説明

導電性インキ

【課題】携帯電話、モバイルパソコン等が軽薄短小化される中で、フレキシブルプリント配線板をコンパクトに収納する際に屈曲しても導電性の低下が起こらず、安価で信頼性の高い導電性回路を提供する。
【解決手段】ビスフェノールとエピクロルヒドリンより合成される高分子量ポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂とロジン系樹脂を用い、導電性物質が導電性物質総量の1重量%未満の脂肪酸で表面処理を行った、比表面積0.3〜4.0m2/g、50%平均粒径が1〜15μmのフレーク状銀粉を用い更にシリコン系および/またはアクリル系消泡剤を用いた導電性インキを金属薄膜から成る回路の屈曲部分にスクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等の印刷手段で必要なパターンを印刷し、エッチング処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路形成のためのプリント基板製造用導電性インキに係り、さらに具体的には、立体的なプリント基板を製造する際に屈曲耐性に乏しい金属箔膜の屈曲部分に導電性インキを用いて画像形成し、エッチング処理を行うことで不必要な金属箔を除去し、屈曲部分を補強した回路形成を行うプリント基板用の導電性インキに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の電子機器においては、小型化、薄型化及び軽量化が求められており、このような電子機器を構成するプリント配線板においても、小型化、薄型化及び高集積化が求められるに至っている。そして、ガラスエポキシ基板等を用いたいわゆるリジッドプリント配線板の他、様々な形態のプリント配線板が実用化されている。例えば、フレキシブルプリント配線板(FPC)や、多層プリント配線板などが実用化されている。フレキシブルプリント配線板は、可撓性を有する可撓性プリント配線板に回路パターンが形成されており、また、薄いことから、プリント配線板の占めるスペースを少なくすることができ、あるいは、筐体が屈曲されることがある電子機器において、広く利用されている。
また、一般的なフレキシブルプリント配線板はポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム等の基材に銅やアルミ箔を貼合若しくは蒸着メッキ方により導電部分を設け、レジストを用いてパターニングし、エッチング処理を施すことで回路形成を行っている。
【0003】
近年携帯電話等の製品性能向上等の要請から、限られた空間を効率よく活用する必要があり、FPCを折り曲げ、屈曲することで大きな面積を有するFPCを小さな筐体に納めている。
【0004】
ここで、金属箔を折り曲げ、屈曲すると金属部分が破断され抵抗値が上昇したり、断線してしまう問題があり、例えば特開2007-242716では屈曲部分を黄銅等の金属板を挟んで
補強する方法が開示されているが、回路の構造が複雑となり、更に薄膜化、小型化に対応し難いと言った問題がある。
【特許文献1】特開2007−242716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム等の基材に銅やアルミ箔を貼合若しくは蒸着メッキ方により導電部分を設け、レジストを用いてパターニングし、エッチング処理を施すことで回路形成を行うフレキシブルプリント配線板は屈曲することで金属部分の破断が生じ回路としての性能および信頼性を損ねるという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の導電性インキは、銅、アルミニウム等の金属箔表面に非常に優れた密着性と回路形成時に酸あるいはアルカリ水溶液に浸漬されるエッチング工程において乾燥被膜のダメージが無く、更に、高温・高湿における吸湿が無いことからその信頼性において非常に優れた性能を有する。
【0007】
すなわち、本発明は、導電性物質およびバインダー成分を含有する導電性インキにおいて、バインダー成分が、ビスフェノールとエピクロルヒドリンより合成される重量平均分子量が40,000〜90,000のポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂を含んでなることを特徴とする導電性インキに関するものである。
【0008】
また、本発明は、バインダー成分が、さらにロジン系樹脂を用いてなることを特徴とする上記の導電性インキに関するものである。
【0009】
さらに、本発明は、ロジン系樹脂がロジンエステル、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂およびロジン変性キシレン樹脂から選ばれる一種または二種以上の樹脂であって、バインダー成分の固形全体に対して5〜40重量%を含むことを特徴とする上記の導電性インキに関するものである。
【0010】
また、本発明は、導電性物質が導電性物質総量の1重量%未満の脂肪酸で表面処理を行った、比表面積0.3〜4.0m2/g、タップ密度2〜4g/cm3、50%平均粒径1〜15μmのフレーク状銀粉を用いることを特徴とする上記の導電性インキに関するものである。
【0011】
さらに、本発明は、ビスフェノールとエピクロルヒドリンとより合成される重量平均分子量が40,000〜90,000のポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂の軟化点が、70〜90℃であることを特徴とする上記の導電性インキに関するものである。
【0012】
また、導電性物質とバインダー成分中の固形分との比が95重量%/5重量%〜70重量%/30重量%であることを特徴とする上記の導電性インキに関するものである。
【0013】
さらに、本発明は、成分中にシリコン系および/またはアクリル系消泡剤を含み、乾燥被膜と精製水との接触角が110度〜133度であることを特徴とする導電性インキに関するものである。
【0014】
さらに、本発明は、金属箔膜とフィルムからなるプリント基板材料に上記の導電性インキを印刷後、エッチング処理にてパターニング処理を施してなることを特徴とする導電回路に関するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明にて得られた導電性インキを金属薄膜から成る回路の屈曲部分にスクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等の印刷手段で必要なパターンを印刷し、エッチング処理を行うことで非常に安価なコストで、屈曲させても抵抗値の上昇を抑制し、更に長期間の使用に耐える信頼性に優れた回路を形成できるようになった。特に成分中にシリコン系および/またはアクリル系消泡剤を含み、乾燥被膜と精製水との接触角が110度〜133度とすることで、乾燥温度を低下させてもエッチングおよび高温高湿耐性に優れる回路を形成できるようになり、ポリオレフィン等の耐熱性に乏しい素材の基材としての利用およびポリエステルフィルムを基材として用いた場合も寸法安定性に優れる回路を形成できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について、実施の形態に基づいて更に詳しく説明するが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明の導電性インキは、導電性物質と、ビスフェノールとエピクロルヒドリンより合成される重量平均分子量が40,000〜90,000のポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂とロジン系樹脂を含むものである。
【0018】
本発明の導電性インキに含まれるビスフェノールとエピクロルヒドリンより合成される重量平均分子量が40,000〜90,000のポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂は、導電性インキのバインダーとして働く成分であり、金属箔に対する密着性、エッチング作業時の耐薬品性、および高温・高湿耐性の塗膜物性に優れているため、導電性回路形成材料として信頼性に優れている。
【0019】
また、ロジン系樹脂は特に耐水性が高く、高温・高湿耐性において優れた性能を有する。
【0020】
更に、ビスフェノールとエピクロルヒドリンより合成される重量平均分子量が40,000〜90,000のポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂とロジン系樹脂をバインダーとして用いることにより、導電性物質の分散流動性が向上し、インキとしての安定性が良好になると共に、塗膜の導電性が高まり、他のバインダー樹脂では得られない低抵抗化が低温短時間の乾燥で可能になる。
【0021】
ここで、ビスフェノールとエピクロルヒドリンより合成される重量平均分子量が40,000〜90,000のポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂の分子量は重量平均分子量が30,000〜70,000好ましくは40,000〜70,000が良い。
【0022】
フェノキシ樹脂の重量平均分子量が30,000以下ではエッチング処理を行う際の耐薬品性が劣り、フェノキシ樹脂の重量平均分子量が70,000を超えると、樹脂の合成が困難となる。
【0023】
ここで、樹脂の重量平均分子量は溶媒としてテトラヒドロキシフランを用いたゲルパーミネーションクロマトグラフ法でポリスチレン換算にて求まる重量平均分子量である。
【0024】
更に、ビスフェノールとエピクロルヒドリンより合成される重量平均分子量が40,000〜90,000のポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂の軟化点は60〜100℃が良い。フェノキシ樹脂の軟化点が60℃よりも低いときは一般的に行われる高温・高湿試験において軟化点以上の温度で保管した場合、樹脂が軟化してしまい断線等の不具合が発生する。また、軟化点が100℃よりも高いとインキ化したときの粘度が高くなり、印刷物の表面状態が粗くなり外観不良を発生し、溶剤を添加して印刷に適する粘度にすることも可能であるが、固形分を低下してしまい、安定した均一な乾燥被膜が得られずにエッチング耐性、高温高湿耐性を低下させてしまう。
【0025】
一方、本発明に用いるロジン系樹脂は、ロジンエステル、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性キシレン樹脂から選ばれる一種または二種以上の樹脂であり、これらロジン系樹脂は疎水性の性能が高い頃から、例えば温度85℃、湿度85%における耐久性試験において、インキの乾燥被膜からの水蒸気の吸収、透過を抑制
することで基材の金属箔膜の腐食を抑制できる。
【0026】
バインダー成分の固形分中に1〜40重量%好ましくは5〜35重量%を添加する。
ロジン系樹脂の配合比率がバインダー成分の固形分中に5重量%以下では高温・高湿に対する耐性向上効果が得られず、35重量%以上を配合すると金属箔に対する密着性が阻害される。
【0027】
本発明の導電性インキ中には、ビスフェノールとエピクロルヒドリンより合成される高分子量ポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂とロジン系樹脂と相溶する、他の樹脂またはその前駆体を含ませることができる。これらは、導電性物質を各種基材に固着させ、印刷インキとしての性能を維持する働きをする。
【0028】
他の樹脂またはその前駆体は、導電性インキのバインダー成分の固形分中に0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の量で用いることができる。
【0029】
他の樹脂としては、例えばポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、スチレン/無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリウレタン樹脂等から選ばれる1種または2種以上を、印刷方法の種類及び使用基材の種類や、回路の用途に応じて使用することができる。
【0030】
本発明に係わる導電性インキは、印刷方法等の種類に応じて、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂肪族系溶剤、芳香族系溶剤、アルコール系溶剤、水等を適量使用することができ、2種類以上を混合して使用することもできる。
【0031】
エステル系溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸(イソ)アミル、酢酸シクロヘキシル、乳酸エチル、酢酸3−メトキシブチル等が挙げられ、ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、イソホロン、γ−ブチルラクトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。また、グリコールエーテル系溶剤としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、及びこれらモノエーテル類の酢酸エステル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のジアルキルエーテル類が挙げられる。
【0032】
脂肪族系溶剤としては、n−ヘプタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンが挙げられ、芳香族系溶剤としては、トルエン、キシレンが挙げられる。アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、シクロヘキサノール、3−メトキシブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。また、その他の液状媒体として、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジ−n−ブチルカーボネートが挙げられる。
【0033】
本発明の導電性インキは硬化剤を配合して使用しても良い。本発明の導電性インキに用いるビスフェノールとエピクロルヒドリンより合成される高分子量ポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂に反応し得る硬化剤は、種類は限定しないが接着性、耐屈曲性、硬化性などから脂肪族ポリアミン、ポリアミノアミド、ケティミン、脂還族ジアミン、芳香族ジアミン、イミダゾール、3級アミン等のアミン系化合物、酸無水物系化合物、メルカプタン化合物、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ジシアンジアミド、ルイス酸錯化合物などを必要に応じて適量使用すると共に公知の触媒あるいは促進剤を併用することもできる。
【0034】
本発明に用いられる導電性物質は導電性物質総量の1重量%未満の脂肪酸で表面処理を行った、比表面積0.3〜4.0m2/g、タップ密度2〜4g/cm3、50%平均粒径が1〜15μmの銀粉である。
【0035】
銀粉としては、フレーク状、球状、鱗片状、板状、樹枝状、箔状等、いずれの形状のものも使用できるが、インキの導電性、流動性の点からはフレーク状のものが好ましい。銀粉は、2種以上を混合して使用することもできる。
【0036】
また、フレーク状銀粉は、比表面積が0.3〜4.0m2/g、タップ密度2〜4g/
cm、平均粒径が1〜15μmが好ましい。比表面積が0.3m2/g以下でタップ密
度2〜4g/cm3、の銀粉は形状が球に近くなり銀粉同士の接点が少なく、良好な導電
性が得られない。また、比表面積が4.0m2/gでは樹脂に対する濡れ性が劣るため、
導電性インキの流動性が不十分となって、印刷適性が低下する。また、平均粒径が1μm以下でも同様に樹脂に対する濡れ性が劣るため、導電性インキの流動性が不十分となって、印刷適性が低下する。平均粒径が15μ以上ではペースト状態で銀粉が沈降しやすく、インキの安定性に問題が生じる。
【0037】
ここで、導電物質の比表面積は流動式比表面積測定装置にて粉末表面に窒素ガスを吸着させ、その窒素ガスの吸脱量により下記の式(1)により求めることができる。
【0038】
式(1)
【数1】

【0039】
また、タップ密度はメスシリンダーに粉末を100g入れISO3953に準じたタップ密度測定器を用い、20分間タッピングし下記の式(2)により求めることができる。
【0040】
式(2)
【数2】

【0041】
更に、50%平均粒径はレーザー解析流度分布測定器を用いてレーザー光を粒子に照射した時に生ずる回折強度分布から粒子の体積流度分布を求め、その累積粒度50%点の粒径を求める。
【0042】
また、本発明に用いる導電物質の表面処理を施す脂肪酸は、具体的には、蟻酸、酢酸、オクチル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸、ピバリン酸、ネオヘプタン酸、ネオノナン酸、ネオデカン酸等の三級脂肪酸、コハク酸、マロン酸等のジカルボン酸等が挙げられる。分解後に生成する脂肪酸が揮発しやすいものが望ましい。この点で、特に総炭素数が1〜18の飽和脂肪酸や、総炭素数が 3〜18の不飽和脂肪酸が
好ましく使用される。この中でも、オクチル酸、カプリン酸、ラウリン酸等の飽和脂肪酸やネオヘプタン酸、ネオノナン酸、ネオデカン酸の三級脂肪酸は、導電性向上効果が大きく、かつ分解後に生成する脂肪酸が硬化後の導電性被膜内に残存しないので好ましい。本発明において、脂肪酸銀は、単独でも、また2種以上を併用してもよい。
【0043】
一方、本発明に用いられるシリコン系および/またはアクリル系消泡剤は導電性インキ被膜表面に局在化することが好ましく、形成されようとする泡の表面を不均一にし、泡の形成を抑える抑泡作用を有する消泡剤若しくは形成された泡の表面を局部的に薄くし、泡を破る破泡作用を有する消泡剤が良く、具体的には、オイル型、コンパウンド型、自己乳化型、エマルジョン型のシリコン系消泡剤および/または、ビニルエーテル、アクリル重合物、アマイド、金属石鹸等の非シリコン系消泡剤を1種類以上用いることができる。これらの消泡剤は導電インキの乾燥被膜表面に局在化することで乾燥被膜に撥水作用を付与することができ、その結果乾燥温度が低く、被膜強度が弱い乾燥状態においてもエッチング工程時のアルカリまたは酸水溶液および高温高湿時の水蒸気の導電性インキ被膜への進入を防ぐことができ、これらの耐性が向上する。
【0044】
これらの消泡剤の添加量は特には限定しないが、導電性インキの乾燥被膜と精製水との接触角が110度〜133度なる様にすれば良く、一般的なシリコン系消泡剤では導電インキの総固形分重量を基準(100重量%)として1〜3重量%である。導電インキの乾燥被膜と精製水との接触角が110度より小さい場合は、良好な撥水効果が得られず、低温乾燥時のエッチング耐性および高温高湿耐性の向上が得られない。また、導電性インキの乾燥被膜と精製水との接触角が133度よりも大きい場合は低温乾燥時のエッチング耐性および高温高湿耐性の向上効果は得られるが、後工程で更に導電インキやレジストインキあるいは接着剤等を接着させる場合にはじきや接着不良を生じてさせてしまう。
【0045】
尚、導電性インキの乾燥被膜と精製水との接触角は協和界面科学株式会社製DM700型接触角計を用いて精製水滴下後4800msec静置後の接触角を測定した。
【0046】
導電性インキには、必要に応じて他の導電性物質、例えば銀メッキ銅、銀−銅複合体、銀−銅合金、アモルファス銅等の金属、これらの金属で被覆した無機物粉末、酸化銀、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化スズ、アンチモンドープ酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物等の金属酸化物、またはカーボンブラック、グラファイト等を含有させることができる。これらの導電性物質は、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
また、導電性インキ中の導電性物質の含有量は、導電性インキの総固形分重量を基準(100重量%)として70〜95重量%であることが好ましく、75〜92重量%であることがより好ましい。導電性物質の含有量が70重量%未満の場合は導電性が十分ではなく、95重量%を超える場合は印刷適性及び導電性が低下するためである。
【0048】
最後に、本発明の導電性インキを用いて形成された導電回路について説明する。
本発明の導電性インキを、使用用途に応じて例えばポリエステルフィルム、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロハン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリスチレン、ビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール、ナイロン、ポリイミド、ポリカーボネート等のプラスチック基材若しくはコート紙、非コート紙、その他、合成紙、ポリエチレンコート紙、含浸紙、耐水加工紙、絶縁加工紙、伸縮加工紙等の各種加工紙の片面または両面上に、例えば金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ニッケル、アルミニウム、ケイ素から選ばれる一種またはこれらの二種以上の合金および/または混合物若しくは金属酸化物、金属窒化物、金属ハロゲン化物、金属硫化物、金属炭化物から選ばれる一種またはこれらの二種以上の混合物および/または複合物の薄膜を接着剤により貼合および/または蒸着および/または鍍金処理により形成させた回路基板にフレキソ印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、インクジェット印刷等、従来公知の印刷方法を用いてパターン印刷し、加熱乾燥後に塩酸、塩化銅、水酸化ナトリウム水溶液でエッチング処理を施し不必要な金属薄膜を除去することで折り曲げや屈曲させても抵抗値の上昇を抑制し、更に長期間の使用に耐える信頼性に優れた導電回路を安価に形成することができる。
【0049】
また、回路として屈曲や折り曲げ等の負荷が掛からない部分においては一般的なレジストインキによりパターニングし、回路形成を行うことができ、更に金属箔が存在しないプラスチック基材若しくは加工紙上に本発明の導電性インキを直接印刷しパターニングしても良い。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」を表し、「%」は、「重量%」を表す。
【0051】
[バインダー1]
ジャパンエポキシレジン製フェノキシ樹脂JER1256(重量平均分子量50,000、軟化点85℃) 40部をイソホロン60部と混合し60℃にて加熱攪拌しワニス状のバインダー1を調整した。
【0052】
[バインダー2]
ジャパンエポキシレジン製エポキシ樹脂エピコート1010(重量平均分子量5,500、軟化点85℃) 40部をイソホロン60部と混合し60℃にて加熱攪拌しワニス状のバインダー2を調整した。
【0053】
[バインダー3]
ジャパンエポキシレジン製フェノキシ樹脂JER4275(重量平均分子量60,000、軟化点135℃) 40部をイソホロン60部と混合し60℃にて加熱攪拌しワニス状のバインダー3を調整した。
【0054】
[バインダー4]
日信化学工業製塩ビ酢ビ共重合樹脂ソルバインME(塩化ビニル、酢酸ビニル、マレイン酸共重合体)40部をイソホロン60部と混合し60℃にて加熱攪拌しワニス状のバインダー4を調整した。
【0055】
[バインダー5]
荒川化学製ロジンエステル樹脂ペンセルA 40部をイソホロン60部と混合し60℃にて加熱攪拌しワニス状のバインダー5を調整した。
【0056】
[バインダー6]
荒川化学製ロジン変性マレイン酸樹脂マルキードNo.5 40部をイソホロン60部と混合し60℃にて加熱攪拌しワニス状のバインダー6を調整した。
【0057】
[バインダー7]
荒川化学製ロジン変性フェノール樹脂タマノル351 40部をイソホロン60部と混合し60℃にて加熱攪拌しワニス状のバインダー7を調整した。
【0058】
[銀粉A]
福田金属箔粉工業製フレーク状銀シルコートAgC−A(比表面積1.0m2/g、タップ密度3.5g/cm3、50%平均粒径3μm)を銀粉Aとした。
【0059】
[銀粉B]
DOWAエレクトロニクス株式会社製球状銀AG−5−7F(比表面積0.3m2/g、タップ密度5.4g/cm3、50%平均粒径3μm)を銀粉Bとした。
【0060】
[消泡剤C]
信越シリコーン製シリコン系消泡剤KP330を消泡剤Cとした。
【0061】
[消泡剤D]
サンノプコ株式会社製非シリコン系消泡剤ダッポーSN368を消泡剤Dとした。
【0062】
[導電性インキの調整]
表1記載の配合比率にて銀粉、バインダー、消泡剤、溶剤をディスパーにて混合し導電性インキを調整し、得られた導電性インキの流動性を下記の方法で測定した。
【0063】
【表1】

【0064】
[導電回路の作製]
厚さ50μmのPETフィルムに厚さ10μmのアルミニウム箔を貼合した導電基材上に実施例1〜4、比較例1〜5記載の導電性インキを20mm×40mmのパターンをスクリーン印刷し、100℃ボックス型オーブンに10分間乾燥後、50℃に加温した1%−水酸化ナトリウム溶液に1分間浸漬し、印刷部以外のアルミ箔を除去した物を導電回路とし配合比率および物性値を表1に掲載した。
【0065】
更に、導電性インキを印刷しない厚さ50μmのPETフィルムに厚さ5μmのアルミニウム箔を貼合導電基材を比較例6とした。
【0066】
[抵抗率の測定]
厚さ100μmのPETフィルム上にスクリーン印刷にて80mm×50mmのパターン印刷を行い100℃ボックス型オーブンに10分間乾燥後JISK7194に準じた測定法で4探針法にて表面抵抗率を測定した。
【0067】
[膜厚の測定]
上記印刷物の膜厚を株式会社仙台ニコン製MH−15M型測定器を用いて測定した。
【0068】
[エッチング耐性の評価]
厚さ50μmのPETフィルムに厚さ10μmのアルミニウム箔を貼合した導電基材上に実施例1〜4、比較例1〜4記載の導電性インキを20mm×40mmのパターンをスクリーン印刷し、150℃および100℃ボックス型オーブンに10分間乾燥後、50℃に加温した1%−水酸化ナトリウム溶液に1分間浸漬し、印刷部以外のアルミ箔を除去した導電回路の状態を目視にて判断し、印刷物がダメージを受けなかった場合を○、剥離や変形等何ら中のダメージを受けた場合を×とした。
[屈曲耐性評価]
厚さ50μmのPETフィルムに厚さ10μmのアルミニウム箔を貼合した導電基材上に実施例1〜4、比較例1〜4記載の導電性インキを20mm×40mmのパターンをスクリーン印刷し、150℃および100℃ボックス型オーブンに10分間乾燥後、50℃に加温した1%−水酸化ナトリウム溶液に1分間浸漬し、印刷部以外のアルミ箔を除去した導電回路を中央から折り曲げ、1kgの加重を1分間掛け再度開いたときの抵抗値の変化率(式(3))を測定した。
【0069】
式(3)
【数3】

【0070】
[高温高湿耐性評価]
厚さ50μmのPETフィルムに厚さ10μmのアルミニウム箔を貼合した導電基材上に実施例1〜4、比較例1〜4記載の導電性インキを20mm×40mmのパターンをスクリーン印刷し、150℃および100℃ボックス型オーブンに10分間乾燥後、50℃に加温した1%−水酸化ナトリウム溶液に1分間浸漬し、印刷部以外のアルミ箔を除去した導電回路を温度90℃、湿度90%の恒温恒湿オーブンに120時間保管した後の状態を目視にて判断し、印刷物がダメージを受けなかった場合を○、腐食や剥離等何ら中のダメージを受けた場合を×とした。
【0071】
以上、測定結果を表1に示す。
【0072】
[実施例1〜4]
ビスフェノールとエピクロルヒドリンより合成される重量平均分子量が40,000〜90,000のポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂およびロジン系樹脂をバインダーとし、消泡剤を用いて100℃10分間の乾燥条件にて得られた導電回路は、抵抗値が低く更に屈曲試験における抵抗値の変化が少なく、エッチング耐性、高温高湿耐性試験においても良好な結果が得られた。
【0073】
[比較例1]
重量平均分子量が5,500と小さいエポキシ樹脂を使用した導電回路はエッチング時に被膜が破壊されてしまった。
【0074】
[比較例2]
重量平均分子量60,000、軟化点135℃のフェノキシ樹脂を使用した導電回路は膜厚が薄く、耐屈曲性および高温高湿耐性試験において不良となった。
【0075】
[比較例3]
フェノキシ樹脂を塩ビ酢ビ共重合樹脂に変更した高温高湿耐性試験において不良が発生した。
【0076】
[比較例4]
比表面積0.3m2/g、タップ密度5.4g/cm3、50%平均粒径3μmの銀粉に変更した導電回路は表面抵抗率が高く、良好な導電性が得られなかった。
【0077】
[比較例5]
消泡剤を用いずに100℃10分間の乾燥条件にて得られた導電回路は、エッチング耐性に乏しく、回路パターンを作製できなかった。
【0078】
[比較例6]
導電インキを印刷しない厚さ50μmのPETフィルムに厚さ5μmのアルミニウム箔を貼合せた導電基材を屈曲すると抵抗変化率が印刷を行った導電回路と比べ明らかに大きくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性物質およびバインダー成分を含有する導電性インキにおいて、バインダー成分が、ビスフェノールとエピクロルヒドリンより合成される重量平均分子量が40,000〜90,000のポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂を含んでなることを特徴とする導電性インキ。
【請求項2】
バインダー成分が、さらにロジン系樹脂を用いてなることを特徴とする請求項1記載の導電性インキ。
【請求項3】
ロジン系樹脂がロジンエステル、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂およびロジン変性キシレン樹脂から選ばれる一種または二種以上の樹脂であって、バインダー成分の固形分全体に対して5〜40重量%を含むことを特徴とする請求項2記載の導電性インキ。
【請求項4】
導電性物質が導電性物質総量の1重量%未満の脂肪酸で表面処理を行った、比表面積0.3〜4.0m2/g、タップ密度2〜4g/cm3、50%平均粒径1〜15μmのフレーク状銀粉を用いることを特徴とする請求項1乃至3何れか記載の導電性インキ。
【請求項5】
ビスフェノールとエピクロルヒドリンとより合成される重量平均分子量が40,000〜90,000のポリヒドロキシポリエーテルからなるフェノキシ樹脂の軟化点が、70〜90℃であることを特徴とする請求項1乃至4何れか記載の導電性インキ。
【請求項6】
導電性物質とバインダー成分中の固形分との比が95重量%/5重量%〜70重量%/30重量%であることを特徴とする請求項1乃至5何れか記載の導電性インキ。
【請求項7】
さらに、シリコン系および/またはアクリル系消泡剤を含み、乾燥被膜と精製水との接触角が110度〜133度であることを特徴とする請求項1乃至6何れか記載の導電性インキ。
【請求項8】
金属箔膜とフィルムとからなるプリント基板材料に請求項1乃至7何れか記載の導電性インキを印刷後、エッチング処理にてパターニング処理を施してなることを特徴とする導電回路。

【公開番号】特開2009−209347(P2009−209347A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209994(P2008−209994)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】