説明

導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物

【課題】高い溶解性を示し、加工性に優れたものであって、高い導電性と透明性とを有する透明導電膜の材料として有用である導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物を提供する。
【解決手段】化学式(I)で表される繰り返し単位を有するベンゾチアジアゾール共重合体とドーパントとを含有する導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物。


[式(I)中、W及びYは2価のチオフェン環、n及びmは0〜1、R、R、R及びRは下記化学式(II)R−[X−(CH)]−(X)−・・・(II)(X及びXは同一又は異なる酸素原子若しくは硫黄原子、[X−(CH)]は繰り返し単位毎にXと−(CH)−とが同一又は異なり、aは1〜20、bは0〜20、cは0〜1)で示される側鎖基である]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜の材料として有用である導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネル等の透明電極、又は電磁波シールド材等の基材のコーティング等に用いられている。
【0003】
最も広く汎用されている透明導電膜は、インジウム−スズの複合酸化物(ITO)の蒸着膜である。このITOの蒸着膜は、ITOの主原料であるインジウムが希少金属であるため、資源問題による価格高騰や安定供給の確保によって原料コストが高く、さらに成膜工程において高温処理が必要であるため、成膜コストも高いものである。また、ITO等の無機酸化物で形成された透明導電膜は、基材のゆがみによりクラックが入りやすく、そのため導電性が低下しやすいものである。
【0004】
これらの問題点を改善するものとして、ITO代替材料の開発が精力的に行われている。特にフレキシブルディスプレイ等の次世代エレクトロニクスデバイス用途を想定した場合、導電性高分子による有機物代替技術は、その導電性高分子が軽量で加工しやすいことや形状の自由度が高く柔軟性を示すこと等の様々な利点を有することから、有望な手段である。
【0005】
導電性高分子として、チオフェン、ピロール、アニリン、それらの誘導体を重合したものが数多く開示されている。例えば、π共役系導電性高分子にドープしたポリアニオンと、塩基性有機化合物とのイオン対を、有機溶剤を含む溶媒中に分散してなる導電性組成物、及びそれを使用した透明導電膜が開示されている(特許文献1)。このようなπ共役系高分子にドーパントを注入することで金属様の性質を発現することが知られている。その中でも、特にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体(PEDOT/PSS)は、導電性が高い共役高分子の1つであり、一部で水分散液として実用化されているが(非特許文献1)、有機溶媒への溶解性が低く加工性に劣る。その他、太陽電池や発光デバイス等に有用である導電性薄膜の材料としてPEDOT/PSSの研究がされているが(非特許文献2、3、4)、PEDOT/PSSは水分散型が中心であり、分散粒子が凝集してしまうことや、水を使うことからエレクトロニクス分野においてデバイスの性能低下を引き起こしてしまうこと等、その使用工程において課題がある。
【0006】
このように十分な性能を満たす材料は得られていないため、溶媒への溶解性が高く加工性に優れており、高い導電性と透明性とを有する透明導電膜を形成することができる材料が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−254730号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】シンセティック メタルズ(Synthetic Metals),2003年,第135-136巻,p.115−117
【非特許文献2】ソーラー エナジー マテリアルズ アンド ソーラー セル(Solar Energy Materials & Solar Cells),2006年,第90巻,p.3520−3530
【非特許文献3】オーガニック エレクトロニクス(Organic Electronics),2002年,第3巻,p.111−118
【非特許文献4】ジャーナル オブ エレクトロン スペクトロスコピー アンド リレイテッド フェノメナ(Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena),2001年,第121巻,p.1−17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、高い溶解性を示し、加工性に優れたものであって、高い導電性と透明性とを有する透明導電膜の材料として有用である導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物は、下記化学式(I)
【化1】

[式(I)中、W及びYはそれぞれ置換基を有してもよい2価のチオフェン環、n及びmは0〜1、R、R、R及びRはそれぞれ下記化学式(II)
−[X−(CH)]−(X)− ・・・(II)
(式(II)中、Rは水素原子、又は炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、X及びXは同一又は異なる酸素原子若しくは硫黄原子、[X−(CH)]は繰り返し単位毎にXと−(CH)−とが同一又は異なり、aは1〜20、bは0〜20、cは0〜1)で示される側鎖基]で表される繰り返し単位を有するベンゾチアジアゾール共重合体と、ドーパントとを含有していることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物は、請求項1に記載されたものであって、前記化学式(I)中、R及びRがそれぞれ水素原子であることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物は、請求項1に記載されたものであって、前記化学式(I)中、R及びRがそれぞれ水素原子、R及びRが前記化学式(II)中のb及びcの少なくとも一方を正数とし、又はb=c=0でRを前記アルキル基とする前記側鎖基であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の透明導電膜は、基材上に、請求項1に記載の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物が硬化していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物は、透明性と導電性とに優れた透明導電膜の材料として用いることができる。この導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物は、溶媒に高い溶解性を示し安定であるため、透明導電膜としての加工性に優れており簡便に透明導電膜を形成することができる。
【0015】
本発明の透明導電膜は、高い溶解性と加工性とを有する導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物を用いて煩雑な工程を必要とせずに原料コスト及び成膜コストを抑えて多量に生産することができるものであって、かつ優れた透明性と導電性とを示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物は、前記化学式(I)に表される繰り返し単位を有するベンゾチアジアゾール共重合体とドーパントと溶媒とを含有しているものである。
【0018】
前記化学式(I)中、R、R、R及びRが表す前記化学式(II)において、[X−(CH)]の繰り返し単位は、Xがそれぞれ酸素原子のみ又は硫黄原子のみであってもよく、両原子が規則的又は不規則的に含有されているものであってもよい。
【0019】
前記化学式(II)において、Rが表す炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、2−メチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロプロピル基等が挙げられる。
【0020】
前記化学式(I)において、W及びYが表す2価のチオフェン環としては、例えば、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ペンチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−ヘキサデシルチオフェン、3−(2−エチルエキシル)チオフェン、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3−プロポキシチオフェン、3−ブトキシチオフェン、3−ペンチルオキシチオフェン、3−ヘキシルオキシチオフェン、3−デシルオキシチオフェン、3−ドデシルオキシチオフェン、3−ヘキサデシルオキシチオフェン、3−〔2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ〕チオフェン、3−{2−〔2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ〕エトキシ}チオフェン、〔2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ〕エトキシ}チオフェン、3−〔2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ〕メチルチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられる。
【0021】
これらの2価のチオフェン環は、置換基を有してもよく、かかる置換基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、又は環状であるアルキル基、アルコキシ基等前記で列挙した置換基が挙げられる。
【0022】
列挙したアルキル基、2価のチオフェン環及び置換基は、具体例であって、これらに限定されるものではない。
【0023】
以下に前記化学式(I)で表されるベンゾチアジアゾール共重合体の具体例を化学式(1)〜(20)として示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
前記化学式(I)及び化学式(1)〜(20)で示されるベンゾチアジアゾール共重合体の構造の結合配列は、位置規則的にヘッド−テイル繰返構造が配列したものであってもよく、ヘッド−ヘッド繰返構造、及び/又はテイル−テイル繰返構造が配列したものであってもよい。これらのベンゾチアジアゾール共重合体の数平均分子量は、1,000〜2,000,000の範囲であると好ましく、2,000〜500,000の範囲であるとより好ましい。
【0027】
本発明の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物は、前記化学式(1)で表されるベンゾチアジアゾール共重合体にドーパントを作用させ、導電性を付与することであるドーピングによって得ることができる。
【0028】
ドーパントは、ベンゾチアジアゾール共重合体を酸化還元させることにより導電性を向上できるものであれば、特に制限はなく、公知の種々の電子供与性物質や電子吸引性物質を適宜選択し、用いることができる。中でも、電子吸引性物質をドーパントとして用いることが好ましい。電子吸引性物質は、酸化され正の電荷を帯びた化学式(I)で示されるベンゾチアジアゾール共重合体に対するカウンターアニオンとして機能する。
【0029】
ドーパントとして使用される電子吸引物質は、具体例に、ハロゲンとしてCl、Br、I、ICl、IBr、及びIF、ルイス酸としてPF、AsF、SbF、BF、BCl、BBr、及びSO、プロトン酸としてHF、HCl、HNO、HSO、HClO、FSOH、CISOH、CFSOH、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、その他各種有機酸、及びアミノ酸等、遷移金属化合物としてFeCl、Fe(ClO、TiCl、ZrCl、HfCl、NbF、NbCl、TaCl、MoF、MoCl、UF、LnCl(Ln=La、Ce、Pr、Nd、Sm等のランタノイド)、電解質アニオンとしてCl、Br、I、ClO、AlCl、FeCl、SnCl5、PF、AsF、SbF、BF、NO、SO2−、p−トルエンスルホン酸アニオン、ナフタレンスルホン酸アニオン、カンファースルホン酸アニオン、ドデシルベンゼンスルホン酸アニオン、及びその他各種有機酸アニオン等、FSOOOSOF、AgClO、HIrCl、La(NO・6HO等が挙げられる。電子吸引物質はこれらに限定されるものではない。
【0030】
本発明に含有されるドーパントは1種を単独で用いられてもよく、又は2種以上を併用して用いられてもよい。このドーパントの添加方法は、特に限定されず、例えば、重合後に所望のドーパントを適宜添加することができる。
【0031】
本発明の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物におけるドーパントの含有率は、特に制限はなく、任意に選択することができるが、1〜50質量%の範囲であると好ましい。その含有量は、導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物の調製工程において、イオン交換樹脂や種々ろ過法等によって、適宜調製することができる。
【0032】
本発明の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物は、ベンゾチアジアゾール共重合体とドーパントとの必須構成成分の他に、溶媒が含まれていてもよい。溶媒としては、特に限定されず、ベンゾチアジアゾール共重合体が分散、及び溶解するものであればよく、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、1,2―エタンジオール等のセロソロブ類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン化類等が挙げられる。
【0033】
さらに、導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物には、ベンゾチアジアゾール共重合体、ドーパント、及び溶媒の成分の他に、必要に応じて任意の添加剤を含有してもよく、その添加するタイミングも任意に選択することができる。添加剤としては、公知の添加剤等の中から適宜選択することができ、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、劣化防止剤、重合禁止剤、表面改質剤、脱泡剤、可塑剤、抗菌剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を併用して使用してもよい。
【0034】
前記化学式(I)で表される繰り返し単位を含むベンゾチアジアゾール共重合体の製法は、特に制限されず、クロスカップリング重合法、化学酸化重合法、電解重合法等如何なる合成方法であってもよい。例えば、ジャーナル オブ ポリマー サイエンス パートA:ポリマー ケミストリー(Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry),2002年,第40巻,p.2360−2372、マクロモレキュラーズ(Macromolecules),2006年,第39巻,p.8712−8719、マクロモレキュラーズ(Macromolecules),2008年,第41巻,p.6952−6959、に挙げられる文献を参考に、下記化学反応式(A)に示すように、金属錯体存在下で、クロスカップリングする方法により共重合体を得ることができる。
【0035】
【化4】

【0036】
前記化学反応式(A)において、R、R、R、R、W、及びYは、前記化学式(I)及び(II)と同様のものであり、L及びL’は同一又は異なるハロゲン原子である脱離基であり、Q及びQ’は同一又は異なり、−MgCl、−MgBr、−MgI、−ZnCl、−ZnBr、−ZnI、及び−Sn(Aky)から選ばれる基である。なお式中、m〜nは整数であってもよい。ここでAkyとは、アルキル基を示す。
【0037】
上記のクロスカップリング重合法で得られたベンゾチアジアゾール共重合体は、中性状態を示しており、ドーピング工程を経て、導電性を有する導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物となる。
【0038】
このようにして得られた本発明の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物は、優れた透明性と電気伝導性とを有する透明導電膜の材料として有用である。この中性状態のベンゾチアジアゾール共重合体を透明基材に塗布した後に、前記のドーピング操作を行い導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物とし透明導電膜を形成してもよく、又は、ベンゾチアジアゾール共重合体とドーパントとを含む導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物を透明基材に塗布し成膜することによって透明導電膜を形成してもよい。
【0039】
透明基材としては特に制限はなく、その材料、形状、厚み等については公知のものから任意に選択することができ、例えば、ガラスや樹脂材料が挙げられる。
【0040】
樹脂材料としては、公知のものから任意に選択することが可能で、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブタジエン樹脂、酢酸セルロース、硝酸セルロース、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を併用して使用してもよい。
【0041】
本発明の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物を用いて得られる透明導電膜の厚みは、特に制限は無く、任意に選択することが可能であるが、導電性、透明性、及び基材との接着性等を考慮すると、例えば0.01〜10μmが好ましい。
【0042】
透明導電膜の電気抵抗値としては、表面抵抗率として、10000Ω/□以下であることが好ましく、1000Ω/□以下であることが更に好ましい。表面抵抗率は、例えばJIS−K6911、ASTM D257等に準拠して測定することができ、また市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することができる。
【0043】
透明導電膜の可視光線透過率としては、70%以上であることが好ましく、80%以上であることが更に好ましい。
【0044】
本発明の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物を用いて得られる透明導電膜の形成方法としては、特に制限は無く、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、塗布法や印刷法等が好適に挙げられる。これらは1種の単独の方法であってもよく、2種以上を併用した方法であってもよい。
【0045】
塗布法としては特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、グラビアコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スプレーコート法、ドクターコート法等を挙げることができる。印刷法としては特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、スクリーン印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法等を挙げることができる。
【0046】
透明導電膜は、透明基材上の全面に形成されていてもよく、又は電極や配線パターンを形成する等部分的に形成されていてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
本発明の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物に用いられるベンゾチアジアゾール共重合体の合成例を示し、得られたベンゾチアジアゾール共重合体を含有する導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物、及びそれを用いてその薄膜を調製して透明導電膜を作製した例を実施例1〜3に示す。
【0049】
得られたベンゾチアジアゾール共重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分散度(Mw/Mn)は、検出器として示差屈折率計を用い、溶離液としてテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、標準ポリスチレンで作成した検量線による換算値として求めた。
【0050】
GPC測定:カラムとして、TSK−gel SuperMultipore HZ−M(商品名:東ソー株式会社製、)2本を直列につないだものを使用し、カラム温度40℃、溶離液の流速0.35mL/分の条件で測定した。
【0051】
<合成例>
下記化学式(III)に示されるポリ〔2,5−ジデシロキシ−1,4−フェニレン−オルト−4,7−ジチエン−2−イル−2,1,3−ベンゾチアジアゾール〕(ベンゾチアジアゾール共重合体1)の合成
【化5】

温度計、ジムロート、三方コック、滴下漏斗を付した内容量50mlの3つ口フラスコに窒素雰囲気下、4,7−ビス〔5’−ブロモジチエン−2−イル−2,1,3−ベンゾチアジアゾール〕247mg、2,5−ジデシロキシ−1,4−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジ−オキサボロレート)347mg、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0価6mg、及びトリオクチルメチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336)(2滴)を入れ、脱水トルエン15mlに溶解させた。そこへ、2Mの炭酸ナトリウム溶液23mlを投入し、反応液をオイルバスで加熱して内温90℃、72時間攪拌した。その後、ブロモベンゼン85mgを投入し内温90℃、1時間攪拌した。フェニルボロン酸110mg添加し、反応終了後、室温まで冷やし、多量のメタノールに注ぎ込んだ。ろ過し、水、メタノール、アセトンで洗浄した。得られたものを50℃で減圧乾燥し、ポリ〔2,5−ジデシロキシ−1,4−フェニレン−4,7−ジチエン−2−イル−2,1,3−ベンゾチアジアゾール〕を220mg取得した。その収率は88%であった。得られたベンゾチアジアゾール共重合体1のMwは8091、分散度は1.51であった。
【0052】
<調製例>
(PEDOT/PSS分散体の調製)
ポリスチレンスルホン酸(PSS)を1重量%含む水溶液19gに、1%硫酸鉄(III)水溶液を490mg、濃硝酸を300mg、3,4−エチレンジオキシチオフェンを90mg、及び11重量%ぺルオキソニ硫酸水溶液を1.2g添加した。この反応液を18℃で20時間攪拌した。次いで、この反応混合物にイオン交換樹脂を加えて2時間攪拌した後、イオン交換樹脂をろ別して脱塩を行い、ポリ(3,4−チレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合物の分散体(固形分1.42%)を得た。
【0053】
<実施例1>
(組成物1−1による薄膜作製)
5mgのベンゾチアジアゾール共重合体1を1mlのクロロベンゼンに溶解させた。この液を、ガラス板(2.5cm×2.5cm×0.1cm)に滴下しスピンコーターにて1000rpmで30秒回転させ、約50nmの薄膜を作製した。その後、得られた薄膜を、ヨウ素雰囲気下に1時間さらした。
【0054】
<実施例2>
(組成物1−2による薄膜作製)
ベンゾチアジアゾール共重合体1の薄膜を実施例1と同様の方法で作製した。その後、得られた薄膜を、0.3M過塩素酸テトラブチルアンモニウム−アセトニトリル溶液に浸漬し、電圧をかけた。その後、水、アセトンで洗浄し、風乾した。
【0055】
<実施例3>
(組成物1−3による薄膜作製)
ベンゾチアジアゾール共重合体1の薄膜を実施例1と同様の方法で作製した。その後、得られた薄膜を、0.3Mのp−トルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム−アセトニトリル溶液に浸漬し、電圧をかけた。その後、水、アセトンで洗浄し、風乾した。
【0056】
<比較例>
調製例で作製したPEDOT/PSS分散体を、ガラス板(2.5cm×2.5cm×0.1cm)に滴下しスピンコーターにて1000rpmで30秒回転させ、約400nmの薄膜を作製した。
【0057】
<電気伝導度の測定>
実施例1〜3及び比較例で得られた薄膜の電気伝導度を、4探針方式の測定器(三菱化学株式会社製 MCP−T610)により測定した。それらの結果を表1に示す。
【0058】
<透過率の測定>
実施例1〜3及び比較例で得られた薄膜の透過率を、紫外可視分光光度計(UV−VIS−NIR)(株式会社島津製作所製 Solidspec−3700)にて測定した。それらの結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1から明らかであるように、本発明である実施例1〜3の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物を用いた薄膜は、比較例であるPEDOT/PSS分散体を用いた薄膜に比べて、高い電気伝導度を示し、さらに高い透過率を示した。以上の結果から、本発明の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物が透明導電膜の材料として有用であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物は、透明性が高く、優れた導電性を示す透明導電膜の材料として用いることができる。また、導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物により形成された透明導電膜は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネル等の透明電極、コンデンサー、二次電池、接続用部材、高分子半導体素子、帯電防止コーティング、帯電防止包装材等の帯電防止材、電磁波シールド材、更に、転写ベルト、現像ロール、帯電ロール、転写ロール等の電子写真機器部品等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(I)
【化1】

[式(I)中、W及びYはそれぞれ置換基を有してもよい2価のチオフェン環、n及びmは0〜1、R、R、R及びRはそれぞれ下記化学式(II)
−[X−(CH)]−(X)− ・・・(II)
(式(II)中、Rは水素原子、又は炭素数1〜20の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基、X及びXは同一又は異なる酸素原子若しくは硫黄原子、[X−(CH)]は繰り返し単位毎にXと−(CH)−とが同一又は異なり、aは1〜20、bは0〜20、cは0〜1)で示される側鎖基]
で表される繰り返し単位を有するベンゾチアジアゾール共重合体と、ドーパントとを含有していることを特徴とする導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物。
【請求項2】
前記化学式(I)中、R及びRがそれぞれ水素原子であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物。
【請求項3】
前記化学式(I)中、R及びRがそれぞれ水素原子、R及びRが前記化学式(II)中のb及びcの少なくとも一方を正数とし、又はb=c=0でRを前記アルキル基とする前記側鎖基であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物。
【請求項4】
基材上に、請求項1に記載の導電性ベンゾチアジアゾール共重合体組成物が硬化していることを特徴とする透明導電膜。

【公開番号】特開2012−56990(P2012−56990A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199064(P2010−199064)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】