説明

射出成形方法

【課題】基材に対して樹脂部材を射出成形する射出成形方法において、樹脂の射出圧で基材が撓むことに起因するバリの発生を防止する。
【解決手段】本発明は、板状の基材1の両側から射出側の金型2と受け側の金型3とを基材1に対して挟むようにして接触させて、基材1と射出側の金型2と受け側の金型3とで限られて形成されたキャビティC内に射出側の金型2を通じて溶融樹脂を射出することにより、基材1に対して樹脂部材4を射出成形する射出成形方法であり、溶融樹脂の射出は、基材と受け側の金型との隙間における少なくとも一箇所において基材を受け側の金型に対して支えながら行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に対して樹脂部材を射出成形する射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、あらかじめ成形された基材(以下単に基材という)に対して金型を接触させ、基材の一部と金型とで限られたキャビティ内に溶融樹脂を射出し、リベット、クリップ、リブ等の樹脂部品を成形しながら基材に固定する射出成形方法(以下ダイレクト成形という)が知られている。このダイレクト成形によれば、基材を成形する金型に変更を加えることなく、基材の任意の箇所へ目的とする形状の樹脂部品を自由に成形できる利点がある。また、ダイレクト成形で結合部品を成形することによって2枚の基材を結合すれば、従来要していた組み付け費、両面テープ等の部品費、溶着費等の費用がかからず、低コストに2枚の基材を結合することができる。なお、樹脂部品の樹脂材料としては220度程度で溶融するポリプロピレン等の樹脂が使用される。
【0003】
上述のように、ダイレクト成形法は金型と基材の表面の一部とで成形形状のキャビティを形成することを特徴としている。すなわち、基材の一部が型として機能するため、金型は従来のように2型で対をなして用いる必要はなく、1型のみでもダイレクト成形は成り立つ。しかし、図3(a)に示すように、貫通した孔111が形成された板状の基材101の上面112と下面113に対して、それぞれ図3(b)のように射出側と受け側の2つの金型102、103とを挟むようにして接触させることで、キャビティCを基材101の上下に跨らせて構成することもできる。なお、このように2つの金型を用いる構成で行うダイレクト成形については、例えば下記特許文献1に挙げるような2つの金型と射出ノズルとを備えた一般の射出成型機をダイレクト成形機として利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−284759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように射出側と受け側の金型102、103で基材101を挟む構成で行うダイレクト成形においては、射出ノズル121から溶融樹脂を射出した際に、基材101がその射出圧を受けて図3(c)に示すように若干撓んでしまうことがあった。このため、射出側の金型102と基材101との間に隙間ができ、この隙間に樹脂が入り込むことで図3(d)で実線で囲んで示すようなバリB(樹脂漏れ)が成形品に生じるという問題があった。本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、基材に対して樹脂部材を射出成形する射出成形方法において、樹脂の射出圧で基材が撓むことに起因するバリの発生を防止すること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は以下のように構成される。
本発明の第1の発明は、板状の基材の両側から射出側の金型と受け側の金型とを基材に対して挟むようにして接触させて、基材と射出側の金型と受け側の金型とで限られて形成されたキャビティ内に射出側の金型を通じて溶融樹脂を射出することにより、基材に対して樹脂部材を射出成形する射出成形方法であって、前記の溶融樹脂の射出は、基材と受け側の金型との隙間における少なくとも一箇所において基材を受け側の金型に対して支えながら行われることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、溶融樹脂の射出中、基材が受け側の金型に対して支えられているため、基材が溶融樹脂の射出圧を受けても撓むことがない。したがって、バリの発生が防止できる。
【0008】
本発明の第2の発明は、第1の発明の射出成形方法であって、前記の支えは、基材の片面に形成された突起によってなされることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、溶融樹脂の射出中、基材に形成された突起によって、基材は受け側の金型に対して支えられる。したがって、成形すべき樹脂部材の外形に現れる影響を抑えつつバリの発生が防止できる。
【0010】
本発明の第3の発明は、第1の発明の射出成形方法であって、前記の支えは、受け側の金型に設けられた突起によってなされることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、溶融樹脂の射出中、受け側の金型に設けられた突起によって、基材が受け側の金型に対して支えられる。したがって、基材にあらかじめ特別な加工を施すことなくバリの発生が防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の射出成形方法を実施する第1の形態を示す断面図。
【図2】本発明の射出成形方法を実施する第2の形態を示す断面図。
【図3】従来の射出成形方法を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための第1の形態を、図1を参照しながら説明する。
本発明は、図1(a)に示すような一次的に成形された板状の基材1に対して、図1(d)に示すような新たな樹脂部材4(以下単に樹脂部材という)を二次的に射出成形しつつ固定する射出成形方法に関するものである。まず、基材1の成形工程を説明する。図1(a)はこの基材1を、後述の孔11及び突起14、14を通る面で切断して示す断面図である。この基材1もまた樹脂製であり、工程は図示しないが通常の射出成形により成形される。
【0014】
基材1には貫通する孔11が形成されている。この孔11は基材1の成形時に形成される。また、この孔11は、後述のように成形形状のキャビティCを構成するものであり、射出成形工程において射出された溶融樹脂が基材1の図示上側から下側に至る際に通過する。以下、図示する状態において規定される基材1の上、下の面を、それぞれ上面12、下面13とする。
【0015】
基材1の下面13には、射出成形中に基材1を支えるためのテーパ形状の突起14、14が、基材1に対してほぼ垂直に形成されている。この突起14、14は基材1の成形時に一体的に形成されたものである。突起14、14が形成される位置は孔11の近傍の2箇所に設定されている。詳しくは、一方の突起14は基材1の孔11から縁15まで最短で至る経路の途中に設けられ、他方の突起14は孔11に対して前記一方の突起14の対称位置に設けられている。突起14、14が基材1から張り出す高さは、後述のキャビティC形成時に受け側の金型3の凹面31にちょうど当接する高さに設定されている。突起14、14の幅は、周囲を流れる溶融樹脂の流動を無用に妨げない程度の細さで、かつ、高さ方向にかかる樹脂の射出圧に耐え得る程度に設定されている。また、テーパ形状は受け側の金型3の凹面31との当接時に先端が潰れない程度で、かつ、樹脂部材4の成形時に埋もれずに表面に現れる先端部が無用に目立たない程度に設定される。
以上のように基材1があらかじめ成形される。
【0016】
次に、型締めによりキャビティCを形成する工程を説明する。図1(b)に示すように射出側の金型2と受け側の金型3とを備えたダイレクト成形機が用いられる。射出側の金型2には、図1(b)のように樹脂材料を溶融状態で射出する射出ノズル21が挿入された状態で設けられている。射出ノズル21はニードル弁22を備えており、このニードル弁22によって直接、射出側の金型2のゲート23が開閉される。下記の型締めは図示しない油圧シリンダ等の型締手段により射出側の金型2を駆動することによって行われる。
【0017】
まず、基材1が受け側の金型3上にセットされ、受け側の金型3は基材1の下面13に対して接触する。このとき、基材の下面13に形成された突起14、14の先端が、受け側の金型3の凹面31に当接している。これによって基材1が受け側の金型3に対して支えられる。次に、射出側の金型2が駆動され、基材1の上面12及び受け側の金型3に対して接触する。このとき射出側の金型2のゲート23は、樹脂が基材1の孔11を通り下面13側にも充填されやすいよう孔11の直上に位置している。
【0018】
図1(b)は、上記のようにして、基材1に対して射出側と受け側の金型2、3を挟むようにして接触させた型締め状態を示している断面図である。これによって、基材1の一部と、射出側の金型2と、受け側の金型3とによって周囲を限られた、目的とする樹脂部材4の成形形状を有したキャビティCが形成される。なお、キャビティCの構成面となる上記の基材1の一部には、基材1の縁15と孔11の内面と突起14、14の側面も含まれる。
【0019】
次に、射出成形工程を説明する。前記のように形成されたキャビティC内に、射出側の金型2のゲート23を通じて溶融樹脂が射出される。ゲート23の位置は孔11の直上に設定されてはいるが、樹脂は全て孔11方向に射出されるとは限らず、基材1の上面12は一部の射出樹脂によって直接的および間接的に射出圧を受ける。また、キャビティCのうち基材1の上面12と射出側の金型2との間は、樹脂部材4のうちリベット41の頭部を成形する部分でありキャビティC全体に占める割合は小さい。よって、射出樹脂が基材1の孔11を通り残りの大部分のキャビティCに充填される間も、基材1の上面12は常に射出圧を受けることとなる。この間、基材1は下面13に形成された突起14、14によって受け側の金型3に対して支えられている。図1(c)は、樹脂の充填が完了した状態を示す断面図である。樹脂の充填が完了し射出圧が弱まるとニードル弁22が閉じる。
【0020】
次いで、キャビティCに充填された樹脂が冷却され、前記の型締装置により型開きを行い、成形品が取り出される。図1(d)は金型2、3から取り出された成形品を示す断面図である。基材1上に新たに成形された樹脂部材4は、主として、基材1の下面13に成形時の熱作用で接着して固定された結合部分と、基材1の縁15より先を図示左方へ延長する機能部分とを有し、この他にリベット41部分が基材1の孔11に跨った状態で形成され基材1と樹脂部材4との結合がより強固となっている。
また、基材1の突起14、14は、図1(d)に示すように前記の結合部分に埋もれた状態となるが、その外形は受け側の金型3の凹面31の形状のみに依存し、基材1に突起14、14を設けない場合と変わらない。ただし、突起14、14のうち受け側の金型3の凹面31に当接していた先端部分は埋もれずに表面に現れるため、意匠品質がそれほど重視されない面である必要がある。
【0021】
本発明を実施するための第1の形態は以上のように構成される。
この構成によれば、溶融樹脂が射出される間に基材1が受け側の金型3に対して支えたれているため、基材1が溶融樹脂の射出圧を受けても基材1が撓むことがない。したがって、バリの発生が防止できる。
【0022】
また、この構成によれば、溶融樹脂の射出中、基材1に形成された突起14、14によって、基材1が受け側の金型3に対して支えられる。したがって、成形すべき樹脂部材4の外形に現れる影響を抑えつつバリの発生が防止できる。
【0023】
次に、本発明を実施するための第2の形態を、図2を参照しながら説明する。
以下では、前記の第1の実施形態と同様の部分については同一の符号を付すことにより説明を省略し、相違する部分についてのみ説明する。
基材1の成形工程において、基材1には貫通する孔11が形成される。図2(a)はこの基材1を、孔11を通る面で切断して示す断面図である。
【0024】
射出成形に用いる受け側の金型3の凹面31には、図2(b)に示すように射出成形中に基材1を支えるためのテーパ形状の突起32、32が、当接する基材1に対してほぼ垂直に設けられている。突起32、32が設けられる位置は、基材1との接触が行われる際に、基材1の下面13に対して孔11の近傍の2箇所で当接するよう設定されている。詳しくは、一方の突起32は基材1の孔11から縁15まで最短で至る経路の途中に当接するよう設けられ、他方の突起32は孔11に対して前記一方の突起32と対称位置に当接するよう設けられている。突起32、32が受け側の金型3の凹面31から張り出す高さは、後述のキャビティC形成時に基材1の下面13にちょうど当接する高さに設定されている。突起32、32の幅は、周囲を流れる溶融樹脂の流動を無用に妨げない程度の細さで、かつ、高さ方向にかかる樹脂の射出圧に耐え得る程度に設定されている。また、テーパ形状は突起32、32が抜けた跡として樹脂部材4に形成される穴42、42が無用に目立つことのない程度に設定される。
【0025】
キャビティCを形成する工程において、基材1が受け側の金型3上にセットされ、受け側の金型3が基材1の下面13に対して接触する際、受け側の金型3の凹面31に形成された突起32、32の先端が、基材1の下面13に当接した状態となる。これによって基材1が受け側の金型3に対して支えられる。図2(b)は、基材1に対して射出側と受け側の金型2、3を挟むようにして接触させた型締め状態を示している断面図である。
射出成形の工程において、射出ノズルから溶融樹脂が射出される間も、基材1は受け側の金型3の凹面31に設けられた突起32、32によって、受け側の金型3に対して支えられている。図2(c)は、樹脂の充填が完了した状態を示す断面図である。
【0026】
図2(d)は金型2、3から取り出された成形品を示す断面図である。成形中に受け側の金型3の突起32、32があった部分は、図2(d)に示すように、樹脂部材4の結合部分に穴42、42として残る。このため、穴42、42が生じる面は意匠品質がそれほど重視されない面である必要がある。
【0027】
本発明を実施するための第2の形態は以上のように構成される。
この構成によれば、溶融樹脂が射出される間に基材1が受け側の金型3に対して支えられているため、基材1が溶融樹脂の射出圧を受けても基材1が撓むことがない。したがって、バリの発生が防止できる。
【0028】
また、この構成によれば、溶融樹脂の射出中、受け側の金型3に設けられた突起32、32によって、基材1が受け側の金型3に対して支えられる。したがって、基材1にあらかじめ特別な加工を施すことなくバリの発生が防止できる。
【0029】
なお、以上に述べた内容はあくまで本発明を実施するための形態の例であって、本発明が上記内容に限定されることを意味するものではない。
まず、上記の実施形態1及び2では、基材1の突起14、14及び受け側の金型3の突起32、32はそれぞれ孔11の近傍の2箇所に設けられるテーパ形状のものであったが、当然これに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において位置、数、形状等を適宜変更可能である。
【0030】
また、上記の実施形態1及び2では、新たに成形される樹脂部材4が、基材1の下面13に接する部分から基材1の縁15より先を延長する部分まで延びる構成であった。よって、基材1の縁15近傍については下面13で直接受け側の金型3と接触できず、射出圧を受ける基材1は撓みやすい(図3(c)参照)ため、本発明の基材1の突起14、14または受け側の金型3の突起32、32を設ける構成は特に有効であった。しかし、基材1の縁15より先を延長する部分を全く有さず、基材1の下面13に接する部分のみにとどまるような樹脂部材を成形する構成としても、成形中に基材1の上面12に溶融樹脂の射出圧を受ける以上、本発明は成立する。
【0031】
また、上記の実施形態1及び2では、基材1の突起14、14および受け側の金型3の突起32、32を設けることによって、射出成型中に基材1が受け側の金型3に対して支えられる構成であった。しかし、これらの突起を設けず、キャビティCを構成する際に基材1と受け側の金型3との隙間において両者に接する支持体を介在させることによって、射出成形中に基材1を受け側の金型3に対して支える構成としてもよい。この場合、この支持体は新たに成形される樹脂部材4に埋もれて一体化する。
【0032】
また、上記の実施形態1及び2では、基材1は板状の樹脂製素材であったが、これに限定されるものではなく、撓みやすい形状および素材であれば本発明は成立する。また、上記の実施形態1では、突起14、14は基材1の成形時に一体的に形成されたものであったが、事後的に独立して成形されてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 基材
11 孔
12 上面
13 下面
14 突起
15 縁
2 金型
21 射出ノズル
22 ニードル弁
23 ゲート
3 金型
31 凹面
32 突起
4 樹脂部材
41 リベット
42 穴
B バリ
C キャビティ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の基材の両側から射出側の金型と受け側の金型とを基材に対して挟むようにして接触させて、基材と射出側の金型と受け側の金型とで限られて形成されたキャビティ内に射出側の金型を通じて溶融樹脂を射出することにより、基材に対して樹脂部材を射出成形する射出成形方法であって、
前記の溶融樹脂の射出は、基材と受け側の金型との隙間における少なくとも一箇所において基材を受け側の金型に対して支えながら行われることを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形方法であって、前記の支えは、基材の片面に形成された突起によってなされることを特徴とする射出成形方法。
【請求項3】
請求項1に記載の射出成形方法であって、前記の支えは、受け側の金型に設けられた突起によってなされることを特徴とする射出成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−192604(P2012−192604A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57764(P2011−57764)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【Fターム(参考)】