説明

対物レンズ、及び光ピックアップ装置

【課題】小型化/軽量化が可能な対物レンズ、及び光ピックアップ装置を提供する。
【解決手段】回転する光記録媒体5に光束を照射し、光記録媒体5から反射される光束を検出し、第1の光記録媒体5に第1レーザー光を集光させ、第2の光記録媒体5に第1レーザー光とは波長が異なる第2レーザー光を集光させ、第3の光記録媒体5に第1レーザー光及び第2レーザー光とは波長が異なる第3レーザー光を集光させる3波長互換の対物レンズ20とを備える光ピックアップ装置1において、第1レーザー光の屈折光を第1光記録媒体5の信号記録面に合焦させ、第2レーザー光の回折光を第2光記録媒体5の信号記録面に合焦させ、第3レーザー光の回折光を第3光記録媒体5の信号記録面に合焦させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対物レンズ、及び光ピックアップ装置に関し、小型で軽量な光ピックアップ装置を提供するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、青紫色(青色)波長帯400nm〜420nmのレーザー光(例えば405nm)を用いたBD(Blu-ray Disk)規格の大容量の光記録媒体の普及が進んでいる。これら光記録媒体の記録/再生に用いられる光ピックアップ装置(Optical Pickup Unit)は、赤色波長帯645nm〜675nmのレーザー光により記録/再生が行われるDVD(Digital Versatile Disk)規格の光記録媒体、赤外波長帯765nm〜805nmのレーザー光により記録/再生が行われるCD(Compact Disk)規格の光記録媒体にも対応する必要がある。
【0003】
これらの規格に対応した光ピックアップ装置に関し、例えば特許文献1には、波長405nmの光ビームを第1光記録媒体の記録面上に適切に集光させる対物レンズと、波長650nmの光ビームに位相差分布を与え、波長405nmの光ビームには位相差分布を与えない光学素子とを組み合わせ、波長405nmの光ビームを他の光ディスクの記録面上に適切に集光させるように設計された対物レンズと、波長780nmの光ビームに位相差分布を与え、波長405nmの光ビームには位相差分布を与えない光学素子とを組み合わせ、これら2つの組合せにより、第1乃至第3の光記録媒体、および他の光ディスクの4種類の記録媒体に対し、情報の記録または再生を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−209299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ピックアップ装置を用いたAV機器やコンピュータ等の製品には常にポータビリティや省スペース化が求められており、これらに搭載される光ピックアップ装置は小型で軽量であることが要求される。しかし例えば上記特許文献1のように対物レンズを複数用いる構成とすると光学系の部品数が必然的に多くなる。また対物レンズを複数用いた場合には、それらを駆動するためのアクチュエータ等の制御系の構造が複雑化し上記要求に応えることが難しくなる。
【0006】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたもので、小型化/軽量化が可能な対物レンズ、及び光ピックアップ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の一つは、回転する光記録媒体に光束を照射し、前記光記録媒体から反射される光束を検出する光ピックアップ装置に用いられ、
第1の前記光記録媒体に第1レーザー光を集光させ、
第2の前記光記録媒体に前記第1レーザー光とは波長が異なる第2レーザー光を集光させ、
第3の前記光記録媒体に前記第1レーザー光及び前記第2レーザー光とは波長が異なる第3レーザー光を集光させる対物レンズであって、
当該対物レンズの光軸を中心とする同心円状に回折構造が設けられた回折エリアと、前記回折エリアの外周側に設けられる第1非回折エリアとを有し、
前記第1非回折エリアにおける屈折作用により前記第1レーザー光を前記第1光記録媒体の信号層に合焦させ、
前記回折エリアにおける回折作用により前記第2レーザー光を前記第2光記録媒体の信号層に合焦させ、
前記回折エリアにおける回折作用により前記第3レーザー光を前記第3光記録媒体の信号層に合焦させることとする。
【0008】
このように本発明の対物レンズは、そのレンズ面が対物レンズの光軸を中心として同心円状に回折格子(位相輪帯)が形成される回折エリアと回折格子が形成されていない第1非回折エリアとに分割されている。そして本発明の対物レンズを通過した第1レーザー光については、第1非回折エリアにおける屈折作用により第1光記録媒体の信号層に合焦し、第2レーザー光については、回折エリアにおける回折作用により第2光記録媒体の信号層に合焦し、第3レーザー光については、回折エリアにおける回折作用により第3光記録媒体の信号層に合焦することとなる。
【0009】
このように、本発明の対物レンズは、第1レーザー光については屈折光(0次光)を第1光記録媒体の信号記録面に合焦させるので、第1レーザー光について高い光利用効率を得ることができる。またこのように0次光を合焦させるようにすることで、超解像現象によりサイドローブの強度が増して隣接ピットと干渉することによるノイズの発生を防ぐことができる。また第2レーザー光については、その回折光を第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、第3レーザー光については、その回折光を第3光記録媒体の信号記録面に合焦させるので、第2レーザー光及び第3レーザー光のいずれについても高い光利用効率を得ることができる。そして本発明によれば、3波長互換の対物レンズ20であるにも拘わらず、第1乃至第3のいずれの光記録媒体についても十分な作動距離WD(Working Distance)を確保することができる。
【0010】
尚、前記回折エリアは、前記第3レーザー光を前記第3光記録媒体の信号層に合焦させる第1回折エリアと前記第1回折エリアよりも外周側に設けられる第2回折エリアとを有し、前記第2回折エリアは、前記第3レーザー光を前記第3光記録媒体の信号層に合焦させないように形成されている。
【0011】
このようにすることで、第2光記録媒体又は第3光記録媒体の夫々の信号再生/信号記録に際し、対物レンズを夫々の信号再生/信号記録に適した開口数(NA)の対物レンズとして機能させることができる。
【0012】
本発明の他の一つは、上記対物レンズであって、前記回折エリアの内周側に第2非回折エリアが設けられていることとする。
【0013】
このように、回折エリアの内周側に回折格子が形成されていない第2非回折エリアを設けるようにすることで、当該第2非回折エリアを通る第1レーザー光についても当該第2非回折エリアの屈折作用により第1光記録媒体の信号層に合焦させるようにすることができる。このため、第1レーザー光の光利用効率をさらに向上させることができる。
【0014】
本発明の他の一つは、上記対物レンズであって、前記第2非回折エリアにより集光される第3レーザー光を前記第3光記録媒体の信号層に合焦させないこととする。
【0015】
このように、第2非回折エリアにより集光される第3レーザー光を第3光記録媒体の信号層に合焦させないようにすることで、対物レンズの作動距離WDを十分に確保することができる。
【0016】
本発明の他の一つは、上記対物レンズであって、前記第1レーザー光の0次光を前記第1光記録媒体の信号記録面に合焦させ、前記第2レーザー光の2次回折光を前記第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、前記第3レーザー光の2次回折光を前記第3光記録媒体の信号記録面に合焦させることとする。
【0017】
このように本発明の対物レンズは、第1レーザー光の屈折光(0次光)が第1光記録媒体の信号記録面に合焦するので、第1レーザー光について高い光利用効率を得ることができる。またこのように0次光を用いることで、超解像現象によりサイドローブの強度が増して隣接ピットと干渉することによるノイズの発生を防ぐことができる。また第2レーザー光については、その2次回折光が第2光記録媒体の信号記録面に合焦し、第3レーザー光についてはその2次回折光が第3光記録媒体の信号記録面に合焦するので、第2レーザー光及び第3レーザー光のいずれについても高い光利用効率を得ることができる。また本発明によれば、3波長互換の対物レンズ20であるにも拘わらず、第1乃至第3のいずれの光記録媒体についても十分な作動距離WDを確保することができる。
【0018】
本発明の他の一つは、上記対物レンズであって、
前記第1レーザー光は青紫色波長帯400nm〜420nmであり、
前記第2レーザー光は赤色波長帯645nm〜675nmであり、
前記第3レーザー光は赤外波長帯765nm〜805nmであり、
NA(Numerical Aperture)が0.85であり、
前記第1非回折エリアである前記対物レンズのNA≦0.20又は0.60<NAの範囲を透過する前記第1レーザー光の前記0次光を前記第1光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記回折エリアである前記対物レンズの0.20<NA≦0.60の範囲を透過する前記第2レーザー光の前記2次回折光を前記第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記回折エリアである前記対物レンズの0.20<NA≦0.47の範囲を透過する前記前記第3レーザー光の前記2次回折光を前記第3光記録媒体の信号記録面に合焦させることとする。
【0019】
尚、対物レンズがこのような作用を奏するように上記回折構造を設けた場合、前記第1回折エリアは、前記対物レンズの0.20<NA≦0.47のエリアであり、前記第2回折エリアは、前記対物レンズの0.47<NA≦0.60のエリアである。また前記第2非回折エリアは、前記対物レンズのNA≦0.20の範囲である。
【0020】
前記回折構造は、例えば対物レンズの前記第1乃至第3のレーザー光の入射側のレンズ面に設けられたブレーズ回折格子である。また前記ブレーズ回折格子は、例えば前記対物レンズの0.20<NA≦0.60の範囲に形成され、ブレーズ高さが2.67μmであることとする。前記対物レンズの有効径は3.5mmである。
【0021】
また前記対物レンズは、前記第1光記録媒体の前記0次光の集光点を基準とする前側主点位置Δ1、及び後側主点位置Δ2が、夫々、前記対物レンズの面頂間の距離をdとしたとき、
+0.40≦Δ1/d≦+0.60
−0.50≦Δ2/d≦−0.20
の関係を満たすこととする。
【0022】
本発明の他の一つは、上記対物レンズであって、
前記第1レーザー光の0次光を前記第1光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記第2レーザー光の1次回折光を前記第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記第3レーザー光の1次回折光を前記第3光記録媒体の信号記録面に合焦させることとする。
【0023】
このように本発明の対物レンズは、第1レーザー光についてはその屈折光(0次光)が第1光記録媒体の信号記録面に合焦するので、第1レーザー光について高い光利用効率を得ることができる。また第1レーザー光についてこのように0次光を用いることで、超解像現象によりサイドローブの強度が増して隣接ピットと干渉することによるノイズの発生を防ぐことができる。また第2レーザー光については、その1次回折光が第2光記録媒体の信号記録面に合焦し、第3レーザー光については、その1次回折光が第3光記録媒体の信号記録面に合焦するので、第2レーザー光及び第3レーザー光のいずれについても高い光利用効率を得ることができる。また3波長互換の対物レンズ20であるにも拘わらず、第1乃至第3のいずれの光記録媒体についても十分な作動距離WDを確保することができる。
【0024】
本発明の他の一つは、上記対物レンズであって、
前記第1レーザー光は青紫色波長帯400nm〜420nm、
前記第2レーザー光は赤色波長帯645nm〜675nm、
前記第3レーザー光は赤外波長帯765nm〜805nmであり、
NA(Numerical Aperture)が0.85であり、
前記対物レンズのNA≦0.14、又は0.60<NAの範囲を透過する前記第1レーザー光の前記0次光を前記第1光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記対物レンズの0.14<NA≦0.60の範囲を透過する前記第2レーザー光の前記1次回折光を前記第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記対物レンズの0.14<NA≦0.47の範囲を透過する前記前記第3レーザー光の前記1次回折光を前記第3光記録媒体の信号記録面に合焦させることとする。
【0025】
尚、対物レンズがこのような作用を奏するように上記回折構造を設けた場合、前記第1回折エリアは、前記対物レンズの0.14<NA≦0.47のエリアであり、前記第2回折エリアは、前記対物レンズの0.47<NA≦0.60のエリアである。また前記第2非回折エリアは、前記対物レンズのNA≦0.14の範囲である。
【0026】
前記回折構造は、例えば対物レンズの前記第1乃至第3のレーザー光の入射側のレンズ面に設けられたブレーズ回折格子である。また前記ブレーズ回折格子は、前記対物レンズの0.14<NA≦0.60の範囲に形成され、ブレーズ高さが1.33μmである。前記対物レンズの有効径は5.0mmである
【0027】
また前記対物レンズは、前記第1光記録媒体の前記0次光の集光点を基準とする前側主点位置Δ1、及び後側主点位置Δ2が、夫々、前記対物レンズの面頂間の距離をdとしたとき、
+0.40≦Δ1/d≦+0.60
−0.50≦Δ2/d≦−0.20
の関係を満たすこととする。
【0028】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、光ピックアップ装置を小型化/軽量化することが可能な、対物レンズ、及び光ピックアップ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】光ピックアップ装置1の光学系の構成を示す図である。
【図2】光記録媒体記録再生装置200の一例を示すブロック図である。
【図3】第1実施例における対物レンズ20の仕様を示す図である。
【図4】第1光記録媒体5の主点位置を説明する図である。
【図5A】第1実施例における対物レンズ20のコリメートレンズ18側のレンズ面の動径半径及び非球面係数を示す図である。
【図5B】第1実施例における対物レンズ20の光記録媒体5側のレンズ面の動径半径及び非球面係数を示す図である。
【図6】位相関数式Φ(r)を示す図である。
【図7】回折格子が設けられる範囲、及び回折格子の断面形状を示す図である。
【図8A】1/4波長板19から対物レンズ20に入射する第1レーザー光が、対物レンズ20によって第1光記録媒体5の信号記録面に合焦する様子を示す図である。
【図8B】1/4波長板19から対物レンズ20に入射する第2レーザー光が、対物レンズ20によって第2光記録媒体5の信号記録面に合焦する様子を説明する図である。
【図8C】1/4波長板19から対物レンズ20に入射する第3レーザー光が、対物レンズ20によって第3光記録媒体5の信号記録面に合焦する様子を説明する図である。
【図9】対物レンズ20のブレーズの高さ(横軸)と、第1レーザー光(2次回折光)、第2レーザー光(1次回折光)、第3レーザー光(1次回折光)の夫々についての回折格子7による回折効率(縦軸)の関係を示すグラフである。
【図10】トラッキング誤差検出のためのDPP信号を比較した結果を示すグラフである。
【図11】第2実施例における対物レンズ20の仕様を示す図である。
【図12A】第2実施例における対物レンズ20のコリメートレンズ18側の動径半径及び非球面係数を示す図である。
【図12B】第2実施例における対物レンズ20の光記録媒体5側のレンズ面の動径半径及び非球面係数を示す図である。
【図13】回折格子が設けられる範囲、及び回折格子の断面形状を示す図である。
【図14A】1/4波長板19から対物レンズ20に入射する第1レーザー光が、対物レンズ20によって第1光記録媒体5の信号記録面に合焦する様子を示す図である。
【図14B】1/4波長板19から対物レンズ20に入射する第2レーザー光が、対物レンズ20によって第2光記録媒体5の信号記録面に合焦する様子を説明する図である。
【図14C】1/4波長板19から対物レンズ20に入射する第3レーザー光が、対物レンズ20によって第3光記録媒体5の信号記録面に合焦する様子を説明する図である。
【図15】対物レンズ20のブレーズの高さ(横軸)と、第1レーザー光(2次回折光)、第2レーザー光(1次回折光)、第3レーザー光(1次回折光)の夫々についての回折格子7による回折効率(縦軸)の関係を示すグラフである。
【図16】トラッキング誤差検出のためのDPP信号を比較した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0032】
[第1実施例]
本実施形態において説明する光ピックアップ装置1は、回転する光記録媒体5に光束を照射し、光記録媒体5から反射される光束を検出する装置である。光ピックアップ装置1は、例えば後述する光記録媒体記録再生装置200などの情報記録再生装置に実装される。光ピックアップ装置1によって情報の記録又は再生が行われる光記録媒体5は、例えば、BD(Blu-ray Disk)規格の光記録媒体5(以下、第1光記録媒体5と称する。)、DVD(Digital Versatile Disk)規格の光記録媒体5(以下、第2光記録媒体5と称する。)、CD(Compact Disk)規格の光記録媒体5(以下、第3光記録媒体5と称する。)などである。
【0033】
図1に本実施形態において説明する、光記録媒体の信号再生もしくは信号記録に用いられる光ピックアップ装置1の光学系の構成を示している。同図に示すように、光ピックアップ装置1は、第1レーザー光源11、第2レーザー光源12、第1回折格子13、第2回折格子14、カップリングレンズ15(ダイバーレンズ)、偏光ビームスプリッタ16、ハーフミラー17、コリメートレンズ18、1/4波長板19、対物レンズ20、検出レンズ21、及び光検出器22を含む。
【0034】
第1レーザー光源11は、第1光記録媒体の信号再生/信号記録を行う第1波長(青紫色(青色)波長帯400nm〜420nm(例えば405nm))の第1レーザー光を放射する。第1レーザー光源11は、例えば半導体レーザー等の発光素子を用いて構成される。
【0035】
第2レーザー光源12は、第2光記録媒体の信号再生/信号記録を行う第2波長(赤色波長帯645nm〜675nm(例えば655nm))の第2レーザー光、及び第3光記録媒体の信号再生もしくは信号記録を行う第3波長(赤外波長帯765nm〜805nm(例えば785nm))の第3レーザー光を放射する。
【0036】
第2レーザー光源12は、例えば2波長レーザーダイオード等の半導体レーザーを用いて構成される。また第2レーザー光源12は、好ましくは所定の周波数範囲で自励振動により発信する低ノイズタイプのレーザー光放射素子(例えばパルセーションレーザー(Pulsation Laser)素子)を用いて構成される。
【0037】
第1レーザー光源11と偏光ビームスプリッタ16との間に配置される第1回折格子13には、第1レーザー光源11から放射される第1レーザー光が入射する。第1回折格子13は、第1レーザー光を、0次光、+1次回折光、及び−1次回折光に分離する回折格子、及び、入射する第1レーザー光を偏光ビームスプリッタ16の偏光面に対してS偏光の直線偏光光に変換する1/2波長板を構成要素とする。
【0038】
第2レーザー光源12と偏光ビームスプリッタ16との間に配置される第2回折格子14には、第2レーザー光源12から放射される、第2レーザー光又は第3レーザー光が入射する。第2回折格子14は、入射するレーザー光を、0次光、+1次回折光及び−1次回折光に分離する回折格子、及び、入射する第2レーザー光又は第3レーザー光を偏光ビームスプリッタ16の偏光面に対してP偏光の直線偏光光に変換する1/2波長板を構成要素とする。
【0039】
第2回折格子14と偏光ビームスプリッタ16との間に配置されるカップリングレンズ15は、第2レーザー光源12から入射する第2レーザー光又は第3レーザー光の発散角度を変換する。カップリングレンズ15としては、例えば正の焦点距離を有するダイバージェントレンズ(Divergent Lenz)が用いられる。
【0040】
同図に示す光学系において、コリメートレンズ18及び対物レンズ20を含む第1レーザー光の光路に沿った光学系(以下、第1光学系と称する。)の合計光学倍率は11倍程度となり、一方、カップリングレンズ15、コリメートレンズ18、及び対物レンズ20を含む、第2レーザー光又は第3レーザー光の光路に沿った光学系(以下、第2光学系と称する。)の合計光学倍率は5.5〜6.0倍程度となる。
【0041】
ここで同図に示すように、本実施形態の光ピックアップ装置1は、第1光学系と第2光学系とでコリメートレンズ18と対物レンズ20を共用する構成であるため、第2光学系の合成倍率が必然的に高くなるが、第2回折格子14と偏光ビームスプリッタ16との間にカップリングレンズ15を介在させていることで、第2光学系の合成倍率を低く抑えることができる。このため、第2レーザー光源12として、放射出力が小さく安価なものを選択することができる。
【0042】
偏光ビームスプリッタ16は、第1回折格子13から入射するS偏光の第1レーザー光を反射し、カップリングレンズ15から入射するP偏光のレーザー光(第2レーザー光又は第3レーザー光)を透過する。偏光ビームスプリッタ16は、大きさの異なる2つの直角プリズム16a,16bを、夫々の斜面を対向させて接合した略キューブ形状を呈している。2つのプリズム16a,16bの接合面には、第1レーザー光、第2レーザー光、及び第3レーザー光の反射/透過特性が、本実施形態で述べる特性を有するような膜構造(誘電体多層膜等)の偏光面が形成されている(例えば特開2006−331594号公報を参照)。
【0043】
ハーフミラー17は、偏光ビームスプリッタ16で反射されて入射するS偏光の第1レーザー光、及び、偏光ビームスプリッタ16を透過して入射するP偏光のレーザー光(第2レーザー光又は第3レーザー光)をコリメートレンズ18の方向に反射する。またハーフミラー17は、コリメートレンズ18から入射する、第1レーザー光の戻り光、第2レーザー光又は第3レーザー光の戻り光を透過する。
【0044】
コリメートレンズ18は、ハーフミラー17から入射する、第1レーザー光、第2レーザー光、又は第3レーザー光を平行光に変換する。コリメートレンズ15によって変換された、第1レーザー光、第2レーザー光、又は第3レーザー光の平行光は、1/4波長板19に入射する。
【0045】
1/4波長板19は、コリメートレンズ18から入射する、第1レーザー光、第2レーザー光、又は第3レーザー光を、直線偏光光から円偏光光に変換する。また1/4波長板19は、対物レンズ20から入射する、第1レーザー光の戻り光、第2レーザー光の戻り光、又は第3レーザー光の戻り光を、円偏光光から直線偏光光に変換する。
【0046】
対物レンズ20は、第1乃至第3波長に対応した3波長互換のレンズである。対物レンズ20は、1/4波長板19から入射する、第1レーザー光、第2レーザー光、又は第3レーザー光を、夫々が対応する光記録媒体5の信号記録層に集光させる。尚、3波長互換の対物レンズ20の構造や機能については後述する。
【0047】
光記録媒体5において反射した、第1レーザー光の戻り光、第2レーザー光の戻り光、又は第3レーザー光の戻り光は、対物レンズ20によって平行光に変換されて1/4波長板19に入射し、1/4波長板19によって円偏光光から直線偏光光に変換される。直線偏光光となった戻り光は、コリメートレンズ18を通過してハーフミラー17を透過し、検出レンズ21に入射する。
【0048】
検出レンズ21は、戻り光を光検出器22上に集光させるとともに、戻り光に非点収差を発生させてフォーカスエラー信号を生成する。検出レンズ21は、例えばシリンドリカルレンズ、トーリックレンズ、アナモフィックレンズ又は光軸に対して傾けられた平行平板により形成されている。
【0049】
光検出器22は、受光した戻り光を光電変換する。光検出器22は、例えばフォトダイオード等の受光素子を用いて構成される。光検出器22は、複数に分割された光検出領域(例えば第1回折格子13又は第2回折格子14により分割された第1乃至第3のレーザー光の夫々に対応する受光領域が、夫々12分割(フォーカス制御方式として差動非点収差法を採用する場合)又は8分割(差動非点収差法を採用しない場合)された光検出領域)を有する。第1乃至第3のレーザー光の夫々に対応する受光領域は、複数のレーザー光によって兼用(例えば第1レーザー光と第2レーザー光で兼用)する構成としてもよい。
【0050】
尚、第1乃至第3のレーザー光の夫々に対応する受光領域は、夫々が受光するレーザー光以外のレーザー光の回折光(不要回折光)によるスポットが集光されない位置に設定されている(例えば特開2007−164962号公報を参照)。光検出器22によって検出された信号に基づく信号再生動作や信号記録動作、第1光検出器20によって検出された信号の処理方法、DPP(Differential Push Pull)等によるトラッキング誤差検出方法、非点収差法等によるフォーカス誤差検出方法等についてはいずれも周知であるので詳細は省略する。
【0051】
図2は、以上に説明した光ピックアップ装置1を用いて構成される光記録媒体記録再生装置200の一例を示すブロック図である。同図に示すように、この光記録媒体記録再生装置200は、前述した光ピックアップ装置1の構成を備えるとともに、スピンドルモータ202、モーター駆動回路203、レーザードライバ204、アクセス機構205、変調回路206、増幅回路207、復調回路208、フォーカス制御回路209、トラッキング制御回路210、チルト制御回路211、光学特性補正回路212、システム制御装置213、及び外部装置214をさらに備える。
【0052】
同図において、スピンドルモータ202は、光記録媒体5を回転させる。モーター駆動回路203は、システム制御装置213から送られてくる制御信号に応じてスピンドルモータ202の回転を制御する。
【0053】
アクセス機構205は、システム制御装置213から送られてくる制御信号に応じて光ピックアップ装置1を光記録媒体5の径方向(ラジアル方向)に移動させる。
【0054】
レーザードライバ204は、変調回路206から入力される信号に応じて第1レーザー光源11及び第2レーザー光源12から放射するレーザー光の出力を制御する。
【0055】
変調回路206は、システム制御装置213から入力される、光記録媒体5に記録するデータを記録用のパルス信号に変調する。光記録媒体5に記録する上記データは、例えばシステム制御装置213を介してパーソナルコンピュータ等の外部装置214から随時供給される。
【0056】
増幅回路207は、光ピックアップ装置1の光検出器22から出力される電気信号に含まれているRF信号(RF:Radio Frequency)を増幅し、復調回路208に出力する。復調回路208は、増幅回路207から入力されるRF信号を復調してシステム制御装置213に出力する。システム制御装置213は、復調回路208から入力される復調信号に基づくデータ信号を外部装置214に出力する。
【0057】
フォーカス制御回路209、トラッキング制御回路210、及びチルト制御回路211は、対物レンズ20の駆動制御を行う。このうちフォーカス制御回路209は、光ピックアップ装置1の光検出器22から出力される電気信号に含まれるフォーカスエラー信号を検出し、検出したフォーカスエラー信号に基づき対物レンズ20のフォーカス制御を行う。トラッキング制御回路210は、光ピックアップ装置1の光検出器22から出力される電気信号に含まれるトラッキングエラー信号を検出し、検出したトラッキングエラー信号に基づき対物レンズ20のトラッキング制御を行う。チルト制御回路211は、光ピックアップ装置1の光検出器22から出力される電気信号に含まれるチルトエラー信号を検出し、検出したチルトエラー信号に基づき対物レンズ20のチルト制御を行う。
【0058】
光学特性補正回路215は、温度変化に基づく対物レンズの光学特性の劣化を補正する。また光学特性補正回路215は、光記録媒体5ごとのカバー厚の違いや多層構造の光記録媒体における各相のカバー厚の違いによって生じる球面収差を補正する。この補正方式は、例えば対物レンズ20に入射する光束の設計値に対する発散/集束の度合いを利用する倍率特性方式、及び、液晶素子を用いて逆極性の球面収差を発生させて球面収差を補正する球面収差方式などがある。光学特性補正回路215は、例えばコリメートレンズ18を光軸方向に移動させて光学特性を補正する(例えば特開2008−234803号公報を参照。)。
【0059】
=対物レンズ=
本実施形態の光ピックアップ装置1における対物レンズ20は、樹脂や硝子等の素材からなる。前述したように対物レンズ20は第1乃至第3波長に対応した3波長互換のレンズであって、第1波長(405nmの青色光)の第1レーザー光を第1光記録媒体5の信号記録面に集光(スポットを形成)し、第2波長(655nmの赤色光)の第2レーザー光を第2光記録媒体5の信号記録面に集光し、第3波長(785nmの赤外光)の第3レーザー光を第3光記録媒体5の信号記録面に集光する。
【0060】
図3に対物レンズ20の仕様を示している。同図に示すように、対物レンズ20の有効径(直径)は3.50mmである。同図に示すように、対物レンズ20は、第1光記録媒体5の記録/再生に際しては開口数(以下、NA(Numerical Aperture)と表記する。)が0.85のレンズとして機能し、第2光記録媒体5の記録/再生に際してはNAが0.60のレンズとして機能し、第3光記録媒体5の記録/再生に際してはNAが0.47のレンズとして機能する。
【0061】
図3に示すように、第1レーザー光を用いて行われる第1光記録媒体5への記録/再生時における作動距離WD(Working Distance)は0.47mm、第2レーザー光を用いて行われる第2光記録媒体5への記録/再生時における作動距離WDは0.81mm、第3レーザー光を用いて行われる第3光記録媒体5への記録/再生時における作動距離WDは0.81mmである。
【0062】
図4に第1光記録媒体5の集光点(合焦点)を基準とする対物レンズ20の主点位置を示している。同図に示すように、対物レンズ20の前側主点Δ1(+)の位置は、面頂間の距離(入射面頂と出射面頂との間の距離)をdとして、+0.40≦Δ1/d≦+0.60の範囲である。また後側主点Δ2(−)の位置は、−0.50≦Δ2/d≦−0.20の範囲である。
【0063】
図5Aは対物レンズ20の形状を図6に示す位相関数式Φ(r)で表した場合における、対物レンズ20のコリメートレンズ18側のレンズ面の動径半径及び非球面係数である。また図5Bは対物レンズ20の形状を図6に示す位相関数式Φ(r)で表した場合における、対物レンズ20の光記録媒体5側のレンズ面の動径半径及び非球面係数である。尚、図5A及び図5Bにおいて、rは動径半径であり、ccはコーニック係数である。
【0064】
対物レンズ20のコリメートレンズ18側の表面の所定範囲には、回折構造70が設けられている。コリメートレンズ18から対物レンズ20に入射する第1乃至第3レーザー光は、対物レンズ20の屈折効果又は上記回折構造70の回折効果によって第1乃至第3レーザー光を第1乃至第3光記録媒体5の信号記録面に集光される。
【0065】
図7に、対物レンズ20のレンズ面の回折構造70が設けられている範囲、及び回折構造70の断面形状を示している。同図に示すように、第1実施例の対物レンズ20では、対物レンズ20の0.20<NA≦0.60の範囲(回折エリア)に回折構造70としてブレーズ回折格子が設けられている。対物レンズ20のコリメートレンズ18側のレンズ面には、対物レンズ20の光軸を中心として同心円状に複数のブレーズが形成されている。各ブレーズの高さは2.67μmである。尚、0.20<NA≦0.47の範囲(第1回折エリア)と0.47<NA≦0.60の範囲(第2回折エリア)とでは形成されているブレーズの形状が異なる。
【0066】
図8A乃至図8Cは、いずれも対物レンズ20を側方から眺めた図である。これらの図には、対物レンズ20の屈折効果又は回折構造70の回折効果によって第1乃至第3光記録媒体5の信号記録面に第1乃至第3レーザー光が集光される様子が示されている。
【0067】
図8Aは、第1レーザー光が、対物レンズ20によって第1光記録媒体5の信号記録面に合焦する様子である。同図に示すように、対物レンズ20の屈折効果によって、対物レンズ20のNA≦0.20(第2非回折エリア)、又は0.60<NAの範囲(第1非回折エリア)に入射した第1レーザー光(0次光)は第1光記録媒体5の信号記録面に合焦する。一方、0.20<NA≦0.60の範囲(回折エリア=第1回折エリア+第2回折エリア)に入射する第1レーザー光は、回折構造70によって4次回折光となり、スポットの形成には基本的に寄与しない。
【0068】
図8Bは、第2レーザー光が、対物レンズ20によって第2光記録媒体5の信号記録面に合焦する様子である。同図に示すように、0.20<NA≦0.60の範囲(回折エリア=第1回折エリア+第2回折エリア)に入射した第2レーザー光は回折構造70によって回折され、これにより生じた2次回折光が第2光記録媒体5の信号記録面に合焦している。尚、回折構造70のブレーズが形成されていない範囲(NA≦0.20(第2非回折エリア)又は0.60<NA(第1非回折エリア))における屈折光は、スポットの形成に基本的に寄与しない。これは対物レンズ20のレンズ面の曲面形状が第1レーザー光(BD規格)に合わせた曲率の大きな形状になっているからである。
【0069】
図8Cは、第3レーザー光が、対物レンズ20によって第3光記録媒体5の信号記録面に合焦する様子である。同図に示すように、0.20<NA≦0.47の範囲(第1回折エリア)に入射した第3レーザー光が回折構造70によって回折されることにより生じる2次回折光が、第3光記録媒体5の信号記録面に合焦する。尚、回折構造70のブレーズが形成されていない範囲(NA≦0.20(第2非回折エリア)又は0.60<NA(第1非回折エリア))における屈折光はスポットの形成に基本的に寄与しない。これは対物レンズ20のレンズ面の曲面形状が第1レーザー光(BD規格)に合わせた曲率の大きな形状になっているからである。
【0070】
図9は対物レンズ20のブレーズの高さ(横軸)と、第1レーザー光(4次回折光)、第2レーザー光(2次回折光)、第3レーザー光(2次回折光)の夫々についての回折構造70による回折効率(縦軸)の関係を示すグラフである。同図に示すように、ブレーズの高さを2.67μmとした場合には、第2レーザー光(1次回折光)及び第3レーザー光(1次回折光)のいずれについても高い回折効率(いずれも90%以上)が得られることがわかる。
【0071】
図10は、以上に説明した3波長互換の対物レンズ20、及び比較対象として用意した第1レーザー光専用の(BD規格の)対物レンズ20の夫々について、トラッキング誤差検出のためのDPP信号を比較した結果を示すグラフである。グラフの横軸は第1光記録媒体5の表面に設けられているグルーブから隣接グループへのスポットの移動番号であり、縦軸はDPP信号の大きさである。同図に示すように、本実施形態の3波長互換の対物レンズ20を用いても、そのDPP信号は第1レーザー光専用の対物レンズ20を用いた場合のDPP信号とほぼ一致しており、3波長互換の対物レンズ20によっても有効にトラッキング誤差検出を行えることがわかる。
【0072】
以上に説明したように、本実施例の光ピックアップ装置1にあっては、第1レーザー光についてはその屈折光(0次光)が第1光記録媒体5の信号記録面に合焦する。このため、第1レーザー光について高い光利用効率を得ることができる。またこのように第1レーザー光についてはこのように屈折光を用いることで、超解像現象によりサイドローブの強度が増して隣接ピットと干渉することによるノイズの発生を効果的に防ぐことができる。
【0073】
また第2レーザー光及び第3レーザー光については、夫々の2次回折光が第2光記録媒体5又は第3光記録媒体5の信号記録面に合焦する。このため、第2レーザー光及び第3レーザー光のいずれについても高い光利用効率を得ることができる。また3波長互換の対物レンズ20であるにも拘わらず、第1乃至第3のいずれの光記録媒体5についても対物レンズ20における光記録媒体5の信号記録面を覆う透明基板表面までの作動距離WDを十分確保することができる。
【0074】
[第2実施例]
第2実施例の光ピックアップ装置1は、第1実施例の光ピックアップ装置1と基本的な構成は共通するが、対物レンズ20の構成が第1実施例とは異なる。
【0075】
図11に第2実施例の対物レンズ20の仕様を示している。同図に示すように、第2実施例の対物レンズ20は、その有効径が5.00mmであり、第1実施例の対物レンズ20の有効径に比べて大きい。
【0076】
また同図に示すように、第1レーザー光を用いて行われる第1光記録媒体5への記録/再生時における作動距離WDは0.82mm、第2レーザー光を用いて行われる第2光記録媒体5への記録/再生時における作動距離WDは1.27mm、第3レーザー光を用いて行われる第3光記録媒体5への記録/再生時における作動距離WDは2.70mmである。
【0077】
図12Aは第2実施例の対物レンズ20の仕様を図6に示す位相関数式Φ(r)で表した場合における、対物レンズ20のコリメートレンズ18側のレンズ面の動径半径及び非球面係数である。また図12Bは第2実施例の対物レンズ20の仕様を図6に示す位相関数式Φ(r)で表した場合における、対物レンズ20の光記録媒体5側のレンズ面の動径半径及び非球面係数である。尚、図12A及び図12Bにおいて、rは動径半径であり、ccはコーニック係数である。
【0078】
第1実施例の場合と同様に、対物レンズ20のコリメートレンズ18側の表面の所定範囲には回折構造70が設けられており、コリメートレンズ18から対物レンズ20に入射する第1乃至第3レーザー光は、対物レンズ20の屈折効果又は回折構造70の回折効果によって第1乃至第3レーザー光を第1乃至第3光記録媒体5の信号記録面に集光される。
【0079】
図13に、対物レンズ20の回折構造70が設けられる範囲、及び回折構造70の断面形状を示している。同図に示すように、対物レンズ20の0.14<NA≦0.60の範囲(回折エリア)に回折構造70としてブレーズ回折格子が形成されている。同図に示すように、対物レンズ20の光軸を中心として同心円状に複数のブレーズが形成されている。各ブレーズの高さは1.33μmである。尚、0.14<NA≦0.47の範囲(第1回折エリア)と0.47<NA≦0.60の範囲(第2回折エリア)とでは形成されているブレーズの形状は形状が異なる。
【0080】
図14A乃至図14Cは、いずれも対物レンズ20を側方から眺めた図である。これらの図には、対物レンズ20の屈折効果又は回折構造70の回折効果によって第1乃至第3光記録媒体5の信号記録面に第1乃至第3レーザー光が集光される様子が示されている。
【0081】
図14Aは、第1レーザー光が、対物レンズ20によって第1光記録媒体5の信号記録面に合焦する様子である。同図に示すように、対物レンズ20の屈折効果によって、対物レンズ20のNA≦0.14(第2非回折エリア)、又は0.60<NAの範囲(第1非回折エリア)に入射した第1レーザー光(0次光)は、第1光記録媒体5の信号記録面に合焦する。一方、0.14<NA≦0.60の範囲(回折エリア=第1回折エリア+第2回折エリア)に入射する第1レーザー光は、回折構造70によって回折されてスポットの形成には基本的に寄与しない。
【0082】
図14Bは、第2レーザー光が、対物レンズ20によって第2光記録媒体5の信号記録面に合焦する様子である。同図に示すように、対物レンズ20の0.14<NA≦0.60の範囲(回折エリア=第1回折エリア+第2回折エリア)に入射した第2レーザー光が回折構造70によって回折され、これにより生じた1次回折光が第2光記録媒体5の信号記録面に合焦している。尚、回折構造70のブレーズが形成されていない範囲(NA≦0.14(第2非回折エリア)又は0.60<NA(第1非回折エリア))における屈折光は、スポットの形成に基本的に寄与しない。これは対物レンズ20のレンズ面の曲面形状が第1レーザー光(BD規格)に合わせた曲率の大きな形状になっているからである。
【0083】
図14Cは、第3レーザー光が、対物レンズ20によって第3光記録媒体5の信号記録面に合焦する様子である。同図に示すように、0.14<NA≦0.47の範囲(第1回折エリア)に入射した第3レーザー光が回折構造70によって回折され、これにより生じた1次回折光が第3光記録媒体5の信号記録面に合焦している。尚、回折構造70のブレーズが形成されていない範囲(NA≦0.14(第2非回折エリア)又は0.60<NA(第1非回折エリア))における屈折光はスポットの形成に基本的に寄与しない。これは対物レンズ20のレンズ面の曲面形状が第1レーザー光(BD規格)に合わせた曲率の大きな形状になっているからである。
【0084】
図15は対物レンズ20のブレーズの高さ(横軸)と、第1レーザー光(2次回折光)、第2レーザー光(1次回折光)、第3レーザー光(1次回折光)の夫々についての、回折構造70による回折効率(縦軸)の関係を示すグラフである。同図に示すように、ブレーズの高さを1.33μmとした場合には、回折構造70が形成されている範囲(0.14<NA≦0.60の範囲(回折エリア))における第1レーザー光(2次回折光)の回折効率は60%以下となり、光記録媒体5への集光光には殆ど寄与しないことがわかる。また第2レーザー光(1次回折光)及び第3レーザー光(1次回折光)のいずれについても高い回折効率(いずれも90%以上)が得られることがわかる。
【0085】
図16は、以上に説明した3波長互換の対物レンズ20、及び比較対象として用意した第1レーザー光専用の(BD規格の)対物レンズ20の夫々について、トラッキング誤差検出のためのDPP信号を比較した結果を示すグラフである。グラフの横軸は第1光記録媒体5の表面に設けられているグルーブから隣接グルーブへのスポットの移動番号であり、縦軸はDPP信号の大きさである。同図に示すように、本実施形態の3波長互換の対物レンズ20を用いても、そのDPP信号は第1レーザー光専用の対物レンズ20を用いた場合のDPP信号とほぼ一致しており、3波長互換の対物レンズ20によっても有効にトラッキング誤差検出を行えることがわかる。
【0086】
以上に説明したように、本実施例の光ピックアップ装置1においては、第1レーザー光についてはその屈折光(0次光)が第1光記録媒体5の信号記録面に合焦する。このため、第1レーザー光について高い光利用効率を得ることができる。また第1レーザー光についてこのように0次光を用いることで、超解像現象によりサイドローブの強度が増して隣接ピットと干渉することによるノイズの発生を防ぐことができる。
【0087】
また第2レーザー光及び第3レーザー光については、夫々の1次回折光が第2光記録媒体又は第3光記録媒体5の信号記録面に合焦する。このため、第2レーザー光及び第3レーザー光のいずれについても高い光利用効率を得ることができる。
【0088】
また第2レーザー光及び第3レーザー光については、第2非回折エリアにより集光される夫々のレーザー光を第2光記録媒体5又は第3光記録媒体5の信号記録面に夫々合焦させないようになっている。そのため、第2光記録媒体5又は第3光記録媒体5において対物レンズ20の作動距離WDを確保するのに有利である。特にCD(第3記録媒体5)の場合には、信号記録面を覆う透明基板の厚みが第1又は第2の光記録媒体5(DVD又はBD)に比べて厚いために対物レンズ20の作動距離WDの確保が困難であるが、このように第2非回折エリアにより集光されるレーザー光を信号記録面に合焦させないことで対物レンズ20の作動距離WDを十分に確保することができる。このため、3波長互換の対物レンズ20であるにも拘わらず、第1乃至第3のいずれの光記録媒体5についても十分な作動距離WDを確保することができる。
【0089】
以上、実施の形態について説明したが、以上の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば以上の実施形態では、対物レンズ20の表面に回折構造を設けているが、対物レンズ20とは別体に回折構造を設けてもよい。また回折構造は回折格子に限らずホログラム等であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 光ピックアップ装置
5 光記録媒体
11 第1レーザー光源
12 第2レーザー光源
13 第1回折格子
14 第2回折格子
15 カップリングレンズ
16 偏光ビームスプリッタ
17 ハーフミラー
18 コリメートレンズ
19 1/4波長板
20 対物レンズ
21 検出レンズ
22 レーザー光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する光記録媒体に光束を照射し、前記光記録媒体から反射される光束を検出する光ピックアップ装置に用いられ、
第1の前記光記録媒体に第1レーザー光を集光させ、
第2の前記光記録媒体に前記第1レーザー光とは波長が異なる第2レーザー光を集光させ、
第3の前記光記録媒体に前記第1レーザー光及び前記第2レーザー光とは波長が異なる第3レーザー光を集光させる対物レンズであって、
当該対物レンズの光軸を中心とする同心円状に回折構造が設けられた回折エリアと、前記回折エリアの外周側に設けられる第1非回折エリアとを有し、
前記第1非回折エリアにおける屈折作用により前記第1レーザー光を前記第1光記録媒体の信号層に合焦させ、
前記回折エリアにおける回折作用により前記第2レーザー光を前記第2光記録媒体の信号層に合焦させ、
前記回折エリアにおける回折作用により前記第3レーザー光を前記第3光記録媒体の信号層に合焦させる
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の対物レンズであって、
前記回折エリアは、前記第3レーザー光を前記第3光記録媒体の信号層に合焦させる第1回折エリアと前記第1回折エリアよりも外周側に設けられる第2回折エリアとを有し、
前記第2回折エリアは、前記第3レーザー光を前記第3光記録媒体の信号層に合焦させない
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項3】
請求項1に記載の対物レンズであって、
前記回折エリアの内周側に第2非回折エリアが設けられている
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項4】
請求項3に記載の対物レンズであって、
前記第2非回折エリアにより集光される第3レーザー光を前記第3光記録媒体の信号層に合焦させない
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項5】
請求項1に記載の対物レンズであって、
前記第1レーザー光の0次光を前記第1光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記第2レーザー光の2次回折光を前記第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記第3レーザー光の2次回折光を前記第3光記録媒体の信号記録面に合焦させる
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項6】
請求項5に記載の対物レンズであって、
前記第1レーザー光は青紫色波長帯400nm〜420nmであり、
前記第2レーザー光は赤色波長帯645nm〜675nmであり、
前記第3レーザー光は赤外波長帯765nm〜805nmであり、
NA(Numerical Aperture)が0.85であり、
前記第1非回折エリアである前記対物レンズのNA≦0.20又は0.60<NAの範囲を透過する前記第1レーザー光の前記0次光を前記第1光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記回折エリアである前記対物レンズの0.20<NA≦0.60の範囲を透過する前記第2レーザー光の前記2次回折光を前記第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記回折エリアである前記対物レンズの0.20<NA≦0.47の範囲を透過する前記前記第3レーザー光の前記2次回折光を前記第3光記録媒体の信号記録面に合焦させる
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項7】
請求項5に記載の対物レンズであって、
前記回折構造として、前記第1乃至第3のレーザー光の入射側のレンズ面にブレーズ回折格子が形成されている
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項8】
請求項7に記載の対物レンズであって、
ブレーズ高さが2.67μmである前記ブレーズ回折格子が前記対物レンズの0.20<NA≦0.60の範囲に形成されている
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項9】
請求項5に記載の対物レンズであって、
前記第1光記録媒体の前記0次光の集光点を基準とする前側主点位置Δ1、及び後側主点位置Δ2が、夫々、前記対物レンズの面頂間の距離をdとしたとき、
+0.40≦Δ1/d≦+0.60
−0.50≦Δ2/d≦−0.20
の関係を満たす
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項10】
請求項5に記載の対物レンズであって、
外径が3.5mmであることを特徴とする対物レンズ。
【請求項11】
請求項1に記載の対物レンズであって、
前記第1レーザー光の0次光を前記第1光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記第2レーザー光の1次回折光を前記第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記第3レーザー光の1次回折光を前記第3光記録媒体の信号記録面に合焦させる
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項12】
請求項11に記載の対物レンズであって、
前記第1レーザー光は青紫色波長帯400nm〜420nmであり、
前記第2レーザー光は赤色波長帯645nm〜675nmであり、
前記第3レーザー光は赤外波長帯765nm〜805nmであり、
NA(Numerical Aperture)が0.85であり、
前記第1非回折エリアである前記対物レンズのNA≦0.14、又は0.60<NAの範囲を透過する前記第1レーザー光の前記0次光を前記第1光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記回折エリアである前記対物レンズの0.14<NA≦0.60の範囲を透過する前記第2レーザー光の前記1次回折光を前記第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記回折エリアである前記対物レンズの0.14<NA≦0.47の範囲を透過する前記前記第3レーザー光の前記1次回折光を前記第3光記録媒体の信号記録面に合焦させる
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項13】
請求項11に記載の対物レンズであって、
前記回折構造として、前記第1乃至第3のレーザー光の入射側のレンズ面にブレーズ回折格子が形成されている
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項14】
請求項13に記載の対物レンズであって、
ブレーズ高さが1.33μmである前記ブレーズ回折格子が前記対物レンズの0.14<NA≦0.60の範囲に形成されている
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項15】
請求項11に記載の対物レンズであって、
前記第1光記録媒体の前記0次光の集光点を基準とする前側主点位置Δ1、及び後側主点位置Δ2が、夫々、前記対物レンズの面頂間の距離をdとしたとき、
+0.40≦Δ1/d≦+0.60
−0.50≦Δ2/d≦−0.20
の関係を満たす
ことを特徴とする対物レンズ。
【請求項16】
請求項11に記載の対物レンズであって、
外径が5.0mmであることを特徴とする対物レンズ。
【請求項17】
回転する光記録媒体に光束を照射し、前記光記録媒体から反射される光束を検出する光ピックアップ装置であって、
第1の前記光記録媒体に第1レーザー光を集光させ、
第2の前記光記録媒体に前記第1レーザー光とは波長が異なる第2レーザー光を集光させ、
第3の前記光記録媒体に前記第1レーザー光及び前記第2レーザー光とは波長が異なる第3レーザー光を集光させる対物レンズを備え、
前記対物レンズは、当該対物レンズの光軸を中心とする同心円状に回折構造が設けられた回折エリアと、前記回折エリアの外周側に設けられる第1非回折エリアとを有し、
前記第1レーザー光を、前記第1非回折エリアにおける屈折作用により前記第1光記録媒体の信号層に合焦させ、
前記第2レーザー光を、前記回折エリアにおける回折作用により前記第2光記録媒体の信号層に合焦させ、
前記第3レーザー光を、前記回折エリアにおける回折作用により前記第3光記録媒体の信号層に合焦させる
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項18】
請求項17に記載の光ピックアップ装置であって、
前記回折エリアは、前記第3レーザー光を前記第3光記録媒体の信号層に合焦させる第1回折エリアと前記第1回折エリアよりも外周側に設けられる第2回折エリアとを有し、
前記第2回折エリアは、前記第3レーザー光を前記第3光記録媒体の信号層に合焦させない
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項19】
請求項17に記載の光ピックアップ装置であって、
前記回折エリアの内周側に第2非回折エリアが設けられている
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項20】
請求項19に記載の光ピックアップ装置であって、
前記第2非回折エリアにより集光される第3レーザー光を前記第3光記録媒体の信号層に合焦させない
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項21】
請求項17に記載の光ピックアップ装置であって、
前記対物レンズは、
前記第1レーザー光の0次光を前記第1光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記第2レーザー光の2次回折光を前記第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記第3レーザー光の2次回折光を前記第3光記録媒体の信号記録面に合焦させる
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項22】
請求項21に記載の光ピックアップ装置であって、
前記第1レーザー光は青紫色波長帯400nm〜420nmであり、
前記第2レーザー光は赤色波長帯645nm〜675nmであり、
前記第3レーザー光は赤外波長帯765nm〜805nmであり、
NA(Numerical Aperture)が0.85であり、
前記第1非回折エリアである前記対物レンズのNA≦0.20又は0.60<NAの範囲を透過する前記第1レーザー光の前記0次光を前記第1光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記回折エリアである前記対物レンズの0.20<NA≦0.60の範囲を透過する前記第2レーザー光の前記2次回折光を前記第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記回折エリアである前記対物レンズの0.20<NA≦0.47の範囲を透過する前記前記第3レーザー光の前記2次回折光を前記第3光記録媒体の信号記録面に合焦させる
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項23】
請求項17に記載の光ピックアップ装置であって、
前記対物レンズは、
前記第1レーザー光の0次光を前記第1光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記第2レーザー光の1次回折光を前記第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記第3レーザー光の1次回折光を前記第3光記録媒体の信号記録面に合焦させる
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項24】
請求項23に記載の光ピックアップ装置であって、
前記第1レーザー光は青紫色波長帯400nm〜420nmであり、
前記第2レーザー光は赤色波長帯645nm〜675nmであり、
前記第3レーザー光は赤外波長帯765nm〜805nmであり、
NA(Numerical Aperture)が0.85であり、
前記第1非回折エリアである前記対物レンズのNA≦0.14、又は0.60<NAの範囲を透過する前記第1レーザー光の前記0次光を前記第1光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記回折エリアである前記対物レンズの0.14<NA≦0.60の範囲を透過する前記第2レーザー光の前記1次回折光を前記第2光記録媒体の信号記録面に合焦させ、
前記回折エリアである前記対物レンズの0.14<NA≦0.47の範囲を透過する前記前記第3レーザー光の前記1次回折光を前記第3光記録媒体の信号記録面に合焦させる
ことを特徴とする光ピックアップ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図8C】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12A】
image rotate

【図12B】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14A】
image rotate

【図14B】
image rotate

【図14C】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2011−81868(P2011−81868A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233732(P2009−233732)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(504464070)三洋オプテックデザイン株式会社 (315)
【Fターム(参考)】