から読み出し、かつ/またはそれに書き込むことができる。したがって、このような互換ドライブの光ヘッドは、近視野領域だけでなく遠視野領域でも作動できる必要がある。既知の手法は、それぞれのデータ記憶装置の光ヘッド内に2つの対物レンズを含むことである。第1の対物レンズは遠視野領域で使用されるのに対して、第2の対物レンズは近視野領域で使用される。各対物レンズは、その個別の目的用に設計されている。しかし、このような光ヘッドは、通常壊れやすく高価である。
【0005】
代替的解決策が開示されている(特許文献2参照)。光ヘッドが、レンズおよび光学ユニットからなる対物レンズを含む。この光学ユニットは、補正ボードおよび固浸レンズを有する。近視野動作では、レンズおよび光学ユニットはビーム経路内に配置される。遠視野動作では、光学ユニットはビーム経路の外に移される。
【0006】
したがって、本発明の目的は、近視野光学領域でも遠視野光学領域でも適用可能な互換ドライブ用対物レンズを提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、このような対物レンズを使用する光記録媒体から読み出し、かつ/またはそれに書き込むための装置を提案することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/104109号パンフレット
【特許文献2】特開2000−163792号公報
【発明の概要】
【0009】
上記の目的は、独立請求項の主題によって達成される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0010】
この目的を視野に入れて、遠視野モードと近視野モードの間で切替可能な対物レンズが提供される。この対物レンズは、レンズ、可変屈折率を有する光学素子、および固浸レンズを備える。上述の各素子は、共通光軸上に配列される。可変屈折率を有する光学素子は、固浸レンズの凸側面に配置され、光軸の方向に互いに隣接して配置された上面および下面を有する。前記光学素子の下面は、固浸レンズの凸側面の形状に適合された凹形状を有する。前記光学素子の上面の曲率は、固浸レンズの凸側面の曲率よりも小さい。前記光学素子の屈折率は、固浸レンズと光学素子が実質的に単一の光学素子として遠視野モードで機能するために、前記光学素子の屈折率と固浸レンズの屈折率との差が遠視野モードでは小さくなるように変えられる一方で、固浸レンズの光学効果が近視野モードで著しくなるために、前記差は近視野モードでは大きくなるように変えられる。
【0011】
上述の発明の概念は、以下の考慮すべき事項に基づいている:
通常では、固浸レンズは平凸の光学構造体である。固浸レンズの光学効果は非常に小さな作動距離に由来し、この作動距離により、エバネッセント波が固浸レンズ中に伝搬することが、固浸レンズの凸側面の大きい曲率と相まって可能になる。その結果、可変屈折率を有する別の光学素子を固浸レンズの凸側面に配置することによって、前記固浸レンズの屈折を変えることができる。前記別の光学素子は、固浸レンズの凸形状に適合された凹面と、さらに、固浸レンズの凸側面よりも曲率が小さい別の反対面とを有することが好ましい。この光学素子を切替可能にするために、この素子は、切替可能な屈折率を有する材料から作られる。
【0012】
対物レンズを遠視野モードと近視野モードの間で切り替えるための主要なアイデアは、前記光学素子の屈折率と固浸レンズの屈折率との可変差である。屈折率間の差が大きい場合、空気中で固浸レンズを使用することから分かるように、固浸レンズの光学効果は顕著である。この光学指標の差が小さい場合、固浸レンズに光学素子が加わるとおおよそ単一光学素子として機能するので、固浸レンズの光学効果は著しく小さくなる。固浸レンズに対向して配列された光学素子の表面が、固浸レンズの凸側面よりも小さい曲率を有するので、全体の光学効果は、固浸レンズの光学効果よりも著しく小さい。この対物レンズは、光学遠視野領域ならびに光学近視野領域に適用可能である。さらなる利点は、この光学システムがいかなる可動部分も用いずに実現されることである。この結果、簡単で信頼性の高い対物レンズが得られる。この特徴により、この対物レンズは、光学データ記憶装置用の互換ドライブとして理想的な選択肢になる。
【0013】
有利なことに、対物レンズが遠視野モードのとき、光学素子の屈折率と固浸レンズの屈折率は本質的に同じである。前述のように、固浸レンズの光学効果は、固浸レンズと前記光学素子の間の屈折率の差に大きく依存する。この結果として、この差がほとんど消失した場合には、前記光学素子の下面で屈折が起こらない。固浸レンズは、上述の方策によってほとんど見えなくなる。
【0014】
有利なことに、光学素子は、上部および下部によって光軸の方向に限定された空洞に封じ込められた、可変屈折率を有する液体である。光学素子の上面および下面は、前記空洞にそれぞれ面する上部および下部の面で形成される。上部および下部はそれぞれ電極を備え、前記電極は、前記液体の屈折率を切り替えるために空洞内部に電界を発生するように設計されることが好ましい。好適には、前記液体として液晶が使用される。したがって、光学素子の屈折率は単純な方法で変えることができる。液晶材料に電界を印加することによって、前記光学素子の屈折率は迅速に変化し、信頼性が高い。
【0015】
液晶の代替物として、屈折率が異なる混合しない2つの相を有する液体が光学素子に使用される。2つの相の一方は誘電性流体であることが好ましい。電極はセグメント化され、1対の第1の電極セグメントは中心部に位置し、1対の第2の電極セグメントは光学素子の周辺部に位置する。光学素子の中心部は、ここでは光軸の周囲または付近の領域を指すのに対し、前記中心部を取り囲むのが好ましい、光学素子の周辺部は、光軸まである距離をおいたところに配置された部分を指す。
【0016】
空洞の中心部に電界を発生させることによって、上述の2相液体のうち誘電性相が、光学素子の前記中心部に引き込まれる。電極は、液体の電気化学反応を防止するために絶縁層で被覆されることが好ましい。周辺部は、光路の外側に位置することが好ましい。光学素子の屈折率は、誘電性相を光路の中に移動させることによって、または誘電性相を外側に押しやることによって簡単に切り替わる。
【0017】
当該の電極は、光軸に垂直な平面内に位置することが好ましい。前記電極の材料として光透過性材料を使用すること、好ましくは酸化インジウムスズを使用することがさらに有利である。酸化インジウムスズは導電性および光透過性があるので、電極として理想的な選択肢である。さらに酸化インジウムスズは、様々な薄膜応用例で知られている一般的な材料である。したがって、例えばスパッタ堆積によって処理することが技術的に容易である。
【0018】
有利なことに、光学素子の上面の曲率は、少なくともほぼゼロである。上部は、光軸に垂直な平面内に延びる平行板の形を有することがさらに好ましい。可変屈折率を有する光学素子の技術的効果は、固浸レンズの光パワーを補償することである。固浸レンズを中和する最も容易な方法は、固浸レンズと光学素子を幾何的に足し合わせたものに直方体の形状を与えることである。
【0019】
しかし直方体では、著しい球面収差を生じる。これらの球面収差を補償するために、有利なことに上部は、球面収差補正レンズの形状を有し、この上部と液体の間の屈折率の差は、近視野モードよりも遠視野モードの方が大きい。この球面収差補正レンズは、平坦面および湾曲面を有することが好ましく、この湾曲面は空洞に面する。遠視野モードで作動している間、液体と球面収差補正レンズの間の屈折率の差は大きい。したがって、液体と前記収差補正レンズの間の界面で著しい屈折が起こる。対物レンズが近視野モードに切り替えられた場合、液体は、この屈折率を著しく変化させる。したがって、液体と球面収差補正レンズの間の上述の界面では、前記界面を通過する光の屈折がほんのわずかしか生じない。この結果、球面収差補正レンズは、対物レンズが遠視野モードで動作している場合だけ活性になり、近視野モードでは、球面収差補正レンズはほとんど見えなくなる。球面収差補正レンズは、遠視野モードで作動しているときは有利であるが、近視野モードではそれが光学的特性を乱す。
【0020】
球面収差補正レンズはシュミット板であることが好ましい。シュミット板は、いわゆるシュミット望遠鏡で知られている。これらの望遠鏡でシュミット板は、鏡の球面収差効果を補償するために使用されるが、本例では、シュミット板の原理だけが当該の対物レンズに適合される。
【0021】
遠視野モードにおける光学素子の屈折率ならびに固浸レンズの屈折率は、ほぼn=3であることが好ましい。n=3の屈折率は、固浸レンズに使用される材料で知られている典型的な値である。したがって、光学素子がこの値に達することができれば有利である。対物レンズが近視野モードで作動している場合に、光学素子の屈折率がほぼn=1であればさらに有利である。n=1の屈折率により、空気中とほとんど同じ状態が得られる。その結果として、固浸レンズは、その最良の効率を示す。
【0022】
本発明の別の一態様によれば、光記録媒体から読み出し、かつ/または光記録媒体に書き込むための装置は、近視野モードおよび遠視野モードで動作する、本発明による対物レンズを含む光ヘッドを含む。
【0023】
対物レンズについて言及したのと同じまたはほぼ同じ利点が、光記録媒体から読み出し、かつ/またはそこに書き込むための、本発明による対物レンズを含む装置に同様に当てはまる。
【0024】
次に、よりよく理解されるように本発明を以下の記述で図を参照してより詳細に説明する。本発明はこの例示的実施形態に限定されないこと、および明記された諸特徴を添付の特許請求の範囲に定義された本発明の範囲から逸脱することなく適切に組み合わせる、かつ/または改変することもできることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施形態による遠視野モードの対物レンズを示す図である。
【図2】近視野モードの図1の対物レンズを表す図である。
【図3】別の実施形態による遠視野モードの対物レンズを示す図である。
【図4】別の実施形態による近視野モードの対物レンズを示す図である。
【図5】遠視野モードの図4の対物レンズを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明による対物レンズ2の第1の実施形態が図1および図2に示されており、図1は遠視野モードの対物レンズ2を表すのに対し、図2は近視野モードの対物レンズ2を表す。対物レンズ2は、レンズ4、固浸レンズ6、および可変屈折率を有する光学素子8を含む。上述の各ユニット、すなわち光学素子8、レンズ4および固浸レンズ6は、破線で引かれた共通光軸A上に配列される。図1および図2に示された実施形態によれば、光学素子8は、空洞内に封じ込められた液晶であり、この空洞は、円環14により光軸Aの方向に間隔があけられた上部12と下部16によって限定されている。光学素子8の形状は、上部12および下部16それぞれの空洞に面する面の形状によって決まる。空洞によって閉じ込められた液体と前記内面の間のこれら界面により、光学素子8の上面5および下面7が確定する。この光学素子8は液体であるので、この形状は、上部12および下部16それぞれの前記内面の形状に完全に適合されるだけでなく、固浸レンズ6の凸側面9の形状にも完全に適合される。光学素子8の屈折率は、液晶に電界が加わることによって変化する。電極17は、上部12および下部16それぞれの内部または上に配置される。上述の電極17を用いて電界を液晶に印加して、その屈折率を変化させることができる。電極17は、光軸Aに垂直に位置合わせされた平面内に延びることが好ましい。電極17は、光透過性材料からできており、酸化インジウムスズでできていることが好ましい。
【0027】
2つの例示的光線11に限定された光ビーム10は、レンズ4を通って進み、光学素子8に光学素子8の上面から入る。光ビーム10は上部12を通過するが、上部12は、およそn=1の屈折率を有する材料でできていることが好ましい。その後、光ビーム10は光学素子8、すなわち液晶材料で充填された空洞に入る。前記液晶材料の屈折率がn>1の値に切り替えられるので、光ビーム10の屈折が上部12と、空洞に含まれる液晶との間の界面で起こる。
【0028】
液晶の屈折率が、好ましくは固浸レンズ6の屈折率の値に非常に近い値に切り替えられるので、光ビーム10は、液晶と固浸レンズ6の間の界面を屈折せずに通過する。固浸レンズ6の屈折率ならびに液晶の屈折率は、n=3の範囲にあることが好ましい。
【0029】
光学素子8の下部16は、固浸レンズ6の屈折率とほぼ同じ屈折率を有する材料でできている。下部16は固浸レンズ6と同じ材料でできているのが好ましい。したがって、固浸レンズ6と下部16の間の界面では屈折が起こらない。下部16を離れると、およそn=3の下部の屈折率とは著しく異なるn=1の屈折率を周囲の空気が有するので、光ビーム10の屈折が起こる。
【0030】
要約すると、光ビーム10は、上部10と液晶材料の間の界面で屈折し、2度目は光ビーム10が下部16を離れるときに屈折する。言い換えると、光学素子8と固浸レンズ6に下部16を加えた光学効果は、本質的に直方体の光学効果と同じである。結果として、図1に示された遠視野モードの対物レンズ2の光学特性は、レンズ4によって決まる。この方策により、記憶媒体20と対物レンズ2の間に約200μmの作動距離18が得られる。光学素子8の屈折率、すなわち液晶材料の屈折率がほぼn=1の値に切り替えられた場合、対物レンズ2は、図1に示された遠視野モードから図2に示された近視野モードに切り替えられる。この屈折率の変化の光学効果は、固浸レンズ6が有効になることである。固浸レンズは、それが空気中で使用された場合に匹敵する効果をもたらす。
【0031】
作動距離18が約20から50nmの値に縮小されるので、記憶材料20からのエバネッセント波は、作動距離18を越えて下部16および固浸レンズ6それぞれの中へ伝わる。したがって、図2に示された対物レンズ2は、光学近視野領域に適している。
【0032】
対物レンズ2が、図1で表されたように遠視野モードで使用される場合、光学素子8と固浸レンズ6は、光学素子8と固浸レンズ6が単一のモノリシックブロックであるかのように光学的に作用する。しかし、おおよそ直方体の形状の光学素子8に固浸レンズ6を加えると、光ビーム10に対して球面収差が生じる。図3に示された別の一実施形態によれば、光学素子8の上部12は、球面収差補正レンズの形状を有する。例としてのみ示すと、この球面収差補正レンズは、いわゆるシュミット望遠鏡の原理で知られるシュミット板の形状を有する。
【0033】
図1および図2に示された実施形態から分かるように、光学素子8は液晶である。図を分かりやすくするために、液晶の屈折率を切り替えるために前記液晶材料に電界を印加する電極は、図3では省略されている。
【0034】
遠視野モードでは、上部12の屈折率と液晶材料の屈折率の差が大きい。上部12は、n=1に近い屈折率を有することが好ましいのに対して、空洞に封じ込められた液晶材料、すなわち光学素子8は、n=3の範囲の屈折率を有することが好ましい。対照的に、光学素子8および固浸レンズ6の屈折率と下部16の屈折率の差は、後者の各素子が好ましくはおよそn=3の屈折率を有する材料でできているので、小さい。
【0035】
結果として、上部12と光学素子8、すなわち光学素子8の上部5との間の界面は、屈折を生じさせる唯一の界面になる。
【0036】
図4および図5に示された本発明の別の一実施形態によれば、光学素子8は、屈折率が異なる混合しない2つの相を有する液体で構成される。図4は対物レンズ2が遠視野モードで動作する場合を示すのに対して、図5は近視野モードの場合を表す。光学素子8の屈折率は、空洞に封じ込められた2相液体の一方の相を前記空洞の中央領域または周辺領域に移動させることによって切り替えられる。
【0037】
前記液体の第1の相は、誘電性流体22で例えば塩水であり、第1の相と混合しない第2の相は、例えばシリコーン油24である。1対の第1の電極セグメント26が光学素子8の中心部に位置し、1対の第2の電極セグメント28が光学素子8の周辺領域に位置する。例示的に、第2の電極28は、第1の電極セグメント26の周囲に配置された環状リングの形状を有し、さらに光軸Aを中心軸として有する。第2の電極28に電界を印加することによって、誘電性流体22は、図4に示されるように光学素子8の周辺部に引き込まれる。その結果、光学素子8の周辺部が対物レンズ2の光路の外側に位置することになるので、光学素子8の屈折率は、シリコーン油24によって決まる。対照的に、第1の電極セグメント26に電界を印加することによって、誘電性流体22は、光学素子8の中心部に引き込まれる。その結果、光学素子8の屈折率は、図5に示されるように誘電性流体22の屈折率によって決まる。誘電性流体22を空洞の中心部に入れたり出したり移動させることによって、光学素子8の屈折率を切り替えることができる。
【0038】
要約すると、光学データ記憶装置の光ピックアップヘッドに含まれることが好ましい対物レンズ2が提供される。近視野モードの数ナノメートルと、遠視野モードの数百マイクロメートルの間の作動距離18を得ることができる。
【符号の説明】
【0039】
2 対物レンズ
4 レンズ
5 上面
6 固浸レンズ
7 下面
8 光学素子
9 凸側面
10 光ビーム
11 光線
12 上部
14 円環
16 下部
17 電極
18 作動距離
20 記憶媒体
22 誘電性流体
24 シリコーン油
26 第1の電極セグメント
28 第2の電極セグメント
A 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠視野モードと近視野モードとの間で切替可能な対物レンズであって、
共通光軸上に配列された、レンズと、可変屈折率を有する光学素子と、固浸レンズとを備え、前記光学素子は、前記固浸レンズの凸側面に配置され、前記光軸の方向に互いに隣接して配置された上面および下面を有し、前記上面は前記固浸レンズの前記凸側面の曲率よりも小さい曲率を有する、対物レンズにおいて、前記光学素子の前記下面が前記固浸レンズの前記凸側面の形状に適合された凹形状を有すること、ならびに、前記固浸レンズと前記光学素子が実質的に単一の光学素子として前記遠視野モードで機能できるようにするために、前記光学素子の屈折率と前記固浸レンズの屈折率との差が前記遠視野モードでは小さいのに対し、前記固浸レンズの光学効果が前記近視野モードで顕著であるようにするために、前記差が前記近視野モードでは大きいことを特徴とする対物レンズ。
【請求項2】
前記遠視野モードで前記光学素子の屈折率と前記固浸レンズの屈折率は本質的に同じであることを特徴とする請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項3】
前記光学素子は、上部および下部によって前記光軸の方向に限定された空洞に封じ込められた、可変屈折率を有する液体であり、前記光学素子の前記上面および前記下面は、前記空洞にそれぞれ面する前記上部および下部の面によって形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の対物レンズ。
【請求項4】
前記上部および下部はそれぞれ電極を備え、前記電極は、前記液体の屈折率を切り替えるために前記空洞内部に電界を発生するように設計されることを特徴とする請求項3に記載の対物レンズ。
【請求項5】
前記液体は液晶であることを特徴とする請求項3または4に記載の対物レンズ。
【請求項6】
前記液体は、異なる屈折率を有する混合しない2つの相からなり、前記相の一方は誘電性流体であり、前記上部および下部はセグメント化された電極を備え、1対の第1の電極セグメントは中心部に位置し、1対の第2の電極セグメントは前記光学素子の周辺部に位置することを特徴とする請求項3に記載の対物レンズ。
【請求項7】
前記電極および前記セグメント化された電極は前記光軸に垂直な平面内に延びることを特徴とする請求項3乃至6のうちの1項に記載の対物レンズ。
【請求項8】
前記電極および前記セグメント化された電極は光透過性材料でできていることを特徴とする請求項3乃至7のうちの1項に記載の対物レンズ。
【請求項9】
前記上面の曲率は、前記上部が前記光軸に垂直な平面内に延びる平行板の形を有するように、少なくともほぼゼロであることを特徴とする請求項3乃至8のうちの1項に記載の対物レンズ。
【請求項10】
前記上部は球面収差補正レンズの形状を有し、前記上部と前記液体の間の屈折率の差は、近視野モードにおける前記屈折率の差よりも遠視野モードにおける前記屈折率の差の方が大きいことを特徴とする請求項3乃至9のうちの1項に記載の対物レンズ。
【請求項11】
前記球面収差補正レンズは平坦面および湾曲面を有し、前記球面収差補正レンズの前記湾曲面は前記空洞に面することを特徴とする請求項10に記載の対物レンズ。
【請求項12】
前記球面収差補正レンズはシュミット板であることを特徴とする請求項11に記載の対物レンズ。
【請求項13】
前記遠視野モードにおいて、前記光学素子の屈折率ならびに前記固浸レンズの屈折率はn=3の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至12のうちの1項に記載の対物レンズ。
【請求項14】
前記近視野モードにおいて、前記光学素子の屈折率はほぼn=1であることを特徴とする請求項1乃至13のうちの1項に記載の対物レンズ。
【請求項15】
光記録媒体から読み出し、かつ/または前記光記録媒体に書き込むための装置であって、近視野モードおよび遠視野モードにおいて動作する光ヘッドを有する、装置において、前記光ヘッドは請求項1から14のうちの1項に記載の対物レンズを備えることを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−44223(P2011−44223A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−186474(P2010−186474)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(501263810)トムソン ライセンシング (2,848)
【氏名又は名称原語表記】Thomson Licensing 
【住所又は居所原語表記】1−5, rue Jeanne d’Arc, 92130 ISSY LES MOULINEAUX, France
【Fターム(参考)】