説明

導電性高分子膜、電極基板およびスイッチ

【課題】入力荷重などの感圧特性の点で優れた導電性高分子膜およびスイッチを提供する。
【解決手段】ポリスチレンスルホン酸を含む導電性高分子と、親水性微粒子13とを含む導電性高分子膜12。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の入力デバイスとして用いられるタッチパネルなどに応用できるスイッチ、これに用いられる導電性高分子膜および電極基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材表面に導電膜が形成された2つの電極基板を備え、基材を押圧することによって導電膜どうしが接触して電気的導通がなされるスイッチが用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
前記導電膜には、カーボンのほか、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンなどの導電性高分子が用いられることがある。
【特許文献1】特表2005−528740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のスイッチでは、導電膜に導電性高分子を使用すると、導電膜の表面抵抗値が高くなり、その結果、感圧特性、例えば入力に必要な荷重(入力荷重)、応答速度などの点で十分な値が得られなくなることがあった。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、入力荷重などの感圧特性の点で優れた導電性高分子膜、電極基板およびスイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の請求項1にかかる導電性高分子膜は、ポリスチレンスルホン酸を含む導電性高分子と、親水性微粒子とを含むことを特徴とする。
本発明の請求項2にかかる導電性高分子膜は、請求項1において、前記親水性微粒子の平均粒径が、40nm以下であることを特徴とする。
本発明の請求項3にかかる導電性高分子膜は、請求項1において、前記親水性微粒子の配合量が、前記導電性高分子に対して、0.5〜5wt%であることを特徴とする。
本発明の請求項4にかかる導電性高分子膜は、請求項1において、前記導電性高分子が、ポリチオフェン系高分子であることを特徴とする。
【0005】
本発明の請求項5にかかる電極基板は、請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の導電性高分子膜を、絶縁性基材表面に形成したことを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項6にかかるスイッチは、基材表面に導電膜が形成された2つの電極基板が、前記導電膜が対向するように配置され、前記基材を押圧することによって前記導電膜どうしが接触して電気的導通がなされるスイッチにおいて、前記導電膜の少なくとも一方が、請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の導電性高分子膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性高分子膜は、ポリスチレンスルホン酸(以下、PSSという)を含む導電性高分子と、親水性微粒子を含んでいるので、表面抵抗値が高くならず、入力に必要な荷重(入力荷重)が大きくなることがない。また、応答速度が低下するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1〜図3は、本発明にかかる導電性高分子膜の一例を用いたスイッチであるタッチパネルを示すものである。
図3は、タッチパネルの主な構成部品を厚み方向に分解して示した斜視図である。図2は、図3のα−α’における断面図である。図1は、このタッチパネルに使用された電極基板の断面図である。図4は、タッチパネルの動作原理を説明する説明図である。
【0009】
図1に示すように、電極基板1は、基材11と、その表面に形成された導電膜12(導電性高分子膜)を備えている。
基材11の構成材料としては、合成樹脂材料、ガラスなどを挙げることができるが、軽量性および耐久性を考慮すると、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエーテルスルフォンなどの合成樹脂材料が好ましい。特に、透明な材料を使用することが好ましい。
基材11の構成材料としては、絶縁性材料が好ましい。
図2に示すタッチパネル10では、押圧により導電膜12どうしを接触させることが必要となるため、少なくとも一方の基材11は、可撓性を有する材料からなる。
基材11は、フィルム状、シート状、板状などとすることができる。
基材11の厚さは、100〜250μm、好ましくは120〜190μmが好適である。これによって、機械的強度を高めるとともに、十分な柔軟性を得ることができる。
【0010】
導電膜12は、ポリスチレンスルホン酸(以下、PSSという)を含む導電性高分子と、親水性微粒子13とを含む。
導電性高分子としては、PSSを含むポリチオフェン系高分子が好ましい。なお、ポリチオフェン系高分子に代えて、ポリピロール系高分子、ポリアニリン系高分子も使用できるが、導電膜12の感圧特性を改善する効果の点で、ポリチオフェン系高分子の使用が好ましい。
ポリチオフェン系高分子としては、例えば、式(1)に示すものを挙げることができる。
【0011】
【化1】

【0012】
式(1)において、基R、Rは、それぞれ互いに独立に選択することができ、選択肢としては、水素原子;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子;シアノ基;メチル、エチル、プロピル、ブチル(n−ブチル)、ペンチル(n−ペンチル)、ヘキシル、オクチル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシルなどの直鎖アルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル、ネオペンチルなどの分枝のあるアルキル基;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシなどの直鎖もしくは分枝のあるアルコキシ基;ビニル、プロペニル、アリル、ブテニル、オレイルなどのアルケニル基、エチニル、プロピニル、ブチニルなどのアルキニル基;メトキシメチル、2−メトキシエチル、2−エトキシエチル、3−エトキシプロピルなどのアルコキシアルキル基;CO(CHCHO)CHCH基(mは1以上の整数)、CHO(CHCHO)CHCH基(mは1以上の整数)などのポリエーテル基;フルオロメチル基等、前記置換基のフッ素等のハロゲン置換誘導体等が例示される。
導電性高分子は、主鎖にπ−共役結合を含むものが好ましい。
導電性高分子としては、光透過性に優れた材料が好ましい。
【0013】
ポリチオフェン系高分子としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下、PEDOTという)が好ましく、前記導電性高分子としては、PEDOTをPSSでドーピングしたPEDOT−PSSが好ましい。
【0014】
PEDOT−PSSからなる導電膜は、例えば次のようにして作製できる。
3,4−エチレンジオキシチオフェンモノマーにFe(III)トリス−p−トルエンスルフォネート溶液、イミダゾールの1−ブタノール溶液を加え、これを基材表面に塗布し、加熱し乾燥した後、メタノール中でリンスしFe(II)ビス−p−トルエンスルフォネートを除去する。
【0015】
ポリチオフェン系高分子を用いた導電性高分子として使用可能な市販品としては、スタルクヴィテック株式会社製Baytron P、長瀬産業株式会社製Denatron、アグファゲバルト社製Orgaconを挙げることができる。
【0016】
導電膜12に含まれる親水性微粒子13の構成材料としては、水酸基、カルボキシル基などの親水基を表面に有する樹脂材料、酸化チタン、シリカなどを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2以上を併用してもよい。
親水性微粒子13は、粒径が大きすぎると、配合量に対して表面積が小さくなるため、導電膜12の感圧特性を改善する効果が低くなる。
このため、親水性微粒子13の平均粒径は、40nm以下が好ましい。平均粒径をこの範囲にすることによって、入力荷重などの感圧特性を良好にすることができる。平均粒径は、例えば1〜40nmとすることができる。
【0017】
親水性微粒子13の配合量は、少なすぎれば導電膜12の感圧特性を改善する効果が低くなり、多すぎればリニアリティや光透過性が不十分になりやすい。
このため、配合量は、導電性高分子に対して0.5〜5wt%が好ましい。
親水性微粒子13の配合量をこの範囲とすることによって、導電膜12の入力荷重などの感圧特性を良好にするとともに、優れたリニアリティや光透過性が得られる。
【0018】
導電膜12は、薄く形成するほど光の透過性を高めることができるが、薄すぎる場合にはリニアリティや導電性が劣化する。
このため、導電膜12の厚さは、100〜300nmの範囲が好適である。
【0019】
導電膜12の形成は、例えば、導電性高分子を含む原料液をグラビアコートにより基材11に塗布することにより行うことができる。導電膜12の形成方法としては、ロールコート、ディップコート、スピンコート、バーコート、スプレーコート、印刷等も可能である。
【0020】
図2に示すように、タッチパネル10は、2枚の電極基板1、すなわち第1の電極基板(以下、「上部電極」という場合がある。)1A、および第2の電極基板(以下、「下部電極」という場合がある。)1Bが用いられている。
上部電極1A、下部電極1Bは、導電膜12どうしが対向するように、スペーサ3及びオーバーレジスト4を挟んで配置されている。
タッチパネル10では、例えば、上部電極1A用の基材11Aとして、可撓性の樹脂フィルムを使用し、下部電極1B用の基材11Bとして、剛性の高いガラスや樹脂の板材を使用することができる。
なお、導電膜12、12は、両方が前記導電性高分子を含む膜であることが好ましいが、いずれか一方でもよい。
【0021】
図2および図3に示すように、上部電極1Aと下部電極1Bの対向する面には、それぞれ引き回し線2A,2Bを設けることができる。引き回し線2A,2Bは、互いに直交する位置関係に設けられている。
【0022】
上部電極1Aと下部電極1Bのうちいずれか一方の対向面(図では下部電極1Bの導電膜12)には、複数のドットスペーサ5を設けることができる。
ドットスペーサ5は、上部電極1Aが自重により内側に撓み、下部電極1Bに接触してしまうような誤動作を回避するためのもので、半球状、円錐状、円柱状などの突起であり、導電膜12表面に間隔をおいて形成されている。ドットスペーサ5の材料としては、たとえば、アクリル系樹脂などの透明性を有する絶縁性材料が挙げられる。
【0023】
スペーサ3は、押圧力が加えられていないときに上部電極1Aと下部電極1Bとを互いに離間した状態とするもので、例えば、アクリル系粘着剤を用いることができる。
オーバーレジスト4は、上部電極1Aまたは下部電極1Bとスペーサ3との間の接着強度を高めるもので、例えば、熱硬化性ポリエステル樹脂を用いることができる。
【0024】
タッチパネル10は、例えば、上部電極1A側の基材11Aを指やペンを用いて押圧することで、上部電極1Aが下方に撓んで、導電膜12が、下部電極1Bの導電膜12に接触し、電気的に導通する。
押圧を停止すると、基材11Aの弾性により導電膜12、12は離れる。
【0025】
図4に示すように、押圧により導電膜12、12が接触した点(接触点)の位置は、この接触点の電位から検出することができる。
すなわち、引き回し線間2A、2A間に所定の電位差を与えておき、接触点の電位を測定することによって接触点のX方向の位置(X座標)を検出することができる。
また、引き回し線間2B、2B間に所定の電位差を与え、接触点の電位を測定することによって接触点のY方向の位置(Y座標)を検出することができる。
【0026】
導電膜12は、PSSを含む導電性高分子(例えばPEDOT−PSS)と、親水性微粒子13を含んでいるので、導電膜12の表面抵抗値が高くならず、入力に必要な荷重(入力荷重)が大きくなることがない。また、応答速度が低下するのを防ぐことができる。
【実施例】
【0027】
〔実施例1〕
図1〜図3に示すタッチパネル10を次のようにして作製した。
酸化チタンからなる微粒子(平均粒径40μm)の表面を水酸化アルミニウムで処理し、親水性微粒子13を得た。
この親水性微粒子13をPEDOT−PSS溶液(スタルクヴィテック株式会社製Baytron P)に配合した原料液を用意した。親水性微粒子13の配合量は、PEDOT−PSSに対して1wt%とした。
矩形状のPETフィルム(長さ15cm、幅15cm、厚さ188μm)からなる基材11に、前記原料液をグラビアコーターで塗布し、100℃で3分間乾燥させることによって、表面抵抗値500Ω/□の導電膜12を形成し、電極基板1を得た。この電極基板1を用いてタッチパネル10を作製した。
【0028】
〔実施例2〜5〕
親水性微粒子13の配合量を表1に示すとおりとすること以外は実施例1と同様にしてタッチパネル10を作製した。
【0029】
〔比較例1〕
親水性微粒子13を添加しないこと以外は実施例1と同様にしてタッチパネルを作製した。
実施例および比較例のタッチパネルを次に示す試験に供した。
【0030】
(リニアリティ)
引き回し線2A,2Aに電圧を印加して電位分布を測定した。測定点の数は10×10=100とした。
図5に示すように、前記検出電極により検出した接触点の位置(XY座標)との誤差(すなわち電圧の理論値と実測値との差)に基づいて、次の式によりリニアリティを算出した。
リニアリティ(%)=ΔE/E・100
結果を表1に示す。リニアリティは3%以下であることが望ましい。
【0031】
(入力荷重)
先端が半球状に形成された押圧部材(シリコンラバー製、先端部分の曲率半径7mm)を備えた測定装置を用いて、上部電極1Aの基材11Aの中央部を、前記押圧部材で押圧し導電膜12,12を接触させ、電気的導通が得られた時点の荷重を測定した。
結果を表1に示す。一般的には入力荷重は80g以下が好ましいとされている。
【0032】
(ヘイズ率)
JIS K7105に準じて測定を行った。結果を表1に示す。
【0033】
(光透過率)
タッチパネル10の裏面側にLEDを配置し、タッチパネル10を透過した光の強度を検出し、光透過率を算出した。光透過率は、導電膜12の厚さに応じた値となる。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1より、親水性微粒子を添加しない比較例に比べ、実施例では、入力荷重を低くできたことがわかる。特に、親水性微粒子の配合量を5wt%以下とした実施例は、リニアリティ、光透過率、ヘイズ率の点で良好な値が得られた。
また、親水性微粒子の配合量を0.5wt%以上とした実施例では、入力荷重を低くすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の導電性高分子膜は、優れた感圧特性を有するので、タッチパネルに適用できる。このほか、液晶表示装置、EL表示装置等などの各種電子デバイスにも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明にかかる導電性高分子膜の一例を用いた電極基板を示す断面図である。
【図2】図1に示す電極基板を用いたタッチパネルを示す断面図である。
【図3】図2に示すタッチパネルの主な構成部品を厚み方向に分解して示した斜視図である。
【図4】タッチパネルの動作原理を説明する説明図である。
【図5】リニアリティの概念を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1…電極基板、10…タッチパネル、11、11A、11B…基材、12…導電膜(導電性高分子膜)、13…親水性微粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレンスルホン酸を含む導電性高分子と、親水性微粒子とを含むことを特徴とする導電性高分子膜。
【請求項2】
前記親水性微粒子の平均粒径は、40nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子膜。
【請求項3】
前記親水性微粒子の配合量は、前記導電性高分子に対して、0.5〜5wt%であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子膜。
【請求項4】
前記導電性高分子は、ポリチオフェン系高分子であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子膜。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の導電性高分子膜を、絶縁性基材表面に形成したことを特徴とする電極基板。
【請求項6】
基材表面に導電膜が形成された2つの電極基板が、前記導電膜が対向するように配置され、前記基材を押圧することによって前記導電膜どうしが接触して電気的導通がなされるスイッチにおいて、
前記導電膜の少なくとも一方は、請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の導電性高分子膜であることを特徴とするスイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−321131(P2007−321131A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156468(P2006−156468)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】