説明

導電性ガラスペースト及びそれを利用した電気電子部品

【課題】基材との密着性が高く、かつ10-6Ωcmオーダーの低い電気抵抗率を有する電極/配線を300℃以下の低温焼成で形成することができる導電性ガラスペーストを提供する。また、該導電性ガラスペーストを用いて電極/配線が形成された電気電子部品を提供する。
【解決手段】本発明に係る導電性ガラスペーストは、無鉛ガラス粒子とAg粒子と有機溶剤とを含有する導電性ガラスペーストであって、前記導電性ガラスペーストは、更にAg2O粒子を含有し、前記無鉛ガラス粒子は、成分を酸化物で表したときに、V2O5とAg2OとTeO2とを少なくとも含有し、軟化点が300℃以下であることを特徴とする。前記導電性ガラスペーストにおける配合割合は、Ag粒子100質量部に対して、Ag2O粒子を10〜70質量部とし、無鉛ガラス粒子を10〜50質量部とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペーストに関し、特に、ガラス組成物を含む導電性ペースト及びそれを用いて電極および/または配線が形成された電気電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池パネル、画像表示デバイス(例えば、プラズマディスプレイパネルや液晶ディスプレイパネル)、積層コンデンサー、水晶振動子、LED(発光ダイオード)、ICパッケージ、および多層回路基板等の多くの電気電子部品には、主に金属銀(Ag)を用いた電極および/または配線(以下、電極/配線と称す)が形成されている。これらの電極/配線は、しばしば、銀粒子とガラス粒子と樹脂バインダーと溶剤とを含む導電性ガラスペーストを印刷法等で基材上に所望のパターンで塗布し、焼成することによって形成されている。
【0003】
導電性ガラスペーストに使用されるガラス粒子は、焼成時に軟化流動することによって、銀粒子同士を液相焼結させたり、電極/配線を基材に密着させたりする役割を担っている。ガラス組成物としては、かつては、低温で軟化流動し熱的・化学的に安定な鉛ガラス(主要成分として酸化鉛を含有するガラス)が使用されていた。
【0004】
しかしながら、電気電子機器業界では、近年、世界的にグリーン調達・グリーン設計の流れが強く、より安全な材料が望まれている。例えば、欧州においては、電子・電気機器における特定有害物質の使用制限についての欧州連合(EU)による指令(RoHS指令)が2006年7月1日に施行されている。鉛(Pb)はRoHS指令の禁止物質に指定されており、主要成分としてPbOを含むガラスはRoHS指令に対応できないという問題があった。そこで、鉛成分を含まないガラス組成物(無鉛ガラス)、それを用いた導電性ガラスペーストが種々検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2010-184852号公報)には、ガラス組成物における成分の酸化物換算で、V2O5を45〜65質量%、P2O5を10〜20質量%、TeO2を10〜25質量%、Fe2O3を5〜15質量%、MnO2とZnOとWO3とMoO3とBaOとを合計で0〜10質量%を含有し、鉛とビスマスとアンチモンとを実質的に含有しないことを特徴とする低融点ガラス組成物が開示されている。特許文献1によると、380℃以下の軟化点を有する低融点ガラス組成物を提供でき、それを用いた封着用ガラスフリットや導電性ガラスペーストの焼成温度を400℃以下にできるとされている。
【0006】
また、特許文献2(特開2009-209032号公報)には、ガラス組成物における成分の酸化物換算で、V2O5を33〜45質量%、P2O5を22〜30質量%、MnOを5〜15質量%、BaOを10〜20質量%、R2Oを0〜8質量%(Rはアルカリ金属元素)、Sb2O3とTeO2とZnOとSiO2とAl2O3とNb2O5とLa2O3とを合計で0〜10質量%含有し、鉛とビスマスとを実質的に含有しないことを特徴とするガラス組成物が開示されている。特許文献2によると、鉛とビスマスを使用せずとも、実用性の高い低温(500℃以下)で軟化させることが可能なガラス組成物を提供できるとされている。
【0007】
また、特許文献3(特開2008-251324号公報)には、分散剤を含有する有機媒体と、前記有機媒体中に添加されたバナジウム、リン、アンチモンおよびバリウムを含有するフリットガラスと銀粒子を基本構成とする導電性ペーストであって、前記フリットガラスの組成が酸化物換算でV2O5:50〜65質量%、P2O5:15〜27質量%、Sb2O3:5〜25質量%、BaO:1〜15質量%よりなり、前記銀粒子が、フレーク状粒子と粒状粒子を含み、前記フレーク状粒子の平均粒子径が2〜5μm、前記粒状粒子の平均粒子径が0.1〜3μmであり、前記フレーク状粒子と前記粒状粒子の配合割合が質量比で、50:50〜90:10であり、前記フリットガラスを前記銀粒子に対して5〜30質量%含む導電性ペーストが開示されている。特許文献3によると、鉛やビスマスおよびアルカリ金属をフリットガラスとして含まず、導電性に優れた銀系導電性ペーストを提供できるとされている。
【0008】
一方、従来からある代表的な導電性ペーストとして、フレーク状の銀粒子と樹脂バインダーと溶剤とが混合されガラス粒子を含まない銀ペーストがあるが、形成された電極/配線の電気抵抗率が高い(10-4〜10-5Ωcm)という問題があった。それを改善するものとして、例えば、特許文献4(特開2003-308732号公報)には、粒子状銀化合物と分散媒とからなる組成物で、前記粒子状銀化合物が、酸化銀、炭酸銀、酢酸銀、アセチルアセトン銀錯体の1種または2種以上であり、前記粒子状銀化合物の平均粒径が0.01〜1μmであり、前記分散媒が水または有機溶媒である導電性組成物が開示されている。特許文献4によると、180〜200℃程度の焼成で、金属銀に匹敵する低体積抵抗率(10-6Ωcmオーダー)の導電性被膜が得られるとされている。
【0009】
また、特許文献5(特開2004-253251号公報)には、酸化銀微粒子とこれを還元する還元剤を含む導電性組成物であって、前記還元剤がブロック化還元剤(例えば、エチレングリコールジアセテート)または潜在性還元剤(例えば、炭素数が3〜8のジオール)である導電性組成物が開示されている。特許文献5によると、常温では酸化銀微粒子の還元反応がほとんど進行せず、150℃程度に加熱すると酸化銀微粒子の還元反応が十分進行し、比抵抗の低い導電性銀被膜形成できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−184852号公報
【特許文献2】特開2009−209032号公報
【特許文献3】特開2008−251324号公報
【特許文献4】特開2003−308732号公報
【特許文献5】特開2004−253251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜3に記載されたような従来の導電性ガラスペーストは、無鉛ガラスを用いた導電性ペーストとしては比較的低い温度での焼成(ガラス成分の軟化流動)を可能としているが、低融点鉛ガラスを用いた場合に比べて依然として高いという問題があった。具体的には、少なくとも300℃以下で焼成可能な導電性ガラスペーストが必要とされ、280℃以下で焼成可能な導電性ガラスペーストが強く望まれていた。また、従来の導電性ガラスペーストを用いて形成された電極/配線の電気抵抗率は、10-5Ωcmオーダーであり、更なる低抵抗化が強く望まれていた。
【0012】
一方、焼成温度を低下させるためにガラスの屈伏点や軟化点を低融点鉛ガラスのそれらと同等以下に低下させた従来の無鉛ガラスでは、ガラスの熱的安定性が低下したり、ガラスの耐湿性が低下したりする問題があった。また、従来の導電性ガラスペーストにおける無鉛ガラスの一部(例えば、バナジウム−燐−酸素(V-P-O)系ガラス)は、焼成中に銀粒子と化学反応して銀粒子表面に複合酸化物被膜を生成してしまう場合があり、結果として形成される電極/配線の電気抵抗率が期待よりも高くなってしまう問題があった。
【0013】
また、特許文献4〜5に記載されたような導電性組成物は、銀化合物粒子の還元反応を利用して200℃以下という非常に低い温度の焼成で電極/配線を形成可能とし、該電極/配線の電気抵抗率として10-6Ωcmオーダーを達成可能としている。しかしながら、銀化合物粒子から銀粒子への還元は、一般に体積収縮が非常に大きいため(個々の粒子の収縮量が非常に大きいため)、緻密な被膜を形成しにくいという問題があった。加えて、ガラスのような流動・固化する成分を含有していないことから、基材との密着性が悪いという問題があった。
【0014】
したがって、本発明の目的は、基材との密着性が高く、かつ10-6Ωcmオーダーの低い電気抵抗率を有する電極/配線を300℃以下の低温焼成で形成することができる導電性ガラスペーストを提供することにある。また、該導電性ガラスペーストを用いて電極/配線が形成された電気電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(I)本発明の1つの態様は、上記目的を達成するため、無鉛ガラス粒子と銀(Ag)粒子と有機溶剤とを含有する導電性ガラスペーストであって、前記導電性ガラスペーストは、更に酸化銀(I)(Ag2O)粒子を含有し、前記無鉛ガラス粒子は、成分を酸化物で表したときに、五酸化二バナジウム(V2O5)と酸化銀(I)(Ag2O)と二酸化テルル(TeO2)とを少なくとも含有し、軟化点が300℃以下である導電性ガラスペーストを提供する。前記無鉛ガラス粒子の軟化点は、280℃以下であることがより好ましい。なお、本発明における「無鉛」とは、前述のRoHS指令(2006年7月1日施行)における禁止物質を指定値以下の範囲で含有することを容認するものとする。ガラスの軟化点の定義については後述する。
【0016】
また、本発明は、上記の本発明に係る導電性ガラスペーストにおいて、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記無鉛ガラス粒子におけるV2O5とAg2OとTeO2との合計含有率が85質量%以上である。
(ii)前記無鉛ガラス粒子は、15質量%以上50質量%以下のV2O5と、10質量%以上45質量%以下のAg2Oと、25質量%以上40質量%以下のTeO2とを含有する。
(iii)前記無鉛ガラス粒子は、V2O5とAg2Oとの合計含有率が55質量%以上75質量%以下であり、Ag2OとTeO2との合計含有率が45質量%以上85質量%以下であり、V2O5とTeO2との合計含有率が45質量%以上90質量%以下である。
(iv)前記導電性ガラスペーストは、前記銀粒子の含有率を100質量部としたときに、前記酸化銀粒子を10質量部以上70質量部以下、前記無鉛ガラス粒子を10質量部以上50質量部以下含有する。前記酸化銀粒子の含有率は、20質量部以上50質量部以下であることがより好ましく、前記無鉛ガラス粒子の含有率は、20質量部以上40質量部以下であることがより好ましい。
(v)前記無鉛ガラス粒子は、P2O5、WO3、MoO3、BaO、Fe2O3、およびSb2O3の内の1種以上の成分を更に含有する。当該成分は、5質量%以上15質量%以下で含有されることが好ましい。
(vi)前記有機溶剤は、ブチルカルビトールアセテートまたはα−テルピネオールであり、樹脂バインダーとしてニトロセルロースを更に含有する。
【0017】
(II)本発明の他の態様は、上記目的を達成するため、無鉛ガラス相と焼結銀とを含む電極/配線が形成された電気電子部品であって、前記無鉛ガラス相は、その成分を酸化物で表したときに、V2O5とAg2OとTeO2とを少なくとも含有し、軟化点が300℃以下である電気電子部品を提供する。前記無鉛ガラス相の軟化点は、280℃以下であることがより好ましい。
【0018】
また、本発明は、上記の本発明に係る電気電子部品において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(vii)前記無鉛ガラス相は、15〜50質量%のV2O5と、10〜45質量%のAg2Oと、25〜40質量%のTeO2とを含有し、V2O5とAg2OとTeO2との合計含有率が85質量%以上である。
(viii)前記無鉛ガラス相は、V2O5とAg2Oとの合計含有率が55〜75質量%であり、Ag2OとTeO2との合計含有率が45〜85質量%であり、V2O5とTeO2との合計含有率が45〜90質量%である。
(ix)前記無鉛ガラス相は、P2O5、WO3、MoO3、BaO、Fe2O3、およびSb2O3の内の1種以上の成分を更に含有する。当該成分は、5質量%以上15質量%以下で含有されることが好ましい。
(x)前記電極/配線が、樹脂フィルム上または樹脂基板上に形成されている。
(xi)前記電極/配線が、素子の端子と基板の端子との間の接続部として形成されている。言い換えると、本発明における電極/配線は、例えば、ダイボンド(Au-Sn合金はんだ等の代替)としての利用を含むものとする。
(xii)前記電気電子部品が、太陽電池パネル、画像表示デバイス、携帯情報端末、積層コンデンサー、水晶振動子、LED、ICパッケージ、または多層回路基板である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基材との密着性が高く、かつ10-6Ωcmオーダーの低い電気抵抗率を有する電極/配線を300℃以下の低温焼成で形成可能な導電性ガラスペーストを提供することができる。また、該導電性ガラスペーストを用いることで、基材との密着性が高く低い電気抵抗率を有する電極/配線が形成された電気電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明における代表的な無鉛ガラスに対する示差熱分析(DTA)の昇温過程で得られるチャートの1例である。
【図2】導電性ガラスペースト中のAg2O粒子の配合割合とそれによる電極/配線の電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【図3】導電性ガラスペースト中の無鉛ガラス粒子の配合割合とそれによる電極/配線の電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【図4】太陽電池パネルの1例を示す模式図であり、(a)は受光面の平面模式図、(b)は裏面の平面模式図、(c)は(a)中のA−A線における断面模式図である。
【図5】裏面電極型太陽電池パネルの断面の1例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
【0022】
(本発明の基本思想)
前述したように、本発明に係る導電性ガラスペーストは、無鉛ガラス粒子とAg粒子と有機溶剤とを含有することに加えて、Ag2O粒子を含有することを一つの特徴とし、無鉛ガラス粒子が、成分を酸化物で表したときにV2O5とAg2OとTeO2とを少なくとも含有し、かつ軟化点が300℃以下であることをもう一つの特徴とする。
【0023】
Ag2O粒子は、約190℃以上に加熱すると熱分解して、化学反応式「Ag2O → 2Ag+1/2O2」に示されるように、金属Agの微粒子が生成し酸素(O2)が放出されることが知られている。この分解反応自体は吸熱反応であるが、導電性ペーストとして有機溶剤が共存する場合には、Ag2O粒子から脱離した酸素が有機溶剤を燃焼するため、全体として吸熱ではなく発熱反応となる(このとき、微視的には1000℃近くまで上昇するとも言われている)。この発熱により、導電性ペーストに対する加熱温度が低い場合であっても、生成したAg微粒子同士の焼結を進行させることができる。
【0024】
特許文献4〜5の導電性組成物は、上記のメカニズムを利用したものと考えられる。しかしながら、前述したように、Ag2O粒子からAg粒子への還元による体積収縮が非常に大きい(個々の粒子の収縮量が非常に大きい)ことに加えて、焼結による体積収縮も大きいことから、特許文献4〜5の導電性組成物は、焼結過程においてAg粒子の再配列が追従できず緻密な被膜(電極/配線)を形成しにくいという弱点があった。さらに、緻密な被膜でないことから、基材との密着性も十分なものとは言えなかった。
【0025】
これに対し、本発明の導電性ガラスペーストは、低融点の無鉛ガラス粒子が共存することから、該ガラス粒子が焼成によって軟化流動することで、電極/配線の緻密性を改善すると共に基材との密着性も向上させることができる。ここで、本発明で用いる無鉛ガラスは、成分を酸化物で表したときにV2O5とAg2OとTeO2とを主成分としていることに大きな意義がある。
【0026】
本発明におけるモデルを説明する。本発明の導電性ガラスペーストにおいては、Ag2O粒子がAg微粒子になる過程の中で、共存する無鉛ガラスとの相互作用により、軟化したガラス相中にAg+イオンとして一時的に取り込まれる。取り込まれたAg+イオンは、無鉛ガラスの軟化点を更に低温化してガラス相の流動性を高める。その結果、別途添加されているAg粒子同士の再配列と液相焼結とを促進すると考えられる。
【0027】
一方、本発明で用いる無鉛ガラスには元々Ag2O成分が存在することから、添加したAg2O粒子から生成するAg微粒子が全てAg+イオンとして固溶するわけではない。飽和量超のAg微粒子は、添加されているAg粒子との曲率効果により、Ag粒子同士の焼結助剤として機能すると考えられる。さらに、前述の発熱反応が終了し微視的な温度が低下し始めると、ガラス相中のAg成分の飽和溶解量が低下して多数のAg微粒子が再析出してくると考えられる。このとき、再析出するAg微粒子は、焼結Ag粒子のネック部分を埋めるように選択的に析出すると考えられる。これにより、より緻密質な焼結銀を得ることができる。
【0028】
導電性ガラスペーストを用いて電気電子部品の電極/配線を形成する場合、通常、含有される無鉛ガラスの軟化点よりも30〜50℃程度高い温度での焼成が行われる。これに対し、本発明の導電性ガラスペーストにおいては、上記メカニズムによる発熱とAg+イオンの取り込みによる軟化点の低温化とにより、含有される無鉛ガラスの軟化点以下の焼成温度(一例として、「軟化点−20℃」程度の温度)であっても、電極/配線の形成が可能という特異的な効果がある。ただし、含有される無鉛ガラスの軟化点が300℃を超えると、当該効果がほとんど得られなくなることから、含有される無鉛ガラスの軟化点は300℃以下とする必要がある。含有される無鉛ガラスの軟化点は280℃以下がより好ましい。
【0029】
以上のようなモデルから、本発明に係る導電性ガラスペーストは、従来よりも緻密であり良好な密着性を有する焼成塗膜(電極/配線)を300℃以下の低温焼成で得ることができる。また、形成された電極/配線は、従来よりも良好な電気伝導性(例えば、10-6Ωcmオーダーの低い電気抵抗率)を示す。上記のような作用効果は、従来の低融点ガラスを用いても発現することはなく、本発明の構成による特有のものと言える。
【0030】
(無鉛ガラス)
本発明で用いる無鉛ガラスは、V2O5とAg2OとTeO2とを主成分とする。Ag2O成分は、本発明の無鉛ガラスの軟化点の低温化に寄与する成分である。TeO2成分も、軟化点の低温化に寄与する。本発明の無鉛ガラスの軟化点は、Ag2OとTeO2との含有率におおむね対応する。V2O5成分は、ガラス中のAg2O成分からの金属Agの析出を抑制し、ガラスの熱的安定性の向上に寄与する。また、V2O5成分の添加によってAg2O成分からの金属Agの析出が抑制されることから、Ag2O成分の配合量を増大させることが可能となり軟化点の低温化が助長されると共に、ガラスの化学的安定性(例えば、耐湿性)が向上する。V2O5とAg2OとTeO2との合計含有率は、85質量%以上であることが好ましい。
【0031】
より具体的なガラス組成としては、成分を酸化物で表したときに15〜50質量%のV2O5と、10〜45質量%のAg2Oと、25〜40質量%のTeO2とを含有することが好ましい。さらに、V2O5とAg2Oとの合計含有率が55〜75質量%であり、Ag2OとTeO2との合計含有率が45〜85質量%であり、V2O5とTeO2との合計含有率が45〜90質量%であることが好ましい。これらにより、該無鉛ガラスの軟化点を300℃以下に低温化することができる。
【0032】
V2O5が15質量%未満では、Ag2Oがガラス中に融け込まず均一なガラスになりにくく、50質量%を超えると、ガラスが結晶化しやすくなる。Ag2Oが10質量%未満では、軟化点を300℃以下にできず、45質量%を超えるとガラス中に融け込まなくなる。TeO2が25質量以下では、ガラスが結晶化しやすくなり、40質量%を超えると、ガラスの安定性が低下する。
【0033】
また、本発明で用いる無鉛ガラスは、上記の組成に加えて、P2O5(五酸化二燐)、WO3(三酸化タングステン)、MoO3(三酸化モリブデン)、BaO(酸化バリウム)、Fe2O3(酸化鉄(III))、及びSb2O3(三酸化アンチモン)の内の1種以上を5〜15質量%以下で更に含有していてもよい。これら追加的な酸化物成分は、本発明の無鉛ガラスの耐湿性向上や結晶化の抑制に寄与する。5質量%未満では、結晶化の抑制や耐水性向上の効果が小さく、一方15質量%を超えると、軟化点が高温化する。
【0034】
(導電性ガラスペースト)
本発明に係る導電性ガラスペーストは、上述の無鉛ガラス粒子と、Ag粒子と、Ag2O粒子と、有機溶剤とを含むものである。導電性ガラスペースト中の固形分の配合割合は、Ag粒子の含有率を100質量部としたときに、Ag2O粒子を10〜70質量部、無鉛ガラス粒子を10〜50質量部で配合させることが好ましい。この配合割合を外れると、形成された電極/配線の電気抵抗率が十分に小さくならない(一例としては、10-5Ωcmオーダーになる)。より好ましい配合割合は、Ag粒子の含有率を100質量部としたときに、Ag2O粒子が20〜50質量部、無鉛ガラス粒子が20〜40質量部である。
【0035】
Ag粒子及びAg2O粒子のサイズや形状は、導電性ガラスペースト中で均等に分散混合される限り特段の限定はないが、一例として、平均粒径が1〜3μm程度であり、球状および/またはフレーク状の形状を有することは好ましい。なお、本発明における球状とは、真球体に限られるものではなく、楕円球体や雨滴体などの部分的に球形曲面を有するものを含む。本発明における平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布計での測定によるメジアン径(D50)とする。
【0036】
有機溶剤としては、ブチルカルビトールアセテートまたはα−テルピネオールが好ましく用いられる。また、導電性ガラスペーストは、樹脂バインダーを更に含んでいてもよい。樹脂バインダーとしては、ニトロセルロースが好ましく用いられる。一方、有機溶剤としてα−テルピネオールを用い、セルロース系の樹脂バインダーを用いない導電性ガラスペーストも好ましい。
【0037】
本発明の導電性ガラスペーストは、必要に応じて、無鉛ガラスを構成する酸化物以外の酸化物充填材を更に含有させてもよい。その場合、酸化物充填材としては、SiO2、ZrO2、Al2O3、Nb2O5、ZrSiO4、Zr2(WO4)(PO4)2、コージェライト、ムライト、およびユークリプタイトの内の1種以上が好ましく用いられる。
【0038】
本発明の導電性ガラスペーストは、前述した特徴的なメカニズムによって焼成温度を300℃以下に低温化することが可能となり、それに伴って、電極/配線を形成する基材や電極/配線と接合する他の電極との望まない化学反応を防止することができる。また、基材として樹脂フィルムや樹脂基板を使用することを可能とした。さらに、電気電子部品への余分な熱負荷も低減されるため、該電気電子部品の品質維持に貢献できる。
【0039】
(電気電子部品)
本発明に係る電気電子部品は、前述の本発明に係る導電性ガラスペーストで形成された電極/配線を有する限り特段の限定はない。好適な事例としては、太陽電池パネル、画像表示デバイス(例えば、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイパネル、有機ELディスプレイパネル)、携帯情報端末(例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレットPC)、積層コンデンサー、水晶振動子、LED、ICパッケージ、および多層回路基板が挙げられる。なお、本発明における電極/配線は、ダイボンド(Au-Sn合金はんだ等の代替)としての利用を含むものとする。
【実施例】
【0040】
以下、図面を参照しながら、本発明を具体的な実施例に基づいてより詳細に説明する。ただし、本発明は、ここで取り上げた実施例に限定されることはなく、そのバリエーションを含むものとする。
【0041】
[実施例1]
(ガラスの特性温度の測定)
本実施例では、ガラスの系による影響を調査・検討した。まず、導電性ガラスペーストに用いる種々のガラス(ガラスG1-01〜G1-17)を作製し、該ガラスの特性温度(ガラス転移点、屈伏点、軟化点)を調査した。ここで、本発明におけるガラス転移点、屈伏点、軟化点、結晶化温度の定義について説明する。図1は、本発明における代表的な無鉛ガラスに対する示差熱分析(DTA)の昇温過程で得られるチャートの1例である。DTA測定は、参照試料としてα−アルミナを用い、大気中5℃/minの昇温速度で行った。参照試料および測定試料の質量は、それぞれ650 mgとした。本発明においては、図1に示したように、第1吸熱ピークの開始温度をガラス転移点Tg(粘度=1013.3 poiseに相当)、該第1吸熱ピークのピーク温度を屈伏点Td(粘度=1011.0 poiseに相当)、第2吸熱ピークのピーク温度を軟化点Ts(粘度=107.65 poiseに相当)、第1発熱ピークの開始温度を結晶化温度Tcと定義する。なお、それぞれの温度は、接線法によって求められる温度とする。本明細書に記載の各特性温度(例えば、軟化点Ts)は上記の定義に基づくものである。測定したガラスG1-01〜G1-17の特性温度を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示したように、ガラスG1-01〜G1-10(V2O5とAg2OとTeO2とを少なくとも含有する無鉛ガラス)は、いずれも軟化点Tsが300℃以下であり、本発明の規定を満たしていることが確認された。一方、ガラスG1-11〜G1-13(V2O5、Ag2O、TeO2の3成分が揃っていない無鉛ガラス)は、軟化点が340℃以上で高かった。ガラスG1-14〜G1-15は、従来の鉛ガラスであり、フッ素(F)成分を含有するガラスG1-14は300℃以下の低い軟化点を示したが、F成分を含有しないガラスG1-15は約390℃の軟化点であった。なお、ガラスG1-14〜G1-15は、主要成分としてPbを含むためRoHS指令に対応できない。ガラスG1-16〜G1-17は、鉛ガラスの代替材料として開発された従来の無鉛ガラスであるが、軟化点が360℃以上で高かった。
【0044】
(導電性ガラスペーストの作製)
上記のガラス(G1-01〜G1-17)の粉末と、Ag粒子と、Ag2O粒子と、有機溶剤と、樹脂バインダーとを混合して導電性ガラスペーストを作製した。まず、用意したガラスをスタンプミルとジェットミルとによって粉砕し、ガラス粒子(平均粒径1μm以下)を作製した。Ag粒子(平均粒径1〜2μm)とAg2O粒子(平均粒径1〜2μm)とを別途用意し、ガラス粒子と混合して混合粉末を作製した。このとき、Ag粒子100質量部に対して、Ag2O粒子を40質量部、ガラス粒子を30質量部の割合で混合した。
【0045】
次に、この混合粉末100質量部に対して、あらかじめ樹脂バインダー2質量%を溶解させておいた有機溶剤20質量部を添加し、混練することによって導電性ペーストを作製した。樹脂バインダーにはニトロセルロースを用い、有機溶剤にはブチルカルビトールアセテートを用いた。
【0046】
(電極/配線の形成と電気抵抗率の評価)
作製した導電性ガラスペーストを用いて、ガラス基板(ソーダライムガラス基板)、セラミックス基板(アルミナ基板)、半導体基板(シリコン基板)、金属基板(ステンレス基板)及び樹脂フィルム(ポリイミドフィルム、連続使用可能温度420℃)の5種類の基材上に印刷法にて塗布し、20 mm角の塗膜を形成した。100℃で乾燥した後の塗膜厚さは約20μmであった。乾燥させた塗布試料を電気炉内に設置し、大気中260℃、280℃および300℃でそれぞれ30分間保持する焼成を行い、各基材上に電極/配線を形成した。
【0047】
形成した各電極/配線に対し、四端針法にて室温の電気抵抗率を測定した。測定された電気抵抗率が10-6Ωcmオーダーであったものを「合格」とし、10-5Ωcmオーダーであったものを「通常」(従来技術と同等の意)とし、10-4Ωcmオーダー以上であったものを「不合格」と評価した。結果を表1に併記する。
【0048】
表1に併記したように、ガラスG1-01〜G1-04、G1-08及びG1-10を用いた電極/配線は、いずれの基材、いずれの焼成温度においても「合格」(10-6Ωcmオーダーの電気抵抗率)であった。ガラスG1-05〜G1-06及びG1-09を用いた電極/配線は、260℃焼成において「通常」(10-5Ωcmオーダーの電気抵抗率)であったが、280℃焼成と300℃焼成とは「合格」であった。基材による差異はなかった。ガラスG1-07を用いた電極/配線は、260℃焼成と280℃焼成とにおいて「通常」であったが、300℃焼成では「合格」であった。基材による差異はなかった。すなわち、特筆すべき点として、ガラスG1-01〜G1-10を用いた本発明に係る導電性ガラスペーストは、用いたガラスの軟化点以下の焼成温度で、10-6Ωcmオーダーの低い電気抵抗率を有する電極/配線が形成可能であることが実証された。
【0049】
一方、ガラスG1-11〜G1-13、G1-15〜G1-17を用いた本発明の規定から外れる導電性ガラスペーストは、用いたガラスの軟化点が高いことからガラス粒子が十分に軟化流動せず、それによる電極/配線の電気抵抗率は、いずれの焼成温度においても「不合格」(10-4Ωcmオーダー以上の電気抵抗率)であった。また、従来の低融点鉛ガラスのG1-14を用いた導電性ガラスペーストは、低い軟化点を有することから、260℃焼成と280℃焼成とにおいて軟化流動したが、電極/配線の電気抵抗率は「通常」であった。
【0050】
[実施例2]
(無鉛ガラスの作製)
本実施例では、無鉛ガラス組成を詳細に検討した。後述する表2〜3に示す名目組成を有する無鉛ガラス(G2-01〜G2-33)を作製した。表中の組成は、各成分の酸化物換算における質量比率で表示してある。出発原料としては、(株)高純度化学研究所製の酸化物粉末(純度99.9%)を用いた。
【0051】
表2〜3に示した質量比率で各出発原料粉末を混合し、混合粉末300 gを白金るつぼに入れた。原料中のAg2Oの比率が40質量%以上の場合にはアルミナるつぼを用いた。混合にあたっては、原料粉末への余分な吸湿を避けることを考慮して、金属製スプーンを用いて、るつぼ内で混合した。
【0052】
原料混合粉末が入ったるつぼをガラス溶融炉内に設置し、加熱・融解した。10℃/minの昇温速度で昇温し、設定温度(700〜800℃)で融解しているガラスを撹拌しながら2時間保持した。その後、るつぼをガラス溶融炉から取り出し、あらかじめ150℃に加熱しておいたステンレス鋳型にガラスを鋳込んだ。次に、鋳込まれたガラスを、あらかじめ歪取り温度に加熱しておいた歪取り炉に移動し、1時間保持により歪を除去した後、1℃/minの速度で室温まで冷却した。室温まで冷却したガラスをスタンプミルとジェットミルによって粉砕し、無鉛ガラス粒子(平均粒径1μm以下)を作製した。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
(導電性ガラスペーストの作製)
上で用意した無鉛ガラス(G2-01〜G2-33)の粒子と、Ag粒子と、Ag2O粒子と、有機溶剤とを混合して導電性ガラスペーストを作製した。Ag粒子とAg2O粒子とは、実施例1と同じものを使用した。Ag粒子100質量部に対して、Ag2O粒子を30質量部、無鉛ガラス粒子を30質量部の割合で混合して混合粉末を用意した。
【0056】
次に、この混合粉末100質量部に対して、有機溶剤20質量部を添加し、混練することによって導電性ガラスペーストを作製した。溶剤は、高粘度溶剤であるα‐テルピネオールを用い、樹脂バインダーは使用しなかった。
【0057】
(無鉛ガラスの特性温度の測定)
実施例1と同様にして、上で用意した無鉛ガラス(G2-01〜G2-33)の特性温度(転移点、屈伏点、軟化点)をDTA測定により測定した。測定結果を表4に示す。
【0058】
(電極/配線の形成と電気抵抗率の評価)
実施例1と同様にして、上で用意した導電性ガラスペーストを用いて電極/配線を基材上に形成し、形成した電極/配線に対し、四端針法にて室温の電気抵抗率を測定・評価した。基材としては、実施例1と同様に、ソーダライムガラス基板、アルミナ基板、シリコン基板、ステンレス基板及びポリイミドフィルムの5種類の基材を用いた。測定結果を表4に併記する。
【0059】
【表4】

【0060】
表2〜4に示したように、無鉛ガラスG2-01〜G2-33(V2O5とAg2OとTeO2とを少なくとも含有する無鉛ガラス)は、いずれも軟化点Tsが300℃以下であり、本発明の規定を満たしていることが確認された。中でも、G2-02〜G2-09、G2-12、G2-17、G2-19及びG2-30〜G2-33は、軟化点Tsが280℃以下であり、より好ましい形態と言える。
【0061】
また、無鉛ガラスG2-01〜G2-33を用いた電極/配線は、焼成温度300℃において、電気抵抗率が「合格」(10-6Ωcmオーダーの電気抵抗率)であった。軟化点Tsが280℃以下であるG2-02〜G2-09、G2-12、G2-17、G2-19及びG2-30〜G2-33を用いた電極/配線は、焼成温度260℃においても、電気抵抗率が「合格」であった。いずれの場合も基材による差異はなかった。電気抵抗率評価の結果から、無鉛ガラスG2-01〜G2-33を用いた本発明に係る導電性ガラスペーストは、300℃以下の焼成温度で、10-6Ωcmオーダーの低い電気抵抗率を有する電極/配線が形成可能であることが実証された。また、それらの内の一部は、用いたガラスの軟化点以下の焼成温度でも可能であることが確認された。
【0062】
(密着性の評価)
電極/配線の密着性の評価は、ピーリングテストにより行った。各基材上に形成した電極/配線に市販のセロハンテープを貼り付け、該テープを剥がした時に電極/配線が基板から剥離せず断線しなかったものを「合格」と評価し、電極/配線に剥離および/または断線が生じたものを「不合格」と評価した。その結果、無鉛ガラスG2-01〜G2-33を用いた電極/配線は、いずれの基材、いずれの焼成温度においても「合格」であった。
【0063】
比較試料として、無鉛ガラス粒子を混合しない以外は本実施例2に準じた導電性ペーストを作製し、前記と同様に各基材上に各焼成温度で電極/配線を形成した。得られた比較試料の電極/配線に対し、上記と同様にピーリングテストを行ったところ、いずれの基材、いずれの焼成温度においても「不合格」であった。これらの結果から、本発明に係る導電性ガラスペーストを用いて形成した電極/配線は、良好な密着性を有することが実証された。
【0064】
(X線回折による電極/配線の構造調査)
形成した電極/配線に対してX線回折を行い、電極/配線の構造調査を行った。その結果、無鉛ガラスG2-01〜G2-33を用いた電極/配線は、いずれの基材、いずれの焼成温度においても、Ag2Oに起因する回折ピークは見られず、ガラスに起因するハローパターンとAgに起因する回折ピークのみが観察された。これは、本発明におけるモデルを強くサポートするものと考えられる。
【0065】
[実施例3]
本実施例では、導電性ガラスペーストにおける無鉛ガラス粒子と、Ag粒子と、Ag2O粒子との配合割合について検討した。
【0066】
(導電性ガラスペーストの作製)
実施例1に準じて、無鉛ガラス粒子(G2-30)と、Ag粒子と、Ag2O粒子と、有機溶剤(ブチルカルビトールアセテート)と、樹脂バインダー(ニトロセルロース)とを混合して導電性ガラスペーストを作製した。このとき、Ag粒子100質量部に対して、無鉛ガラス粒子G2-30を30質量部と固定し、Ag2O粒子の配合割合を0〜100質量部の範囲で変えた導電性ガラスペースト(Aシリーズ)を10種類用意した。また、Ag粒子100質量部に対して、Ag2O粒子を30質量部と固定し、無鉛ガラス粒子G2-30の配合割合を0〜80質量部の範囲で変えた導電性ガラスペースト(Bシリーズ)を8種類作製した。
【0067】
(電極/配線の形成と電気抵抗率の評価)
実施例1と同様にして、上で用意した導電性ガラスペースト(Aシリーズ、Bシリーズ)を用いて電極/配線を基材上に形成し、形成した電極/配線に対し、四端針法にて室温の電気抵抗率を測定・評価した。基材はアルミナ基板を用い、焼成条件は260℃で30分間保持、280℃で30分間保持、300℃で30分間保持(いずれも大気中)の3条件とした。
【0068】
図2は、導電性ガラスペースト中のAg2O粒子の配合割合とそれによる電極/配線の電気抵抗率との関係を示すグラフである。図3は、導電性ガラスペースト中の無鉛ガラス粒子の配合割合とそれによる電極/配線の電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【0069】
図2に示したように、Aシリーズにより形成された電極/配線の電気抵抗率は、どの焼成条件においてもほぼ同様の変化を示したが、焼成温度の高い方が、電気抵抗率が若干低い傾向が見られた。また、Ag2O粒子の配合割合が10〜70質量部の範囲において、10-6Ωcmオーダーの電気抵抗率を達成し、特に20〜50質量部の範囲において、より低い電気抵抗率を示した。形成された電極/配線を詳細に観察したところ、Ag2O粒子の配合割合が10質量部未満では、Ag粒子同士の焼結が不十分であり、一方70質量部超では、電極/配線の内部に多数の空隙が存在していた。
【0070】
図3に示したように、Bシリーズにより形成された電極/配線の電気抵抗率は、どの焼成条件においてもほぼ同様の変化を示したが、焼成温度の高い方が、電気抵抗率が若干低い傾向が見られた。また、無鉛ガラス粒子の配合割合が10〜50質量部の範囲において、10-6Ωcmオーダーの電気抵抗率を達成し、特に20〜40質量部の範囲において、より低い電気抵抗率を示した。形成された電極/配線を詳細に観察したところ、無鉛ガラス粒子の配合割合が10質量部未満では、Ag粒子同士の焼結が不十分であり、一方50質量部超では、ガラス相の量が多過ぎてAg粒子同士の実効接触面積が減少しているように見られた。
【0071】
以上の実験から、本発明の導電性ガラスペーストにおける配合割合は、Ag粒子100質量部に対して、Ag2O粒子を10〜70質量部とし、無鉛ガラス粒子を10〜50質量部とすることが好ましいことが明らかになった。より好ましい配合割合は、Ag粒子100質量部に対して、Ag2O粒子が20〜50質量部であり、無鉛ガラス粒子が20〜40質量部であった。
【0072】
[実施例4]
本実施例においては、本発明に係る電子部品として太陽電池パネルに適用する場合について検討した。
【0073】
図4は、太陽電池パネルの1例を示す模式図であり、(a)は受光面の平面模式図、(b)は裏面の平面模式図、(c)は(a)中のA−A線における断面模式図である。以下、図4を参照しながら説明する。
【0074】
太陽電池パネル10の半導体基板11としては、現在、単結晶シリコン基板または多結晶シリコン基板が最も多く使用されている。シリコンの半導体基板11は、通常、ホウ素等を含有したp型半導体である。受光面側は、太陽光の反射を抑制するためにエッチング等により凹凸が形成される。また、受光面には、リン等のドーピングによりサブミクロンオーダーの厚みでn型半導体の拡散層12が生成されるとともに、拡散層12とp型バルク部分との境界にpn接合部が形成される。さらに、受光面上には、窒化シリコン等の反射防止層13が蒸着法などによって厚さ100 nm程度で形成される。
【0075】
通常、受光面に形成される受光面電極/配線14および裏面に形成される出力電極/配線16の形成には、無鉛ガラス粒子とAg粒子とを含む導電性ガラスペーストが使用され、裏面に形成される集電電極/配線15の形成には、無鉛ガラス粒子とアルミニウム(Al)粒子とを含む導電性ガラスペーストが使用されている。それぞれの導電性ガラスペーストは、スクリーン印刷法などにて塗布法(例えば、スクリーン印刷、ロールコーター方式、ディスペンサー方式など)によって半導体基板11の表面上に塗布される。
【0076】
導電性ガラスペーストを乾燥させた後、大気中で焼成され(従来は500〜800℃程度)、それぞれの電極/配線が形成される。このとき、従来の太陽電池パネル10では、焼成温度が高いことから、裏面に形成される集電電極/配線15と出力電極/配線16との重なり部分で合金相が形成され、それに起因した応力集中により半導体基板11にクラックが発生するという問題が起きることがあった。
【0077】
(太陽電池パネルの作製)
電極/配線の形成に用いるAg含有ガラスペーストは、無鉛ガラス粒子としてG2-31を用いて、実施例1と同様に作製した。一方、Al含有ガラスペーストは、無鉛ガラス粒子としてG2-31を用い、Al粒子として(株)高純度化学研究所製(球状粒子、平均粒径3μm)を用い、樹脂バインダーとしてポリエチレングリコールを用い、溶剤としてα−テルピネオールを用いた。Al含有ガラスペースト中の無鉛ガラス粒子の配合比率は、Al粒子に対して10体積%とした。また、ペースト中の固形分(Al粒子、無鉛ガラス粒子)の配合比率は70質量%とした。
【0078】
受光面に拡散層12と反射防止層13を形成した半導体基板11を用意した。次に、上記で作製したAl含有ガラスペーストを用い、図4(b)および図4(c)に示したように半導体基板11の裏面にスクリーン印刷で塗布し、大気中150℃で乾燥させた。次に、上記で作製したAg含有ガラスペーストを用い、図4(a)〜図4(c)に示したように半導体基板11の受光面と上記で集電電極/配線15を形成した裏面に対して、スクリーン印刷で塗布し、大気中150℃で乾燥させた。その後、印刷した半導体基板11に対し大気中300℃で10分間保持する焼成を行った。これにより、受光面電極/配線14と集電電極/配線15と出力電極/配線16とを形成し、本発明に係る太陽電池パネル10を作製した。
【0079】
また、前記受光面電極/配線14を裏面に配置した裏面電極型(バックコンタクトタイプ)太陽電池パネルも別途作製した。図5は、裏面電極型太陽電池パネルの断面の1例を示す模式図である。裏面電極型太陽電池パネル20の作製は、まず、半導体基板の裏面に拡散層12とパッシベーション膜21を形成し、受光面に反射防止膜13を形成した半導体基板11を用意した。その後、上記と同様の方法で裏面に導電性ガラスペーストを塗布・焼成することで電極/配線22(受光面電極/配線14に相当する電極/配線)と出力電極/配線16とを形成し、裏面電極型太陽電池パネル20を作製した。
【0080】
上記で作製した太陽電池パネル10に対し、各種の試験評価を行った。受光面では、受光面電極/配線14と半導体基板11とが電気的に接続されていることを確認した。裏面では、半導体基板11と集電電極/配線15および出力電極/配線16との間にオーミックコンタクトが得られていることを確認した。裏面電極型太陽電池パネル20においても、同様に確認した。また、作製した太陽電池パネル10,20における発電効率を試験評価したところ、従来の導電性ガラスペーストを使用した従来の太陽電池パネルと同等以上の発電効率(18.0%)が得られた。
【0081】
さらに、裏面に形成される集電電極/配線15と出力電極/配線16との重なり部分について調査したところ、合金相は形成されていなかった。これは、本発明に係る太陽電池パネルの焼成温度(300℃)が、従来のそれ(500〜800℃)に対して大幅に低いことから、合金相の形成に至らなかったと考えられた。その結果、合金相の形成により半導体基板11にクラックが発生するという問題が解決される。
【0082】
上述の実施例では、本発明に係る電気電子部品として太陽電池パネルを代表として説明したが、本発明はそれらに限定されるものではなく、画像表示デバイス、携帯情報端末、ICパッケージ、積層コンデンサー、水晶振動子、LED、多層回路基板などの多くの電気電子部品に適用可能であることは自明である。また、ダイボンド(Au-Sn合金はんだ等の代替)としても利用可能であることを別途確認した。
【0083】
また、上述の実施例では、通常の電気炉を用いて焼成を行ったが、本発明はそれに限定されるものではなく、YAGレーザーやサファイヤレーザー等の電磁波を照射してペースト塗布部(電極/配線)を局所的に加熱する方法も好ましい。これは、本発明で用いる無鉛ガラスに含まれるVイオンが波長1200 nm以下の電磁波を良く吸収する性質を利用したものである。ペースト塗布部を局所的に加熱することにより、熱に弱い素子に対しても電極/配線の形成が可能となる。
【0084】
例えば、有機ELダイオードディスプレイ(OLED Display)や有機太陽電池のように、電気炉による全体加熱が好ましくない電気電子部品に関しては、所望のパターンに塗布した導電性ガラスペーストに対して、サファイアレーザー(波長800 nm程度)を照射して電極/配線を形成することができる。また、電磁波照射による局所加熱は、焼成に要する消費エネルギー量を低く抑えることができる利点もある。
【0085】
加えて、実施例1に記載したG1-06、G1-09の無鉛ガラス、および実施例2に記載したG2-14、G2-25〜G2-27の無鉛ガラスは、その成分にFe2O3を含んでおり、該成分のFeイオンもマイクロ波のエネルギーを好適に吸収する。そのため、それらの無鉛ガラス粒子を含む導電性ガラスペーストは、マイクロ波によっても加熱することができる。マイクロ波照射により、局所的な加熱が可能となり、温度に対してデリケートな電気電子部品(例えば、OLEDや有機太陽電池)に対して好適に適用できる。なお、マイクロ波の出力を調整することにより、ガラス相の中に導電性の結晶相を析出させることも可能である。
【符号の説明】
【0086】
10…太陽電池パネル、11…半導体基板、12…拡散層、13…反射防止層、
14…受光面電極/配線、15…集電電極/配線、16…出力電極/配線、
20…裏面電極型太陽電池パネル、21…パッシベーション膜、22…電極/配線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無鉛ガラス粒子と銀粒子と有機溶剤とを含有する導電性ガラスペーストであって、
前記導電性ガラスペーストは、更に酸化銀粒子を含有し、
前記無鉛ガラス粒子は、成分を酸化物で表したときに、V2O5とAg2OとTeO2とを少なくとも含有し、軟化点が300℃以下であることを特徴とする導電性ガラスペースト。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性ガラスペーストにおいて、
前記無鉛ガラス粒子におけるV2O5とAg2OとTeO2との合計含有率が85質量%以上であることを特徴とする導電性ガラスペースト。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された導電性ガラスペーストにおいて、
前記無鉛ガラス粒子は、15〜50質量%のV2O5と、10〜45質量%のAg2Oと、25〜40質量%のTeO2とを含有することを特徴とする導電性ガラスペースト。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の導電性ガラスペーストにおいて、
前記無鉛ガラス粒子は、V2O5とAg2Oとの合計含有率が55〜75質量%であり、Ag2OとTeO2との合計含有率が45〜85質量%であり、V2O5とTeO2との合計含有率が45〜90質量%であることを特徴とする導電性ガラスペースト。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の導電性ガラスペーストにおいて、
前記導電性ガラスペーストは、前記銀粒子の含有率を100質量部としたときに、前記酸化銀粒子を10〜70質量部、前記無鉛ガラス粒子を10〜50質量部で含有することを特徴とする導電性ガラスペースト。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の導電性ガラスペーストにおいて、
前記導電性ガラスペーストは、前記銀粒子の含有率を100質量部としたときに、前記酸化銀粒子を20〜50質量部、前記無鉛ガラス粒子を20〜40質量部で含有することを特徴とする導電性ガラスペースト。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の導電性ガラスペーストにおいて、
前記無鉛ガラス粒子は、P2O5、WO3、MoO3、BaO、Fe2O3、およびSb2O3の内の1種以上の成分を更に含有することを特徴とする導電性ガラスペースト。
【請求項8】
請求項7に記載の導電性ガラスペーストにおいて、
前記無鉛ガラス粒子は、前記1種以上の成分を5〜15質量%で含有することを特徴とする導電性ガラスペースト。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の導電性ガラスペーストにおいて、
前記有機溶剤は、ブチルカルビトールアセテートまたはα−テルピネオールであり、
樹脂バインダーとしてニトロセルロースを更に含有することを特徴とする導電性ガラスペースト。
【請求項10】
無鉛ガラス相と焼結銀とを含む電極/配線が形成された電気電子部品であって、
前記電極/配線は、請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の導電性ガラスペーストを焼成することによって形成されたことを特徴とする電気電子部品。
【請求項11】
無鉛ガラス相と焼結銀とを含む電極/配線が形成された電気電子部品であって、
前記無鉛ガラス相は、その成分を酸化物で表したときに、V2O5とAg2OとTeO2とを少なくとも含有し、軟化点が300℃以下であることを特徴とする電気電子部品。
【請求項12】
請求項11に記載の電気電子部品において、
前記無鉛ガラス相は、15〜50質量%のV2O5と、10〜45質量%のAg2Oと、25〜40質量%のTeO2とを含有し、V2O5とAg2OとTeO2との合計含有率が85質量%以上であることを特徴とする電気電子部品。
【請求項13】
請求項12に記載の電気電子部品において、
前記無鉛ガラス相は、V2O5とAg2Oとの合計含有率が55〜75質量%であり、Ag2OとTeO2との合計含有率が45〜85質量%であり、V2O5とTeO2との合計含有率が45〜90質量%であることを特徴とする電気電子部品。
【請求項14】
請求項11乃至請求項13のいずれかに記載の電気電子部品において、
前記無鉛ガラス相は、P2O5、WO3、MoO3、BaO、Fe2O3、およびSb2O3の内の1種以上の成分を更に含有することを特徴とする電気電子部品。
【請求項15】
請求項14に記載の導電性ガラスペーストにおいて、
前記無鉛ガラス相は、前記1種以上の成分を5〜15質量%で含有することを特徴とする電気電子部品。
【請求項16】
請求項10乃至請求項15のいずれかに記載の電気電子部品において、
前記電極/配線が、樹脂フィルム上または樹脂基板上に形成されていることを特徴とする電気電子部品。
【請求項17】
請求項10乃至請求項16のいずれかに記載の電気電子部品において、
前記電極/配線が、素子の端子と基板の端子との間の接続部として形成されていることを特徴とする電気電子部品。
【請求項18】
請求項10乃至請求項17のいずれかに記載の電気電子部品において、
前記電気電子部品が、太陽電池パネル、画像表示デバイス、携帯情報端末、積層コンデンサー、水晶振動子、LED、ICパッケージ、または多層回路基板であることを特徴とする電気電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−103840(P2013−103840A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246123(P2011−246123)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】