説明

射出成形体

【課題】卓越した射出成形性を有する架橋ゴム組成物から得られた耐傷性に優れた射出成形体の提供。
【解決手段】(A)架橋性ゴム状重合体と(B)オレフィン系樹脂とからなる架橋されたゴム組成物からなる射出成形体において、該組成物のキャピラリーレオメータによる溶融試験での溶融温度200℃、せん断速度100secー1のせん断溶融粘度η1とせん断速度10000secー1のせん断溶融粘度η2との比η1/η2が1〜80、該組成物のJIS K7210に規定する230℃、2.16kgf荷重のメルトフローレート(MFR)が10〜100g/10分、かつJIS K6251に規定する23℃の引張破断強度TB(単位:MPa)とASTM D2240に規定する23℃でのAタイプ硬度HS(単位:無次元)との比TB/HSが0.05〜0.5MPaであることを特徴とする射出成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形体に関するものである。更に詳しくは、卓越した射出成形性を有する架橋されたゴム組成物から得られた耐傷性に優れた射出成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、家電部品、自動車外装部品、住宅・建材部品等として、射出成形体が広く使用されている。しかしながら、柔らかい射出成形品は、触感は柔らかく良好であるが、機械的強度が低く、一方、硬い射出成形品は、触感(柔軟性)が不充分であり、問題となっている。このために上記特性に加えて、軽量化に対応して薄肉成形可能な優れた流動性を有する樹脂組成物から得られる射出成形体の出現が待たれている。
このようなゴム系組成物として、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)により製造されたオレフィン系エラストマー(例えば、特許文献1,2参照。)を用いる動的架橋技術が知られているが、耐傷つき性に劣るために得られた射出成形体は、必ずしも市場では満足されていない。
【0003】
一方、飽和ゴムを用いた動的架橋技術として例えば、オレフィン系共重合ゴムを主体に、水添ジエン系ゴムを補助的に使用し、更に結晶性αーオレフィン系重合体、エチレン系重合体、軟化剤を配合した動的架橋エラストマー組成物(例えば、特許文献3参照。)、ポリオレフィン系樹脂、共役ジエンー芳香族ビニル単量体のランダム共重合体またはブロック共重合体を架橋剤の存在下に溶融混合して得られた熱可塑性エラストマー組成物(例えば、特許文献4参照。)が知られている。上記組成物は成形性が劣り、また得られた射出成形体の機械的強度、耐傷つき性も必ずしも充分でないために、実用的使用に耐える射出成形体が求められている。
【特許文献1】特開平8−120127号公報
【特許文献2】特開平9−137001号公報
【特許文献3】特開平9−302156号公報
【特許文献4】特開平3−2240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような現状に鑑み、上記のような問題点のない、即ち優れた射出成形性を有する架橋ゴム組成物から得られる優れた耐傷性を有する射出成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、耐傷性に優れた射出成形体を鋭意検討した結果、特定の溶融粘度特性と強度特性を有する架橋ゴム組成物を用いることにより、驚くべきことに、該組成物の射出成形性を保持しつつ、射出成形体の耐傷性を飛躍的に向上せしめる事を見出し、本発明を完成した。
即ち本発明は、
(A)架橋性ゴム状重合体と(B)オレフィン系樹脂とからなる架橋されたゴム組成物からなる射出成形体において、該組成物のキャピラリーレオメータによる溶融試験での溶融温度200℃、せん断速度100secー1のせん断溶融粘度η1とせん断速度10000secー1のせん断溶融粘度η2との比η1/η2が1〜80、該組成物のJIS K7210に規定される230℃、2.16kgf荷重のメルトフローレート(MFR)が10〜100g/10分、かつJIS K6251に規定される23℃の引張破断強度TB(単位:MPa)とASTM D2240に規定される23℃でのAタイプ硬度HS(単位:無次元)との比TB/HSが0.05〜0.5MPaであることを特徴とする射出成形体を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の射出成形体は耐傷性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明に関して具体的に説明する。
本発明の射出成形体は、(A)架橋性ゴム状重合体と(B)オレフィン系樹脂とからなる架橋されたゴム組成物からなる。
まず射出成形性について、JIS K7210に規定される230℃、2.16kgf荷重のメルトフローレート(MFR)が10〜100g/10分であり、好ましくは20〜100g/10分、更に好ましくは30〜100g/分であり、かつキャピラリーレオメータによる溶融試験での、溶融温度200℃、せん断速度100secー1のせん断溶融粘度η1とせん断速度10000secー1のせん断溶融粘度η2との比η1/η2が1〜80であり、好ましくは1〜50であり、最も好ましくは1〜30であることが重要である。上記比が小さいほど、即ちせん断速度依存性が小さいほど射出成形の金型内のゲートとエンドでの流動特性が均一化してフローマーク等の外観不良が発生しがたい。また(B)としてプロピレン系樹脂を用いる場合は、示差走査熱量測定法(DSC法)での結晶化ピーク温度が90〜120℃であることが好ましい。上記範囲内では適度な耐熱性と固化速度のためにゲート末端でポリマーの急激な固化が抑制され、フローマー等の外観不良が発生しにくい。
【0008】
また耐傷性については、JIS K6251に規定される23℃の引張破断強度TB(単位:MPa)とASTM D2240に規定される23℃でのAタイプ硬度HS(単位:無次元)との比と相関があり、その比が0.05〜0.5MPaであり、好ましくは0.07〜0.5MPa、更に好ましくは0.09〜0.5MPa、最も好ましくは0.11〜0.5MPaである。そのためにはHSが10〜100Aの柔軟性を保持しつつ、TBが少なくとも5MPaであることが好ましく、更に好ましくは6MPa、最も好ましくは7MPaである。上記5MPaを有することにより、鋭利な刃に接触しても刃の浸入を抑制することが可能なためである。
特にエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンを含有する、メタロセン触媒を用いて製造されたエチレン・αーオレフィン共重合体(A−1)と、芳香族ビニル単量体含有量が50重量%以上、90重量%以下である、共役ジエン系単量体と芳香族ビニル単量体からなる共重合体を水素添加してなり、かつ芳香族ビニル単量体部分が主としてランダム状に結合したものである水素添加共重合体(A−2)を組み合わされた架橋性ゴム状重合体を用いる場合は、(A−1)による高度な架橋密度と(A−2)による室温近傍のガラス転移温度の相乗効果による高反発弾性により、極めて高い耐傷性が発現することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
以下に本発明の各成分について詳細に説明する。
(A)成分
本発明において、(A)架橋性ゴム状重合体は、例えば、ポリブタジエン、ポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)等のジエン系ゴム及び該ジエン系ゴムを水素添加した飽和重合体ゴム(水素添加共重合体ゴム)、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、エチレン−プロピレ共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−プロピレンン−ジエンモノマー三元共重合体(EPDM)等のエチレン・α−オレフィン共重合体等の架橋ゴムまたは非架橋ゴム、並びに上記ゴム成分を含有する熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
また(A)は、ガラス転移温度(Tg)が−10℃以下であることが好ましい。
そして、(A)の100℃で測定したムーニー粘度(ML)(ISO 289−1985(E)準拠)は、20〜150が好ましく、更に好ましくは50〜120である。
【0010】
本発明において(A)架橋性ゴム状重合体の中で好ましい。重合体の一つはエチレン・α−オレフィン共重合体であり、エチレンおよび炭素数が3〜20のα−オレフィンとの共重合体が更に好ましい。α−オレフィンとして、例えばプロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1、ウンデセン−1、ドデセン−1等が挙げられる。中でもヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1が好ましく、特に好ましくは炭素数3〜12のα−オレフィンであり、とりわけプロピレン、ブテン−1、オクテン−1が最も好ましい。
また、(A)架橋性ゴム状重合体は必要に応じて、不飽和結合を有する単量体を含有することができ、例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィン、1,4−ヘキサジエン等の非共役ジオレフィン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン誘導体等の環状ジエン化合物、及びアセチレン類が挙げられる。とりわけエチリデンノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCP)が最も好ましい。
本発明において(A)の好ましい共重合体の一つであるエチレン・α−オレフィン共重合体(以下、(A)のエチレン・α−オレフィン共重合体という。)は、公知のメタロセン系触媒を用いて製造することが好ましい。
【0011】
一般にはメタロセン系触媒は、チタン、ジルコニウム等のIV族金属のシクロペンタジエニル誘導体と助触媒からなり、重合触媒として高活性であるだけでなく、チーグラー系触媒と比較して、得られる重合体の分子量分布が狭く、共重合体中のコモノマーである炭素数3〜20のα−オレフィンの分布が均一である。
本発明において用いられる(A)のエチレン・α−オレフィン共重合体は、α−オレフィンの共重合比率が1〜60重量%であることが好ましく、更に好ましくは10〜50重量%、最も好ましくは20〜45重量%である。α−オレフィンの共重合比率は組成物の硬度、引張強度等の観点から60重量%以下が好ましく、一方、柔軟性、機械的強度の観点から1重量%以上が好ましい。
【0012】
(A)のエチレン・α−オレフィン共重合体の密度は、0.8〜0.9g/cmの範囲にあることが好ましい。この範囲の密度を有するエチレン・α−オレフィン共重合体を用いることにより、柔軟性に優れ、硬度の低い本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
本発明にて用いられる(A)のエチレン・α−オレフィン共重合体は、長鎖分岐を有していることが望ましい。長鎖分岐が存在することで、機械的強度を落とさずに、共重合されているα−オレフィンの比率(重量%)に比して、密度をより小さくすることが可能となり、低密度、低硬度、高強度のエチレン・α−オレフィン共重合体を得ることができる。長鎖分岐を有するエチレン・α−オレフィン共重合体としては、米国特許明細書第5278272号明細書等に記載されている。
【0013】
また、(A)のエチレン・α−オレフィン共重合体は、室温以上に熱天秤(DSC)の融点ピークを有することが望ましい。融点ピークを有するとき、融点以下の温度範囲では形態が安定しており、取扱い性に優れ、ベタツキも少ない。
また、本発明にて用いられる(A)のエチレン・α−オレフィン共重合体のメルトインデックスは、0.01〜100g/10分(190℃、2.16kg荷重(0.212Pa))の範囲のものが好ましく用いられ、更に好ましくは0.2〜10g/10分である。本発明の熱可塑性エラストマー組成物の架橋性の観点から100g/10分以下が好ましく、また、流動性、加工性の観点から0.01g/10分以上が好ましい。
【0014】
本発明において、(A)のもう一つの好ましい共重合体である上記水素添加共重合体は、少なくとも一種の共役ジエン系単量体の単独重合体ゴム、または共役ジエン系単量体と芳香族ビニル単量体とからなる共重合体ゴムであって、ランダム共重合体の全二重結合の水素添加率が50%以上である水素添加共重合体ゴムが好ましく、とりわけ主鎖および側鎖に二重結合を有する重合体及び/または共重合体からなる不飽和重合体ゴムの全オレフィン性二重結合の50%以上が水素添加された水素添加共重合体ゴムであることが好ましい。
上記水素添加共重合体ゴムにおいて、必要に応じて、例えば、オレフィン系、メタクリル酸エステル系、アクリル酸エステル系、不飽和ニトリル系、塩化ビニル系単量体等の共役ジエンと共重合可能な単量体(以下、共重合可能な単量体という。)を共重合することができる。
【0015】
上記共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1、3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1、3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等を挙げることができ、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンが好ましく、1,3−ブタジエン、イソプレンが最も好ましい。
また、前記芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等を挙げることができ、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。上記芳香族単量体は一種または二種以上併用することができる。芳香族ビニル単量体含有量は、0〜80重量%が好ましく、更に好ましくは0〜50重量%、最も好ましくは0〜30重量%である。
【0016】
(A)としての水素添加共重合体において、水素添加前の共役ジエン単量体部分のビニル結合は、分子内に均一に存在していても、分子鎖に沿って増減あるいは減少してもよいし、また、ビニル結合含有量の異なった、複数個のブロックを含んでいてもよい。そして、芳香族ビニル単量体および/または共重合可能な単量体を含む場合は、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体および/または共重合可能な単量体とはランダムに結合することが好ましいが、ブロック状の芳香族ビニル単量体および/またはブロック状の共重合可能な単量体を含んでもよい。ブロック状の芳香族ビニル重合体の含有率は、全芳香族ビニル単量体中の20重量%以下が好ましく、更に好ましくは10重量%以下である。
【0017】
上記水素添加共重合体ゴム中の全オレフィン性二重結合は、50%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上が水素添加され、そして主鎖の残存二重結合が5%以下、側鎖の残存二重結合が5%以下である。このような水素添加共重合体ゴムの具体例としては、ポリブタジエン、ポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系ゴムを部分的または完全に水素添加したゴム状重合体を挙げることができ、特に水素添加ブタジエン系または水素添加イソプレン系ゴムが好ましい。
このような水素添加共重合体ゴムは、上述のジエン系ゴムを公知の水素添加方法で部分水素添加することにより得られる。例えば、F.L.Ramp,etal,J.Amer.Chem.Soc.,83,4672(1961)記載のトリイソブチルボラン触媒を用いて水素添加する方法、HungYu Chen,J.Poly.Soc.Poly.LetterEd.,15,271(1977)記載のトルエンスルフォニルヒドラジドを用いて水素添加する方法、あるいは特公昭42−8704号公報に記載の有機コバルトー有機アルミニュウム系触媒あるいは有機ニッケル−有機アルミニュウム系触媒を用いて水素添加する方法等を挙げることができる。
【0018】
ここで、特に好ましい水素添加の方法は、低温、低圧の温和な条件下で水素添加が可能な触媒を用いる特開昭59−133203号、特開昭60−220147号の各公報あるいは不活性有機溶媒中にて、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウム化合物と、ナトリウム原子、カリウム原子、ルビジウム原子またはセシウム原子を有する炭化水素化合物とからなる触媒の存在下に水素と接触させる特開昭62−207303号公報に示される方法である。
また、水素添加共重合体ゴムの25℃における5重量%スチレン溶液粘度(5%SV)は、20〜300センチポイズ(cps)の範囲にあることが好ましい。特に好ましい範囲は25〜150cpsである。
【0019】
そして、水素添加共重合体ゴムは結晶性を有することが好ましく、その結晶性の指標である吸熱ピーク熱量の制御は、テトラヒドロフラン等の極性化合物の添加または重合温度の制御により行う。吸熱ピーク熱量の低下は、ゴム状重合体製造時に極性化合物を増量するか、または重合温度を低下させて、1,2−ビニル結合を増大させることにより達成される。
本発明にて用いられる(A)架橋性ゴム状重合体は、複数の種類のものを混合して用いても良い。そのような場合には、加工性のさらなる向上を図ることが可能となる。
本発明において、(A)架橋性ゴム状重合体中に占めるポリスチレン換算分子量が15万以下の該重合体の割合が30重量%以下であることが好ましく、より好ましくは25%以下、更に好ましくは20%以下、最も好ましくは15%以下、極めて好ましくは10%以下である。上記割合が30%以下の場合には架橋性が著しく高まり、機械的強度、外観、感触、耐磨耗性及び耐油性が向上する。
【0020】
本発明において(A)架橋性ゴム状重合体中に占めるポリスチレン換算分子量が15万以下の該重合体の割合を制御する方法として、分子量が15万以下の部分が30%以下になるように全体の分子量を高める方法、または分子量15万以下の部分を抽出等の操作で除去する方法、あるいは重合触媒等により選択的に分子量15万以下が生成しない重合方法等が挙げられる。
本発明において(A)のキシレン不溶分から得られた架橋度が10%以上であることが好ましく、更に好ましくは30%、最も好ましくは70%である。上記範囲内にある場合は、優れた射出成形性、柔軟性及び耐傷性が発現する。
【0021】
(B)成分
本発明において、(B)オレフィン系樹脂は、エチレン系またはプロピレン系樹脂等の炭素数2〜20であるエチレン及び/またはα−オレフィンの単独もしくは二種以上を含有する共重合樹脂であり、特にプロピレン系樹脂が好ましい。
本発明で最も好適に使用されるプロピレン系樹脂を具体的に示すと、ホモのアイソタクチックポリプロピレン、プロピレンとエチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1等の他のα−オレフィンとのアイソタクチック共重合樹脂(ブロック、ランダムを含む。)等が挙げられる。
本発明において、(B)成分の中でも、(B−1)架橋型オレフィン系樹脂であるエチレンとプロピレンとのランダム共重合樹脂等のプロピレン系ランダム共重合樹脂単独または、(B−1)と(B−2)分解型オレフィン系樹脂であるプロピレン系ブロック共重合体樹脂またはホモポリプロピレン系樹脂との組み合わせが好ましい。このような架橋型オレフィン系樹脂と分解型オレフィン系樹脂の二種のオレフィン系樹脂を組み合わせることにより、外観と機械的強度が更に向上する。
【0022】
(B−1)として、例えばエチレンとプロピレンのランダム共重合樹脂を挙げることができ、エチレン成分がポリマー主鎖中に存在する場合は、それが架橋反応の架橋点となり、架橋型オレフィン系樹脂の特性を示す。
(B−2)はα−オレフィンが主成分であり、ポリマー主鎖中にエチレン単位を含まないことが好ましい。但し、プロピレン系ブロック共重合樹脂のようにエチレン−αオレフィン共重合体が分散相として存在する場合は、分解型オレフィン系樹脂の特性を示す。
(B)は複数個の(B−1)、(B−2)成分の組み合わせでも良い。
(B−1)の中で最も好ましいプロピレンを主体としたα−オレフィンとのランダム共重合樹脂は、高圧法、スラリー法、気相法、塊状法、溶液法等で製造することができ、重合触媒としてZiegler−Natta触媒、シングルサイト、メタロセン触媒が好ましい。特に狭い組成分布、分子量分布が要求される場合には、メタロセン触媒を用いたランダム共重合法が好ましい。
【0023】
ランダム共重合樹脂の具体的製造法は、欧州特許0969043A1または米国特許5198401号明細書に開示されており、液状プロピレンを攪拌機付き反応器に導入した後に、触媒をノズルから気相または液相に添加する。次いで、エチレンガスまたはα−オレフィンを反応器の気相または液相に導入し、反応温度、反応圧力をプロピレンが還流する条件に制御する。重合速度は触媒濃度、反応温度で制御し、共重合組成はエチレンまたはα−オレフィンの添加量により制御する。
また、本発明にて好適に用いられるオレフィン系樹脂のメルトインデックスは、0.1〜100g/10分(230℃、2.16kg荷重(0.212Pa))の範囲のものが好ましく用いられる。熱可塑性エラストマー組成物の耐熱性、機械的強度の観点から100g/10分以下であることが好ましく、また、流動性、成形加工性の観点から0.1g/10分以上が好ましい。
【0024】
本発明において、(A)と(B)からなる組成物100重量部中の各成分は、(A)が1〜99重量%が好ましく、更に好ましくは10〜80重量%、最も好ましくは20〜70重量%であり、(B)が1〜99重量%が好ましく、更に好ましくは90〜20重量%、最も好ましくは80〜30重量%である。上記範囲内では、射出成形性と耐傷性のバランスが向上する。
本発明において、(A)と(B)からなる該ゴム組成物は、別個の(A)と(B)を押出機で溶融混合したものであっても良いし,また(A)と(B)を重合時に製造した重合型オレフィン系架橋性ゴム組成物であっても良い。このような重合型オレフィン系架橋性ゴム組成物は、オレフィン系ゴムの分散相とオレフィン系樹脂の連続相からなる重合法によって製造された熱可塑性エラストマーである。通常は多段重合法により製造される。
【0025】
本発明において、多段重合法とは、重合が1回で終了するのではなく、2段階以上の多段重合を行うことにより、複数の種類のポリマーを連続して製造することができる重合法を意味し、機械的な手法を用いて異種類のポリマーからなる混合樹脂を得るところの通常のポリマーブレンド法とは異なる手法である。
多段重合法によって得られるオレフィン系架橋性ゴム組成物は、反応器中で(1)ハードセグメントと、(2)ソフトセグメントとが二段階以上で多段重合されてなる共重合体である。(1)ハードセグメントとしては、プロピレン単独重合体ブロックや、あるいはプロピレンとα−オレフィンとの共重合体ブロックが代表的であり、例えばプロピレン/エチレン、プロピレン/1−ブテン、プロピレン/エチレン/1−ブテン等の二元または三元共重合体ブロックが挙げられる。また(2)ソフトセグメントとしては、エチレン単独重合体ブロックおよびエチレンとα−オレフィンとの共重合体ブロックが代表的であり、例えばエチレン/プロピレン、エチレン/1−ブテン、エチレン/プロピレン/1−ブテン等の二元または三元共重合体ブロックが挙げられる。
【0026】
(C)成分
本発明の組成物は、(C)架橋剤で架橋されることが好ましい。(C)架橋剤は、(C−1)架橋開始剤を必須成分とし、必要に応じて(C−2)多官能単量体、(C−3)単官能単量体を含有する。上記(C)架橋剤は、(A)と(B)の合計100重量部に対し0.001〜10重量部、好ましくは0.005〜3重量部の量で用いられる。上記範囲内では架橋のレベルが高まり、組成物の粉体流動性と機械的強度のバランスが向上する。
ここで、(C−1)架橋開始剤は、有機過酸化物、有機アゾ化合物等のラジカル開始剤等が挙げられる。その具体的な例として、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート等のパーオキシケタール類;ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンおよび2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類が挙げられる。
【0027】
また、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドおよびm−トリオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウリレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、およびクミルパーオキシオクテート等のパーオキシエステル類が挙げられる。
【0028】
また、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイドおよび1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類を挙げることができる。
これらの化合物の中では、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンおよび2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3が好ましい。
【0029】
上記(C−1)は、(C)成分中で好ましくは1〜80重量%、更に好ましくは10〜50重量%の量が用いられる。架橋性の観点から1重量%以上が好ましく、機械的強度の観点から80重量%以下が好ましい。
本発明において、(C)架橋剤に必要に応じて含まれる(C−2)多官能単量体は、官能基としてラジカル重合性の官能基が好ましく、とりわけビニル基が好ましい。官能基の数は2以上であるが、(C−3)との組み合わせで特に3個以上の官能基を有する場合には有効である。具体例としては、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ダイアセトンジアクリルアミド、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジイソプロペニルベンゼン、P−キノンジオキシム、P,P’−ジベンゾイルキノンジオキシム、フェニルマレイミド、アリルメタクリレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、1,2−ポリブタジエン等が好ましく用いられる。特にトリアリルイソシアヌレートが好ましい。これらの多官能単量体は複数のものを併用して用いてもよい。
【0030】
上記(C−2)は、(C)成分中で好ましくは1〜80重量%、更に好ましくは10〜50重量%の量が用いられる。架橋性の観点から1重量%以上が好ましく、機械的強度の観点から80重量%以下が好ましい。
本発明において用いられる前記(C−3)は、架橋反応速度を制御するために加えるビニル系単量体であり、ラジカル重合性のビニル系単量体が好ましく、芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体、アクリル酸エステル単量体、メタクリル酸エステル単量体等のエステル系単量体、アクリル酸単量体、メタクリル酸単量体等の不飽和カルボン酸単量体、無水マレイン酸単量体等の不飽和カルボン酸無水物、N−置換マレイミド単量体等を挙げることができる。
【0031】
上記(C−3)は、(C)成分中で好ましくは1〜80重量%、更に好ましくは10〜50重量%の量が用いられる。架橋性の観点から1重量%以上が好ましく、機械的強度の観点から80重量%が好ましい。
本発明において、最も好ましい(C)架橋剤の組み合わせについては、架橋開始剤として、日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(商品名パーヘキサ25B)または日本油脂社製、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシンー3と、多官能単量体として、日本化成(株)製、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)との組み合わせが、機械的強度、後述の軟化剤が存在するときの軟化剤の保持性が優れている。
【0032】
(D)成分
本発明において、必要に応じ、軟化剤、250℃で溶融しない粉末状化合物、ポリオルガノシロキサン、スチレン系熱可塑性エラストマーおよび樹脂系ワックス(D)から選ばれる剤を含有することができる。
上記軟化剤は、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系などの炭化水素からなるプロセスオイルが好ましい。とりわけ、パラフィン系炭化水素主体またはゴムとの相容性の観点からナフテン系炭化水素主体のプロセスオイルが好ましい。熱・光安定性の観点から、プロセスオイル中の芳香族系炭化水素の含有量については、ASTM D2140−97規定の炭素数比率で10%以下であることが好ましく、更に好ましくは5%以下、最も好ましくは1%以下である。
これらの軟化剤は、(A)と(B)の合計100重量部に対して、5〜500重量部、好ましくは10〜150重量部用いる。上記範囲内では射出成形性、柔軟性と耐ブリード性のバランスが優れる。
【0033】
本発明において、必要に応じて添加可能な(D)250℃で溶融しない粉末状化合物は、有機系、無機系を問わない。具体例として、有機系として、脂肪酸の金属塩等の有機酸金属塩、結晶核剤として用いられるリン酸2、2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウム、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール等を挙げることができる。 また上記無機系の具体例として、酸化亜鉛、アルミナ(酸化アルミニウム)、ケイ酸アルミニウム、シリカ(酸化ケイ素)、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化バリウム、二酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン等の単体または、それらの複合体(合金)、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、ゼオライト、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化ジルコニウム、酸化スズの水和物等の無機金属化合物の水和物、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、クレー、マイカ、タルク等を挙げることができ、中でも板状フィラーが好ましく、タルク、マイカ、カオリンが特に好ましい。
【0034】
上記粉末状化合物の量は、(A)と(B)との合計100重量部に対して、0.1〜200重量部が好ましく、更に好ましくは1〜150重量部、最も好ましくは5〜100重量部、極めて好ましくは5〜50重量部である。
本発明において、必要に応じて添加可能な(D)ポリオルガノシロキサンは、耐磨耗性を改良するための成分であり、JIS−K2410規定の25℃における動粘度が5000センチストークス(5×10−3/sec)以上であることが好ましい。
上記ポリオルガノシロキサンは、粘調な水飴状からガム状の様態であり、アルキル、ビニル及び/またはアリール基置換シロキサン単位を含むポリマーであれば特に制約されない。その中でもポリジメチルシロキサンが最も好ましい。
【0035】
本発明に用いられるポリオルガノシロキサンの動粘度(25℃)は、5000CS(5×10−3/sec)以上であり、更に好ましくは、1万CS(1×10−3/sec)以上1000万(10m/sec)未満、最も好ましくは5万CS(0.05m/sec)以上200万(2m/sec)未満である。
本発明において、ポリオルガノシロキサンの添加量は、(A)と(B)との合計100重量部に対して、0.01〜20重量部であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜10重量部、最も好ましくは0.5〜5重量部である。
本発明において、必要に応じて添加可能な(D)スチレン系エラストマーは、芳香族ビニル単位と共役ジエン単位からなるブロック共重合体であり、更に好ましくは、上記共役ジエン単位部分が部分的に水素添加またはエポキシ変性されたブロック共重合体である。
【0036】
上記ブロック共重合体を構成する芳香族ビニル単量体は、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、p−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、2,4,5−トリブロモスチレン等であり、スチレンが最も好ましいが、スチレンを主体に上記他の芳香族ビニル単量体を共重合してもよい。
また、上記ブロック共重合体を構成する共役ジエン単量体は、1,3−ブタジエン、イソプレン等を挙げることができる。
そして、ブロック共重合体のブロック構造は、芳香族ビニル単位からなる重合体ブロックをSで表示し、共役ジエン及び/またはその部分的に水素添加された単位からなる重合体ブロックをBで表示する場合、SB、S(BS)、(但し、nは1〜3の整数)、S(BSB)、(但し、nは1〜2の整数)のリニアーブロック共重合体や、(SB)X(但し、nは3〜6の整数。Xは四塩化ケイ素、四塩化スズ、ポリエポキシ化合物等のカップリング剤残基。)で示され、B部分を結合中心とする星状(スター)ブロック共重合体であることが好ましい。なかでもSBの2型、SBSの3型、SBSBの4型のリニアーブロック共重合体が好ましい。
【0037】
上記スチレン系エラストマーの量は、(A)と(B)との合計100重量部に対して、1〜100重量部が好ましく、更に好ましくは1〜50重量部、最も好ましくは1〜30重量部、極めて好ましくは1〜20重量部である。
本発明において、必要に応じて添加可能な(D)樹脂系ワックスは、低分子量の熱可塑性樹脂であり、オレフィン系ワックスの場合は、前記(B)とは分子量の点で異なる。(D)の分子量に関して、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により算出される重量平均分子量(Mw)が3000〜20000であり、好ましくは3000〜15000であり、更に好ましくは5000〜10000であり、数平均分子量(Mn)が500〜10000であり、好ましくは500〜8000であり、更に好ましくは1000〜5000である。
【0038】
本発明における(D)樹脂系ワックスの中でもオレフィン系ワックスが好ましく、例えばエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンを含有する。そして、特に好ましくは、チタン、ジルコニウム等のIV族金属のシクロペンタジエニル誘導体と助触媒からなるメタロセン触媒により製造されたオレフィン系ワックスは、分子量分布が狭いだけでなく、共重合体の場合には、コモノマーである炭素数3〜20のα−オレフィンの分布が均一であるためにベタツキや悪臭が少ない。
本発明において、必要に応じて(B)以外の熱可塑性樹脂を含有することができ、とくに制限はないが、たとえば、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリフェニレンエーテル系、ポリ塩化ビニル系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリカーボネート系、ポリメタクリレート系等の単独もしくは二種以上を混合したものを使用することができる。
【0039】
また、本発明において、その特徴を損ねない程度にその他の無機フィラー、可塑剤、有機・無機顔料、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、シリコンオイル、発泡剤、帯電防止剤、抗菌剤を含有することが可能である。
本発明において、射出成形性の支配因子として重要な要件として、MFRとキャピラリーレオメータによる溶融試験での溶融温度200℃、せん断速度100secー1のせん断溶融粘度η1とせん断速度10000secー1のせん断溶融粘度η2との比η1/η2が重要である。上記両因子は、(C)架橋剤の量、反応条件、添加方法により制御される。
【0040】
特に(C)の中の(C−1)架橋開始剤としての有機過酸化物は(A)の架橋反応のための成分であると同時に、(B)を分解させて溶融粘度を低下させ、射出成形性を向上させる成分でもあり、(C−1)成分として好ましい。MFRを向上させるためには、上記(C−1)の添加量を増大させたり、高温で反応させたり、初期に全量添加することにより達成することができる。しかし、過剰の(C−1)成分は(B)の分子量低下を促進し、組成物の機械的強度、特に引張破断強度を低下させる。そのために(C−1)の添加方法として、分割添加がMFRと引張破断強度とのバランスに優れているので好ましい。一方、上記比η1/η2は、せん断速度依存性の尺度であり,小さいほうが優れた射出成形性を示す。
【0041】
上記比の制御は、(A)と(B)の溶融粘度比、(C−1)架橋開始剤、架橋助剤の種類、添加量、反応温度、反応方式により行われる。上記比を低下させるためには、高せん断力下で、かつ架橋速度を抑制することが重要である。具体的には、200℃、せん断速度1000 1/secでの(A)と(B)の溶融粘度比ηA/ηBが0.5〜5の範囲になる組み合わせを選定し、かつ架橋開始剤または架橋助剤を減量し、かつ架橋開始剤の分解温度以上の、できるだけ低温・長時間反応を行うことにより達成される。そのためには、(C−1)の分割添加も有効であり、その上、(A)中の(A−2)の比率が多いほうが更に上記比が小さくなる。上述の原理は明確になってはいないが、(A)の分散性が向上し、連続相の(B)の流動性を阻害しないことが予想される。
【0042】
射出成形性向上のためには、(B)の固化速度を緩慢にする必要がある。緩慢な固化速度によりゲート末端でポリマーの急激な固化が抑制され、フローマー等の外観不良が抑制される。(B)の固化速度の尺度として、示差走査熱量測定法(DSC法)での結晶化ピーク温度が用いられ、その制御は、結晶性の異なるオレフィン系樹脂を用いて本願組成物を製造する方法、または結晶性の低いオレフィン系樹脂に対して結晶性向上剤を添加して本願組成物を製造する方法等があり、制御方法は制限されない。
本発明の組成物の製造には、通常の樹脂組成物、エラストマー組成物の製造に用いられるバンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、2軸押出機等の一般的な方法を採用することが可能である。とりわけ効率的に動的架橋を達成するためには2軸押出機が好ましく用いられる。2軸押出機は、(A)と(B)とを均一かつ微細に分散させ、さらに他の成分を添加させて、架橋反応を生じせしめ、本発明の組成物を連続的に製造するのに、より適している。
【0043】
本発明の組成物は、好適な具体例として、次のような加工工程を経由して製造することができる。すなわち、(A)((A−1)および(A−2))と(B)とをよく混合し、押出機のホッパーに投入する。この際(A−1)と(A−2)を押し出し機に同時に添加し、溶融混練することが好ましい。(C)を、(A)と(B)とともに当初から添加してもよいし、押出機の途中から添加してもよい。またオイルを押出機の途中から添加してもよいし、当初と途中とに分けて添加してもよい。(A)と(B)の一部を押出機の途中から添加してもよい。押出機内で加熱溶融し混練される際に、前記(A)と(C)とが架橋反応し、さらに(D)軟化剤を添加して溶融混練することにより架橋反応と混練分散とを充分させたのち押出機から取り出すことにより、本発明の組成物のペレットを得ることができる。
【0044】
また特に好ましい溶融押出法としては、原料添加部を基点としてダイ方向に長さLを有し、かつL/Dが5から100(但しDはバレル直径)である二軸押出機を用いる場合である。二軸押出機は、その先端部からの距離を異にするメインフィード部とサイドフィード部の複数箇所の供給用部を有し、複数の上記供給用部の間及び上記先端部と上記先端部から近い距離の供給用部との間にニーディング部分を有し、上記ニーディング部分の長さが、それぞれ3D〜10Dであることが好ましい。
また本発明において用いられる製造装置の一つの二軸押出機は、二軸同方向回転押出機でも、二軸異方向回転押出機でもよい。また、スクリューの噛み合わせについては、非噛み合わせ型、部分噛み合わせ型、完全噛み合わせ型があり、いずれの型でもよい。低いせん断力をかけて低温で均一な樹脂を得る場合には、異方向回転・部分噛み合わせ型スクリューが好ましい。やや大きい混練を要する場合には、同方向回転・完全噛み合わせ型スクリューが好ましい。さらに大きい混練を要する場合には、同方向回転・完全噛み合わせ型スクリューが好ましい。
本発明の組成物の最も好ましい製造法は、(A)と(B)とを溶融混合後、(C)により架橋する方法である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、これら実施例および比較例において、各種物性の評価に用いた試験法は以下の通りである。
1.溶融試験
キャピラリーメーターとして、東洋精機製作所製キャピログラフ1C・3Aを用いて、溶融ポリマーのキャピラリーフローテストを行う。
下記の条件を一定にし、せん断速度を変化させて、せん断溶融粘度を測定する。
ランド長10mm、オリフィス孔径1mm、溶融温度200℃、
2. 結晶化温度、結晶化ピーク熱量
示差走査熱量測定法(DSC法)により測定した。具体的には、日本国(株)マックサイエンス(MAK SCIENCE)製、熱分析装置システムWS002を用いて、10mg試料を窒素気流下、室温から10℃/分で昇温し、100℃に到達した後に、直ちに10℃/分でー100℃まで降温し、この段階で検出された結晶化ピークから、本願では結晶化温度及び結晶化ピーク熱量を求めた。
ここで、結晶化温度はピークトップ温度(℃)であり、結晶化ピーク熱量(J/g)は、ベースラインに対して変化した熱量変化を示す曲線に囲まれたピーク面積から算出した。上記曲線はブロードな曲線または鋭利な曲線のいずれをも含む。また、ピークトップ温度とは、ベースラインと平行に直線を引き、熱量変化を示す曲線との接線との交点を言う。
【0046】
3.引張破断強度[MPa]
JIS K6251に準じ、23℃にて評価する。
4.柔軟性
ASTM D2240に準じ、23℃でのAタイプ硬度にて評価する。
5.メルトフローレート(MFR)
JIS K7210に準じ、230℃、2.16kgf荷重の条件にて評価する。
6.成形評価
幅10cm、流れ方向の長さ40cm、厚さ1mmの平面板状の金型を有する、型締め力350トンの市販の射出成形機を用いる。シリンダー温度と金型温度はそれぞれ200℃,50℃であり、射出圧力及び射出速度はそれぞれ装置の能力の90%、70%に設定し、組成物を射出成形する。射出成形性の評価は成形体の外観評価により行う。
◎ 極めて良好。
○ 良好
△ 良好であるが、少しフローマークが目立つ
× 完全充填されていなかったり、フローマーク等の外観不良が目立つ
尚、○△等のように二つの記号が併用されている場合は、その中間を示す。
【0047】
7.耐傷つき性
先端が長さ10mm、幅1mmの長方形で、重さが600gのくさびを高さ5cmからシートに落下させてできた、シートの傷を目視で以下の基準で評価を行なう。
◎ 極めて良好
○ 良好
△ 良好であるが、傷が目立つ
× 傷つきが著しい
尚、○△等のように二つの記号が併用されている場合は、その中間を示す。
また同時にシートの傷をレーザー光で走査して傷深さを測定する。
8.架橋度
(A)の重量W0を測定した後に、組成物をキシレン200ml中で20時間リフラックスさせ、溶液をフィルターで濾過し、膨潤組成物の重量(W1)を測定する。次いで、上記膨潤組成物を100℃で真空乾燥後、再度重量(W2)を測定する。このようにして架橋度は、以下のように算出される。
架橋度=(W2/W0 )×100 (%)
【0048】
実施例、比較例で用いる各成分は以下のものを用いる。
(A)架橋性ゴム状重合体
1)エチレン・α−オレフィン共重合体
a)エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン(ENB)共重合体(TPE−1)
特開平3−163088号公報に記載のメタロセン触媒を用いた方法により製造する。共重合体のエチレン/プロピレン/ENBの組成比は、72/24/4(重量比)であり、ムーニー粘度は100である。(TPE−1と称する)
b)エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン(ENB)共重合体(TPE−2)通常のチーグラー触媒を用いた方法により製造する。共重合体のエチレン/プロピレン/ENBの組成比は、72/24/4(重量比)であり、ムーニー粘度は105である。(TPE−2と称する)
c)エチレンとオクテン−1との共重合体(TPE−3)
特開平3−163088号公報に記載のメタロセン触媒を用いた方法により製造した。共重合体のエチレン/オクテン−1の組成比は、72/28(重量比)であり、ムーニー粘度は100である。(TPE−3と称する)
【0049】
2)水素添加共役ジエン系ゴム
a)水素添加ブタジエン重合体
WO01/48079号公報に記載の方法に基づき、ブタジエン重合体を水素添加することにより製造する。ムーニー粘度は100である。(H−BRと称する)
b)水素添加スチレン・ブタジエン共重合体
WO01/48079号公報に記載の方法に基づき、スチレン・ブタジエン共重合体を水素添加することにより製造する。前駆体の共重合体のスチレン/ブタジエンの組成比は、70/30(重量比)であり、ムーニー粘度は100である。(H−SBRと称する)
【0050】
(B)オレフィン系樹脂
(1)ポリプロピレン
アイソタクチックホモポリプロピレン(PP1と称する) MFR:0.5g/10分(230℃、2.16kg荷重)、結晶化ピーク温度が105℃
アイソタクチックブロックポリプロピレン(PP2と称する) MFR:0.5g/10分(230℃、2.16kg荷重)、結晶化ピーク温度が125℃
(C)架橋剤
1)架橋開始剤(C−1)
2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(POXと称する)
2)多官能単量体(C−2)
トリアリルイソシアヌレート(TAICと称する)
【0051】
(D)分散剤
1)軟化剤
パラフィン系オイル(MOと称する)
2)粉末状化合物
市販の炭酸カルシウム(CAと称する)とタルク(TLと称する)
3)スチレン系エラストマー
市販のSEBS(S/EB=20/80重量比)、SEPS(S/EP=60/30重量比)但し、S:スチレンブロック;EB:エチレン・ブチレンブロック);EP:エチレン・プロピレンブロックを示す。
4)ポリプロピレン系ワックス
公知のメタロセン触媒を用いた方法により製造する。エチレン/プロピレン重量比は10/90であり、重量平均分子量(Mw)が6000あり、数平均分子量(Mn)が4000である。(WAXと称する)
【0052】
[実施例1〜15および比較例1〜2]
押出機として、バレル中央部に注入口を有した2軸押出機(シリンダー内径(D)=40、スクリュー長さ(L)とした時の(L/D)=50)を用いる。スクリューとしては注入口の前後に混練部を有した2条スクリューを用いる。
表1に記載の組成において、(A)と(B)をまず二軸押出機の前段で溶融した後に、(C)及び(D)をサイドフィーダーからフィードして、シリンダー温度160℃、回転数300rpm、吐出量 50kg/時間の条件で溶融押出を行なう。尚、MFR及び比η1/η2の制御は、上記条件(実施例1)を標準条件とし、温度、回転数、添加方法等を前記製造法の手法に従って変更することにより行う。
このようにして得られた組成物を通常の射出成形機で2mm厚さの試験片を作製し評価する。その結果を表1、2に示した。
表1、2によると、比η1/η2とMFRは成形性の指標であり、比TB/HSが耐傷性の指標であり、本願の規定内にあるときは架橋ゴム組成物は極めて高い射出成形性を有し、得られた射出成形体は優れた耐傷性を有することが分かる。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の射出成形体は、自動車用部品、自動車用内装材、エアバッグカバー、機械部品、電気部品、ケーブル、ホース、ベルト、玩具、雑貨、日用品、建材、シート、フィルム等を始めとする用途に幅広く使用可能であり、産業界に果たす役割は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)架橋性ゴム状重合体と(B)オレフィン系樹脂とからなる架橋されたゴム組成物からなる射出成形体において、該組成物のキャピラリーレオメータによる溶融試験での溶融温度200℃、せん断速度100secー1のせん断溶融粘度η1とせん断速度10000secー1のせん断溶融粘度η2との比η1/η2が1〜80、該組成物のJIS K7210に規定される230℃、2.16kgf荷重のメルトフローレート(MFR)が10〜100g/10分、かつJIS K6251に規定される23℃の引張破断強度TB(単位:MPa)とASTM D2240に規定される23℃でのAタイプ硬度HS(単位:無次元)との比TB/HSが0.05〜0.5MPaであることを特徴とする射出成形体。
【請求項2】
(A)が、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンを含有するメタロセン触媒を用いて製造されたエチレン・αーオレフィン共重合体(A−1)、または主鎖および側鎖に二重結合を有する単独重合体及び/または共重合体からなる不飽和ゴムの全オレフィン性二重結合の50%以上が水素添加された水素添加ゴム(A−2)から選ばれる一種以上の架橋性ゴム状重合体である請求項1に記載の射出成形体。
【請求項3】
(A)が、(A−1)と(A−2)からなり、(A−2)が芳香族ビニル単量体含有量50重量%以上90重量%以下で、共役ジエン系単量体と芳香族ビニル単量体からなる共重合体を水素添加してなり、かつ芳香族ビニル単量体部分が主としてランダム状に結合したものである水素添加共重合体である請求項2に記載の射出成形体。
【請求項4】
(B)が、プロピレン系樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の射出成形体。
【請求項5】
(B)の示差走査熱量測定法(DSC法)での結晶化ピーク温度が、90〜120℃である請求項4に記載の射出成形体。
【請求項6】
架橋剤(C)により架橋してなる請求項1〜5のいずれかに記載の射出成形体。
【請求項7】
更に、軟化剤、250℃で溶融しない粉末状化合物、ポリオルガノシロキサン、スチレン系熱可塑性エラストマーおよび樹脂系ワックスから選ばれる剤(D)を含有した請求項1〜6のいずれかに記載の射出成形体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の架橋されたゴム組成物からなる表皮材料。

【公開番号】特開2006−206673(P2006−206673A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18095(P2005−18095)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】