説明

導電性ペースト及び太陽電池素子

【課題】接着強度及び電気特性に優れた太陽電池素子の表面電極用導電性ペーストの提供。
【解決手段】一導電型を呈する半導体基板の受光面側に逆導電型を呈する領域を形成し、その上に反射防止膜と表面電極を設け、その反対側の面に裏面電極を設けた太陽電池素子の表面電極形成に用いられる導電性ペーストであって、銀粉末を100重量部、ガラスフリットを0.1〜10重量部、炭酸銀、酸化銀、酢酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物を金属銀換算の合計量で0.05〜3.0重量部、および有機ビヒクルを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉末とガラスフリットを含み、太陽電池素子の電極を形成するために使用される焼成型導電性ペーストと、これを用いて形成された太陽電池素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な太陽電池素子は、図1に示すように、半導体基板1、拡散層2、反射防止膜3、裏面電極4及び表面電極5を少なくとも備えている。
【0003】
このような太陽電池素子は、例えば以下のように製造される。まず、シリコンからなる半導体基板1の受光面側(表面側)に、不純物の拡散層2と、窒化シリコン、酸化シリコンまたは酸化チタンなどからなる絶縁性の反射防止膜3と、が順次形成される。ここで、半導体基板1は、例えば、硼素などの半導体不純物を1×1016〜1018atoms/cm3程度含有することにより、比抵抗1.5Ωcm程度の一導電型(例えば、p型)を呈するようにしたものである。単結晶シリコンの場合は引き上げ法などによって形成され、多結晶シリコンの場合は鋳造法などによって形成される。多結晶シリコンは、大量生産が可能で製造コスト面で単結晶シリコンよりも有利である。半導体基板1は、引き上げ法や鋳造法によって形成されたインゴットを300μm程度の厚みにスライスして得られる。
【0004】
拡散層2は、半導体基板1の受光面に、リンなどの不純物を拡散させることにより形成された、半導体基板1の逆の導電型(例えば、n型)を呈する領域である。拡散層2は、例えば、半導体基板1を拡散炉中に配置して、オキシ塩化リン(POCl3)などの中で加熱することによって形成される。
【0005】
反射防止膜3は、反射防止機能と併せて太陽電池素子の保護のため、拡散層2の受光面側に形成されるものである。反射防止膜3が窒化シリコン膜の場合、例えば、シラン(SiH4)とアンモニア(NH4)との混合ガスをグロー放電分解でプラズマ化させて堆積させるプラズマCVD法などで形成される。反射防止膜3は、半導体基板1との屈折率差などを考慮して、屈折率が1.8〜2.3程度になるように形成され、500〜1000A程度の厚みに形成される。
【0006】
また、半導体基板1の受光面と反対側(裏面側)の表面には、例えば、アルミニウムなどが拡散した高濃度p型のBSF層(図示省略)が形成され、半導体基板1の表面には表面電極5が、裏面には裏面電極4が、それぞれ導電性ペーストを塗布、焼成することにより形成される。
【0007】
ここで、表面電極5は、銀粉末、ガラスフリットおよび有機ビヒクルを含む導電性ペーストを反射防止膜3の表面に所定のパターンで印刷し、500〜900℃の高温で焼成することによって形成される。通常は、焼成の際、導電性ペーストに含有されているガラスフリットが反射防止膜3に作用して当該膜を溶解し、その結果、表面電極5が反射防止膜3を突き抜けて拡散層2と電気的に接触する方法が採用される(ファイヤースルー方式)。
【0008】
この方法において、表面電極5の焼成の際、ガラスフリットの作用のばらつき等により、表面電極5と半導体基板1の拡散層2との間で安定なオーミック接触が得られず、また接着強度もばらつくという問題がある。オーミック接触性が不充分になると出力の取り出しに際して損失が生じ、太陽電池の変換効率が低下したり、また電流電圧特性が悪化したりする。
【0009】
特許文献1では、表面電極用の銀系導電性ペーストにTi、Bi、Co、Zn、Zr、Fe、Cr、またはその化合物のうち少なくとも1種を含有させることにより、オーミック接触性と接着強度を向上させている。また、特許文献2には、銀粉末、酸化銀、炭酸銀、酢酸銀等を主体とする銀系導電性ペーストに、Ti、Bi、Zn、Y、In、Mo、またはその化合物の極めて微細な粉末を含有させることにより、さらに安定なオーミック接触性を得ることが記載されている。また特許文献3には、表面電極用の銀ペーストにリンやリン化合物を少量添加することにより、オーミック接触性を改善することが記載されている。
【特許文献1】特開2001−313400号公報
【特許文献2】特開2005−243500号公報
【特許文献3】特公平3−46985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの文献に記載されている添加物の効果はあまり大きくなく、さらなる改善が望まれる。本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、高い接着強度を確保しつつさらなるオーミック接触性の向上を図り、出力の取り出しの際の損失を低減することにより太陽電池の変換効率をさらに高めることができる、太陽電池素子の表面電極用導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、導電性ペーストにおいて、
一導電型を呈する半導体基板の受光面側に逆導電型を呈する領域を形成し、その上に反射防止膜と表面電極を設け、前記受光面の反対側の面に裏面電極を設けた太陽電池素子の表面電極形成に用いられる導電性ペーストであって、銀粉末を100重量部、ガラスフリットを0.1〜10重量部、炭酸銀、酸化銀、酢酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物を金属銀換算の合計量で0.05〜3.0重量部、および有機ビヒクルを含有することを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の導電性ペーストにおいて、
前記銀化合物は、平均粒径5μm以下の粒子状であることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、
一導電型を呈する半導体基板の受光面側に逆導電型を呈する領域を形成し、その上に反射防止膜と表面電極を設け、前記受光面の反対側の面に裏面電極を設けた太陽電池素子において、前記表面電極が、請求項1または2に記載された導電性ペーストを500〜900℃で焼付けることにより形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
前記導電性ペーストを太陽電池素子の反射防止膜上に焼付けることにより、ファイヤースルーを良好に行うことができ、高い接着強度を示すと共に半導体基板とのオーミック接触性の優れた表面電極をばらつきなく形成することができる。これにより発電効率が高く、また電流電圧特性等も良好な太陽電池素子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明に係る導電性ペースト及び太陽電池素子の一実施形態について説明する。ただし、発明の範囲を以下に限定するものではない。
【0016】
まず、本発明に係る導電性ペーストについて説明する。
本発明の導電性ペーストは、銀粉末100重量部に対して、ガラスフリットを0.1〜10重量部と、炭酸銀、酸化銀、酢酸銀のうちの少なくとも1種の銀化合物を金属銀換算の合計量で0.05〜3.0重量部配合し、有機ビヒクルに分散させたものである。
【0017】
以下、各成分について説明する。
銀粉末としては特に制限はなく、球状銀粉末、フレーク状銀粉末、樹枝状銀粉末等、従来用いられているものが使用される。また、純銀粉末のほか、少なくとも表面が銀層からなる銀被覆複合粉末や、銀を主成分とする合金等を用いてもよい。銀粉末は、平均粒径が0.1〜10μmのものが好ましい。
【0018】
ガラスフリットとしては、焼成中低温で軟化し、反射防止膜を溶解することによってこれを突き抜け、拡散層を介して表面電極を半導体基板に強固に接着させ得るものであれば制限はなく、例えば、通常用いられている軟化点300〜600℃程度の硼珪酸鉛系ガラス、硼珪酸ビスマス系ガラス、硼珪酸亜鉛系ガラスなどが使用される。ガラスフリットの配合量は、銀粉末100重量部に対して、0.1重量部より少ないと、接着性、電極強度が極めて弱くなる。また10重量部を超えると、電極表面にガラス浮きを生じたり、はんだ付け性が阻害されたりするので望ましくない。
【0019】
銀粉末とガラスフリットを含む導電性ペーストに、添加剤として前記炭酸銀、酸化銀、酢酸銀のうちいずれか一種または複数種の銀化合物を特定量含有させることにより、半導体基板に対する接着性や反射防止膜の溶解性を損なうことなく、表面電極と半導体基板とのオーミック接触性が向上する。このため出力の取り出しの際の損失が低減でき、電流電圧特性(曲線因子)や発電効率を向上させることができる。
【0020】
これらの銀化合物の作用機構については必ずしも解明されていないが、これらの銀化合物は、焼成中に分解して活性なナノサイズの銀超微粒子を生成し、これが直接半導体基板と反応してシリコン等の半導体元素と合金化すること、または溶融したガラスに溶解し、冷却時に活性なナノサイズの銀超微粒子が析出して半導体基板と反応し、合金化することによって、表面電極と半導体基板とのオーミック接触性が向上するのではないかと考えられる。
【0021】
銀化合物の添加量は、銀粉末100重量部に対して金属銀換算で0.05重量部より少ないと効果が確認できない。また多量に含有させると曲線因子や変換効率が逆に低下する傾向があり、また接着強度も低下してくるので、金属銀換算の合計量で3.0重量部までとする必要がある。これらの銀化合物の中でも炭酸銀は特に効果が大きい。特に、銀粉末100重量部に対して炭酸銀を金属銀換算で0.1〜2.0重量部配合することにより、接着強度を低下させることなく極めて優れた変換特性が得られるので好ましい。
【0022】
銀化合物の添加形態に制限はなく、通常は粒子状のものが使用される。特に、銀化合物が平均粒径5μm以下の微細な粒子状である場合、より優れたオーミック接触性向上効果が得られるので好ましい。銀化合物の平均粒径の下限は特にないが、コスト及び取り扱いの観点から100nm以上が実用的である。
【0023】
前記銀粉末、ガラスフリットおよび銀化合物は、有機ビヒクルと混合され、スクリーン印刷その他の印刷方法に適したレオロジーのペースト、塗料、またはインク状とされる。ビヒクルとしては特に限定はなく、通常銀ペーストのビヒクルとして使用されている有機バインダーや溶剤等が適宜選択して配合される。例えば有機バインダーとしては、セルロース類、アクリル樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ロジンエステル等が、また溶剤としてはアルコール系、エーテル系、エステル系、炭化水素系等の有機溶剤や水、これらの混合溶剤が挙げられる。この他必要により可塑剤や、粘度調整剤、界面活性剤、酸化剤、金属有機化合物等を適宜配合することができる。ビヒクルの配合量は特に限定されるものではなく、無機成分をペースト中に保持し得る適切な量で、塗布方法等に応じて適宜調整されるが、通常銀粉末100重量部に対して10〜40重量部程度である。
【0024】
本発明の導電性ペーストには、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤として通常添加されることのある金属酸化物、金属有機化合物等などを配合してもよい。
【0025】
本発明に係る太陽電池素子は、例えば次のようにして製造される。半導体基板は好ましくは単結晶シリコンまたは多結晶シリコンからなり、例えば、硼素などの半導体不純物を含有することにより一導電型(例えば、p型)を呈するようにしたものである。半導体基板の受光面側の表面に、リン原子などの不純物を拡散させて拡散層を形成することにより、逆導電型(例えば、n型)を呈する領域を形成する。さらにその上に窒化シリコン等の反射防止膜を設け、また受光面と反対側の基板表面にアルミニウムペーストおよび銀ペースト、または銀−アルミニウムペーストを焼付けして裏面電極を形成すると同時に高濃度のp型のBSF層を形成する。このように、一般的な半導体基板、拡散層、反射防止膜および裏面電極を形成した後に、本発明に係る導電性ペーストを用いて表面電極を形成する。詳しくは、前記反射防止膜上に、本発明に係る導電性ペーストをスクリーン印刷法など通常の方法で塗布し、乾燥後、500〜900℃の高温で1〜30分間程度焼成することにより、有機ビヒクル成分を分解、揮散させ、表面電極を形成する。なお、表面電極は裏面電極と同時に焼成を行っても良く、また表面電極焼成後に裏面電極を形成してもよい。
【0026】
以上のように、本発明にかかる導電性ペーストを用いて太陽電池素子を作製することにより、表面電極のファイヤースルーを良好に行うことができる。よって、表面電極と半導体基板との接着強度及びオーミック接触性が向上するため、半導体素子の出力を効率良く取り出すことが可能であり、太陽電池素子の変換効率や電流電圧特性をさらに高めることができる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例として球状銀粉末の製造及びその評価を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
(試料1〜9の作製)
銀粉末100重量部に対して硼珪酸鉛系ガラスフリットを5重量部と、表1に示すとおり平均粒径約3μmの炭酸銀粉末を金属銀換算で0.05〜4重量部を配合し、有機ビヒクル12重量部に分散させて導電性ペースト(試料1〜8)を作製した。銀粉末としては、平均粒径約2μmの球状粉末と平均粒径約3μmのフレーク状粉末との混合粉末を用いた。有機ビヒクルとしてはエチルセルロースのブチルカルビトール溶液を使用した。また、炭酸銀粉末を配合しない点以外は同様にして、導電性ペースト(試料9)を作製した。なお、試料8、9は本発明の範囲外である。
【0029】
(試料10〜12の作製)
炭酸銀粉末の平均粒径を表1に示すとおりとし、炭酸銀の量を金属銀換算で0.3重量部とする点以外は同様にして、導電性ペースト(試料10〜12)を作製した。
【0030】
(試料13〜22の作製)
炭酸銀粉末に代えて、平均粒径約2μmの酸化銀(Ag2O)粉末、および平均粒径約2μmの酢酸銀粉末を表1に示すとおりそれぞれ金属銀換算で0.005〜4重量部配合する点以外は同様にして、導電性ペースト(試料13〜22)を作製した。なお、試料17および試料22は本発明の範囲外である。
【0031】
(試料23〜27の作製)
炭酸銀粉末に代えて、表1に示すとおり、平均粒径約1μmの酸化チタン(TiO2)粉末、平均粒径約2μmの酸化ビスマス(Bi23)粉末、平均粒径約1μmの酸化コバルト(Co23)粉末、平均粒径約1μmの酸化亜鉛粉末、平均粒径約3μmの酸化リン(P25)粉末をそれぞれ0.5重量部配合する点以外は同様にして、導電性ペースト(試料23〜27)を作製した。
【0032】
(太陽電池素子の作製及び評価)
試料1〜27の導電性ペーストを使用して、次のようにして太陽電池素子を製造した。
15cm×15cmの正方形のp型多結晶シリコン基板を半導体基板として用い、その一主面側にリンを拡散させたn型の領域(拡散層)を形成し、この上に反射防止膜として窒化シリコン膜を形成した。また、一主面の反対面に、アルミニウムペースト、次いで銀ペーストを常法で焼付して裏面電極を形成した。このシリコン基板の反射防止膜上に前記導電性ペーストを櫛型パターンでスクリーン印刷し、700℃で2分間焼成し、表面電極とした。
【0033】
得られた太陽電池素子について、電気特性(曲線因子および変換効率)と表面電極の接着強度(引張強度)をそれぞれ測定し、表1に示した。引張強度はボンドテスター(西進商事株式会社製 SD−30WD)を用いてはんだメッキ銅箔を電極表面に取り付け、この銅箔を電極表面に対して垂直方向に引き上げた際に、銅箔が剥がれるか、または太陽電池素子が破壊されたときの荷重(Kg)を測定したものである。
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、炭酸銀、酸化銀、酢酸銀を本発明の範囲内で含有する場合、含有しないものに比べ曲線因子、変換効率の改善がみられた。また、接着強度も良好であった。特に炭酸銀では0.1〜2.0重量部の範囲で効果が極めて優れていた。また炭酸銀の平均粒径が5μmより小さい場合、改善効果が極めて大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】一般的な太陽電池素子の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 半導体基板
2 拡散層
3 反射防止膜
4 裏面電極
5 表面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一導電型を呈する半導体基板の受光面側に逆導電型を呈する領域を形成し、その上に反射防止膜と表面電極を設け、前記受光面の反対側の面に裏面電極を設けた太陽電池素子の表面電極形成に用いられる導電性ペーストであって、銀粉末を100重量部、ガラスフリットを0.1〜10重量部、炭酸銀、酸化銀、酢酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀化合物を金属銀換算の合計量で0.05〜3.0重量部、および有機ビヒクルを含有することを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
前記銀化合物は、平均粒径5μm以下の粒子状であることを特徴とする請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
一導電型を呈する半導体基板の受光面側に逆導電型を呈する領域を形成し、その上に反射防止膜と表面電極を設け、前記受光面の反対側の面に裏面電極を設けた太陽電池素子において、前記表面電極が、請求項1または2に記載された導電性ペーストを500〜900℃で焼付けることにより形成されたものであることを特徴とする太陽電池素子。

【図1】
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【公開番号】特開2007−242912(P2007−242912A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63749(P2006−63749)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】