説明

対物レンズ、光ピックアップ光学系及び対物レンズの設計方法

【課題】周辺温度が変化した場合にも性能の劣化を抑制できる対物レンズ、光ピックアップ光学系及び対物レンズの設計方法を提供すること。
【解決手段】本発明にかかる対物レンズ1は、透明基板の厚さが異なるDVD2、CD3毎に異なる波長のレーザビーム4、5が入射され、DVD2、CD3の透明基板に設けられた情報記録面2a、3aに対して当該レーザビーム4、5を集光させるものである。この対物レンズ1の一面は、共通領域と専用領域に分割されている。専用領域は、共通領域の外側に位置する輪帯状の領域である。また、専用領域は、温度変化によって発生する球面収差の変化を抑制するような隣接段差を有する複数領域に分割されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の異なる厚みを有する光記録媒体に対して情報を記録または再生可能な対物レンズ、光ピックアップ光学系及び対物レンズの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、CD(Compact Disc:CD−RなどのCDを含む)やDVD(Digital Versatile Disc)などの種類が異なる光ディスク(光記録媒体)をともに再生することができるようにした互換型光ディスク装置が提案されている。CDやDVDなど(以下、これらをまとめて光ディスクという)は、いずれも透明な基板が用いられ、この透明基板の一方の面に情報記録面が設けられている。そして、光ディスクは、透明基板を2枚、それらの情報記録面を向かい合わせにして貼り合わせた構成をなすか、あるいは、かかる透明基板を透明な保護基板と、透明基板の情報記録面が保護基板と向かい合うようにして貼り合わせた構成をなしている。
【0003】
かかる構成の光ディスクに記憶された情報信号を再生する場合には、光ディスク装置により光源からのレーザビーム(光束)を光ディスクの情報記録面に透明基板を介して集光させる必要がある。レーザビームは、CDにおいては波長が780nm近傍でNAが0.45〜0.53で用いられ、DVDにおいては波長が650nm近傍でNAが0.60〜0.67で用いられている。また、CDにおいて用いられる透明基板の厚さは1.2mmであるのに対して、DVDにおいて用いられる透明基板の厚さは0.6mmであり、光ディスクの種類(レーザビームの波長の違い)に応じて情報記録面が設けられている透明基板の厚さは異なっている。種類が異なる光ディスクを再生する互換型光ディスク装置では、光ディスクの種類に応じて透明基板の厚さが異なっても、レーザビームを情報記録面に集光させる必要がある。
【0004】
このような互換型光ディスク装置としては、光ピックアップ光学系に光ディスクの種類毎に対物レンズを設け、使用する光ディスクの種類に応じて対物レンズを交換したり、光ディスクの種類毎に光ピックアップ光学系を設け、使用する光ディスクの種類に応じて光ピックアップ光学系を交換したりすることが考えられる。しかしながら、コストの面や装置の小型化を実現するためには、対物レンズとして、光ディスクのいずれの種類にも同じレンズを用いることができるようにすることが望ましい。
【0005】
かかる対物レンズの一代表例として、特許文献1に記載のものがある。この文献に記載された対物レンズは、半径方向に3以上の輪帯状レンズ面に区分され、1つおきの輪帯状レンズ面と他の1つおきの輪帯状レンズ面とは屈折力を異にしている。そして、同一波長のレーザビームに対し、1つおきの輪帯状レンズ面が、例えば、薄い透明基板(0.6mm)の光ディスク(DVD)の情報記録面にレーザビームを集光させ、他の1つおきの輪帯状レンズ面が、例えば、厚い透明基板(1.2mm)の光ディスク(CD)の情報記録面にレーザビームを集光させる。
【0006】
また、他の代表例として、特許文献2に記載のものがある。この文献には、薄い透明基板のDVDに対しては、短波長(635nmまたは650nm)のレーザビームを使用し、厚い透明基板のCDに対しては、長波長(780nm)のレーザビームを使用する光ディスク装置が開示されている。この光ディスク装置は、これらレーザビームに共通に使用される対物レンズを有している。そして、この対物レンズは、正のパワーを有する屈折レンズの一方の面に輪帯状の微細な段差が密に設けられてなる回折レンズ構造が形成されたものである。かかる回折レンズ構造は、薄い透明基板のDVDに対して短波長のレーザビームの回折光を、厚い透明基板のCDに対して長波長のレーザビームの回折光を情報記録面に集光するように設計されている。そして、いずれの回折光も同一次数の回折光を情報記録面に集光するように設計されている。なお、DVDに対して短波長のレーザビームを用いるのは、CDに比べてDVDの記録密度は高く、このために、ビームスポットを小さく絞る必要があるためである。よく知られているように、光スポットの大きさは、波長に比例し、開口数NAに反比例する。
【0007】
また、他の代表例として、特許文献3に記載のものがある。この文献には、薄い0.6mm厚の透明基板に対しては、短波長680nmのレーザビームを使用し、厚い1.2mm厚の透明基板のCDに対しては、長波長(780nm)のレーザビームを使用する光ディスク装置の対物レンズが開示されている。この対物レンズにおいてはレンズ面をリング状の複数の領域に分割し、それぞれの領域がいずれかの波長と基板厚の光ディスクに集光する。
【特許文献1】特開平9−145995号公報
【特許文献2】特開2000−81566号公報
【特許文献3】特開平7−302437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、レーザビームの波長は、温度変化により変化する。例えば、DVDに使用される赤色レーザの発振波長は、±30℃で±6nm程変化する。また、光ディスク装置の対物レンズの屈折率は、レーザビームの波長変化によって変化する。そして、対物レンズの球面収差は、対物レンズの形状、向き、屈折率等に依存する。そのため、温度変化によって、対物レンズの球面収差の大きさが変化する。特に、対物レンズの半径値(開口数)が大きくなるにつれて、温度上昇に伴う球面収差の値が大きく変化する。球面収差の変化量が大きいと、対物レンズによるレーザビームの集光性能が劣る。従って、温度変化に伴う球面収差の変化量を抑える技術が求められている。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1−3では、温度変化によって生じる球面収差を想定していない。そのため、温度変化に伴う球面収差の変化量を抑えることができない。
【0010】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、周辺温度が変化した場合にも性能の劣化を抑制できる対物レンズ、光ピックアップ光学系及び対物レンズの設計方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる対物レンズは、透明基板の厚さが異なる複数種類の光記録媒体毎に異なる波長の光束が入射され、当該光記録媒体の透明基板に設けられた情報記録面に対して当該光束を集光させる対物レンズであって、前記複数種類の光記録媒体の情報記録面に対して当該光束を集光させる共通領域と、当該複数種類の光記録媒体のうちいずれか一つの光記録媒体の情報記録面に対して対応する光束を集光させる専用領域とを有し、当該専用領域は、前記共通領域の外側に位置する輪帯状の領域であって、温度変化によって発生する球面収差の変化を抑制するような隣接段差を有する複数領域に分割されているものである。
【0012】
本発明においては、専用領域が輪帯状の領域であって、温度変化によって発生する球面収差の変化を抑制するような隣接段差を有する複数領域に分割されている。これにより、周辺温度が変化して光束の波長が変化しても、対物レンズの球面収差の変化を抑えることができ、光束を良好に収束することができる。従って、周辺温度が変化した場合にも性能の劣化を抑制することができる。
【0013】
また、前記複数の隣接段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる厚さであって、波長変化によって発生する球面収差の変化を抑制するように光束に位相差を発生させる段差量を有することが好ましい。
これにより、温度変化により光束の波長が変化した場合に、光束の波長変化によって発生する球面収差の変化を抑制するような位相差が光束に発生する。そのため、対物レンズにより光束を良好に集光することができ、性能の劣化を抑制することができる。
【0014】
さらに、前記共通領域は、光束の波長の違いによって発生する色収差が、前記光記録媒体の前記透明基板の厚みの違いによって発生する球面収差を相殺するようなレンズ面を有することが好ましい。
これにより、透明基板の厚さが異なる複数種類の光記録媒体毎に異なる波長の光束が対物レンズに入射されると、光束の波長の違いによって色収差が発生し、当該色収差が光記録媒体の透明基板の厚みの違いによって発生する球面収差を相殺する。従って、複数種類の光記録媒体に、対応する波長の光束を良好に集光することができる。
【0015】
また、隣り合う前記隣接段差において、一の隣接段差の厚さが、前記一の隣接段差の内側の他の隣接段差より厚いことが好ましい。
これにより、周辺温度が上昇した際に、波長が長くなることによって生じる球面収差の変化を抑制することができる。
【0016】
また、隣り合う前記隣接段差において、一の隣接段差の厚さが、前記一の隣接段差の内側の他の隣接段差より薄いことが好ましい。
これにより、周辺温度が下降した際に、波長が短くなることによって生じる球面収差の変化を抑制することができる。
【0017】
また、前記専用領域に形成される前記隣接段差の段差量は、通常時における透過光の波長の5倍以上であることが好ましい。
これにより、温度変化が30℃以上である場合であっても、当該温度変化によって生じる球面収差の変化を有効に抑制することができる。
【0018】
また、本発明においては、上述の対物レンズを光ピックアップ光学系において使用することができる。
【0019】
本発明にかかる対物レンズの設計方法は、透明基板の厚さが異なる複数種類の光記録媒体毎に異なる波長の光束が入射され、当該光記録媒体の透明基板に設けられた情報記録面に対して当該光束を集光させる対物レンズの設計方法であって、前記複数種類の光記録媒体の情報記録面に対して当該光束を集光させる共通領域と、前記共通領域の外側に位置する輪帯状の領域であり、当該複数種類の光記録媒体のうちいずれか一つの光記録媒体の情報記録面に対して対応する光束を集光させる専用領域とを形成し、前記専用領域を、温度変化によって発生する球面収差の変化を抑制するような隣接段差を有する複数領域に分割するものである。
これにより、周辺温度が変化して光束の波長が変化しても、対物レンズの球面収差の変化を抑えることができ、光束を良好に収束することができる。従って、周辺温度が変化した場合にも性能の劣化を抑制することができる対物レンズを設計できる。
【0020】
また、前記複数の隣接段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる厚さであって、波長変化によって発生する球面収差の変化を抑制するように光束に位相差を発生させる段差量を有することが好ましい。
これにより、温度変化により光束の波長が変化した場合に、光束の波長変化によって発生する球面収差の変化を抑制するような位相差が光束に発生する。そのため、対物レンズにより光束を良好に集光することができ、性能の劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、周辺温度が変化した場合にも性能の劣化を抑制できる対物レンズ、光ピックアップ光学系及び対物レンズの設計方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
本実施の形態では、透明基板の厚さが異なる複数種類の光記録媒体として、DVDとCDとを例示して説明する。
図1は本発明の実施の形態にかかる対物レンズ1の作用を示す図であって、同図(a)はDVDに対するもの、同図(b)はCDに対するものである。同図において、1は本実施の形態の対物レンズ、2はDVDの透明基板(以下、単にDVDと称する。)、3はCDの透明基板(以下、単にCDと称する。)、4,5はレーザビーム(光束)である。
【0023】
まず、図1(a)において、対物レンズ1が光ディスク装置(図示省略)の光ピックアップ光学系100(後述)に設けられている。また、レーザビーム4は、平行光として対物レンズ1に入射する。そして、対物レンズ1によってレーザビーム4がDVD2に集光される。これにより、記録再生が行なわれる。ここで、DVD2の厚さt1は0.6mmである。また、レーザビーム4として、波長λ1=655nm、開口数NA=0.63の光束が用いられる。かかる条件のもとに、かかるレーザビーム4は、DVD2の対物レンズ1側とは反対側の面の情報記録面2aに集光される。
【0024】
図1(b)は上記と同じ光ディスク装置にCD3が装着され、同じ対物レンズ1を用いて記録再生が行なわれる場合を示す。ここで、CD3の厚さt2は1.2mmである。また、レーザビーム5として、波長λ2=790nm、ほぼ開口数NA=0.63の光束が用いられる。しかし、実質的には、開口数NA=0.47の光束がCD基板3の情報記録面3aに集光する。換言すれば、ハッチングして示すほぼNA=0.47〜0.63の光束、即ち、対物レンズ1の光軸OAから離れた部分を通る光束は、この情報記録面3aで集光しない。このように、この開口数NAがほぼ0.47までの上記のレンズ領域は、DVD2,CD3の共通領域となる。また、開口数NAが0.47〜0.63までのレンズ領域は、DVD2の専用領域となる。
【0025】
通常、厚さの異なる光記録媒体に、その光記録媒体に対応する異なる波長のレーザビームを用いた場合、光記録媒体の厚みが異なることによって球面収差が生じる。また、異なる波長のレーザビームが同一の対物レンズに入射することにより色収差も発生する。そのため、レーザビームを光記録媒体に良好に集光することができない。
しかし、本実施の形態にかかる対物レンズ1は、上述のように、レーザビーム4、5の収差を良好に低減する。具体的には、本実施の形態にかかる対物レンズ1は、レーザビーム4、5の波長の違いによって発生する色収差が、DVD2、CD3の厚みの違いによって発生する球面収差を相殺するようなレンズ面を有する。そして、対物レンズ1は、レーザビーム4、5を情報記録面2a,3aに良好に集光させる。これにより、情報記録面2a,3aに良好な光スポットが得られるようにする。このために、本実施の形態では、対物レンズ1を通過するレーザビーム4、5の光路長が、当該レーザビーム4、5の収差を低減して許容値内とするように、対物レンズ1のレンズ面形状を設定している。
【0026】
さらに、本実施の形態にかかる対物レンズ1のレンズ面形状は、温度変化によって発生する球面収差の変化を抑制するように設計されている。
具体的には、対物レンズ1の専用領域は、共通領域の外側に位置する輪帯状の領域となっている。そして、専用領域は、温度変化によって発生する球面収差の変化(ばらつき)を抑制するような隣接段差を有する複数領域に分割されている。換言すれば、専用領域は、光軸を中心とする同心円により半径方向に区分されてなる複数の輪帯状の区間(以下、輪帯と称する。)に分割されている。
また、複数の隣接段差は、温度変化がない場合(通常時)に対物レンズ1を通過する透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる厚さとなっている。また、複数の隣接段差は、波長変化によって発生する球面収差の変化を抑制するように、レーザビームに位相差を発生させる段差量を有する。
【0027】
より具体的には、隣り合う隣接段差において、一の隣接段差の厚さが、一の隣接段差の内側の他の隣接段差より厚くなるように、対物レンズ1の専用領域のレンズ面が設計されている。このように形成すると、周囲温度が上昇することによってレーザビームの波長が変化した場合に発生する球面収差の変化を低減することができる。
また、隣り合う隣接段差において、一の隣接段差の厚さが、一の隣接段差の内側の他の隣接段差より薄くなるように、対物レンズ1の専用領域のレンズ面が設計されてもよい。このように形成すると、周囲温度が下降することによってレーザビームの波長が変化した場合に発生する球面収差の変化を低減することができる。
【0028】
以下、かかる対物レンズ1のレンズ面形状の一具体例を図2により説明する。図2は、本実施の形態にかかる対物レンズ1の一例を示す側面図である。なお、本実施の形態では、周囲温度が上昇した場合に発生する球面収差の変化を低減する場合について説明する。
まず、対物レンズ1の光出射面Bの面形状について説明する。図2において、光線の高さをh、対物レンズ1の光出射面Bの頂点をe、頂点eと接する接面上における光線高さhの点をc、この点cから光軸OAに平行な方向での光出射面B上の点をdとすると、任意の光線高さhに対する点c,d間の距離Z
【数1】

で表されるように、光出射面Bの面形状が形成される。
数1における各係数の値を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
なお、数1に、上記係数C,K,A4,A6,A8,A10の値を代入して任意の光線高さh(≠0)に対する距離Zを求め、その値が負の値となった場合は、点dが、光出射面Bの光軸OAが通る面頂点eよりも出射面側(図2での左側)に位置することを示している。距離Zが正の値である場合には、点dが頂点eよりも右側に位置することを示している。
【0031】
次に、対物レンズ1の光入射面の面形状について説明する。図2において、対物レンズ1の光入射面Aの頂点をf、頂点fと接する接面上における光線高さhの点をa、この点aから光軸OAに並行な方向での光入射面A上の点をbとすると、光入射面Aの光線高さh方向(半径方向)の光軸OA側からj番目の区間での点a,b間の距離ZAj
【数2】

で表されるように、光入射面Aの面形状が形成される。
数2における各係数の値を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示すように、対物レンズ1の専用領域は、3つの領域に分割されている。また、対物レンズ1の専用領域に形成される隣接段差の段差量は、通常時における透過光の波長(λ)の5倍となっている。
なお、光出射面B及び光入射面Aは、連続した非球面をなすものである。また、対物レンズ1の中心厚t0は2.2mmである。また、対物レンズ1は、PMMA(メタクリル酸メチル樹脂)により形成されており、波長λ1=655nmでの屈折率は1.4892398である。なお、対物レンズ1の素材は本実施の形態に限られるものではなく、他の透明樹脂により形成されてもよいし、ガラス素材により形成されてもよい。
【0034】
次に、本実施の形態にかかる対物レンズ1を備える光ピックアップ光学系100を説明する。図3は、光ピックアップ光学系100の一例を示したものである。光ピックアップ光学系100は、DVDレーザ11、CDレーザ12、ハーフプリズム13、14、コリメータレンズ15、検出レンズ16、光検出器17、回折格子18、アクチュエータ19、対物レンズ1等を備えて構成されている。
【0035】
同図において、DVD2を記録または再生する場合には、DVDレーザ11を駆動する。DVDレーザ11から発生される波長655nmのレーザビームが、ハーフプリズム13で反射し、ハーフプリズム14を透過してコリメータレンズ15に入射する。コリメータレンズ15を通過して平行光となってレーザビームは、対物レンズ1に入射して集光され、DVD2の情報記録面に光スポットを形成する。そして、DVD2で反射した反射光が対物レンズ1により平行光となり、コリメータレンズ15に入射する。コリメータレンズ15はこの平行光を収束光にし、この収束光はハーフプリズム14,13を透過し、検出レンズ16を通って光検出器17に到達する。光検出器17の検出出力信号は信号処理回路(図示せず)に供給され、情報記録再生信号やフォーカス誤差信号,トラッキング誤差信号が得られる。図示しないシステム制御回路は、得られたフォーカス誤差信号とトラッキング誤差信号をもとに、適正なフォーカス位置とトラッキング位置に対物レンズ1が位置するように、アクチュエータ駆動回路(図示せず)を制御してアクチュエータ19を駆動する。
【0036】
CD3を記録または再生する場合には、CDレーザ12を駆動する。CDレーザ12から発生される波長790nmのレーザビームが回折格子18を通り、ハーフプリズム14で反射されてコリメータレンズ15に入射する。コリメータレンズ15を通過して平行光となったレーザビームは、対物レンズ1に入射して集光され、CD3の情報記録面に光スポットを形成する。そして、CD3で反射した反射光が対物レンズ1により平行光となり、コリメータレンズ15に入射する。コリメータレンズ15はこの平行光を収束光にし、この収束光はハーフプリズム14,13を透過し、検出レンズ16を通って光検出器17に到達する。光検出器17の検出出力信号は図示しない信号処理回路に供給され、情報記録再生信号やフォーカス誤差信号,トラッキング誤差信号が得られる。
【0037】
なお、CD3の場合のトラッキング誤差信号は、CDレーザ12からのレーザビームを、回折格子18により、0次光と±1次光の3ビームに分岐し、これら±1次光によりトラッキング誤差信号を得るようにしている。
【0038】
このようにして得られたトラッキング誤差信号とフォーカス誤差信号とにより、DVD2と同様にして、適正なフォーカス位置とトラッキング位置に対物レンズ1が位置するように、アクチュエータ19を駆動する。
【0039】
なお、本発明において、対物レンズ1の代わりに、コリメータレンズ15あるいはハーフプリズム14など両ディスクに共通する光学系において、本発明における対物レンズ1と同様の機能を持つように光学設計することもできる。また、図示しないが、本発明の対物レンズ1と同等の機能を有する他の光学要素をハーフプリズム14からDVD2またはCD3に至る光路に配置することによってもよい。
【0040】
なお、コリメータレンズ15は必ずしも必要ではなく、いわゆる有限系の光学系でも、本発明は適用可能である。
【0041】
次に、本発明の実施の形態にかかる対物レンズ1の作用について、比較例1と比較しながら説明する。図4に、比較例1にかかる対物レンズ20の側面図を示す。なお、図4において、図2と同一の構成については、同一の符号を示す。
まず、比較例1にかかる対物レンズ20の光出射面の面形状について説明する。図4において、対物レンズ20の任意の光線高さhに対する点c,d間の距離Z
【数3】

で表されるように、光出射面Bの面形状が形成されている。
数3における各係数の値を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
次に、比較例1にかかる対物レンズ20の光入射面の面形状について説明する。比較例1にかかる対物レンズ20では、本実施の形態にかかる対物レンズ1と異なり、専用領域が複数の輪帯状の領域に分割されていない。そして、図4において、対物レンズ20の任意の光線高さhに対する点a,b間の距離Z
【数4】

で表されるように、光入射面Aの面形状が形成されている。
数4における各係数の値を表4に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
なお、比較例1にかかる対物レンズ20は、対物レンズ1と同様に、PMMAにより形成され、波長λ1=655nmでの屈折率は1.4892398である。
【0046】
図5は、比較例1にかかる対物レンズ20において、周辺温度が30℃上昇した場合に発生する球面収差を示す。図5では、球面収差の大きさを波面収差により表している。なお、基準温度(通常時の周辺温度)は30℃であり、図5は、周辺温度が60℃のときの球面収差を表す。基準温度30℃での球面収差の大きさは、ほぼ0λになっている。図5に示すように、比較例1にかかる対物レンズ20では、周辺温度が30℃上昇することにより、球面収差が大きくなっている。具体的には、対物レンズ20の共通領域では半径値(開口数)が大きくなるにつれて球面収差が増加し、専用領域では半径値が小さくなるにつれて球面収差が減少している。
また、比較例1にかかる対物レンズ20では、半径値が大きくなる程、球面収差の値の変化が大きい。換言すれば、対物レンズ20の専用領域を通過したレーザビームの球面収差の方が、共通領域を通過したレーザビームの球面収差より大きく変化している。そのため、アクチュエータ19によるデフォーカスにより半径値の全範囲にわたって球面収差を低減する補正を行うと、専用領域の球面収差の値はマイナス方向に大きく変化してしまう。即ち、デフォーカスにより球面収差の変化を補正することは難しい。そして、周辺温度が30℃上昇した場合における対物レンズ20のRMS波面収差の値は44mmλとなっている。従って、比較例1にかかる対物レンズ20によるレーザビームの集光性能は基準温度時に比べて劣化する。
【0047】
一方、図6に、本実施の形態にかかる対物レンズ1において、周辺温度が30℃上昇した場合に発生する球面収差を示す。図6は、図5と同様に、球面収差の大きさを波面収差により表している。また、基準温度は30℃である。図6では、周辺温度の上昇に伴うレーザビームの収束位置の変化がアクチュエータ19によるデフォーカスにより補正されている。そのため、本実施の形態にかかる対物レンズ1では、比較例1の対物レンズ20に比べて、周辺温度が30℃上昇することによる球面収差の増加が抑えられている。
また、対物レンズ1では、半径値が大きい範囲における球面収差の値の変化量が抑えられている。換言すれば、対物レンズ1の専用領域を通過したレーザビームの球面収差の変化量が、共通領域を通過したレーザビームの球面収差の変化量と同程度に補正されている。そして、周辺温度が30℃上昇した場合における対物レンズ1のRMS波面収差の値は23.9mmλとなっている。従って、本実施の形態にかかる対物レンズ1によるレーザビームの集光性能は、比較例1にかかる対物レンズ20よりも改善されている。即ち、本実施の形態にかかる対物レンズ1は、周辺温度が変化した場合にも性能の劣化を抑制することができる。
【0048】
以上、説明したように、本実施の形態にかかる対物レンズ1は、透明基板の厚さが異なるDVD2、CD3毎に異なる波長のレーザビーム4、5が入射され、当該DVD2又はCD3の透明基板に設けられた情報記録面2a、3aに対して当該レーザビームを集光させる対物レンズ1であって、DVD2、CD3の情報記録面2a、3aに対して当該レーザビームを集光させる共通領域と、DVD2の情報記録面3aに対して対応するレーザビームを集光させる専用領域とを有し、当該専用領域は、共通領域の外側に位置する輪帯状の領域であって、温度変化によって発生する球面収差の変化を抑制するような隣接段差を有する複数領域に分割されているものである。
これにより、周辺温度が変化してレーザビームの波長が変化しても、対物レンズ1の球面収差の変化を抑えることができ、レーザビームを良好に集光することができる。従って、周辺温度が変化した場合にも性能の劣化を抑制することができる。
【0049】
また、複数の隣接段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる厚さであって、波長変化によって発生する球面収差の変化を抑制するようにレーザビームに位相差を発生させる段差量を有する。
これにより、温度変化によりレーザビームの波長が変化した場合に、レーザビームの波長変化によって発生する球面収差の変化を抑制するような位相差がレーザビームに発生する。そのため、対物レンズ1によりレーザビームを良好に集光することができ、性能の劣化を抑制することができる。
【0050】
さらに、共通領域は、レーザビームの波長の違いによって発生する色収差が、DVD2及びCD3の透明基板の厚みの違いによって発生する球面収差を相殺するようなレンズ面を有する。
これにより、透明基板の厚さが異なるDVD2、CD3毎に異なる波長のレーザビーム4、5が対物レンズ1に入射されると、レーザビームの波長の違いによって色収差が発生し、当該色収差がDVD2、CD3の透明基板の厚みの違いによって発生する球面収差を相殺する。従って、DVD2及びCD3に、対応する波長のレーザビームを良好に集光することができる。
【0051】
また、隣り合う隣接段差において、一の隣接段差の厚さが、一の隣接段差の内側の他の隣接段差より厚い。
これにより、周辺温度が上昇した際に、波長が長くなることによって生じる球面収差の変化を抑制することができる。
【0052】
また、専用領域に形成される隣接段差の段差量は、通常時における透過光の波長の5倍以上である。
これにより、温度変化が30℃以上である場合であっても、当該温度変化によって生じる球面収差の変化を有効に抑制することができる。
【0053】
また、本実施の形態にかかる対物レンズ1を光ピックアップ光学系100において使用することができる。
【0054】
また、本実施の形態にかかる対物レンズ1の設計方法は、透明基板の厚さが異なるDVD2、CD3毎に異なる波長のレーザビームが入射され、当該DVD2、CD3の透明基板に設けられた情報記録面2a、3aに対して当該レーザビームを集光させる対物レンズ1の設計方法であって、DVD2、CD3の情報記録面2a、3aに対して当該レーザビームを集光させる共通領域と、共通領域の外側に位置する輪帯状の領域であり、DVD2の情報記録面2aに対して対応するレーザビームを集光させる専用領域とを形成し、専用領域を、温度変化によって発生する球面収差の変化を抑制するような隣接段差を有する複数領域に分割するものである。
これにより、周辺温度が変化してレーザビームの波長が変化しても、対物レンズ1の球面収差の変化を抑えることができ、レーザビームを良好に集光することができる。従って、周辺温度が変化した場合にも性能の劣化を抑制することができる対物レンズ1を設計できる。
【0055】
また、複数の隣接段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる厚さであって、波長変化によって発生する球面収差の変化を抑制するように光束に位相差を発生させる段差量を有する。
これにより、温度変化によりレーザビームの波長が変化した場合に、レーザビームの波長変化によって発生する球面収差の変化を抑制するような位相差がレーザビームに発生する。そのため、対物レンズ1によりレーザビームを良好に集光することができ、性能の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態にかかる対物レンズを示す図である。
【図2】図1に示す対物レンズのレンズ面形状の一例を示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる光ピックアップ光学系の構成の一例を示す図である。
【図4】比較例1にかかる対物レンズのレンズ面形状を示す側面図である。
【図5】比較例1にかかる対物レンズにおいて、周辺温度上昇によって発生する球面収差を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態にかかる対物レンズにおいて、周辺温度上昇によって発生する球面収差を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1 対物レンズ
2 DVD(光記録媒体)
2a 情報記録面
3 CD(光記録媒体)
3a 情報記録面
4、5 レーザビーム(光束)
100 光ピックアップ光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の厚さが異なる複数種類の光記録媒体毎に異なる波長の光束が入射され、当該光記録媒体の透明基板に設けられた情報記録面に対して当該光束を集光させる対物レンズであって、
前記複数種類の光記録媒体の情報記録面に対して当該光束を集光させる共通領域と、
当該複数種類の光記録媒体のうちいずれか一つの光記録媒体の情報記録面に対して対応する光束を集光させる専用領域とを有し、
当該専用領域は、前記共通領域の外側に位置する輪帯状の領域であって、温度変化によって発生する球面収差の変化を抑制するような隣接段差を有する複数領域に分割されている対物レンズ。
【請求項2】
前記複数の隣接段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる厚さであって、波長変化によって発生する球面収差の変化を抑制するように光束に位相差を発生させる段差量を有する請求項1に記載の対物レンズ。
【請求項3】
前記共通領域は、光束の波長の違いによって発生する色収差が、前記光記録媒体の前記透明基板の厚みの違いによって発生する球面収差を相殺するようなレンズ面を有する請求項1又は2に記載の対物レンズ。
【請求項4】
隣り合う前記隣接段差において、一の隣接段差の厚さが、前記一の隣接段差の内側の他の隣接段差より厚い請求項1乃至3の何れか一項に記載の対物レンズ。
【請求項5】
隣り合う前記隣接段差において、一の隣接段差の厚さが、前記一の隣接段差の内側の他の隣接段差より薄い請求項1乃至3の何れか一項に記載の対物レンズ。
【請求項6】
前記専用領域に形成される前記隣接段差の段差量は、通常時における透過光の波長の5倍以上である請求項1乃至5の何れか一項に記載の対物レンズ。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の対物レンズを備える光ピックアップ光学系。
【請求項8】
透明基板の厚さが異なる複数種類の光記録媒体毎に異なる波長の光束が入射され、当該光記録媒体の透明基板に設けられた情報記録面に対して当該光束を集光させる対物レンズの設計方法であって、
前記複数種類の光記録媒体の情報記録面に対して当該光束を集光させる共通領域と、
前記共通領域の外側に位置する輪帯状の領域であり、当該複数種類の光記録媒体のうちいずれか一つの光記録媒体の情報記録面に対して対応する光束を集光させる専用領域とを形成し、
前記専用領域を、温度変化によって発生する球面収差の変化を抑制するような隣接段差を有する複数領域に分割する対物レンズの設計方法。
【請求項9】
前記複数の隣接段差は、通常時における透過光の位相が輪帯相互に波長単位で異なる厚さであって、波長変化によって発生する球面収差の変化を抑制するように光束に位相差を発生させる段差量を有する請求項8に記載の対物レンズの設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−76141(P2009−76141A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244370(P2007−244370)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】