説明

導電性ロール

【課題】変位に対して追随性があり、抵抗値の変化の小さい導電性ロールを提供する。
【解決手段】 芯金11の外周にカーボンブラックにより導電性が付与された導電性弾性層12の表層部に表面処理液を含浸することによって形成された表面処理層12aを有する導電性ロール10であって、マイクロ硬度計により測定する導電性ロール10の表面の表面マイクロ硬度Hs1と表面処理層を除去した弾性層12のマイクロ硬度Hs2との差であるΔHs(Hs1−Hs2)が、マイクロ硬度Hs2に対して5%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式複写機及びプリンタ、またはトナージェット式複写機及びプリンタなどの画像形成装置に用いられる帯電ロール、転写ロール、現像ロールなど導電性ロールに関し、転写方式の複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に用いられる中間転写体又は転写体として用いられる転写ロールに用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム弾性を有した上で導電性を制御した導電性ゴムロールは電子写真プロセスにおいては重要なものであるが、ゴムを構成する分子自身はプロセスが必要とする抵抗率(104〜109Ωcm)を固有抵抗値として有することは稀であり、エピクロルヒドリンなどごく限られたものが実用化されているに過ぎない。多くの場合、必要とされる弾性率、機械的強度、温湿度特性を維持するため、シリコーンゴムやエチレン・プロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタンなどの化学的に安定な基材にカーボンブラックなどの導電性微粒子を添加し導電性を付与したのち、抵抗を調整するためのコーティング層を形成したものが用いられている。
【0003】
また、近年、電子写真式複写機に用いられるトナー結着剤は低融点化が進んでおり、これに伴って、現像ロールは十分なニップを形成してトナー帯電を確保するために低硬度化が要求されている。上述した要求を満たすものとして、弾性層と、ウレタン樹脂からなるコート層と、イソシアネートからなる薄い硬化層から構成され、全体をソフトに保ちつつ表面が硬い現像ロールが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
一方、コーティング層の形成は、工程が複雑となり製造コストが増大するという欠点を有しており、この問題点を簡便に解決する手段として、ロール表層部を化学的に処理する方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。この処理方法は効果的なものであるが、表面処理を行った導電性ロールは、表面処理層が硬くなる傾向があった。低硬度化したロールの場合は、使用の際にロールの表層部の変位が大きくなるため変位に対して追随性が必要であるが、表面処理層が硬いロールは、追随性が乏しく、また、使用により電気抵抗値が変化してしまうという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−283913号公報
【特許文献2】特開平5−158341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、変位に対して追随性があり、電気抵抗値の変化の小さい導電性ロールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、カーボンブラックにより導電性が付与された導電性弾性層の表層部に表面処理液を含浸することによって形成された表面処理層を有する導電性ロールであって、マイクロ硬度計により測定する前記導電性ロールの表面の表面マイクロ硬度Hs1と前記表面処理層を除去した導電性弾性層のマイクロ硬度Hs2との差であるΔHs(Hs1−Hs2)が、前記マイクロ硬度Hs2に対して5%以下であることを特徴とする導電性ロールにある。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の導電性ロールにおいて、前記導電性ロールの表面の摩擦係数μ1と前記表面処理層を除去した導電性弾性層の摩擦係数μ2との差であるΔμの絶対値|μ1−μ2|が、前記摩擦係数μ2に対して30%以下であることを特徴とする導電性ロールにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、変位に対して追随性があり、電気抵抗値の変化の小さい導電性ロールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の導電性ロールは、カーボンブラックにより導電性が付与された導電性弾性層の表層部に表面処理液を含浸することによって形成された表面処理層を有する導電性ロールにおいて、導電性弾性層の表層部に表面処理層を形成することによる硬度の上昇が小さいものが、変位に対して追随性があり、電気抵抗値の変化が小さいという知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
本発明の導電性ロールは、カーボンブラックにより導電性が付与された導電性弾性層の表層部に表面処理液を含浸することによって形成された表面処理層を有するものであり、マイクロ硬度計により測定する導電性ロールの表面の表面マイクロ硬度Hs1と表面処理層を除去した導電性弾性層のマイクロ硬度Hs2との差であるΔHs(Hs1−Hs2)が、マイクロ硬度Hs2に対して5%以下である。本発明の導電性ロールは、導電性弾性層を表面処理液に浸漬等させることにより容易に表面処理層を形成することができるため、従来のようにコート層を設けるものと比べて工程が少なく製造コストを低減させたロールである。また、従来の表面処理層を設けた導電性ロールのように、表面処理層を設けたロール表面と導電性弾性層内部との硬度差が大きいロールとは異なるものである。具体的には、本発明の導電性ロールは、表面処理層の厚さが比較的薄いロールであり、導電性ロールの表面と表面処理層を除去した導電性弾性層との硬度差が小さい導電性ロール、つまり、ロールの表層部から内部にかけて硬度がほぼ同じ導電性ロールである。本発明の導電性ロールは、導電性弾性層を極度に低硬度にすることなく、表面処理層を設けたロール全体の表面硬度を低硬度とすることができ、実機等で使用した際に表層部に生じる変位増大に対して、追随性のあるものとなる。また、長期使用した後にも電気抵抗値の変化の小さい導電性ロールとなる。
【0012】
なお、本発明では、導電性ロールの表面の表面マイクロ硬度Hs1と、表面処理層を除去した導電性弾性層のマイクロ硬度Hs2との差であるΔHs(Hs1−Hs2)を規定しているが、これは未処理状態(表面処理前)の導電性弾性層と、表面処理後の表面処理層を除去した導電性弾性層とが同等だからである。すなわち、「表面処理層を除去した導電性弾性層」は、表面処理層を有する導電性ロールの表面を研磨して測定することで得られ、未処理状態(表面処理前)の導電性弾性層と同等の性質等を示す。
【0013】
図1に本発明の導電性ロールの断面図を示す。図1に示すように導電性ロール10は、芯金11上にカーボンブラックにより導電性が付与された導電性弾性層12を有するものであり、導電性弾性層12の表面に表面処理層12aを有する。表面処理層12aは、導電性弾性層12の表層部に表面処理液を含浸・硬化させることにより、一体的に設けられている。
【0014】
本発明にかかる導電性弾性層は、カーボンブラックにより導電性が付与されたものである。カーボンブラックは種々の性質を持ったものがあるが、カーボン微粉末を用いるのが好ましい。また、導電性を付与するカーボンの添加量は、ゴム基材に対して2.5質量%以上8質量%以下が好ましく、さらに好ましくは2.5質量%以上5質量%以下である。カーボン量を選択することにより、カーボンによる導電性を発現した状態においても圧縮永久ひずみ1%以下という従来にない特性を有する材料となる。さらにこの材料は、永久ひずみに優れるだけではなく、ひずみからの瞬時の回復性そのものに優れるため、高速起動性を要求される用途に好適である。
【0015】
カーボンの分散性を著しく向上させる場合には、導電性が発現し難い傾向となるので、この場合にはカーボンを8質量%程度まで添加してもよい。なお、カーボンの分散性が良好な場合には、圧縮永久ひずみが大きくなり難く、また、このようにカーボンを多量に添加する場合には、圧縮永久ひずみに影響を与え難い、例えば、吸油量が小さいもの、粒径が大きいもの、ストラクチャーを形成し難いものなどを用いるのが好ましい。
【0016】
また、導電性弾性層に用いるゴム基材は特に限定されず、従来から用いられている材質であればよい。例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、ニトリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、ポリウレタン等が挙げられるが、好適にはポリウレタンが用いられる。
【0017】
本発明の導電性弾性層としてポリウレタンを用いる場合には、ポリエーテル系ポリオールを主体とするポリウレタンであるのが好ましく、特に好ましくは、1分子あたりの平均官能基数が2.5以上であるポリエーテル系ポリオールと1分子あたりの平均官能基数が2より大きいポリイソシアネートとをNCO/OHのモル比が1未満で反応させて得られる熱硬化性ポリウレタンであるのが好ましい。ゴム基材として用いるポリウレタンは、上述したように限定された分子構造を選択することにより硬度60°程度(JIS A)以下の低硬度で圧縮永久ひずみがほとんど観察されない基材となる。なお、このときカーボンは分散した状態で硬化させるようにする。
【0018】
本発明の導電性弾性層として特に好適に用いられるエーテル系ポリウレタンは、ポリエーテル系ポリオールを主体とするポリオールとポリイソシアネートとを反応することにより得られる、いわゆる注型タイプのポリウレタンである。これは圧縮永久ひずみを小さくするためである。なお、エーテル系ポリウレタンでもミラブルタイプとすると圧縮永久ひずみを十分に小さくすることができない。一方、エステル系ポリウレタンを用いた場合には、加水分解特性が悪く、長期に亘って安定して使用できない。
【0019】
また、導電性弾性層としてポリウレタンを用いる場合、ポリオールと反応させるイソシアネートとしては、例えば、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニール)チオホスフェート、ビシクロヘプタントリイソシアネートなどの3官能イソシアネート単体、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート変性ポリイソシアネート(3量体:3官能、5量体:4官能)やポリメリックMDIなどの混合物を用いることができる。また、これらの3官能以上のポリイソシアネートと、一般的な2官能イソシアネート化合物との混合物としても良い。2官能イソシアネート化合物の例として、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、3,3−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(TODI)、及びこれらのイソシアネートを両末端に有するプレポリマー等の変性体や多量体などを挙げることができる。
【0020】
本発明にかかる導電性弾性層は、上述したようなゴム基材にカーボンブラックを添加し、カーボンの分散状態を保持したまま加熱硬化させて形成する。これにより、固有抵抗として0.1〜10Ωcm程度を示すカーボンブラックを絶縁体ともいえるエラストマー(1012〜1016Ωcm)に分散させて104〜108Ωcmの中抵抗領域を安定になるように形成することができる。
【0021】
また、本発明にかかる表面処理層は、導電性弾性層の表層部に表面処理液を含浸させて形成する。このとき、マイクロ硬度計により測定する導電性ロールの表面の表面マイクロ硬度Hs1と表面処理層を除去した導電性弾性層のマイクロ硬度Hs2との差であるΔHs(Hs1−Hs2)が、マイクロ硬度Hs2に対して5%以下となるように表面処理層を形成する。マイクロ硬度差をこの範囲となるようにすることで、本発明の導電性ロールは、ロール全体の硬度、つまり表層部から内部にかけてほぼ同じ硬度となり、変位に対して追随性があるものとなる。
【0022】
また、本発明にかかる表面処理層は、比較的薄い、すなわち、含浸深さが表面から0.3mm程度のものである。このように薄い表面処理層にすることで、導電性ロール表面の表面マイクロ硬度Hs1と導電性弾性層のマイクロ硬度Hs2との差であるΔHs(Hs1−Hs2)が小さくなるだけでなく、電気抵抗値の変化が小さいものとなる。
【0023】
本発明では、上述した条件を満たす表面処理層を形成するために、導電性弾性層へ比較的含浸し難い表面処理液を用いる。なお、本発明で用いる表面処理液は、有機溶媒に少なくともイソシアネート成分を溶解させたものである。本発明に用いる表面処理液は、イソシアネート成分や有機溶媒の種類、配合量、処理条件等を適宜調整することで、比較的含浸し難い表面処理液とする。具体的には、導電性弾性層へ含浸し難い有機溶媒を用いたり、イソシアネート成分の分子量を大きくしたり、さらに処理時間を短くすることで、導電性弾性層へ含浸し難い表面処理液とする。
【0024】
導電性弾性層へ含浸し難い有機溶媒としては、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、N−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。このような有機溶媒を用いる場合は、例えば、表面処理液に含まれるイソシアネート成分として、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)及び3,3−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(TODI)などのイソシアネート化合物、および前記の多量体および変性体などを用いることができる。このとき、必要に応じて表面処理液に導電性弾性層を浸漬させる時間を短くすることでさらに表面処理液が導電性弾性層へ含浸して内部まで浸透するのを低減させる。
【0025】
分子量の大きいイソシアネート成分としては、数平均分子量Mn500〜5000末端イソシアネートプレポリマーが挙げられる。好ましくは数平均分子量Mn1000〜2500、より好ましくは数平均分子量Mn2000程度の末端イソシアネートプレポリマーである。上記のような分子量の末端イソシアネートプレポリマーは、柔軟性を有する分子構造であるため、従来の表面処理層の形成において導電性弾性層内部からロール表面にかけて生じやすかった樹脂化と絶縁化が抑制され、導電性導電層のカーボンブラックの構造が安定状態になりやすく、抵抗値の上昇を抑制することができる。一方、イソシアネートプレポリマーの数平均分子量Mnが5000より大きいと、表面処理液が導電性弾性層の表層部にほとんど含浸されず、その結果、有効な表面処理層が形成できないため、好ましくない。なお、末端イソシアネートプレポリマーは、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られるウレタンプレポリマーで、末端にイソシアネート基を有するものである。
【0026】
末端イソシアネートプレポリマーとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、3,3−ジメチルジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(TODI)等のイソシアネートをウレタンの末端に付加させたものが挙げられる。なお、末端イソシアネートプレポリマーに用いるウレタンのポリオール成分としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール等が挙げられる。
【0027】
イソシアネートプレポリマーを用いる場合は、有機溶剤は特に限定されないが、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン等の有機溶剤を用いればよい。なお、勿論、導電性弾性層へ含浸し難い溶媒を用いてもよい。
【0028】
かかる表面処理層は、主にイソシアネート成分が硬化して形成されたもので、イソシアネート成分の密度が表面から内部に向かって漸次疎になるように一体的に形成される。従って、導電性ロール表面への可塑剤等汚染物質のブリードを防ぐことができるため、感光体への汚染性に優れた導電性ロールとなる。なお、表面処理層は、ロールの表面から内部に向かって漸次疎になるように一体的に形成されているので、電気抵抗値も表面から内部に向かって傾斜する。
【0029】
なお、表面処理液には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエーテル系ポリマーを含有させてもよい。ここで、ポリエーテル系ポリマーは、有機溶剤に可溶であるのが好ましく、また、活性水素を有して、イソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものが好ましい。活性水素を有する好適なポリエーテル系ポリマーとしては、水酸基又はアリル基を有するポリマーが挙げられ、例えば、末端イソシアネートプレポリマーに用いるポリオール、グリコール等が挙げられる。このようなポリエーテル系ポリマーは活性水素を有する基を両末端に備えたものよりも片末端にのみ備えたものが好ましい。さらに、ポリエーテル系ポリマーは、数平均分子量Mnが2500以下、好ましくは300〜1000である。これは表面処理層に弾性を付与するために好ましいからである。
【0030】
このようなポリエーテル系ポリマーとしては、例えば、ポリアルキレングリコールモノメチルエーテル、ポリアルキレングリコールジメチルエーテル、アリル化ポリエーテル、ポリアルキレングリコールジオール、ポリアルキレングリコールトリオール等を挙げることができる。
【0031】
このように表面処理液にポリエーテル系ポリマーを添加することで、表面処理層の柔軟性や強度が向上し、その結果、ロールの表面が磨耗したり、当接する感光体表面を傷つけたりする虞がなくなる。
【0032】
また、表面処理液には、本発明の効果を損なわない範囲で、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーから選択されるポリマーを含有させてもよい。
【0033】
本発明の表面処理液に用いられるアクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーは、所定の溶剤に可溶でイソシアネート化合物と反応して化学的に結合可能なものである。アクリルフッ素系ポリマーは、例えば、水酸基、アルキル基、又はカルボキシル基を有する溶剤可溶性のフッ素系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸フッ化アルキルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。また、アクリルシリコーン系ポリマーは、溶剤可溶性のシリコーン系ポリマーであり、例えば、アクリル酸エステルとアクリル酸シロキサンエステルのブロックコポリマーやその誘導体等を挙げることができる。
【0034】
また、表面処理液には、本発明の効果を損なわない範囲で、導電性付与材としてさらにアセチレンブラック等のカーボンブラックを添加してもよい。
【0035】
表面処理液に用いられるカーボンブラックは、イソシアネート成分に対して0〜40質量%であるのが好ましい。多すぎると脱落、物性低下等の問題が生じ好ましくないからである。
【0036】
また、表面処理液中のポリエーテル系ポリマー、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーは、イソシアネート成分に対し、ポリエーテル系ポリマー、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーの総量を10〜70質量%となるようにするのが好ましい。10質量%より少ないとカーボンブラック等を表面処理層中に保持する効果が小さくなる。一方、ポリマー量が70質量%より多いと、帯電ロールの電気抵抗値が上昇し放電特性が低下するという問題や、相対的にイソシアネート成分が少なくなって有効な表面処理層が形成できないという問題がある。
【0037】
なお、表面処理液に用いる有機溶媒は、イソシアネート成分、及び必要に応じて含有されるこれらポリエーテル系ポリマー、アクリルフッ素系ポリマー及びアクリルシリコーン系ポリマーを溶解するものを用いる。
【0038】
上述した表面処理液に導電性弾性層を浸漬させる又は表面処理液を導電性弾性層にスプレー塗布などにより塗布し、乾燥硬化させることにより、表面処理液が導電性弾性層の表層部に含浸されて表面処理層となる。
【0039】
本発明の導電性ロールは、従来の導電性ロールのように実機内における使用により電気抵抗値が変化してしまうものとは異なり、上述したように薄い表面処理層であるため使用をした後でも電気抵抗値の変化が小さいものである。これにより、実機にて現像ロールとして連続的に使用した場合でも、通紙枚数に依存することなく安定した画像品質を維持・提供することが出来る。
【0040】
また、本発明にかかる導電性弾性層のマイクロ硬度Hs2は、好ましくは30°〜70°であり、さらに好ましくは50〜60°である。
【0041】
そして、このような導電性弾性層の表面に表面処理層を設けた導電性ロール表面をマイクロ硬度計により測定した場合の導電性ロール表面の表面マイクロ硬度Hs1と表面処理層を除去した導電性弾性層のマイクロ硬度Hs2との差であるΔHs(Hs1−Hs2)は、マイクロ硬度Hs2に対して5%以下となる。すなわち、上述した表面処理液を用いることで、表面処理層を薄く設けることができるため、導電性ロールの表面の表面マイクロ硬度Hs1は導電性弾性層のマイクロ硬度Hs2とほとんど差のないものとなる。このため、所望のロール表面のマイクロ硬度Hs1に合わせて導電性弾性層のマイクロ硬度Hs2を所定の硬度とすることにより、所望のロールを得ることができる。本発明の導電性ロールは、導電性弾性層とロール表面のマイクロ硬度が同程度となるので、特に変位の大きな低硬度のロールに用いて好適なものである。
【0042】
なお、表面処理層を除去した導電性弾性層のマイクロ硬度Hs2はロール表面を研磨して測定することにより求めることができる。
【0043】
また、導電性ロール表面の摩擦係数μ1と表面処理層を除去した導電性弾性層の摩擦係数μ2との差であるΔμの絶対値|μ1−μ2|が、摩擦係数μ2に対して30%以下であることが好ましい。表面処理層は、表面から内部に向かって漸次疎になるように一体的に形成されるため、硬度の場合と同様に、導電性ロール表面の摩擦係数μ1と導電性弾性層の摩擦係数μ2はほとんど差のないものとなる。つまり、本発明の導電性ロールは、導電性弾性層の摩擦係数μ2を所定の値となるようにすることで、導電性ロール表面の摩擦係数μ1も所定の値とすることができる。Δμの絶対値|μ1−μ2|が摩擦係数μ2に対して30%以下、つまり表面処理後も所望の摩擦係数が確保できることで、例えば、現像ロールとして用いる場合、カブリ不良を生じにくくなる。特に、低摩擦係数の場合に問題となるHH環境(30℃×85%)において効果が顕著に現れる。ここで、カブリ不良とは、感光体ドラムの静電潜像領域以外の領域にトナーが付着し、用紙の白地部分に不要トナーが付着して黒点等を生じる現象のことをいう。
【0044】
上述したようなマイクロ硬度Hs1と、摩擦係数μ1とを有するロール表面を得るには、表面処理層を形成する表面処理液を必要に応じて変化させればよい。
【0045】
なお、芯金と導電性弾性層との間には、任意で層を設けてもよい。任意に設けられる層としては、例えば、発泡体が挙げられ、ニトリル系ゴム発泡体、特に中高ニトリル又は高ニトリル系ゴムを挙げることができる。帯電ロールに求められる導電性を満たすためには発泡層に十分量の導電性付与剤を添加する必要があるが、導電性付与剤を添加すると硬度が高くなり十分なニップが得られなくなる。一方、低硬度とするために可塑剤の添加量を多くすると、可塑剤が帯電ロールの外表面に移行して、当接した感光体を汚染してしまい、また、低硬度とするための発泡を困難にする。従って、低ガス透過性であり高発泡とすることができるニトリル系ゴム発泡体とすることが好ましい。なお、発泡層は、独立気泡でも連通気泡でもよい。
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明について説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
<ロールの製造>
3官能ポリエーテル系ポリオールであるGP−3000(三洋化成社製)100質量部に、トーカブラック#5500(東海カーボン社製)を4質量部およびVALCAN XC(キャボット社製)3質量部を添加し、粒度が20μm以下となる程度まで分散させ、80℃に温調した後、減圧下にて脱泡、脱水操作を行ってA液を得た。一方、プレポリマーアジプレンL100(ユニロイヤル社製)25質量部に、コロネートC−HX(日本ポリウレタン社製)11質量部を添加・混合し、80℃に温調してB液を得た。このA液とB液とを混合し、表面マイクロ硬度55.4°のゴムロールを得た。この導電性ロールの表面を研磨し、所定の外径まで調整した。これを未処理品1の導電性ロールとした。
【0048】
<表面処理液の調製>
酢酸エチル85質量部に、数平均分子量2000程度のエーテル系末端イソシアネートプレポリマー(アジプレンL100:ユニロイヤル社製)15質量部を添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0049】
<ロールの表面処理>
表面処理液を25℃に保ったまま、前記ロールを30秒間浸漬後、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成したものを実施例1の導電性ロールとした。
【0050】
(実施例2)
酢酸ブチル95質量部に、数平均分子量が500より小さい末端イソシアネート化合物(MR−400:日本ポリウレタン社製)を5質量部添加混合溶解させて作製した表面処理液に、前記ロールを15秒間浸漬し、ロールの引き上げ速度を半分にした以外は実施例1と同様にして実施例2の導電性ロールとした。
【0051】
(実施例3)
酢酸ブチル85質量部に、数平均分子量2000程度のエステル系末端イソシアネートプレポリマー(VIBRATHANE8585:ユニロイヤル社製)を15質量部添加混合溶解させて作製した表面処理液を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例3の導電性ロールとした。
【0052】
(比較例1)
数平均分子量2000程度のエーテル系末端イソシアネートプレポリマー(アジプレンL100:ユニロイヤル社製)の代わりに数平均分子量が500より小さい末端イソシアネート化合物(MR−400:日本ポリウレタン社製)を用いた以外は実施例1と同様にして比較例1の導電性ロールとした。
【0053】
(比較例2)
<ロールの製造>
プレポリマーアジプレンL100(ユニロイヤル社製)22.5質量部に、コロネートC−HX(日本ポリウレタン社製)9.9質量部を添加・混合し、80℃に温調してC液を得た。このC液と実施例1と同様にして得たA液とを混合し、表面マイクロ硬度50.0°のゴムロールを得た。これを未処理品2の導電性ロールとした。
【0054】
<表面処理液の調製>
酢酸エチル90質量部とし、数平均分子量が500より小さい末端イソシアネート化合物(MR−400:日本ポリウレタン社製)を10質量部添加混合溶解させ、表面処理液を作製した。
【0055】
<ロールの表面処理>
表面処理液を25℃に保ったまま、前記ロールを15秒間浸漬後、120℃に保持されたオーブンで1時間加熱することにより表面処理層を形成したものを比較例2の導電性ロールとした。
【0056】
(比較例3)
酢酸ブチルの代わりに酢酸エチルを用いた以外は実施例3と同様にして比較例3の導電性ロールとした。
【0057】
(比較例4)
未処理品1の導電性ロールの表面にウレタン塗料(ネオレッツR−940;楠本化成社製)を用いてコーティング層を形成したものを、比較例4の導電性ロールとした。
【0058】
(参考例1)
実施例1の導電性ロールを0.3mm再研磨して、参考例1の導電性ロールとした。
【0059】
(試験例1)
各未処理品の導電性ロール、各実施例及び各比較例の導電性ロール、及び参考例1のゴム硬度(Hs)を、マイクロ硬度計(F360A:高分子計器株式会社製)を用いて測定した。また、各実施例及び各比較例のマイクロ硬度と未処理品(表面処理層を除去した導電性弾性層の代用)のマイクロ硬度との差、及び未処理品を100%としたときの各実施例及び各比較例のマイクロ硬度の変化率(%)を求めた。結果を表1及び表2に示す。
【0060】
(試験例2)
各未処理品のゴムロール、各実施例、各比較例及び参考例1の導電性ロールの摩擦係数を測定した。摩擦係数μは、図2に示すように、各ロール21を回転自在に設けられたフリーロール22に対して、紙23を挟んで荷重200gfで圧接し、ロール21を回転駆動して引き抜いた際に紙23の一端に取り付けたロードセル24で測定された荷重Q(N)を求め、下記式により計算した。なお、紙23の紙送速度は50mm/sec、紙種:TYPE−6200(リコー社製)で、試験は常温常湿(NN:23℃×55%RH)環境下で行った。結果を表1及び表2に示す。
【0061】
[数1]
μ=Q(N)/(200gf×0.0098)
【0062】
また、各実施例又は各比較例の摩擦係数と未処理品(表面処理層を除去した導電性弾性層の代用)との摩擦係数との差、及び未処理品1又は2を100%としたときの各実施例及び各比較例の摩擦係数の変化率(%)を求めた。結果を表1及び表2に示す。
【0063】
(試験例3)
各実施例、各比較例の導電性ロールについて、使用前及び実機(MICROLINE9600PS 株式会社沖データ製)に搭載して1万枚通紙した後のロールの電気抵抗値を測定した。なお、測定は、ロールをSUS304板からなる電極部材の上に載置し、芯金に500g荷重をかけた状態で、芯金と電極部材との間の抵抗値をULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340A(株式会社アドバンテスト製)を用いて測定した。試験は常温常湿(NN:23℃×55%RH)環境下で行った。この結果を表1及び表2に示す。
【0064】
(試験例4):画像評価
各実施例及び各比較例の導電性ロールを実機(MICROLINE9600PS 株式会社沖データ製)に実装した際の初期の印刷物と1万枚通紙後の印刷物の画像変化を目視にて確認した。なお、画像が良好であった場合は○、画像が普通であった場合は△、画像が不良であった場合は×とした。この結果を表1及び表2に示す。
【0065】
(試験例5):カブリ試験
各実施例及び比較例1〜3の導電性ロールを高温高湿(HH:30℃×85%RH)環境下で実機(MICROLINE9600PS 株式会社沖データ製)に実装した際の初期の印刷物の画像を評価し、カブリ不良の有無を確認した。カブリ不良が発生しなかった場合を○、カブリ不良がほとんど発生しなかった場合を△、カブリ不良が発生した場合を×とした。この結果を表1及び表2に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
(結果のまとめ)
表面処理液に数平均分子量2000程度のエーテル系末端イソシアネートプレポリマーを配合した実施例1の導電性ロールは、硬度変化率が5%以下(2.9%)、摩擦係数変化率が30%以下(17.6%)であり、電気抵抗値も安定していた。このため、長期間に亘って安定した画像品質を提供でき、高温高湿(HH:30℃×85%RH)環境下においてカブリ不良も発生しなかった。
【0069】
これに対し、コーティング層を設けた比較例4の導電性ロールは、硬度変化率は3.4%であったが、1万枚通紙後にはロール表面にヒビが発生してしまい、印刷物の画像は不良であった。また、数平均分子量が500より小さい末端イソシアネート化合物を用いた比較例1の導電性ロールは、硬度変化率が6.5%で、摩擦係数変化率が52.9%であり、電気抵抗値の変化率が非常に大きかった。このため、初期画像は普通であったが、長期間使用することで画像に不良が生じた。
【0070】
これより、表面処理液を含浸することによって形成された表面処理層を有し、導電性ロールの表面の表面マイクロ硬度Hs1と表面処理層を除去した導電性弾性層(未処理品)のマイクロ硬度Hs2との差であるΔHs(Hs1−Hs2)が、マイクロ硬度Hs2に対して5%以下である本発明の導電性ロールは、変位に対して追随性があり、電気抵抗値の変化が小さいため、長期間に亘って安定して使用できるものであることがわかった。
【0071】
また、溶媒として酢酸ブチルを用い、数平均分子量が500より小さい末端イソシアネート化合物を用い、浸漬時間を短縮した実施例2の導電性ロールは、硬度変化率が5%以下(4.7%)で、摩擦係数変化率が30%以下(14.7%)であり、電気抵抗値も安定していた。このため、長期間に亘って比較的安定した画像品質を提供でき、高温高湿(HH:30℃×85%RH)環境下においてカブリ不良も発生しなかった。
【0072】
これに対し、ゴムロールの硬度を下げ、末端イソシアネート化合物の配合割合を変えて、浸漬時間を半分にした比較例2の導電性ロールは、硬度変化率が10.0%で、摩擦係数変化率が57.4%であり、電気抵抗値の変化率が非常に大きく、初期画像は普通であったが、長期間使用することで画像に不良が生じた。
【0073】
これより、表面処理層の硬度を下げるために、ゴムロール硬度を下げ、表面処理液の濃度と浸漬時間を変化させただけでは十分な表面特性は得られないが、表面処理液が導電性弾性層へ含浸し難くなるように調製することで所望の表面処理層を得られることがわかった。
【0074】
また、酢酸ブチル、数平均分子量2000程度のエステル系末端イソシアネートプレポリマーからなる表面処理液を用いた実施例3の導電性ロールは、硬度変化率が5%以下(4.3%)、摩擦係数変化率が30%以下(26.5%)であり、電気抵抗値も安定していた。このため、長期間に亘って安定した画像品質を提供でき、高温高湿(HH:30℃×85%RH)環境下においてカブリ不良も発生しなかった。
【0075】
これに対し、溶媒に酢酸エチルを用いた比較例3の導電性ロールは、硬度変化率が5.2%であり、電気抵抗値の変化が比較的大きかった。1万枚通紙後の画像も普通であったが、満足の得られる画像ではなかった。
【0076】
これより、溶媒を変更して表面処理液が導電性弾性層へ含浸し難くなるように調製することで、優れた表面特性が得られることがわかった。
【0077】
なお、実施例1の導電性ロールを0.3mm再研磨した参考例1の導電性ロールは、未処理品の導電性ロール1と同程度のゴム硬度と摩擦係数であった。これより、未処理品の導電性ロールと、研磨することで表面処理層を除去した導電性弾性層とは、同様の性質を示すことが確認できた。本実施例では、いずれも未処理品の導電性ロールを用いて硬度変化率及び摩擦係数変化率を求めたが、表面処理層を除去した導電性弾性層の代用として未処理品の導電性ロールを用いることができることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の導電性ロールを示す図である。
【図2】試験例2の摩擦係数を測定する装置を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
10 導電性ロール
11 芯金
12 導電性弾性層
12a 表面処理層
21 ロール
22 フリーロール
23 紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックにより導電性が付与された導電性弾性層の表層部に表面処理液を含浸することによって形成された表面処理層を有する導電性ロールであって、マイクロ硬度計により測定する前記導電性ロールの表面の表面マイクロ硬度Hs1と前記表面処理層を除去した導電性弾性層のマイクロ硬度Hs2との差であるΔHs(Hs1−Hs2)が、前記マイクロ硬度Hs2に対して5%以下であることを特徴とする導電性ロール。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性ロールにおいて、前記導電性ロールの表面の摩擦係数μ1と前記表面処理層を除去した導電性弾性層の摩擦係数μ2との差であるΔμの絶対値|μ1−μ2|が、前記摩擦係数μ2に対して30%以下であることを特徴とする導電性ロール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−199694(P2007−199694A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343519(P2006−343519)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000227412)シンジーテック株式会社 (99)
【Fターム(参考)】