説明

封入による生物活性食品成分の保護

本発明は、1種もしくは2種以上の生きた微生物と、少なくとも1種の選択した生物活性食品成分とを含有する食品に関し、この選択した生物活性食品成分は、前記生きた微生物によるその代謝を低減させるように、脂肪内への封入により保護されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種もしくは2種以上の生きた微生物と少なくとも1種の選択した生物活性食品成分とを含有する食品であって、該生きた微生物と該選択した生物活性食品成分が、該微生物による該生物活性食品成分の代謝を低減させるように使用される食品に関する。
【0002】
生物活性すなわち機能性の食品成分、特にペプチド(すなわち、消費者に対する有益な作用を、消化管において局所的に、または循環系に流入した後に体内で遠位効果として有する)の市場は近年、急速に拡大している。
【0003】
生物活性ペプチドとは、それが由来するタンパク質内では不活性であるが、酵素作用により放出(遊離)されると特別の特性を示すようになる、特定されたアミノ酸配列のことである。これらのペプチドは機能性ペプチドとも呼ばれる。このような生物活性ペプチドは、とりわけ消化器系、生体防御系(例えば、抗菌もしくは免疫調節効果)、心臓血管系(特に抗血栓もしくは抗高血圧効果)ならびに/または神経系(鎮静効果もしくはオピオイド型の鎮痛効果など)に効果を発揮することができる(下記の表1および2を参照)。
【0004】
次の表1は人乳および牛乳のタンパク質の加水分解により放出される主要な機能性ペプチドを列挙する。
【0005】
【表1】

【0006】
次の表2は、今日まで知られている乳由来の機能性ペプチドの主な生理学的活性をまとめたものである。
【0007】
【表2−1】

【0008】
【表2−2】

【0009】
【表2−3】

【0010】
【表2−4】

【0011】
これらのペプチドは、たいていは植物タンパク質(例えば、大豆タンパク質)または動物タンパク質(例えば、カゼインまたは乳清タンパク質)の加水分解により得られる。この加水分解は酵素法および/または発酵法により行われ、目的とする「健康増進効果」を与えるのに一般に必要な工程である、活性画分の濃縮をたいていは伴う。健康増進効果を提供するためのこれらのペプチドの製造および使用については、十分な数の文献の主題となっている(Danone World Newsletter No. 17, 1998年9月を参照)。
【0012】
このような成分を受容すると考えられる食物ベクターの中で、発酵乳製品は、発酵素および発酵産物(すなわち、乳中に存在する基質の乳酸菌による変換により生ずる分子)の存在に起因する健康増進効果を与えるのに高い位置にランクされる。今日まで、科学界では発酵素(ferment)の性質に特別の注意を払ってきた。研究者は最近、発酵産物に関心を持つようになっており、その中でもある種のペプチドは、非常に多くの特異的な生物学的メッセンジャーで形成することから特別の地位を占めている。従って、発酵乳製品は例えば、カゼインまたは乳清タンパク質のような乳基質から得られた生物活性ペプチド加水分解物に対するベクターとして特に好適である。
【0013】
この場合に、ある大きな問題が生ずる:生の(新鮮)乳製品(ヨーグルト、発酵乳製品、乳を主成分とする発酵飲料など)の製造に使用する微生物、特に乳酸菌は、一般にそれらの栄養要求量、より具体的にはそれらの窒素要求量を満たすために、ペプチドを消費することができる。これに関しては、「ペプチドの代謝」として後で言及する。乳酸菌は、それらがペプチドを代謝して培地からそれらを消失させるのを可能にする下記のいくつかの分解系および/または輸送系を効果的に有している。
【0014】
1.タンパク質および大きなペプチドを開裂して、それらの吸収(同化)を促進するタンパク質分解系(細胞壁プロテアーゼ、PRT)(「細胞外代謝系」);
2.細胞内部に向かう輸送系、サイズが約10アミノ酸に近いその一つはオリゴペプチドに対して特異的であり、もう一つはジペプチドおよびトリペプチドの輸送に適合している(乳酸桿菌は別にトリペプチドペルミアーゼ系も有する)(「細胞内部指向輸送系」);ならびに
3.ペプチドをアミノ酸に分解できる細胞内酵素系(約15種のエンドペプチダーゼおよびエキソペプチダーゼを含有)(「細胞内代謝系」)。
【0015】
乳中に天然に存在するペプチドの量は乳酸菌の要求量に比べて一般に極めて少ないため、追加のペプチドを供給することによりそれらの増殖を加速するのが普通である。発酵中にそれらペプチドは完全に消費される。
【0016】
結局のところ、(i) 乳中でペプチドがその主要供給源となる、乳酸菌の窒素要求量、(ii) 該乳酸菌がペプチドを効率的に消費する能力、および(iii) 賞味期限(BBD)まで乳系発酵製品中に乳酸菌のかなりの集団が生存、という理由により、発酵乳製品の製造のための機能性ペプチド含有成分の使用は、発酵中、さらには賞味期限までの製品の貯蔵中に、これらの成分がたいていは乳酸菌により消費されてしまうため、困難であるか、さらには不可能である。
【0017】
さらに、細菌による「時期尚早の」代謝によるペプチドの分解というこの問題は、ある特定のペプチドに特異的なものではないばかりか、ある特定の発酵素(または発酵を生ずることができる微生物、好ましくは細菌)に特異的なものでもない。
【0018】
このことは、考慮するペプチドまたは微生物の種類に関係なく起こる普遍的な問題である。
1例として、生物活性ペプチドαS1[91-100]を引用することができる(欧州特許EP0714910を参照;αS1[91-100]ペプチドは、特に、51-53, Avenue Fernand Lobbedez BP 946, 62033 ARRAS Cedex, フランス所在のアングルディア(Ingredia)社からラクティウム(R)(Lactium)なる名称で販売されている、乳タンパク質加水分解物に含まれる弛緩性を有するペプチドである)。出願人は、最終製品中の生きた乳酸菌集団がその最終製品の貯蔵中に生物活性ペプチドを代謝し続けるため、わずか10日後(その賞味期限が28日間である生の製品について)にαS1[91-100]ペプチドの約35〜55%が消失したことを認めた。これは消費者に対して「健康」効果を保証するには全く許容できないことである(データは示さず)。
【0019】
生物活性ペプチドの消費が発酵素の代謝活性により引き起こされることから、この微生物の全部または一部を、例えば適当な熱処理(高温殺菌 <thermization>または低温殺菌 <Pasteurization>)を用いて殺すことにより、この現象を低減させること考えられるかもしれない。この場合、生物活性αS1[91-100]ペプチドを保存することが可能となる(例えば、75℃に約1分間の加熱後に)。
【0020】
しかし、かかる解決策は下記の多くの難点を与える:
・発酵乳塊の高温殺菌は、熱処理前に添加する安定剤(ペクチン、デンプン、カラジーナンなど)の使用を必要とするため、プロセスを複雑化し、調合コストを著しく増大させる;
・工業用生産ラインがより複雑となり、特別のより大きな投資を必要とする;
・製品は、もはや生きた発酵素を含有する製品(ヨーグルト型)としての品質ラベルから得られる利益を享受できず、それにより乳酸発酵素の摂取に伴う利益を失うであろう;そして
・一般にマイナス方向の官能性(感覚刺激)衝撃が顕著である。
【特許文献1】EP0714910
【特許文献2】US6514941
【特許文献3】EP0583074
【特許文献4】EP0737690
【特許文献5】EP1302207
【特許文献6】EP0821968
【特許文献7】特開平6−197786号公報
【非特許文献1】Kayser et al., (1996) FEBS Letters 383, 18-20
【非特許文献2】Hata Y. et al., (1996) Am. J. Clin. Nutr. 64, 767-71
【非特許文献3】Nakamura Y. et al., (1995) J. Dairy Sci. 78, 1253-7
【非特許文献4】Migliore-Samour D. et al., (1988) Experimentia 44,188-93
【非特許文献5】Defilippi C. et al., (1995) Nutr. 11, 751-4
【非特許文献6】Tome D. et al., (1987) Am. J. Physiol. 253, G737-44
【非特許文献7】Tome D. et al.,(1988) Reprod. Nutri. Develop. 28, 909-18
【非特許文献8】Ben Mansour A. et al., (1988) Pediatr. Res. 24, 751-5
【非特許文献9】Mahe S. et al., (1989) Reprod. Nutri. Develop. 29, 725-32
【非特許文献10】Schusdziarra V. et al., (1983) Diabetologia 24, 113-6
【非特許文献11】Yvon M. et al., (1994) Reprod. Nutri. Develop. 34, 527-37
【非特許文献12】Zucht H.D. et al., (1995) FEBS Letters 372, 185-8
【非特許文献13】Tomita M. et al.,(1994) Acta Paed. Jap. 36, 585-91
【非特許文献14】Lahov E. et al., (1996) Food Chem. Toxic. 34, 131-145
【非特許文献15】Migliore-Samour D. et al., (1989) Int. Dairy Res. 56, 357-62
【非特許文献16】Jolles P. et al., (1986) Europ. J. Biochem, 158, 379-82
【非特許文献17】Raha S. et al., (1988) Blood 772, 172-8
【非特許文献18】Chabance B. et al., (1995) Brit. J. Nut. 73, 582-90
【非特許文献19】Kohmura M. et al., (1989) Agric. Biol. Chem. 53, 2107-14
【非特許文献20】Masuda O. et al.,(1996) J. Nutr. 126, 3063-8
【非特許文献21】Yamamoto N. et al.,(1994) Biosci. Biotech. Biochem. 58, 776-8
【非特許文献22】Ermisch A. et al.,(1983) J. Neurochem. 41, 1229
【非特許文献23】Umbach M. et al.,(1985) Regul. Pept. 12, 223-30
【非特許文献24】Singh M. et al.,(1989) Pediatr. Res. 26, 34-8
【非特許文献25】Svedberg J.et al.,(1985) Peptides 6, 825-30
【非特許文献26】Teschemacher H. et al.,(1986) J. Dairy Res. 53, 135-8
【非特許文献27】Yoshikawa M. et al.,(1986) Agric. Biol. Chem. 50, 2419-21
【非特許文献28】Chiba H. et al.,(1989) J. Dairy Sci. 72, 363
【非特許文献29】Beucher S. et al., (1994) J. Nutr. Biochem, 5, 578-84
【非特許文献30】Parker F. et al,,(1984) Eur. J. Biochem, 45, 677-82
【非特許文献31】Otani H. et al., (1992) Milchwiss. 47, 512-5
【非特許文献32】Otani H. et al., (1995) J. Dairy Res. 62, 339-48
【非特許文献33】Drouet et al., (1990) Nouv. Rev. Fr. Hermatol, 32, 59-62
【非特許文献34】Mullaly M. et al., (1997) Int. Dairy J. 7, 299-303
【非特許文献35】Meisel H. et al., (1986) FEBS Letters 196, 223-7
【非特許文献36】Danone World Newsletter No. 17 (September 1998)
【非特許文献37】Functional Food Science in Europe (1998) British Journal of Nutrition 80(1): S1-S193
【非特許文献38】Directional Paired Comparison Method, Sensory Evaluation of Food, Harry T. Lawless, Hildegarde Heymann (1990)
【発明の開示】
【0021】
従って、生きた微生物と1種または2種以上の興味ある選択した生物活性食品成分との両方を含有する食品(例、ヨーグルト)であって、その食品の官能的品質を保持しながら、該選択した生物活性食品成分が該生きた微生物による代謝から保護されているような食品が求められている。
【0022】
本発明により、出願人は、この既存のニーズを満たすことができる解決策を提供する。
従って、本発明は、1種もしくは2種以上の生きた微生物と少なくとも1種の選択した生物活性食品成分とを含有する食品であって、該生きた微生物と該選択した生物活性食品成分とが、該生きた微生物による該生物活性食品成分の代謝を低減させるように使用される食品に関する。
【0023】
かくして、出願人は、1種もしくは2種以上選択した生物活性食品成分を生きた微生物と一緒に使用する時に適用する使用条件が適切であるなら、この成分を該微生物による代謝から効率的に保護することができることを示した。
【0024】
この適切な使用条件としては、下記を含む多様な手段が可能である:
a)生物活性成分を代謝する能力が低減している、生きた微生物を使用する;
b)生きた微生物に意図的に「供物として与えられる」デコイ食品成分を使用する;および/または
c)特に該生物活性成分の封入(encapsulation、マイクロカプセル化)により、生物活性成分の物理的保護を使用する。
【0025】
この点に関し、これらの手段の1または2以上、さらには全部を同じ食品に有利に組み合わせることができることを指摘しておく。
かくして、出願人は、1種もしくは2種以上の生きた微生物と少なくとも1種の選択した生物活性食品成分とを含有し、該生物活性食品成分が、該生きた微生物による該生物活性食品成分の代謝が低減するように、下記手段により保護されている食品である:
・物理的手段により、好ましくは該選択した生物活性食品成分がカプセル封入されている;および/または
・該食品中に含有される少なくとも1種のデコイ食品成分により。
【0026】
より正確には、本発明の1主題は、1種もしくは2種以上の生きた微生物と少なくとも1種の選択した生物活性食品成分とを含有する食品であって、該選択した生物活性食品成分が、該生きた微生物によるその代謝が低減するように、油脂内の封入により物理的に保護されていることを特徴とする食品である。
【0027】
前述の背景技術に関して簡単に触れたように、本発明に関して「代謝する」または「代謝」とは、1種または2種以上の生きた微生物による或る物質の転換または分解を意味し、その物質は栄養分の供給源として消費され、最終結果は培地からのその物質のほぼ完全な消失となる。
【0028】
本発明の意味において、ある成分の代謝が「低減する」とは、同じ成分が本発明により提供された手段の少なくとも一つにより保護されていない時のその成分の代謝より低くなっている場合である。
【0029】
有利には、そして理想的には、この低減した代謝はゼロに近づき、さらにはゼロに到達することであり、そうなるとその成分の代謝はほとんど、ほぼ全く、さらには全く起こらなくなる。
【0030】
本発明にある特定の態様によると、その食品中の選択した生物活性食品成分の残留量が、その製造直後の食品中に存在する選択した生物活性食品成分の量に対して、その製造から3週間後で、約50〜100%である。
【0031】
好ましくは、この残留量は約80〜100%である。
本発明によると、「食品中の選択した生物活性食品成分の残留量」とは、選択した生物活性食品成分の最初に存在する割合、すなわち、その食品の製造直後における割合に対する、その食品を適切な貯蔵条件下(例えば、生の食品については約4〜10℃程度)で3週間貯蔵した時の該食品中に存在する選択した生物活性食品成分の割合、を意味する。
【0032】
本発明を実施する場合、前記選択した生物活性食品成分は特に下記の群から選ばれる:
・タンパク質、
・ペプチド、
・ビタミン、
・微量栄養素、
・それらの誘導体もしくは類似物、ならびに
・それらの混合物。
【0033】
好ましくは、選択した生物活性食品成分は下記の群から選ばれる:
・タンパク質、
・ペプチド、
・それらの類似物もしくは誘導体、ならびに
・それらの混合物。
【0034】
好ましくは、選択した生物活性食品成分は下記の群から選ばれる:生物活性のαS1[91-100]ペプチド(欧州特許EP0714910を参照)、C6−αS1[194-199]ペプチド(米国特許US6514941を参照)、C7−β[177-183]ペプチド(米国特許US6514941を参照)、C12−αS1[23-34]ペプチド(米国特許US6514941を参照)、カゼインホスホペプチド、α−カゾモルフィン、α-カゼインエキソルフィン、カゾキニン(casokinin)、β−カゾモルフィン、カゼイノマクロペプチド(CMP)、これはグリコマクロペプチド(GMP)もしくはカゼイノグリコマクロペプチド(CGMP)とも呼ばれる、カゾキシン(casoxin)、カゾプラテリン(casoplatelins)、フラグメント50-53、β−ラクトルフィン(β-lactorphins)、ラクトフェロキシン(lactoferroxin)、Val-Pro-Proペプチド(欧州特許EP0583074を参照)、Lys-Val-Leu-Pro-Val-Pro-Glnペプチド(欧州公開EP0737690を参照)、Tyr-Lys-Val-Pro-Gln-Leuペプチド(欧州公開EP0737690を参照)、Tyr-Proペプチド(欧州公開EP1302207および欧州特許EP0821968を参照)、Ile-Pro-Proペプチド(Nakamura et al., 1995および特開平6−197786号を参照)、それらのフラグメント、類似物および誘導体、それらペプチドを含むタンパク質および/もしくはペプチド、ならびにそれらの混合物(概説については、Danone World Newsletter No. 17, 1998年9月を参照)。
【0035】
より一層好ましくは、選択した生物活性食品成分は下記の群から選ばれる:生物活性αS1[91-100]ペプチド、そのフラグメント、類似物もしくは誘導体、それを含むタンパク質および/もしくはペプチド、ならびにそれらの混合物。
【0036】
「類似物」とは、初期化合物(この場合はタンパク質またはペプチド)の任意の改変物を意味し、この改変物は天然または合成物質であり、炭素、水素もしくは酸素原子のような1もしくは2以上の原子、または窒素、硫黄もしくはハロゲンのようなヘテロ原子が初期化合物の構造に付加またはこれから除去されることにより新たな分子化合物となったものである。
【0037】
本発明の意味において、「誘導体」とは、参考化合物(タンパク質またはペプチド)との類似性またはこれと共通する構造ユニットを有する任意の化合物である。やはりこの定義に該当するものは、単独でもしくは他の化合物と共に、1もしくは2以上の化学反応を受けて参考化合物の合成を生ずる前駆体もしくは中間体となることができる化合物、ならびに単独でもしくは他の化合物と共に、1もしくは2以上の化学反応を経て該参考化合物から形成されうる化合物である。
【0038】
従って、上記「誘導体」の定義に包含される化合物として、タンパク質および/またはペプチドの加水分解物、特にトリプシンの作用で生じる加水分解物、加水分解物の画分、ならびに加水分解物および/もしくは加水分解物画分の混合物が挙げられる。
【0039】
さらに、上述した「類似物」ならびに「ペプチドもしくはタンパク質の誘導体」は、例えば、グリコシル化(糖付加)もしくはリン酸化(ホスホリル化)されたペプチドもしくはタンパク質、または化学基の付加を受けたものも包含する。
【0040】
本発明の別の態様において、選択した生物活性食品成分は、糖または脂肪酸であってもよい。
本発明では、選択した生物活性食品成分だけが封入され、生きた微生物は封入されない。
【0041】
本発明によれば、「封入された」または「封入」とは、活性成分を微粒子型のビヒクル中にこの活性成分の制御された放出を可能にするように保護する方法の使用を意味する。本発明の場合、活性成分は1種または2種以上の選択された生物活性食品成分からなる。
【0042】
非常に有利な方法では、封入は、生きた微生物による選択した生物活性食品成分の代謝を防止する点で、従来の解決手段の難点を改善することができる。
さらに、封入により、選択した生物活性食品成分が分解せずに腸内を可及的に遠くまで移動して、それらが腸内でそれらの効果を生ずることができるように、損傷せずに腸障壁を通過することが可能となる。
【0043】
また、出願人は、物質の封入は、発酵食品、特に発酵乳製品に関しては完全に独創的であること指摘しておく。
最後に、完全に興味ある様式で、封入により、例えば、一部の生物活性成分、特に一部のペプチドの苦みをいくらかマスキングすることにより、感覚器官がより許容しうる最終製品を得ることが可能となることも強調されるべきである。
【0044】
ある特に好ましい態様において本発明はその苦みが軽減された上述のような食品に関するというのは、これが理由である。
本発明の意味において、ペアリング試験[指向性ペア化比較試験法、食品の感覚評価(Directional Paired Comparison Method, Sensory Evaluation of Food), Harry T. Lawless, Holdegarde Heymann (1990)]の後で、ある食品がより苦みが少ないと判断された場合には、その食品の苦みは「軽減」されている。この試験は、苦みの感じ方が十分に統合された(この感じ方の習得は、その分子の濃度に応じて苦みの強さを調整できる苦み分子(例、カフェイン)を含有する食品を味わうことにより達成される)異なる人のグループからなるパネル(メンバーは10人以上)により行うことができる。本発明に従った製品は、盲検法(パネルメンバーはどの製品が最初に供試されるかを知らない)により検査され、これらのパネルメンバーにより本発明に従わない製品と比較される。もちろん、パネルに供される2種類の製品は、一方が本発明に従って製造されたものであり、他方がそうではない点だけで異なる。2種類の製品の供試順はパネルのメンバーの中でランダムに決められるが、本発明に従った製品を最初に受け取る人数は、他方の製品を最初に受け取る人数と同数にする。各パネルメンバーは、試験した2種類のどちらが最も苦い製品であるかを、試験の反復ごとに表示しなければならない。
【0045】
本発明によれば、選択した生物活性食品成分は油脂中に封入されている。
油脂封入は、具体的には、選択した生物活性食品成分を、それらが最終的にその中に封入されることになる油脂相中に分散させる(すなわち、該成分は非常に微細な脂質小滴内部に閉じ込められて捕捉される)ことにより行われる。
【0046】
特に化粧品(美容学)といった他の技術分野で使用されている公知の分散法とは異なり、この分散(体)の使用はその後の乾燥工程を全く必要としないことが注目されよう。
普通に認められている通り、「油脂(fat)」または「油脂体(fatty body)」とは、1種または2種以上の脂質を含有する任意の物質を意味する。それは、例えば、油、脂、バター等でよい。この油脂は、天然、従って、動物、植物およびそれらの産物(すなわち、それらの代謝により生ずる産物)内に多様な形態で存在するものでも、あるいは合成でもよい。
【0047】
本発明に使用することができる油脂の一つの選択基準は、その融点に関する。上に説明したような分散(体)を達成するには、固形の油脂、すなわち、室温で固体であるものを使用しなければならない。適当な油としては、パーム油およびその画分、ヤシ油およびその画分、パーミスト油(palmist oil)およびその画分、カカオバター型の植物性バター油、マーガリン、水素化もしくは部分水素化植物油、ならびに類似物が特に挙げられる。
【0048】
固形油脂の選択はまたその栄養分の質を考慮に入れる。この点では、例えば、水素化または部分水素化油脂より分別または分留された油脂が優先する。
より効率的な分散が望まれる場合、生物活性食品成分を可溶化させてしまうために、多相の水/油/水エマルジョン中で封入を実施することが好ましい。この場合には、室温で流体の油脂(油)がより好適かもしれない(ナタネ油、オレイン化ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、オレイン化ヒマワリ油、魚油、藻類油(algae oil)など)。
【0049】
これに関して、固形油脂の選択により、融解後のその再結晶を使用すると、生物活性食品成分の捕捉と物理的保護を生ずることができることを出願人は指摘しておく。
適当な油脂は、特に、動物性油脂、特に乳もしくは魚の油脂、ならびに植物性油脂から選択することができる。
【0050】
魚から抽出された油脂は、多価不飽和ω3−脂肪酸の含有量が高い点で特に有益であることを明記しておく。
適当な植物性油脂としては、パーム油、ナタネ油および/または藻抽出油脂を特に選択肢として挙げることができる。
【0051】
本発明のある特定の態様によると、前記生きた微生物は、前記選択した生物活性食品成分の代謝に対して無傷の又は低下した代謝能力を有する。
本発明によると「低下した代謝能力」とは、発酵中に代謝された(すなわち、培地から消失した)選択した生物活性食品成分の量が、その成分の初期(発酵前)の量の40%以下であるものである。これは下記の数式により表される:
r ≧ 0.6Q0 (1)
式中、
r:生物活性成分の残留量(発酵後の培地中に存在する量)、
0:生物活性成分の初期量。
【0052】
生物活性成分の残留量(Qr)は、MS/MS検出器が連結された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法も用いて測定することができる。実験手順の1例は、後で実施例中に示される。
【0053】
前記生きた微生物は、好ましくは生きた細菌、より好ましくは生きた乳酸菌である。
より具体的には、生きた細菌は下記の群から選ばれる:
・ストレプトコッカス属(Streptococcus)の種、好ましくはストレプトコッカス・テルモフィラス(Streptococcus thermophilus)、
・ラクトバシラス属(Lactobacillus)の種、
・ラクトコッカス属(Lactococcus)の種、および
・ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)の種。
【0054】
好ましくは、生きた細菌は下記の群から選ばれる:
・2002年1月24日にCNCM(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes [パスツール研究所、フランス、パリ])に寄託された番号I-2774のストレプトコッカス・テルモフィラス;
・1995年10月24日にCNCMに寄託された番号I-1630のストレプトコッカス・テルモフィラス;
・2004年5月10日にCNCMに寄託された番号I-3211のストレプトコッカス・テルモフィラス;
・2004年9月16日にCNCMに寄託された番号I-3301のストレプトコッカス・テルモフィラス;および
・2004年9月16日にCNCMに寄託された番号I-3302のストレプトコッカス・テルモフィラス。
【0055】
より好ましくは、この生きた細菌は、2004年5月10日にCNCMに寄託された番号I-3211のストレプトコッカス・テルモフィラスである。
有利には、本発明の食品は、生きた細菌のストレプトコッカス・テルモフィラスおよびラクトバシラス属の種を少なくとも含有する。
【0056】
好ましくは、この生きたストレプトコッカス・テルモフィラス細菌は、下記の群から選ばれる:2002年1月24日にCNCMに寄託された番号I-2774のストレプトコッカス・テルモフィラス;1995年10月24日にCNCMに寄託された番号I-1630のストレプトコッカス・テルモフィラス;2004年5月10日にCNCMに寄託された番号I-3211のストレプトコッカス・テルモフィラス;2004年9月16日にCNCMに寄託された番号I-3301のストレプトコッカス・テルモフィラス;および2004年9月16日にCNCMに寄託された番号I-3302のストレプトコッカス・テルモフィラス。
【0057】
本発明に係る食品中の生きた微生物の含有量は変動してもよく、その分野の一般的理解に照らして当業者により選択されよう。実際には、好ましくは、例えば、食品1グラムあたりの細菌数が約107〜109のオーダーでの標準的な総含有量が追求されよう。
【0058】
本発明のある特定の態様によると、本発明に従った食品は、少なくとも1種のデコイ食品成分も含有する。
本発明によると、「デコイ食品成分」とは、生きた微生物に対して栄養分の供給源(特に窒素の供給源)として作用することができる食品成分(好ましくはペプチドもしくはタンパク質またはそれらの類似物もしくは誘導体、またはそれらの混合物)であって、その生きた微生物を、選択した生物活性食品成分(もちろん、これが優先的に保存しようとする成分である)からそらすように、該微生物によって優先的に代謝されることを意図したものである。すなわち、デコイ成分は微生物に対する栄養分の供給源であって、選択した生物活性成分をできるだけ防護するように意図的に犠牲となるものを意味する。この点に関し、デコイ食品成分は、選択した生物活性成分の輸送の競合的阻害剤として作用する。
【0059】
ここで「食品」とは、動物および/またはヒト、好ましくはヒトによる摂取を目的とした製品を意味する。この製品は任意の種類の摂取可能な形態とすることができる。それは、水、植物汁(果汁および/もしくは野菜汁および/もしくは穀物汁等)、ミルク、ヨーグルト飲料、それらの混合物でもよい。それはまた、固体製品、またはいくらか湿った中間製品であってもよい。
【0060】
ある特定の態様によると、本発明に従った食品は水である。
好ましくは、本発明に係る食品は発酵食品である。
より好ましくは、発酵食品は乳製品または植物性製品である。
【0061】
本発明によれば、「乳製品」とは、乳(ミルク)に加えて、クリーム、アイスクリーム、バター、チーズおよびヨーグルトといった乳から誘導された製品;乳清(ホエー)およびカゼインのような二次製品;ならびに主成分として乳または乳の成分を含む任意の加み食品を意味する。
【0062】
「植物性製品」とは、とりわけ、例えば、豆乳、オート麦乳および米乳を包含する果汁および野菜汁といった、植物ベースから得られた製品を意味する。
さらに、上記の「乳製品」および「植物性製品」の定義はそれぞれ、例えば、乳と果汁との混合物といった、乳製品と植物性製品の混合物を含有する任意の製品も包含する。
【0063】
本発明のさらなる主題は、少なくとも1種の選択した生物活性食品成分を油脂中に封入する方法である。
これに関して、融解した固形油脂に生物活性食品成分を添加すると、その結晶化速度の加速を生ずることから、該食品成分を添加する前に油脂を完全に融解させることが重要である。従って、それ自体撹拌されている水相に撹拌下に成分を徐々に添加して、その成分の周囲でのゆっくり誘起された結晶化と、分布が均一な適当な粒度の油滴の生成とを生じさせる。生物活性食品成分を、白い好ましくは発酵された塊に添加するために、シロップ型の中間の水性媒質を調製することが好ましい。このシロップをその後、白い塊に添加する。水性媒質への生物活性食品成分の添加は下記のある条件下で行わなければならない:
(i)徐々の均質な添加を確保するために、生物活性食品成分と水性媒質との混合前の油脂の完全な再結晶は避けなければならない;
(ii)水性媒質と接触状態にある時の油脂の再結晶を避けるように、水性媒質の温度は封入用油脂の融点に近くなければならない;そして
(iii)生物活性食品成分とシロップとの均質な混合を確保するため、激しい撹拌(例、ウルトラテュラックス(Ultraturax)型の混合機を使用)が必要である:これは濃いクリームのきめを持つ白い「乳濁液(エマルジョン)」を生じる;また、この系はコンシステンシー(稠度)が軽いので、温度を封入用油脂の融点の範囲内内に保持した状態で、容易にポンプ搬送可能である。
【0064】
生物活性食品成分の封入時に乳化剤などの食品添加物を使用すると、油脂小球のより均質な「集団」を得ることが可能になる。乳化剤を使用しない場合には、大多数の大きな油脂の小球(直径がほぼ25μm以上)と比較的低分散のペプチドが製品中に存在することが認められた。他方、乳化剤を添加すると、分散がより高度になり、小球はより小さくなる(最大直径約10μm)。
【0065】
本発明によると、封入法は少なくとも下記工程を含む:
a)使用する油脂の融点に近い温度、好ましくは該融点の±10℃の範囲内の温度、に保持された水/油脂混合物を調製し、
b)工程a)で得られた混合物中に、全体を該油脂の融点に近い温度、好ましくは該融点の±10℃の範囲内の温度、に保持しながら、選択した生物活性成分を撹拌下、好ましくは穏やかな撹拌下に徐々に混入し、そして
c)場合により、乳化剤、増粘剤などの1種または2種以上の食品添加物を添加し、全体を、該油脂の融点に近い温度、好ましくは該融点の±10℃の範囲内の温度、に保持しながら混合、好ましくは激しく混合する。
【0066】
工程a),b)および任意工程c)において適用される温度は工程ごとにやや変動してもよいが、好ましくは使用する油脂の融点を中心とする±10℃の範囲内に入る温度とする。実際には、これらの全工程に適用される温度は有利には実質的に同じである。
【0067】
当業者であれば、その技術常識を用いて、場合により簡単な日常的な実験を実施することにより、必要に応じてこの方法を使用する油脂に対して適合化させることができる。
その後、乳製品といった本発明に従った食品を製造するため、油脂の融点に近い温度に保持されている得られた混合物を、完全に慣用の方法で、特にポンプ方式を用いて、白い塊に、好ましくはこの塊の熱処理および発酵工程の後で混入する。
【0068】
本発明の別の主題は、上述したような食品の製造方法であり、この方法では、1種または2種以上の選択した生物活性食品成分を、食品を形成するための混合物に添加される前に、例えば、上述した方法に従って封入する。
【0069】
本発明のある特定の態様によると、前記封入された生物活性食品成分は、撹拌しながら前記混合物に添加される。
食品が発酵食品である場合、前記封入された選択した生物活性食品成分は、発酵の前または後に前記混合物に添加することができる。
【0070】
しかし、油脂粒子の完全性を任意工程の熱処理工程に抗して可及的によく保つため、封入された生物活性成分は発酵後に添加することが好ましい。
1態様によると、本発明に従った製造方法は、前記生きた微生物と前記封入された選択した生物活性食品成分とが、前記食品を形成するための混合物中に、順に逐次的に添加される。
【0071】
或いは、生きた微生物と封入された選択した生物活性食品成分とを、前記食品を形成するための混合物に同時に添加してもよい。
微生物の培養条件はその微生物に依存し、当業者には知られている。1例として、ストレプトコッカス・テルモフィラスの場合の最適増殖温度は一般にほぼ36℃〜42℃の範囲内であり、ラクトバシラス・デルブリュッキイ・スピーシーズ・ブルガリカス( L. delbrueckii spp. bulgaricus)(ヨーグルト中に普通に存在)の場合のこの温度範囲はほぼ42℃〜46℃であると特定することができる。
【0072】
通常、発酵の停止は達成したい所望pHに依存し、急冷により行われる。それにより、微生物の代謝活性を低下させることができる。
本発明の別の主題は、上述したような食品の機能性食品としての使用である。
【0073】
「機能性食品」とは、その栄養効果とは別に、生体の1または2以上の標的機能に有利に影響する食品を意味する。例えば、機能性食品は、その食品の正常量を摂取した消費者に健康状態の改善および/または安寧および/または疾病発症の危険性の低減を生ずることができる。機能性食品の活性(作用)の例として、抗がん活性、免疫促進(増強)活性、骨健康増進活性、抗ストレス活性、オピオイド(阿片様の抑制)活性、抗高血圧活性、カルシウムの生物学的利用能向上活性、および抗菌活性を挙げることができる(Functional Food Science in Europe, 1998)。
【0074】
かかる機能性食品は、人間用および/または動物用のものとすることができる。
本発明の別の主題は、1種もしくは2種以上の生きた微生物を含有する食品に添加することを目的として、選択した少なくとも1種の生物活性食品成分を封入するために油脂を使用することである。
【0075】
本発明を添付図面により説明するが、それらは制限を意図したものではない。
本発明の他の特徴および利点は、以下の実施例を読むと明らかとなろう。実施例は例示のみを目的として示すものである。
【実施例】
【0076】
実施例1:本発明を適用しない選択した生物活性成分の使用
1.1:ラクティウム(R)加水分解物中に含有される生物活性αS1[91-100]ペプチドによる例
しばしば粉末形態で供給されるペプチドまたはタンパク質成分の使用は、この成分を、調合乳を製造(ミルクを粉末化)する時に、衛生用熱処理(すなわち、95℃、8分間)の前、従って発酵前に添加すると、より簡単となる。この場合、活性ペプチドが代謝される危険性は非常に高い。これは、例えば、生物活性ペプチド(αS1−カゼインのフラグメント91-100)を含有するラクティウム(R)(アングルディア社、フランス)のような機能性成分を使用する場合にそうである。
【0077】
手順
脱脂粉乳を120g/Lに水和し、それに1.5g/Lのラクティウム(R)成分(約30mg/Lの生物活性αS1[91-100]ペプチドに対応)を添加し、次いで95℃で8分間の低温殺菌処理(パスチャリゼーション)を行うことにより培地を調製した。
【0078】
乳酸発酵素を0.02%の割合で添加し、使用発酵素に最適の温度(37〜42℃)でpHが4.70になるまで発酵を行った。
残留ペプチドの分析、特に生物活性αS1[91-100]ペプチドの分析は、MS/MS型検出器と連結させた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、次のように実施した。
【0079】
・水、メタノールおよびトリフルオロ酢酸(50/50/0.1%)の混合液中に発酵させた培地を約1:6の比率で希釈することによりサンプルを調製した。遠心分離後の上清が発酵培地のペプチド含有量の表示サンプルとなった。
【0080】
・このサンプルを、ペプチド分析に適したウォーターズ・シメトリー(R) (Waters Symetry) 型カラム(5μm、2.1×150mm、WAT056975、Waters France社、5 rue Jacques Monod, 78280 Guyancourt)をとりつけたアギレント (Agilent) 1100型のHPLCクロマトグラフィーシステム (Agilent Technologies France社、1 rue Galvani, 91745 Massy Cedex, フランス)に、40℃の温度および0.25mL/分の流量で注入した。ペプチドの溶離は、常法により、溶媒A(水+ギ酸0.106%)中の溶媒B(アセトニトリル+ギ酸0.100%)の増大する濃度勾配に対して、所望の解像度に応じて40分間から2時間の時間にわたって行った。
【0081】
・検出は、ペプチド含有量の全体分析(MS−MSモード)用、またはその固有フラグメントからあるペプチドの正確かつ特異的な定量用にセットされた、例えば、エスクァイア(Esquire)3000+ (Bruker Daltonique社、rue de l'Industrie, 67166 Wissembourg Cedex)のようなイオントラップ型の、MS/MS型特異的検出器を用いて行った。例えば、αS1[91-100]ペプチドを、その質量から単離し(質量634.5Daの二重荷電イオン)、フラグメンテーション後のその固有娘イオン(m/z=991.5Da、771.5Daおよび658.3Daのイオン)の強度からそれを定量した。より一層正確なやり方では、同じ二重に重水素化された合成ペプチド(993.5Daの固有フラグメント)からなる内部標準により、マトリックスに関係する可能な干渉を克服し、それを考慮に入れることが可能であった。
【0082】
結果を図1に示す。
菌株I-2783(2002年1月24日にCNCMに寄託)、I-2774(2002年1月24日にCNCMに寄託)、I-2835(2002年4月4日にCNCMに寄託)およびI-1968(1998年1月14日にCNCMに寄託)の混合物からなる発酵素、またはYC−380(Chr. Hansen SA社、Le Moulin d'Aulnay, BP64, 91292 ARPAJON Cedex フランス)のような発酵素による発酵の前のαS1[91-100]ペプチドと比較すると、生物活性αS1[91-100]ペプチドの95%以上が発酵後には消費されたことが実証された。
【0083】
これらの知見は、上記の例に従った生物活性ペプチドの配合は、消費者が望む効果を認めることができるよう経時的に十分に安定した量の生物活性ペプチドおよび/またはタンパク質を添加した食品、特に乳製品、を得るのには、そのままでは適用できないことを示している。
【0084】
1.2:別の選択した生物活性ペプチドによる例
結果は図2および3に示す。
ラクティウム(R)成分は多くの他のペプチドを含有しており、その一部は潜在的な生物学的活性を有する(DMV International社からC12成分としても販売されているαS1カゼインのフラグメント23-24のように)。ラクティウム(R)の添加により供給されたペプチドの実質的に全ての種類が発酵中にかなり消費されてしまうことは留意点として興味深い。
【0085】
それらの出所(多様なαS1−、αS2−、κ−およびβ−カゼインから生ずる)およびそれらのサイズ(2〜3残基から12残基およびそれ以上まで)に関係なく、全てのペプチドが発酵プロセス中に全体的に消費されてしまう。
【0086】
1.3:生物活性αS1[91-100]ペプチド(ラクティウム(R))の他の発酵素との併用
この現象が上記1.1)節で使用した2種類の発酵素に特異的ではないことを証明するために、主要な工業用発酵素ならびにこれらの発酵素の組成中に入り込む各種の純菌株を同じ試験法を用いて試験した:粉乳から戻した還元乳にラクティウム(R)を1.5g/Lの量で添加したものを標準的条件下で発酵させた(37〜42℃の範囲内の発酵素に最適の温度、発酵はpH4.7で停止、2回反復)。生物活性αS1[91-100]ペプチドの濃度の分析を発酵の前後のサンプルについて行った。
【0087】
純菌株について得られた結果を次の表3に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
上記表3において、使用した純菌株はそれらのCNCM(パスツール研究所、フランス、パリ)での寄託番号と寄託日とで表示されており、この表は、1.5g/Lのラクティウム(R)を含有する調合乳の発酵中の各種発酵素および工業用菌株による生物活性αS1[91-100]ペプチドの消費を示している。
【0090】
表3は、試験した発酵素および菌株の全てが、標準的な調合乳の発酵中に生物活性αS1[91-100]ペプチドの94%から100%を代謝してしまうことを示している。従って、この成分を使用しても、消費者にある効果を生じさせるのに経時的に十分に安定した量の生物活性ペプチドおよび/またはタンパク質を含有する食品、特に乳製品を製造することは慣用条件下では不可能である。
【0091】
また、この現象がラクティウム(R)成分に特異的ではないことを証明するために、発酵素と生物活性ペプチドを含有する他の成分とのいくつかの組み合わせについて、同じ試験(粉乳からの還元乳+1.5g/Lの量の被試験成分、標準的条件下で発酵、発酵はpH4.7で停止、2回反復)を用いて検討した。試験した各種組み合わせを次の表4に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
DMV International社製の成分C12およびCPPは、それぞれ高血圧のコントロールおよびミネラルの吸収を目的とする生物活性ペプチドを含有する乳タンパク質の加水分解物である。
【0094】
全ての実験において、試験した全ての発酵素が、ペプチドの種類やサイズに関係なく、ペプチドを代謝する大きな能力を有することが明らかとなった。
1.4:発酵後の添加
上で検討した手順に対する論理的な別法は、発酵後に機能性成分を、例えば、発酵塊に風味づけするのに用いるシロップと共に導入することである(「遅延差別化」型手法)。このプロトコルに従って同じ量のラクティウム(R)を使用すると、図4に示した結果になった。
【0095】
図4に示したように、発酵後に低温(4℃)で添加した場合でも、活性ペプチド(最終製品1kgあたりラクティウム(R)1.5gに等しい量で供給)は貯蔵中にすぐに分解され、賞味期限(BBD)までに初期量の30〜40%しか残らない。
【0096】
従って、最終製品中の生きた乳酸菌の集団が最終製品の貯蔵中に生物活性ペプチドを代謝し続けるので、わずか10日後には(その賞味期限が28日である生製品について)、αS1[91-100]ペプチドの35〜50%が消失しており、これは消費者が求める効果を得るにはやはり許容できない。
【0097】
1.5:選択した生物活性成分を含有する発酵乳製品の加熱処理
この場合、αS1[91-100]ペプチドの安定性を確保することができる(図5)が、最終製品の総合品質を害する。この解決策は実際、次のような多くの難点を生ずる:
・発酵乳塊の高温熱処理は熱処理前に添加される安定剤(ペクチン、デンプン、カラジーナン等)の使用を伴い、従ってプロセスを複雑にすると共に、調合コストを著しく増大させる;
・工業用生産ラインがより複雑となり、より大きな比投資額を必要とする;
・製品は、もはや生きた発酵素を含有する製品に関係する品質ラベルから得られる利益を享受できず(ヨーグルト)、それにより乳酸発酵素の摂取に伴う利益を失うであろう;
・官能性(感覚刺激)衝撃(一般にマイナス方向)が顕著である。
【0098】
実施例2:本発明を適用した選択した生物活性成分の使用
2.1−工程1:生物活性食品成分の封入
選択した封入用の油脂:パーム油(融点=37℃)。この種の油の供給業者は数多い(例、カーギル(Cragill)社)。
【0099】
油を50℃で融解させて結晶を完全に消失させ、生物活性食品成分αS1[91-100]を含有するラクティウム(R)を磁気撹拌下に(50℃に保持)徐々に添加した。
2.2−工程2:シロップ型水性媒質の作製
水と上記パーム油/生物活性食品成分のプレミックスとから1種のシロップを調製した。生物活性食品成分を水(30℃)にウルトラテュラックスでの撹拌(22000rpm)下に徐々に添加した。得られた溶液のパーム油含有量は自由裁量で30℃に固定した。
【0100】
得られたエマルジョンは30〜35℃で容易にポンプ搬送可能であったが、温度が25〜30℃以下に低下すると次第に固くなった(パーム油が徐々に再結晶化)。食品用乳化剤(例、ダニスコ(Danisco)社から供給されるラクテム(Lactem)(R))を0.5%/脂肪の割合で使用すると、不均一性がより小さい脂肪小球の集団を得ることができた。
2.3−工程3:発酵白色塊へのエマルジョンの添加
図6および7に示すように、生物活性食品成分の含有量は経時的に安定しており、これは生物活性成分が本発明に従った封入により効率よく保護されうることを示している。
【0101】
従って、その安定性が図6に示されているαS1[91-100]ペプチドに加えて、αS1[23-34]生物活性ペプチド(DMVインターナショナル社が供給するC12成分中に存在)のような他のペプチドも十分に保護される(図7)。選択したもの以外のペプチドの消失(図7(1)に矢印で示す)は、全体的なペプチド含有量の減少をいくらか説明し、従って、恐らく最終製品の苦みの低下につながる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】乳酸発酵中のラクティウム(R)成分に含有される生物活性ペプチドαS1[91-100]の消失を示すLC−MSクロマトグラム。MS/MS検出器は、m/z=634.5Da(二重荷電αS1[91-100]ペプチドの質量)のイオンシグナルだけを検出するように調整。これは、フラグメンテーション後に、m/z=991.5Da、771.5Daおよび658.3Daの娘イオン(αS1[91-100]ペプチドに固有のフラグメント)を有する。
【図2】菌株I-2783(2002年1月24日にCNCMに寄託)、I-2774(2002年1月24日にCNCMに寄託)、I-2835(2002年4月4日にCNCMに寄託)およびI-1968(1998年1月14日にCNCMに寄託)の混合物からなる発酵素による調合乳(milk "mix")の発酵前および発酵後のLC−MS/MSによるラクティウム(R)の主成分ペプチドの同定および定量。発酵後、該ペプチドは痕跡量で見出されるだけであり、基線と見分けがつかない。記号?は、配列の同定が可能ではなかったか不確実であることを意味し、その場合はペプチドの質量だけを報告する。
【図3】ハンセン(Hansen)YC−380乳酸発酵素でpH4.7まで発酵する前(1)と発酵後(2)の、DMV C12 (R)加水分解物1.5g/Lを含有する調合乳のペプチドプロファイル(LC−MS/MSクロマトグラム)の比較。生物活性のC12ペプチド(αS1[23-34]フラグメント)を含む、加水分解物ペプチドの実質的に全てが該発酵素菌株による代謝後に消失した。
【図4】菌株I-2783、I-2774、I-2835およびI-1968を含有する発酵素により発酵させた発酵生成物95%と、αS1[91-100]ペプチドを含有する香味づけ砂糖シロップ5%とからなる最終製品における、10℃での貯蔵中の生物活性αS1[91-100]ペプチドの残留含有量の変化を示す曲線。本実験は4つの独立した試験:E1、E2、E3およびE4から構成された。
【図5】生物活性αS1[91-100]ペプチドを発酵後の発酵生成物に添加し、それを次いで75℃で1分間熱処理した後、賞味期限(BBD)まで10℃で貯蔵した時の該ペプチドの残留含有量の変化を示す曲線。
【図6】封入された生物活性食品成分の含有量の経時変化(4℃で貯蔵)を示す。
【図7】本発明に従ってパーム油中のエマルジョンの形態で添加された1.5g/Lのラクティウム(R)を含有する調合乳の、(1)発酵塊への添加直後、および(2)10℃で14日間貯蔵後、のペプチドプロファイル(LC−MS/MSクロマトグラム)の比較。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種もしくは2種以上の生きた微生物と少なくとも1種の選択した生物活性食品成分とを含有する食品であって、該選択した生物活性食品成分が、該生きた微生物によるその代謝が低減するように油脂内の封入により物理的に保護されていることを特徴とする食品。
【請求項2】
前記食品中の選択した生物活性食品成分の残留量が、その製造直後の食品中に存在する選択した生物活性食品成分の量に対して、その製造から3週間後で、約50〜100%であることを特徴とする、請求項1に記載の食品。
【請求項3】
前記残留量が、その製造直後の食品中に存在する選択した生物活性食品成分の量に対して約80〜100%であることを特徴とする、請求項2に記載の食品。
【請求項4】
前記選択した生物活性食品成分が下記から選ばれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の食品:
・タンパク質、
・ペプチド、
・ビタミン、
・微量栄養素、
・それらの類似物もしくは誘導体、ならびに
・それらの混合物。
【請求項5】
前記選択した生物活性食品成分が下記から選ばれることを特徴とする、請求項4に記載の食品:
・タンパク質、
・ペプチド、
・それらの類似物もしくは誘導体、ならびに
・それらの混合物。
【請求項6】
前記選択した生物活性食品成分が下記から選ばれることを特徴とする請求項4または5に記載の食品:αS1[91-100]ペプチド、C6−αS1[194-199]ペプチド、C7−β[177-183]ペプチド、C12−αS1[23−34]ペプチド、カゼインホスホペプチド類、α−カゾモルフィン、α-カゼインエキソルフィン、カゾキニン、β−カゾモルフィン、カゼインマクロペプチドおよびグリコマクロペプチド、カゾキシン、カゾプラテリン、フラグメント50-53、β−ラクトルフィン、ラクトフェロキシン、Val-Pro-Proペプチド、Lys-Val-Leu-Pro-Val-Pro-Glnペプチド、Tyr-Lys-Val-Pro-Gln-Leuペプチド、Tyr-Proペプチド、Ile-Pro-Proペプチド、それらのフラグメント、類似物および誘導体、それらを含むタンパク質および/もしくはペプチド、ならびにそれらの混合物。
【請求項7】
その苦みが低減していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の食品。
【請求項8】
前記油脂が動物性油脂、特に乳もしくは魚の油脂、ならびに植物性油脂から選ばれることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の食品。
【請求項9】
前記植物性油脂がヤシ油、ナタネ油および藻抽出油から選ばれることを特徴とする、請求項8に記載の食品。
【請求項10】
前記生きた微生物が前記選択した生物活性食品成分の代謝に対して無傷または低下した代謝能力を有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の食品。
【請求項11】
前記生きた微生物が生きた細菌、好ましくは生きた乳酸菌であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の食品。
【請求項12】
前記生きた細菌が下記から選ばれることを特徴とする、請求項11に記載の食品:
・ストレプトコッカス属の種、好ましくはストレプトコッカス・テルモフィラス(Streptococcus thermophilus)、
・ラクトバシラス属の種、
・ラクトコッカス属の種、および
・ビフィドバクテリウム属の種。
【請求項13】
前記食品がストレプトコッカス・テルモフィラスおよびラクトバシラス属の種の生きた細菌を少なくとも含有することを特徴とする、請求項12に記載の食品。
【請求項14】
前記生きたストレプトコッカス・テルモフィラスの細菌が下記から選ばれることを特徴とする、請求項12または13に記載の食品:
・2002年1月24日にCNCMに寄託された番号I-2774のストレプトコッカス・テルモフィラス;
・1995年10月24日にCNCMに寄託された番号I-1630のストレプトコッカス・テルモフィラス;
・2004年5月10日にCNCMに寄託された番号I-3211のストレプトコッカス・テルモフィラス;
・2004年9月16日にCNCMに寄託された番号I-3301のストレプトコッカス・テルモフィラス;および
・2004年9月16日にCNCMに寄託された番号I-3302のストレプトコッカス・テルモフィラス。
【請求項15】
前記生きた微生物が2004年5月10日にCNCMに寄託された番号I-3211のストレプトコッカス・テルモフィラスであることを特徴とする、請求項14に記載の食品。
【請求項16】
さらに少なくとも1種のデコイ食品成分を含有することを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の食品。
【請求項17】
飲料、好ましくは水であることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の食品。
【請求項18】
発酵食品であることを特徴とする、請求項1〜17のいずれかに記載の食品。
【請求項19】
乳製品または植物性製品であることを特徴とする、請求項1〜18のいずれかに記載の食品。
【請求項20】
少なくとも下記の工程を含む、少なくとも1種の選択した生物活性食品成分を油脂中に封入する方法:
a)該油脂の融点に近い温度、好ましくは該融点の±10℃の範囲内の温度、に保持された水/油脂混合物を調製し、そして
b)工程a)で得られた混合物中に、全体を該油脂の融点に近い温度、好ましくは該融点の±10℃の範囲内の温度、に保持しながら、選択した生物活性成分を撹拌下に徐々に混入する。
【請求項21】
乳化剤、増粘剤などの1種または2種以上の食品添加物を添加し、全体を該油脂の融点に近い温度、好ましくは該融点の±10℃の範囲内の温度、に保持しながら混合することをさらに含む請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記選択した生物活性食品成分を、食品を形成するために混合物に添加する前に封入することを特徴とする、請求項1〜19のいずれかに記載の食品の製造方法。
【請求項23】
前記選択した生物活性食品成分が請求項19または20に記載の方法に従って封入されることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記封入された選択した生物活性食品成分を撹拌しながら前記混合物に添加することを特徴とする、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
・前記食品が発酵食品であり、
・前記封入された選択した生物活性食品成分を前記混合物に、発酵の前または後、好ましくは発酵後に添加することを特徴とする、請求項22〜24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
請求項1〜19のいずれかに記載の食品の機能性食品としての使用。
【請求項27】
1種もしくは2種以上の生きた微生物を含有する食品中に配合される少なくとも1種の選択した生物活性食品成分を封入するための油脂の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−516623(P2008−516623A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537282(P2007−537282)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055440
【国際公開番号】WO2006/042861
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(506375923)
【氏名又は名称原語表記】COMPAGNIE GERVAIS DANONE
【Fターム(参考)】