説明

導電体膜およびその製造方法

【課題】低抵抗であると共に耐塩化性及び耐熱性に優れた導電体膜およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】導電体膜3が、Mgを、0.5〜2質量%含有し、さらにEuを、0.05〜1質量%含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成の銀合金で構成されている。この導電体膜3の製造方法は、Mgを、0.5〜2質量%含有し、さらにEuを、0.05〜1質量%含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成の銀合金で構成されているスパッタリングターゲットを用いてスパッタにより成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばタッチパネル用の配線膜に用いられる導電体膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるスマートフォンと呼ばれる携帯電話機等の携帯情報端末やタブレット型の電子機器などではタッチパネルが広く採用されている。このタッチパネルでは、指先を検知するパネル領域に検出用電極としてITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の透明電極及び透明配線が形成され、さらにこれらに接続され透明配線より低抵抗の金属薄膜で形成された引き出し配線が使用されている。例えば、特許文献1には、ITOからなる第1の配線に接続されたAg又はCuからなる第2の配線を有した電子機器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−31705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術においても、以下の課題が残されている。
タッチパネルの引き出し配線などに用いられる導電体膜では、例えば純Agを用いるとマイグレーションが生じて短絡不良が発生しやすくなるため、Ag合金膜の採用が検討されている。
また、タッチパネルの引き出し配線では、環境からの塩素成分に加え、指先を使用して操作するために人体からの汗など、塩素成分の影響を受ける可能性が高い。このため、引き出し配線用の導電体膜として塩素に対する耐性が求められている。
さらに、タッチパネルの製造工程において、引き出し配線を形成した後に他の工程で熱処理が施される場合があるが、この際に引き出し配線の膜中のAg等が凝集して欠陥が生じることがあり、導電体膜として十分な耐熱性も要求されている。
【0005】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、低抵抗であると共に耐塩化性及び耐熱性に優れた導電体膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、導電体膜について研究を進めたところ、Ag合金に一定量のMgとEuとを含有させることで、タッチパネルの引き出し配線等に必要とされる低抵抗を維持しつつ高い耐塩化性及び耐熱性を得ることができることを見出した。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
【0007】
第1の発明に係る導電体膜は、Mgを、0.5〜2質量%含有し、さらにEuを、0.05〜1質量%含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成の銀合金で構成されていることを特徴とする。
この導電体膜では、Mgを、0.5〜2質量%含有し、さらにEuを、0.05〜1質量%含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成の銀合金で構成されているので、タッチパネルの引き出し配線等に要求される比抵抗を維持しつつ高い耐塩化性及び耐熱性を得ることができる。
【0008】
Mg:
Mgは、耐塩化性を高める作用を有する。
Mgを上記含有量の範囲に設定した理由は、Mgが0.5質量%未満であると、耐塩化性が十分ではなく、Mgが2質量%を超えると比抵抗が高くなり、配線膜の材料として十分な低抵抗が得られないためである。
【0009】
Eu:
Euは、Mgとともに含有することにより膜の耐熱性を高める作用を有する。
Euを上記含有量の範囲に設定した理由は、Euが0.05質量%未満であると、熱処理によって膜が凝集し、欠陥が生じてしまうためである。また、Euが1質量%を越えると、耐塩化性が低下するためである。
【0010】
また、第2の発明に係る導電体膜の製造方法は、Mgを、0.5〜2質量%含有し、さらにEuを、0.05〜1質量%含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成の銀合金で構成されているスパッタリングターゲットを用いてスパッタにより成膜することを特徴とする。
すなわち、この導電体膜の製造方法では、Mgを、0.5〜2質量%含有し、さらにEuを、0.05〜1質量%含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成の銀合金で構成されているスパッタリングターゲットを用いてスパッタにより成膜することで、上記本発明の導電体膜を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
本発明の導電体膜によれば、上記含有量範囲でMgおよびEuを含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成の銀合金で構成されているので、配線膜用、特にタッチパネルの引き出し配線に用いられる導電体膜として要求される比抵抗を維持しつつ高い耐塩化性及び耐熱性を得ることができ、高信頼性を有するタッチパネルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る導電体膜およびその製造方法の一実施形態において、タッチパネルの配線構造を簡易的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る導電体膜およびその製造方法の一実施形態を、図1を参照しながら説明する。
【0014】
本実施形態の導電体膜は、Mgを、0.5〜2質量%含有し、さらにEuを、0.05〜1質量%含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成の銀合金で構成されている。
この導電体膜は、例えば図1に示すように、タッチパネルの引き出し配線として採用される。
すなわち、このタッチパネルの引き出し配線構造は、ガラス板やPETフィルム等の基材1上に、透明電極膜(ITOなど)2が形成され、さらにその上に引き出し配線膜3が積層された層構造を有しており、本実施形態の導電体膜は、引き出し配線膜3として用いられる。
【0015】
本実施形態の導電体膜の製造方法は、Mgを、0.5〜2質量%含有し、さらにEuを、0.05〜1質量%含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成の銀合金で構成されているスパッタリングターゲットを用いてスパッタにより成膜することで形成される。
【0016】
上記スパッタリングターゲットは、原料として純度:99.99質量%以上の高純度Ag、純度:99.9質量%以上の高純度Mg、純度:99質量%以上の高純度Euを用意し、まず、高純度Agを高真空もしくは不活性ガス雰囲気中で溶解して得られた高純度Ag溶湯を作製し、これらのAg溶湯にMgを所定の含有量となるように添加し、このようにして得られたMg含有Ag合金溶湯にEuを添加し、得られたAg合金溶湯を鋳型に鋳造してインゴットを作製し、これらインゴットを冷間加工したのち機械加工することにより製造することができる。このようにして作製したAg合金スパッタリングターゲットを用い、通常のスパッタリング装置を用いて本実施形態の導電体膜を形成することができる。なお、Euは、予め作成したAgEu母合金として添加すると比率制御の観点からより好ましい。
【0017】
このように本実施形態の導電体膜では、Mgを、0.5〜2質量%含有し、さらにEuを、0.05〜1質量%含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成の銀合金で構成されているので、タッチパネルの引き出し配線等に要求される比抵抗を維持しつつ高い耐塩化性及び耐熱性を得ることができる。
【実施例】
【0018】
次に、本発明に係る導電体膜およびその製造方法の実施例として、様々な導電体膜を作製し、評価した結果を説明する。
【0019】
まず、原料として純度:99.99質量%以上のAg、純度:99.9質量%以上のMg、および純度:99質量%以上のEuを用意した。上記Agを高周波真空溶解炉で溶解してAg溶湯を作製し、このAg溶湯にMgを添加し、さらにEuを添加して溶解し鋳造することによりインゴットを作製した。得られたインゴットを冷間圧延したのち、大気中で600℃、2時間保持の熱処理を施し、次いで機械加工することにより直径:152.4mm、厚さ:6mmの寸法を有する本発明の実施例ターゲット1〜10及び比較例ターゲット11〜14を作製した。
【0020】
次に、本発明の実施例ターゲット1〜10を用いてスパッタすることでそれぞれ導電体膜の実施例1〜10を作製した。また、同様に、比較例ターゲット11〜14を用いてスパッタすることでそれぞれ導電体膜の比較例11〜14を作製した。
【0021】
(a)膜の比抵抗測定
上記本実施例ターゲット1〜10及び比較例ターゲット11〜14をそれぞれ無酸素銅製のバッキングプレートにはんだ付けし、これを直流マグネトロンスパッタ装置に装着した。
【0022】
次に、真空排気装置にて直流マグネトロンスパッタ装置内を5×10−5Pa以下まで排気した後、Arガスを導入して0.5Paのスパッタガス圧とし、続いて直流電源にてターゲットに250Wの直流スパッタ電力を印加した。さらに上記ターゲットに対向しかつ70mmの間隔を設けて上記ターゲットと平行に配置した縦:30mm、横:30mmの四角形状のコーニング社製#1737ガラス基板と上記ターゲットとの間にプラズマを発生させ、厚さ:100nmを有し表1に示される成分組成を有する本実施例の導電体膜(実施例1〜10)及び比較例の導電体膜(比較例11〜14)を形成した。
【0023】
これら各導電体膜の成分組成を表1に示す。なお、膜の組成は、別途1μm成膜し、その組成を電子線マイクロプローブアナライザ(EPMA)により測定した。
表1に示される成分組成を有する本発明の実施例1〜10及び比較例11〜14の導電体膜について、その比抵抗を四探針法により測定した。その結果を表1に示す。
【0024】
(b)膜の耐熱性測定
上記ガラス基板上に成膜した本発明の実施例1〜10及び比較例11〜14の各導電体膜を、窒素中、250℃で1時間の熱処理を施した後、膜表面のAFM(原子間力顕微鏡)測定を行い、凝集が生じたか否かについて膜の表面粗さを算出して耐熱性の指標とした。また、比較のために成膜直後の表面粗さについてもAFM測定によって算出した。これらの測定結果を表1に示す。
【0025】
(c)膜の耐塩化性測定
耐塩化性試験を行うために上記ガラス基板と実施例ターゲット1〜10及び比較例ターゲット11〜14との間にプラズマを発生させ、ガラス基板に厚さ:100nmの表1に示される成分組成を有する本発明の実施例1〜10及び比較例11〜14の各導電体膜を形成した。
【0026】
次に、上記ガラス基板上に形成した本発明の実施例1〜10及び比較例11〜14の各導電体膜を、塩化ナトリウムを5質量%含有した塩水中に24時間浸漬させ、腐食の有無を「目視にて」確認した。評価としては、膜の剥離もなく、腐食の検出も見られなかったものを良「○」とし、膜に剥離や腐食の検出が見られたものを不良「×」とした。これらの測定結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
これらの評価結果から本発明の実施例1〜10の導電体膜は、比較例11〜14の導電体膜に比べて耐塩化性又は耐熱性に優れていることがわかる。また、実施例1〜10の導電体膜は、タッチパネルの引き出し配線用の導電体膜として十分に低い比抵抗が得られている。
なお、Mgが本発明の含有量範囲より少ない比較例11とEuが本発明の含有量範囲より多い比較例14では、耐塩化性が不十分であった。また、Mgが本発明の含有量範囲より多い比較例12では、比抵抗が増大してしまい、Euが本発明の含有量範囲より少ない比較例13では、熱処理後の表面粗さが悪化して耐熱性が不十分であった。なお、上記実施例及び比較例では、導電体膜をガラス基板上に成膜して評価したが、ITO膜上に形成しても同様の評価結果が得られる。
【0029】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1…基材、2…透明導電膜、3…引き出し配線膜(本実施形態の導電体膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを、0.5〜2質量%含有し、さらにEuを、0.05〜1質量%含有し、
残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成の銀合金で構成されていることを特徴とする導電体膜。
【請求項2】
Mgを、0.5〜2質量%含有し、さらにEuを、0.05〜1質量%含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる成分組成の銀合金で構成されているスパッタリングターゲットを用いてスパッタにより成膜することを特徴とする導電体膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−76126(P2013−76126A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216468(P2011−216468)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】