説明

射出成形方法

【課題】製品の意匠面に生ずるヒケ等の外観不良を防止するに好適な射出成形方法を提供する。
【解決手段】意匠面側の金型キャビティ温度を反意匠面側の金型キャビティ温度より高く設定するとともに、反意匠面側の金型キャビティ15に射出充填した樹脂の熱量でガス化する材料Cを塗布する。樹脂の射出完了後に型締力を低下させて、短時間で金型10内での樹脂圧力が0Paとなるように制御することによって、反意匠面側の金型キャビティ面と樹脂の間で、ガスを発生させて反意匠面側の樹脂を金型キャビティ15から短時間で離型させることにより、意匠面側の樹脂に樹脂の熱収縮による影響がでないようにして、ヒケの発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形装置を使用して熱可塑性の樹脂を成形するに適した射出成形方法に関するものであって、特に、成形品の意匠面に生ずるヒケ等の外観不良を防止するに好適な射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固定型と可動型で形成された金型キャビティ内に、樹脂を射出充填して成形する射出成形方法が、従来から周知である。射出成形方法によって成形される製品は、例えば、ポリバケツやケース等の日常雑貨品、或いはバンパーやインパネ等の自動車部品等、多岐にわたっており、その形状や大きさは様々である。
【0003】
ところで、射出成形方法で成形される製品は、通常、できるかぎり薄肉化することが望まれている。そのため、製品の外観を形成する意匠面の裏面側(反意匠面側)にリブやボスが形成される場合が多い。なぜなら、製品裏面にリブを配することによって、製品変形の抑制(成形時)、製品剛性感の確保(外力が加わっても製品が変形しない)、製品強度の確保等の効果が期待できるから、製品の薄肉化につながるためである。
また、製品裏面にボスを配すれば、製品取付け冶具の嵌め込み(例:ビス取付け)、製品取付け時の位置合わせ、リブ交点の薄肉化等の効果が期待できる。
【0004】
しかし、前述の理由により、リブやボスを形成された部分は、その結果として、他の製品部分に比較して厚肉となる。また、自動車部品として成形される製品の多くは、他の部品に取り付けるために必要なクリップ等が配されることも多く、クリップ等が配された部分は、他の製品部分に比較して厚肉となる。
【0005】
そして、部分的に厚肉部を有する製品を射出成形した場合には、その厚肉部にヒケと呼ばれる部分的な凹みが発生して、製品の外観不良の原因となる可能性があるということは当業者に周知である。特に、意匠面が平面の場合はヒケが目立ちやすいため、表面をシボ加工する等の対策が取られることもあるが、この場合でもシボの転写ムラという形で不良判定される場合があった。
【0006】
ヒケの防止策としては、射出成形時に保圧を十分に作用させて、金型内での樹脂収縮分を補充填する方法が良く知られているが、製品形状等によっては十分な効果が期待できないケースがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−315961号公報
【0008】
特許文献1に開示された技術は、ヒケによる凹部分の発生する側の金型について、凹部分に近接する位置に加熱手段を取り付けて、成形時にこの加熱手段により凹部の表面を樹脂のガラス転移温度以上に加熱保持することを特徴としている。
【0009】
特許文献1に開示の技術は、ヒケが発生する製品可視面側の金型を高温に加熱、保持することにより、金型内へ充填する溶融樹脂の温度低下を緩和する。温度低下が緩和された樹脂は、流動性の低下も緩和されるので、金型表面の微細な凹凸へも入り込み易くなり、その結果として、加熱した側の金型について、凹凸と樹脂の接触部位が、非加熱の場合に較べて大きくなるので、離型しにくくなる。
また、特許文献1に開示の技術において、加熱した側の金型は、金型内への樹脂充填後の冷却工程においても金型温度を高温に保持している。従って、加熱した側の金型に接する樹脂の温度低下はより緩やかで、収縮も遅いので、非加熱側の金型より樹脂面から離型しにくいという効果を奏する。
【0010】
特許文献1に開示の技術においては、以上、説明した理由により、非加熱側の金型が、加熱側の金型より、先に樹脂から離型する。その結果、加熱した側の金型キャビティ面で成形された樹脂が金型キャビティ面に密着した状態で、非加熱側の金型キャビティ面で成形された樹脂が金型キャビティ面から離型するという状態が生じる、
そのような場合には、非加熱側の金型キャビティ面で成形された樹脂が拘束のない自由な表面(所謂、自由表面のような状態)になる。従って、収縮によって発生するヒケは、先に離型して拘束の少ない非加熱面側に集中することになるため、加熱するキャビティ側の樹脂面において、ヒケの発生が抑制される。以上説明したように、特許文献1に開示の技術は、製品の意匠面側を加熱する側の面とすることにより、製品の意匠面に発生するヒケを防止する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述した特許文献1に開示の技術においては、金型温度によって、樹脂の離型状態をコントロールして、意匠面に発生するヒケを防止する。しかし、金型温度の調整による離型状態のコントロールには、限界があり、意匠面側金型は、製品取り出し後樹脂が変形するような高温にまでは加熱できない。そのため、ガラス転移点温度以上の金型温度では成形品の変形が問題となることがあった。
【0012】
また、反意匠面側の樹脂と金型との離型が遅い場合には、反意匠面側のスキン層が発達して、意匠面側の樹脂が樹脂の収縮の影響を強く受けてしまうために、ヒケ防止の効果が低減することがあった。同様に反意匠面側の金型温度を意匠面側の金型温度より大きく下げすぎると、やはりスキン層の発達を促進してヒケ低減効果が減少することがあった。
【0013】
従って、前述した従来技術においては、金型内での樹脂の離型状態を十分に制御できないケースが発生し、そのような場合には、結果として、意匠面に発生するヒケを防止できない可能性がある。本発明は、以上、説明したような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、従来技術に比較して、より効果的にヒケを防止する射出成形方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明による射出成形方法は、
(1) 固定型と可動型で形成された金型装置の金型キャビティ内に、溶融した熱可塑性樹脂を射出充填して成形する樹脂の射出成形方法において、該金型キャビティについて、反意匠面側の金型キャビティ面に、射出充填した樹脂の熱量でガス化する材料を塗布するとともに、意匠面側の金型キャビティ面の温度が反意匠面側の金型キャビティ面の温度より高くなるように設定し、金型キャビティ内に射出充填した樹脂の圧力が、射出完了後、1秒から7秒までの時間範囲内で、0Paとなるようにした。
【0015】
(2) (1)に記載の射出成形方法において、前記ガス化する材料が、重曹とした。
【0016】
(3) (1)又は(2)に記載の射出成形方法において、前記射出充填完了後、1秒から5秒までの時間範囲内で、金型装置の型締力を低下させる。
【0017】
(4) (3)に記載の射出成形方法において、前記射出完了後、型締力を低下させてから、わずかに型開きする請求項3記載の射出成形方法。
【0018】
(5) (1)から(4)までのいずれか1つに記載の射出成形方法において、前記意匠面を形成する金型キャビティ面の外周部にシール部を配して、成形した樹脂の間に空気が流入することを防止した。
【発明の効果】
【0019】
本発明の射出成形方法に使用する金型は、反意匠面側の金型キャビティ面に、射出充填した樹脂の熱量で熱分解反応してガス化、或いは、蒸発や昇華等の気化反応によりガス化する材料を塗布するとともに、成形中において金型キャビティ内に射出充填した樹脂の圧力が、射出完了後、1秒から7秒までの時間範囲内で、0Paとなるようにした、
【0020】
本発明の射出成形方法によれば、成形中、金型キャビティ内に充填した樹脂の圧力を速やかに0Paとすることによって、反意匠面側の金型キャビティ面に塗布した材料が、速やかに熱分解してガスになる。その結果、反意匠面側の樹脂が金型キャビティ面から短時間で確実に離型するため、意匠面側の樹脂が樹脂収縮の影響を受けにくくなり、その結果として、意匠面に発生するヒケの発生が抑制される。
前記射出充填した樹脂の熱量でガス化する材料の1つとして重曹(炭酸水素ナトリウム)があり、重曹は熱分解してガスになるが、そのガスは人体に無害で安全であり、環境にやさしく作業性が優れている等の点で好適で、一般に市販されて購入が容易という点でも優れている。
【0021】
なお、仮に、樹脂圧力が0Paとなる時間が1秒間より短い場合は、スキン層が薄過ぎて形状保持性が劣る等の問題が発生する可能性があり、逆に7秒間より長いと金型キャビティと接触している間にスキン層が厚くなり過ぎて改善効果が薄れる可能性がある。
従って、1秒から7秒までの時間範囲内で、0Paになるように制御すれば、高い改善効果を期待できる。
【0022】
また、金型キャビティ内に射出充填した樹脂の圧力について、1秒から7秒までの時間範囲内で0Paにする方法として、例えば、樹脂の充填量を調整する等の方法もあるが、時間的制御が簡単等という点で、型締め力を低下させる方法が好ましい。
従って、金型内の樹脂圧力を1秒から7秒までの時間範囲内で0Paにする方法としては、射出充填完了後、1秒から5秒までの時間範囲内で、金型装置の型締力を低下させるという方法が好ましい。
【0023】
さらに、本発明の射出成形方法において、溶融した樹脂を金型キャビティ内へ射出充填完了後、型締力低下させてから、わずかに型開きすれば、より確実に、1秒から7秒までの時間範囲内で、金型内の樹脂圧力を0Paになるように制御でき、さらに、その結果として、反意匠面側の金型キャビティ面と樹脂を短時間で確実に離型させることができるので、ヒケの防止効果が高い。
【0024】
また、意匠面を形成する金型キャビティ面については、その外周部にシール部を配して、成形した樹脂の間に空気が流入しにくくすれば、意匠面を形成する金型キャビティ面と製品との密着性が損なわれにくくなるので、ヒケの改善が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態に使用した射出成形装置の全体図である。
【図2】本実施形態に使用した第1の金型の断面図である。
【図3】本実施形態による射出成形方法を実施した場合の樹脂の挙動図である。
【図4】本実施形態に使用した第2の金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面等に基づいて本発明の実施形態の好ましい1例について、詳細に説明する。
図1から図4は本発明の実施形態に係わり、図1は本実施形態に使用した射出成形装置の全体図である。図2は本実施形態に使用した第1の金型の断面図であり、図3は本実施形態による射出成形方法を実施した場合の樹脂の挙動を説明するための概念図である。図4は本実施形態に使用した第2の金型の断面図である。
【0027】
本実施形態に使用した射出成形装置100は、図1に示すように、金型装置10、型締装置20、射出ユニット30、及び、型締装置20と射出ユニット30を制御する制御装置60とを備えている。そして、型締装置20に取り付けられた金型装置10は、固定型3と可動型4を備えて、両金型が組み合わされた状態で、その内部に金型キャビティ15を形成する構造となっている。
【0028】
図1に示すように固定型3は固定盤1に取り付けられ、可動型4は可動盤2に取り付けられている。従って、後述する型締装置20を作動させることにより、可動型4を固定型3に対して自在に前後進させることができる。
【0029】
次に本実施形態に用いた型締装置20について説明する。
図1に示した型締装置20は、可動盤2、固定盤1、エンドプレート5、型締シリンダ22、型締シリンダ22の駆動によって作動するトグル式型締機構8(トグル機構8と称することもある)、並びに、型締シリンダ22に所望の油圧を供給する図示しない油圧源等を備えて、可動盤2は、固定盤1とエンドプレート5との間に架設した4本のタイバー7に案内されて、型締シリンダ22で駆動されたトグル機構8により、可動型4とともに前後進できるよう構成されている。
【0030】
図1に示す型締装置20においては、タイバー7に図示しない型締力センサLを取り付けており、型締装置20によって金型10を型締めした際に、タイバー7の伸量を検出することにより、型締装置20による金型10の型締力を測定することができる。
【0031】
ここで、図1に示した射出成形装置100の制御装置60は、型締制御装置61によって、型締シリンダ22に油圧を供給する型締制御バルブを制御し、金型装置10を自在に開閉し、また型締できるよう構成されている。
なお、図1に示した実施形態においては、型締装置20の駆動装置として、油圧式トグルタイプの型締機構を使用したが、本実施形態に使用できる型締機構はこれに限るものではなく、例えば、ボールネジとサーボモータを使用する電動式の型締装置等を使用しても良い。
【0032】
次に、射出ユニット30は、図1に示すように、バレル32、バレル32に内装されたスクリュ34、バレル32内に樹脂を供給するホッパ38、スクリュ34を前後進させる射出シリンダ40、スクリュ34を回転させる油圧モータ42、並びに、射出シリンダ40と油圧モータ42に所望の油圧を供給する図示しない油圧源等を備え、さらに、バレル32外周面には図示しないヒータ等が取付けられている。
【0033】
射出ユニット30は、油圧モータ42によってスクリュ34が回転することにより、ホッパ38からペレット形状の樹脂をバレル32内に供給する構造となっており、該供給したペレット形状の樹脂は、バレル32に取付けられたヒータによって加熱され、また、スクリュ34の回転によって混練圧縮作用を受けることによって溶融し、スクリュ34の前方に送られる。スクリュ34の前方に送られ、溶融した樹脂(溶融樹脂と称することもある)は、射出シリンダ40により前進するスクリュ34によって、バレル32の先端部にあるノズル39から射出することができる。
【0034】
なお、制御装置60は、型締装20置を制御する型締制御部61と該型締制御部に型締条件を設定する型締条件設定器、及び射出ユニット30を制御する射出制御装置63と該射出制御部に射出条件を設定する射出条件設定器等を備えている。
【0035】
ここで、図1に示した射出成形装置100においては、図2に示すように金型装置10内に樹脂通路として、ホットランナーを配しており、該ホットランナーの金型キャビティ15に向かう方向の先端部側にバルブゲート31を配した構成となっている。
【0036】
図1に示した射出成形装置100においては、前述の構成によって、バルブゲート31を開とした状態で射出ユニット30と金型キャビティ15の間の樹脂の流通を可能とし、バルブゲート31を閉とした状態で射出ユニット30と金型キャビティ15の間の樹脂の流れを遮断する。
【0037】
なお、前述の実施形態においては、金型装置10内にバルブゲート31を配する構成としたが、その配置に限るものではないことは勿論であって、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で変更が可能である。
【0038】
以下、図2を用いて本実施形態に使用した第1の金型10(第1金型10と称することもある)を説明する。本実施形態による第1金型10は、固定型3と可動型4を備えて、両金型が組み合わされた状態で、その内部に金型キャビティ15を形成する構造となっている。第1金型10において成形される樹脂の成形品は、長方形の平板に2本の大きな厚肉のリブが配された所謂、下駄型形状の製品である。
【0039】
ここで、第1金型10で成形される製品は、リブが配されていない側の方の面が、製品の使用の際に最終ユーザから見える可視面であり、外観に美観が要求される意匠面である。従って、図2においては、固定型3が形成する金型キャビティ面が製品の意匠面を形成する意匠面側の金型キャビティ面であり、可動型4が形成する金型キャビティ面が反意匠面側の金型キャビティ面となる。
【0040】
反意匠面側の金型キャビティ面を形成する可動型4には、エジェクタプレート52とエジェクタピン54等が配されている。従って、図1に示すような形で、射出成形装置100に取り付けられた際に、型締装置20に備えられたエジェクタ機構を作動させることによって、エジェクタプレート52が前後進して、エジェクタピン54を前後に駆動する構成となっている。
【0041】
また、第1金型10は、固定型3と可動型4の金型キャビティ面について、それぞれ独立して個別に温度の制御できる温度調整機構を備えており、固定型3には固定型温度調整ラインT1(温調ラインT1と称することもある)、可動型4には可動型温度調整ラインT2(温調ラインT2と称することもある)が、それぞれ別ラインとして配されている。
従って、第1金型10は、意匠側の金型キャビティ面を形成する固定型3と、反意匠側の金型キャビティ面を形成する可動型4について、それぞれ異なる温度に設定又昇温可能であって、所望する温度で温度管理可能である。
【0042】
更に、第1金型10は、固定型3と可動型4の金型キャビティ面の近傍について、それぞれ独立して個別に温度と圧力を測定できるセンサを備えており、固定型3については固定型温度測定センサTS1(温度センサTS1と称することもある)及び固定型圧力測定センサPS1(圧力センサPS1と称することもある)を備え、可動型4については可動型温度測定センサTS2(温度センサTS2と称することもある)及び可動型圧力測定センサPS2(圧力センサPS2と称することもある)を備えている。
【0043】
ここで、本発明に使用する金型の特徴は、反意匠面を形成する側の金型キャビティ面に射出充填した樹脂の熱量で熱分解してガス化する材料として、ガス発生用材料Cが塗布されていることである。
第1金型10においては、ガス発生用材料Cとして重曹が、反意匠面を形成する側の金型キャビティ面(本実施形態においては可動型4側の金型キャビティ面)に塗布された状態となっている。図2にその状況を示す。反意匠面側となる可動型4の金型キャビティ面に沿って、重曹が塗布されて、反意匠面側の金型キャビティ面の全体に塗布している。
なお、本実施形態できる塗布材料がこれに限らないことは勿論であって、射出時の樹脂温度で熱分解してガス化する、或いは蒸発や昇華等により気化反応してガス化する材料であれば良く、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で、他の材料を使用しても良い。
例えば、前述の実施形態で使用した重曹以外では、蒸発により気化してガスになる材料として、水を使用しても良く、作業の安全性や製品に与える負の影響などを勘案しながら、樹脂の熱量でガス化する公知の材料を本発明に使用することが可能である。
【0044】
金型キャビティ面の塗布方法としては、例えば、刷け等などの手段によって重曹を直接金型キャビティ面に塗布する方法、或いは、重曹を溶剤で溶かした状態として、金型キャビティにスプレーして吹きつけて固化させる方法等、公知の方法が様々に使用できる。
【0045】
なお、重曹の粉末は、基本的に、加熱することによって、二酸化炭素、炭酸ナトリウム、及び水に分解するが、空気中の水分等を含むと常温でも分解する可能性があるため、金型内で適切にガス化するように、水分量の管理が必要である。
【0046】
以下、本実施形態による射出成形方法について、その実施形態の好ましい1例を、第1実施形態として、図2及び図3を用いて説明する。
なお、成形にはABS樹脂を使用した。第1実施形態においては、成形サイクルをスタートさせる前に、固定型3と可動型4の金型温度を事前に設定して金型10を所望する温度まで昇温してから、その温度を保持するように温度管理する。
【0047】
第1実施形態においては、固定型3について温調ラインT1の温度を90℃と設定し、可動型4について温調ラインT2の温度を80℃と設定して、昇温開始する。昇温開始すると、固定型3においては温調ラインT1により固定型3に加工された温調ラインT1aの中を熱媒が循環し、また、可動型4においては温調ラインT2により可動型4に加工された温調ラインT2aの中を熱媒が循環して、それぞれ設定された温度まで金型を昇温する。なお、昇温開始してから1時間後には、温度差が10℃の状態で、良好な温度管理状態となる。
【0048】
なお、第1実施形態においては、固定型3と可動型4に取り付けた温度センサTS1及びTS2により温度管理を実施したが、温度管理はこの方法に限るものでないことは勿論であって、例えば、携帯式の接触式温度センサにより、運転者が測定しながら温調ラインT1或いはT2を調整して温度管理しても良く、できるかぎり、金型キャビティ面の表面部分近くを直に測定しながら金型温度管理することが好ましく、製品の連続運転中に金型キャビティ面温度を測定するタイミングとしては、製品取り出し直後の金型キャビティ温度が好ましい。
【0049】
第1の金型10が温度管理された状態になってから、図3(1)の工程に進み、射出成形方法の成形サイクルをスタートさせる。第1実施形態では、最初の工程として、型締装置20に備えた型締シリンダ22によりトグル機構8を延伸させて、可動盤2を固定盤1の方向に移動させることによって、図3(2)に示すように金型10を型閉動作して、型締力を負荷した状態で型締めする。この際に使用する型締力は、樹脂を成形するに十分な型締力である3000KNである。
【0050】
金型10が十分な型締力で型締めされた状態において、図3(3)の工程に進み、射出ユニット30を作動させて樹脂の射出動作を行うと同時に、ホットランナーの先端部側に配したバルブゲート31を開として、金型キャビティ15内に溶融樹脂(本実施形態ではABS樹脂)を射出する。
【0051】
第1実施形態では、溶融樹脂を金型キャビティ15内に射出し充填完了した後、すぐに、図3(4)の工程に進み、トグル機構8を屈曲させて型締力を低下させる。この際に重要なポイントは、金型キャビティ15内に射出充填した樹脂の圧力について、1秒から7秒までの時間範囲内で、0Paになるように型締力を低下させる点にある。
なお、第1実施形態においては、この工程の際に、射出ユニット30で樹脂圧力を負荷する保圧工程を使用せずに、すぐにバルブゲート31を閉じる。
【0052】
なお、第1実施形態においては、射出ユニット30の射出充填圧力による保圧工程を使用しないので、射出ユニット30のエネルギーが削減できて省エネにつながる。また、保圧工程なしで、すぐに型締力低下させるため金型10の寿命が伸びるという副次的な効果がある。
【0053】
そして、金型キャビティ15内に射出充填した樹脂の圧力について、金型キャビティ15内に配した圧力センサPS2で測定し、該PS2で測定した金型キャビティ内の樹脂圧力が0Paになるまで、型締力を低下させる。第1実施形態において、その際の型締力は、ほぼ0N(零)であった。
なお、第1実施形態においては、好ましい形態として、圧力センサを使用し、樹脂圧力を測定しながら型締力を低下させたが、センサで測定しなくても、型締力をほぼ0N(零)にすれば、金型キャビティ内の樹脂圧力は、通常、0Paになる。
【0054】
金型キャビティ15内に充填された樹脂が熱収縮している状況下で、金型キャビティ内の樹脂圧力が0Paになると、製品にヒケが生じてくる。
しかし、第1実施形態においては、反意匠面側の金型キャビティ面について、重曹が塗布されており、充填した樹脂の熱量により熱分解してガスが発生する。従って、図3(5)に示すように、反意匠面側の樹脂が、意匠面側の樹脂より、確実に早く金型キャビティ面から離型する。従って、意匠面側の樹脂については、樹脂収縮の影響を受けにくくなり、ヒケの発生が抑制される。
【0055】
なお、意匠面側の金型キャビティ面の温度について、反意匠面側の金型キャビティ面の温度より高くなるように設定すれば、意匠面側の樹脂よりも反意匠面側の樹脂が離型しやすくなるという効果が期待できる。しかし、本発明によれば、反意匠面側の金型キャビティ面に、充填した樹脂の熱量により熱分解してガスが発生する材料を塗布することにより、成形中に、意匠面側の金型キャビティ面と樹脂の間にガスを発生させて、離型効果を更に高めることができ、その結果として、製品の意匠面に発生するヒケをより確実に抑制することができる。従って、製品形状などにより、反意匠面側の樹脂が金型キャビティ面から離型しにくい状況下にあっても適応が可能になる。
【0056】
そして、図3(5)の工程が完了後、樹脂が冷却されて固化した後、図3(6)にように、金型10を完全に開いてから、エジェクタ機構を駆動して、エジェクタピン54により、製品を突き出して金型10から、製品を取り出す。
また、この際において、最終的に製品が、固定型3に残るか、可動型4に残るか、製品形状などによって決定するが、本実施形態においては、リブの収縮効果によって、可動型4に製品が留まるように構成した。
【0057】
なお、前述した工程で、金型キャビティ15内に射出充填した樹脂の圧力について、1秒から7秒までの時間範囲内で0Paになるようにするためには、射出の際の樹脂量を減らす、射出完了後に型締力を低下させる、或いは、射出完了後に射出ユニットのスクリュを強制的にバックさせてからバルブゲートを閉じる等、の方法が考えられる。樹脂量を減少させる方法と、型締力を低下させる方法については、金型キャビティ内に射出充填した樹脂の圧力を迅速に0Paにすることができるという点で両方法とも効果があり、本発明の適応の範囲である。
【0058】
しかしながら、金型キャビティ内に射出充填した樹脂の圧力を0Paとする手段としては、キャビティ内全体を均等に0Paにできる、又時間的制御が簡単等、効果の点で、型締め力を低下させる方法が好ましい。そのため、第1実施形態では、射出完了してから3秒後に型締力を低下させて、金型キャビティ内に射出充填した樹脂の圧力を迅速に0Paにする方法を採用した。特に薄肉化が求められる成形品においては、ショートショットを回避しながら、所定時間内に射出充填した樹脂の圧力を0Paにするには、型締め力を低下させることが効果的である。
【0059】
また、第1実施形態においては、溶融した樹脂を金型キャビティ内へ射出充填完了後、型締装置20の型締力を低下させたが、そのままトグル機構8を屈曲させてわずかに型開きすれば、より確実に、1秒から7秒までの時間範囲内で、0Paになるように制御できるという点で、さらに好ましい形態である。
【0060】
なお、樹脂圧力が0Paとなる時間が1秒間より短い場合は、充填した樹脂の溶融比率が高いので形状賦形性が劣る、スキン層が薄過ぎて形状保持性が劣る、又製品意匠面側のキャビティ面への張り付き性が悪い、等の問題が発生する可能性があり、7秒間より長いと金型キャビティと接触している間にスキン層が成長して厚くなり過ぎて改善効果が薄れる可能性があるので、1秒から7秒までの時間範囲内で、0Paになるように制御することが好ましい。
【0061】
また、前述の第1金型10においては、反意匠面側の金型キャビティ面について、その大部分に重曹を塗布する構成としたが、本発明の適応範囲としてはこれに限らず、離型しにくい部分などを選択的に選んで、部分的に塗布する場合も本発明の適応範囲である。
【0062】
ここで、第1金型については、固定型3と可動型4の金型キャビティ面について、それぞれ独立して個別に温度の制御できる温度調整機構を備えているので、成形の状況を見ながら、温度が適正範囲に入るように、自由に調整することができる。
しかし、意匠面と反意匠面の金型キャビティ面の温度差については、その差が3℃未満であると局部的に温度の逆転領域が現れる可能性があり、30℃を超えると反意匠面側の樹脂の冷却速度が速くなりすぎてヒケ低減効果が低下する。従って、意匠面を形成する側の金型キャビティ面の温度が、反意匠面側を形成する金型キャビティ面の温度より、3℃以上30℃以内の範囲で高くなるように設定することが好ましい。
【0063】
なお、他の金型10として、例えば、金型を加熱冷却することのできる温調機構を有した温調金型を使用し、ヒケを改善する時に所定の加熱をして、冷却中は金型の温度を低下させるということも可能である。この場合には、製品取出後の製品変形が小さくできる可能性があり、さらに、成形サイクルが短くなるという効果も期待できる。
但し、前述の温調金型を使用した場合には、冷却条件を強めたこと等に起因して、意匠面側の樹脂が金型キャビティ面から早々に離型しまうような状況にならないように注意する必要がある。
【0064】
なお、前述の第1実施形態において、溶融した樹脂を金型キャビティ内へ射出充填完了後、金型装置の型締力を低下させてからわずかに型開きすれば、より確実に、1秒から7秒までの時間範囲内で、0Paになるように制御でき、さらに、反意匠面側の樹脂も短時間で確実に離型させることができるので、ヒケの防止効果が高い。
【0065】
なお、この際において、意匠面を形成する金型キャビティ面の外周部にシール部を配して、成形した樹脂の間に空気が流入することを防止すれば、意匠面を形成する金型キャビティ面と樹脂との離型を抑制することができる。
図4に第2の金型10B(第2金型10B)を示す。第2金型10Bの固定型3の金型キャビティ面には、金型キャビティの外周部を囲むようにして突起部85が形成されている。樹脂を成形した際には、突起部85の周りの樹脂が収縮して、突起部85を挟みこむ形になるため、空気の流れを遮断するシール部として機能する。従って、より意匠面側の樹脂が金型キャビティ面から離型せずに密着した状態になるので、ヒケの発生について抑止効果が向上する。
【0066】
また、前述した第1実施形態では、好ましい形態として、樹脂を射出充填する際において、金型10を十分な型締力で型締めした。しかし、例えば、型締力を低下させて射出充填する射出圧縮、或いはわずかに開いた金型に樹脂を充填してから型締めする射出プレスについても、本発明の適応が可能である。
【0067】
以上、本発明の実施形態として、いくつかの好ましい例を説明したが、本発明を適応できる実施の形態がこれに限らないことは勿論であり、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で、適宜、変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本願発明に係わる射出成形方法は、製品の片側に意匠面を有し、反意匠面側にリブやボスを有して、ヒケ易い製品を成形するに適している。
【符号の説明】
【0069】
1 固定盤
2 可動盤
3 固定型
4 可動型
5 エンドプレート
7 タイバー
8 トグル機構
10 金型装置(金型)
15 金型キャビティ
20 型締装置
30 射出ユニット
31 バルブゲート
52 エジェクタプレート
54 エジェクタピン
85 突起部
100 射出成形装置
10B 第2の金型(第2金型)
C ガス発生用材料
T1 固定型温度調整ライン(固定型温調ライン)
T2 可動型温度調整ライン(可動型温調ライン)
PS1 圧力センサ(固定型)
PS2 圧力センサ(可動型)
TS1 温度センサ(固定型)
TS2 温度センサ(可動型)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と可動型で形成された金型装置の金型キャビティ内に、溶融した熱可塑性樹脂を射出充填して成形する樹脂の射出成形方法において、
該金型キャビティについて、反意匠面側の金型キャビティ面に、射出充填した樹脂の熱量でガス化する材料を塗布するとともに、意匠面側の金型キャビティ面の温度が反意匠面側の金型キャビティ面の温度より高くなるように設定し、
金型キャビティ内に射出充填した樹脂の圧力が、射出完了後、1秒から7秒までの時間範囲内で、0Paとなるようにした樹脂の射出成形方法。
【請求項2】
前記ガス化する材料が、重曹である請求項1に記載の射出成形方法。
【請求項3】
前記射出充填完了後、1秒から5秒までの時間範囲内で、金型装置の型締力を低下させる請求項1から請求項2までのいずれか1項に記載の射出成形方法。
【請求項4】
前記射出完了後、型締力を低下させてから、わずかに型開きする請求項3記載の射出成形方法。
【請求項5】
前記意匠面を形成する金型キャビティ面の外周部にシール部を配して、成形した樹脂の間に空気が流入することを防止する請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−192714(P2012−192714A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60260(P2011−60260)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【Fターム(参考)】