説明

射出成形機の型開閉速度の制御方法および装置

【課題】トグル式の射出成形機において、可動プラテンの速度の急激な切換りがないようにトグル機構のクロスヘッドを制御する射出成形機の型開閉速度の制御方法および装置を提供すること。
【解決手段】トグル式の型締機構を有する射出成形機において、クロスヘッドの位置に対応させてクロスヘッド速度を設定し、前記クロスヘッド速度と前記トグルリンクの速度増幅率に基づいてクロスヘッド位置毎の前記可動プラテンの速度を求め、前記求めた可動プラテン速度が予め設定された可動プラテン速度を超えるクロスヘッド位置の区間(区間B)を求め、前記求められた区間(区間B)において可動プラテン速度が前記予め設定された可動プラテン速度となるクロスヘッド速度を前記速度増幅率と前記設定された可動プラテン速度とに基づいてクロスヘッド位置毎に求めて、可動プラテンの型開閉動作を行うことを特徴とする射出成形機の型開閉速度の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の型開閉速度の制御方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トグル式の型締機構では、クロスヘッドの前後進によってトグルを伸縮して可動プラテンの開閉を行う。可動プラテンの速度はトグル機構によって増幅されるため、クロスヘッドを一定速度で動作させても可動プラテンが加速し、さらには、所定の位置で減速へと切り換わる(例えば、特許文献1参照)。このような加速から減速への切り換え位置では、機械的な衝撃が発生し振動や騒音の原因となる。
【0003】
特許文献1に開示された技術は、クロスヘッドの位置に応じて停止時の減速度を制御することにより、前記の可動プラテンの特性による衝撃を抑えるものであるが、クロスヘッドが一定速度で動作している際に可動プラテンが加速して減速することにより生じる衝撃については、その対策を何ら開示するものではない。
【0004】
一方、特許文献2に開示された技術は、停止位置から加速をする際の加速度を前記の可動プラテンの特性を考慮して効率よく加速するものであるが、特許文献1に開示された技術と同様に、クロスヘッドが一定速度で動作している際に、可動プラテンが加速し減速することにより生じる衝撃については、その対策を何ら開示するものではない。
【0005】
さらに、特許文献3に開示された技術では、可動プラテンの位置と速度を設定し、設定した位置と速度になるようにクロスヘッドの移動を制御することが開示されている。この文献に開示された技術は、可動プラテンの速度が常に設定値になるように制御するものであり、これにより、可動プラテンの加速から減速に急激に切り換わることを防ぐことができる。しかしながら、この技術では、常に可動プラテン速度が設定値になるように制御するので、設定によっては衝撃が発生しないような位置でクロスヘッド速度が制限され、本来の機械性能を十分発揮できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−155063号公報
【特許文献2】特開2010−111021号公報
【特許文献3】特開昭63−112136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トグル機構を有する型締機構では、可動プラテンを前後進させるトグル機構を屈伸するクロスヘッドを一定速度で動作させた場合でも、トグルの速度増幅機構により可動プラテンは加速・減速する。そして、加速から減速への切り換えが急激に行われると衝撃が発生する。このため、従来はクロスヘッドの移動速度を一様に下げ、これにより可動プラテンの速度を下げて可動プラテンの加速度を抑え、衝撃を抑えることが行われてきた。しかしながら、速度を一様に下げることは型開閉時間、さらには、成形サイクル全体の時間が長くなることとなり、生産性の低下を招いてしまう問題があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、トグル機構によって可動プラテンを開閉する射出成形機において、可動プラテンの速度が加速から減速に急激に切り換わることがないようにトグル機構のクロスヘッドを制御する射出成形機の型開閉速度の制御方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の請求項1に係る発明は、クロスヘッドを前後進させることによってトグルリンクを伸縮して可動プラテンを動作させる型締機構を有する射出成形機において、前記クロスヘッドの位置に対応させてクロスヘッド速度を設定し、前記クロスヘッド速度と前記トグルリンクの速度増幅率に基づいてクロスヘッド位置毎の前記可動プラテンの速度を求め、
前記求めた可動プラテン速度が予め設定された可動プラテン速度を超えるクロスヘッド位置の区間を求め、前記求められた区間において可動プラテン速度が前記予め設定された可動プラテン速度となるクロスヘッド速度を前記速度増幅率と前記設定された可動プラテン速度とに基づいてクロスヘッド位置毎に求め、前記求められた区間では前記求められたクロスヘッド位置毎のクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行ない、それ以外のクロスヘッド位置では前記設定されたクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行うことを特徴とする射出成形機の型開閉速度の制御方法である。
【0010】
請求項2に係る発明は、クロスヘッドを前後進させることによってトグルリンクを伸縮して可動プラテンを動作させる型締機構を有する射出成形機において、前記クロスヘッドの位置に対応させてクロスヘッドの速度を設定し、前記クロスヘッド速度と前記トグルリンクの速度増幅率と可動プラテン質量と金型質量とに基づいてクロスヘッド位置毎の前記可動プラテンと金型の合計運動量を求め、前記求めた可動プラテンと金型の合計運動量が予め設定された可動プラテンと金型の合計運動量を超える区間を求め、前記求められた区間において前記可動プラテンと金型の合計運動量が前記設定された可動プラテンと金型の合計運動量となるクロスヘッド速度を前記速度増幅率と前記予め設定された合計運動量と可動プラテンおよび金型の質量とに基づいてクロスヘッド位置毎に求め、前記求められた区間ではクロスヘッド位置毎のクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行ない、それ以外のクロスヘッド位置では前記設定されたクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行うことを特徴とする射出成形機の型開閉速度の制御方法である。
【0011】
請求項3に係る発明は、クロスヘッドを前後進させることによってトグルリンクを伸縮して可動プラテンを動作させる型締機構を有する射出成形機であって、前記クロスヘッドの位置に対応させてクロスヘッド速度を設定する設定部と、該クロスヘッド速度と前記トグルリンクの速度増幅率に基づいてクロスヘッド位置毎の前記可動プラテンの速度を求める可動プラテン速度演算部と、前記求めた可動プラテン速度が予め設定された可動プラテン速度を超えるクロスヘッド位置の区間を求める区間演算部と、前記求められた区間において可動プラテン速度が前記予め設定された可動プラテン速度となるクロスヘッド速度を前記速度増幅率と前記設定された可動プラテン速度とに基づいてクロスヘッド位置毎に求めるクロスヘッド速度演算部と、を備え、前記求められた区間では前記クロスヘッド位置毎のクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行ない、それ以外のクロスヘッド位置では前記設定されたクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行うことを特徴とする射出成形機の型開閉速度の制御装置である。
【0012】
請求項4に係る発明は、クロスヘッドを前後進させることによってトグルリンクを伸縮して可動プラテンを動作させる型締機構を有する射出成形機において、前記クロスヘッドの位置に対応させてクロスヘッドの速度を設定する設定部と、前記クロスヘッド速度と前記トグルリンクの速度増幅率と可動プラテン質量と金型質量とに基づいてクロスヘッド位置毎の前記可動プラテンと金型の合計運動量を求める合計運動量演算部と、前記求めた可動プラテンと金型の合計運動量が予め設定された可動プラテンと金型の合計運動量を超える区間を求める区間演算部と、前記求められた区間において前記可動プラテンと金型の合計運動量が前記設定された可動プラテンと金型の合計運動量となるクロスヘッド速度を前記速度増幅率と前記予め設定された合計運動量と可動プラテンおよび金型の質量とに基づいてクロスヘッド位置毎に求めるクロスヘッド速度演算部と、を備え、前記求められた区間では前記求められたクロスヘッド位置毎のクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行ない、それ以外のクロスヘッド位置では前記設定されたクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行うことを特徴とする射出成形機の型開閉速度の制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、トグル機構によって可動プラテンを開閉する射出成形機において、可動プラテンの速度が加速から減速に急激に切り換わることがないようにトグル機構のクロスヘッドを制御する射出成形機の型開閉速度の制御方法および装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用する射出成形機の構成図である。
【図2】ユーザが設定する型閉工程の速度設定例を説明する図である。
【図3】所定のクロスヘッド位置毎のクロスヘッド速度を説明する図である。
【図4】クロスヘッドの位置、速度増幅率、クロスヘッド速度、可動プラテン速度の関係を説明するグラフである。
【図5】本発明によるクロスヘッド速度を説明する図である。
【図6】速度制限例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明による型開閉速度の制御を行う射出成形機の構成図である。射出成形機Mは、機台上(図示省略)に型締部Mc、および射出部Miを備える。射出部Miは樹脂材料(ペレット)を加熱溶融し、当該溶融樹脂を金型40のキャビティ内に射出するものである。型締部Mcは主に金型40(可動側金型40a,固定側金型40b)の開閉を行うものである。
【0016】
まず、射出部Miを説明する。射出シリンダ1の先端にはノズル2が取り付けられ、射出シリンダ1内には、スクリュ3が挿通されている。スクリュ3には、スクリュ3に掛る圧力により樹脂圧力を検出するロードセル等を用いた樹脂圧力センサ5が設けられている。樹脂圧力センサ出力信号は、A/D変換器16によりデジタル信号に変換されサーボCPU15に入力する。
【0017】
スクリュ3は、スクリュ回転用サーボモータM2により、プーリ,ベルト等で構成された伝動機構6を介して回転させられる。また、スクリュ3は、スクリュ前後進用サーボモータM1によって、プーリ,ベルト,ボールねじ/ナット機構などの回転運動を直線運動に変換する機構を含む伝動機構7を介して駆動され、スクリュ3の軸方向に移動させられる。なお、符号P1はスクリュ前後進用サーボモータM1の位置,速度を検出することによって、スクリュ3の軸方向の位置,速度を検出する位置・速度検出器であり、符号P2はサーボモータM2の位置,速度を検出することによって、スクリュ3の軸周り回転位置,速度を検出する位置・速度検出器である。符号4は射出シリンダ1に樹脂を供給するホッパである。
【0018】
次に、型締部Mcを説明する。型締部Mcは、可動プラテンである可動プラテン30を前後進させる可動プラテン前後進モータM3、リアプラテン31、成形品を金型から押し出すエジェクタピンを突き出すためのエジェクタ前後進モータM4、可動プラテン30、タイバー32、固定プラテン33、クロスヘッド34、エジェクタ機構35、複数のトグルリンクを連結して構成されるトグル機構36を備える。リアプラテン31と固定プラテン33とは複数本のタイバー32で連結されており、可動プラテン30はタイバー32にガイドされるように配置されている。可動プラテン30に可動側金型40a,固定プラテン33に固定側金型40bが取り付けられている。トグル機構36は、可動プラテン前後進モータM3によって駆動されるボールねじ軸38に取り付けられたクロスヘッド34を進退させることによって、トグル機構36を作動させることができる。この場合、クロスヘッド34を前進(図における右方向に移動)させると、可動プラテン30が前進させられて型閉じが行われる。そして、可動側金型40aと固定側金型40bが接触後、クロスヘッド34をトグル機構36が完全に伸長するまでさらに前進させることにより型締力を発生させる。
リアプラテン31には型締位置調整用モータM5が配設されている。型締位置調整用M5の回転軸には、図示しない駆動用歯車が取り付けられている。図示しない全てのタイバーナットの歯車には図示しない別の歯車によって前記駆動用歯車の回転力の回転力が伝達するようになっている。すなわち、型締位置調整用モータM5を駆動すると、この伝達機構によってタイバー32のねじ部37に螺合されたタイバーナットが同期して回転させられる。これにより、型締位置調整用モータM5を所定の方向に所定の回転数だけ回転させて、リアプラテン31を所定の距離だけ進退させることができる。型締位置調整用モータM5は図示されるようにサーボモータが好ましく、回転位置検出用の位置検出器P5を備えている。位置検出器P5によって検出された型締位置調整用モータM5の回転位置の検出信号はサーボCPU15に入力する。
【0019】
射出成形機Mの制御装置100は、数値制御用のマイクロプロセッサであるCNCCPU20、プログラマブルマシンコントローラ用のマイクロプロセッサであるPMCCPU17、及びサーボ制御用のマイクロプロセッサであるサーボCPU15を有し、バス26を介して相互の入出力を選択することにより各マイクロプロセッサ間で情報伝達が行えるように構成されている。
【0020】
サーボCPU15には、位置ループ,速度ループ,電流ループの処理を行うサーボ制御専用の制御プログラムを格納したROM13およびデータの一時記憶に用いられるRAM14が接続されている。また、サーボCPU15は、A/D(アナログ/デジタル)変換器16を介して射出成形機本体側に設けられた樹脂圧力センサ5からの圧力信号を検出できるように接続されている。サーボCPU15には、サーボCPU15からの指令に基づいて、射出軸に接続された射出用サーボモータM1,スクリュ回転軸に接続されたスクリュ回転用サーボモータM2を駆動するサーボアンプ11,12が接続され、各サーボモータM1,M2に取り付けられた位置・速度検出器P1,P2からの出力がサーボCPU15に帰還されるようになっている。各サーボモータM1,M2の回転位置は、位置・速度検出器P1,P2からの位置のフィードバック信号に基づいてサーボCPU15により算出され、各現在位置記憶レジスタに更新記憶される。
【0021】
金型の型締めを行う型締め軸を駆動するサーボモータM3,成形品を金型から取り出すエジェクタ軸用サーボモータM4には、それぞれサーボアンプ8,9が接続されている。各サーボモータM3,M4に取り付けられた位置・速度検出器P3,P4からの出力がサーボCPU15に帰還されるようになっている。各サーボモータM3,M4の回転位置は位置・速度検出器P3,P4からの位置のフィードバック信号に基づいてサーボCPU15により算出され、各現在位置記憶レジスタに更新記憶される。
【0022】
PMCCPU17には射出成形機のシーケンス動作を制御するシーケンスプログラム等を記憶したROM18および演算データの一時記憶等に用いられるRAM19が接続され、CNCCPU20には、射出成形機を全体的に制御する自動運転プログラム、本発明に関連した型開閉制御を実現する制御プログラムなどの各種プログラムを記憶したROM21および演算データの一時記憶に用いられるRAM22が接続されている。成形データ保存用RAM23は、不揮発性のメモリであって、射出成形作業に関する成形条件と各種設定値,パラメータ,マクロ変数等を記憶する成形データ保存用にメモリである。表示装置/MDI(手動データ入力装置)25はインタフェース(I/F)を介してバス26に接続され、機能メニューの選択および各種データの入力操作等が行えるようになっている。さらに、数値データ入力用のテンキーおよび各種のファンクションキー等が設けられている。なお、表示装置としては、LCD(液晶表示装置)、CRT、その他の表示装置を用いたものでもよい。
【0023】
以上の射出成形機Mの構成により、PMCCPU17が射出成形機全体のシーケンスを制御し、CNCCPU20がROM21の運転プログラムや成形データ保存用RAM23に格納された成形条件等に基づいて各軸のサーボモータに対して移動指令の分配を行い、サーボCPU15は各軸に対して分配された移動指令と位置・速度検出器P1,P2,P3,P4,P5で検出された位置および速度のフィードバック信号等に基づいて、ディジタルサーボ処理を実行し、サーボモータM1,M2,M3,M4,M5を駆動制御する。
【0024】
上記射出成形機Mを用いた成形動作を説明する。可動プラテン前後進モータM3を正方向に回転させると、ボールねじ軸38が正方向に回転させられ、ボールねじ軸38に螺合したクロスヘッド34は前進させられ、トグル機構36が作動させられると、可動プラテン30が前進させられる。
【0025】
可動プラテン30に取り付けられた可動側金型40aが固定側金型40bと接触すると(型閉状態)、型締工程に移行する。型締工程では、可動プラテン前後進モータM3を更に正方向に駆動することで、トグル機構36が伸長することによって金型40に型締力が発生する。そして、射出部Miに設けられたスクリュ前後進用サーボモータM1が駆動されてスクリュ3の軸方向に前進することにより、金型40内に形成されたキャビティ空間に溶融樹脂が充填される。型開きを行う場合、可動プラテン前後進モータM3を逆方向に駆動すると、ボールねじ軸38が逆方向に回転させられる。それに伴って、クロスヘッド34が後退し、トグル機構36が屈曲する方向に作動し、可動プラテン30がリアプラテン31の方向に後退する。型開工程が完了すると、成形品を可動側金型40aから押し出すエジェクタピンを突き出すためのエジェクタ前後進モータM4が作動する。これによって、エジェクタピン(図示せず)が可動側金型40aの内面から突きだされ、可動側金型40a内の成形品は可動側金型40aより突き出される。
【0026】
次に、本発明に係る可動プラテン30の型閉および型開の動作について説明する。
可動プラテン30は、トグル機構36を介して可動プラテン前後進モータM3で駆動されるものであるから、可動プラテン前後進モータM3の速度、加速度と可動プラテン30の移動速度、加速度は比例関係になく、異なったものである。一方、可動プラテン30には金型40の可動側金型40aが固定されているものであり、この金型40の型閉、型締め動作を行うため、可動プラテン30の位置、速度、加速度を制御する必要がある。
【0027】
この可動プラテン30は、可動プラテン前後進モータM3で駆動されるものであるから、可動プラテン30の位置、速度、加速度の制御は可動プラテン前後進モータM3の位置、速度、加速度の制御を行うことによって制御されることになる。しかし、可動プラテン前後進モータM3の位置、速度、加速度と可動プラテン30の位置、速度、加速度とは比例関係にないので、可動プラテン前後進モータM3を一定の回転速度で回転させたとしても、可動プラテン30の速度、加速度は可動プラテン前後進モータM3の位置によって変化する。一方、可動プラテン前後進モータM3とクロスヘッド34とは所定の比例関係で動作するので、クロスヘッド34の位置、速度、加速度が決まれば、可動プラテン前後進モータM3の位置、速度、加速度も決まることになる。なお、速度に応じた加速度でモータの速度を制御する方式は公知である。
【0028】
そこでまず、例えば図2(b)に示される型開閉動作におけるクロスヘッド34の位置(以下、「クロスヘッド位置」という)に対応させたクロスヘッド34の速度(以下、「クロスヘッド速度」という)が、図1に示される本発明を適用する射出成形機Mに設けられた表示装置/MDI(手動データ入力装置)25の入力手段を用いて設定される。設定されたクロスヘッド位置とクロスヘッド速度は、図2(a)に示されるグラフとして表示装置/MDI(手動データ入力装置)25の表示装置の表示画面に表示される。
【0029】
そして、射出成形機Mの制御装置100が該クロスヘッド速度と型開閉動作を行うトグル機構36の速度増幅率とに基づいて、クロスヘッド位置に対応する可動プラテンの速度(以下、「可動プラテン速度」という)を計算により求める。該計算によって求められた可動プラテン速度が予め設定された上限速度以上になった場合には、該上限速度が可動プラテン速度となるようにクロスヘッド位置毎のクロスヘッド速度を前記速度増幅率に基づいて計算により求め、求められたクロスヘッド速度でクロスヘッドを移動させる。
【0030】
具体的には、クロスヘッド位置Pcに対応した可動プラテン速度をVm(Pc)、クロスヘッド位置Pcに対応したクロスヘッド速度をVc(Pc)、トグルリンクの機構の速度増幅率G(Pc)とすると、可動プラテン速度Vm(Pc)は数1式で表すことができる。
Vm(Pc)=Vc(Pc)・G(Pc) (数1式)
ここで、Pcはクロスヘッド位置であり、速度増幅率G(Pc)はクロスヘッド位置Pcの関数であることは周知である(例えば、特開2009−251804号公報を参照)。
【0031】
上述したように、射出成形機Mの表示装置/MDI(手動データ入力装置)25の表示画面でクロスヘッド位置Pcとそれに対応するクロスヘッド速度Vc(Pc)が設定されると(図2参照)、制御装置100は前記設定から所定のクロスヘッド位置Pc毎のクロスヘッド速度Vc(Pc)を読み取り(図3参照)、クロスヘッド位置(Pc)とクロスヘッド速度(Vc(Pc))の関係をメモリ(例えば、RAM22)に記憶する。次に、メモリ上に記憶されたクロスヘッド位置(Pc)毎に式1を使用して可動プラテン速度Vm(Pc)を求める。
【0032】
ここで、可動プラテン速度Vm(Pc)が予め設定された上限速度VL以上になった場合(すなわちVm(Pc)≧VL)には、Vm(Pc)=VLとして式1を解くことによりクロスヘッド位置Pcに対応したクロスヘッド速度Vc(Pc)を求めてクロスヘッド速度設定値とし、Vm(Pc)<VLではVc(Pc)は前記メモリ上に記録されたクロスヘッド速度Vc(Pc)をクロスヘッド速度設定値とする。ここで、上限速度VLは機械の種類やサイズ毎に実験を行い、振動や音の測定結果により予め設定しておけばよい。
【0033】
可動プラテン速度Vm(Pc)とクロスヘッド位置Pcとの関係は図4のようになるので、上限速度VLと可動プラテン速度Vm(Pc)とは2点のクロスヘッド位置で交わる(図5参照)。そこで、数1式とVm(Pc)=VLの交点(2点)を予め求めた後で、これらの2点間の所定のクロスヘッド位置Pc毎の可動プラテン速度Vm(Pc)を求めて上記と同様にVm(Pc)=VLとなるようなクロスヘッド速度Vc(Pc)を求めるようにしてもよい。なお、区間Bは、可動プラテン30の位置が予め設定された可動プラテン速度(可動プラテン30の速度)を超えるクロスヘッド位置の区間であり、区間A,区間Cは、可動プラテン速度が予め設定された可動プラテン速度以下の区間である。
【0034】
また、可動プラテン30の慣性力は可動プラテン30の質量と可動プラテン30に取り付ける金型(可動側金型40a)の質量の合計で決まり、質量が大きく慣性力が大きいほうが可動プラテン30が加速し減速する際の衝撃も大きくなる。金型質量は金型毎に異なるため上限速度VLは金型質量を考慮して補正する必要がある。そこで、あらかじめ基準となる金型(以下、「基準金型」という)で、振動や音が適正となる上限速度VLを決めておき、基準金型との実際に使用する金型との質量比に基づいて上限速度VLを補正するようにしてもよい。
【0035】
VLa=VLb*(Mb+Mm)/(Ma+Mm) (数2式)
Ma:実際に使用する金型の質量
Mb:基準金型の質量
Mm:可動プラテンの質量
VLa:実際の金型での上限速度
VLb:基準金型での上限速度
なお、基準金型の質量や実際に使用する金型の質量は、射出成形機の画面上でユーザが設定した値を使用してもよいし、実際に型開閉動作を行って、可動プラテンが加速する際の加速度を加速度センサによって測定すると同時に可動プラテンを駆動するモータトルクを測定して、数3式により求めるようにしてもよい。
Ma+Mm(またはMb+Mm)=Fm/A (数3式)
A:実際に測定された可動プラテンの加速度
Fm:可動プラテンを開閉するモータのトルクから計算される可動プラテンの推力
【0036】
上記の方法ではいずれも上限速度VLを射出成形機の表示装置の画面から入力または計算によって設定する手法であるが、速度を設定する代わりに可動プラテン(金型を含む)の運動量の上限値を設定して、運動量が上限値以下になるようにクロスヘッド速度Vc(Pc)を制御するようにしてもよい。この場合には最初にクロスヘッド位置Pcに対応する可動プラテン34の運動量を数4式で求める。
【0037】
Pm(Pc)=(Ma+Mm)*Vm(Pc) (数4式)
Pm:クロスヘッド位置に対応した可動プラテン(金型を含む)の運動量
ここで、可動プラテン+金型の質量(Ma+Mm)はクロスヘッドの位置によらず一定であるので、可動プラテン速度と可動プラテンの運動量とは等価である。
【0038】
次に、Pm(Pc)が予め設定された運動量の上限値PL以上になった場合(すなわちPm(Pc)≧PL)にはPm(Pc)=PLとして数4式を解くことによりクロスヘッド位置Pcに対応する可動プラテン速度Vm(Pc)を求め、さらに数1式を利用してクロスヘッド速度設定値Vc(Pc)とし、Pm(Pc)<PLではVc(Pc)は前記メモリ上に記録されたVc(Pc)をクロスヘッド速度設定値とする。ここで、運動量PLは射出成形機の画面上で設定できるようにしてユーザが機械の振動や音で判断しながら最適な値を設定してもよいし、機械種類やサイズに応じた固有値にしてもよい。
【0039】
ここで、運動量Pm(Pc)とクロスヘッド位置Pcとの関係も図4と同様のグラフとなるので、運動量Pm(Pc)とクロスヘッド位置Pcと数4式とPm(Pc)=PLの交点(2点)を予め求めた後で、これらの2点間について所定のクロスヘッド位置毎の運動量Pm(Pc)を求めて上記と同様にPm(Pc)=PLとなるようなクロスヘッド速度Vc(Pc)を求めるようにしてもよい。
【0040】
以上のように可動プラテンの上限速度や運動量の上限値を設けてクロスヘッド速度を制御することによって、可動プラテン速度が加速から減速に急激に切り換わるのを防止する。本発明では、衝撃が発生する区間のみでクロスヘッド速度を低下させるので、サイクル時間が長くなることを最小限に抑え、かつ衝撃を抑制することができる。
【符号の説明】
【0041】
Pc クロスヘッド位置
Vc(Pc) クロスヘッド速度
Vm(Pc) 可動プラテン速度
G(Pc) 速度増幅率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロスヘッドを前後進させることによってトグルリンクを伸縮して可動プラテンを動作させる型締機構を有する射出成形機において、
前記クロスヘッドの位置に対応させてクロスヘッド速度を設定し、
前記クロスヘッド速度と前記トグルリンクの速度増幅率に基づいてクロスヘッド位置毎の前記可動プラテンの速度を求め、
前記求めた可動プラテン速度が予め設定された可動プラテン速度を超えるクロスヘッド位置の区間を求め、
前記求められた区間において可動プラテン速度が前記予め設定された可動プラテン速度となるクロスヘッド速度を前記速度増幅率と前記設定された可動プラテン速度とに基づいてクロスヘッド位置毎に求め、
前記求められた区間では前記求められたクロスヘッド位置毎のクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行ない、それ以外のクロスヘッド位置では前記設定されたクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行うことを特徴とする射出成形機の型開閉速度の制御方法。
【請求項2】
クロスヘッドを前後進させることによってトグルリンクを伸縮して可動プラテンを動作させる型締機構を有する射出成形機において、
前記クロスヘッドの位置に対応させてクロスヘッドの速度を設定し、
前記クロスヘッド速度と前記トグルリンクの速度増幅率と可動プラテン質量と金型質量とに基づいてクロスヘッド位置毎の前記可動プラテンと金型の合計運動量を求め、
前記求めた可動プラテンと金型の合計運動量が予め設定された可動プラテンと金型の合計運動量を超える区間を求め、
前記求められた区間において前記可動プラテンと金型の合計運動量が前記設定された可動プラテンと金型の合計運動量となるクロスヘッド速度を前記速度増幅率と前記予め設定された合計運動量と可動プラテンおよび金型の質量とに基づいてクロスヘッド位置毎に求め、
前記求められた区間ではクロスヘッド位置毎のクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行ない、それ以外のクロスヘッド位置では前記設定されたクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行うことを特徴とする射出成形機の型開閉速度の制御方法。
【請求項3】
クロスヘッドを前後進させることによってトグルリンクを伸縮して可動プラテンを動作させる型締機構を有する射出成形機であって、
前記クロスヘッドの位置に対応させてクロスヘッド速度を設定する設定部と、
該クロスヘッド速度と前記トグルリンクの速度増幅率に基づいてクロスヘッド位置毎の前記可動プラテンの速度を求める可動プラテン速度演算部と、
前記求めた可動プラテン速度が予め設定された可動プラテン速度を超えるクロスヘッド位置の区間を求める区間演算部と、
前記求められた区間において可動プラテン速度が前記予め設定された可動プラテン速度となるクロスヘッド速度を前記速度増幅率と前記設定された可動プラテン速度とに基づいてクロスヘッド位置毎に求めるクロスヘッド速度演算部と、を備え、
前記求められた区間では前記クロスヘッド位置毎のクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行ない、それ以外のクロスヘッド位置では前記設定されたクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行うことを特徴とする射出成形機の型開閉速度の制御装置。
【請求項4】
クロスヘッドを前後進させることによってトグルリンクを伸縮して可動プラテンを動作させる型締機構を有する射出成形機において、
前記クロスヘッドの位置に対応させてクロスヘッドの速度を設定する設定部と、
前記クロスヘッド速度と前記トグルリンクの速度増幅率と可動プラテン質量と金型質量とに基づいてクロスヘッド位置毎の前記可動プラテンと金型の合計運動量を求める合計運動量演算部と、
前記求めた可動プラテンと金型の合計運動量が予め設定された可動プラテンと金型の合計運動量を超える区間を求める区間演算部と、
前記求められた区間において前記可動プラテンと金型の合計運動量が前記設定された可動プラテンと金型の合計運動量となるクロスヘッド速度を前記速度増幅率と前記予め設定された合計運動量と可動プラテンおよび金型の質量とに基づいてクロスヘッド位置毎に求めるクロスヘッド速度演算部と、を備え、
前記求められた区間では前記求められたクロスヘッド位置毎のクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行ない、それ以外のクロスヘッド位置では前記設定されたクロスヘッド速度にしたがって前記可動プラテンの型開閉動作を行うことを特徴とする射出成形機の型開閉速度の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−228822(P2012−228822A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98473(P2011−98473)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】