説明

導電性シートおよびその製造方法

【課題】電磁波シールド効果が高く、柔軟性の高い導電性シートであって、かつカーボン、繊維等の粉落ちの発生を防止できる導電性シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】弾性樹脂2及び導電性繊維集合体3を含む導電性シート1であって、JIS
B0601(1994)に基づく導電性シート1の表面粗さRaが、20μm以下の導電性シート1である。この導電性シートは、弾性樹脂2が、ポリウレタン樹脂であってもよく、導電性繊維集合体3が、銀でメッキした合成繊維を含む不織布であって、合成繊維の繊維長が20〜80mmの範囲内である。また、導電性シートは、導電性充填材として、カーボン系材料を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド効果が高く、柔軟性に優れた導電性シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の進歩により、電気、電子、電波等を利用した数多くの電子機器が普及している。これに伴い、電子機器が放射する電磁波の防止対策が、極めて重要となりつつある。かかる電磁波障害への対策として電磁波シールド性能又は導電性能をプラスチックスやゴムなどの高分子材料(ポリマー)へ付与する技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2004−140224号公報)には、携帯電話等の情報機器筐体から漏洩する電磁波を有効に遮断し、且つ衝撃に比較的脆弱な電子部品を保護できる緩衝機能を具備した導電性クッション材料、及びその製造工程が簡便で容易に製造できる製造方法が開示されている。その導電性クッション材料は、導電性細線からなる繊維集合体(A)と、導電性充填材(C)を含有する弾性樹脂(B)とから構成される導電性クッション材料であって、繊維集合体(A)の端部の少なくとも一部は、クッション材料の外表面から露出するが、その他の部分は、クッション材料中に埋設し、しかも、弾性樹脂(B)は、導電性充填材(C)を均一に混入しながら、その内部に多数の空洞を有することを特徴とするものである。
【0004】
特許文献2(特開平6−184951号公報)には、通電による発熱機能に優れ、しかも合成皮革の持つ柔軟性、ソフト感等の性質を損なうことなく、自動車シート、ソファ表皮材等に好適に使用することが可能な合成皮革が開示されている。その合成皮革は、銀めっきナイロン繊維(2)を含有する合成繊維ウエブをニードルパンテイングして不織布基材を構成し、銅合金粉等の導電性パウダー(3)を含有するポリウレタン樹脂(4)を含浸、発泡させたことを特徴とするものである。すなわち、金属メッキ合成繊維不織布に、ポリウレタンを含浸したものである。
【0005】
【特許文献1】特開2004−140224号公報
【特許文献2】特開平6−184951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1,2に開示された材料は、多孔質にすることによりクッション性を付与しているが、その多孔化の方法は、共に湿式法であるため、(1)表面の粗さが大きくなる結果、電子機器への密着性や、場合によっては、粘着性能を阻害したり、(2)多孔部分がシートの外側に開口し、表層に孔が存在するため、摩擦による「粉落ち」(粉:カーボンや導電性繊維といった、シートを構成するもの)が発生しやすく、電子機器に適用した場合、導電体間で「ショート」の原因となる可能性があったりした。特に、繊維端が導電性シートの外部に露出していると、「粉落ち」が発生しやすくなることが指摘される。
【0007】
本発明は、電磁波シールド効果が高く、柔軟性に優れた導電性シートであって、かつカーボン、繊維等の粉落ちの発生を防止できる導電性シートおよびその製造方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明では、以下の手段を採用した。
すなわち、本発明の導電性シートは、少なくとも、弾性樹脂及び導電性繊維集合体を含む導電性シートであって、JIS B0601(1994)に基づく前記導電性シートの表面粗さRaが、20μm以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の導電性シートにおいて、前記導電性繊維集合体を構成する繊維の繊維端は、前記導電性シートの外部に露出していない構成とすることができる。なお、ここでいう「繊維の一部が、導電性シートの外部に露出していない」とは、該繊維の繊維端又は繊維端間の一部の繊維が、シート外部へ飛び出しておらず、表面近傍に留まっている状態をいう。このような状態であれば、粉落ち等の発生を抑制することができる。
【0010】
本発明の導電性シートは、前記弾性樹脂を、ポリウレタン樹脂とすることができ、該ポリウレタン樹脂は、熱硬化性ポリウレタン樹脂が好適である。
【0011】
本発明の導電性シートは、前記導電性繊維集合体が、銀でメッキされた合成繊維を含む不織布であって、前記合成繊維の繊維長が20〜80mmの範囲内とするのが好適である。
【0012】
本発明の導電性シートは、導電性充填材を含むことができ、該導電性充填材はカーボン系が好適である。
【0013】
また、本発明の導電性シートは、電子機器に用いることができる。すなわち、本発明の導電性シートは、電子機器の筐体に対し、導電性の両面テープを使用し、またはシート材料に直接粘着剤を点状、線状等に配置して粘着層を形成して接着することができる。
なお、ここにいう電子機器とは、ノートパソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話、PDA、ナビゲーションシステム、医療機器類等をいう。
【0014】
また、前記導電性シートを適用する電子機器により、その大きさや厚さ、形状を変更する必要があるが、この導電性シートは、加工性に富んだ部材であるため、厚み・形状等を自由に適宜変更、選択することができるので、電子機器の形状・大きさに応じた部材を容易に製造することができる。
【0015】
さらに、本発明の導電性シートは、型抜きが容易であるため大量生産にも適している。
【0016】
上記のように、本発明の導電性シートは、電子機器に充分に適用できるシール性能及び緩衝性能を兼ね備え、さらに、加工が容易で生産性にも優れている。
【0017】
更に、本発明の導電性シートは、弾性樹脂を導電性繊維集合体に含浸・固化させて製造することができる。この導電性シートの製造方法は、複数の離型シートで導電性繊維集合体を両側から挟み込み、離型シートと導電性繊維集合体からなる層状物を形成する工程と、前記層状物の導電性繊維集合体と離型シートの間に弾性樹脂を流し込んで前記層状物を加圧する工程と、前記導電性繊維集合体に前記弾性樹脂を含浸させる際に、前記層状物を加圧する工程と、を有するものである。
この場合、離型シートとして、離型紙を使用することができ、導電性繊維集合体と離型シートの間に弾性樹脂が流し込まれた前記層状物を、対向したローラ間を通過させて加圧することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る導電性シートは、導電性繊維集合体を構成する繊維の繊維端がシート外部に露出しておらず、該繊維がシート表面で横になったりした状態(寝た状態)で、その一部
を表層に曝した状態で多く存在する。そのため、シート表面の平滑度が優れたものであり(表面粗さRaを20μm以下に抑えることができ)、摩擦による粉落ちの発生を有効に抑制でき、これを使用する電子機器のショートの原因となる「粉落ち」が有効に抑制され、また、表面の導電性も確保でき、アースをとることが可能となる。なお、本発明の導電性シートは、主に、電子機器の液晶表示装置と筐体間に挟んで配置される電磁波シールド材に用いるのに好適で、電子機器自体から発する電磁波漏洩の防止、外部からの電磁波による誤動作の防止、及び、振動・衝撃といった外力からの液晶部品等の保護を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態にかかる導電性シートを説明する。
実施の形態に係る導電性シートは、導電性繊維集合体、及び弾性樹脂を含むものである。そして、この導電性シートは、JIS B0601(1994)に基づく表面粗さRaが、20μm以下である。
【0020】
ここでいう導電性繊維集合体とは、導電性細線から構成され、表面を導体で被覆、塗装した繊維やカーボンファイバー等であり、電気を通すものであれば良い。
【0021】
導電性繊維集合体は、エステル繊維、アクリル繊維等の合成繊維にメッキを施したものや、カーボンファイバーにメッキを施したものが好適である。その理由は、均一に金属層を形成できるので品質が安定化しやすく、電気的な性能をコントロールしやすい為である。ポリエステル合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等が挙げられるが、汎用性のあるポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0022】
合成繊維に施されるメッキとしては、一般的に銅やニッケルメッキ等がされたものが用いられるが、これらは、高温高湿度の環境下では比較的腐蝕しやすく、経時的に表面抵抗が上昇して性能を劣化させる恐れがある。一方、銀メッキは、元々、貴な金属であり錆びに強く性能変化を起こしにくいため、好適に用いられる。このような繊維集合体として、例えば、金井重要工業株式会社製EM3300Dなどを使用することがで
きる。
【0023】
導電性繊維集合体の形状は、不織布が好ましい。不織布は、織編物に較べ、繊維の集合組織の状態がルーズなため、粘度を有した液体が含浸しやすく、含浸した液体が保持されやすい。
【0024】
導電性繊維集合体を構成する導電性細線の直径は、50μm以下とすることが好ましく、特に10〜30μm程度が好適である。50μm以下とすることで、クッション性及び電気抵抗値が優れたものとなる。
【0025】
導電性繊維集合体の重量(目付)は、10〜300g/m2が好ましい。重量が10g
/m2未満であると疎な組織となり、保持される含浸液が少なくなる結果、見栄えの悪い
シートになり、加えて導電性効果や電磁波シールド効果が低くなる。一方、重量が300g/m2を超えると、原料混合物が含浸しにくくなり、含浸に時間が掛かったり、含浸ロ
ール数を増やす等、操作性が悪くなる。
【0026】
導電性繊維集合体の厚さは、所望する導電性クッション材料の厚みにより種々変更すれば良いが、静置で0.2〜5mmの範囲が好ましい。
【0027】
導電性繊維集合体を構成する導電性細線の繊維長は、20〜80mmの範囲内が好ましい。繊維長が20mmより短いと、繊維の絡みが悪く、不織布としての強度が低下してし
まい、強く引っ張ると破壊される恐れがある。また、80mmよりも長いと、カーディング工程での操作性が悪く、ウエブ化する事が困難である。更に好適な繊維長は30〜55mmである。
【0028】
弾性樹脂としては、硬化後に弾性を有する樹脂で、所定の条件を満たせば適宜使用することができ、具体的には、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。中でも、ポリウレタン樹脂は汎用性があり、機械的物性に優れ、比較的安価であるため、好適に用いられ、特に、熱硬化性ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0029】
さらに、ポリウレタンを構成する原料配合比を変更することにより、所望の物性、特に硬度や発泡性を容易に変更できる等の利点がある。従って、熱硬化性ポリウレタンを使用すれば、溶剤を使用することなく、所望のシートを得ることができ、シートの表面状態をコントロールしやすく、加えて、環境面で有利である。
【0030】
また、溶剤を使用するウレタン溶液の含浸であると、溶剤を除去する目的で、表面を開放する必要があり、ウレタンを発泡させた際に、表面に開口された気孔が多数現出し、本発明の目的である表面粗さの低減を達成することができない。
【0031】
熱硬化性ポリウレタン樹脂としては、多官能ポリオール成分や多官能低分子化合物或いは、多官能イソシアネート化合物を種々組み合わせて使用する熱硬化性ポリウレタン樹脂が好適である。
【0032】
前記熱硬化性ポリウレタン樹脂の配合量は、導電性繊維集合体の重量に対して、0.5〜10倍程度の含有量が好ましい。配合量が0.5倍よりも少ないと、繊維を結束する力が弱く、10倍を超えると、表面抵抗値が高くなる。特に好ましくは、1〜7倍の範囲である。
【0033】
前記熱硬化性ポリウレタン樹脂の原料としては、ポリオール成分としてPPG(ポリオキシプロピレングリコール)や末端エチレンオキサイド変性PPG、PTMG(ポリテトラメチレングリコール)、3−メチルテトラヒドロフランとテトラヒドロフランの開環重合物等のエーテル系ポリオール、そしてそれらの多官能性化合物、または、ポリカプロラクトンポリオール及び多官能性化合物、3-メチル−1,5−ペンタンジオールのアジピン酸の重縮合物を代表としたポリエステルポリオール類が使用できる。なお、1,4−ブタ
ンジオール類、トリメチロールプロパン、グリセリン等の3官能化合物を適宜ブレンドして使用してもよい。
【0034】
さらに好ましくは、ポリオール単独、或いは、ブレンドした状態で2官能以上の官能基数となることが挙げられ、好適な範囲は、f=2〜3である。
【0035】
また、イソシアネート成分としては、TDI(トリレンジイソシアネート類)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、及びそのカルボジイミド変性体、またそれらの多量体等が例示できる。特に好適なものとして、MDIのカルボジイミド変性体がある。ポリオール成分とイソシアネート成分は、モル比でNCO/OH=1.2〜1.6程度で配合するのが好ましい。
【0036】
また、本発明においては、弾性樹脂に導電性充填材を添加することもでき、シートのポリマー部(導電性繊維集合体以外のゾーン)の導電性を補足するものである。導電性充填材を含有することにより、繊維集合体の有する導電性と相俟って、シートの導電性を向上させることができる。なかでも、金属粒子(銀粉等)や、カーボン系として、炭素粒子、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、フラーレン、黒鉛、膨張黒鉛等を適宜用い
ることができる。
【0037】
導電性充填材は、カーボン系の中でも、導電性や価格の面からカーボンブラックが好ましく、その中でもアセチレンガスを原料としたアセチレンブラックが好適である。
【0038】
導電性充填材の配合量は、カーボンブラック単独の場合、主剤に占める割合で1〜10wt%程度が好ましい。
【0039】
また、導電性シートが使用される電子機器によっては、難燃剤を添加して燃えにくくする必要がある。このような難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。
【0040】
その他、弾性樹脂含有混合物は、シリコン整泡剤、反応促進・泡化触媒等をブレンドしても良く、これらは目的に応じて適宜使用することができる。
【0041】
本発明の導電性シートは、その表面粗さRaを20μm以下であり、好ましくは15μm以下である。表面粗さRaが20μmより大きいと、その粗さのため、シート表面を摩擦した際に、粉落ちが発生し、ショートの原因となってしまう。
なお、表面が平滑になればなる程、外観品位や密着性が向上し、好ましい事は言うまでもない。しかし、過剰に平滑性を求めても意味はなく、1μm以上であれば、実用上、問
題のない粗さといえる。
【0042】
また、導電性シートにクッション性を付与するため、シート内には、空洞が多数存在することが望ましい。シート中に含まれる空洞は、その密度により把握することが可能であるが、そのシート密度は0.1〜1g/cm3であることが望ましい。
【0043】
次に、この実施の形態にかかる導電性シートの製造方法について説明する。
導電性シートの製造方法は、弾性樹脂を導電性繊維集合体に含浸させ、導電性シートを製造するものであって、図2に示すように、(a)複数の離型シート4,4によって導電性繊維集合体3を両側から挟み込んで層状物を形成する工程と、(b)導電性繊維集合体3と離型シート4の間に弾性樹脂である含浸液10を流し込んで導電性繊維集合体3に含浸させる工程と、(c)導電性繊維集合体3に含浸液10を含浸させる際に、前記層状物を加圧する工程と、を有する。
上記(a)に係る工程では、導電性繊維集合体を挟み込むために、離型シートが使用される。該離型シートとしては、紙、フィルム等、シートを離型できる機能を有するものであれば、特に限定されないが、ポリプロピレンをコーティングされた離型紙が好適に用いられる。
上記(b)に係る工程では、含浸液を導電性繊維集合体に含浸させる。その含浸液の粘度・物性等は、使用する導電性繊維集合体の形態等により、適宜調整することが必要である。
上記(c)に係る工程では、層状物を加圧する。加圧する方法としては、対向したマングルロール5、5の間を通過させる等の方法が考えられる。
【0044】
次に、導電性シート1の製造方法を、弾性樹脂として熱硬化性ポリウレタン樹脂を使用する場合を例にとり、さらに詳細に説明する。
【0045】
(1)含浸液の調整:熱硬化性ポリウレタン樹脂の主剤として、ポリオール類、シリコン類などを配合する。また、それとは別に、硬化剤として、イソシアネート化合物を準備する。両者を、含浸液調整装置6中で、所定割合にて高速混合することにより含浸液を調整する。主剤の粘度(B型回転粘度)は、100〜20000cpが好ましく、更に好まし
くは、1000〜10000cpである。この範囲に調整することにより、導電性繊維集合体への含浸を良好なものとすることができる。
【0046】
(2)含浸:図2に示すように、ローラとして、左右方向に対向するようにマングルロール5,5を配置し、左右のマングルロール5、5間に、2枚の離型シート4,4に挟まれた導電性繊維集合体3(以下、層状物という)を通過させ、通過させる際に、離型シート4,4と導電性繊維集合体3の隙間に含浸液(熱硬化性ポリウレタン樹脂原料混合物)10を流し込みながら、層状物に加圧する。このようにすれば、所定量の含浸液10を、一定量、かつ、全体に均一に繊維集合体3に含浸(Nip−Dip)させることができる。
【0047】
このとき、離型シート4を用いずに、マングルロール5上へ直接、含浸液10を流し込んでしまうと、マングルロール5に付着した含浸液10が順次、マングルロール5上で硬化し始めてしまい、導電性シート1の製造を続けることが不可能となる。また、供給する前記調整液の量が多すぎると、離型シート4上で熱硬化性ポリウレタン樹脂の硬化が始まってしまうため、供給量が適量となるように調節する必要がある。
また、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて、この離型シートに挟み込んだ状態で凝固させる方法を取ろうとしても、熱可塑性ポリウレタン樹脂の溶媒である溶剤を抜き取ることができず、シート状に固化することはできない。
【0048】
(3)硬化:調整液を含浸させた導電性繊維集合体3を、高温で乾燥させて熱硬化性ポリウレタン樹脂を発泡硬化させることで、導電性シート1を得る。乾燥条件は、目的により適宜設定できる。
【0049】
このように、導電性シート1は、弾性樹脂2及び導電性繊維集合体3を双方から離型シート4,4で挟み込んで作製するため、導電性シート表層近辺の繊維集合体は、その端部(例えば、繊維13)が起毛した状態ではなく、表面で横になった状態(寝た状態)で多く存在する(図1の拡大(50倍)平面図参照)。そのため、繊維13の脱落はきわめて発生しにくくなり、これを使用する電子機器のショートの原因となる「粉落ち」が有効に抑制される。
【0050】
また、上述のように、離型シート4,4で挟んだ状態で熱硬化性ポリウレタン樹脂を発泡させるため、導電性シート1の表面に開口した孔が形成されることが抑制され、熱硬化性ポリウレタン樹脂内に内包された空洞を比較的多く形成することができる。そうすることにより、導電性シート表面の粗さを適度に(表面粗さRaを20μm以下に)抑えることができ、その擦れのために「粉」が発生するのを有効に防止することが可能となる。
【0051】
上記のように、本発明の導電性シート1は、電子機器内に設置するのにきわめて適した性質を備えるものである。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の導電性シートの実施例について説明するが、本発明は、本実施例に特に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
(導電性繊維集合体3)
導電性シート1に用いる導電性繊維集合体3を、以下のようにして製造した。
・平均長さ51mm/10本、直径25μmの銀メッキを施したポリエステル繊維a、
・平均長さ51mm/10本、直径25μmのアクリル繊維b、
・平均長さ51mm/10本、直径25μmのレーヨン繊維c、
をそれぞれ準備した。
これらを、重量比a:b:c=3:2:1となるように調整し、合計100kgとなるように
計量した。
【0054】
次に、前記繊維a、b、cを混打梳工程により混合後、カーディング工程を経てウエブ状態とした。その後、水流交絡により不織布とした。
【0055】
この不織布は、巾1000mm、目付70g/m、厚み0.4mmに形成され、表面
抵抗率は0.2Ω/□、体積抵抗率は0.006Ω・cmであった。そして、このようにし
て得られた導電性繊維集合体(不織布)3は、表面に繊維がはみ出した構造であり、容易に繊維が脱落するものであった。
【0056】
次に、導電性繊維集合体3に含浸する熱硬化性ポリウレタン樹脂原料混合物(含浸液)の調整について述べる。
まず、ポリオール成分として、主剤Aを調整した。その材料と配合割合を表1に示す。
【表1】

【0057】
各材料を、上記表1に示す割合で合計10kgとなるように計量した後、ジャケット付攪拌装置を用いて窒素雰囲気下30℃、150rpmにて60分間攪拌して主剤Aを得た。得られた主剤Aは、目視にてカーボンブラックが均一に分散され、25℃下におけるB型回転粘度計の粘度が2500cpであった。
【0058】
(硬化剤B)
イソシアネート成分として、ダウ・ケミカル日本社製カルボジイミド変性MDI(商品名:イソネート143LP)を用いた。
【0059】
(製造工程)
以下、導電性シートの製造工程を、図2を参照して説明する。
1.含浸液の投入
前記主剤Aをジャケット付き耐熱容器7に、前記硬化剤Bをジャケット付き耐圧容器8に、それぞれ投入した。これらの耐熱容器7、8内の温度を30℃として、窒素圧0.1Mpaをかけて主剤A及び硬化剤Bを別々に封入した。
【0060】
次に、それぞれの耐圧容器7、8から、フレキシブル配管11、12を通じて、図示しないギアポンプにより、予め設定した量の主剤A及び硬化剤Bを含浸液調整装置6内に送った。また、これらの配合比は、主剤A:硬化剤B=1.478:1とした。
含浸液調整装置6内に投入された主剤A及び硬化剤Bを、前記含浸液調整装置6内に設けたミキシングヘッド6aにより、攪拌混合した。ミキシング速度は1250rpm、攪拌量は500g/分とした。
【0061】
2.含浸
先ず、ローラの表面にフッ素コート加工が施され、ローラの幅を250mmとした2つのマングルロール5、5を対向するように設置した。これらのマングルロール5、5間のクリアランスを0.4mmに調整し、マングルロール5、5の回転速度は、周速0.5m/分に設定した。
【0062】
また、ポリプロピレンを片面にコーティングした離型紙4(PPコート紙)を用意した。
そして、前記不織布3の両側に離型紙4、4が配されるように、対向する2本のマングルロール5、5を回転させ、不織布3の両側から離型紙4、4を不織布3の表裏面に沿うように送り、その際、図示のように、含浸液調整装置6から導かれた含浸液10を、離型紙4及び不織布表面3aの間、離型紙4及び不織布裏面3bの間に、それぞれ供給した。
表裏面に含浸液10が付着した上記層状物を、マングルロール5、5の回転に伴って順次送りながら加圧し、不織布3の全体に含浸液10を練り込むようにして含浸させた。
【0063】
3.硬化・発泡
含浸後の層状体(離型紙4、不織布3、離型紙4)を、縦400mm×横400mm、厚み2mmのステンレス板上に、皺を作らないように展長させた。次いで、前記ステンレス板と同サイズとした別のステンレス板を層状体の上に被せ、その上に5kgの錘を載せた。
このような状態で、層状体を予め100℃に昇温させてある乾燥機内に入れ、30分加熱して乾燥させた。この層状体を放冷後、上記の二枚のステンレス板を取り外し、さらに、不織布3の表裏面に付着した離型紙4、4を除去して導電性シート1を得た。
【0064】
[比較例1]
(1)ポリウレタン溶液の調製
日清紡績(株)製エーテル系ポリウレタンペレット(商品名:モビロンP−24TS)350gに対して、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)1983gをジャケット付ニーダーに仕込み、50℃下2時間の溶解を行ない、15wt%のポリマー溶液を得た。更に、DMF584gを加えて、約12wt%のポリマー溶液を得た。
(2)導電性カーボンブラック分散液の調製
導電性カーボンブラック[電気化学工業(株)製。商品名:デンカブラックHS−100]50gに対して、DMF366.7gを加えた後、ホモジナイザーで、15分間分散処理を行ない、濃度12wt%のカーボンブラック溶液を調製した。
(3)導電性カーボンブラック含有ポリウレタン溶液の調製
500mlのセパラブルフラスコに、上記ポリマー溶液240g、上記カーボンブラック溶液160gを添加し、室温下で15分間攪拌を行なった。攪拌終了後約60分静置し、カーボンブラック含有ポリマー溶液に巻込んだ気泡を自然脱泡した。
(4)シートの作製
繊維長38mm、繊維径20μm、目付量75g/m、厚み0.5mmのカーボン
不織布(巾150mm、長さ200mm)をステンレス製バットに入れ、(3)で調整した溶液に浸漬した。不織布は、適宜、ピンセットで揺さぶりながらシート由来の気泡除去を行ない、30分間浸漬した。
浸漬後、直径65mm、巾250mmの表面ふっ素コート加工を施したロールを2本横方向に並行に配置し、ロール間クリアランスを0.45mmに調整した。運転は、クリアランスを設定したロール面において、2本のロールを下向きに回転させ、周速度が0.5
m/分となる様に運転した。この間隙に、上部から導電性カーボンブラック含有ポリウレ
タン溶液が含浸された不織布を挟み、不要な導電性カーボンブラック含有ポリウレタン溶液を絞り取りながら、ロール下部より導電性カーボンブラック含有ポリウレタンが含浸されたカーボン不織布を採取した。
(5)凝固
上記含浸後不織布は、30wt%のDMF水溶液500mlを張り込んだステンレス製バットの中へ浸漬し、15分間静置することで凝固を行った。さらに当該シートを5Lの水を張り込んだバットに12時間浸漬し、DMFを除去した。除去後、シートは風乾させることで、湿式法による導電性シート2を得た。
【0065】
[比較例2]
不織布を挟み込む離型紙を用いないこと以外は、実施例1と同様に、導電性シートを作成した。
【0066】
(評価)
上記実施例・比較例で得られた導電性シートの各々の性能を以下の表3に示す。
なお、本実施例における各物性・評価の測定方法は、以下のとおりである。
(1)電気性能
三菱化学製ロレスターEP測定機(EPSプローブ)を用いた。試料として、80×50mmのサンプルを5枚用意し、一枚当たり9点を測定後、その平均値で示した。(JIS K7194準拠)
(2)電磁波シールド性能
KEC法を用いた。
(3)密度
エー・アンド・デー社製電子比重計(ED−120T型)を用いた。水中における重量(浮力)を測定して値を求めた。試料は、30mm角に切り取り、5回の平均値で評価した。
(4)テープ剥離による表面の脱落性
テープ剥離試験を実施した。具体的には、得られたサンプルに対して、巾18mm長さ150mmのメンディングテープ(コクヨ製T-118)を貼付し、0.75kgのロール
で1往復した。そして、サンプルを巾なりに切り取って、端面をゆっくり引っ張って、剥き口を作成した。テープ面及び、サンプル面を引っ張り試験機にかけ、300mm/分の
速度で引き剥がした。その後、テープを目視観察し、以下の基準で評価した。
○:剥ぎ取り後の粘着テープに、極僅ではあるが、繊維やポリマーの付着はあるも
のの、シート表面は殆ど損傷しないもの。
×:剥ぎ取り後の粘着テープにシートが取られてしまい、明らかにシート表面が破
壊したもの。
(5)破断強度及び引裂強度
JIS K7311に基づいた。
(6)硬度
アスカーC型デュロメーターを用いた。シートは、80×50mmに切り取り、約40
枚程度重ねて、総厚みが20mm以上となる様に調整した。上記硬度計に1kgの重力にて
押し付け、硬度を読み取った。測定は、5回の平均で評価した。
(7)表面粗さ
3次元表面粗さ形状解析システム(東京精密製サーフコム570A−3DF)を用いて、JIS B0601(1994)に準拠した。
(8)磨耗試験
デイバー式ロータリーアブレッサー(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、JIS K 7204(1995)に準拠して、磨耗減量を測定した。加重は、250gfで磨耗輪H−22を使用した。また、回転速度は、60rpmで、100回転時の測定結果で評
価した。
【0067】
【表2】

【0068】
上記評価より、実施例1の導電性シートは、表面が平滑で、横になった繊維が露出した構造となっており、加えて、断面には空洞が存在し適度のクッション性を有しているので、導電性パッキング材料に適した構造となっている。また、その他の評価より、電子機器に適用される導電性シートとして、良好な性能を有していることが分かる。その表面粗さRaは、10μmであり、平滑性及び表面の脱落性とも良好な結果となり、パッキング用シートとして好ましい物となった。
一方、比較例1では、シート化は可能で且つ、電気性能、シールド性能等所望する好適な物性を有するものの、表面は比較的粗く、剥離により表面が脱落しやすい物であり、磨耗による重量減少量が非常に大きく、パッキン材として使用した場合に、擦られる事で生じる導電性粉・繊維の脱落、いわゆる「粉落」が発生しやすく、本件用途の使用に耐えないことが判る。また、比較例2では、離型紙を用いなくとも辛うじてシート状の物体を作製することはできるものの、表面の凹凸が激しく、表面が剥離しやすいことに加え、磨耗試験では、当該条件下で摩擦に耐えきれず「破壊」してしまう等、本件用途の使用に全く耐えないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る導電性シートは、以下に述べるように各種の電子機器の電磁波シールド部材として適用することができる。
【0070】
電子機器は、一般に、集積回路や場合によっては高周波増幅装置を有するため、電磁波を発生させる。不要な電磁波は、他の電子機器の誤作動を発生させる場合があり、筐体外
へ漏洩しないように導通性のある仕切りで遮蔽したり、発生する電磁波周波数が概ね特定される場合は、電磁波吸収材料等による減衰措置が施されたりする。一般に、電磁波吸収材料は、その吸収効力を強く発揮する周波数域がシート固有であるため、特定の電磁波に対し特定の吸収シートを選定する必要がある。
本発明の導電性シートは、電子機器内部で発生した電磁波が筐体外へ漏洩するのを防ぐため、或いは、外部の不特定周波数電磁波の侵入を防ぐために、必要部位に取り付けることができる。
【0071】
電磁波の漏洩を防ぐ必要のある部位は、例えば、携帯電話であれば、液晶表示装置の枠体部分である。通常、液晶画面の取り付け部位には、緩衝部材(ウレタンゴム等の弾性体)が使用される。
【0072】
ところで、携帯電話では、電磁波の発生が見込まれる場所に、金属製の囲みや仕切り等を施し、筐体内部でも別の回路へ影響しないような処置が施される。しかし、携帯電話の種類によっては、上記処置を施した後も、液晶表示装置と筐体間のパッキン部から、筐体外へ不要電磁波が漏洩してしまう場合がある。
そこで、このような漏洩を防ぐため、液晶画面と筐体間に、緩衝性と電磁波シールド性を兼ね備えた部材が使用されていた。これは、金属箔を短絡することでシールド効果と緩衝効果を得ることができるもので、シールド部材として型抜きをした銅箔を2枚用意し、さらに、その銅箔2枚でフェルトを挟み込んだものである。このように、従来のものは、電磁波シールド性能と適度なクッション性を備えているものの、銅箔を2回、フェルトを1回の計3回の型抜きとセットが煩雑な為、経済的に高価な処置を必要とする。
【0073】
電磁波の侵入を防ぐ必要のある部位として、例えば、携帯電話であれば、液晶表示装置の枠体部分が考えられる。通常、液晶画面の取り付けには、シールド性の無い緩衝部材(ウレタンゴム等の弾性体)が使用される。近年、携帯電話等個人認証ツールとして使用されることがあり、また、今後もIT化の進行で広がるようになり、誤動作をなくす要求が高まりつつある。また、2000MHZといった高周波の電波も使用されるようになり、電波環境が多様化している。このため、侵入の防止に関して潜在的な要求が高まっており、上記部位では、従来の緩衝材では対応できなくなってきているのが実情である。
【0074】
例えば、携帯電話に適用される電磁波シールド部材としては、一般的に、次のような条件を満たさなければならない。
a.クッション性能
硬度アスカーC型硬度で80以下である。液晶は、通常のプラスチックに較べ、ガラス等からなるために脆弱で、装着される液晶が大きい程、筐体から伝わる振動を吸収できる緩衝性能を向上させる必要がある。
b.電磁波シールド性能
40db以上必要であり、遮蔽率で99%以上であることが求められる。
c.シールド部材の厚み
0.3〜0.5mm程度である。
【0075】
一方、従来の電磁波シールド部材としては、銅箔が多く用いられていたが、銅箔の場合には、電子機器の所定部位への適用のため、所定の寸法、形状に加工するため、打ち抜きを何度も繰り返して行なう必要があった。
【0076】
本発明の導電性シートは、電子機器の筐体に対し、導電性の両面テープを使用し、またはシート材料に直接粘着剤を点状、線状等に配置して粘着層を形成して接着することができる。
【0077】
また、前記導電性シートを適用する電子機器により、その大きさや厚さ、形状を変更する必要があるが、この導電性シートは、加工性に富んだ部材であるため、厚み・形状等を自由に適宜変更、選択することができるので、電子機器の形状・大きさに応じた部材を容易に製造することができる。
【0078】
さらに、本発明の導電性シートは、型抜きが容易であるため大量生産にも適している。
【0079】
上記のように、本発明の導電性シートは、電子機器に充分に適用できるシール性能及び緩衝性能を兼ね備え、さらに、加工が容易で生産性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の導電性シートを示す拡大平面図である。
【図2】導電性シートの製造工程の一部を示す図である。
【符号の説明】
【0081】
1 導電性シート
2 充填材を分散した弾性樹脂
3 導電性繊維集合体
4 離型シート
5 マングルロール
6 含浸液調整装置
6a ミキシングヘッド
7 ジャケット付耐圧容器
8 ジャケット付耐圧容器
10 含浸液(弾性樹脂液)
11 フレキシブル配管
12 フレキシブル配管
13 繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、弾性樹脂、及び導電性繊維集合体を含む導電性シートであって、JIS B0601(1994)に基づく前記導電性シートの表面粗さRaが、20μm以下であることを特徴
とする導電性シート。
【請求項2】
前記導電性繊維集合体を構成する繊維の一部が、前記導電性シートの外部に露出していないことを特徴とする請求項1に記載の導電性シート。
【請求項3】
前記弾性樹脂が、ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性シート。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂が、熱硬化性ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の導電性シート。
【請求項5】
前記導電性繊維集合体が、銀でメッキされた合成繊維を含む不織布であって、前記合成繊維の繊維長が20〜80mmであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の導電性シート。
【請求項6】
導電性充填材を更に含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の導電性シート。
【請求項7】
前記導電性充填材が、カーボン系であることを特徴とする請求項6に記載の導電性シート。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の導電性シートを用いた電子機器。
【請求項9】
弾性樹脂を導電性繊維集合体に含浸させて導電性シートを製造する導電性シートの製造方法であって、
複数の離型シートで導電性繊維集合体を両側から挟み込み、離型シートと導電性繊維集合体からなる層状物を形成する工程と、
導電性繊維集合体と離型シートの間に弾性樹脂を流し込んで導電性繊維集合体に含浸させる工程と、
導電性繊維集合体に弾性樹脂を含浸させる際に、層状物を加圧する工程と、
を有することを特徴とする導電性シートの製造方法。
【請求項10】
前記離型シートが、離型紙であることを特徴とする請求項9に記載の導電性シートの製造方法。
【請求項11】
前記導電性繊維集合体と離型シートの間に前記弾性樹脂が流し込まれた前記層状物を、対向したローラ間を通過させて加圧することを特徴とする請求項9又は10のいずれかに記載の導電性シートの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−220791(P2007−220791A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37943(P2006−37943)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】