説明

導電性部材の製造方法及び電子写真装置用ローラ

【課題】導電性部材の特性、性能を悪化させることなく、ユズ肌が発生しない被覆層を備えた導電性部材を製造する。
【解決手段】導電性支持体の外周の導電性弾性層上に塗工被覆層を有する導電性部材の製造方法において、塗工液の溶剤蒸発速度rと塗工環境風速wが、 20 ≦ rw ≦ 150 r:溶剤蒸発速度(mg/cm・min) w:塗工環境風速(m/sec) を満たし、その製造工程は、該塗工液へディップする浸漬工程と、該塗工液からの引き上げ時の初期速度を40mm/sec以下とする引き上げ工程とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンター、ファクシミリ及び複写機等の電子写真方式を採用した画像形成装置における帯電ローラ、現像ローラ等の製造工程で、弾性体であるローラ本体の表面に導電性塗料による塗工膜を形成するのに好適な、導電性部材の製造方法及び電子写真装置用ローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子写真プロセスにおける帯電プロセスは、金属ワイヤーに高電圧(直流電圧6〜8kV)を印加して発生するコロナシャワーにより被帯電体である電子写真感光体面を所定の極性・電位に一様に帯電させるコロナ帯電器が広く利用されていた。しかし、高圧電源を必要とする、比較的多量のオゾンが発生する等の問題があった。
【0003】
これに対して導電性部材を感光体に接触させながら電圧を印加して、感光体表面を帯電させる接触帯電方式が実用化されている。これは、感光体に、ローラ型、ブレード型、ブラシ型及び磁気ブラシ型等の電荷供給部材としての導電性部材(帯電部材)を接触させ、この接触帯電部材に所定の帯電バイアスを印加して感光体面を所定の極性・電位に一様に帯電させるものである。
【0004】
この帯電方式は、電源の低電圧化とオゾンの発生量が少ないという利点を有している。この中でも特に接触帯電部材として導電性ローラを用いたローラ帯電方式が、帯電の安定性という観点から好ましく用いられている。しかしながら、この帯電方式は出力画像に悪影響を及ぼさないために、ローラ表面に欠陥がなく、非常に高度な均一性が要求される。
【0005】
また、一成分非磁性現像方式が一般的に採用されるようになり、該方式に必要である現像ローラに関してもローラ表面に欠陥がなく、非常に高度な均一性が要求される。
【0006】
前記ローラ1は、図1に示すように導電性支持体1aを有し、ゴム等からなる導電性弾性層1b表面に導電性塗料による塗工膜1cを均一にかつ薄く形成されたものである。
【0007】
従来法として、弾性体であるローラ本体の表面に導電性塗料による塗工膜を形成するためには、浸漬塗工法が最も一般的であり、また、前記のように均一な高画質を得るためには、浸漬塗工法による塗料の均一な塗布がおこなわれることが重要である。しかしながら、このような導電性部材の塗工膜の形成過程では溶媒の蒸発の際に塗膜内に渦対流が発生し、乾燥後表面に凹凸が発生し表面の平滑性が失われる現象があり、これをユズ肌と呼んでいる。このユズ肌が発生した表面の導電性部材を用いると、耐久時の外添剤等の汚れ付着の増加や、帯電能の変化により画像上に濃度ムラ等の画像不良が発生する。
【0008】
従来、このユズ肌の発生を抑制するために、蒸発速度の遅い溶媒を用いる方法がある。しかし、浸漬塗工法において蒸発速度の遅い溶媒を用いると、乾燥中に塗布膜がタレて、上下の膜厚ムラが発生し、また、乾燥に時間がかかるため生産性も悪く、実用上この方法を採用することは難しい。
【0009】
また、このユズ肌の発生を抑制するために、シリコーンオイルを添加するという方法も一般的に用いられている。このシリコーンオイルを添加するという方法は、塗料分野では常識的なことであり、効果があることも知られている(例えば、特許文献1,2)。しかしながら、前記のように導電性部材に求められる性能が、高画質化と共に高度になり、その性能を満足するために塗料中に含有される材料も多様化され、シリコーンオイルの添加のみでは充分な効果が得られていないのが現状である。また、シリコーンオイルの添加量を増やし、ユズ肌の発生を抑制する方法も採られているが、シリコーンオイルの添加量を増やすと、その成分が導電性部材の表面に染み出しドラム等に付着し、その部分が画像不良になるという問題が発生する。
【特許文献1】特開昭57−5050号公報
【特許文献2】特開昭57−212453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の目的は、上記に鑑みてなされたものであって、導電性部材の表面被覆層を浸漬塗工法により形成する際、導電性部材の特性、性能を悪化させることなく、ユズ肌が発生しない被覆層を備えた導電性部材を、極めて簡便に得ることができる製造方法及び電子写真装置用ローラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、導電性支持体の外周の導電性弾性層上に塗工被覆層を有する導電性部材の製造方法において、該塗工液の主溶剤蒸発速度rと塗工環境風速wが、
20 ≦ rw ≦ 150
r:酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合の主溶剤蒸発速度
w:塗工環境風速(m/sec)
を満たし、その製造工程は、該塗工液へディップする浸漬工程と、該塗工液からの引き上げ時の初期速度を40mm/sec以下とする引き上げ工程とからなることを特徴とする導電性部材の製造方法により達成される。
【0012】
また、該目的は、前記主溶剤蒸発速度rは溶剤の温度管理により制御可能である導電性部材の上記製造方法により達成される。
【0013】
また、該目的は、該塗工被覆層が少なくとも一層からなる導電性部材の上記製造方法により達成される。
【0014】
また、該目的は、該塗工被覆層が、該導電性弾性層を少なくとも1回該塗工液に浸漬し、かつ、該弾性層の上昇速度を徐々に遅くしつつ引き上げて形成したものである導電性部材の上記製造方法により達成される。
【0015】
また、該目的は、該塗工被覆層の膜厚差が前記導電性部材の長手方向間で、3.0μm以下となる上記製造方法により形成されてなることを特徴とする電子写真装置用ローラにより達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、導電性部材の表面被覆層を浸漬塗工法により形成する際、導電性部材の特性、性能を悪化させることなく、ユズ肌が発生しない被覆層を備えた導電性部材を、極めて簡便に得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明は、導電性支持体の外周の導電性弾性層上に塗工被覆層を有する導電性部材の製造方法において、該塗工液の主溶剤蒸発速度rと塗工環境風速wが、
20 ≦ rw ≦ 150
r:酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合の主溶剤蒸発速度
w:塗工環境風速(m/sec)
を満たし、その製造工程は、該塗工液へディップする浸漬工程と、該塗工液からの引き上げ時の初期速度を40mm/sec以下とする引き上げ工程とからなることを特徴とする導電性部材の製造方法である。
【0019】
第一に、塗工被覆層を形成している瞬間の風速と溶剤蒸発速度に関して説明する。ディッピングにより導電性弾性層上に塗工被覆層が形成されている瞬間には、塗工液が導電性弾性層上に塗布されると共に溶媒である溶剤の蒸発が発生している。この溶剤の蒸発が発生している瞬間には、溶剤の蒸発により渦対流が塗膜内で発生している。溶剤の蒸発速度が速いほど塗膜内で発生する渦対流のエネルギーも大きくなり、このときの塗膜内の分散含有物は非常に不安定な状態にあり、外部からのエネルギーが加わることによって簡単に凝集、分離を起こしてしまう。この外部からのエネルギーとして最も影響を受けるものに「空気の流れ」、「風」が挙げられる。溶剤蒸発速度が速くなると風速の影響をより受けやすくなり、溶剤蒸発速度が遅いと風速の影響を受けにくくなる。
【0020】
本発明者らが、鋭意検討をおこなった結果、該塗工被覆層を形成している瞬間の位置近傍の風速と酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合の主溶剤蒸発速度の関係が、「20 ≦ rw ≦ 150」の範囲であれば風向きがどのような場合でも、導電性部材の特性、性能を悪化させることなく、ユズ肌が発生しない被覆層を備えた導電性部材を、極めて簡便に得ることが可能であることを見出した。rwが150を超える場合ではユズ肌が発生し、また、150を超えれば超えるだけユズ肌の発生は顕著に現れるようになった。ここでの、溶剤蒸発速度は、塗工時の溶剤の温度管理によっても制御することが可能である。すなわち、低温度で塗工をおこなうことによって溶剤蒸発速度を抑えることが可能であるため、蒸発速度の速い溶剤の使用も可能である。また、rwが20未満の場合、乾燥中に塗布膜がタレて発生する膜厚ムラが顕著に現れるようになってしまう。
【0021】
本発明の範囲内であれば、ローラの上下間の塗工膜の膜厚差は、3.0μm以下とする事が出来、精細な性状を要求される電子写真装置用ローラとしては適正なものを得る事ができる。また、塗工被覆層を形成している瞬間の位置近傍の風速とあるが、このときの近傍とは、特に限定されるものではないが、50mm以内の範囲で制御することが好ましい。塗工被覆層形成時のディップ管周りを完全に風の流れのない状況にすることは、製造環境上、また安全面からも好ましくない。
【0022】
第二に、塗工被覆層を形成するときのディップ引き上げ速度に関して説明する。ディップ引き上げ時にも、塗工液が導電性弾性層上に塗布されると共に溶媒である溶剤の蒸発が発生している。このときも同様に、少なからず溶剤の蒸発により渦対流が塗膜内で発生している。ディップ引き上げ時には、被覆層を形成していく導電性弾性層の移動により、相対的に「空気の流れ」を受けているのと同様の状態になる。
【0023】
本発明者らが、鋭意検討をおこなった結果、ディップ引き上げ速度が初期速度40mm/sec以下であれば、導電性部材の特性、性能を悪化させることなく、ユズ肌が発生しない被覆層を備えた導電性部材を、極めて簡便に得ることが可能であることを見出した。ディップ引き上げ速度が初期速度50mm/sec以上になると、この相対的な移動による「空気の流れ」が強くなりユズ肌が発生し、また、ディップ引き上げ速度を速くすると共にユズ肌の発生は顕著に現れるようになった。また、このディップ引き上げ速度は、特に限定されるものではないが、初期速度は10mm/sec以上であることが好ましい。これは、製造タクトや弾性層の膨順等の影響を考えると、初期速度10mm/sec以下のディップ引き上げ速度は好ましくない。
【0024】
また、上記「主溶剤蒸発速度と塗工環境風速の関係式」と「塗工被覆層を形成するときのディップ引き上げ速度」の両方を満足しない場合は、ユズ肌が発生する。
【0025】
本発明の製造方法で作製可能な電子写真装置用ローラについて以下に述べる。
【0026】
例えば、導電性部材(電子写真装置用ローラ)は図2に示すようにローラ形状であり、導電性支持体2aと被覆層として、その外周に一体に形成された弾性層2bから構成されている。
【0027】
本発明の製造方法で作製可能な他の導電性部材の構成を図3に示す。図3に示すように導電性部材は、被覆層が弾性層2bと表層2cからなる2層であってもよいし、弾性層2b及び抵抗層2dと表面層2cからなる3層及び、抵抗層2dと表面層2cの間に第2の抵抗層2eを設けた、4層以上を導電性支持体2a上に形成した構成としてもよい。
【0028】
本発明に用いられる導電性支持体2aは、鉄、銅、ステンレススチール、アルミニウム及びニッケル等の金属材料の丸棒を用いることができる。更に、これらの金属表面に防錆や耐傷性付与を目的としてメッキ処理を施しても構わないが、導電性を損なわないことが必要である。
【0029】
弾性層2bの導電性は、ゴム等の弾性材料中にカーボンブラック、グラファイト及び導電性金属酸化物等の電子伝導機構を有する導電剤及びアルカリ金属塩や四級アンモニウム塩等のイオン伝導機構を有する導電剤を適宜添加することにより1010Ωcm未満に調整されるのが好ましい。弾性層2bの具体的弾性材料としては、例えば、天然ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)及びクロロプレンゴム(CR)等の合成ゴム、更にはポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂及びシリコーン樹脂等も挙げられる。
【0030】
直流電圧のみ印加して、被帯電体の帯電処理を行う帯電部材においては、帯電均一性を達成するために、特に中抵抗の極性ゴム(例えば、エピクロルヒドリンゴム、NBR、CR及びウレタンゴム等)やポリウレタン樹脂を弾性材料として用いるのが好ましい。これらの極性ゴムやポリウレタン樹脂は、ゴムや樹脂中の水分や不純物がキャリアとなり、僅かではあるが導電性を持つと考えられ、これらの導電機構はイオン伝導であると考えられる。但し、これらの極性ゴムやポリウレタン樹脂に導電剤を全く添加しないで弾性層を作製し、得られた帯電部材は低温低湿環境(L/L)において、抵抗値が高くなり1010Ωcm以上となってしまうものもあるため帯電部材に高電圧を印加しなければならなくなる。
【0031】
そこで、L/L環境で帯電部材の抵抗値が1010Ωcm未満になるように、前述した電子導電機構を有する導電剤やイオン導電機構を有する導電剤を適宜添加して調整するのが好ましい。イオン導電機構を有する導電剤のほうが抵抗調整しやすく製法上好ましい。しかしながら、イオン導電機構を有する導電剤は抵抗値を低くする効果が小さく、特にL/L環境でその効果が小さい。そのため、イオン導電機構を有する導電剤の添加と併せて電子導電機構を有する導電剤を補助的に添加して抵抗調整を行ってもよい。
【0032】
抵抗層2d(e)は、弾性層に接した位置に形成されるため弾性層中に含有される軟化油や可塑剤等の帯電部材表面へのブリードアウトを防止する目的で設けたり、帯電部材全体の電気抵抗を調整したりする目的で設ける。
【0033】
塗工被覆層が複数層(抵抗層、表面層)であるときに、本発明に用いる抵抗層2d(e)を構成する材料としては、例えば、エピクロルヒドリンゴム、NBR、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、エチレン酢酸ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー及び塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。これらの材料は、単独又は2種類以上を混合してもよく、共重合体であってもよい。
【0034】
本発明に用いる抵抗層2d(2e)は、導電性もしくは半導電性を有している必要がある。導電性、半導電性の発現のためには、各種電子伝導機構を有する導電剤(導電性カーボン、グラファイト、導電性金属酸化物、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉等)あるいはイオン導電剤(アルカリ金属塩及びアンモニウム塩)を適宜用いることができる。この場合、所望の電気抵抗を得るためには、前記各種導電剤を2種以上併用してもよい。本発明の抵抗層2d(e)には、表面処理された無機微粒子及び導電剤を含有することが特に好ましく、表面層が抵抗層を兼ねる場合にも、表面処理された無機微粒子及び導電剤であることが好ましい。
【0035】
また、塗工被覆層が複数層(抵抗層、表面層)であるときの表面層2cは、帯電部材の表面を構成し、被帯電体である感光体と接触するため感光体を汚染してしまう材料構成であってはならない。
【0036】
本発明の特性を発揮させるための表面層2cの結着樹脂材料としては、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、スチレン−エチレン・ブチレン−オレフィン共重合体(SEBC)及びオレフィン−エチレン・ブチレン・オレフィン共重合体(CEBC)等が挙げられる。本発明における表面層の材料としては、特にはフッ素樹脂、アクリル樹脂及びシリコーン樹脂等の滑り性や離型性に優れたものが好ましい。
【0037】
また、これらの結着樹脂に、グラファイト、雲母、二硫化モリブデン及びフッ素樹脂粉末等の固体潤滑剤、あるいはフッ素系界面活性剤、ワックス又はシリコーンオイル等を添加してもよい。
【0038】
表面層には、各種導電剤(導電性カーボン、グラファイト、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉及び金属酸化物である導電性酸化錫や導電性酸化チタン等)を適宜用いる。本発明においては、所望の電気抵抗を得るためには、前記各種導電剤を2種以上併用してもよい。導電剤の粒径は平均粒径で1.0μm以下であることが好ましい。平均粒径が1.0μmを超えると感光ドラム上にピンホールが存在した場合、ピンホールリークが発生し易くなるため好ましくない。また、導電剤粒子の比重が重い場合は平均粒径が1.0μmを超えると塗料分散安定性が悪くなり、塗料中で沈降し易いので好ましくない。
【0039】
ここでいう平均粒径とは、10万倍の透過電子顕微鏡像から任意の一次粒子400個の粒子径を実測し、個数平均径を算出したものである。粒子径としては、粒子の長軸を測定し、長軸/短軸比が2以上の場合にはその平均値をもって測定値とし、これらの値から算出する。
【0040】
また、導電剤と結着樹脂の割合は質量比で0.1:1.0〜2.0〜1.0であることが好ましい。導電剤が0.1に満たないと、導電剤を含有させたことによる効果を得にくくなり、2.0を超えると、表面層の機械的強度が低下し、層がもろくなったり、硬度がアップし、柔軟性がなくなったりし易い。
【0041】
本発明の塗工被覆層に含有される無機微粒子としては、絶縁性無機微粒子が好ましく、例えば、酸化物、複酸化物、金属酸化物、金属、炭素、炭素化合物、フラーレン、ホウ素化合物、炭化物、窒化物、セラミックス及びカルコゲン化合物が挙げられる。本発明においては、前記各種無機微粒子を2種以上併用してもよい。また体積抵抗率が1×1010Ωcm以上の絶縁性無機微粒子を用いることが好ましい。
【0042】
導電剤の表面は、チタンカップリング剤あるいはアルコキシシランカップリング剤等のカップリング剤及びフルオロアルキルアルコキシシランカップリング剤などのカップリング剤(珪素、チタン、アルミニウム、ジルコニウムなど中心金属は特に選ばない)、またはオイル、ワニス、有機化合物等で処理されていてもよい。
【0043】
(表面層の塗工について)
表面層2cの作製方法としては、前記した各材料を1成分以上の有機溶剤中に添加し塗工液を調製する。この塗工液の粘度は1〜250mPasの範囲内にあることが好ましいが、粘度により膜厚が変化するため、特には5〜25mPasであることが好ましく、このとき得られる表面層2cの厚みは10〜30μmであることが好ましい。
【0044】
本発明に用いることのできる有機溶剤としては、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンのケトン類、キシレンなどの芳香族類、セロソルブ、メチルセロソルブなどのエーテル類が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0045】
塗工液の調製において粉砕工程を加える場合はボールミル、サンドミル、振動ミルなどを用いる。
【0046】
塗工にあたり、下部の芯金露出部には公知のマスキングキャップが利用可能である。
【0047】
塗工方法としては、浸漬塗工方法を使用する。弾性層の降下速度、塗工液中の停止時間は、塗工液の粘度、塗工時の温湿度、狙いの被覆層の厚さ等に応じて設定できる。また、引き上げ時の初期速度も同様に、塗工液の粘度、塗工時の温湿度、狙いの被覆層の厚さ等に応じて本発明を満足する範囲で調節することにより、被覆層の厚さを変化させることができる。
【0048】
次に、上記のような塗工方法で作製したウェット状態の被覆層2cを乾燥機に移す。乾燥機では、所定時間乾燥して溶剤成分を蒸発させることにより、被覆層2cが形成される。
【0049】
帯電部材以外の、現像剤担持部材等の被接触物を電気的にコントロールする導電性部材において、被覆層を形成する場合も、同様の考え方が適用されうる。また、さらには、従来技術で上述したAC帯電よりも使用可能条件が厳しいと考えられるDC帯電の帯電ローラに対して、適合するものであり、AC帯電への使用可能性が高いのはいうまでもない。
【0050】
以下に、具体的な実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は質量部を示す。
【実施例1】
【0051】
下記の要領で本発明の製造方法に従って導電性部材としての帯電ローラを作製した。
エピクロルヒドリンゴム 100部
四級アンモニウム塩 2部
炭酸カルシウム 45部
酸化亜鉛 5部
脂肪族ポリエステル系可塑剤 8部
ステアリン酸亜鉛 1部
カーボンブラック 5部
以上の材料を50℃に調節した密閉型ミキサーにて10分間混練して、原料コンパウンドを調整した。このコンパウンドに原料ゴムのエピクロルヒドリンゴム100部に対し加硫剤としての硫黄1部、加硫促進剤としてのノクセラーDM 1部及びノクセラーTS 0.5部を加え、20℃に冷却した2本ロール機にて10分間混練した。得られたコンパウンドをφ6mm、長さ252.5mmのステンレススチール製支持体の周囲にローラ状になるように押出成型機にて成型し、加熱加硫成型した後、ゴムの両端部を突っ切り、外径φ8.5mmになるように研磨処理して長さ230.0mm弾性層を得た。このときのクラウン量(中央部と中央部から90mmはなれた位置の外径の差)は110μmとした。
【0052】
上記弾性層の上に以下に示すような表層面を被覆形成した。表面層2cの材料として、
アクリルポリオール溶液(有効成分70質量%、希釈溶剤とし
てキシレン30質量%を含有) 100部
イソシアネートA(IPDI)(有効成分60質量%、希釈溶剤と
してn−酢酸ブチルを15質量%、キシレン25質量%を含有)
40部
イソシアネートB(HDI)(有効成分80質量%、希釈剤とし
て酢酸エチル20%を含有) 30部
カーボンブラック 30部
表面処理酸化チタン 25部
ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂粒子 50部
メチルイソブチルケトン(主溶剤) 400部
変性ジメチルシリコーンオイル 0.08部
をミキサーを用いて撹拌し、混合溶液を作製した。ついで、その混合溶液を循環式のビーズミル分散機を用いて分散処理(処理速度500ml/min)を行い、浸漬塗工用塗料を調製した。なお、この塗液の粘度は8.0mPas、液温は20.1℃であった。このとき、酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合、主溶剤であるメチルイソブチルケトンの蒸発速度は165.0であった。
【0053】
次に、図4に示すようにステンレススチール製支持体2aを前記塗工液の表面に対して鉛直状態に保持して、塗工液中に浸漬した。このとき、降下速度は15mm/sec、塗工液中に完全に浸漬した状態での停止時間は10secとした。該塗工被覆層を形成している瞬間の位置近傍の風速は、0.9m/secであった。したがって、rw=148.5であった。塗工被覆層形成時の引き上げ速度は、初期速度30mm/sec、最終速度は1mm/secになるように、時間に対して直線的に速度を変化させた。この際、図4に示すように下方のステンレススチール製支持体2aにポリアセタール製のマスキング用キャップ4aを被せ、下部の芯金に塗工液が付着することを防止した。
【0054】
10分間の風乾をした後、下方のステンレススチール製支持体2aに被せたポリアセタール製のマスキング用キャップ4aを取り外し、熱風乾燥機にて80℃で1時間乾燥させた後、更に160℃で1時間乾燥させ、表層面を被覆形成したローラ形状の帯電部材を得た。
【0055】
<ユズ肌の目視検査>
次に、以上のようにして得られた帯電部材の目視によるユズ肌の発生状況を確認した。結果を表1に示す。
【0056】
表中の○、△、×は、実際に目視で表層面を観察した際のユズ肌の発生状況を3段階にランク分けしたものである。なお、○はユズ肌が無いレベル、△はユズ肌が軽微に発生しているレベル、×はユズ肌が発生しているレベルにあるものとした。
【0057】
<帯電ローラに直流電圧のみを印加したときの連続複数枚数画像出し耐久試験>
以上のようにして得られた帯電部材をプリンターに装着し、温度23℃、湿度55%雰囲気下において、連続複数枚数画像出し耐久試験を行った。初期と15000枚においてモノカラーハーフトーン印刷を行った。得られた画像を目視にて観察して評価を行った。結果を表1に示す。
【0058】
表中のA、B、C、D、Eは、発生したユズ肌に起因する画像白ポチ(外添剤等の汚れ付着)もしくは画像濃度ムラの発生について画像品質を5段階にランク分けしたものである。なお、Aを画像白ポチもしくは画像濃度ムラが全くないレベルとし、Bまでを良しとした。C、Dは、製品としては見劣りする画像問題部を多少とも有するものであるため、NGとした。更にEは画像白ポチもしくは画像濃度ムラが目立つため、不良レベルとした。
【0059】
<ローラ上下膜厚差測定>
塗工時のローラ上端部から20mmの位置と下端部から20mmの位置での膜厚を測定した。その結果を、表2に示す。
【0060】
上下膜厚差の判定基準としては上下の膜厚差が3.0μmを超えるものをNGレベルとした。
【0061】
上下膜厚差が3.0μmを超えると、耐久時に片方の端部にのみ汚れが付着しやすくなり、画像上に濃度ムラや画像白ポチが発生してしまう。
【実施例2】
【0062】
実施例1において、主溶剤のメチルイソブチルケトンの変わりにシクロヘキサノンを使用し、該塗工被覆層を形成している瞬間の位置近傍の風速を、3.0m/secにし、他は実施例1と同様にして帯電部材を得た。なお、この塗液の粘度は7.8mPas、液温は20.0℃であった。このとき、酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合、主溶剤であるシクロヘキサノンの蒸発速度は23.0であった。したがって、rw=69.0であった。
【0063】
この帯電部材について実施例1と同様にして、ユズ肌の目視検査、画像耐久試験、膜厚差測定を行い、その結果を表1、2に示した。
【実施例3】
【0064】
実施例1において、主溶剤のメチルイソブチルケトンの変わりにメチルエチルケトンを使用し、該塗工被覆層を形成している瞬間の位置近傍の風速を、0.04m/secにし、他は実施例1と同様にして帯電部材を得た。なお、この塗液の粘度は8.1mPas、液温は20.2℃であった。このとき、酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合、主溶剤であるメチルエチルケトンの蒸発速度は572.0であった。したがって、rw=22.9であった。
【0065】
この帯電部材について実施例1と同様にして、ユズ肌の目視検査、画像耐久試験、膜厚差測定を行い、その結果を表1、2に示した。
【実施例4】
【0066】
実施例1において、塗工被覆層形成時の引き上げ速度を、初期速度40mm/sec、最終速度は1mm/secになるように、時間に対して直線的に速度を変化させた。他は実施例1と同様にして帯電部材を得た。このとき、酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合、主溶剤であるメチルイソブチルケトンの蒸発速度は165.0であった。したがって、rw=148.5であった。
【0067】
この帯電部材について実施例1と同様にして、ユズ肌の目視検査、画像耐久試験、膜厚差測定を行い、その結果を表1、2に示した。
(比較例1)
実施例1において、該塗工被覆層を形成している瞬間の位置近傍の風速を、1.0m/secにし、他は実施例1と同様にして帯電部材を得た。このとき、酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合、主溶剤であるメチルイソブチルケトンの蒸発速度は165.0であった。したがって、rw=165.0であった。
【0068】
この帯電部材について実施例1と同様にして、ユズ肌の目視検査、画像耐久試験、膜厚差測定を行い、その結果を表1、2に示した。
(比較例2)
実施例2において、該塗工被覆層を形成している瞬間の位置近傍の風速を、0.8m/secにし、他は実施例2と同様にして帯電部材を得た。このとき、酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合、主溶剤であるシクロヘキサノンの蒸発速度は23.0であった。したがって、rw=18.4であった。
【0069】
この帯電部材について実施例1と同様にして、ユズ肌の目視検査、画像耐久試験、膜厚差測定を行い、その結果を表1、2に示した。
(比較例3)
実施例1において、塗工被覆層形成時の引き上げ速度は、初期速度50mm/sec、最終速度は1mm/secになるように、時間に対して直線的に速度を変化させた。他は実施例1と同様にして帯電部材を得た。このとき、酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合、主溶剤であるメチルイソブチルケトンの蒸発速度は165.0であった。したがって、rw=148.5であった。
【0070】
この帯電部材について実施例1と同様にして、ユズ肌の目視検査、画像耐久試験、膜厚差測定を行い、その結果を表1、2に示した。
(比較例4)
比較例1において、塗工被覆層形成時の引き上げ速度は、初期速度50mm/sec、最終速度は1mm/secになるように、時間に対して直線的に速度を変化させた。他は比較例1と同様にして帯電部材を得た。このとき、酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合、主溶剤であるメチルイソブチルケトンの蒸発速度は165.0であった。したがって、rw=165.0であった。
【0071】
この帯電部材について実施例1と同様にして、ユズ肌の目視検査、画像耐久試験、膜厚差測定を行い、その結果を表1、2に示した。
(比較例5)
比較例2において、塗工被覆層形成時の引き上げ速度は、初期速度50mm/sec、最終速度は1mm/secになるように、時間に対して直線的に速度を変化させた。他は比較例2と同様にして帯電部材を得た。このとき、酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合、主溶剤であるシクロヘキサノンの蒸発速度は23.0であった。したがって、rw=18.4であった。
この帯電部材について実施例1と同様にして、ユズ肌の目視検査、画像耐久試験、膜厚差測定を行い、その結果を表1、2に示した。
【0072】
【表1】

【0073】
塗工時のローラ上端部から20mmの位置と下端部から20mmの位置での膜厚を測定した。その結果を、表2に示す。
【0074】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、導電性部材の特性、性能を悪化させることなく、ユズ肌が発生しない被覆層を備えた導電性部材が得られる。そのものは画像形成装置において大いに利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】一般的な塗工系の導電性部材の概略図である。
【図2】本発明の製造方法で作製可能な導電性部材の層構成を示す概略図である。
【図3】本発明の製造方法で作製可能な別の導電性部材の層構成を示す概略図である。
【図4】本発明の製造方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 帯電ローラ
1a 導電性支持体
1b 導電性弾性層
1c 塗工被覆層
2a 導電性支持体
2b 導電性弾性層
2c 表層
2d 第1の抵抗層
2e 第2の抵抗層
4a マスキング用キャップ
7 塗工液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体の外周の導電性弾性層上に塗工被覆層を有する導電性部材の製造方法において、塗工液の主溶剤蒸発速度rと塗工環境風速wが、
20 ≦ rw ≦ 150
r:酢酸エチルの蒸発速度を100.0とした場合の主溶剤蒸発速度
w:塗工環境風速(m/sec)
を満たし、その製造工程は、該塗工液へディップする浸漬工程と、該塗工液からの引き上げ時の初期速度を40mm/sec以下とする引き上げ工程とからなることを特徴とする導電性部材の製造方法。
【請求項2】
前記主溶剤蒸発速度rは溶剤の温度管理により制御可能である請求項1に記載の導電性部材の製造方法。
【請求項3】
該塗工被覆層が少なくとも一層からなる請求項1〜2のいずれかに記載の導電性部材の製造方法。
【請求項4】
該塗工被覆層が、該導電性弾性層を少なくとも1回該塗工液に浸漬し、かつ、該弾性層の上昇速度を徐々に遅くしつつ引き上げて形成したものである請求項1〜3のいずれかに記載の導電性部材の製造方法。
【請求項5】
該塗工被覆層の膜厚差が前記導電性部材の長手方向間で、3.0μm以下となる請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により形成されてなることを特徴とする電子写真装置用ローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−227501(P2006−227501A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44048(P2005−44048)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】