説明

導電性転がり軸受

【課題】導電性転がり軸受を製造するにあたり、グリース漏れやカーボン微粒子による汚れを防ぎ、回転トルクを抑えたものとする。
【解決手段】導電性転がり軸受の接触部分11a,12a,13を、導電性潤滑被膜で覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は導電性を有する転がり軸受に関し、特に感光ドラムで用いる転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、静電転写複写機、カラーLED方式やカラーLBP方式の印刷機などの、電子写真装置を用いた複写機や印刷機には、回転自在に支持された感光ドラムが用いられている。この感光ドラムの表面上に静電荷潜像を形成させ、これにトナーを帯電付着させて、形成されたトナーによる可視像を印字紙に転写して、トナーによる像を紙に印刷している。
【0003】
ただし、感光ドラムを回転自在に支持するために用いられるロール用の転がり軸受が帯電すると、感光ドラムの表面上に帯電された電荷や付着するトナーに対して、その帯電した電荷が影響を及ぼして静電荷潜像やトナーによる可視像を乱してしまう。このため、軸受が帯電しないように外部に放電させることが必要となる。このため、構成する部品を通電性の材料で製造し、かつ、グリースを導電性のものとした導電性転がり軸受が使用されている。ここで用いる導電性グリースとしては、例えば特許文献1及び2に記載のような、グラファイトなどの導電性カーボンの微粉末を導電物質兼増ちょう剤としてグリースに混合したものが用いられている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−538901号公報
【特許文献2】特開2004−162909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような導電性グリースは、カーボンを導電物質兼増ちょう剤としているため、グリースの基油の増ちょう性が悪く、分離しやすくなってしまった。この分離した基油が軸受の周囲や、感光ドラム表面まで汚染してしまうことがあった。これを防ぐために、特許文献2の図2に記載のようにグリースを封入する空間をシール部材で密封した密封型転がり軸受を用いると、回転時のトルクが増加してしまうという問題があり、また、軸受周辺の構造を複雑にするため製造しにくくなってしまうという問題もあった。
【0006】
さらに、封入時に導電性グリースが、軸受の必要とする部分以外の部分や作業台に付着してしまうと、含まれるカーボンの微粉末が細かすぎるために汚れの除去が困難であり、しかも黒色であるため汚れが目立つという問題があった。
【0007】
そこでこの発明は、軸受の構造を複雑にすることなく、軸受周囲や接続する部品を汚染する可能性を低下させた導電性転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、導電性グリースを導入する代わりに、軸受の接触表面を導電性潤滑被膜で覆うことで、上記の課題を解決したのである。
【0009】
すなわち、軸受のシャフトから外輪までの間に、互いに接触する表面を有する軌道面又は転動体の表面に、導電性と潤滑性とを有する被膜を形成させることで、導電性転がり軸受の製造にあたって液体のグリースを必要としなくなり、液体のグリースに導電性を持たせるためのカーボン微粉末も使用しなくて済むようになった。
【発明の効果】
【0010】
この発明にかかる導電性転がり軸受により、グリースの封入時や使用中のグリース漏れによる周辺の汚染を防ぎつつ、軸受の帯電を防ぎ、かつ長期に亘る回転の安定を実現させることが出来る。また、グリース漏れを防ぐための接触式のゴム製密閉シール等を必要としないために、鉄板シールなどを用いた単純な構造にできるので、グリースを用いた導電性転がり軸受よりも製造しやすくなる。さらに、密閉させる必要がないために、シールの接触による回転トルクが無くなるので、機器の負担を小さくすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、図1のように、互いに対向する軌道面11a,12aを有する内輪11及び外輪12と、その両方の軌道面11a,12aに接する複数の転動体13と、その転動体13を保持する保持器14とを備えた転がり軸受であって、前記両方の軌道面11a,12a又は転動体13の少なくとも一方の表面を、導電性潤滑被膜で覆った導電性転がり軸受である。このような転がり軸受は、前記内輪11に繋がるシャフト15(図1には図示せず。)を回転自在に保持するものが挙げられる。
【0012】
上記の転動体13とは、円柱又は玉であって、内輪11及び外輪12とに接触し、その間で転動可能なものである。また、上記の保持器14とは、内輪11と外輪12との間に設け、それぞれの転動体13の位置を固定するためのものである。
【0013】
この軌道面11aと転動体13、及び、軌道面12aと転動体13は、それぞれ、互いに接触する関係にあり、この接触部分に導電性と潤滑性を与えるために、上記導電性潤滑被膜で覆う必要がある。なお、前記軌道面にのみ導電性潤滑被膜を施す場合は、内輪11の軌道面11aと外輪12の軌道面12aの両方を導電性潤滑被膜で覆う必要がある。
【0014】
また、上記の保持器14の表面を上記導電性潤滑被膜で覆っても良い。保持器14も転動体13と接するので、この接触部分に潤滑性が必要となる。このため、転動体13を上記導電性潤滑被膜で覆わずに軌道面11a及び12aを上記導電性潤滑被膜で覆う場合は、転動体13と保持器14との間の潤滑性を確保するために、保持器14の表面を潤滑性のある被膜で覆うとよく、上記導電性潤滑被膜で覆ってもよい。
【0015】
上記導電性潤滑被膜とは、導電性を有し、固体潤滑剤として機能しうる被膜をいう。この被膜を構成する物質は、好ましい導電性の値として、体積抵抗率が10Ω・cm以下であると好ましい。従来用いられていたカーボン微粉末を用いた導電性グリースでの好ましい体積抵抗率が10Ω・cmであり、この発明においても同程度以下の体積抵抗率であれば、軸受の電荷を導電させて、帯電を防ぐ効果が十分に得られるためである。10Ω・cmを超えると、抵抗率が高くなり、電荷の帯電が無視できないものとなる場合がある。なお、体積抵抗率は小さいほど好ましく、下限は特に制限されない。
【0016】
また、この導電性潤滑被膜を構成する物質は、好ましい潤滑性の値として、摩擦係数が0.2以下であると好ましい。0.2を超えると、摩擦により受ける力が強くなり、回転時のトルクが大きくなりすぎてしまうおそれがある。なお、摩擦係数は小さいほど好ましく、下限は特に制限されない。
【0017】
このような物質としては、具体的には、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と略記する。)含有ニッケル(以下、まとめて「Ni−PTFE」と略記する。)などが挙げられる。このうち、Ni−PTFEは、ニッケル金属中にPTFEの微粒子を分散させて潤滑性を向上させた材料である。この材料のPTFEとニッケルとの体積混合率は、5:95〜30:70であると、良好な導電性と潤滑性とを与える材料として扱うことができる。
【0018】
具体的には、PTFEとニッケルとの体積混合率が5:95であると、体積抵抗率は0.006Ω・cmとなり、体積混合率が30:70であると、体積抵抗率は0.010Ω・cmとなる。また、導電性潤滑被膜が無い状態で摩擦係数が0.4から0.5程度であるものを、Ni−PTFEの被膜を設けることで、前記のどちらの体積混合率でも0.11から0.15程度とすることができる。なお、グラファイト被膜や、PTFEのみの被膜を設けた場合も、摩擦係数は0.2から0.5程度の値となる。
【0019】
これらの物質を用いた導電性潤滑被膜を、上記の軸受の軌道面11a,12a、転動体13、保持器14の表面に生成させる方法は特に限定されないが、物質の性質上、グラファイトを用いる場合は、スパッタリング処理やコーティング処理を用いると処理しやすいので好ましい。このコーティング処理は、具体的には、溶剤中にバインダー樹脂と共に懸濁させているグラファイトコーティング液を、スプレーなどにより製品に塗布後、焼き付ける方法が挙げられる。また、Ni−PTFEを用いる場合は、無電解メッキ処理を用いると処理しやすいので好ましい。なお、無電解メッキによるNi−PTFEの導電性潤滑被膜を生成する際には、製造工程の関係上、導電性潤滑被膜はNiとPTFEの他にリンを含有する。
【0020】
これらの導電性潤滑被膜の厚みは材料にもよるが、Ni−PTFEを用いる場合は摩耗粉の影響でグリース寿命が低下するので、膜厚は1〜10μmであるとよい。グラファイトのような金属を含有しない材料の場合は特に限定されるものではないが、製造上3〜10μmであるとよい。
【0021】
また、この発明にかかる導電性転がり軸受全体では、内輪11に絶縁体を挟まずに繋がった金属製シャフト15と、外輪12に繋がった金属部品との間の抵抗値が50kΩ以下であることが好ましい。この抵抗値が50kΩを超えると、例えば電子写真装置に用いる感光ドラムなどの、シャフト15に繋げて回転自在に支持する部品が、外部に電荷をアースしきれずに帯電してしまうおそれが高くなるためである。
【0022】
この発明にかかる導電性転がり軸受では、軸受の軌道面11a,12a、及び転動体13の両方の表面を上記導電性潤滑被膜で覆ってもよいし、さらに、保持器14の表面を上記導電性潤滑被膜で覆っても良い。
【0023】
上記の軌道面11a,12a、転動体13、及び保持器14のうちの複数の表面を上記導電性潤滑被膜で覆う場合は、それらの全てをグラファイトとNi−PTFEとのいずれか一方で覆ってもよいし、互いに接触する一方をグラファイトで覆い、他方をNi−PTFEで覆うようにして二つの材料を組み合わせて用いてもよい。すなわち、二つの材料を組み合わせて用いる場合には、転動体13の表面を、グラファイト又はNi−PTFEのうちの一方を用いた上記導電性潤滑被膜で覆い、上記の両方の軌道面11a,12a及び保持器14のうち少なくとも一方を、グラファイト又はNi−PTFEのうちの他方を用いた上記導電性潤滑被膜で覆う。これにより、接触面でグラファイトによる上記導電性潤滑被膜と、Ni−PTFEによる上記導電性潤滑被膜とが接触することにより、より柔らかいグラファイトによる上記導電性潤滑被膜が先に摩耗するので、Ni−PTFEによる上記導電性潤滑被膜を摩耗しにくくすることができる。また、グラファイトによる上記導電性潤滑被膜が摩耗しても、被膜が残っていれば潤滑剤の役割を維持することができる。
【0024】
また、内輪11の軌道面11aと外輪12の軌道面12aとを上記導電性潤滑被膜で覆う場合、一方にグラファイトを用い、他方にNi−PTFEを用いて覆ってもよいし、両方とも同じものを用いて上記導電性潤滑被膜で覆っても良い。また、さらに保持器14を上記導電性潤滑被膜で覆う場合には、グラファイトとNi−PTFEとのいずれを選んで用いてもよい。
【0025】
この発明にかかる導電性転がり軸受を得るために、上記導電性潤滑被膜で覆う元の軸受の材料は、一般的に軸受に用いられる金属材料をそのまま用いることができる。
【0026】
この発明にかかる導電性転がり軸受は、PPCなどの静電転写複写機や、カラーLED方式やカラーLBP方式の印刷機などの電子写真装置に用いられる感光ドラムのシャフトを回転自在に支持するために用いることができる。この発明にかかる導電性転がり軸受を用いて感光ドラムを回転自在に支持した電子写真装置は、従来の導電性グリースを用いた導電性転がり軸受で問題となったグリース漏れやカーボン微粒子による汚れを防ぐことができる。また、十分な導電性を確保して感光ドラムを支持することができ、さらに、感光ドラムを回転させるにあたって、十分に低いトルクで回転させることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例によりこの発明による効果を具体的に示す。まず、実施例で用いる導電性潤滑被膜の材料と、比較例で用いる非導電性の潤滑被膜の材料を示す。
・グラファイト……住鉱潤滑剤(株)製:ドライコート1410
・Ni−PTFE……PTFEとニッケルとの体積混合比=70:30
【0028】
導電性潤滑被膜を形成させる元の軸受は、NTN(株)製:6806(構成材料:SUJ2)を用いた。この軸受に、以下の実施例及び比較例にそれぞれ示す材料を用いて、いずれも厚さ5μmの被膜を、それぞれの軸受の部品上に形成させた。なお、グラファイトについてはスパッタリングを行って導電性潤滑被膜を製造し、Ni−PTFEについては無電解メッキを行った。また、PTFEについてはコーティング処理を行った。
【0029】
それぞれの軸受の導電性及び耐久性の評価は、図2に記載の測定器を用いて行った。図中矢印は49Nのラジアル荷重であり、シャフト15の回転を受けるように軸受21をセットし、軸受の外側に測定端子31と、シャフト15に繋がった測定端子32との間で抵抗値を測定した。導電性の評価では駆動用プーリ33により100min−1の回転を加えた状態で測定を行った。測定回路は図3に記載の通りであり、電源51と300kΩの制御抵抗52と電圧計53とからなり、測定回路54にあたる、測定端子31及び32間の抵抗値を測定した。この抵抗値が50kΩ未満のものを○と評価し、50kΩ以上のものを×と評価した。
【0030】
また、耐久性評価試験においては、駆動用プーリ33により与える回転を300min−1とし、200時間経過するまでに異音が発生しないものを○と評価し、200時間経過前に異音が発生したものを×と評価した。
【0031】
(実施例1,2、比較例1)
内輪及び外輪の軌道面と保持器の全面を、それぞれの材料を用いて被膜で覆った例の導電性及び耐久性の評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
(実施例3,4、比較例2)
内輪及び外輪の軌道面の全面を、それぞれの材料を用いて被膜で覆った例の導電性及び耐久性の評価結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
(実施例5,6、比較例3)
転動体である玉の表面を、それぞれの材料を用いて被膜で覆った例の導電性及び耐久性の評価結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
(実施例7)
保持器の全面を、グラファイトを用いて導電性潤滑被膜で覆い、転動体である玉の表面を、Ni−PTFEを用いた導電性潤滑被膜で覆った例の導電性及び耐久性の評価結果を表4に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
(実施例8)
転動体である玉の表面を、グラファイトを用いて導電性潤滑被膜で覆い、内輪及び外輪の軌道面を、Ni−PTFEを用いて導電性潤滑被膜で覆った例の導電性及び耐久性の評価結果を表4に示す。
【0040】
(実施例9)
転動体である玉の表面を、グラファイトを用いて導電性潤滑被膜で覆い、保持器の全面を、Ni−PTFEを用いた導電性潤滑被膜で覆った例の導電性及び耐久性の評価結果を表4に示す。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明にかかる導電性転がり軸受の導電性潤滑被膜を設ける部分の概略図
【図2】実施例で用いた測定器の概略図
【図3】実施例で用いた測定回路の概念図
【符号の説明】
【0042】
11 内輪
11a 軌道面
12 外輪
12a 軌道面
13 転動体
14 保持器
15 シャフト
21 軸受
31,32 測定端子
33 駆動用プーリ
34 固定器具
51 電源
52 制御抵抗
53 電圧計
54 測定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する軌道面を有する内輪及び外輪と、その両方の軌道面に接する複数の転動体と、その転動体を等間隔に保持する保持器とを備えた転がり軸受であって、
前記両方の軌道面、又は前記転動体の少なくとも一方の表面を、導電性潤滑被膜で覆った導電性転がり軸受。
【請求項2】
上記保持器の表面を導電性潤滑被膜で覆った請求項1に記載の導電性転がり軸受。
【請求項3】
上記導電性潤滑被膜が、体積抵抗率が10Ω・cm以下であり、かつ摩擦係数が0.2以下である物質で構成される請求項1又は2に記載の導電性転がり軸受。
【請求項4】
上記導電性潤滑被膜を構成する物質として、グラファイト又はポリテトラフルオロエチレン含有ニッケルを用いる請求項3に記載の導電性転がり軸受。
【請求項5】
上記転動体の表面を、グラファイト又はポリテトラフルオロエチレン含有ニッケルのうちの一方を用いた上記導電性潤滑被膜で覆い、
上記両方の軌道面及び上記保持器のうち少なくとも一方を、グラファイト又はポリテトラフルオロエチレン含有ニッケルのうちの他方を用いた上記導電性潤滑被膜で覆った請求項1乃至4のいずれかに記載の導電性転がり軸受。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の導電性転がり軸受を感光ドラムの支持に用いた電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−133877(P2008−133877A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319676(P2006−319676)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】