説明

屈折率分布型光学素子の製造方法

本発明は、特定の処理雰囲気を必要とせず、また溶融塩を用いることなく、ガラス基材の所望部位に対して容易に屈折率分布を形成できる屈折率分布型光学素子の製造方法を提供する。
具体的には、本発明は、アルカリ金属成分をガラス構成成分として含むガラス基材に、銅化合物、有機樹脂及び有機溶剤を含有するペーストを塗布し、ガラス基材の軟化温度より低い温度で熱処理することを特徴とする屈折率分布型光学素子の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率分布型光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信分野において、光ファイバを伝播してきた信号光を該光ファイバの外部に平行光として取り出したり、またその逆に、平行光を光ファイバの端面に集束させて該光ファイバに入射させたりするために、光ファイバコリメータが使用されている。かかる光ファイバコリメータを用いる場合には、一対のコリメータレンズ間に光機能素子(例えば、光学フィルタ、光アイソレータ、光スイッチ、光変調器等)を挿入することにより、入射側の単一モード光ファイバを伝播してきた信号光に所定の作用を及ぼした後、信号光を受光側の単一モード光ファイバに集束させて再伝播することができる。
【0003】
光ファイバコリメータに用いられるコリメートレンズとしては、種々の形状のレンズが用いられているが、球面レンズ及び形状の複雑な非球面レンズと比べて、製造時の研磨加工等が容易であるという理由により、円柱状の屈折率分布型レンズ(ロッドレンズ、GRINレンズ等とも称されている)が一般に使用されている。この屈折率分布型レンズが光の集束等に代表されるレンズ機能を有するのは、ロッドガラス内部の屈折率が中心から半径方向に亘って連続的な分布を有しているからである。
【0004】
このような屈折率分布型レンズの製造方法としては、従来、ガラスロッドの半径方向に屈折率分布を形成させる手法として、例えば、イオン交換法、二重ルツボ法、CVD法(気相堆積法)、ゾル−ゲル法 、ロッドインチューブ法等が知られている。このうち、イオン交換法は、一価陽イオン(K、Tl、Ag等)を含む溶融塩に均質なガラスロッドを浸漬し、ガラスに含まれる一価陽イオン(Na等)と溶融塩中の一価陽イオンとを交換することにより屈折率分布を形成する方法であり、最も代表的な製造方法である。例えば、特許文献1には、Na成分を含有するガラスロッドに対して、Agを含む溶融塩を用いてイオン交換を行ってロッドの半径方向に屈折率分布を形成させることにより、屈折率分布型レンズを作製する方法が開示されている。
【0005】
また、このようなイオン交換による屈折率分布を、平板状のガラスに施すことによって作製した、数十ミクロン〜サブミリ程度のレンズを並べたマイクロレンズアレイ等も、コンピュータボード間のコネクト用又は光源のコリメート用として利用されつつある。
【0006】
イオン交換法による屈折率分布型レンズの製造では、用いる溶融塩の温度は通常250〜400℃程度であり、製造設備はCVD等の気相法に比べて安価である。また、球面レンズの作製と比較して、研磨加工が容易であるという利点もある。しかしながら、従来知られているイオン交換法には、下記の問題がある。
【0007】
一点目は、イオン交換時における溶融塩の条件制御の問題である。イオン交換速度及びガラス基材中でのイオン拡散速度は、溶融塩の温度に依存する。また、溶融塩の液相温度は溶融塩の混合比(組成)に依存し、イオン交換温度は塩の液相温度以上でしか制御できない。そのため、溶融塩中のイオン濃度とイオン交換温度とを独立に制御することができない場合がある。従って、イオン交換法により所望の屈折率プロファイルを有する屈折率分布型レンズを作製するに際して、溶融塩の組成、温度、浸漬時間等のイオン交換条件の決定は容易ではなく、高度なノウハウを必要とする。さらに、空気中で酸化され易いイオンを用いる場合には、イオン交換を還元雰囲気で行うことにも注意しなければならない。これらの問題点は、屈折率分布型レンズの製造のみならず、ガラス基材に屈折率分布を形成して作製する屈折率分布型光学素子の製造にも共通する問題点である。
【0008】
二点目は、イオン交換阻止膜の塗布である。イオン交換を溶融塩で行う際、屈折率分布を形成する部分以外には、イオン交換阻止膜を塗布する必要がある。一般にイオン交換阻止膜の塗布には、フォトリソグラフィーの技術が利用されるが、このような阻止膜の形成は工程が複雑である。この問題点も、ガラス基材に屈折率分布を形成して作製する屈折率分布型光学素子の製造に共通する問題点である。
【特許文献1】特開2001−159702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特定の処理雰囲気を必要とせず、また溶融塩を用いることなく、ガラス基材の所望部位に対して容易に屈折率分布を形成できる屈折率分布型光学素子の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、銅化合物を含む特定のペーストを用いて、ガラス基材中に銅イオンを拡散させることにより、ガラス基材中に屈折率の異なる領域を形成する製造方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の屈折率分布型光学素子の製造方法に係る。
【0012】
1.アルカリ金属成分をガラス構成成分として含むガラス基材に、銅化合物、有機樹脂及び有機溶剤を含有するペーストを塗布し、ガラス基材の軟化温度より低い温度で熱処理することを特徴とする屈折率分布型光学素子の製造方法。
【0013】
2.屈折率分布型光学素子がレンズ、レンズアレイ又は回折格子である上記項1記載の製造方法。
【0014】
3.ガラス基材が、アルカリ金属成分を酸化物換算で2重量%以上含むガラスからなり、該ガラスがケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス又は弗リン酸塩ガラスである上記項1又は2に記載の製造方法。
【0015】
4.ガラス基材が、SiO:40〜82重量%、B:12〜50重量%、NaO、KO、LiO、RbO及びCsOから選ばれた少なくとも1種:2〜25重量%、MgO、CaO、BaO、ZnO、SrO及びPbOから選ばれた少なくとも1種:25重量%以下、Al、La、Y、Ta及びGdから選ばれた少なくとも1種:20重量%以下、Nb及びZrOから選ばれた少なくとも1種:10重量%以下、As、Sb及びSnOから選ばれた少なくとも1種:5重量%以下、並びにCl、Br及びIから選ばれた少なくとも1種:0.05〜10重量%を含むホウケイ酸塩ガラス基材である上記項3記載の製造方法。
【0016】
5.上記項1〜4のいずれかの製造方法により製造された屈折率分布型光学素子。
【0017】
6.レンズ、レンズアレイ又は回折格子である上記項5記載の屈折率分布型光学素子。

以下、本発明の屈折率分布型光学素子の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明の屈折率分布型光学素子は、ガラス基材の少なくとも一部に形成された、基材とは異なる屈折率分布を有する領域を利用して所望の光学特性を発揮するものを言い、具体的には、屈折率分布型レンズ、屈折率分布型レンズアレイ、回折格子等が該当する。
【0018】
本発明の製造方法では、ガラス基材として、アルカリ金属成分をガラス構成成分として含むガラス基材を用いることが必要である。
【0019】
該ガラス基材におけるアルカリ金属成分としては、Li、Na、K、Rb、Cs等を例示でき、これらの内で、Li、Na、K等が好ましく、特にNaが好ましい。これらのアルカリ金属成分は、イオンの状態で存在してもよく、酸化物として存在してもよい。また、アルカリ金属成分は、一種のみ存在してもよく、二種以上が同時に存在してもよい。
【0020】
該ガラス基材におけるアルカリ金属成分の含有量は、酸化物換算で2重量%程度以上とすることが適当であり、5重量%程度以上とすることが好ましく、10重量%程度以上とすることがより好ましい。アルカリ金属成分の上限については特に限定的ではないが、酸化物換算で40重量%程度とすることが適当であり、30重量%程度とすることが好ましく、20重量%程度とすることがより好ましい。
【0021】
本発明では、アルカリ金属成分を含有するガラスであれば特に限定なく使用できる。例えば、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、弗リン酸塩ガラス等を用いることができる。
【0022】
これらのガラスの具体的な組成については、特に限定はなく、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、弗リン酸塩ガラス等として公知の組成のガラスであって、上記したアルカリ金属成分を含有するものであればよい。
【0023】
このようなガラス組成の具体例としては、例えば、酸化物量換算量で表して、下記1)〜4)が例示できる。
【0024】
1)SiO:40〜80重量%、好ましくは50〜75重量%、CaO:5〜25重量%、好ましくは17〜20重量%、NaO、KO、LiO、RbO及びCsOから選ばれた少なくとも1種:5〜25重量%、好ましくは7〜20重量%、MgO、BaO、ZnO、SrO及びPbOから選ばれた少なくとも1種:2重量%以下、好ましくは1.5重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は0.1重量%程度とすることが望ましい)、Al:15重量%以下、好ましくは10重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は0.5重量%程度とすることが望ましい)、Fe及びSOの少なくとも1種:3重量%以下、好ましくは1重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は0.05重量%程度とすることが望ましい)を含むケイ酸塩ガラス。
【0025】
2)SiO:20〜80重量%、好ましくは30〜75重量%、B:3〜50重量%、好ましくは5〜30重量%、NaO、KO、LiO、RbO及びCsOから選ばれた少なくとも1種:2〜20重量%、好ましくは5〜15重量%、MgO、CaO、BaO、ZnO、SrO及びPbOから選ばれた少なくとも1種:30重量%以下、好ましくは25重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は1重量%程度とすることが望ましい)、Al、La、Y、Ta及びGdから選ばれた少なくとも1種:15重量%以下、好ましくは10重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は0.5重量%程度とすることが望ましい)、Nb及びZrOから選ばれた少なくとも1種:2重量%以下、好ましくは1重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は0.05重量%程度とすることが望ましい)、As、Sb及びSnOから選ばれた少なくとも1種:2重量%以下、好ましくは1重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は0.01重量%程度とすることが望ましい)を含むホウケイ酸塩ガラス。
【0026】
3)P:40〜80重量%、好ましくは50〜75重量%、SiO:20重量%以下、好ましくは10重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は0.5重量%程度とすることが望ましい)、NaO、KO、LiO、RbO及びCsOから選ばれた少なくとも1種:2〜20重量%、好ましくは5〜15重量%、MgO、CaO、BaO、ZnO、SrO及びPbOから選ばれた少なくとも1種:2〜250重量%、好ましくは5〜45重量%、B、Al、La、Y、Ta、Nd及びGdから選ばれた少なくとも1種:15重量%以下、好ましくは10重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は0.5重量%程度とすることが望ましい)、Nb及びZrOから選ばれた少なくとも1種:2重量%以下、好ましくは1重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は0.01重量%程度とすることが望ましい)を含むリン酸塩ガラス。
【0027】
4)P:20〜50重量%、好ましくは30〜40重量%、Al:5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%、NaO、KO、LiO、RbO及びCsOから選ばれた少なくとも1種:2〜20重量%、好ましくは5〜15重量%、MgO、CaO、BaO、ZnO及びSrOから選ばれた少なくとも1種:10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%を基本組成とし、F(弗素)が上記O(酸素)の一部と置換して得られる弗リン酸塩ガラス。
【0028】
このようなガラス基材の形状は特に限定されず、最終製品の用途に応じて適宜設定できる。例えば、レンズ、レンズアレイ、回折格子等に適した形状が広く採用でき、具体的には、板状、円柱状、角柱状等が挙げられる。例えば、前記した組成のガラス塊を研磨することにより所望形状の基材としたものを使用してもよいし、前記した組成のガラス溶融体を所望形状の基材となるように成形後、必要に応じて研磨したものを使用してもよい。
【0029】
本発明の製造方法では、このようなアルカリ金属成分をガラス構成成分として含むガラス基材を用いて、これに銅化合物を含有するペーストを塗布し、ガラス基材の軟化点より低い温度で熱処理を行う。
【0030】
ペーストとしては、銅化合物と有機樹脂を有機溶媒に分散させてペースト状としたものを用いる。このようなペーストとしては、ガラス基材に塗布し得る適度な粘度を有し、熱処理により銅イオンを拡散させることのできる銅化合物を含有するペースト状物であれば特に限定されない。具体的には、ペースト粘度は、塗布方法、ペースト組成、基材への拡散条件等を考慮して適宜決定すればよい。
【0031】
このようなペーストをガラス基材に塗布し、熱処理を行うことによって、該ペーストに含まれる銅化合物が、ガラス基材中のアルカリ金属成分と交換して銅イオンとしてガラス基材中に拡散する。そして、拡散部分にはガラス基材とは異なる屈折率が形成され、その屈折率は拡散濃度の変化に応じて連続的に分布する。銅イオンとしては1価及び2価の陽イオンが考えられるが、主に1価の陽イオンとして拡散されていると考えられる。このようにペースト中の銅が1価のイオンとして拡散する理由は、ペーストに含まれる有機樹脂が炭化されて還元性雰囲気となり、1価の銅イオンが形成されることに基づくものと考えられる。
【0032】
該ペーストに含まれる銅化合物としては、熱処理によって銅イオンをガラス基材に拡散可能なイオン結合性銅化合物であれば特に限定されず、1価の銅化合物及び2価の銅化合物のいずれでもよい。かかる銅化合物としては、無機塩類を用いることが好ましい。
【0033】
銅化合物としては、例えば、CuSO、CuCl、CuCl、CuBr、CuBr、CuO、CuO、Cu(NO、CuS、CuI、CuI、Cu(NO)・3HO等が挙げられる。この中でも、CuSO、Cu(NO等が好ましい。これらの銅化合物は、1種単独で使用してもよく、又は2種以上を混合しても使用できる。
【0034】
該ペーストに含まれる有機樹脂としては、熱処理温度において分解する樹脂を用いればよいが、分解により炭化して容易に還元雰囲気を作りだせる樹脂であって、また水洗により容易に除去できるものが好ましい。例えば、このような特性を有する、セルロース樹脂、メチルセルロース樹脂、セルロースアセテート樹脂、セルロースニトレート樹脂、セルロースアセテートプチレート樹脂、アクリル樹脂、石油樹脂等が挙げられる。これらの有機樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合してもよい。
【0035】
該ペーストにおいて用いる有機溶剤は、銅化合物及び有機樹脂を容易に分散でき、乾燥時に容易に揮発するものが好ましく、具体的には、室温(20℃程度)では液体であって、50〜200℃程度で揮発する溶剤が好ましい。このような溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、テルピネオール等のアルコール類;ジメチルエーテル;アセトン等のケトン類などを挙げることができる。
【0036】
該ペーストにおける各成分の含有量については、特に限定的ではないが、銅化合物100重量部に対して、有機溶剤5〜30重量部、好ましくは7〜25重量部、樹脂成分20〜55重量部、好ましくは25〜45重量部程度である。
【0037】
該ペーストには、必要に応じて、添加剤を加えても良い。例えば、銅化合物の融点を低下させる添加剤としては、NaSO、KSO、NaNO、KNO、NaCl、NaBr、KCl、KBr、NaI、KI等が挙げられる。この中でも、特にNaSO、KSO、NaNO、KNO等が好ましい。これらの添加剤の配合量については、特に限定的ではないが、銅化合物100重量部に対して、5〜25重量部、好ましくは10〜20重量部程度である。
【0038】
本発明の製造方法では、先ず該ペーストをガラス基材に塗布する。ペーストの塗布形状は特に限定されず、各光学素子の特性に合わせて適宜設定できる。例えば、屈折率分布型レンズを作製する場合には、基材の所望部位にレンズとして使用可能な形状にペーストを塗布すればよい。具体的には、円形に塗布する場合には、通常は半径が5μm〜1mm、好ましくは10μm〜0.5mm程度である。他方、レンズアレイを作製する場合には、所望のレンズパターンに合わせてパターニング間隔、円又はドットの大きさ等を調整すればよい。パターニング間隔は特に限定的ではないが、通常1cm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは250μm以下である。
【0039】
塗布方法については特に限定はなく、公知の塗布方法を適宜採用すれば良く、例えば、スピーンコート、スプレーコート、ディップコート等の方法を適用できる。また、屈折率分布型微小レンズ(マイクロレンズ)を作製する場合には、注射器、ディスペンサー分注装置等によりペーストを基材上に滴下してもよいし、精密な円形微小ドットを形成する印刷技法(例えば、インクジェット法を使用した印刷)等を利用してもよい。
【0040】
また、回折格子を作製する場合には、線形にパターニングすればよい。線形のパターニングには、染色等に用いられているスクリーニング(スクリーン印刷)を利用してもよい。線形にパターニングする場合には、線形幅は光学素子(回折格子)の所望の特性に応じて適宜設定できるが、通常500μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。さらに、より精密なパターンを形成する場合には、フォトリソグラフィー法によって、ガラス基材表面に無機膜によるパターニングを行い、ガラス基材の露出部分に金属化合物を含むペーストを塗布すればよい。
【0041】
上記した何れのペースト塗布方法においても、塗布厚は特に限定されず、ペースト中に含まれる銅化合物の種類、含有量等によって適宜設定できるが、通常2mm以下、特に1.5mm以下、特に好ましくは1mm以下である。
【0042】
ペーストを塗布した後、通常、熱処理に先だって塗膜を乾燥する。乾燥条件については特に限定はなく、溶剤成分が十分に除去されてペーストが乾固させるように乾燥すればよく、通常100〜250℃で30分〜1.5時間、好ましくは150〜200℃で45分〜1時間程度加熱することにより効率よく乾燥することができる。
【0043】
次いで、乾燥した塗膜を熱処理する。熱処理温度は、通常300〜600℃程度、好ましくは350〜550℃程度の温度範囲であって、ガラス基材の軟化点を下回る温度とすればよい。熱処理時間は、温度に応じて適宜設定できるが、通常10分から100時間、好ましくは30分〜50時間程度、特に好ましくは1〜25時間程度である。熱処理雰囲気については、通常は空気中等の酸素含有雰囲気中でよい。
【0044】
上記した方法によって熱処理を行うことによって、銅イオンがガラス基材に拡散する。拡散した銅イオンは、処理条件によって異なるが、Cuイオン、CuO、金属銅微粒子等として存在し、拡散部分については、ガラス基材部分とは屈折率が異なるものとなる。屈折率の分布は連続的なものであり、通常はペーストを塗布した基材表面の屈折率が最大であり、拡散深度が大きくなるほど屈折率は小さくなる。熱処理後は、通常、室温まで放冷し、基材上に残っているペースト残留物を水洗すればよい。
【0045】
また、上記方法で屈折率分布型レンズ及び屈折率分布型レンズアレイを作製する際に、特に、ガラス基材が、酸化物換算量として、SiO:40〜82重量%、B:12〜50重量%、NaO、KO、LiO、RbO及びCsOから選ばれた少なくとも1種:2〜25重量%、MgO、CaO、BaO、ZnO、SrO及びPbOから選ばれた少なくとも1種:25重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は2重量%程度とすることが望ましい)、Al、La、Y、Ta及びGdから選ばれた少なくとも1種:20重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は5重量%程度とすることが望ましい)、Nb及びZrOから選ばれた少なくとも1種:10重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は1重量%程度とすることが望ましい)、As、Sb及びSnOから選ばれた少なくとも1種:5重量%以下(但し、所定の効果を十分に得るためには、下限値は0.5重量%程度とすることが望ましい)、並びにCl、Br及びIから選ばれた少なくとも1種:0.05〜10重量%を含むホウケイ酸塩ガラス基材である場合には、ガラス基材中に拡散した銅イオンがガラス基材に含まれるCl、Br及びIから選ばれた少なくとも1種のハロゲン原子と反応してハロゲン化銅となる。このハロゲン化銅が拡散することにより、ガラス内に紫外線吸収効果、レーザー加工性向上効果等を付与することができる。
【0046】
以上の過程を経て、屈折率分布レンズ、屈折率分布型レンズアレイ、回折格子等の屈折率分布型光学素子が製造できる。
【0047】
例えば、屈折率分布型レンズであれば、レーザー光線の焦点補正、光ファイバー間の空間での光結合等の用途に使用できる。屈折率分布型レンズアレイであれば、光通信における光分波、並列画像処理等の用途に使用できる。また、回折格子であれば、センサ素子等の用途に使用できる。
【発明の効果】
【0048】
本発明の製造方法によれば、アルカリ金属成分を含むガラス基材に、銅化合物を含むペーストを塗布し、空気中等で加熱するという簡単な操作によって、ガラス基材の所望部分に連続的に変化する屈折率分布を形成して屈折率分布型レンズを製造することができる。この方法によれば、特定の処理雰囲気(例えば、還元雰囲気)等を必要としないため、煩雑な製造工程を要することなく、低コストで屈折率分布型レンズを製造できる。
【0049】
また、溶融塩を用いないため、溶融塩の厳密な管理が必要なく、熱処理温度及びペースト中の銅化合物濃度を独立に制御することができる。さらに、溶融塩に浸漬するのと異なり、基材上の所望部位にペーストを塗布するため、基材上に阻止膜等のマスクを形成する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1において作製した屈折率分布型レンズの、レンズ中心から半径方向の距離と銅の分散量との関係を示すEDX線分測定結果図である。
【図2】実施例1において作製した屈折率分布型レンズの中心部における、基材表面からの深さと銅の分散量及び屈折率との関係を示す図である。
【図3】実施例2の屈折率分布型マイクロレンズアレイの製造における、ペーストのパターニング模式図である。200μmは塗布円の直径を示し、300μmは塗布円のパターニング間隔を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0052】
実施例1
(屈折率分布型レンズの作製)
市販SiO−CaO−NaO系ガラス(型番:B270、ショット製)を縦10mm×横10mm×厚さ3mmに加工し、洗浄後、片面にCuSO:55重量%、NaSO:10重量%、アクリル樹脂:15重量%、セルロース樹脂:10重量%及びテルピネオール:10重量%からなるペースト(銅化合物100重量部に対して、有機溶剤18.2重量部、樹脂成分45.5重量部及び添加剤18.2重量部を配合したもの)を注射器滴下により円形(半径0.1〜0.2mm)に塗布した。ペースト厚さは0.2mmとなるように塗布した。
【0053】
次いで、ペーストを塗布したガラス基材を200℃で1時間乾燥後、空気中510℃で12時間熱処理を行った。
【0054】
熱処理後の試料について、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)により銅の分布を測定することにより、塗布したペーストの中心から半径300μm程度の範囲に銅が多く分布(拡散)していることを確認した。EDX線分測定結果図を図1に示す。
【0055】
また、深さ方向に対してEDXにより銅の分布を測定することにより約25μmまで銅が分布していることを確認した。また、ガラス基材の深さ方向における屈折率の分布を調べたところ、ガラス基材との屈折率差が最大で約1×10−2増大し、表面から約20μmまで屈折率の分布が生じていることが分かった。図2に、塗布ペースト中心部における、基材表面からの深さと銅の分布及び屈折率の関係を示す。図2の矢印(←・→)は、グラフが屈折率と検出強度のどちらに対応するかを示すものである。
【0056】
実施例2
(屈折率分布型マイクロレンズアレイの作製)
実施例1と同じガラス(加工後のもの)及び同じペーストを用意した。
【0057】
洗浄後のガラスの片面に、ディスペンサー分注試験装置を用いて、ペーストを円形(直径200μm)に塗布した。塗布は、パターニング間隔(円の中心から隣接の円の中心までの間隔)を300μmとし、20×20点(計400点)行った。ペーストの厚さは、1mmとなるように塗布した。パターニングの模式図を図3に示す。
【0058】
次いで、ペーストを塗布したガラス基材を200℃で1時間乾燥後、空気中500℃で12時間熱処理を行った。
【0059】
熱処理後の試料について、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)により銅の分布を測定することにより、銅が円形に滴下した部分に分布していることを確認した。またガラス基材の深さ方向における屈折率の分布を調べたところ、ガラス基材との屈折率差が最大で約1×10−2増大し、表面から約20μmまで屈折率の分布が生じていることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属成分をガラス構成成分として含むガラス基材に、銅化合物、有機樹脂及び有機溶剤を含有するペーストを塗布し、ガラス基材の軟化温度より低い温度で熱処理することを特徴とする屈折率分布型光学素子の製造方法。
【請求項2】
屈折率分布型光学素子がレンズ、レンズアレイ又は回折格子である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ガラス基材が、アルカリ金属成分を酸化物換算で2重量%以上含むガラスからなり、該ガラスがケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス又は弗リン酸塩ガラスである請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
ガラス基材が、SiO:40〜82重量%、B:12〜50重量%、NaO、KO、LiO、RbO及びCsOから選ばれた少なくとも1種:2〜25重量%、MgO、CaO、BaO、ZnO、SrO及びPbOから選ばれた少なくとも1種:25重量%以下、Al、La、Y、Ta及びGdから選ばれた少なくとも1種:20重量%以下、Nb及びZrOから選ばれた少なくとも1種:10重量%以下、As、Sb及びSnOから選ばれた少なくとも1種:5重量%以下、並びにCl、Br及びIから選ばれた少なくとも1種:0.05〜10重量%を含むホウケイ酸塩ガラス基材である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの製造方法により製造された屈折率分布型光学素子。
【請求項6】
レンズ、レンズアレイ又は回折格子である請求項5記載の屈折率分布型光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/080283
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510198(P2006−510198)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002245
【国際出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(591110654)五鈴精工硝子株式会社 (19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】