説明

導電膜形成用材料およびこれを用いた導電膜の形成方法

【課題】低温加熱(例えば300℃以下)によって良好な導電膜を形成可能な導電膜形成用材料、ならびに、これを用いた導電膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】ギ酸銀および炭素数1〜10の脂肪酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀塩と、アミン化合物と、該銀塩および該アミン化合物が可溶な有機溶媒と、を含有する導電膜形成用材料を、基材上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を300℃以下の温度で処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜形成用材料およびこれを用いた導電膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や電子機器の軽薄短小化に伴って、絶縁基材上に回路や配線として形成される導電膜には、低抵抗化に加え、生産性や作業性の更なる向上が求められている。
【0003】
従来、絶縁性基材上に導電膜を形成する方法としては、基材と金属原料を真空下、高電圧を印加して積層するスパッタ法や蒸着法に代表されるドライプロセスや、金属前駆体と還元剤を併用して被着体表面に溶液中で金属膜を形成する無電解めっきプロセス、さらには銀に代表される金属粉末を熱可塑性樹脂および有機溶媒等に分散したペースト材を基材上に塗布した後、加熱焼成して有機物を揮散させる加熱焼成プロセス等が適用されている。しかしながら、ドライプロセスでは高真空状態が必要となるために専用の設備が必要である。また、処理可能なサイズの制約や生産性の点で懸念が残ること、無電解めっきプロセスでは脱脂、洗浄、エッチング、めっき後の洗浄、乾燥等の複数の処理工程が必要となること、加熱焼成プロセスでは高温加熱が必須となるため、プラスチックフィルム等の基材には適用できない、等の課題がある。
【0004】
近時、導電膜を低温で形成する方法として、銀に代表される導電性金属のナノ粒子を分散したペーストが提案されている。金属粒子径をナノメートルのサイズにすることで表面エネルギーが増大し、ミクロンサイズでは観測されなかった低融点化や低温焼結性が発現することを利用した技術で、4〜30nmの銀ナノ粒子を有機溶剤に分散させたペーストを基材上に塗布し、150℃〜250℃の温度で焼結させて導電性金属薄膜を形成した例が報告されている(例えば、特許文献1、2、非特許文献1を参照)。
【0005】
しかしながら、ナノ粒子固有の高表面エネルギーのためにペースト状態での分散安定性に劣ることや、製造コストが高いことが実用化の足枷となっている。
【0006】
また、ホスフィン系配位子やアセチレン系配位子を配位させた金属錯体を有機溶媒中に均一に溶解させたペーストを基材上に塗布後、加熱して有機溶媒および配位子を揮発させ、金属薄膜を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法では、ナノ粒子を用いた場合の分散安定性の懸念は無いものの、配位子の低揮発性とともに金属錯体の安定性を優先したため、300〜400℃の加熱処理が必要となり、ポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート等の非耐熱性基材には適用できないことが分かっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−183072号公報
【特許文献2】特開2009−30170号公報
【特許文献3】特開2001−240981号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】中許 昌美、エレクトロニクス実装学会誌、9巻、7号、533〜537頁(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、低温加熱(例えば300℃以下)によって良好な導電膜を形成可能な導電膜形成用材料、ならびに、これを用いた導電膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、下記[1]〜[4]に記載の導電膜形成用材料および下記[5]に記載の導電膜の形成方法を提供する。
[1]ギ酸銀および炭素数1〜10の脂肪酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀塩と、アミン化合物と、該銀塩および該アミン化合物を可溶な有機溶媒と、を含有する導電膜形成用材料。
[2]下記一般式(1):
【化1】


[式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1〜10の直鎖アルキル基または炭素数3〜10の分岐鎖状アルキル基を示し、R、RおよびRは各々独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状アルキル基、炭素数3〜10の分岐鎖状アルキル基、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基、フェニル基、ベンジル基またはピリジル基を示す。]
で表される銀錯体と、該銀錯体を可溶な有機溶媒と、を含有する導電膜形成用材料。
[3]上記有機溶媒の沸点が35〜300℃である、[1]または[2]に記載の導電膜形成用材料。
[4]上記有機溶媒が、アルコール、N−メチルピロリジノン、ケトン、環状ケトン、エーテル、環状エーテル、カルボン酸エステル、ニトリル、ジメチルスルホキキシドおよびジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも1種類の有機溶媒を含む、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の導電膜形成用材料。
[5][1]〜[4]のいずれか一項に記載の導電膜形成用材料を基材上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を300℃以下の温度で処理する工程を備える、導電膜の形成方法。
【発明の効果】
【0011】
以上の通り、本発明によれば、低温加熱(例えば300℃以下)によって良好な導電膜を形成可能な導電膜形成用材料、ならびに、これを用いた導電膜の形成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ポリカーボネート板(実施例1)および青板ガラス(実施例2)上に形成した積層膜のX線回折測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る導電膜形成用材料は、ギ酸銀および炭素数1〜10の脂肪酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀塩と、アミン化合物と、前記銀塩および前記アミン化合物を可溶な有機溶媒と、を含有する。
【0015】
銀塩を構成する酸が炭素数1〜10の脂肪酸である場合、当該脂肪酸は直鎖脂肪酸または分岐脂肪酸のいずれであってもよい。
【0016】
銀塩を構成する酸としては、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、分岐したアルキル基を持つカルボン酸類は2−メチルペンタン酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2,2−ジメチルブタン酸、2,3−ジメチルブタン酸、3,3−ジメチルブタン酸、2−エチルブタン酸などが挙げられる。これらの酸の中でも、合成の容易さや安定性の観点から、ギ酸および直鎖脂肪酸が好ましい。
【0017】
第1実施形態においては、銀塩として、1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
また、第1実施形態においては、銀塩として市販品を用いてもよく、あるいは定法に従い合成して得られる銀塩を用いてもよい。銀塩の合成法としては、例えば、エタノール等の有機溶媒中に、銀の供給源となる銀化合物(例えば酢酸銀)と、そのモル当量に対して等量のギ酸または炭素数1〜10の脂肪酸とを加え、所定の時間超音波撹拌し、ギ酸または炭素数1〜10の脂肪酸と酢酸銀が反応して生成した沈殿物をエタノールで洗浄してデカンテーションする方法が挙げられる。これらの合成工程は全て室温で行うことができる。銀化合物とギ酸または炭素数1〜10の脂肪酸との混合比は、モル比で1:2〜2:1の範囲内であることが好ましい、等倍がより好ましい。これよりも銀化合物の量が少ないと、未反応のカルボン酸類が溶媒中に残り不経済なだけでなく、未反応のカルボン酸類を除去する洗浄回数が多くなる。また、これよりも銀化合物の量が多いと、反応物の収率が低下するだけでなく、アミン類を添加したとき不溶性の銀化合物が残る場合がある。
【0019】
第1実施形態における銀塩としては、合成の容易さや反応性及び安定性の観点から、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸およびイソ酪酸が好ましい。
【0020】
また、アミン化合物としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
また、直鎖のアルキル基を有するアミン化合物として、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、エチルプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、エチルブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、オクチルアミン等が挙げられる。
また、分岐アルキル基を有するアミン化合物として、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、エチルイソプロピルアミン、イソブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−tert−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、イソプロピルブチルアミン等が挙げられる。
また、脂環式環を有するアミン化合物として、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ヒドロキシアルキル基を持つエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、芳香族環を持つベンジルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、フェニルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、N,N−ジメチルアニリン、窒素を含む芳香族環を持つN,N−ジメチル−p−トルイジン、4−アミノピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
【0021】
第1実施形態においては、アミン化合物として、1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、第1実施形態においては、アミン化合物として市販品を用いてもよく、あるいは定法に従い合成して得られるアミン化合物を用いてもよい。
【0023】
第1実施形態におけるアミン塩としては、前記銀塩との錯形成錯形成における反応性の観点から、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミンが好ましい。
【0024】
第1実施形態に係る導電膜形成用材料において、アミン化合物は、銀塩と反応して銀錯体を形成し得る。銀錯体の形成方法としては、例えば、上記の銀塩とアミン化合物とを有機溶媒に加え、所定時間超音波撹拌する方法が挙げられる。この合成工程は室温で行うことができる。当該反応を十分に進行させる観点から、アミン化合物の含有量は、銀塩のモル量の1.5倍〜15倍量が好ましく、2倍〜5倍量が特に好ましい。アミン化合物の含有量が上記下限値未満であると、反応が未完結になり、透明溶液が得られない。また、アミン化合物の含有量が上記の上限値を超えると、反応に関与しないアミン類が多く含まれ、不経済だけでなく塗布時の濡れ性が低下する場合や熱処理時に有機成分が残る場合がある。
【0025】
このような銀錯体を含有する溶液組成物(導電膜形成用材料)は、予め合成して保管できる。また、銀塩とアミン化合物との反応による銀錯体の形成は速やかに進行するため、導電膜形成用材料を使用する直前に、銀塩とアミン化合物とを溶液中で混合することによって、銀錯体を含有する溶液組成物を容易に得ることができる。
【0026】
第1実施形態において用いる有機溶媒は、上記の銀塩およびアミン化合物あるいはこれらの反応によって形成される銀錯体を可溶なものであれば、特に制限されないが、合成反応の容易さに加え、加熱時の揮発性の観点から、沸点が35〜300℃の有機溶媒が好ましい。
【0027】
有機溶媒としては、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、N−メチルピロリジノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキキシド、ジメチルホルムアミドが挙げられる。特に、この中でも、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、アセトンが好ましい。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、あるいは2種類以上を混合して用いても良い。
【0028】
有機溶媒の使用量は、銀錯体に対する銀イオンの濃度(銀錯体1gに対して遊離イオンとして存在する銀の量)が、好ましくは0.01mmol/g〜3.6mmol/g、より好ましくは0.05mmol/g〜2mmol/gとなるように選定することが好ましい。銀イオン濃度が3.6mmol/gを超えると、溶液組成物中の殆どが銀錯体となるため合成が困難になるだけでなく、使用時に希釈が必要になるためハンドリング性が低下する。使用量が0.01mmol/g以下であれば、溶液組成物中の銀錯体の濃度低くなるため目的の膜厚の導電膜が得られない場合がある。この場合、重ね塗り作業が必要となり製造工程が多くなる。また、使用する溶媒の量が多くなるため不経済となる。
【0029】
第1実施形態に係る導電膜形成用材料は、上記の銀塩、アミン化合物および有機溶媒からなるものであってもよいが、必要に応じて、シランカップリング剤に代表される密着付与剤、充填剤等をさらに含有してもよい。
【0030】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る導電膜形成用材料は、下記一般式(1):
【化2】


[式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1〜10の直鎖アルキル基または炭素数3〜10の分岐鎖状アルキル基を示し、R、RおよびRは各々独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状アルキル基、炭素数3〜10の分岐鎖状アルキル基、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基、フェニル基、ベンジル基またはピリジル基を示す。]
で表される銀錯体と、前記銀錯体を可溶な有機溶媒と、を含有する。
【0031】
なお、第2実施形態には、第1実施形態における、銀塩とアミン化合物との反応により形成した銀錯体を含有する溶液の他、予め調製した一般式(1)で表される銀錯体を有機溶媒に溶解した溶液が包含される
【0032】
第2実施形態で用いる銀錯体は、一般式(1)で表されるように、RCOOAgで表される銀塩の銀原子に、NRで表されるアミン化合物(アミンまたはその誘導体)が配位した構造を有する。
【0033】
COOAgで表される銀塩としては、具体的には、ギ酸銀、酢酸銀、プロピオン酸銀、酪酸銀、イソ酪酸銀、吉草酸銀、イソ吉草酸銀、ピバル酸銀、ヒドロアンゲリカ酸銀、カプロン酸銀、エナント酸銀、カプリル酸銀、ペラルゴン酸銀、カプリン酸銀、ウンデカン酸銀、2−メチルペンタン酸銀、3−メチルペンタン酸銀、4−メチルペンタン酸銀、2,2−ジメチルブタン酸銀、2,3−ジメチルブタン酸銀、3,3−ジメチルブタン酸銀、2−エチルブタン酸銀などが挙げられる。これらの銀塩の中でも、合成の容易さや安定性の観点から、ギ酸銀および直鎖脂肪酸銀が好ましい。
【0034】
第2実施形態においては、合成の容易さや安定性に加え反応性の観点から、RCOOAgで表される銀塩として、ギ酸銀、酢酸銀、プロピオン酸銀、酪酸銀およびイソ酪酸から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。
【0035】
また、NRで表されるアミン化合物としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
また、直鎖のアルキル基を有するアミン化合物として、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、エチルプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、エチルブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、オクチルアミン等が挙げられる。
また、分岐アルキル基を有するアミン化合物として、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、エチルイソプロピルアミン、イソブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−tert−ブチルアミン、トリイソブチルアミン、イソプロピルブチルアミン等が挙げられる。
また、脂環式環を有するアミン化合物として、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ヒドロキシアルキル基を持つエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、芳香族環を持つベンジルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、フェニルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、N,N−ジメチルアニリン、窒素を含む芳香族環を持つN,N−ジメチル−p−トルイジン、4−アミノピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
【0036】
第2実施形態においては、NRで表されるアミン化合物として、1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
また、第2実施形態においては、NRで表されるアミンまたはその誘導体として、市販品を用いてもよく、あるいは定法に従い合成して得られるアミン化合物を用いてもよい。
【0038】
第2実施形態におけるアミンとしては、前記銀塩との錯形成における反応性の観点から、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミンが好ましい。
【0039】
一般式(1)で表される銀錯体は、例えば以下の手順で合成することができる。
まず、第1実施形態における銀塩の合成方法と同様にして、RCOOAgで表される銀塩を合成する。次に、当該銀塩に有機溶媒およびNRで表されるアミン化合物を加え、所定の時間超音波撹拌することによって目的の銀錯体が溶解した透明溶液が得られる。これらの合成工程は全て室温で行うことができる。銀化合物とカルボン酸類の混合比、アミン類の添加量の好ましい範囲は第1実施形態の場合と同様である。
【0040】
一般式(1)で表される銀錯体を含有する溶液組成物は、予め合成して保管できる。また、銀錯体の形成反応は速やかに進行するため、使用する直前に混合することで合成することができる。
【0041】
第2実施形態において用いる有機溶媒は、一般式(1)で表される銀錯体を可溶なものであれば、特に制限されないが、合成反応の容易さに加え、加熱時の揮発性の観点から、沸点が35〜300℃の有機溶媒が好ましい。
【0042】
有機溶媒としては、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、N−メチルピロリジノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキキシド、ジメチルホルムアミドが挙げられる。特に、この中でも、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、アセトンが好ましい。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、あるいは2種類以上を混合して用いても良い。
【0043】
有機溶媒の使用量は、銀錯体に対する銀イオンの濃度(銀錯体1gに対して遊離イオンとして存在する銀の量)が、好ましくは0.01mmol/g〜3.6mmol/g、より好ましくは0.05mmol/g〜2mmol/gとなるように選定することが好ましい。銀イオン濃度が3.6mmol/gを超えると、溶液組成物中の殆どが銀錯体となるため合成が困難になるだけでなく、使用時に希釈が必要になるためハンドリング性が低下する。使用量が0.01mmol/g以下であれば、溶液組成物中の銀錯体の濃度低くなるため目的の膜厚の導電膜が得られない場合がある。この場合、重ね塗り作業が必要となり製造工程が多くなる。また、使用する溶媒の量が多くなるため不経済となる。
【0044】
第2実施形態に係る導電膜形成用材料は、上記の銀塩、アミン化合物および有機溶媒からなるものであってもよいが、必要に応じて、シランカップリング剤に代表される密着付与剤、充填剤等をさらに含有してもよい。
【0045】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る導電膜の形成方法は、導電膜形成用材料を基材上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を300℃以下の温度で処理する工程を備える。
【0046】
第3実施形態においては、導電膜形成用材料として、上記の第1実施形態に係る導電膜形成用材料または第2実施形態に係る導電膜形成用材料のいずれを用いてもよい。いずれの導電膜形成用材料も、銀塩およびアミン化合物あるいは銀錯体が有機溶媒中に均一に溶解した溶液状態をとることができる。
【0047】
また、第3実施形態における基材としては、特に制限なく、公知の基材を使用することができる。例えば、シリコンウェハ、アルミナ、窒化アルミニウム等のセラミック基材、ソーダライムガラス、石英ガラス、低熱膨張ガラス等のガラス基材、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等のプラスチック基材やガラス/エポキシ等を複合化した基材が挙げられる。
【0048】
導電膜形成用材料を基材上に塗布する方法としては、フロー法、カーテン法、ディップ法、スピンコート法、印刷法、インクジェット印刷法、スプレー法等が挙げられる。
【0049】
また、形成された塗膜を熱処理する際の温度は、300℃以下であり、好ましくは200℃以下である。熱処理の時間としては、1〜180分が好ましいが、熱処理温度等によって適宜選択することができる。かかる熱処理は、ホットプレート、熱風乾燥機、赤外乾燥炉等を用いて行うことができる。また、熱処理時の雰囲気は、特に制限はなく、大気下のほか、ヘリウムやアルゴンや窒素等の不活性雰囲気下に加え、水素ガス等を使用しての還元雰囲気下でも良い。
【0050】
このようにして得られた導電膜の厚さは、10nm以上であることが好ましく、膜厚の均一性の観点から30nm以上であることがより好ましい。また、銀錯体の濃度にも依存するが、塗布、乾燥を複数回繰り返すことによって、数十μm厚の導電膜を形成することができる。
【0051】
第1実施形態および第2実施形態に係る導電膜形成用材料、ならびに第3実施形態に係る導電膜の形成方法は、簡便な処理を施すことで良好な導電膜を形成できるという効果を有する。そのため、半導体素子やフレキシブル回路基板、プリント配線板、さらには最近プリンテッドエレクトロニクスとして注目を集めている電子ペーパーやタッチパネル、有機ELディスプレイ、RFIDセンサーや太陽電池等の回路、配線材料などの分野に幅広く適用することができる。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
(合成例1)
30mlのビーカーにエタノール(上野化学工業株式会社製)5gと酢酸銀(和光純薬工業株式会社製)0.167g(1.0mmol)とギ酸(和光純薬工業株式会社製)0.046g(1.0mmol)を加えて5分間超音波撹拌し、生成した沈殿物をエタノールで3回デカンテーションして洗浄した。この沈殿物にエタノール5gとプロピルアミン(関東化学株式会社製)0.118g(2.0mmol)を加え、5分間超音波撹拌することにより銀濃度が0.19mmolg−1の淡黄色透明溶液を得た。
なお、ギ酸と反応した銀の沈殿物(ギ酸銀)はエタノールに不溶であるが、添加したプロピルアミンとギ酸銀との反応により形成される銀アミン錯体はエタノールに溶解する。得られた溶液が淡黄色透明溶液であったことは、上記の可溶化反応が進行したこと、すなわちギ酸銀のプロピルアミン錯体が形成したことを示している。
得られた溶液を冷凍庫中で1ヶ月以上保管しても、銀の析出は見られなかった。銀濃度は熱分析(TG−DTA)を用いて、1000℃まで昇温した時に残る銀の重量より測定した。その結果、0.19mmolg−1と計算値とよく一致した。
【0054】
(合成例2)
30mlのビーカーに1−プロパノール(大成化学株式会社製)5gと酢酸銀0.169g(1.0mmol)とギ酸(和光純薬工業株式会社製)0.047g(1.0mmol)を加えて5分間超音波撹拌し、生成したギ酸銀の沈殿物をプロパノールで3回デカンテーションして洗浄した。この沈殿物にプロパノール5gとプロピルアミン(関東化学株式会社製)0.120g(2.0mmol)を加え、5分間超音波撹拌することにより淡黄色透明溶液を得た。同様の熱分析より銀濃度は0.19mmolg−1であった。
【0055】
(合成例3)
50mlのビーカーにエタノール10gと酢酸銀0.172g(1.0mmol)とブチルアミン(和光純薬工業株式会社製)0.151g(2.1mmol)を加え、5分間超音波撹拌することにより無色透明溶液を得た。同様の熱分析より銀濃度は0.10mmolg−1であった。
【0056】
(合成例4)
50mlのビーカーにエタノール10gと酢酸銀0.174g(1.0mmol)とジブチルアミン(関東化学株式会社製)0.270g(2.1mmol)を加え、5分間超音波撹拌することにより無色透明溶液を得た。同様の熱分析より銀濃度は0.10mmolg−1であった。
【0057】
(合成例5)
50mlのビーカーにエタノール10gと酢酸銀0.173g(1.0mmol)とジプロピルアミン(関東化学株式会社製)0.210g(2.1mmol)を加え、5分間超音波撹拌することにより無色透明溶液を得た。同様の熱分析より銀濃度は0.10mmolg−1であった。
【0058】
(合成例6)
50mlのビーカーにアセトン(大成化学株式会社製)10gと酢酸銀0.171g(1.0mmol)とジブチルアミン0.270g(2.1mmol)を加え、5分間超音波撹拌することにより無色透明溶液を得た。同様の熱分析より銀濃度は0.10mmolg−1であった。
【0059】
(合成例7)
50mlのビーカーにジエチルエーテル(大成化学株式会社製)10gと酢酸銀0.171g(1.0mmol)とジブチルアミン0.269g(2.1mmol)を加え、5分間超音波撹拌することにより銀濃度が0.10mmolg−1の無色透明溶液を得た。
【0060】
(実施例1)
50mm×50mm×1.0mmのポリカーボネート(PC)板を2−プロパノール(大成化学株式会社製)中で15分間超音波洗浄した。この洗浄したPC板上に合成例1で作製した溶液300μLを基板に滴下し、スピンコート法のダブルステップモードで塗布してプレカーサー膜を形成した。スピンコート条件は、ファーストステップは500rpm−5sec、セカンドステップは2000rpm−30secでおこなった。
形成したプレカーサー膜を、ドライヤーを用いて約90℃の温風で3分間乾燥し、薄膜を形成した。この薄膜上に、同様の塗布・温風乾燥操作を9回繰り返して金属光沢を持つ積層膜を形成した。形成した積層膜の抵抗をテスターにて測定したところ、端子間5mmで約1.5Ωであった。また、薄膜X線回折測定を行い積層膜の結晶構造を分析した結果、形成した薄膜は銀で、その結晶子径は16nmであることを確認した(図1)。
【0061】
(実施例2)
50mm×50mm×2.0mmの青板ガラスを50℃に加熱した15%水酸化カリウム水溶液に30分浸漬して水洗後、ガラス器具洗浄用のクリーンエース(アズワン株式会社製)にて洗浄した。この洗浄したガラス基板上に、実施例1と同様にして、合成例1で作製した溶液をスピンコート法にて塗布し、形成したプレカーサー膜を300℃に昇温したマッフル炉内で空気雰囲気にて3分間熱処理して薄膜を形成した。この薄膜上に、同様の塗布・温風乾燥操作を9回繰り返して金属光沢を示す積層膜を形成した。形成した積層膜の抵抗をテスターにて測定したところ、端子間5mmで約0.2Ωだった。同様に膜の結晶構造を薄膜X線回折測定にて分析した結果、形成した薄膜は実施例1と同様に銀で、その結晶子径は52nmであることを確認した(図1)。
【0062】
なお、図1には示していないが、合成例1で作製した溶液に代えて、合成例2〜7で作製した各溶液を用いた場合にも、実施例1、2と同様に、300℃以下の低温加熱によって良好な導電膜を形成できることを確認した。
【0063】
(合成例8)
合成例1と同様に30mlのビーカーにイオン交換水5gと酢酸銀(和光純薬工業株式会社製)0.167g(1.0mmol)とギ酸(和光純薬工業株式会社製)0.049g(1.1mmol)を加えて5分間超音波撹拌し、生成したギ酸銀の沈殿物をイオン交換水で3回デカンテーションして洗浄した。この沈殿物にイオン交換水5 gとプロピルアミン(関東化学株式会社製)0.122g(2.1mmol)を加えて30分間超音波撹拌したが溶解せず溶液は調製できなかった。
【0064】
(合成例9)
30mlのビーカーに硝酸銀(大成化学株式会社製)0.170g(1.0mmol)とエタノール10gを加えて5分間超音波撹拌して銀濃度が0.10mmolg−1の無色透明溶液を得た。
【0065】
(比較例1)
合成例9の溶液組成物を実施例2と同様の条件で洗浄した青板ガラス上にスピンコートしたところ、基板上で硝酸銀の再結晶化が起こり不均一で失透したプレカーサー膜が形成された。この薄膜を300℃に昇温したマッフル炉内で空気雰囲気にて3分間熱処理したところ、基板上に微小な銀の粒子が形成され、薄膜は形成できなかった。触ると銀の粒子は容易に剥がれ落ちた。また、導電性は確認できなかった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸銀および炭素数1〜10の脂肪酸銀から選ばれる少なくとも1種の銀塩と、アミン化合物と、前記銀塩および前記アミン化合物が可溶な有機溶媒と、を含有する導電膜形成用材料。
【請求項2】
下記一般式(1):
【化1】


[式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1〜10の直鎖アルキル基または炭素数3〜10の分岐鎖状アルキル基を示し、R、RおよびRは各々独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状アルキル基、炭素数3〜10の分岐鎖状アルキル基、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基、フェニル基、ベンジル基またはピリジル基を示す。]
で示される銀錯体と、前記銀錯体が可溶な有機溶媒と、を含有する導電膜形成用材料。
【請求項3】
前記有機溶媒の沸点が35〜300℃である、請求項1または2に記載の導電膜形成用材料。
【請求項4】
前記有機溶媒が、アルコール、N−メチルピロリジノン、ケトン、環状ケトン、エーテル、環状エーテル、カルボン酸エステル、ニトリル、ジメチルスルホキキシドおよびジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも1種類の有機溶媒を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電膜形成用材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電膜形成用材料を基材上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を300℃以下の温度で処理する工程を備える、導電膜の形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−69273(P2012−69273A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210847(P2010−210847)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(505231752)株式会社TFTECH (10)
【Fターム(参考)】