説明

導電性組成物及びそれを用いた電子写真機器用導電性部材

【課題】電子写真機器用導電性部材の表層形成用材料として用いた場合に、適度な硬度を有し、且つトナーの固着が効果的に抑制され得る表層を有利に形成せしめ得る導電性組成物を提供すること。
【解決手段】導電剤と、アミノ基含有量が0.030mmol/g以下であるポリウレタンウレア樹脂とを配合して、又は、アミノ基含有量が0.030mmol/gを超えるポリウレタンウレア樹脂と共に、該ポリウレタンウレア樹脂を中和するための酸を、該ポリウレタンウレア樹脂のアミノ基含有量が0.030mmol/g以下となるような量的割合において配合して、導電性組成物を調製した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物及びそれを用いた電子写真機器用導電性部材に係り、特に、電子写真機器に採用されている種々の導電性部材において、最外層たる表層を形成せしめる際に有利に用いられ得る導電性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子写真方式を利用した複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置(以下、電子写真機器という)においては、現像ロールや帯電ロール等の導電性ロールや、転写ベルト等の導電性ベルト等を始めとする様々な導電性部材が採用されている。そのような導電性部材にあっては、各々の用途に応じた構成が採用されているが、通常、導電性部材の表面保護等を目的として、導電性を有する樹脂層等からなる表層(保護層)が設けられている。
【0003】
また、電子写真機器に採用される導電性ロール等の導電性部材を製造するに際しては、樹脂やゴム等に対して導電剤等の各種添加剤を配合してなる導電性組成物が広く用いられているのであり、例えば、特許文献1(特開2003−98841号公報)においては、ポリウレタンプレポリマーをジアミンで鎖延長してなるポリウレタンウレア樹脂に対して、導電性フィラーを分散せしめてなる材料(組成物)を、基材材料として用いた中間転写用ベルトが提案されている。
【0004】
しかしながら、本発明者等が、ポリウレタンウレア樹脂に導電剤を配合してなる組成物について詳細に検討したところ、合成(製造)ロットが異なるポリウレタンウレア樹脂に対してそれぞれ同量の導電剤を配合して複数の組成物を調製し、それらの各々を用いて導電性部材の表層を形成せしめると、得られる表層の電気特性(抵抗率)にバラツキが生ずる恐れがあるということが判明した。
【0005】
ここで、一般に、導電性部材に対しては厳格な電気特性(抵抗率)が要求されることから、所定量の導電剤の配合によっても所望とする電気特性が得られないポリウレタンウレア樹脂に対しては、導電剤の配合量を変える必要がある。即ち、電子写真機器用導電性部材における表層形成用材料として、ポリウレタンウレア樹脂に導電剤を配合してなる導電性組成物を用いる場合、その調整に際して、合成(製造)ロットが異なるポリウレタンウレア樹脂に応じて適宜、導電剤の配合量を変更せざるを得ない場合があることが、本発明者等の研究により判明したのである。
【0006】
しかしながら、導電剤の配合量は、最終的に得られる表層の硬度に影響を与えるところから、例えば、ポリウレタンウレア樹脂と多量の導電剤が配合されてなる導電性組成物を用いて、現像ロールに表層を設けると、得られる表層は硬度が高くなる。そのような硬度が高い表層を有する現像ロールにあっては、長期間使用すると、トナーがロール表面にフィルミングし、かぶり画像や現像スジと呼ばれる画像不具合を発生する恐れがあった。一方、導電剤の配合量が少ない導電性組成物を用いて得られる表層は、硬度が必要以上に低くなるのであり、かかる低硬度の表層を有する現像ロールにあっては、トナーが、長期間の接触によってロール表面に固着し、固着スジと呼ばれる画像不具合を発生する恐れがあったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−98841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、電子写真機器用導電性部材の表層形成用材料として用いた場合に、適度な硬度を有し、且つトナーの固着が効果的に抑制され得る表層を有利に形成せしめ得る導電性組成物を提供することにある。また、本発明は、そのような導電性組成物を用いて表層が形成された電子写真機器用導電性部材を提供することも、別の解決課題とするところである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明者等は、ポリウレタンウレア樹脂に導電剤を配合してなる導電性組成物について鋭意研究を重ねたところ、ポリウレタンウレア樹脂のアミノ基含有量が組成物中の導電剤の分散性に大きな影響を与えることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。即ち、本発明は、電子写真機器用導電性部材の表層を形成せしめる際に用いられる導電性組成物にして、導電剤と、アミノ基含有量が0.030mmol/g以下であるポリウレタンウレア樹脂とを配合してなる導電性組成物を、第一の態様とするものである。
【0010】
また、本発明は、電子写真機器用導電性部材の表層を形成せしめる際に用いられる導電性組成物にして、導電剤と、アミノ基含有量が0.030mmol/gを超えるポリウレタンウレア樹脂と共に、該ポリウレタンウレア樹脂を中和するための酸を、該ポリウレタンウレア樹脂のアミノ基含有量が0.030mmol/g以下となるような量的割合において配合してなる導電性組成物をも、第二の態様とするものである。
【0011】
なお、かかる本発明の第二の態様においては、好ましくは、前記酸がリン酸である。
【0012】
ここで、上述の如き本発明の第一及び第二の態様においては、好ましくは、前記ポリウレタンウレア樹脂が、ポリオール成分として、ポリエーテルポリオールを、又はポリエーテルポリオールと、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオール若しくはシリコーンポリオールとを組み合わせて、用いてなるものである。
【0013】
また、望ましくは、前記導電剤が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ及び半導電性金属酸化物のうちの少なくとも一種以上である。
【0014】
さらに、有利には、ポリオール類とイソシアネート類との組合せからなる熱硬化性材料、及び/又はメラミン系熱硬化性樹脂が更に配合されている。
【0015】
さらにまた、上述した各態様の導電性組成物は、好ましくは、有機溶媒を用いて調製されている。
【0016】
そして、本発明は、上述してきた各態様の導電性組成物を用いて表層が形成された電子写真機器用導電性部材をも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明に従う導電性組成物にあっては、ポリウレタンウレア樹脂として、アミノ基含有量が0.030mmol/g以下のものを用いるものであるところから、かかる導電性組成物を用いて形成された表層において、所望とする電気特性(抵抗率)を発揮させるためには、導電剤の配合量が適量に抑えられ得ることとなる。このため、本発明の導電性組成物を用いて、例えば現像ロールの表層を形成せしめると、得られる表層が適度な硬度を有するものとなるところから、かかる現像ロールにあっては、トナーの劣化を有利に抑制し、かぶり画像の発生が効果的に抑制され得るのである。また、かかる表層中のポリウレタンウレア樹脂のアミノ基含有量が所定量以下であることから、ポリウレタンウレア樹脂中のアミノ基のトナーへの作用が効果的に小さくなり、以て、表層におけるトナーの固着が効果的に抑制される。
【0018】
また、(A)導電剤として、カーボンブラック、カーボンナノチューブ及び半導電性金属酸化物のうちの少なくとも一種以上を用いることにより、(B)ポリオール成分として所定のものを用いたポリウレタンウレア樹脂、具体的には、(B−1)ポリエーテルポリオールを用いてなるポリウレタンウレア樹脂、(B−2)ポリエーテルポリオールとポリカーボネートジオールとを組み合わせて用いてなるポリウレタンウレア樹脂、(B−3)ポリエーテルポリオールとポリエステルジオールとを組み合わせて用いてなるポリウレタンウレア樹脂、(B−4)ポリエーテルポリオールとシリコーンポリオールとを組み合わせて用いてなるポリウレタンウレア樹脂を用いることにより、更には(C)イソシアネート類とポリオール類との組合せからなる熱硬化性材料、及び/又はメラミン系熱硬化性樹脂を更に導電性組成物に配合することにより、上述の如き効果をより有利に享受することが可能ならしめられる。
【0019】
そして、そのような導電性組成物を用いて形成された表層を有する導電性部材にあっては、その表面において、適度な硬度を有し、且つトナーの固着が効果的に抑制されるところから、例えば、現像ロールや帯電ロール等の導電性ロールとして、或いは中間転写ベルト等の導電性ベルトとして、種々の電子写真機器において有利に採用され得るのである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ところで、本発明は、電子写真機器用導電性部材の表層を形成せしめる際に用いられる導電性組成物であって、その樹脂成分として、アミノ基含有量が0.030mmol/g以下であるポリウレタンウレア樹脂を用いるところに大きな特徴を存しているのである。
【0021】
本発明者等が知得したところによれば、ポリウレタンウレア樹脂中のアミノ基が多いほど、かかるポリウレタンウレア樹脂が、共に組成物に配合される導電剤の分散性に影響を与える。即ち、アミノ基含有量が比較的多いポリウレタンウレア樹脂を用いると、最終的に得られる表層において所定の電気特性を発現させるためには、アミノ基含有量が比較的少ないポリウレタンウレア樹脂を用いる場合と比較して、より多くの導電剤が必要であることが判明したのである。
【0022】
本発明は、上述の如き知見に基づいて完成されたものであって、アミノ基含有量が0.030mmol/g以下のポリウレタンウレア樹脂を用いることにより、組成物中における導電剤の適度な分散性が確保され得ることから、目的とする表層が所定の電気特性(抵抗率)を発現するために必要な導電剤の配合量は、必要以上に多くなったり、或いは少なくなったりすることはなく、適量となる。このように、導電剤の配合量が適量に抑えられることから、最終的に電子写真機器用導電性部材の表面に形成される表層が、適度な硬度を有するものとなり、硬度の上昇に伴う種々の問題の発生(例えば、現像ロールにおいてはトナーかぶりの発生)が効果的に抑制され得るのである。
【0023】
また、表層を構成する樹脂中に含まれるアミノ基が多いと、アミノ基とトナーとの相互作用により、かかる表層にトナーが固着し易くなることから、アミノ基含有量が所定量以下のポリウレタンウレア樹脂を含む本発明の組成物を用いて得られる表層においては、そのようなアミノ基とトナーとの相互作用の発生が効果的に抑制されることとなる。従って、本発明に係る導電性組成物において、アミノ基含有量が0.030mmol/g以下のポリウレタンウレア樹脂を用いることにより、かかる導電性組成物を用いて得られる表層が、トナー固着を効果的に抑制するものとなるのである。
【0024】
ここで、本願明細書及び特許請求の範囲における「ポリウレタンウレア樹脂のアミノ基含有量(mmol/g)」とは、以下の手法に従って算出されたものをいう。即ち、ポリウレタンウレア樹脂の所定濃度の溶液(例えば、濃度が5重量%のメチルエチルケトン(MEK)溶液)に対して、濃度:0.01mol/Lの塩酸エタノール溶液を用いて電位差滴定を行ない、それによって得られる滴定曲線の変曲点(終点)に至るまでの滴定量と、滴定に用いた塩酸エタノール溶液の濃度(0.01mol/L)と、更にはポリウレタンウレア樹脂溶液の量及び濃度を用いて、算出されたものである。
【0025】
本発明の導電性組成物においては、上述のようにして算出されたアミノ基含有量が0.030mmol/g以下のポリウレタンウレア樹脂を用い得ることは勿論のこと、アミノ基含有量が0.030mmol/gを超えるポリウレタンウレア樹脂であっても、かかるポリウレタンウレア樹脂を中和するための酸と共に組成物中に配合することにより、用いることが可能である。具体的に、アミノ基含有量が0.030mmol/gを超えるポリウレタンウレア樹脂を用いる場合には、かかるポリウレタンウレア樹脂を中和するための酸を、中和後のポリウレタンウレア樹脂のアミノ基含有量が0.030mmol/g以下となるような量的割合において、ポリウレタンウレア樹脂と共に組成物に配合せしめることとなる。本発明において、ポリウレタンウレア樹脂中のアミノ基を中和するために用いられる酸としては、酢酸より強い酸が好ましく、特にリン酸、塩酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸、過塩素酸や硝酸が好ましい。
【0026】
なお、本発明の導電性組成物において用いられるポリウレタンウレア樹脂としては、従来より公知の各種製法に従って製造されたものであれば、如何なるものであっても用いることが可能である。ポリウレタンウレア樹脂の製法の一つとして、例えば、先ず、ポリオール類と、過剰モル量のイソシアネート類とを反応させて、末端にイソシアネート基を有する中間重合体を合成し、次いで、得られた中間重合体と、有機ジアミノ化合物や有機モノアミン化合物とを反応(鎖延長反応)させることにより、目的とするポリウレタンウレア樹脂を製造する手法を、挙げることが出来る。以下において、ポリウレタンウレア樹脂の原料となる各成分について説明する。
【0027】
ポリオール類としては、従来より公知の各種ポリオール、具体的には、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリエチレングリコール(PEG)等のポリエーテルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリオール(カプロラクトン系及びアジペート系)、シリコーンポリオール等の何れをも用いることが可能である。それら種々のポリオールを用いて合成されたポリウレタンウレア樹脂の中でも、本発明においては、特に、最終的に得られる表層の低硬度化及びトナー固着防止の観点から、ポリオール成分として、(1)ポリエーテルポリオールを用いて合成されたポリウレタンウレア樹脂、(2)ポリエーテルポリオールとポリカーボネートジオールとを組み合わせて用いて合成されたポリウレタンウレア樹脂、(3)ポリエーテルポリオールとポリエステルポリオールとを組み合わせて用いて合成されたポリウレタンウレア樹脂、(4)ポリエーテルポリオールとシリコーンポリオールとを組み合わせて用いて合成されたポリウレタンウレア樹脂が、より有利に用いられる。
【0028】
また、ポリウレタンウレア樹脂を製造する際に用いられるイソシアネート類としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メタキシレンジイソシアネート(XDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、H6XDI、H12MDI、TMXDI、DDI、BDI、TODI等を例示することが出来る。
【0029】
さらに、有機ジアミノ化合物としては、イソホロンジアミン、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチルジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、キシリレンジアミン、ピペラジン、フェニレンジアミン等を、例示することが出来る。
【0030】
さらにまた、有機モノアミン化合物としては、モノエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロピルアミン等を例示することが出来る。
【0031】
なお、ポリウレタンウレア樹脂を合成するに際しては、一般に、不活性有機溶媒が用いられるが、かかる不活性有機溶媒としては、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することが出来る。また、溶媒の粘度の経時安定性を得るために、ポリウレタンウレア樹脂の合成した後、トルエンやイソプロピルアルコール(IPA)等を添加することも可能である。
【0032】
本発明に係る導電性組成物には、最終的に得られる表層が所望とする電気特性(抵抗率)を発揮するように、上述したポリウレタンウレア樹脂と共に導電剤が配合される。
【0033】
本発明において用いられる導電剤としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、半導電性金属酸化物、金属粉、カーボン繊維等の導電性粉末や導電性繊維等を始めとする、従来より公知の各種のものが使用される。また、その配合量は、表層の電気特性(抵抗率)が1×107 〜1010Ω・cm程度となるように、適宜に設定される。
【0034】
上述したように、本発明においては、樹脂成分としてアミノ基含有量が所定量以下のポリウレタンウレア樹脂を用いており、比較的少ない配合量においても十分な電気特性を発揮し得るところから、多量に配合すると硬度の上昇を招く恐れがあるカーボンブラックであっても、有利に用いることが出来る。また、従来より公知の導電剤の中でも、本発明においては、特に、カーボンナノチューブ、半導電性金属酸化物、及びそれらの混合物が有利に用いられる。これらを本発明の導電性組成物において導電剤として配合すると、配合量が比較的少量であっても十分な電気特性を発揮することとなり、また、電気特性を制御しやすいという特徴もあることから、目的とする表層が、低硬度であり、且つ電気特性が良好に制御されたものになるという利点がある。なお、半導電性金属酸化物としては、チタンブラック等の酸化チタン系フィラーや、マグネタイト等の酸化鉄系フィラー等を例示することが出来、そのような半導電性金属酸化物とカーボンナノチューブとを併用する場合には、例えば、カーボンナノチューブと半導電性金属酸化物との混合比が1:4(重量比)程度に設定される。
【0035】
以上、本発明の導電性組成物における必須の成分を詳述してきたが、本発明においては、上述したポリウレタンウレア樹脂及び導電剤以外にも、従来より電子写真機器用導電性部材を製造する際に導電性組成物中に配合せしめられるその他の添加剤を、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、配合することも可能である。
【0036】
例えば、最終的に得られる表層に柔軟性を付与せしめるためには、ポリオール類とイソシアネート類との組合せからなる熱硬化性材料や、メラミン系熱硬化性樹脂を、それぞれ単独で、或いはそれらを併せて、配合することが好ましい。ここで、熱硬化性材料を構成するポリオール類及びイソシアネート類としては、ポリウレタンウレア樹脂の原料として先に提示したものの何れをも用いることが可能である。また、イソシアネート類としては、2官能以上のポリオールと前述の如きイソシアネートとを、イソシアネートが過剰になるように混合して、合成したイソシアネート中間体や、前述のイソシアネートの多量体、更には、それらイソシアネートが、2−ブタノンオキシム、ε−カプロラクタム、アセトオキシムやβ−ジケトン等の所謂ブロック剤によってブロックされた化合物等も、用いることが出来る。一方、メラミン系熱硬化性樹脂としては、ニカラックMS-11 やMW-45 (何れも商品名、株式会社三和ケミカル製)、スーパーベッカミンL-131-60(商品名、DIC株式会社製)等を例示することが出来る。
【0037】
その他にも、表層に所定の表面粗さを与えることを目的として、ウレタン粒子等の樹脂粒子や、シリカ等の無機粒子等を配合することも可能である。
【0038】
上述した各成分が配合されて、本発明の導電性組成物が調製されることとなるが、かかる調製は、有機溶媒中にて行なわれることが好ましい。通常、電子写真機器用導電性部材の表面に設けられる表層は、厚さが数μm〜数十μmと非常に薄いものであり、そのような薄い表層を形成するに際しては、液状の導電性組成物が有利に用いられるからである。
【0039】
具体的には、上述の各成分を所定の有機溶媒に添加、混合して調製された液状の組成物を、導電性ロールや導電性ベルトを始めとする電子写真機器用導電性部材の半完成品の表面に、ロールコーティング法等に従って塗布し、乾燥(及び必要に応じて加熱)せしめることによって、目的とする表層を有する導電性ロールや導電性ベルト等の電子写真機器用導電性部材が得られるのである。なお、本発明の導電性組成物を調製する際に用いられる有機溶媒としては、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することが出来る。
【0040】
そして、そのようにして導電性ロールや導電性ベルト等の表面に設けられた表層にあっては、上述したように、適度な硬度を有しつつ、トナーの固着を効果的に抑制し得るものであることから、それら導電性ロール等は、種々の電子写真機器において有利に用いられ得るのである。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上述の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0042】
−ポリウレタンウレア樹脂A1〜A4の合成−
ポリオール成分としてのポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG、分子量:1800)の1800gに対して、イソシアネート成分であるヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を272g、供給し、それらを混合後、80℃で3時間反応させて、両末端にイソシアネート基を有する中間重合体を得た。次いで、得られた中間重合体を40℃まで冷却した後、所定量のメチルエチルケトン(MEK)を加えて、中間重合体のMEK溶液(濃度:20重量%)を調製し、この溶液を約12℃になるまで冷却した。そして、かかるMEK溶液に、イソホロンジアミンのMEK溶液(濃度:20重量%)を138g(イソホロンジアミン:0.62mol)、添加すると共に、モノエタノールアミンを0.61g(0.01mol)添加し、30℃で5時間、混合することにより、濃度:20重量%のポリウレタンウレア樹脂溶液a1を調製した。同様の手法に従って、ポリウレタンウレア樹脂溶液a2〜a4も調製した。
【0043】
得られた各ポリウレタンウレア樹脂溶液の一部を用いて、溶媒(MEK)を除去して固形物(ポリウレタンウレア樹脂)を得た。固形物(ポリウレタンウレア樹脂)の10gをMEKに溶解せしめて、濃度:5重量%のMEK溶液を調製した。かかるMEK溶液に対して、0.01mol/Lの塩酸エタノール溶液を用いて、電位差滴定を行った。その結果である滴定曲線の変曲点(終点)に至るまでの塩酸エタノール溶液の滴定量から、ポリウレタンウレア樹脂溶液a1中のポリウレタンウレア樹脂A1のアミノ基含有量を算出したところ、0.020mmol/gであった。同様にして、ポリウレタンウレア樹脂溶液a2中のポリウレタンウレア樹脂A2のアミノ基含有量は0.010mmol/g、ポリウレタンウレア樹脂溶液a3中のポリウレタンウレア樹脂A3のアミノ基含有量は0.030mmol/g、ポリウレタンウレア樹脂溶液a4中のポリウレタンウレア樹脂A4のアミノ基含有量は0.032mmol/gであった。
【0044】
−ポリウレタンウレア樹脂Bの合成−
ポリオール成分として、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG、分子量:1800)と、ポリカーボネートジオール(ヘキサメチレンジオール及び炭酸ジメチルから合成されたカーボネートジオール、分子量:1800)との混合物[混合比=1:1(重量比)]を用いた以外は、上記ポリウレタンウレア樹脂溶液a1〜a4と同様にして、ポリウレタンウレア樹脂溶液bを調製した。かかる溶液中のポリウレタンウレア樹脂Bのアミノ基含有量は0.020mmol/gであった。
【0045】
−ポリウレタンウレア樹脂C1、C2の合成−
ポリオール成分として、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG、分子量:1800)と、ポリエステルジオール(アジピン酸とヘキサメチレンジオールとの共重合体、分子量:1800)との混合物[混合比=1:1(重量比)]を用いた以外は、上記ポリウレタンウレア樹脂溶液a1〜a4と同様にして、ポリウレタンウレア樹脂溶液c1、c2を調製した。ポリウレタンウレア樹脂溶液c1中のポリウレタンウレア樹脂C1のアミノ基含有量は0.020mmol/g、ポリウレタンウレア樹脂溶液c2中のポリウレタンウレア樹脂C2のアミノ基含有量は0.032mmol/gであった。
【0046】
−ポリウレタンウレア樹脂Dの合成−
ポリオール成分として、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG、分子量:1800)と、両末端カルビノール変性シリコーン(分子量:1800、信越化学工業株式会社製、商品名:KF-6001 )との混合物[混合比=1:1(重量比)]を用いた以外は、上記ポリウレタンウレア樹脂溶液a1〜a4と同様にして、ポリウレタンウレア樹脂溶液dを調製した。ポリウレタンウレア樹脂溶液d中のポリウレタンウレア樹脂Dのアミノ基含有量は0.025mmol/gであった。
【0047】
上述の如くして調製されたポリウレタンウレア樹脂溶液及びその他の添加剤(導電剤等)を用いて、メチルエチルケトン:400重量部に対して、各成分を下記表1乃至表3に記載の量において配合し、混合、撹拌することにより、16種類の液状の導電性組成物(試料1〜試料16)を調製した。なお、下記表1乃至表3においては、本発明の理解を容易にすべく、用いたポリウレタンウレア樹脂のアミノ基含有量(mmol/g)を記載しているが、リン酸水溶液を配合した導電性組成物(試料5、7、8、12〜15)においては、計算上(理論上)、リン酸水溶液との中和反応後にポリウレタンウレア樹脂に残存するアミノ基の量(mmol/g)を記載した。また、導電性組成物を調製するに際しては、具体的に以下のものを用いた。
・リン酸:85重量%水溶液
・カーボンブラック:三菱化学株式会社製、MA100 (商品名)
・カーボンブラック:キャンカーブ社製、サーマックスN990(商品名)
・多層カーボンナノチューブ:CNT社製、Ctube100(商品名)
・チタンブラック:株式会社ジェムコ製、チタンブラック12S (商品名)
・熱硬化性材料
・ポリオール類:ポリオキシテトラメチレングリコール
(PTMG、分子量:1800)
・イソシアネート類:ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)
・メラミン系熱硬化性樹脂:株式会社三和ケミカル製、ニカラックMW45(商品名)
・ウレタン粒子:根上工業株式会社製、アートパールC400T (商品名)
【0048】
なお、導電性組成物においてカーボンブラック等の導電剤の配合量が異なるが、これは、導電性組成物を用いて得られる表層の表面抵抗率が1.0×108 (Ω・cm)となるように調整したことに起因するものである。具体的には、各導電性組成物を用いて厚さ:約50μmのシート状の試料を成型し、かかる試料表面の3箇所において、三菱化学株式会社製の抵抗率計:ハイレスタ-UP (商品名、URSプローブ使用)を用いて、印加電圧:10Vとして表面抵抗率を測定し、得られた3つの測定値の平均値が1.0×108 (Ω・cm)となるように、導電剤の配合量を決定した。
【0049】
そして、得られた導電性組成物(試料1〜試料16)について、以下の測定乃至は評価を行なった。
【0050】
−マルテンス硬度の測定−
各導電性組成物を用いて成型した厚さ:約50μmのシート状の試料について、微小硬度計:フィッシャースコープH-100 (商品名、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)を用いて、最大押込み荷重:1mNの条件にてマルテンス硬度(N/mm2 )を測定した。その測定結果を、下記表1乃至表3に併せて示す。
【0051】
また、各導電性組成物を用いて導電性部材表面に形成された表層のトナー固着性及び耐久性を評価すべく、以下のような手法に従って導電性ロールを作製した。
【0052】
先ず、外径:6mm、長さ:252.5mmで、表面にニッケルメッキが施されている中実の鉄製シャフト(軸体)を準備した。一方で、EPDM(三井化学株式会社製、商品名:EPT4045 ):100重量部と、カーボンブラック(ケッチェンブラックEC):20重量部と、酸化亜鉛:5重量部と、ステアリン酸:1重量部と、プロセスオイル(出光興産株式会社製、商品名:ダイアナプロセスオイルPW380 ):30重量部と、発泡剤たるジニトロソペンタメチレンテトラミン:15重量部と、硫黄:1重量部と、架橋促進剤たるジベンゾチアゾールジスルフィド:2重量部と、架橋促進剤たるテトラメチルチウラムモノサルファイド:1重量部とを配合し、弾性層形成用組成物を調製した。
【0053】
シャフト(軸体)の外周面に接着剤を塗布した後、かかる外周面上に、押出機を用いて弾性層形成用組成物を押出成形した。軸体上に所定厚さの弾性層形成用組成物の層が設けられてなるロール前駆体を、金型内にて加熱して、架橋せしめることにより、軸体の周りに厚さ:2.5mmの弾性層が一体的に設けられてなるロール体を作製した。そして、得られたロール体の表面に、上述の如くして調製した液状導電性組成物をロールコーティング法に従って塗工し、その塗膜を乾燥せしめた後、150℃で1時間、加熱して硬化せしめることにより、各導電性組成物からなる表層を有する導電性ロールを14種類、作製した。なお、各導電性ロールにおける表層の厚さは10μmであった。
【0054】
そのようにして得られた導電性ロールを、市販のカラーレーザープリンタ(キヤノン株式会社製、商品名:LBP-5400)に現像ロールとして組み込み、以下の評価を行なった。
【0055】
−ロール表面におけるトナー固着性の評価−
高温高湿度の環境下(32.5℃×85%RH)において、黒べた画像を1枚、印刷した後、レーザープリンタを10日間、その環境下で放置した。かかる放置の後、再度黒べた画像の印刷を行ない、得られた画像について、トナーがロール表面(表層の表面)に固着したことに由来するスジ(白色のスジ画像)の有無を目視で観察した。各ロールの観察結果から、各ロールを以下の基準に従って評価した。その評価結果を、現像ロールの表層を形成する導電性組成物(試料)毎に、下記表1乃至表3に併せて示す。
◎:スジが全く認められなかった。
○:印刷を再開後、通算10枚目以下の画像において、スジが認められなくなった。
×:印刷を再開後、通算11枚目以降の画像において、スジが認められなくなった。
【0056】
−耐久性の評価−
耐久試験後のロールにおける静電潜像領域外の領域(非潜像部)へのトナー飛散(かぶり)を評価した。具体的には、先ず、低温低湿度の環境下(10℃×10%RH)において、黒べた画像を1万枚、印刷した。次いで、実機(カラーレーザープリンタ)から感光ドラムを取り出し、非潜像部にテープを貼り、その後にテープを剥がした。そして、テープの接着面に付着したトナー濃度を、マクベス濃度計を用いて測定した。この測定において、1)トナー濃度が0.18未満の場合は、現像ロールにおいてかぶりの発生が抑制されているとして◎と、2)トナー濃度が0.18以上0.20未満の場合は、現像ロールにおけるかぶり発生の抑制は多少劣るものの問題ないレベルであるとして○と、3)トナー濃度が0.20以上の場合は、現像ロールにおけるかぶり発生の抑制が不十分であるとして×と、それぞれ評価した。その評価結果を、現像ロールの表層を形成する導電性組成物(試料)毎に、耐久性として下記表1乃至表3に併せて示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
かかる表1乃至表3の結果からも明らかなように、本発明に従う導電性組成物(試料1〜3、5、7〜10、12〜16)にあっては、ポリウレタンウレア樹脂中のアミノ基含有量が所定量以下とされており、導電剤(カーボンブラック)の配合量が比較的少なくても所望とする電気特性(抵抗率)を発揮するものであるところから、導電剤の配合による硬度の上昇が効果的に抑制されることが認められた。これにより、本発明の導電性組成物を用いて表層が形成せしめられた電子写真機器用導電性部材においては、用いた導電性組成物のロット間による耐久性のバラツキが、有利に解消される。また、本発明に従う導電性組成物を用いて表層が形成された電子写真機器用導電性部材(現像ロール)においては、ポリウレタンウレア樹脂中のアミノ基によるトナーへの作用も効果的に抑制され、トナーの固着を効果的に防止することが認められた。
【0061】
また、ポリウレタンウレア樹脂として、アミノ基含有量が0.030mmol/g以下のものを用いた組成物は勿論のこと、0.030mmol/gを超えるものを用いた場合であっても、ポリウレタンウレア樹脂を中和するための酸(リン酸)を、そのポリウレタンウレア樹脂のアミノ基含有量が0.030mmol/g以下となるような量的割合において配合した組成物(試料5、7、12〜15)においても、本発明の優れた効果が確認された。
【0062】
特に、ポリウレタンウレア樹脂を構成するポリオール成分が、ポリエーテルポリオール及びポリカーボネートジオールである組成物(試料9)、ポリエーテルポリオール及びポリエステルジオールである組成物(試料10)や、ポリエーテルポリオール及びシリコーンポリオールである組成物(試料16)においては、ポリオール成分がポリエーテルポリオールのみからなるポリウレタンウレア樹脂を用いた組成物(試料1)と比較して、得られる表層が、トナーの固着をより効果的に防止することが認められた。
【0063】
さらに、本発明に従って、ポリオール類(PTMG)及びイソシアネート類(HDI)の組合せからなる熱硬化性材料を更に配合した組成物(試料7)にあっては、かかる熱硬化性材料を配合していない組成物(試料5)と比較して、得られる表層が、より柔軟なものとなり、耐久性(かぶりの発生の抑制)においてより優れていることが認められた。加えて、本発明に従ってメラミン系熱硬化性樹脂を更に配合した組成物(試料12)にあっても、得られる表層が、優れたトナー固着性及び耐久性を発揮することが認められたのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真機器用導電性部材の表層を形成せしめる際に用いられる導電性組成物にして、
導電剤と、アミノ基含有量が0.030mmol/g以下であるポリウレタンウレア樹脂とを配合してなる導電性組成物。
【請求項2】
電子写真機器用導電性部材の表層を形成せしめる際に用いられる導電性組成物にして、
導電剤と、アミノ基含有量が0.030mmol/gを超えるポリウレタンウレア樹脂と共に、該ポリウレタンウレア樹脂を中和するための酸を、該ポリウレタンウレア樹脂のアミノ基含有量が0.030mmol/g以下となるような量的割合において配合してなる導電性組成物。
【請求項3】
前記酸がリン酸である請求項2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記ポリウレタンウレア樹脂が、ポリオール成分として、ポリエーテルポリオールを、又はポリエーテルポリオールと、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオール若しくはシリコーンポリオールとを組み合わせて、用いてなるものである請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の導電性組成物。
【請求項5】
前記導電剤が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ及び半導電性金属酸化物のうちの少なくとも一種以上である請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の導電性組成物。
【請求項6】
ポリオール類とイソシアネート類との組合せからなる熱硬化性材料、及び/又はメラミン系熱硬化性樹脂を更に配合してなる請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の導電性組成物。
【請求項7】
有機溶媒を用いて調製されている請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の導電性組成物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載された導電性組成物を用いて表層が形成された電子写真機器用導電性部材。

【公開番号】特開2010−224341(P2010−224341A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73244(P2009−73244)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】