説明

局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット及びその製造方法

【課題】インプリント技術を利用して、使用する樹脂の種類に制限を受けることなく高精度の凹凸パターンを有する局在型表面プラズモン共鳴デバイスを提供する。
【解決手段】局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法は、I)凹凸パターン形状を有する鋳型に、樹脂溶液を塗布し、乾燥させて前記凹凸パターン形状が転写された形状転写面を有する樹脂層を形成する工程、II)樹脂層に金属イオン含有溶液を接触させて金属イオンを樹脂層中に含浸させる工程、III)金属イオンを還元し、形状転写面を含む樹脂層の表面に金属を析出させて金属析出層を形成する工程、IV)金属析出層の上に、無電解めっきおよび/又は電気めっきを施すことにより金属めっき層を形成する工程、V)工程IVの後に、樹脂層を除去することにより、局在型表面プラズモン共鳴を生じる凹凸パターン形状を有する金属薄膜を形成する工程を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局在型表面プラズモン共鳴を利用した各種のデバイスに利用できる局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
局在型表面プラズモン共鳴(Local Surface Plasmon Resonance ;LSPR)は、光の波長より小さいサイズの金属微粒子や金属ナノ構造中の電子が、特定の波長の光と相互作用を生じて共鳴する現象である。局在型表面プラズモン共鳴は、ガラスの内部に金属微粒子を混合することによって鮮やかな発色を呈するステンドガラスに古くから利用されている。近年では、例えば光強度を増強させる効果を利用した高出力な発光レーザの開発や、分子が結合すると共鳴状態が変化する性質を利用したバイオセンサーなどへの応用が研究されている。
【0003】
局在型表面プラズモン共鳴を発生させる金属ナノ構造を工業的に生産する手法として、例えば非特許文献1には、ナノインプリント法を用いて製造された局在型表面プラズモン共鳴センサーが提案されている。この文献によると、凹凸パターンが形成された金型を樹脂上に押圧することで樹脂のナノパターンを形成したのち、形成した樹脂のナノパターンに金スパッタを行うことによって、センサーチップを作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】OMRON TECHNICS, VOL.47, No.1(通巻155号)2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1などの従来のナノインプリント技術の第1の問題点として、凹凸パターンが形成された金型を樹脂層に押し付けて形状を転写する際に、金型と樹脂層との間に気泡が混入すると、その痕跡が転写されてしまい、凹凸パターンの精密な転写が困難になってしまう、という問題があった。
【0006】
また、第2の問題点として、高耐熱性の熱硬化性樹脂であるポリイミド樹脂を適用する場合には、モールドを押し付けて塑性変形させることが困難であるため、従来のナノインプリント技術では、使用する樹脂の種類に制約を受けた。
【0007】
また、第3の問題点として、金型の凹凸形状を樹脂層に転写した後で、スパッタリングによって凹凸表面に金属粒子を付着させるので、スパッタ層と樹脂層の界面に存在する金属粒子の影響により、ナノサイズの凹凸パターンの精度に悪影響を与える懸念がある。
【0008】
従って、本発明は、インプリント技術を利用して、使用する樹脂の種類に制限を受けることなく高精度の凹凸パターンを有する局在型表面プラズモン共鳴デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法は、局在型表面プラズモン共鳴を生じる凹凸パターン形状を有する金属薄膜を備えた局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットを製造する方法である。この局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法は、下記の工程I〜V:
I)凹凸パターン形状を有する鋳型に、樹脂溶液を塗布し、乾燥させて前記凹凸パターン形状が転写された形状転写面を有する樹脂層を形成する工程:
II)前記樹脂層に金属イオン含有溶液を接触させて金属イオンを前記樹脂層中に含浸させる工程:
III)前記金属イオンを還元し、前記形状転写面を含む前記樹脂層の表面に金属を析出させて金属析出層を形成する工程:
IV)前記金属析出層の上に、無電解めっきおよび/又は電気めっきを施すことにより金属めっき層を形成する工程:
及び
V)前記工程IVの後に、樹脂層を除去することにより、前記局在型表面プラズモン共鳴を生じる凹凸パターン形状を有する金属薄膜を得る工程:
を備えている。
【0010】
本発明の局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法は、前記工程II)が、
IIa)前記樹脂層を鋳型から剥離する工程:
IIb)工程IIa)に続いて、前記樹脂層に金属イオン含有溶液を接触させて金属イオンを前記樹脂層中に含浸させる工程:
を備えていてもよい。
【0011】
また、本発明の局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法は、前記樹脂が、ポリアミド酸であってもよい。
【0012】
本発明の局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットは、上記いずれかに記載の方法により製造されたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法によれば、流動性を持つ樹脂溶液を使用し、これを凹凸パターンが形成された鋳型に塗布する方法を採用したので、金型を固体の樹脂層に押し付ける従来方法のように金型と樹脂層との間に気泡が混入することが少なく、しかも使用する樹脂の種類も特に制限されずに、鋳型の凹凸形状を精度良く樹脂層へ転写することができる。
【0014】
また、本発明の製造方法では、樹脂層に金属イオン含有溶液を接触させて金属イオンを含浸させた後、金属イオンを還元して金属析出層を形成する。このように形成した金属析出層は緻密な皮膜となっているので、ナノサイズの凹凸パターンを精度よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法の概要を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態の局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法は、下記の工程I〜Vを有している。図1は、本実施の形態の局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法の概要を示す工程図である。
【0017】
I)凹凸パターン形状を有する鋳型に、樹脂溶液を塗布し、乾燥させて前記凹凸パターン形状が転写された形状転写面を有する樹脂層を形成する工程(樹脂層形成工程):
本樹脂層形成工程は、塗布工程と乾燥工程とに区別して説明する。
【0018】
<塗布工程>
まず、鋳型10上に、塗布具を用いて樹脂溶液を塗布する。鋳型10の片側の表面には、所定の凹凸パターン10aが形成されている。
【0019】
樹脂溶液としては、後の工程IIの金属イオン含浸工程で金属イオン又は金属化合物イオンの吸着性を高くする観点から、分子内に金属イオン又は金属化合物イオンとの親和性が高い官能基を有する樹脂を用いることが好ましい。具体的には、金属イオンとして陽イオン(例えばAg、Cu2+等)を用いる場合は、カルボキシル基、スルホン酸基、フェノール基などの官能基を分子内に含む樹脂が好ましい。例えば、分子内にカルボキシル基を含む樹脂は、カルボキシラートイオンが陽イオンと親和性を有するため、金属イオンを吸着しやすくなる。このような樹脂としては、例えば、ポリアミド酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニル酸などを挙げることができる。
【0020】
一方、金属化合物イオンなどの陰イオン(例えば[AuCl等)を用いる場合は、アミノ基などの官能基を含む樹脂(あるいは分子内に第1〜第3級アミン構造を有する樹脂)が好ましい。例えば、分子内にアミノ基を含む樹脂は、アンモニウムイオンやピリジニウムイオンが陰イオンと親和性を有するため、金属化合物イオンを吸着しやすくなる。このような樹脂としては、例えば、ポリビニルピリジンなどを挙げることができる。
【0021】
以下の工程説明では、樹脂の代表例としてポリアミド酸を用いる場合を例に挙げるが、他の樹脂を用いる場合も、ポリアミド酸に準じて実施することができる。ここで、ポリアミド酸とは、ポリイミド樹脂のイミド環が開環した状態のものを意味し、ポリイミド樹脂の前駆体となるものである。ポリイミド樹脂としては、いわゆるポリイミドを含めて、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等に代表されるように、その構造中にイミド基を有する耐熱性樹脂が挙げられる。
【0022】
ポリイミド樹脂は、前駆体であるポリアミド酸をイミド化(硬化)することによって形成することができるものである。ここでいう前駆体とは、その分子骨格中に感光性基、例えばエチレン性不飽和炭化水素基を含有するものも含まれる。
【0023】
ポリアミド酸の合成は、ほぼ等モルの酸無水物及びジアミンを溶媒中で反応させることにより行うことができる。使用する溶媒については、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、n-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
【0024】
合成されたポリアミド酸は溶液として使用される。通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に極性溶媒への可溶性に優れるので、有利に使用される。
【0025】
鋳型10上に塗布される、ポリアミド酸溶液の粘度は、100,000cps以下が好ましく、10〜100,000cpsの範囲内の粘度とすることがより好ましい。ポリアミド酸溶液の粘度が100,000cpsを超えると、ポリアミド酸溶液が鋳型10の凹凸パターン10aの凹部内に十分に入り込めず、凹凸パターン10aを精密に転写できないおそれがある。また、ポリアミド酸溶液の粘度が10cps未満である場合には、鋳型10上からのポリアミド酸溶液の液だれが生じ易くなる。なお、塗布時の液だれを抑制するために鋳型10の端部に囲いを設けてもよい。ポリアミド酸溶液の粘度は、ポリアミド酸の分子量や、ポリアミド酸の固形分濃度を制御することによって調整可能である。
【0026】
また、ポリアミド酸の重量平均分子量は、特に制限されないが、10,000〜300,000の範囲内が好ましく、15,000〜250,000の範囲内がより好ましく、30,000〜200,000の範囲内がさらに好ましい。ポリアミド酸の重量平均分子量が10,000未満では、後の工程で形成される金属析出層40の凹凸パターン形状の保持が十分でなくなるおそれがある。一方、ポリアミド酸の重量平均分子量が300,000を超えると、ポリアミド酸溶液の粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難となる。また、ポリアミド酸溶液の固形分濃度は、5〜30重量%の範囲内とすることが好ましい。
【0027】
ポリアミド酸溶液には、上記必須成分以外の任意成分として、例えばレベリング剤、消泡剤、密着性付与剤、架橋剤などを配合することができる。
【0028】
ポリアミド酸溶液は、例えばポリアミド酸および上記任意成分を、任意の溶媒例えばピリジン系溶媒、イミダゾール系溶媒などの中で混合することによって調製できる。なお、本実施の形態では、ポリアミド酸溶液として、ポリアミド酸を含有するポリアミド酸ワニスを使用することが可能であり、その例として、新日鐵化学株式会社製の熱可塑性ポリイミドワニスSPI−200N(商品名)、同SPI−300N(商品名)、同SPI−1000G(商品名)、東レ株式会社製のトレニース#3000(商品名)などを挙げることができる。
【0029】
ポリアミド酸溶液を塗布する方法は特に制限されず、塗布具として、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターを使用して塗布することが可能である。
【0030】
ポリアミド酸溶液を塗布する対象となる鋳型10は、ポリアミド酸層20の形成におけるポリアミド酸溶液用溶剤に対する耐薬品性や、乾燥時の加熱条件に対する耐熱性を有する材質のものを使用することが好ましく、例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)、フッ素樹脂、石英、酸化ケイ素、炭化ケイ素、ガラス、シリコン、ニッケル、タンタルなどの材質のものを用いることができる。鋳型10は、単一の材料から構成してもよいし、硬質な基材によって支持されたものでもよい。この鋳型10の凹凸パターン10aは、既知のフォトリソグラフィー技術とエッチング加工により形成できる。また、鋳型10の凹凸表面に形成されるポリアミド酸層20は、ポリアミド酸溶液の塗布後の乾燥における脱溶媒により、収縮傾向になる。このため、後の剥離工程での剥離を容易とすることができるので、鋳型10の凹凸表面の処理は特に必要としないが、離型剤で剥離面を処理してもよい。
【0031】
鋳型10の凹凸パターン10aは、本発明の製造方法における工程Vの後に得られる金属薄膜の凹凸パターンに転写される。すなわち、金属薄膜の凸部により局在型表面プラズモン共鳴を生じさせる場合は、鋳型10の凹凸面における凸部の形状が、形成した金属薄膜表面の凸部に対応する。同様に、金属薄膜の凹部により局在型表面プラズモン共鳴を生じさせる場合は、鋳型10の凹凸面における凹部の形状が、形成した金属薄膜表面の凹部に対応する。
【0032】
鋳型10の凹凸面における凸部の形状および凹部の形状(凹凸面に対して垂直に観察したときの形状)は、例えば円形、楕円形、四角形、多角形等の種々の形状であってよいが、局在型表面プラズモン共鳴によるセンシング感度が高くなる円形が最も好ましい。ここで、鋳型10の凹凸面における凸部および凹部の形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察することにより確認できる。また、円形の形状とは、円形及び円形に近い形状で、平均長径と平均短径の比が1又は1に近いもの(好ましくは0.8以上)をいう。さらに、長径と短径との関係が、好ましくは長径<短径×1.35の範囲内、より好ましくは長径≦短径×1.25の範囲内がよい。なお、円形でない場合(例えば多角形)は、その形状におけるエッジ長さが最大となる長さを長径とし、エッジ長さが最小となる長さを短径として、さらに前記長径をその凸部および凹部の径と見做すこととする。
【0033】
鋳型10の凹凸パターン10aにおける凸部および凹部の径は、好ましくは10〜300nmの範囲内、より好ましくは30〜200nmの範囲内、更に好ましくは40〜100nmの範囲内がよい。また、鋳型10の凹凸パターン10aにおける凸部の高さおよび凹部の深さは、好ましくは20〜150nmの範囲内、より好ましくは30〜100nmの範囲内、更に好ましくは40〜80nmの範囲内がよい。更に、凹凸パターン10aの1μm当りにおける凸部および凹部の個数は、好ましくは10〜1000個の範囲内、より好ましくは50〜500個の範囲内がよい。また、鋳型10は、ポリアミド酸層20をバッチ式で形成するための平板状であってもよく、連続式で形成するためのロール状であってもよい。
【0034】
また、塗布されたポリアミド酸の厚み(乾燥後のポリアミド酸層20として)は、3〜100μmの範囲内が好ましく、3〜50μmの範囲内がより好ましい。ポリアミド酸溶液を塗布することにより、ポリアミド酸層20の厚みを自由に調節することが可能である。ポリアミド酸層20を例えば3μm以上の厚みに形成した場合、金属イオン含浸工程(後述の工程II,IIa)において金属イオンの含浸量を十分に確保できる。その結果、金属析出層形成工程(後述の工程III)における金属析出層40(後述)を、導通が可能な膜状に形成することも可能である。
【0035】
<乾燥工程>
次に、鋳型10に塗布されたポリアミド酸溶液を乾燥させて、ポリアミド酸層20を形成する。ポリアミド酸層20は単層であってもよいし、2層以上の複数層であっても差し支えない。ポリアミド酸溶液を乾燥させる場合には、ポリアミド酸の脱水閉環の進行によるイミド化を完結させないように温度を制御する。乾燥方法としては、特に制限されず、例えば、60〜200℃の範囲内の温度条件で1〜60分の範囲内の時間をかけて乾燥を行うことがよいが、好ましくは、60〜150℃の範囲内の温度条件で乾燥を行うことがよい。ポリアミド酸の状態を残すことは、後の工程で金属イオンを含浸させるために必要である。乾燥後のポリアミド酸層20は、ポリアミド酸の構造の一部がイミド化していても差し支えないが、イミド化率は50%以下、より好ましくは20%以下としてポリアミド酸の構造を50%以上残すことが好ましい。なお、ポリアミド酸のイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、透過法にてポリイミド酸層の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1,000cm−1付近のベンゼン環炭素水素結合を基準とし、1,710cm−1付近のイミド基由来の吸光度から算出することができる。
【0036】
II)樹脂層に金属イオン含有溶液を接触させて金属イオンを樹脂層中に含浸させる工程(金属イオン含浸工程):
この工程IIは、樹脂層を鋳型から剥離する工程(工程IIa:剥離工程)と、剥離工程に続いて、樹脂層に金属イオン含有溶液を接触させて金属イオンを樹脂層中に含浸させる工程(工程IIb:金属イオン含浸工程)と、を備えていることが好ましい。なお、本工程でも、樹脂の代表例としてポリアミド酸を用いる場合を例に挙げて説明する。
【0037】
<工程IIa;剥離工程>
剥離工程では、ポリアミド酸層20を鋳型10から剥離してポリアミド酸フィルム30を形成する。このポリアミド酸フィルム30の片面(鋳型10と接触していた側)には、鋳型10に形成されていた凹凸パターン10aのネガ型に対応する逆の凹凸形状が転写され、転写パターン30aが形成されている。
【0038】
<工程IIb;金属イオン含浸工程>
次に、ポリアミド酸フィルム30に対して、金属イオンを含有する水溶液(以下、「金属イオン溶液」と記すことがある)を接触させて金属イオンをポリアミド酸フィルム30に含浸させる。ここで、「含浸」とは、ポリアミド酸フィルム30中に金属イオンが固定化されることを意味する。この場合、金属イオンはポリアミド酸のカルボキシル基と金属塩を形成し、金属イオン含有ポリアミド酸フィルム30Aを形成する。
【0039】
金属イオンとしては、還元工程で用いる還元剤の酸化還元電位より高い酸化還元電位を持ち、局在型表面プラズモン共鳴を奏する金属種のイオンを用いることができる。このような金属種として好適に利用できるものとして、例えば金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、錫(Sn)、ロジウム(Rh)が挙げられる。金属イオン含浸工程では、これらの金属種を含む金属化合物を使用することができる。金属化合物としては、前記金属の塩や有機カルボニル錯体などを用いることができる。金属の塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩などを挙げることができる。また、上記金属と有機カルボニル錯体を形成し得る有機カルボニル化合物としては、例えばアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等のβ−ジケトン類、アセト酢酸エチル等のβ−ケトカルボン酸エステルなどを挙げることができる。
【0040】
含浸工程で用いる金属イオン溶液中には、金属化合物を10〜300mMの範囲内で含有することが好ましく、50〜100mMの範囲内で含有することがより好ましい。金属化合物の濃度が10mM未満では、金属イオンをポリアミド酸フィルム30中に含浸させるための時間がかかり過ぎるので好ましくなく、300mM超では、ポリアミド酸フィルム30の表面を腐食(溶解)させてしまう懸念がある。
【0041】
金属イオン溶液は、金属化合物のほかに、例えば緩衝液などのpH調整を目的とする成分を含有することができる。金属イオン溶液のpHは、pH3から12の範囲内が好ましい。pHが上記範囲を外れた場合には、ポリアミド酸の化学構造に影響を与える場合がある。
【0042】
含浸方法は、ポリアミド酸フィルム30の表面に金属イオン溶液が接触することができる方法であれば、特に限定されず、公知の方法を利用することができる。例えば、浸漬法、スプレー法、刷毛塗りあるいは印刷法等を用いることができる。含浸の温度は0〜100℃、好ましくは20〜40℃付近の常温でよい。また、含浸時間は、浸漬法を適用する場合、例えば1分〜5時間が好ましく、5分〜2時間がより好ましい。浸漬時間が1分より短い場合には、ポリアミド酸フィルム30への金属イオンの含浸が不十分になる。一方、浸漬時間が5時間を超えても、金属イオンのポリアミド酸フィルム30への含浸の程度は、ほぼ横ばいになって効果の向上が得られにくくなる。
【0043】
金属イオンを含浸させた後はポリアミド酸フィルム30を乾燥させる。乾燥方法は、特に限定されず、例えば自然乾燥、エアガンによる吹きつけ乾燥、あるいはオーブンによる乾燥等を採用することができる。乾燥条件は、10〜150℃で5秒〜60分間、好ましくは25〜150℃で10秒〜30分間、更に好ましくは30〜120℃で、1分〜10分間である。
【0044】
本実施の形態では、以上の工程IIにおいて、金属イオン含有ポリアミド酸フィルム30Aを形成するにあたって、ポリアミド酸層20を鋳型10から剥離してポリアミド酸フィルム30を形成し(工程IIa)、形成したポリアミド酸フィルム30に金属イオンを含浸させる(工程IIb)というように工程IIを2段階に分けて行う方法を採用した。なお、工程IIでは、ポリアミド酸層20を鋳型10の上に形成したままの状態で金属イオンを含浸させた後、ポリアミド酸層20を剥離してもよい。
【0045】
[金属析出層形成工程]
III)金属イオンを還元し、形状転写面を含む樹脂層の表面に金属を析出させて金属析出層を形成する工程(金属析出層形成工程):
本工程では、金属イオン含有ポリアミド酸フィルム30Aに含まれる金属イオンを還元処理することによりポリアミド酸フィルム30の転写パターン30aの表面に、金属析出層40を形成させる。なお、本工程でも、樹脂の代表例としてポリアミド酸を用いる場合を例に挙げて説明する。
【0046】
還元処理の方法は、特に湿式還元法を利用することが有利である。金属イオン含有ポリアミド酸フィルム30Aを、還元剤を含有する溶液(還元剤溶液)中に浸漬することにより、金属イオンを還元する方法である。この湿式還元法は、金属イオン含有ポリアミド酸フィルム30Aの内部(例えば表層部より深い位置の深層部)に存在する金属イオンが、その場所で還元されて金属として析出してしまうことを抑制しながら、金属イオン含有ポリアミド酸フィルム30Aの表層部で優勢的に金属析出を行わせることができる効果的な方法である。また、湿式還元法では、金属析出のムラが少なく、短時間で均一な金属析出層40を形成することが可能である。
【0047】
なお、本実施の形態では、塗布工程でポリアミド酸層20の厚みを十分に確保することが容易であるために、ポリアミド酸フィルム30内の金属イオンの含有量を増加させることができる。この結果、金属析出層形成工程で得られる金属析出層40を膜状とすることができる。
【0048】
湿式還元に使用する還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン等のホウ素化合物が好ましい。これらのホウ素化合物は、例えば水溶液、アルコール溶液等の溶媒を用いて、溶液の状態(還元剤溶液)にして用いることができる。還元剤溶液中のホウ素化合物の濃度は、例えば0.001〜0.5mol/Lの範囲内が好ましく、0.01〜0.1mol/Lの範囲内がより好ましい。還元剤溶液中のホウ素化合物の濃度が0.001mol/L未満では、金属イオン含有ポリアミド酸フィルム30A中に含まれる金属イオンの還元が不十分になることがあり、0.5mol/Lを超えるとホウ素化合物の作用で、ポリアミド酸が溶解してしまうことがある。
【0049】
湿式還元処理では、金属イオン含有ポリアミド酸フィルム30Aの転写パターン30aの部分を、10〜90℃の範囲内、好ましくは20〜70℃の範囲内の温度の還元剤溶液中に、10秒〜75分、好ましくは30秒〜10分、更に好ましくは1分〜5分の時間で浸漬する。浸漬によって、金属イオン含有ポリアミド酸フィルム30A中の金属イオンが還元剤の作用で還元される。還元の終点は、ポリアミド酸中に含有した金属イオンが全て還元された時点、または、還元により析出した金属析出層40により、樹脂部分と還元液が接触できなくなった時点を言い、後者の場合は、ポリアミド酸フィルム30中に還元されなかった金属イオンが残留する場合があるが、特に問題はない。
【0050】
金属析出層40の厚みは、次工程の無電解めっきおよび電解めっきにより均一に金属薄膜を形成するという観点から、80nm〜300nmの範囲内が好ましく、100nm〜200nmの範囲内がより好ましい。
【0051】
[金属めっき層形成工程]
IV)金属析出層の上に、無電解めっきおよび/又は電気めっきを施すことにより金属めっき層を形成する工程(金属めっき層形成工程):
本工程では、金属析出層40をシード層として、その上に無電解めっきおよび/又は電気めっきを施し、金属めっき層50を形成する。これにより、樹脂層(ポリアミド酸フィルム30)と金属析出層40と金属めっき層50とがこの順番で積層された積層体が得られる。なお、本工程でも、樹脂の代表例としてポリアミド酸を用いる場合を例に挙げて説明する。
【0052】
無電解めっきは、金属析出層40が形成されたポリアミド酸フィルム30を無電解めっき液に浸漬することによって行われる(無電解めっき工程)。この無電解めっきにより、金属めっき層50の少なくとも一部分をなす無電解めっき層(図示省略)が形成される。この無電解めっき層は、次に行われる電気めっきの核や下地にもなる。
【0053】
無電解めっき工程で用いる無電解めっき液としては、ポリアミド酸への影響を考慮して、中性〜弱酸性の次亜燐酸系のニッケルめっき液や、ホウ素系のニッケルめっき液を選択することが好ましい。次亜燐酸系のニッケルめっき液の市販品として、例えば、トップニコロン(商品名;奥野製薬工業株式会社製)を挙げることができる。また、ホウ素系のニッケルめっき液の市販品として、例えばトップケミアロイB−1(商品名;奥野製薬工業株式会社製)、トップケミアロイ66(商品名;奥野製薬工業株式会社製)を挙げることができる。また、無電解めっき液のpHは4〜7の中性〜弱酸性に調整することが好ましい。この場合、例えば硫酸、塩酸、硝酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸、酢酸、グリコール酸、クエン酸、酒石酸等の有機酸、更に、ホウ酸、炭酸、酢酸、クエン酸等の弱酸と、これらのアルカリ塩を組み合わせて緩衝作用を持たせてもよい。無電解めっき処理の温度は、80〜95℃の範囲内とすることが好ましく、85〜90℃の範囲内がより好ましい。また無電解めっき工程の処理温度は、20秒〜10分とすることが好ましく、30秒〜5分がより好ましく、1分〜3分が望ましい。
【0054】
次に、無電解めっき層を核もしくは下地として電気めっきを施し、金属めっき層50の少なくとも一部分をなす電気めっき層を形成する(電気めっき工程)。電気めっきにより、無電解めっき層を覆うように電気めっき層が形成される。電気めっきは、例えば硫酸、硫酸銅、塩酸および光沢剤[例えば、市販品として日本マクダーミット製のマキュスペック(商品名)、奥野製薬社製のトップルチナSF(商品名)等]を含有する組成のめっき液中で、無電解めっき層を陰極とし、Cu等の金属を陽極として実施する。電気めっきにおける電流密度は、例えば0.2〜3.5A/dmの範囲内とすることが好ましい。なお、電気めっきの陽極としては、例えばCu以外にNi、Co等の金属を用いることができる。
【0055】
なお、前記のとおり、工程II(IIb)でポリアミド酸フィルム30内に含浸させる金属イオンの量を十分多くしておき、工程IIIの金属析出層形成工程において湿式還元法を採用することにより、無電解めっき工程を省略することも可能である。この場合は、金属析出層40を核として直接電気めっきを施すことで、金属めっき層50としての電気めっき層を形成することができる。
【0056】
[樹脂層除去工程]
V)工程IVの後に、樹脂層を除去することにより、局在型表面プラズモン共鳴を生じる凹凸パターン形状を有する金属薄膜を得る工程(樹脂層除去工程):
なお、本工程でも、樹脂の代表例としてポリアミド酸を用いる場合を例に挙げて説明する。
【0057】
ポリアミド酸フィルム30と金属析出層40と金属めっき層50とが積層された積層体から、ポリアミド酸フィルム30を除去する方法は、特に制限されない。例えば、ポリアミド酸フィルム30の転写パターン30aの凸部が完全に消失するまで、エッチングを行う方法を挙げることができる。エッチングによって、金属析出層40と金属めっき層50とが積層された金属薄膜が得られる。この金属薄膜は、凹凸パターン100aを有しており、局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット100となる。そして、ポリアミド酸フィルム30の凹凸の転写パターン30aの凹部内に挿入されていた金属凸部分(つまり、金属析出層40及び金属めっき層50の一部分により構成される突起)は、該転写パターン30aの凹部(穴)の形状が転写された凸部として残り、これが局在型表面プラズモン共鳴を生じる凸部になる。同様に、ポリアミド酸フィルム30の凹凸の転写パターン30aの凸部により形成されていた金属凹部分(つまり、金属析出層40及び金属めっき層50の一部分により構成される穴)は、該転写パターン30aの凸部(突起)の形状が転写された凹部として残り、これが局在型表面プラズモン共鳴を生じる凹部になる。エッチング方法としては、例えばヒドラジド系溶液やアルカリ溶液を用いた湿式のエッチング方法や、プラズマ処理を用いた乾式のエッチング方法が挙げられる。
【0058】
なお、本実施の形態の局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット100の製造方法は、上記工程I〜V以外の任意の工程を含むことができる。例えば、ポリアミド酸溶液を鋳型10に塗布、乾燥してポリアミド酸層20を形成した後、ポリアミド酸層20の背面側(凹凸の転写パターン30aが形成されない面)に裏打ち材を貼り付けてもよい。裏打ち材により、金属析出層形成工程でポリアミド酸フィルム30の背面側への金属析出層の形成を防止できる。また、裏打ち材により、ポリアミド酸フィルム30を鋳型10から剥離する際のシワの形成を防止することも可能になる。この場合、裏打ち材の材質としては、金属イオン溶液、還元液又はめっき液に対して耐薬品性があるものを選択することが好ましく、例えばPET、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等を用いることが可能である。また、裏打ち材には、ポリアミド酸層20との密着性が良好で、ポリアミド酸層20から剥離する際にポリアミド酸層20へ影響を与え難いものという観点から、シリコン系又はアクリル系の接着剤層を備えるものを用いることが好ましい。裏打ち材の厚みは、ハンドリング性の観点から、50μm〜120μm程度が適する。更に、裏打ち材は、例えばローラー法で鋳型10から剥離した後のポリアミド酸フィルム30の背面側に装着することもできる。このような裏打ち材は市販のものが入手可能であり、例えばパナック社製、ET−50K、50μmPETフィルムが好適に使用できる。
【0059】
また、鋳型10の凹凸パターン10aをポリアミド酸層20へ転写させやすくするために、工程Iにおいて、乾燥工程の後で、ポリアミド酸層20を鋳型10に対して所定圧力で押圧する工程を設けてもよい。さらに、工程II(IIb)の金属イオン含浸工程の後に、純水やイオン交換水等による水洗工程(洗浄工程)を設けることも可能である。
【0060】
以上説明したように、本実施の形態の局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法によれば、流動性を持つ樹脂溶液を使用し、これを凹凸パターン10aが形成された鋳型10に塗布する方法を採用したので、鋳型を固体の樹脂層に押し付ける従来方法のように鋳型と樹脂層との間に気泡が混入することが少なく、しかも使用する樹脂の種類も特に制限されずに、鋳型10の凹凸パターン10aの形状を精度良く樹脂層へ転写することができる。また、本実施の形態の製造方法では、ダイレクトメタライゼーション法により、樹脂層に金属イオン含有溶液を接触させて金属イオンを含浸させた後、金属イオンを還元して金属析出層40を形成する。このように形成した金属析出層40は緻密な皮膜となっているので、ナノサイズの凹凸パターンを精度よく形成することができる。また、ダイレクトメタライゼーション法を利用する本実施の形態の方法では、ポリアミド酸フィルム30の凹凸の転写パターン30aに沿って均一に金属析出層40を形成できるため、凹凸の側面などに金属層を形成し難く、膜厚が全体として均一にならない可能性があるスパッタ法などに比べて有利である。
【0061】
[局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット]
以上のようにして、局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット100を製造することができる。この局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット100は、金属析出層40及び金属めっき層50から構成される金属薄膜の表面に、鋳型10からポリアミド酸フィルム30を介して転写された凹凸パターン100aを有している。凹凸パターン100aの表面は金属析出層40により覆われているため、凸部および凹部において、局在型表面プラズモン共鳴を生じる。従って、局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット100は、例えばバイオセンサー、化学センサー、SERS(表面増強ラマン散乱)、SEIRA(表面増強赤外吸収)、NSOM(走査型近接場光学顕微鏡)等の各種センシング用デバイスに適しており、簡易な構成で高精度の検出が可能になる。また、局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット100は、例えばフォトニック結晶デバイス、光記録・再生デバイス、光情報処理デバイス、エネルギー増強デバイス、高感度フォトダイオードデバイス等の他のプラズモニックデバイスにも利用できる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により具体例を説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制約されるものではない。なお、実施例において特にことわりない限り各種測定、評価は下記によるものである。また、実施例に用いた略号は下記のとおりである。
TPE−R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシベンゼン)
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0063】
[ポリイミドエッチング液の調整]
40gの5mol/L KOH水溶液と20gのエチレンジアミンを混合し、室温で10分間攪拌し作製した。
【0064】
合成例1
500mlのセパラブルフラスコの中において、撹拌しながら29.2gのTPE−Rを332gのDMAcに溶解させた。次に、その溶液に窒素気流中で29.4gのBPDAを加えた。その後、約3時間撹拌を続けて重合反応を行い、15重量%のポリアミド酸溶液を得た。得られたポリアミド酸溶液の粘度は38,974cps(=38.9Pa・s)であった。このポリアミド酸溶液にDMAcを加え、約3時間攪拌し、13重量%のポリアミド酸溶液1を得た。この溶液の粘度は15,280cps(=15.3Pa・s)であった。
【0065】
[実施例1]
<凹凸パターンの転写>
合成例1で得られたポリアミド酸溶液1を石英製の凹凸パターン鋳型(凸部形状;円柱形、凸部径;40nm、凸部高さ;60nm、凸部の1μm当りの個数;156個)に塗布した後、130℃で10分間乾燥させ、鋳型付きのポリアミド酸層を形成した。このポリアミド酸層の上にポリイミド両面テープ(ACE GLOBAL LTD製、ポリイミド両面粘着テープ YT130DJ)を使って裏打ちフィルム(PETフィルム、120μm厚み)を貼り付けた後、裏打ちフィルムとともに鋳型からポリアミド酸層を剥離し、凹凸パターンが転写されたポリアミド酸フィルム1を得た。得られたフィルムの厚み(凸部までの厚み)は約25μmであった。
【0066】
<金属イオン含浸/金属析出層形成>
凹凸パターンを形成したポリアミド酸フィルム1を、裏打ちフィルムを備えた状態で、この樹脂膜を100mMの硝酸銀(I)を含有する200mMアンモニア水溶液に、25℃で1時間浸漬することにより、銀イオンをポリアミド酸フィルム1中に含浸させた後、3mMのジメチルアミンボラン水溶液に30℃で10分間浸漬させて還元処理し、凹凸パターンが転写された面に金属銀皮膜を形成した。
【0067】
<金属めっき層形成>
次に、金属銀皮膜をシード層として電解銅めっきを行い、凹凸パターンを金属銅にて被覆した。電気めっきは、めっき液として奥野製薬社製のトップルチナSF(商品名)を用い、25℃、電流密度0.3〜2.0A/dm、総電解量42.25A・min/dmの条件で行った。
【0068】
<ポリアミド酸の除去>
電解銅めっきにより銅層を形成したサンプルをアセトンに室温で1時間浸漬することによって、裏打ちフィルムから剥離した。その後、ポリイミドエッチング液に50℃、10分浸漬を2回繰り返し、ポリアミド酸フィルム1を完全に除去した。最後に、蒸留水で洗浄し、乾燥することによって、銅めっき層の凹凸表面に金属銀皮膜を有する局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット1を得た。
【0069】
[実施例2]
<凹凸パターンの転写>
実施例1と同様にして、凹凸パターンが転写されたポリアミド酸フィルム2を得た。
【0070】
<金属イオン含浸/金属析出層形成>
凹凸パターンを形成したポリアミド酸フィルム2を、裏打ちフィルムを備えた状態で、100mMの硫酸銅(II)を含有する600mMエタノールアミン水溶液に、25℃で1時間浸漬することにより、銅イオンをポリアミド酸フィルム2中に含浸させた後、3mMのジメチルアミンボラン水溶液に25℃で75分間浸漬させて還元処理し、凹凸パターンが転写された面に金属銅皮膜を形成した。
【0071】
<金属めっき層形成>
実施例1と同様にして、金属銅皮膜をシード層として電解銅めっきを行い、凹凸パターンを金属銅にて被覆した。
【0072】
<ポリアミド酸の除去>
実施例1と同様にして、裏打ちフィルムから剥離した後、ポリイミドエッチング液にて、ポリアミド酸フィルム2を完全に除去、洗浄し、乾燥することによって、銅めっき層の凹凸表面に金属銅皮膜を有する局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット2を得た。
【0073】
[実施例3]
<凹凸パターンの転写>
実施例1と同様にして、凹凸パターンが転写されたポリアミド酸フィルム3を得た。
【0074】
<金属イオン含浸/金属析出層形成>
凹凸パターンを形成したポリアミド酸フィルム3を、裏打ちフィルムを備えた状態で、10mMの塩化白金(II)を含有する1Mアンモニア水溶液に、25℃で1時間浸漬することにより、Ptイオンをポリアミド酸フィルム中に含浸させた後、5mMのジメチルアミンボラン水溶液に25℃で75分間浸漬させて還元処理し、凹凸パターンが転写された面に金属白金皮膜を形成した。
【0075】
<金属めっき層形成>
実施例1と同様にして、金属白金皮膜をシード層として電解銅めっきを行い、凹凸パターンを金属銅にて被覆した。
【0076】
<ポリアミド酸の除去>
実施例1と同様にして、裏打ちフィルムから剥離した後、ポリイミドエッチング液にて、ポリアミド酸フィルム3を完全に除去、洗浄し、乾燥することによって、銅めっき層の凹凸表面に金属白金皮膜を有する局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット3を得た。
【0077】
[実施例4]
20重量%のポリ(4−ビニルピリジン)のDMAc溶液(アルドリッチ社製、分子量160,000)を実施例1で用いたものと同様の石英製の凹凸パターン鋳型(凸部形状;円柱形、凸部径;40nm、凸部高さ;60nm、凸部の1μm当りの個数;156個)に塗布した後、100℃で10分間乾燥させ、鋳型付きのポリ(4−ビニルピリジン)層を形成した。このポリ(4−ビニルピリジン)層の上にポリイミド両面テープ(ACE GLOBAL LTD製、ポリイミド両面粘着テープ YT130DJ)を使って裏打ちフィルム(PETフィルム、120μm厚み)を貼り付けた後、裏打ちフィルムとともに鋳型からポリ(4−ビニルピリジン)層を剥離し、凹凸パターンが転写されたポリ(4−ビニルピリジン)フィルム4を得た。得られたフィルムの厚み(凸部までの厚み)は約25μmであった。
【0078】
<金属イオン含浸/金属析出層形成>
凹凸パターンを形成したポリ(4−ビニルピリジン)フィルム4を、裏打ちフィルムを備えた状態で、100mMの塩化金酸四水和物水溶液に、25℃で0.5時間浸漬することにより、Auイオンをポリ(4−ビニルピリジン)フィルム4中に含浸させた後、1mMのジメチルアミンボラン水溶液に25℃で5分間浸漬させて還元処理し、凹凸パターンが転写された面に金属金皮膜を形成した。
【0079】
<金属めっき層形成>
次に、金属金皮膜をシード層として電解金めっきを行い、凹凸パターンを金属金(Au)にて被覆した。電気めっきは、めっき液として田中貴金属社製のテンペレックス8400(商品名)を用い、25℃、電流密度0.3〜2.0A/dm、総電解量42.25A・min/dmの条件で行った。
【0080】
<ポリ(4−ビニルピリジン)の除去>
電解めっきにより金層を形成したサンプルをアセトンに室温で1時間浸漬することによって、裏打ちフィルムから剥離した。その後、DMAcに60℃、30分浸漬を2回繰り返し、ポリ(4−ビニルピリジン)フィルム4を完全に除去した。最後に、蒸留水で洗浄し、乾燥することによって、金めっき層の凹凸表面に金属金皮膜を有する局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット4を得た。
【0081】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。
【符号の説明】
【0082】
10…鋳型、10a…凹凸パターン、20…ポリアミド酸層、30…ポリアミド酸フィルム、30a…転写パターン、30A…金属イオン含有ポリアミド酸フィルム、40…金属析出層、50…金属めっき層、100…局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット、100a…凹凸パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局在型表面プラズモン共鳴を生じる凹凸パターン形状を有する金属薄膜を備えた局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法であって、下記の工程I〜V:
I)凹凸パターン形状を有する鋳型に、樹脂溶液を塗布し、乾燥させて前記凹凸パターン形状が転写された形状転写面を有する樹脂層を形成する工程:
II)前記樹脂層に金属イオン含有溶液を接触させて金属イオンを前記樹脂層中に含浸させる工程:
III)前記金属イオンを還元し、前記形状転写面を含む前記樹脂層の表面に金属を析出させて金属析出層を形成する工程:
IV)前記金属析出層の上に、無電解めっきおよび/又は電気めっきを施すことにより金属めっき層を形成する工程:
及び
V)前記工程IVの後に、樹脂層を除去することにより、前記局在型表面プラズモン共鳴を生じる凹凸パターン形状を有する金属薄膜を得る工程:
を備えた局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法。
【請求項2】
前記工程II)が、
IIa)前記樹脂層を鋳型から剥離する工程:
IIb)工程IIa)に続いて、前記樹脂層に金属イオン含有溶液を接触させて金属イオンを前記樹脂層中に含浸させる工程:
を備えた請求項1に記載の局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂が、ポリアミド酸である請求項1又は2に記載の局在型表面プラズモン共鳴センサーユニットの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法により製造された局在型表面プラズモン共鳴センサーユニット。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−36961(P2013−36961A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175743(P2011−175743)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000006644)新日鉄住金化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】