射出成型品の製造装置および射出成型品の製造方法、並びにモータ用ステータ
【課題】熱硬化性の溶融樹脂を短時間で効率的に硬化させる。また、成型時に装置が高温にならないようにして成形終了後の装置の冷却時間を短縮し、製造を効率化する。
【解決手段】固定型10と可動型20を備え、可動型20の開口には筒状のシャッタ部31を有するシャッタキャビティ30が挿通され、シャッタ部31の内側には遠赤外線ヒータ40の放熱部41が挿通されている。固定型10と可動型20を型締めし、シャッタ部31を固定型10側に進出させて放熱部41を囲むことにより、キャビティKが形成される。キャビティK内にはモータヨークW1と巻線W3を巻回したステータコアW2がセットされ、熱硬化性溶融樹脂が充填される。充填後、固定型10に埋設されたパイプヒータにより溶融樹脂を半固化状態に硬化させ、その後、シャッタ部31を下降させて放熱部41を露出させ、熱放射により樹脂を硬化させる。
【解決手段】固定型10と可動型20を備え、可動型20の開口には筒状のシャッタ部31を有するシャッタキャビティ30が挿通され、シャッタ部31の内側には遠赤外線ヒータ40の放熱部41が挿通されている。固定型10と可動型20を型締めし、シャッタ部31を固定型10側に進出させて放熱部41を囲むことにより、キャビティKが形成される。キャビティK内にはモータヨークW1と巻線W3を巻回したステータコアW2がセットされ、熱硬化性溶融樹脂が充填される。充填後、固定型10に埋設されたパイプヒータにより溶融樹脂を半固化状態に硬化させ、その後、シャッタ部31を下降させて放熱部41を露出させ、熱放射により樹脂を硬化させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形品の製造装置および製造方法に係り、特に、キャビティ内に充填された熱硬化性の溶融樹脂を硬化させるために、遠赤外線ヒータ等の放射熱を照射可能なヒータを備えた射出成形品の製造装置および射出成形品の製造方法、並びに該製造装置または該製造方法により製造されたモータ用ステータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータステータなどの射出成形品の製造において、熱硬化性樹脂を用いて成形品を製造する際に、金型装置にパイプヒータ等の加熱装置を組み込んで、このヒータで発生した熱を、金型の型体を介して熱伝導により溶融状態の熱硬化性樹脂に伝達して硬化させる製造装置が用いられていた。
しかしながら、熱伝導により外側から成形品を加熱する方式では、熱伝導の速度が金型を構成する金属や充填される樹脂の熱伝達率に依存するため、成形品の中心部に熱が到達するのに時間がかかってしまい、樹脂硬化に時間を要していた。また、型体を介して熱を伝達しているので、硬化が完了するまで型体を十分に加熱しておく必要があった。従って、成形後に装置を冷却して再び成形可能な状態に復帰させるのに時間がかかり、製造装置の回転が悪いという問題点があった。また、冷却が不十分な状態で溶融樹脂の再充填を行うと、充填途中に硬化が促進されてしまい、最終充填部が未充填となって加工コストがかかるという問題点があった。
【0003】
一方、加熱装置として赤外線加熱装置を用いて、この赤外線加熱装置の放射熱を、型壁の一部分に設けられた赤外線透過部材を通過させることにより直接型内に到達させるように構成した射出成形機が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1では、このような構成により、赤外線の照射すなわち放射熱により、溶融樹脂を直接加熱することができる。また、特許文献1の射出成形機は、赤外線透過部材と赤外線加熱装置との間に開閉可能なシャッタを設けている。このようにすると、赤外線の照射をシャッタの開閉により制御することができる。照射の制御は、シャッタでなく赤外線加熱装置のオンオフにより行うこともできるが、オンオフによる制御では、オンオフ時の加熱パターンが安定しない。これに対し、特許文献1のようにシャッタの開閉により制御すれば、シャッタの開放直後から即座に安定した照射を行うことができ、加熱の安定化を図ることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−58460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の射出成形機は、赤外線加熱装置の加熱によって樹脂の流動性を高めて薄肉形状のキャビティへの充填を良好とし、かつ、充填時間を短縮するものであって、型壁のうち一面のみにしか赤外線透過部材が設けられていなかった。従って、特許文献1の構成を熱硬化性樹脂の硬化促進のために適用しても、加熱方向が偏るために効率的に硬化を促進することができないという問題点があった。
また、特許文献1の射出成形機では、加熱装置が赤外線加熱装置のみとされており、樹脂充填前に金型自体を安定充填域に昇温させるための加熱装置を別に備えていなかった。また、溶融状態のまだ固まっていない樹脂に対して赤外線を照射することを前提としているため、キャビティ面の一部を赤外線透過部材で構成することが必須となっていた。従って、金型装置の製造コストが増大するという問題点があった。
【0006】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、熱硬化性樹脂による射出成形を行うための製造装置および製造方法において、キャビティ内に充填された熱硬化性の溶融樹脂を短時間で効率的に硬化させることが可能な射出成形品の製造装置および射出成形品の製造方法、並びに、該製造装置および製造方法により製造されたモータ用ステータを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、成型終了後に装置が高温にならず、成形終了後の装置の冷却時間を短縮することができ、製造を効率化することが可能な射出成形品の製造装置および射出成形品の製造方法、並びに、該製造装置および製造方法により製造されたモータ用ステータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明の射出成型品の製造装置によれば、第1金型と、該第1金型と型締めされることにより該第1金型との間に所定の内部空間を形成する第2金型と、を備え、前記第1金型には、型締め状態において前記内部空間に配設される放熱部を有する第1ヒータと、該放熱部が挿通され前記第1金型の型面から前記第2金型に対して進退動可能に構成された筒状のシャッタ部を有するスライド型と、が設けられ、前記スライド型は、前記第1金型と前記第2金型が型締めされた状態において、前記シャッタ部が前記内部空間に所定寸法進入し前記放熱部をキャビティから遮蔽している遮蔽位置と、前記シャッタ部が前記第2金型から後退し前記放熱部を前記シャッタ部の外部に露出させている開放位置と、に変位可能に構成されたことにより解決される。
【0008】
このように、本発明の製造装置は、第1金型と第2金型を備え、第1金型は筒状のシャッタ部を有するスライド型を備えている。シャッタ部は第1金型の型面から第2金型に対して進退動可能とされ、型締めされた状態で第2金型に対して所定寸法進入されることにより、第1金型および第2金型と共にキャビティを形成することができる。また、第1金型はヒータを備え、このヒータの放熱部はシャッタ部に挿通され金型の内部空間に配設されている。
このような構成によれば、放熱部は、キャビティ形成時には第2金型に対して所定寸法進入されたシャッタ部によりキャビティから遮蔽される。一方、放熱部は、シャッタ部を第2金型に対して後退させることによりシャッタ部の外部に露出され、キャビティ内に充填されていた樹脂に対して放射熱を照射することができる。つまり、本発明では、シャッタ部の進退動により放熱部による熱照射のオンオフを行うことができる。そして、このとき、ヒータをシャッタ部開閉前からオン状態としておけば、シャッタ部の後退動作の直後から即時に安定した熱放射を開始することができる。よって、加熱の安定化を図ることができる。
【0009】
また、本発明において、より具体的には、前記第1ヒータは遠赤外線ヒータからなる。
このように、遠赤外線ヒータからの熱放射により充填された樹脂を加熱すると、放射エネルギーを吸収した樹脂は、分子運動の活発化および分子運動の樹脂内における伝播によって放射エネルギーが熱エネルギー変換され、熱伝導よりも効率的に温度上昇される。すなわち、樹脂中心部を効率的に温度上昇させることができ、効率的に熱硬化性樹脂の硬化促進を図ることができる。また、熱放射による樹脂の加熱では金型の型体を温度上昇させる必要がない。よって、成型終了時に型体が高温となることがなく、装置を冷却して再び樹脂充填可能な状態にするのに時間がかからない。よって、製造時間を短縮することができ、製造を効率化することができる。
【0010】
また、本発明において、前記第2金型には、前記キャビティ内に充填された溶融樹脂を、前記第2金型を介して熱伝導により加熱する第2ヒータが設けられている。このように、熱放射により加熱する遠赤外線ヒータとは別に、熱伝導により型体を介して樹脂を加熱するヒータを設けていると、これらのヒータを適宜使い分けて加熱を行うことができる。すなわち、溶融樹脂充填後、最初に第2ヒータの加熱を行い、これにより、樹脂の流動性がなくなって半固体状態になるまで硬化させる。そして、その後シャッタ部を第2金型に対して後退させる。こうすると、第1ヒータの放熱中に放熱部側に溶融樹脂が流入することがなく、加熱中に成型品が変形することがない。
【0011】
また、本発明において、より具体的には、前記第1ヒータは前記放熱部を囲む筒状部を備え、該筒状部は前記シャッタ部に挿通され前記シャッタ部の内周面に対向する所定形状の放熱窓を有し、前記放熱部は、前記開放位置において、前記放熱窓を介して前記シャッタ部の外部に露出されるように構成される。このように、放射窓が形成された筒状部を、放熱部を囲むように形成すれば、シャッタ部と放熱部の位置決めを確実にすることができる。
また、本発明において、より具体的には、前記キャビティは、モータヨークと、巻線が巻回されたステータコアと、を配設可能に形成され、前記キャビティに熱硬化性溶融樹脂を充填して加熱することにより、前記モータヨーク、前記ステータコア、前記巻線がインサートされ樹脂モールド成形されたステータを製造可能に構成されている。このように、本発明は、樹脂モールド成形によるステータの製造に好適に用いることができる。
【0012】
また、前記課題は、本発明の射出成型品の製造方法によれば、第1金型と第2金型を型締めして所定の内部空間を形成すると共に、前記第1金型に配設されたスライド型に設けられた筒状のシャッタ部を前記内部空間に所定寸法進入させることにより、キャビティを形成するキャビティ形成工程と、前記キャビティに熱硬化性溶融樹脂を充填する充填工程と、前記第2金型に設けられた第2ヒータにより、前記キャビティに充填された熱硬化性溶融樹脂を前記第2金型を介して熱伝導により加熱して所定状態まで硬化させる第1加熱工程と、該第1加熱工程後に、前記シャッタ部を前記第2金型に対して後退させることにより、前記シャッタ部に挿通された第1ヒータの放熱部を前記シャッタ部の外部に露出させ、該放熱部からの熱放射により前記熱硬化性溶融樹脂を加熱して硬化完了させる第2加熱工程と、前記第1金型と前記第2金型を型開きして硬化完了した成形品を離型させる離型工程と、を行うことにより解決される。
【0013】
このように、本発明の製造方法では、第2加熱工程において、熱放射によりキャビティ内に充填された樹脂を加熱する。熱放射により加熱すると、上述したように、効率的に熱硬化性樹脂の硬化促進を図ることができる。また、型体を温度上昇させる必要がないので成型終了時に型体が高温となることがなく、装置を冷却して再び樹脂充填可能な状態にするのに時間がかからない。よって、製造時間を短縮することができ、製造を効率化することができる。
【0014】
また、本発明において、前記第2加熱工程の開始前に前記第1ヒータがオン状態とされ、前記放熱部による熱放射が安定状態とされていると好適である。このように、本発明では、キャビティ内に充填された樹脂に対する熱照射のオンオフをシャッタ部の進退動により行うことができる。従って、上述したように、ヒータをシャッタ部開閉前からオン状態としておけば、シャッタ部の後退動作の直後から即時に安定した熱放射を開始することができる。よって、加熱の安定化を図ることができる。
【0015】
また、本発明において、より具体的には、前記キャビティは、モータヨークと、巻線が巻回されたステータコアと、を配設可能に形成され、前記キャビティ形成工程の前に、前記第1金型または前記第2金型に前記モータヨークおよび前記巻線が巻回されたステータコアをセットする工程を行うことにより、前記モータヨーク、前記ステータコア、前記巻線がインサートされ樹脂モールド成形されたステータを製造することができる。このように、本発明は、樹脂モールド成形によるモータ用ステータの製造に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
○ 本発明によれば、第1金型と第2金型を備え、第1金型は筒状のシャッタ部を有するスライド型を有し、シャッタ部にはヒータの放熱部が挿通されている。従って、シャッタ部の進退動により、放熱部をキャビティから遮蔽した状態または遮蔽されない状態に切り換えることができる。つまり、シャッタ部の進退動によってヒータによる熱照射のオンオフを制御することができる。よって、加熱開始時の熱照射を安定させ、加熱の安定化を図ることができる。
○ 本発明によれば、遠赤外線ヒータからの熱放射により、充填された樹脂を加熱することができる。よって、分子運動の活発化および分子運動の樹脂内における伝播により、熱伝導に比べて樹脂中心部を効率的に温度上昇させることができ、効率的に熱硬化性樹脂の硬化促進を図ることができる。また、熱放射による樹脂の加熱では金型の型体を温度上昇させる必要がない。よって、成型終了時に型体が高温となることがなく、装置を冷却して再び樹脂充填可能な状態にするのに時間を要しない。よって、製造を効率化することができる。
○ 本発明によれば、遠赤外線ヒータとは別に、熱伝導により型体を介して樹脂を加熱する第2ヒータを設けている。よって、これらのヒータを適宜使い分けて加熱を行うことができる。すなわち、第2ヒータにより樹脂の流動性がなくなって半固体状態になるまで硬化させた後、シャッタ部をスライドさせて放熱部をキャビティから遮蔽しない状態とする。このようにすると、遠赤外線ヒータからの熱放射による加熱中に遠赤外線ヒータの放熱部側に溶融樹脂が流入することがなく、硬化中に成型品が変形することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
図1〜図12は本発明の一実施形態に係るものであり、図1は樹脂モールド成形されたステータの断面図、図2は樹脂モールド成形前のステータ構成部品(モータヨーク、ステータコア、巻線)の断面図、図3は本実施形態の金型装置(遮蔽位置)の断面図、図4は本実施形態の金型装置(開放位置)の断面図、図5は遠赤外線ヒータとシャッタキャビティの分解斜視図である。また、図6〜図12は本実施形態の金型装置によるステータの製造工程を示す図であり、図6はモータヨークをセットする前の金型装置の断面図、図7はモータヨーク、ステータコア、巻線がセットされた固定型の断面図、図8は型締めされキャビティ内に溶融樹脂が注入された金型装置の断面図、図9はパイプヒータによる樹脂の加熱工程を示す断面説明図、図10は遠赤外線ヒータによる樹脂の加熱工程を示す断面説明図、図11は樹脂硬化完了後の型開き工程を示す断面説明図、図12は成形品の突き出し工程を示す断面説明図である。
【0018】
本発明の製造装置を、図1に示すステータWを樹脂モールド成形により製造するために用いられる金型装置Sに適用した一実施形態について説明する。
(ステータの構成)
本例の金型装置Sにより製造されるステータWはブラシレスモータ等のモータ用ステータとして好適に用いられるものであり、図1に示すように、略円筒状のヨーク部の一端側を閉鎖した形状の金属製のモータヨークW1と、モータヨークW1のヨーク部の内周に沿って配設された金属製のステータコアW2と、ステータコアW2に巻回された巻線W3と、ステータコアW2及び巻線W3を樹脂モールドする熱硬化性樹脂からなる樹脂部W4と、を備えている。また、図2は樹脂モールド成形される前のステータ構成部品(モータヨークW1、ステータコアW2、巻線W3)の組み付け状態を示す断面図である。
図1、図2に示すように、モータヨークW1の一端側に設けられた閉鎖面の略中央には凸部が形成され、この凸部の略中央にはモータのシャフトを貫通させるための貫通孔W1aが形成されている。また、モータヨークW1には、ステータコアW2及び巻線W3側に樹脂を注入するための樹脂注入孔W1bが形成されている。
【0019】
(ステータの製造装置の構成)
図3に示すように、本例の金型装置Sは、固定型10と、固定型10との間にキャビティKを形成する可動型20と、可動型20側のキャビティ面に設けられた開口からキャビティK内に進入可能に構成された略円筒状のシャッタ部31を有するシャッタキャビティ30と、シャッタ部31の中心軸上に配設された棒状の放熱部41を有する遠赤外線ヒータ40と、固定型10の型体内に埋設された放熱部51を有するパイプヒータと、を主要構成とする。
固定型10と可動型20は、公知の型締め手段である固定側取付板(不図示)および可動側取付板(不図示)の間に配設されている。可動型20には、一端側が可動型20を貫通してキャビティ面に到達し、他端側が可動側取付板側に突出するエジェクタピン21が設けられている。なお、本実施形態の可動型20が本発明の第1金型に相当し、本実施形態の固定型10が本発明の第2金型に相当する。
【0020】
固定型10および可動型20には、キャビティKを形成するための所定形状のキャビティ面が対向して形成されている。固定型10側のキャビティ面10Aは、モータヨークW1の外形の反転形状とされている。従って、モータヨークW1をこのキャビティ面10Aに密着させるようにセットすることができる。また、固定型10には、溶融樹脂を注入するためのゲート部11が形成されている。ゲート部11は、モータヨークW1に設けられた樹脂注入孔W1bとインサート時に連通される位置に形成されている。また、可動型20側のキャビティ面20Aは、型締め状態において、インサートされたモータヨークW1の開口を塞ぐように形成されている。本例のステータWは、図1に示すように、樹脂部W4がモータヨークW1の開口から所定形状をなすように突出している。従って、キャビティ面20Aはこの突出した樹脂部W4の反転形状をなすように形成されている。
【0021】
固定型10の型体内部には、図3に示すように、キャビティKの外周を囲むようにパイプヒータの放熱部51が埋設されている。従って、放熱部51が加熱されると、放熱部51の周囲の型体が熱伝導により加熱される。そして、加熱された型体を介してキャビティK内部に充填された樹脂に熱が伝導される。つまり、パイプヒータによって、キャビティK内に充填された樹脂を加熱することができる。また、パイプヒータにより、固定型10の予熱を行うことができる。
【0022】
可動型20には、キャビティ面20Aの略中央に、可動型20を貫通する開口が形成されている。この開口には、遠赤外線ヒータ40およびシャッタキャビティ30の一部が挿通されている。
遠赤外線ヒータ40は、その中心軸に沿って配設された棒状の放熱部41と、放熱部41の両端を保持すると共に放熱部41の外周側面を部分的に覆うように形成された円柱状の本体部42と、を備えて構成されている。放熱部41は、遠赤外線等を放射することが可能な発熱体からなり、本体部42側から発熱のためのエネルギーや制御信号等が供給されるようになっている。本例では、遠赤外線ヒータ40が可動型20に対して固定されている。従って、可動型20と固定型10を型締めすることにより、キャビティ面10Aとキャビティ面20Aによって囲まれる内部空間の略中央に遠赤外線ヒータ40が突出した状態となる。このとき、遠赤外線ヒータ40は、本体部42の固定型10側の先端が、固定型10側のキャビティ面10Aと所定の隙間を介して対向するように寸法設定されている。なお、この隙間は、後述するように、キャビティK内にセットされるモータヨークW1の厚みと略同一寸法である。
【0023】
本体部42は、外側面が略同一径の円柱面となるように形成されており、その一端側には、放熱部41を収納するための略円筒状の周壁42aで囲まれた空間が形成されている。また、本体部42の他端側は、可動型20の可動側取付板側に配設された背板22に当接しており、この背板22を介して、本体部42が可動型20に固定されている。
図5は本例の遠赤外線ヒータ40およびシャッタキャビティ30の分解斜視図である。この図に示すように、周壁42aには、スリット状の複数の放熱窓42bが、周方向に略等間隔で形成されている。従って、放熱部41から放射される遠赤外線は、放熱窓42bを通過して遠赤外線ヒータ40の外部に照射することができるようになっている。
【0024】
シャッタキャビティ30は、固定型10側に略同一径の円筒状のシャッタ部31が形成され、可動型20側にフランジ部32が形成されている。シャッタ部31の内径寸法は遠赤外線ヒータ40の本体部42が内接する寸法とされ、外径寸法は可動型20の開口に内接する寸法とされている。これにより、シャッタ部31は、可動型20の開口と遠赤外線ヒータ40の本体部との隙間を進退動することができる。
図3はシャッタ部31が最大限キャビティK内に進入した状態であり、フランジ部32が可動型20の外側面に当接した状態となっている。この状態において、シャッタ部31の先端が本体部42の先端近傍まで延出されており、シャッタ部31により放熱窓42bが全て閉鎖されている。なお、この位置が、本発明のスライド型(シャッタキャビティ30)の遮蔽位置に相当する。
また、図4はシャッタ部31がキャビティK内に全く進入していない状態であり、シャッタ部31の先端面がキャビティ面と略面一となっている。この状態において、放熱窓42bはシャッタ部31により全く遮蔽されることなく全て開放状態となっている。なお、この位置は本発明のスライド型(シャッタキャビティ30)の開放位置に相当する。
【0025】
また、シャッタキャビティ30は、フランジ部32の可動側取付板側の面に取り付けられた駆動部材33を備えている。そして、この駆動部材33を可動型20側から固定型10側に向かって前進させる。これにより、フランジ部32を可動型20側に向かって前進させると共に、シャッタ部31をキャビティK内に進入させることができる。また、この駆動部材33を固定型10側から可動型20側に向かって後退させる。これにより、フランジ部32を後退させると共にシャッタ部31をキャビティK外に退出させることができる。
本例では、このように、シャッタキャビティ30が遠赤外線ヒータ40の本体部42の外周面に沿って進退動可能に構成されており、これにより、シャッタキャビティ30が開閉部材となって放熱窓42bを開閉することができるようになっている。
【0026】
つまり、本例の金型装置Sは、シャッタキャビティ30の進退動に基づいて、放熱部41からの遠赤外線が遮蔽されずにキャビティK内に照射される開放状態と、放熱部41からの遠赤外線が遮蔽されてキャビティK内に照射されない遮蔽状態と、に切り換え可能に構成されている。言い換えれば、遠赤外線ヒータ40による加熱の制御を、遠赤外線ヒータ40のスイッチのオンオフ制御、すなわち、放熱部41へのエネルギー供給のオンオフ制御でなく、シャッタキャビティ30の開閉によって行うことができるように構成されている。
なお、本実施形態のシャッタキャビティ30が本発明のスライド型に相当し、本実施形態の遠赤外線ヒータ40が本発明の第1ヒータに相当し、本実施形態のパイプヒータが本発明の第2ヒータに相当する。また、本実施形態の本体部42は本発明の筒状部に相当するが、本体部42を省略した構成とすることも可能である。
【0027】
(ステータの製造方法)
次に、本例の金型装置SによるステータWの製造方法について、図6〜図12を参照しながら説明する。
(1)キャビティ形成工程
まず、固定型10に樹脂以外のステータ構成部品をセットした後、型締めしてキャビティKを形成する。図6にステータ構成部品がキャビティK内にセットされる前の金型装置Sの型開きした状態を示す。この図では、シャッタキャビティ30は、最大限キャビティK内に進入して放熱窓42bを閉鎖した状態(遮蔽位置)にセットされている。この状態で、図7に示すように、キャビティ面10Aに密着するようにモータヨークW1をセットすると共に、モータヨークW1の内側には巻線W3が巻回されたステータコアW2をセットする。続いて固定型10と可動型20のパーティング面を当接させて型締めする。これにより、キャビティKが形成される。このように、本例のキャビティKは、キャビティ面10A(図3等参照)と、キャビティ面20A(図3等参照)と、シャッタキャビティ30のシャッタ部31の外周面と、遠赤外線ヒータ40の本体部42の外周面と、エジェクタピン21の先端面と、から構成される。
また、本体部42の先端部とキャビティ面10Aは、上述したように、モータヨークW1の厚みと略同一寸法の隙間を介して対向する。従って、型締め状態では、本体部42の先端部がモータヨークW1の内周面中央部に隙間なく当接し、貫通孔W1aを塞いだ状態となる。よって、キャビティKは、樹脂注入孔W1bのみが外部に連通された状態となっている。
【0028】
(2)充填工程
次に、図8に示すように、ゲート部11(図7等参照)から、キャビティK内に熱硬化性樹脂からなる溶融樹脂を注入する。注入された溶融樹脂は、モータヨークW1の樹脂注入孔W1b(図7等参照)を経由して巻線W3が巻回されたステータコアW2側に流入し、充填される。このとき、シャッタキャビティ30により放熱窓42bが閉鎖されているので、放熱窓42bから遠赤外線ヒータ40の内部に溶融樹脂が侵入することがない。そして、充填終了後、保圧完了する。
なお、溶融樹脂充填開始前に、金型装置Sが充填に適した所定の温度になるように、パイプヒータ等により予熱または冷却を行っておいてもよい。これにより、溶融樹脂の流動性が確保される。
【0029】
(3)第1加熱工程
次に、図9に示すように、シャッタキャビティ30を遮蔽位置にセットしたまま、パイプヒータのスイッチをオン状態とし、放熱部51からの熱伝導による加熱をスタートさせる。そして、充填された溶融樹脂(硬化後に樹脂部W4となる)の硬化が開始され、シャッタキャビティ30を開放位置に変位させて放熱窓42b(図3等参照)を開放しても、放熱窓42b内に樹脂が流れ込まない程度に固化が進行した状態(完全には固まっていないが、柔らかい半固体となった状態)になるまで、加熱を継続する。そして、所定の硬さに固まった時に、放熱部51による加熱を停止する。
この第1加熱工程では、放熱部51の熱伝導が型体を介して行われるので、加熱中は常時型体の温度が上昇されており、特に放熱部51の近くでは強烈に高温となっている。
【0030】
(4)第2加熱工程
次に、図10に示すように、シャッタキャビティ30を開放状態に変位させ、放熱窓42b(図4等参照)を開放する。このとき溶融樹脂はすでに流動性がなくなり半固体状態となっているので、放熱窓42b内に溶融樹脂が流入せず、成型品は変形しない。そして、本例では、遠赤外線ヒータ40はこの開放前からオン状態とされており、放熱部41から照射される遠赤外線が、放熱窓42bの開放時にはすでに安定状態となっている。従って、照射開始直後から、一定以上の放射レベルで安定した遠赤外線照射を行うことができる。そして、溶融樹脂が内部まで完全に硬化されたと判定された後、遠赤外線ヒータ40のスイッチをオフにし、加熱を停止する。
このように、放熱窓42bを開放する前から遠赤外線ヒータ40のスイッチをオンにして遠赤外線ヒータ40を安定状態に立ち上げておくので、この第2加熱工程では、シャッタキャビティ30の開放と同時に一定以上の放射レベルの安定した遠赤外線照射を行うことができ、放熱部41の立ち上がりによる不安定な加熱が行われることがない。よって、加熱の安定化が図られている。また、シャッタキャビティ30が開放された瞬間から一定以上の放射レベルの加熱を行うことができるので、加熱時間が短縮される。また、熱放射による熱の伝導を行っているので、放熱部41から直接樹脂に熱エネルギーが伝達される。よって、型体が強烈に高温になることがなく、冷却時間が短縮される。
【0031】
(5)離型工程
次に、図11に示すように、金型装置Sを型開きして、固定型10のキャビティ面10A(図3等参照)から樹脂モールド成型品であるステータWを離型させる。本例では、キャビティ面10Aに当接するようにモータヨークW1がセットされているので、モータヨークW1ごと固定型10から取り出せば良く、スムーズに離型を行うことができる。
続いて、図12に示すように、エジェクタピン21により突き出して可動型20からステータWを離型させる。これにより、成型品の離型が完了する。
【0032】
以上のように、本例では、従来の樹脂硬化法で用いられていたパイプヒータによる加熱方法、すなわち、型体を介して熱伝導により樹脂の外側から加熱する方法に加えて、熱放射(遠赤外線)を直接樹脂に照射することにより、型体を介さずに樹脂を加熱する方法を用いている。この加熱方法の違いは、熱伝導による加熱が、加熱対象である樹脂を、熱伝達エネルギーにより、樹脂の熱伝達特性に応じた速度で外側から内側に向かって順次温度上昇させる方法であるのに対し、熱放射による加熱は、加熱対象である樹脂に放射エネルギーを吸収させることにより、樹脂の分子運動を樹脂内部側に伝播させていくことによって行われる点である。そして、熱放射では、分子運動の伝播に伴って温度の4乗に比例した熱エネルギー変換が行われ、樹脂温度が上昇される。そして、樹脂内部の温度上昇は、熱伝導よりも熱放射による加熱の方が促進され、効率的に行われる。従って、樹脂硬化が促進される。本例では、第2加熱工程において、このような遠赤外線放射により、樹脂硬化を促進させている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】樹脂モールド成形されたステータの断面図である。
【図2】樹脂モールド成形前のステータ構成部品の断面図である。
【図3】本実施形態の金型装置(遮蔽位置)の断面図である。
【図4】本実施形態の金型装置(開放位置)の断面図である。
【図5】遠赤外線ヒータとシャッタキャビティの分解斜視図である。
【図6】モータヨークをセットする前の金型装置の断面図である。
【図7】モータヨーク、ステータコア、巻線がセットされた固定型の断面図である。
【図8】型締めされキャビティ内に溶融樹脂が注入された金型装置の断面図である。
【図9】パイプヒータによる樹脂の加熱工程を示す断面説明図である。
【図10】遠赤外線ヒータによる樹脂の加熱工程を示す断面説明図である。
【図11】樹脂硬化完了後の型開き工程を示す断面説明図である。
【図12】成形品の突き出し工程を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0034】
10‥固定型(第2金型)、10A‥キャビティ面、11‥ゲート部
20‥可動型(第1金型)、20A‥キャビティ面、21‥エジェクタピン、22‥背板
30‥シャッタキャビティ(スライド型)、31‥シャッタ部、32‥フランジ部、
33‥駆動部材、40‥遠赤外線ヒータ(第1ヒータ)、41‥放熱部、42‥本体部、
42a‥周壁、42b‥放熱窓、51‥放熱部(第2ヒータ)
K‥キャビティ、S‥金型装置、W‥ステータ、W1‥モータヨーク、W1a‥貫通孔、
W1b‥樹脂注入孔、W2‥ステータコア、W3‥巻線、W4‥樹脂部
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形品の製造装置および製造方法に係り、特に、キャビティ内に充填された熱硬化性の溶融樹脂を硬化させるために、遠赤外線ヒータ等の放射熱を照射可能なヒータを備えた射出成形品の製造装置および射出成形品の製造方法、並びに該製造装置または該製造方法により製造されたモータ用ステータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータステータなどの射出成形品の製造において、熱硬化性樹脂を用いて成形品を製造する際に、金型装置にパイプヒータ等の加熱装置を組み込んで、このヒータで発生した熱を、金型の型体を介して熱伝導により溶融状態の熱硬化性樹脂に伝達して硬化させる製造装置が用いられていた。
しかしながら、熱伝導により外側から成形品を加熱する方式では、熱伝導の速度が金型を構成する金属や充填される樹脂の熱伝達率に依存するため、成形品の中心部に熱が到達するのに時間がかかってしまい、樹脂硬化に時間を要していた。また、型体を介して熱を伝達しているので、硬化が完了するまで型体を十分に加熱しておく必要があった。従って、成形後に装置を冷却して再び成形可能な状態に復帰させるのに時間がかかり、製造装置の回転が悪いという問題点があった。また、冷却が不十分な状態で溶融樹脂の再充填を行うと、充填途中に硬化が促進されてしまい、最終充填部が未充填となって加工コストがかかるという問題点があった。
【0003】
一方、加熱装置として赤外線加熱装置を用いて、この赤外線加熱装置の放射熱を、型壁の一部分に設けられた赤外線透過部材を通過させることにより直接型内に到達させるように構成した射出成形機が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1では、このような構成により、赤外線の照射すなわち放射熱により、溶融樹脂を直接加熱することができる。また、特許文献1の射出成形機は、赤外線透過部材と赤外線加熱装置との間に開閉可能なシャッタを設けている。このようにすると、赤外線の照射をシャッタの開閉により制御することができる。照射の制御は、シャッタでなく赤外線加熱装置のオンオフにより行うこともできるが、オンオフによる制御では、オンオフ時の加熱パターンが安定しない。これに対し、特許文献1のようにシャッタの開閉により制御すれば、シャッタの開放直後から即座に安定した照射を行うことができ、加熱の安定化を図ることができる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−58460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の射出成形機は、赤外線加熱装置の加熱によって樹脂の流動性を高めて薄肉形状のキャビティへの充填を良好とし、かつ、充填時間を短縮するものであって、型壁のうち一面のみにしか赤外線透過部材が設けられていなかった。従って、特許文献1の構成を熱硬化性樹脂の硬化促進のために適用しても、加熱方向が偏るために効率的に硬化を促進することができないという問題点があった。
また、特許文献1の射出成形機では、加熱装置が赤外線加熱装置のみとされており、樹脂充填前に金型自体を安定充填域に昇温させるための加熱装置を別に備えていなかった。また、溶融状態のまだ固まっていない樹脂に対して赤外線を照射することを前提としているため、キャビティ面の一部を赤外線透過部材で構成することが必須となっていた。従って、金型装置の製造コストが増大するという問題点があった。
【0006】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、熱硬化性樹脂による射出成形を行うための製造装置および製造方法において、キャビティ内に充填された熱硬化性の溶融樹脂を短時間で効率的に硬化させることが可能な射出成形品の製造装置および射出成形品の製造方法、並びに、該製造装置および製造方法により製造されたモータ用ステータを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、成型終了後に装置が高温にならず、成形終了後の装置の冷却時間を短縮することができ、製造を効率化することが可能な射出成形品の製造装置および射出成形品の製造方法、並びに、該製造装置および製造方法により製造されたモータ用ステータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明の射出成型品の製造装置によれば、第1金型と、該第1金型と型締めされることにより該第1金型との間に所定の内部空間を形成する第2金型と、を備え、前記第1金型には、型締め状態において前記内部空間に配設される放熱部を有する第1ヒータと、該放熱部が挿通され前記第1金型の型面から前記第2金型に対して進退動可能に構成された筒状のシャッタ部を有するスライド型と、が設けられ、前記スライド型は、前記第1金型と前記第2金型が型締めされた状態において、前記シャッタ部が前記内部空間に所定寸法進入し前記放熱部をキャビティから遮蔽している遮蔽位置と、前記シャッタ部が前記第2金型から後退し前記放熱部を前記シャッタ部の外部に露出させている開放位置と、に変位可能に構成されたことにより解決される。
【0008】
このように、本発明の製造装置は、第1金型と第2金型を備え、第1金型は筒状のシャッタ部を有するスライド型を備えている。シャッタ部は第1金型の型面から第2金型に対して進退動可能とされ、型締めされた状態で第2金型に対して所定寸法進入されることにより、第1金型および第2金型と共にキャビティを形成することができる。また、第1金型はヒータを備え、このヒータの放熱部はシャッタ部に挿通され金型の内部空間に配設されている。
このような構成によれば、放熱部は、キャビティ形成時には第2金型に対して所定寸法進入されたシャッタ部によりキャビティから遮蔽される。一方、放熱部は、シャッタ部を第2金型に対して後退させることによりシャッタ部の外部に露出され、キャビティ内に充填されていた樹脂に対して放射熱を照射することができる。つまり、本発明では、シャッタ部の進退動により放熱部による熱照射のオンオフを行うことができる。そして、このとき、ヒータをシャッタ部開閉前からオン状態としておけば、シャッタ部の後退動作の直後から即時に安定した熱放射を開始することができる。よって、加熱の安定化を図ることができる。
【0009】
また、本発明において、より具体的には、前記第1ヒータは遠赤外線ヒータからなる。
このように、遠赤外線ヒータからの熱放射により充填された樹脂を加熱すると、放射エネルギーを吸収した樹脂は、分子運動の活発化および分子運動の樹脂内における伝播によって放射エネルギーが熱エネルギー変換され、熱伝導よりも効率的に温度上昇される。すなわち、樹脂中心部を効率的に温度上昇させることができ、効率的に熱硬化性樹脂の硬化促進を図ることができる。また、熱放射による樹脂の加熱では金型の型体を温度上昇させる必要がない。よって、成型終了時に型体が高温となることがなく、装置を冷却して再び樹脂充填可能な状態にするのに時間がかからない。よって、製造時間を短縮することができ、製造を効率化することができる。
【0010】
また、本発明において、前記第2金型には、前記キャビティ内に充填された溶融樹脂を、前記第2金型を介して熱伝導により加熱する第2ヒータが設けられている。このように、熱放射により加熱する遠赤外線ヒータとは別に、熱伝導により型体を介して樹脂を加熱するヒータを設けていると、これらのヒータを適宜使い分けて加熱を行うことができる。すなわち、溶融樹脂充填後、最初に第2ヒータの加熱を行い、これにより、樹脂の流動性がなくなって半固体状態になるまで硬化させる。そして、その後シャッタ部を第2金型に対して後退させる。こうすると、第1ヒータの放熱中に放熱部側に溶融樹脂が流入することがなく、加熱中に成型品が変形することがない。
【0011】
また、本発明において、より具体的には、前記第1ヒータは前記放熱部を囲む筒状部を備え、該筒状部は前記シャッタ部に挿通され前記シャッタ部の内周面に対向する所定形状の放熱窓を有し、前記放熱部は、前記開放位置において、前記放熱窓を介して前記シャッタ部の外部に露出されるように構成される。このように、放射窓が形成された筒状部を、放熱部を囲むように形成すれば、シャッタ部と放熱部の位置決めを確実にすることができる。
また、本発明において、より具体的には、前記キャビティは、モータヨークと、巻線が巻回されたステータコアと、を配設可能に形成され、前記キャビティに熱硬化性溶融樹脂を充填して加熱することにより、前記モータヨーク、前記ステータコア、前記巻線がインサートされ樹脂モールド成形されたステータを製造可能に構成されている。このように、本発明は、樹脂モールド成形によるステータの製造に好適に用いることができる。
【0012】
また、前記課題は、本発明の射出成型品の製造方法によれば、第1金型と第2金型を型締めして所定の内部空間を形成すると共に、前記第1金型に配設されたスライド型に設けられた筒状のシャッタ部を前記内部空間に所定寸法進入させることにより、キャビティを形成するキャビティ形成工程と、前記キャビティに熱硬化性溶融樹脂を充填する充填工程と、前記第2金型に設けられた第2ヒータにより、前記キャビティに充填された熱硬化性溶融樹脂を前記第2金型を介して熱伝導により加熱して所定状態まで硬化させる第1加熱工程と、該第1加熱工程後に、前記シャッタ部を前記第2金型に対して後退させることにより、前記シャッタ部に挿通された第1ヒータの放熱部を前記シャッタ部の外部に露出させ、該放熱部からの熱放射により前記熱硬化性溶融樹脂を加熱して硬化完了させる第2加熱工程と、前記第1金型と前記第2金型を型開きして硬化完了した成形品を離型させる離型工程と、を行うことにより解決される。
【0013】
このように、本発明の製造方法では、第2加熱工程において、熱放射によりキャビティ内に充填された樹脂を加熱する。熱放射により加熱すると、上述したように、効率的に熱硬化性樹脂の硬化促進を図ることができる。また、型体を温度上昇させる必要がないので成型終了時に型体が高温となることがなく、装置を冷却して再び樹脂充填可能な状態にするのに時間がかからない。よって、製造時間を短縮することができ、製造を効率化することができる。
【0014】
また、本発明において、前記第2加熱工程の開始前に前記第1ヒータがオン状態とされ、前記放熱部による熱放射が安定状態とされていると好適である。このように、本発明では、キャビティ内に充填された樹脂に対する熱照射のオンオフをシャッタ部の進退動により行うことができる。従って、上述したように、ヒータをシャッタ部開閉前からオン状態としておけば、シャッタ部の後退動作の直後から即時に安定した熱放射を開始することができる。よって、加熱の安定化を図ることができる。
【0015】
また、本発明において、より具体的には、前記キャビティは、モータヨークと、巻線が巻回されたステータコアと、を配設可能に形成され、前記キャビティ形成工程の前に、前記第1金型または前記第2金型に前記モータヨークおよび前記巻線が巻回されたステータコアをセットする工程を行うことにより、前記モータヨーク、前記ステータコア、前記巻線がインサートされ樹脂モールド成形されたステータを製造することができる。このように、本発明は、樹脂モールド成形によるモータ用ステータの製造に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
○ 本発明によれば、第1金型と第2金型を備え、第1金型は筒状のシャッタ部を有するスライド型を有し、シャッタ部にはヒータの放熱部が挿通されている。従って、シャッタ部の進退動により、放熱部をキャビティから遮蔽した状態または遮蔽されない状態に切り換えることができる。つまり、シャッタ部の進退動によってヒータによる熱照射のオンオフを制御することができる。よって、加熱開始時の熱照射を安定させ、加熱の安定化を図ることができる。
○ 本発明によれば、遠赤外線ヒータからの熱放射により、充填された樹脂を加熱することができる。よって、分子運動の活発化および分子運動の樹脂内における伝播により、熱伝導に比べて樹脂中心部を効率的に温度上昇させることができ、効率的に熱硬化性樹脂の硬化促進を図ることができる。また、熱放射による樹脂の加熱では金型の型体を温度上昇させる必要がない。よって、成型終了時に型体が高温となることがなく、装置を冷却して再び樹脂充填可能な状態にするのに時間を要しない。よって、製造を効率化することができる。
○ 本発明によれば、遠赤外線ヒータとは別に、熱伝導により型体を介して樹脂を加熱する第2ヒータを設けている。よって、これらのヒータを適宜使い分けて加熱を行うことができる。すなわち、第2ヒータにより樹脂の流動性がなくなって半固体状態になるまで硬化させた後、シャッタ部をスライドさせて放熱部をキャビティから遮蔽しない状態とする。このようにすると、遠赤外線ヒータからの熱放射による加熱中に遠赤外線ヒータの放熱部側に溶融樹脂が流入することがなく、硬化中に成型品が変形することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
図1〜図12は本発明の一実施形態に係るものであり、図1は樹脂モールド成形されたステータの断面図、図2は樹脂モールド成形前のステータ構成部品(モータヨーク、ステータコア、巻線)の断面図、図3は本実施形態の金型装置(遮蔽位置)の断面図、図4は本実施形態の金型装置(開放位置)の断面図、図5は遠赤外線ヒータとシャッタキャビティの分解斜視図である。また、図6〜図12は本実施形態の金型装置によるステータの製造工程を示す図であり、図6はモータヨークをセットする前の金型装置の断面図、図7はモータヨーク、ステータコア、巻線がセットされた固定型の断面図、図8は型締めされキャビティ内に溶融樹脂が注入された金型装置の断面図、図9はパイプヒータによる樹脂の加熱工程を示す断面説明図、図10は遠赤外線ヒータによる樹脂の加熱工程を示す断面説明図、図11は樹脂硬化完了後の型開き工程を示す断面説明図、図12は成形品の突き出し工程を示す断面説明図である。
【0018】
本発明の製造装置を、図1に示すステータWを樹脂モールド成形により製造するために用いられる金型装置Sに適用した一実施形態について説明する。
(ステータの構成)
本例の金型装置Sにより製造されるステータWはブラシレスモータ等のモータ用ステータとして好適に用いられるものであり、図1に示すように、略円筒状のヨーク部の一端側を閉鎖した形状の金属製のモータヨークW1と、モータヨークW1のヨーク部の内周に沿って配設された金属製のステータコアW2と、ステータコアW2に巻回された巻線W3と、ステータコアW2及び巻線W3を樹脂モールドする熱硬化性樹脂からなる樹脂部W4と、を備えている。また、図2は樹脂モールド成形される前のステータ構成部品(モータヨークW1、ステータコアW2、巻線W3)の組み付け状態を示す断面図である。
図1、図2に示すように、モータヨークW1の一端側に設けられた閉鎖面の略中央には凸部が形成され、この凸部の略中央にはモータのシャフトを貫通させるための貫通孔W1aが形成されている。また、モータヨークW1には、ステータコアW2及び巻線W3側に樹脂を注入するための樹脂注入孔W1bが形成されている。
【0019】
(ステータの製造装置の構成)
図3に示すように、本例の金型装置Sは、固定型10と、固定型10との間にキャビティKを形成する可動型20と、可動型20側のキャビティ面に設けられた開口からキャビティK内に進入可能に構成された略円筒状のシャッタ部31を有するシャッタキャビティ30と、シャッタ部31の中心軸上に配設された棒状の放熱部41を有する遠赤外線ヒータ40と、固定型10の型体内に埋設された放熱部51を有するパイプヒータと、を主要構成とする。
固定型10と可動型20は、公知の型締め手段である固定側取付板(不図示)および可動側取付板(不図示)の間に配設されている。可動型20には、一端側が可動型20を貫通してキャビティ面に到達し、他端側が可動側取付板側に突出するエジェクタピン21が設けられている。なお、本実施形態の可動型20が本発明の第1金型に相当し、本実施形態の固定型10が本発明の第2金型に相当する。
【0020】
固定型10および可動型20には、キャビティKを形成するための所定形状のキャビティ面が対向して形成されている。固定型10側のキャビティ面10Aは、モータヨークW1の外形の反転形状とされている。従って、モータヨークW1をこのキャビティ面10Aに密着させるようにセットすることができる。また、固定型10には、溶融樹脂を注入するためのゲート部11が形成されている。ゲート部11は、モータヨークW1に設けられた樹脂注入孔W1bとインサート時に連通される位置に形成されている。また、可動型20側のキャビティ面20Aは、型締め状態において、インサートされたモータヨークW1の開口を塞ぐように形成されている。本例のステータWは、図1に示すように、樹脂部W4がモータヨークW1の開口から所定形状をなすように突出している。従って、キャビティ面20Aはこの突出した樹脂部W4の反転形状をなすように形成されている。
【0021】
固定型10の型体内部には、図3に示すように、キャビティKの外周を囲むようにパイプヒータの放熱部51が埋設されている。従って、放熱部51が加熱されると、放熱部51の周囲の型体が熱伝導により加熱される。そして、加熱された型体を介してキャビティK内部に充填された樹脂に熱が伝導される。つまり、パイプヒータによって、キャビティK内に充填された樹脂を加熱することができる。また、パイプヒータにより、固定型10の予熱を行うことができる。
【0022】
可動型20には、キャビティ面20Aの略中央に、可動型20を貫通する開口が形成されている。この開口には、遠赤外線ヒータ40およびシャッタキャビティ30の一部が挿通されている。
遠赤外線ヒータ40は、その中心軸に沿って配設された棒状の放熱部41と、放熱部41の両端を保持すると共に放熱部41の外周側面を部分的に覆うように形成された円柱状の本体部42と、を備えて構成されている。放熱部41は、遠赤外線等を放射することが可能な発熱体からなり、本体部42側から発熱のためのエネルギーや制御信号等が供給されるようになっている。本例では、遠赤外線ヒータ40が可動型20に対して固定されている。従って、可動型20と固定型10を型締めすることにより、キャビティ面10Aとキャビティ面20Aによって囲まれる内部空間の略中央に遠赤外線ヒータ40が突出した状態となる。このとき、遠赤外線ヒータ40は、本体部42の固定型10側の先端が、固定型10側のキャビティ面10Aと所定の隙間を介して対向するように寸法設定されている。なお、この隙間は、後述するように、キャビティK内にセットされるモータヨークW1の厚みと略同一寸法である。
【0023】
本体部42は、外側面が略同一径の円柱面となるように形成されており、その一端側には、放熱部41を収納するための略円筒状の周壁42aで囲まれた空間が形成されている。また、本体部42の他端側は、可動型20の可動側取付板側に配設された背板22に当接しており、この背板22を介して、本体部42が可動型20に固定されている。
図5は本例の遠赤外線ヒータ40およびシャッタキャビティ30の分解斜視図である。この図に示すように、周壁42aには、スリット状の複数の放熱窓42bが、周方向に略等間隔で形成されている。従って、放熱部41から放射される遠赤外線は、放熱窓42bを通過して遠赤外線ヒータ40の外部に照射することができるようになっている。
【0024】
シャッタキャビティ30は、固定型10側に略同一径の円筒状のシャッタ部31が形成され、可動型20側にフランジ部32が形成されている。シャッタ部31の内径寸法は遠赤外線ヒータ40の本体部42が内接する寸法とされ、外径寸法は可動型20の開口に内接する寸法とされている。これにより、シャッタ部31は、可動型20の開口と遠赤外線ヒータ40の本体部との隙間を進退動することができる。
図3はシャッタ部31が最大限キャビティK内に進入した状態であり、フランジ部32が可動型20の外側面に当接した状態となっている。この状態において、シャッタ部31の先端が本体部42の先端近傍まで延出されており、シャッタ部31により放熱窓42bが全て閉鎖されている。なお、この位置が、本発明のスライド型(シャッタキャビティ30)の遮蔽位置に相当する。
また、図4はシャッタ部31がキャビティK内に全く進入していない状態であり、シャッタ部31の先端面がキャビティ面と略面一となっている。この状態において、放熱窓42bはシャッタ部31により全く遮蔽されることなく全て開放状態となっている。なお、この位置は本発明のスライド型(シャッタキャビティ30)の開放位置に相当する。
【0025】
また、シャッタキャビティ30は、フランジ部32の可動側取付板側の面に取り付けられた駆動部材33を備えている。そして、この駆動部材33を可動型20側から固定型10側に向かって前進させる。これにより、フランジ部32を可動型20側に向かって前進させると共に、シャッタ部31をキャビティK内に進入させることができる。また、この駆動部材33を固定型10側から可動型20側に向かって後退させる。これにより、フランジ部32を後退させると共にシャッタ部31をキャビティK外に退出させることができる。
本例では、このように、シャッタキャビティ30が遠赤外線ヒータ40の本体部42の外周面に沿って進退動可能に構成されており、これにより、シャッタキャビティ30が開閉部材となって放熱窓42bを開閉することができるようになっている。
【0026】
つまり、本例の金型装置Sは、シャッタキャビティ30の進退動に基づいて、放熱部41からの遠赤外線が遮蔽されずにキャビティK内に照射される開放状態と、放熱部41からの遠赤外線が遮蔽されてキャビティK内に照射されない遮蔽状態と、に切り換え可能に構成されている。言い換えれば、遠赤外線ヒータ40による加熱の制御を、遠赤外線ヒータ40のスイッチのオンオフ制御、すなわち、放熱部41へのエネルギー供給のオンオフ制御でなく、シャッタキャビティ30の開閉によって行うことができるように構成されている。
なお、本実施形態のシャッタキャビティ30が本発明のスライド型に相当し、本実施形態の遠赤外線ヒータ40が本発明の第1ヒータに相当し、本実施形態のパイプヒータが本発明の第2ヒータに相当する。また、本実施形態の本体部42は本発明の筒状部に相当するが、本体部42を省略した構成とすることも可能である。
【0027】
(ステータの製造方法)
次に、本例の金型装置SによるステータWの製造方法について、図6〜図12を参照しながら説明する。
(1)キャビティ形成工程
まず、固定型10に樹脂以外のステータ構成部品をセットした後、型締めしてキャビティKを形成する。図6にステータ構成部品がキャビティK内にセットされる前の金型装置Sの型開きした状態を示す。この図では、シャッタキャビティ30は、最大限キャビティK内に進入して放熱窓42bを閉鎖した状態(遮蔽位置)にセットされている。この状態で、図7に示すように、キャビティ面10Aに密着するようにモータヨークW1をセットすると共に、モータヨークW1の内側には巻線W3が巻回されたステータコアW2をセットする。続いて固定型10と可動型20のパーティング面を当接させて型締めする。これにより、キャビティKが形成される。このように、本例のキャビティKは、キャビティ面10A(図3等参照)と、キャビティ面20A(図3等参照)と、シャッタキャビティ30のシャッタ部31の外周面と、遠赤外線ヒータ40の本体部42の外周面と、エジェクタピン21の先端面と、から構成される。
また、本体部42の先端部とキャビティ面10Aは、上述したように、モータヨークW1の厚みと略同一寸法の隙間を介して対向する。従って、型締め状態では、本体部42の先端部がモータヨークW1の内周面中央部に隙間なく当接し、貫通孔W1aを塞いだ状態となる。よって、キャビティKは、樹脂注入孔W1bのみが外部に連通された状態となっている。
【0028】
(2)充填工程
次に、図8に示すように、ゲート部11(図7等参照)から、キャビティK内に熱硬化性樹脂からなる溶融樹脂を注入する。注入された溶融樹脂は、モータヨークW1の樹脂注入孔W1b(図7等参照)を経由して巻線W3が巻回されたステータコアW2側に流入し、充填される。このとき、シャッタキャビティ30により放熱窓42bが閉鎖されているので、放熱窓42bから遠赤外線ヒータ40の内部に溶融樹脂が侵入することがない。そして、充填終了後、保圧完了する。
なお、溶融樹脂充填開始前に、金型装置Sが充填に適した所定の温度になるように、パイプヒータ等により予熱または冷却を行っておいてもよい。これにより、溶融樹脂の流動性が確保される。
【0029】
(3)第1加熱工程
次に、図9に示すように、シャッタキャビティ30を遮蔽位置にセットしたまま、パイプヒータのスイッチをオン状態とし、放熱部51からの熱伝導による加熱をスタートさせる。そして、充填された溶融樹脂(硬化後に樹脂部W4となる)の硬化が開始され、シャッタキャビティ30を開放位置に変位させて放熱窓42b(図3等参照)を開放しても、放熱窓42b内に樹脂が流れ込まない程度に固化が進行した状態(完全には固まっていないが、柔らかい半固体となった状態)になるまで、加熱を継続する。そして、所定の硬さに固まった時に、放熱部51による加熱を停止する。
この第1加熱工程では、放熱部51の熱伝導が型体を介して行われるので、加熱中は常時型体の温度が上昇されており、特に放熱部51の近くでは強烈に高温となっている。
【0030】
(4)第2加熱工程
次に、図10に示すように、シャッタキャビティ30を開放状態に変位させ、放熱窓42b(図4等参照)を開放する。このとき溶融樹脂はすでに流動性がなくなり半固体状態となっているので、放熱窓42b内に溶融樹脂が流入せず、成型品は変形しない。そして、本例では、遠赤外線ヒータ40はこの開放前からオン状態とされており、放熱部41から照射される遠赤外線が、放熱窓42bの開放時にはすでに安定状態となっている。従って、照射開始直後から、一定以上の放射レベルで安定した遠赤外線照射を行うことができる。そして、溶融樹脂が内部まで完全に硬化されたと判定された後、遠赤外線ヒータ40のスイッチをオフにし、加熱を停止する。
このように、放熱窓42bを開放する前から遠赤外線ヒータ40のスイッチをオンにして遠赤外線ヒータ40を安定状態に立ち上げておくので、この第2加熱工程では、シャッタキャビティ30の開放と同時に一定以上の放射レベルの安定した遠赤外線照射を行うことができ、放熱部41の立ち上がりによる不安定な加熱が行われることがない。よって、加熱の安定化が図られている。また、シャッタキャビティ30が開放された瞬間から一定以上の放射レベルの加熱を行うことができるので、加熱時間が短縮される。また、熱放射による熱の伝導を行っているので、放熱部41から直接樹脂に熱エネルギーが伝達される。よって、型体が強烈に高温になることがなく、冷却時間が短縮される。
【0031】
(5)離型工程
次に、図11に示すように、金型装置Sを型開きして、固定型10のキャビティ面10A(図3等参照)から樹脂モールド成型品であるステータWを離型させる。本例では、キャビティ面10Aに当接するようにモータヨークW1がセットされているので、モータヨークW1ごと固定型10から取り出せば良く、スムーズに離型を行うことができる。
続いて、図12に示すように、エジェクタピン21により突き出して可動型20からステータWを離型させる。これにより、成型品の離型が完了する。
【0032】
以上のように、本例では、従来の樹脂硬化法で用いられていたパイプヒータによる加熱方法、すなわち、型体を介して熱伝導により樹脂の外側から加熱する方法に加えて、熱放射(遠赤外線)を直接樹脂に照射することにより、型体を介さずに樹脂を加熱する方法を用いている。この加熱方法の違いは、熱伝導による加熱が、加熱対象である樹脂を、熱伝達エネルギーにより、樹脂の熱伝達特性に応じた速度で外側から内側に向かって順次温度上昇させる方法であるのに対し、熱放射による加熱は、加熱対象である樹脂に放射エネルギーを吸収させることにより、樹脂の分子運動を樹脂内部側に伝播させていくことによって行われる点である。そして、熱放射では、分子運動の伝播に伴って温度の4乗に比例した熱エネルギー変換が行われ、樹脂温度が上昇される。そして、樹脂内部の温度上昇は、熱伝導よりも熱放射による加熱の方が促進され、効率的に行われる。従って、樹脂硬化が促進される。本例では、第2加熱工程において、このような遠赤外線放射により、樹脂硬化を促進させている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】樹脂モールド成形されたステータの断面図である。
【図2】樹脂モールド成形前のステータ構成部品の断面図である。
【図3】本実施形態の金型装置(遮蔽位置)の断面図である。
【図4】本実施形態の金型装置(開放位置)の断面図である。
【図5】遠赤外線ヒータとシャッタキャビティの分解斜視図である。
【図6】モータヨークをセットする前の金型装置の断面図である。
【図7】モータヨーク、ステータコア、巻線がセットされた固定型の断面図である。
【図8】型締めされキャビティ内に溶融樹脂が注入された金型装置の断面図である。
【図9】パイプヒータによる樹脂の加熱工程を示す断面説明図である。
【図10】遠赤外線ヒータによる樹脂の加熱工程を示す断面説明図である。
【図11】樹脂硬化完了後の型開き工程を示す断面説明図である。
【図12】成形品の突き出し工程を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0034】
10‥固定型(第2金型)、10A‥キャビティ面、11‥ゲート部
20‥可動型(第1金型)、20A‥キャビティ面、21‥エジェクタピン、22‥背板
30‥シャッタキャビティ(スライド型)、31‥シャッタ部、32‥フランジ部、
33‥駆動部材、40‥遠赤外線ヒータ(第1ヒータ)、41‥放熱部、42‥本体部、
42a‥周壁、42b‥放熱窓、51‥放熱部(第2ヒータ)
K‥キャビティ、S‥金型装置、W‥ステータ、W1‥モータヨーク、W1a‥貫通孔、
W1b‥樹脂注入孔、W2‥ステータコア、W3‥巻線、W4‥樹脂部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金型と、該第1金型と型締めされることにより該第1金型との間に所定の内部空間を形成する第2金型と、を備え、前記第1金型には、型締め状態において前記内部空間に配設される放熱部を有する第1ヒータと、該放熱部が挿通され前記第1金型の型面から前記第2金型に対して進退動可能に構成された筒状のシャッタ部を有するスライド型と、が設けられ、
前記スライド型は、前記第1金型と前記第2金型が型締めされた状態において、前記シャッタ部が前記内部空間に所定寸法進入し前記放熱部をキャビティから遮蔽している遮蔽位置と、前記シャッタ部が前記第2金型から後退し前記放熱部を前記シャッタ部の外部に露出させている開放位置と、に変位可能に構成されたことを特徴とする射出成型品の製造装置。
【請求項2】
前記第1ヒータは遠赤外線ヒータからなることを特徴とする請求項1に記載の射出成型品の製造装置。
【請求項3】
前記第2金型には、前記キャビティ内に充填された熱硬化性溶融樹脂を、前記第2金型を介して熱伝導により加熱する第2ヒータが設けられたことを特徴とする請求項1に記載の射出成型品の製造装置。
【請求項4】
前記第1ヒータは前記放熱部を囲む筒状部を備え、該筒状部は前記シャッタ部に挿通され前記シャッタ部の内周面に対向する所定形状の放熱窓を有し、
前記放熱部は、前記開放位置において、前記放熱窓を介して前記シャッタ部の外部に露出されることを特徴とする請求項1に記載の射出成型品の製造装置。
【請求項5】
前記キャビティは、モータヨークと、巻線が巻回されたステータコアと、を配設可能に形成され、前記キャビティに熱硬化性溶融樹脂を充填して加熱することにより、前記モータヨーク、前記ステータコア、前記巻線がインサートされ樹脂モールド成形されたステータを製造可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の射出成型品の製造装置。
【請求項6】
第1金型と第2金型を型締めして所定の内部空間を形成すると共に、前記第1金型に配設されたスライド型に設けられた筒状のシャッタ部を前記内部空間に所定寸法進入させることにより、キャビティを形成するキャビティ形成工程と、
前記キャビティに熱硬化性溶融樹脂を充填する充填工程と、
前記第2金型に設けられた第2ヒータにより、前記キャビティに充填された熱硬化性溶融樹脂を前記第2金型を介して熱伝導により加熱して所定状態まで硬化させる第1加熱工程と、
該第1加熱工程後に、前記シャッタ部を前記第2金型に対して後退させることにより、前記シャッタ部に挿通された第1ヒータの放熱部を前記シャッタ部の外部に露出させ、該放熱部からの熱放射により前記熱硬化性溶融樹脂を加熱して硬化完了させる第2加熱工程と、
前記第1金型と前記第2金型を型開きして硬化完了した成形品を離型させる離型工程と、を行うことを特徴とする射出成形品の製造方法。
【請求項7】
前記第2加熱工程の開始前に前記第1ヒータがオン状態とされ、前記放熱部による熱放射が安定状態とされていることを特徴とする請求項6に記載の射出成形品の製造方法。
【請求項8】
前記キャビティは、モータヨークと、巻線が巻回されたステータコアと、を配設可能に形成され、前記キャビティ形成工程の前に、前記第1金型または前記第2金型に前記モータヨークおよび前記巻線が巻回されたステータコアをセットする工程を行うことにより、前記モータヨーク、前記ステータコア、前記巻線がインサートされ樹脂モールド成形されたステータを製造することを特徴とする請求項6に記載の射出成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の射出成型品の製造装置により製造されたモータ用ステータ。
【請求項10】
請求項8に記載の射出成型品の製造方法により製造されたモータ用ステータ。
【請求項1】
第1金型と、該第1金型と型締めされることにより該第1金型との間に所定の内部空間を形成する第2金型と、を備え、前記第1金型には、型締め状態において前記内部空間に配設される放熱部を有する第1ヒータと、該放熱部が挿通され前記第1金型の型面から前記第2金型に対して進退動可能に構成された筒状のシャッタ部を有するスライド型と、が設けられ、
前記スライド型は、前記第1金型と前記第2金型が型締めされた状態において、前記シャッタ部が前記内部空間に所定寸法進入し前記放熱部をキャビティから遮蔽している遮蔽位置と、前記シャッタ部が前記第2金型から後退し前記放熱部を前記シャッタ部の外部に露出させている開放位置と、に変位可能に構成されたことを特徴とする射出成型品の製造装置。
【請求項2】
前記第1ヒータは遠赤外線ヒータからなることを特徴とする請求項1に記載の射出成型品の製造装置。
【請求項3】
前記第2金型には、前記キャビティ内に充填された熱硬化性溶融樹脂を、前記第2金型を介して熱伝導により加熱する第2ヒータが設けられたことを特徴とする請求項1に記載の射出成型品の製造装置。
【請求項4】
前記第1ヒータは前記放熱部を囲む筒状部を備え、該筒状部は前記シャッタ部に挿通され前記シャッタ部の内周面に対向する所定形状の放熱窓を有し、
前記放熱部は、前記開放位置において、前記放熱窓を介して前記シャッタ部の外部に露出されることを特徴とする請求項1に記載の射出成型品の製造装置。
【請求項5】
前記キャビティは、モータヨークと、巻線が巻回されたステータコアと、を配設可能に形成され、前記キャビティに熱硬化性溶融樹脂を充填して加熱することにより、前記モータヨーク、前記ステータコア、前記巻線がインサートされ樹脂モールド成形されたステータを製造可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の射出成型品の製造装置。
【請求項6】
第1金型と第2金型を型締めして所定の内部空間を形成すると共に、前記第1金型に配設されたスライド型に設けられた筒状のシャッタ部を前記内部空間に所定寸法進入させることにより、キャビティを形成するキャビティ形成工程と、
前記キャビティに熱硬化性溶融樹脂を充填する充填工程と、
前記第2金型に設けられた第2ヒータにより、前記キャビティに充填された熱硬化性溶融樹脂を前記第2金型を介して熱伝導により加熱して所定状態まで硬化させる第1加熱工程と、
該第1加熱工程後に、前記シャッタ部を前記第2金型に対して後退させることにより、前記シャッタ部に挿通された第1ヒータの放熱部を前記シャッタ部の外部に露出させ、該放熱部からの熱放射により前記熱硬化性溶融樹脂を加熱して硬化完了させる第2加熱工程と、
前記第1金型と前記第2金型を型開きして硬化完了した成形品を離型させる離型工程と、を行うことを特徴とする射出成形品の製造方法。
【請求項7】
前記第2加熱工程の開始前に前記第1ヒータがオン状態とされ、前記放熱部による熱放射が安定状態とされていることを特徴とする請求項6に記載の射出成形品の製造方法。
【請求項8】
前記キャビティは、モータヨークと、巻線が巻回されたステータコアと、を配設可能に形成され、前記キャビティ形成工程の前に、前記第1金型または前記第2金型に前記モータヨークおよび前記巻線が巻回されたステータコアをセットする工程を行うことにより、前記モータヨーク、前記ステータコア、前記巻線がインサートされ樹脂モールド成形されたステータを製造することを特徴とする請求項6に記載の射出成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載の射出成型品の製造装置により製造されたモータ用ステータ。
【請求項10】
請求項8に記載の射出成型品の製造方法により製造されたモータ用ステータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−216612(P2007−216612A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42284(P2006−42284)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】
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