説明

射出成形方法および射出成形装置

【課題】キャビティ内へ吐出する溶融樹脂の吐出量および圧力を最適とすることにより、成形不良の発生を防止し、品質の高い成形品を安定して生産することができる射出成形方法および射出成形装置を提供する。
【解決手段】射出成形装置1は、射出スクリュー21により溶融樹脂を射出し、バルブゲート32、33を介して、キャビティ31に射出充填する構成を有する。射出成形装置1は、バルブゲート32、33の開度を調整するゲートピン34、35と、ゲートピン34、35の進退位置を制御するゲートピン駆動部38と、射出スクリュー21の前進位置を検出するスクリュー位置センサ22と、条件マップ6を基に目標進退位置を算出するコントローラ5とを有する。射出成形装置1は、ゲートピン駆動部38により、ゲートピン34、35の進退位置が常に目標進退位置に近づくように各ゲートピン34、35の進退位置を位置制御する構成を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のバルブゲートを有する金型のキャビディへ溶融樹脂を充填する射出成形方法および射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のバンパーのような大型の樹脂製品においては、軽量化およびコスト低減の観点から、製品の薄肉化が実施されている。この場合には、キャビティが狭くなることにより該キャビティ内を流動する溶融樹脂の流動抵抗が増大し、製品の成形不良が生じやすい傾向にある。この対策としては、一つのキャビティに対して複数のバルブゲートを配設し、各バルブゲート内に備えたゲートピンを制御することにより溶融樹脂の射出制御を行う方法が知られている。
【0003】
上記ゲートピンの制御による溶融樹脂の射出制御の方法はいくつか知られている。
その第1の方法は、射出スクリューの位置情報に基づいて、上記ゲートピンを全開位置もしくは全閉位置へと移動することにより、バルブゲートの開閉を制御し溶融樹脂の射出制御を行う方法である(特許文献1参照)。
【0004】
第2の方法は、バルブゲート内に溶融樹脂の圧力値を検出する圧力センサを備え、バルブゲート内における圧力が目標値に近づくように、ゲートピンを移動し上記バルブゲートの開度を制御する方法である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000−515450号公報
【特許文献2】特表2003−522654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の第1および第2の方法にはいずれも次の問題点がある。
第1の方法においては、バルブゲートの開閉を全開もしくは全閉にて制御をしており、上記バルブゲートの開度調整を行うことはできない。そのため、上記バルブゲートからキャビティ内へ吐出する溶融樹脂の吐出量は、上記バルブゲートの開閉によりゼロまたは最大のいずれかとなる。
ここで、複数のバルブゲートを設けた金型においては、一つの流路を複数の経路に分岐することにより、各バルブゲートへと溶融樹脂を分配している。そのため、関連するバルブゲートの開閉により、上記のごとく各バルブゲートへ分配される溶融樹脂の流入量に変化が生じた場合には、各バルブゲートから吐出される溶融樹脂の吐出量に影響を及ぼすゲート間相互作用が発生する。
【0007】
それゆえ、第1の方法においては、バルブゲートを全開もしくは全閉する開閉制御と、関連するバルブゲートの開閉により発生する上記ゲート間相互作用との影響により、各バルブゲートからキャビティ内へ吐出する溶融樹脂の吐出量に大きな変化が生じることとなる。
その結果、キャビティ内には、圧力不均一や溶融樹脂の流れ不良等が発生し、成形品の面ひずみ、バリおよびフローマークといった形状および外観上の不良が発生する。
【0008】
第2の方法においては、バルブゲート内の圧力を制御することにより、第1の方法に比べキャビティ内へ吐出する溶融樹脂の吐出量の変化は大幅に改善される。しかし、制御精度が高いとは言えず、上記ゲート間相互作用の影響も解消することはできないことから、高い成形品質を要求される場合においては、第1の方法と同様の成形不良が発生する場合がある。
また第2の方法では、圧力センサをバルブゲート内に設ける必要があるため、金型の構造は複雑となり、圧力センサは耐熱性および耐久性を要求される。そのため、金型および圧力センサにかかる費用が高額となり、メンテナンス性も悪化する。
したがって、これらの問題を発生させることなく、キャビティ内へ吐出する溶融樹脂の吐出量および圧力を安定させ、成形不良の発生を防止することができる射出成形方法および射出成形装置が強く望まれている。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、キャビティ内へ吐出する溶融樹脂の吐出量および圧力を最適とすることにより、成形不良の発生を防止し、品質の高い成形品を安定して生産することができる射出成形方法および射出成形装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、射出スクリューから射出した溶融樹脂を複数の経路に分岐し、複数のバルブゲートを介して1または複数のキャビティに射出充填する射出成形方法において、
上記バルブゲート内には、進退することにより該バルブゲートの開度を調整するゲートピンを設け、
上記射出スクリューの前進移動により溶融樹脂を射出する際の上記射出スクリューの前進位置をスクリュー位置情報として検出し、
上記射出スクリューの前進位置に対して、上記各ゲートピンの最適な進退位置を予め定めた条件マップを用いて、上記スクリュー位置情報に対する上記各ゲートピンの最適な進退位置である目標進退位置を求め、
上記各ゲートピンの進退位置を、常に上記目標進退位置に近づくように位置制御することを特徴とする射出成形方法にある(請求項1)。
【0011】
第2の発明は、射出スクリューから射出した溶融樹脂を複数の経路に分岐し、経路毎に設けたバルブゲートを介して、1または複数のキャビティに射出充填する射出成形装置において、
該射出成形装置は、上記バルブゲート内を進退することにより該バルブゲートの開度を調整するゲートピンと、
該ゲートピンの進退位置を制御するゲートピン駆動部と、
上記射出スクリューの前進移動により溶融樹脂を射出する際の上記射出スクリューの前進位置を検出し、スクリュー位置情報として出力するスクリュー位置センサと、
上記射出スクリューの前進位置に対して、上記各ゲートピンの最適な進退位置を予め定めた条件マップを記憶し、該条件マップを用いて上記スクリュー位置情報に対する上記各ゲートピンの最適な進退位置である目標進退位置を出力するコントローラとを有し、
上記ゲートピン駆動部は、常に上記目標進退位置に近づくように上記各ゲートピンの進退位置を位置制御するように構成したことを特徴とする射出成形装置にある(請求項3)。
【発明の効果】
【0012】
次に上記の第1および第2の発明の作用効果を説明する。
第1の発明の射出成形方法においては、射出スクリューの前進位置に対する各ゲートピンの最適な進退位置を定めた条件マップを用いて、上記スクリュー位置情報に対する上記各ゲートピンの目標進退位置を求め、上記各ゲートピンを目標進退位置に近づくように位置制御する。
【0013】
上記射出スクリューによって射出され、各バルブゲートへと供給される溶融樹脂の積算量は、上記射出スクリューの前進移動量により決まる。ここで、上記複数のバルブゲートを有する場合には、上記射出スクリューが射出した溶融樹脂の積算量に応じて各バルブゲートの開度を調整することにより、最適な吐出量に制御することが成形品質の向上につながる。
【0014】
本発明の射出成形方法では、上記射出スクリューの前進位置に対して上記各ゲートピンの最適な進退位置を定める。つまり、上記射出スクリューにより射出され、上記各バルブゲートへと供給される溶融樹脂の積算量は、上記射出スクリューの前進位置に置き換えて把握し、上記各バルブゲートから上記キャビティへ吐出する溶融樹脂の吐出量は、上記バルブゲートの開度に直接関わる上記ゲートピンの進退位置に置き換えて制御する。このように位置制御を採用することにより、圧力や流量を直接制御する場合よりも、制御精度を格段に高めることができ、上記バルブゲートからキャビティ内へ吐出する溶融樹脂の吐出量を容易に最適なものとすることができる。
【0015】
また、本発明の射出成形方法においては、上記条件マップに、上記射出スクリューの前進位置に対して上記各ゲートピンの進退位置を予め定めてある。そのため、上記条件マップを作成する際に、上記ゲート間相互作用の影響を見込み、その影響を除去するようにゲートピンの最適な進退位置を定めることができる。これにより、上記ゲートピンの最適な進退位置を定めた上記条件マップを用いた上記射出成形方法においては、上記ゲート間相互作用の影響を軽減することができる。
【0016】
第2の発明の射出成形装置においては、少なくとも、上記ゲートピン、上記ゲートピン駆動部、上記スクリュー位置センサ、及び上記条件マップを記憶した上記コントローラを備えている。これにより、上記の優れた射出成形方法を確実に実施することができる。
【0017】
上記の第1および第2の発明によれば、各バルブゲートからキャビティ内へ吐出する溶融樹脂の吐出量および圧力を最適とすることにより、成形不良の発生を防止し、品質の高い成形品を安定して生産することができる射出成形方法および射出成形装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1における、射出成形装置の構成を一部断面で示した正面図。
【図2】実施例1における、金型ユニットの断面図。
【図3】実施例1における、バルブゲートの縦方向断面図。
【図4】実施例1における、ゲートピンの要部拡大断面図。
【図5】実施例1における、ゲートピン駆動部の断面図。
【図6】実施例1における、条件マップに記載された射出スクリューの進退位置に対して定めた各ゲートピンの位置を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の発明および第2の発明においてバルブゲートおよびゲートピンの先端側とは、上記バルブゲートに配設した吐出口側をいい、その反対側をバルブゲートおよびゲートピンの基端側というものとする。また、スクリューの先端側とは、キャビティ側をいい、その反対側をスクリューの基端側というものとする。
【0020】
第1の発明においては、さらに、上記各ゲートピンの進退位置をピン位置情報として検出し、上記位置制御は上記ピン位置情報と上記目標進退位置とを用いたフィードバック制御により行うことが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記ピン位置情報と上記目標進退位置とを比較し、上記ゲートピンの進退位置を上記目標進退位置へと補正する制御を連続して行う。それゆえ、上記ゲートピンの進退位置をより正確に上記目標進退位置へ近付けることができる。
【0021】
第2の発明においては、上記射出成形装置は、さらに、上記各ゲートピンの進退位置を検出してピン位置情報として出力するピン位置センサを有し、上記位置制御は上記ピン位置情報と上記目標進退位置とを用いたフィードバック制御により行うよう構成されていることが好ましい(請求項4)。
この場合には、第2の発明の構成に加え、上記ピン位置センサを備えている。これにより、上記フィードバック制御を用いた上記射出成形方法を確実に実施することができる。
【0022】
第2の発明において、上記バルブゲートの吐出口側を先端側とし、その反対側を基端側としたとき、上記ピン位置センサは、上記バルブゲートへ溶融樹脂を供給する流路をなす分岐ランナーの配設位置よりも基端側の位置に配設されている。
そのため、上記ピン位置センサを上記キャビティを有する金型の外側に露出した位置に配設することができる。したがって、上記金型の内部に上記ピン位置センサを配設した場合に比べ、型構造が複雑にならない。
【0023】
また、上記ピン位置センサは、溶融樹脂と接することがないため、耐熱性および耐久性を考慮する必要がなくなる。それゆえ、上記金型および上記ピン位置センサにかかる費用を低減することができる。また、上記ピン位置センサを、上記金型の外側に露出させることができる。そのため、上記金型を分解することなく、組み付け、整備を行うことができ、メンテナンス性を改善することができる。
【0024】
また、本例の自動車用バンパーのように、大型で、かつ薄肉の成形品においては、従来の射出成形方法では、意匠面の面ひずみや、固定金型40と可動金型41との型割れ部にバリ等の不具合が発生しやすい傾向にある。すなわち、バルブゲートからキャビティ内に吐出される溶融樹脂の吐出量および圧力の制御精度が低く、キャビティ内における平均内圧が不均一となることが原因である。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明の射出成形装置及び射出成形方法により自動車用バンパーを成形した実施例について、図1〜図6を用いて説明する。
(実施例1)
本例の射出成形装置1は、図1〜図3に示すように、射出スクリュー21から射出した溶融樹脂を複数の経路に分岐し、経路毎に設けたバルブゲート32、33を介して、1つのキャビティ31に射出充填するよう構成してある。
【0026】
上記射出成形装置1は、図2に示すように、上記バルブゲート32、33内を進退することによりバルブゲート32、33の開度を調整するゲートピン34、35と、ゲートピン34、35の進退位置を制御するゲートピン駆動部38とを有する。また、図1に示すように、射出成形機1は、射出スクリュー21の前進移動により溶融樹脂を射出する際の射出スクリュー21の前進位置を検出し、スクリュー位置情報として出力するスクリュー位置センサ22と、射出スクリュー21の前進位置に対して、ゲートピン34、35の最適な進退位置を予め定めた条件マップ6を記憶し、条件マップ6を用いてスクリュー位置情報に対するゲートピン34、35の最適な進退位置である目標進退位置を出力するコントローラ5とを有する。
上記ゲートピン駆動部38は、常に上記目標進退位置に近づくようにゲートピン34、35の進退位置を位置制御する構成を有している。
【0027】
以下、詳説する。
射出成形装置1は、図1に示すように溶融樹脂を射出する射出ユニット2と、溶融樹脂を充填する金型ユニット3と、成形に関する条件の入力、射出ユニット2および金型ユニット3の制御を行うコントローラ5とを有する。
【0028】
上記射出ユニット2は、図1に示すように、ペレット状の樹脂材料を投入するホッパー23と、ホッパー23と結合したシリンダー24とを有する。シリンダー24には、金型ユニット3へと溶融樹脂を吐出するノズル26を設けてある。また、シリンダー24の外側には、射出スクリュー21の前進位置を検出するスクリュー位置センサ22と、シリンダー24を加熱するバンドヒータ27を設けてある。
また、シリンダー24の内部には、前進運動により溶融樹脂を射出する射出スクリュー21を備え、射出スクリュー21の基端部には、射出スクリュー21の回転および前進後退を行うためのスクリュー駆動部25が配設されている。
【0029】
上記金型ユニット3は、図2に示すように、固定金型40と可動金型41とからなる。固定金型40と可動金型41との対向面には、両者が当接することで形成されるキャビティ31を設けてある。
尚、本例においては、1つの金型に1つのキャビティを設けているが、上記金型に複数のキャビティを設け、一度の成形で複数個の成形品を取ることもできる。また、上記複数のキャビティをそれぞれ異なる形状とすることもできる。
【0030】
固定金型40には、上記射出ユニット2から射出された溶融樹脂が流入するメインランナー42と、該メインランナー42とキャビティ31との間をつなぐ、2本の分岐ランナー43、44が設けられている。分岐ランナー43、44には、それぞれバルブゲート32、33が設けてあり、バルブゲート32、33の内部には、ゲートピン34、35を備えている。
【0031】
ゲートピン34、35の基端部には、図3に示すように、液圧アクチュエータからなるゲートピン駆動部38が設けられている。ゲートピン駆動部38には、その駆動および制御を行うための液圧ユニット(図示略)とサーボバルブユニット(図示略)が接続されている。ゲートピン駆動部38の内部にはピストン381が設けられており、ピストン381の先端部とゲートピン34、35の基端部とが結合してある。
尚、本例においては、ゲートピン駆動部に液圧アクチュエータを用いたが、空気圧アクチュエータ、電動アクチュエータ等を用いることもできる。
【0032】
また、ゲートピン駆動部38の基端部にはゲートピン34、35の進退位置を検出するためのピン位置センサ36を配設してある。ピン位置センサ36は、渦電流を利用した非接触センサであり、ピストン381の基端側に配設した円柱382を検出対象とし、ゲートピン34、35の位置情報を検出している。
尚、本例においては、ピン位置センサに渦電流を利用した非接触センサを用いたが、各種位置センサ、画像認識装置等の位置検出機能を有するものに変えることも可能である。
【0033】
図3および図4に示すように、ゲートピン34、35の基端側の位置には、段部341、351を設けてあり、ピンテーパ部342、352を形成している。一方、バルブゲート32、33の内側面には、ピンテーパ部342、352と平行なゲートテーパ部321、331を設けてある。ゲートピン34、35を進退移動し、ピンテーパ部342、352とゲートテーパ部321、331との間隔を調整することで、バルブゲート32、33が吐出する溶融樹脂の吐出量を制御する。
【0034】
コントローラ5は、成形に関する条件の入力を行うタッチパネルと、射出ユニット2および金型ユニット3の制御を行うコンピュータを有している。上記タッチパネルを用いて入力した条件マップ6に基づき、上記コンピュータが目標進退位置を算出すると共に、射出ユニット2および金型ユニット3の制御を行う。
尚、本例ではタッチパネルを用いているが、キーボード等の入力機能を有するものに変えることも可能である。
【0035】
次に、上記射出成形機1を用いた射出成形方法について説明する。
ホッパー23に投入された上記樹脂材料は、回転する射出スクリュー21によりシリンダー24へと供給される。そして、射出スクリュー21が回転する際のせん断力によって発生する摩擦熱と、シリンダー24の外周に配設したバンドヒータ27の発する熱とにより加熱され、溶融樹脂となる。
【0036】
射出スクリュー21の先端部に一定量の溶融樹脂が貯えられると、射出スクリュー21は前進を開始し、その先端部に貯えた溶融樹脂を金型ユニット3へと射出する。このとき、スクリュー位置センサ22は、上記射出スクリュー21の前進位置をスクリュー位置情報として検出し、上記コントローラ5へと出力する。
【0037】
射出ユニット2から射出された溶融樹脂は、金型ユニット3に設けられたメインランナー42から分岐ランナー43、44を通じ、バルブゲート32、33へと流入する。バルブゲート32、33の内部に備えたゲートピン34、35は、条件マップ6に基づいて、その進退位置を移動することで、バルブゲート32、33の開度調整を行い、キャビティ31へ吐出する溶融樹脂の吐出量を制御する。本例において、図4に破線で示すように、バルブゲート32、33が全閉となる場合には、ピンテーパ部342、352がバルブゲートテーパ部321、331と当接する。この状態がゲートピン34、35の最後退位置となる。
【0038】
表1には、本例における条件マップ6を示す。図6は、条件マップ6をグラフにより表したものである。射出スクリュー21の前進位置と、それに対するゲートピン34、35の進退位置とを定めてある。条件マップ6は、CAE解析等のシミュレーションまたは実際に射出成形装置を用いて行う試行生産により、最適な成形条件を特定し、その際の射出スクリュー21の前進位置およびゲートピン34、35の進退位置に関する情報を基に作成する。
【0039】
【表1】

【0040】
次に、条件マップ6に基づき射出制御を行った際の射出スクリュー21およびゲートピン34、35の動作について説明する。
本例において、射出スクリュー21の前進位置は、射出スクリュー21が前進することにより値が小さくなる。また、ゲートピン34、35の進退位置についてもゲートピン34、35が前進することにより値が小さくなる。ゲートピン34、35においては、進退位置が20.00mmのとき最後退位置であり、バルブゲート32、33は全閉状態となる。ゲートピン34、35が前進し、0に近づくほど、バルブゲート32、33の開度は大きくなり、溶融樹脂の吐出量が増加する。
【0041】
射出制御を開始するまでは、ゲートピン34、35は最後退位置にあり、バルブゲート32、33は全閉状態にある。
射出スクリュー21が前進を開始し、前進位置210mmまで移動すると、ゲートピン34、35の位置制御が開始される。このとき、ゲートピン34は、移動を開始し、射出スクリュー21が前進位置110mmまで前進する間に、進退位置11.30mmへとリニアに移動し、バルブゲート32の溶融樹脂の吐出量を徐々に増大させる。一方、ゲートピン35は、瞬時に進退位置10.6mmまで前進し、バルブゲート33から溶融樹脂の吐出を開始する。
次に、射出スクリュー21が前進位置110mmまで移動すると、ゲートピン34は、進退位置11.3mmへ到達し、その進退位置を維持する。
【0042】
次に、射出スクリュー21が前進位置103mmへ到達すると、ゲートピン35は、移動を開始し、射出スクリュー21が前進位置74mmまで移動する間に、進退位置6mmへとリニアに移動し、バルブゲート33の溶融樹脂の吐出量を徐々に増大させる。
次に、射出スクリュー21が前進位置74mmまで移動すると、ゲートピン34は、移動を開始し、射出スクリュー21が前進位置30mmまで移動する間に、進退位置9.2mmへとリニアに移動し、バルブゲート32の溶融樹脂の吐出量を徐々に増大させる。一方ゲートピン34は、進退位置6mmへと到達し、その進退位置を維持する。
【0043】
その後、射出スクリュー21が前進位置30mmまで移動すると成形は終了し、射出スクリュー21およびゲートピン34、35は原点位置へと復帰する。
上述したように、ゲートピン34、35の進退位置の制御には、瞬時に目標進退位置へと移動するステップ制御と、徐々に目標進退位置へと移動するスロープ制御のいずれの方法も用いることができる。
【0044】
上述した条件マップ6に基づいた射出制御を行う間、スクリュー位置センサ22およびピン位置センサ36は、それぞれ射出スクリュー21およびゲートピン32、33の位置情報を検出し、コントローラ5へと出力している。コントローラ5は、算出した目標進退位置とピン位置センサ36により検出された進退位置情報とを比較し、上記進退位置が上記目標進退位置に近づくように連続してフィードバック制御を行う。
【0045】
本例においては、射出スクリュー21の前進位置に対してゲートピン34、35の最適な進退位置を定める。つまり、射出スクリュー21から射出し、バルブゲート33、34に流入する溶融樹脂の流入量は、射出スクリュー21の前進位置に置き換えて把握し、バルブゲート32、33から吐出する溶融樹脂の吐出量はバルブゲート32、33の開度に直接関わるゲートピン34、35の進退位置に置き換えて制御する。
そのため、圧力や流量を直接制御する場合より、制御精度を格段に高めることができ、バルブゲート32、33に供給される溶融樹脂の流入量に対してバルブゲート32、33からキャビティ31内へ吐出する溶融樹脂の吐出量を容易に最適なものとすることができる。
【0046】
また、条件マップ6に、射出スクリュー21の前進位置に対してゲートピン34、35の進退位置を予め定めてある。
そのため、条件マップ6を作成する際に、上記ゲート間相互作用の影響を見込み、その影響を除去するようにゲートピン34、35の最適な進退位置を定めることができる。これにより、ゲートピン34、35の最適な進退位置を定めた条件マップ6を用いた本例の射出成形方法においては、上記ゲート間相互作用の影響を除去することができる。
【0047】
また、ゲートピン34、35の進退位置をピン位置情報として検出し、上記位置制御は上記ピン位置情報と上記目標進退位置とを用いたフィードバック制御により行っている。
そのため、上記ピン位置情報と上記目標進退位置とを比較し、ゲートピン34、35の進退位置を上記目標進退位置へと補正する制御を連続して行う。それゆえ、ゲートピン34、35の進退位置をより正確に上記目標進退位置へ近付けることができる。
【0048】
また、上記バルブゲート32、33の吐出口側を先端側とし、その反対側を基端側としたとき、ピン位置センサ36は、バルブゲート32、33へ溶融樹脂を供給する流路をなす分岐ランナー43、44の配設位置よりも基端側の位置に配設されている。
そのため、上記ピン位置センサ36を上記金型ユニット2の外側に露出した位置に配設することができる。したがって、上記金型ユニット3の内部にピン位置センサ36を配設した場合に比べ、型構造が複雑にならない。
【0049】
また、ピン位置センサ36は、溶融樹脂と接することがないため、耐熱性および耐久性を考慮する必要がなくなる。それゆえ、金型ユニット3およびピン位置センサ36にかかる費用を低減することができる。また、ピン位置センサ36を、金型ユニット3の外側に露出させることができる。そのため、金型ユニット3を分解することなく、組み付け、整備を行うことができ、メンテナンス性を改善することができる。
【0050】
また、本例の自動車用バンパーのように、大型で、かつ薄肉の成形品においては、従来の射出成形方法では、意匠面の面ひずみや、固定金型40と可動金型41との型割れ部にバリ等の不具合が発生しやすい傾向にある。すなわち、バルブゲートからキャビティ内に吐出される溶融樹脂の吐出量および圧力の制御精度が低く、キャビティ内における平均内圧が不均一となることが原因である。
【0051】
本例においては、射出ユニットからバルブゲートに供給される溶融樹脂の流入量に対してバルブゲートからキャビティ31内へ吐出する溶融樹脂の吐出量を容易に最適なものとすることができる。そのため、キャビティ内における平均内圧は均一となり、上記のような不具合のない品質の高い成形品を得ることができる。
尚、本例においては、自動車用バンパーの成形について示したが、自動車用バンパー以外の種々の成形品においても、本例の射出成形装置及び射出成形方法を用いることで、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 射出成形装置
2 射出ユニット
21 射出スクリュー
22 スクリュー位置センサ
3 金型ユニット
31 キャビティ
32、33 バルブゲート
321、331 ゲートテーパ部
34、35 ゲートピン
341、351 段部
342、352 ピンテーパ部
36 ピン位置センサ
40 固定金型
41 可動金型
5 コントローラ
6 条件マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出スクリューから射出した溶融樹脂を複数の経路に分岐し、複数のバルブゲートを介して1または複数のキャビティに射出充填する射出成形方法において、
上記バルブゲート内には、進退することにより該バルブゲートの開度を調整するゲートピンをそれぞれ設け、
上記射出スクリューの前進移動により溶融樹脂を射出する際の上記射出スクリューの前進位置をスクリュー位置情報として検出し、
上記射出スクリューの前進位置に対して、上記各ゲートピンの最適な進退位置を予め定めた条件マップを用いて、上記スクリュー位置情報に対する上記各ゲートピンの最適な進退位置である目標進退位置を求め、
上記各ゲートピンの進退位置を、常に上記目標進退位置に近づくように位置制御することを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
請求項1において、さらに、上記各ゲートピンの進退位置をピン位置情報として検出し、上記位置制御は上記ピン位置情報と上記目標進退位置とを用いたフィードバック制御により行うことを特徴とする射出成形方法。
【請求項3】
射出スクリューから射出した溶融樹脂を複数の経路に分岐し、経路毎に設けたバルブゲートを介して、1または複数のキャビティに射出充填する射出成形装置において、
該射出成形装置は、上記バルブゲート内を進退することにより該バルブゲートの開度を調整するゲートピンと、
該ゲートピンの進退位置を制御するゲートピン駆動部と、
上記射出スクリューの前進移動により溶融樹脂を射出する際の上記射出スクリューの前進位置を検出し、スクリュー位置情報として出力するスクリュー位置センサと、
上記射出スクリューの前進位置に対して、上記各ゲートピンの最適な進退位置を予め定めた条件マップを記憶し、該条件マップを用いて上記スクリュー位置情報に対する上記各ゲートピンの最適な進退位置である目標進退位置を出力するコントローラとを有し、
上記ゲートピン駆動部は、常に上記目標進退位置に近づくように上記各ゲートピンの進退位置を位置制御するように構成したことを特徴とする射出成形装置。
【請求項4】
請求項3において、上記射出成形装置は、さらに、上記各ゲートピンの進退位置を検出してピン位置情報として出力するピン位置センサを有し、上記位置制御は上記ピン位置情報と上記目標進退位置とを用いたフィードバック制御により行うよう構成されていることを特徴とする射出成形装置。
【請求項5】
請求項3または4において、上記バルブゲートの吐出口側を先端側とし、その反対側を基端側としたとき、上記ピン位置センサは、上記バルブゲートへ溶融樹脂を供給する流路をなす分岐ランナーの配設位置よりも基端側の位置に配設されていることを特徴とする射出成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−35428(P2012−35428A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175064(P2010−175064)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】