説明

工作機械用主軸装置

【課題】軸受スリーブがハウジングに対して十分に軸方向に移動ができない場合であっても、後側軸受の損傷を回避することができる工作機械用主軸装置を提供する。
【解決手段】主軸装置10は、ステータ11を有するハウジング12と、ロータ13を有する回転自在な回転軸14と、回転軸14の工具側に配置されて回転軸14を回転自在に支持する前側軸受15,15と、ハウジング12に嵌合して回転軸14の軸方向に移動可能な軸受スリーブ16と、回転軸14の反工具側に配置されると共に軸受スリーブ16に内嵌され、回転軸14を回転自在に支持する後側軸受17,17と、を備える。後側軸受17,17は、一対のアンギュラ玉軸受によって構成され、一対のアンギュラ玉軸受は、軸受スリーブ16にすきま嵌めで内嵌されており、軸受スリーブ16に対して軸方向に移動可能に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械用主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の主軸装置として、図5は、特許文献1に記載のモータビルトイン式の主軸装置を示している。主軸装置100は、ハウジング101の内部に回転軸102が配置されており、回転軸102は、前側軸受103、後側軸受104によって回転自在に支承されている。また、後側軸受104に外嵌される軸受スリーブ105は、ハウジング101の内周面に嵌合して取り付けられており、軸方向への摺動が可能なように構成されている。
【0003】
このような主軸装置100では、回転による前側及び後側軸受103,104やモータ106の発熱によって、回転軸102が発熱して軸方向に膨張するが、この回転軸102の伸びは、軸受スリーブ105をハウジング101に対して軸方向に移動させることで吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭63−25883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、軸受スリーブ105がハウジング101に対して傾いていたり、軸受スリーブ105とハウジング101との間のすきまが熱膨張により予想以上に減少したり、不均一な発熱で部品が変形したりすると、軸受スリーブ105がハウジング101に対して十分に軸方向に移動することができず、後側軸受104に大きな負荷が掛かって、後側軸受104が損傷するという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸受スリーブがハウジングに対して十分に軸方向に移動ができない場合であっても、後側軸受の損傷を回避することができる工作機械用主軸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) ステータを有するハウジングと、
ロータを有する回転自在な回転軸と、
前記回転軸の工具側に配置されて前記回転軸を回転自在に支持する前側軸受と、
前記ハウジングに嵌合して前記回転軸の軸方向に移動可能な軸受スリーブと、
前記回転軸の反工具側に配置されると共に前記軸受スリーブに内嵌され、前記回転軸を回転自在に支持する後側軸受と、
を備えた主軸装置であって、
前記後側軸受は、複数の玉軸受によって構成され、
前記複数の玉軸受は、前記軸受スリーブにすきま嵌めで内嵌されており、前記軸受スリーブに対して軸方向に移動可能に配置されていることを特徴とする工作機械用主軸装置。
(2) 前記複数の玉軸受の各外輪は、前記軸受スリーブの段部と、前記軸受スリーブに固定された外輪押えによって、前記軸受スリーブに対する軸方向移動を規制されており、
前記軸受スリーブの段部と該段部に対向する前記玉軸受の外輪との間、及び前記外輪押えと該外輪押えに対向する前記玉軸受の外輪との間の少なくとも一方には、弾性体が配置されていることを特徴とする(1)に記載の工作機械用主軸装置。
(3) 前記ハウジングは、前記ステータが取り付けられるハウジング本体と、該ハウジング本体の前側に設けられ、前記前側軸受が内嵌される前側ハウジングと、を有し、
前側ハウジングは、前記回転軸、前記ロータ、前記前側軸受、前記軸受スリーブ、前記後側軸受とともに、前記ハウジング本体に対して取り外し可能であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の工作機械用主軸装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の工作機械用主軸装置によれば、後側軸受は、複数の玉軸受によって構成され、複数の玉軸受は、軸受スリーブにすきま嵌めで内嵌されており、軸受スリーブに対して軸方向に移動可能に配置されている。これにより、回転軸の伸びに対して軸受スリーブがハウジングに対して十分に軸方向に移動ができない場合であっても、後側軸受が軸受スリーブに対して軸方向に移動することで、後側軸受に作用する負荷が減少され、後側軸受の損傷を回避することができる。
【0009】
また、軸受スリーブの段部と該段部に対向する玉軸受の外輪との間、及び外輪押えと該外輪押えに対向する玉軸受の外輪との間の少なくとも一方には、弾性体が配置されているので、上記効果に加えて、微振動などによるフレッチングを防止することができる。
【0010】
さらに、前側ハウジングは、回転軸、ロータ、前側軸受、軸受スリーブ、後側軸受とともに、ハウジング本体に対して取り外し可能である。このため、これら部品の抜き取り時や組み込み時に軸受スリーブが他の部品とぶつかって外力を受けても、後側軸受が軸受スリーブに対して軸方向に移動することで後側軸受の損傷を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の主軸装置の断面図である。
【図2】主軸装置の要部を示す拡大断面図である。
【図3】(a)は、ボルトを外して前側ハウジングとの一体物をハウジング本体から抜き出す過程を示す図であり、(b)は、前側ハウジングとの一体物をハウジング本体から抜き出した状態を示す図である。
【図4】主軸装置の変形例の要部を示す拡大断面図である。
【図5】従来の主軸装置の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る工作機械用主軸装置について図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、主軸装置10は、モータビルトイン式のものであり、ステータ11を有するハウジング12と、ロータ13を有して、ハウジング12の内部に挿入される回転軸14と、回転軸14のロータ13に対して工具側に配置されて回転軸14を回転自在に支持する前側軸受15,15と、ハウジング12に嵌合して回転軸14の軸方向に移動可能な軸受スリーブ16と、回転軸14のロータ13に対して反工具側に配置されると共に軸受スリーブ16に内嵌され、回転軸14を回転自在に支持する後側軸受17,17と、を備える。
【0014】
ハウジング12は、略円筒形状のハウジング本体21と、ハウジング本体21の前側に嵌合しボルト28によって固定される前側ハウジング22と、ハウジング本体21の後側に嵌合固定される後側ハウジング23とを有している。前側ハウジング22の前端には、前蓋24が締結固定され、後側ハウジング23の後端には、後蓋25が締結固定されている。
【0015】
軸受スリーブ16は、後側ハウジング23の内周面にすきま嵌めで支持されており、軸受スリーブ16は、後側ハウジング23に対して軸方向に移動可能に配置されている。なお、軸受スリーブ16は、すきま嵌めに限らず、ボールブッシュやボールスプライン、静圧軸受などによって、後側ハウジング23に対して軸方向に移動可能に配置されてもよい。
【0016】
ステータ11は、ハウジング本体21の内周に冷却用溝26aを有する冷却筒26を介してハウジング本体21に固定されており、回転軸14の軸方向中間部に焼き嵌め締結されたスリーブ27に焼き嵌めされたロータ13と対向する。これにより、ステータ11が発生する回転磁界によって回転力が与えられ回転軸14を回転駆動する。
【0017】
回転軸14の内部には、軸方向に延びるドローバー31と、ドローバー31の先端側に設けられるコレット32と、ドローバー31と回転軸14との間に設けられ、コレット32を反工具側に引き込む皿バネ33と、が組み込まれている。従って、コレット32に装着された工具ホルダ34は、反工具側に引き込まれることで、回転軸14の工具側内周面に形成されたテーパ面14aと嵌合する。また、後側ハウジング23の後方には、回転軸14の内径部に組み込まれた皿バネ33を圧縮して工具ホルダ34をアンクランプするアンクランプユニット35が取り付けられている。
【0018】
後側ハウジング23には、センサ61が取り付けられており、センサ61は、センサ61と対向して回転軸14に取り付けられた歯車エンコーダ62で、回転軸14の回転速度位相などを測定する。
【0019】
前側軸受15,15は、転動体として玉41,41を有する一対のアンギュラ玉軸受を背面組合せすることで構成され、内輪42,42が回転軸14に外嵌され、外輪43,43が前側ハウジング22に内嵌される。内輪42,42は、内輪間座44を介して回転軸14の前側段部14aと、回転軸14に螺合するナット45とによって挟持されて回転軸14に対して軸方向に位置決めされ、また、ナット45を締め付けることで、前側軸受15,15には定位置予圧が付与される。外輪43,43は、外輪間座46を介して前側ハウジング22の段部22aと前蓋24とによって挟持されて前側ハウジング22に対して軸方向に位置決めされる。
【0020】
図2にも示すように、後側軸受17,17も、転動体として玉51,51を有する一対のアンギュラ玉軸受を背面組合せすることで構成され、内輪52,52が回転軸14に外嵌され、外輪53,53が軸受スリーブ16に内嵌される。内輪52,52は、内輪間座54と歯車エンコーダ62を介して回転軸14の後側段部14bと、回転軸14に螺合するナット55とによって挟持されて回転軸14に対して軸方向に位置決めされる。また、ナット55を締め付けることで、後側軸受17,17には、定位置予圧が付与される。外輪53,53は、外輪間座56を介して軸受スリーブ16の段部(内向き鍔部)16aと、軸受スリーブ16に固定される外輪押え57とによって挟持される一方、軸受スリーブ16の段部16aと段部16aに対向する後側軸受の外輪53との間、及び外輪押え57と外輪押え57に対向する後側軸受の外輪53との間には、すきまΔ1、Δ2がそれぞれ設けられている。従って、外輪53,53は、軸受スリーブ16に対して軸方向に移動可能に配置されている一方、軸受スリーブの段部16aと外輪押え57とによって、軸受スリーブ16に対する軸方向移動が規制される。
なお、すきまΔ1、Δ2はいずれか一方に設けられていてもよく、また、すきまΔ1、Δ2は同じすきま量であってもよいし、異なるすきま量であってもよい。
【0021】
このように構成された主軸装置10では、通常、回転による前側及び後側軸受15,15,17,17の発熱により、回転軸14が発熱して軸方向に膨張し、回転軸14が伸びる。通常、この回転軸14の伸びは、軸受スリーブ16をハウジング12に対して軸方向に移動させることで吸収されるが、なんらかの原因で、回転軸14の伸びに対して軸受スリーブ16がハウジング12に対して十分に軸方向に移動ができない場合がある。このとき、上述した主軸装置10では、上述したすきまΔ1、Δ2によって後側軸受17,17が軸受スリーブ16に対して軸方向に移動することができるように構成されているので、後側軸受17,17に作用する負荷が減少され、後側軸受17,17の損傷を回避することができる。
【0022】
また、図3に示すように、本実施形態の主軸装置10は、前側ハウジング22とハウジング本体21とを締結するボルト28を外すことで、前側ハウジング22は、回転軸14、ロータ13、前側軸受15,15、軸受スリーブ16、後側軸受17,17とともに、一体となってハウジング本体21に対して取り外すことができる。このため、これら部品の抜き取り時や組み込み時に軸受スリーブ16が他の部品とぶつかって外力を受けても、後側軸受17,17が軸受スリーブ16に対して軸方向に移動することで、後側軸受17,17の損傷を抑えることができる。
【0023】
図4は、本発明の変形例に係る主軸装置の要部拡大断面図である。この変形例では、軸受スリーブ16の段部16aと該段部16aに対向する玉軸受17の外輪53との間のすきま、及び外輪押え57と該外輪押え57に対向する玉軸受17の外輪53との間のすきまに、弾性体としての一対のウェーブワッシャ70,70が配置されている。このような構成によれば、前述した回転軸14の伸びに対して軸受スリーブ16がハウジング12に対して十分に軸方向に移動ができない場合においても後側軸受17、17が軸受スリーブ16に対して軸方向に移動することを許容して、後側軸受17,17の損傷を回避することができるとともに、微振動などによるフレッチングを防止することができる。
また、後側軸受17,17の外輪53,53の外周面と対向する軸受スリーブ16の内周面に形成された溝には、Oリング71,71がそれぞれ配置されているので、軸受スリーブ16に対する後側軸受17,17の軸方向移動を許容しつつ、微振動などによるフレッチングをより良く防止することができる。
なお、弾性体としては、ウェーブワッシャ70に限定されるものでなく、樹脂スペーサや、皿ばね、コイルばねのようなばね部材によって構成されてもよい。
【0024】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
上述した実施形態は、後側軸受を一対のアンギュラ玉軸受によって構成したが、複数の玉軸受であれば種類や数はこれに限定されず、使用状態に応じて適宜設計することができる。また、前側軸受についても、種類や数は上記実施形態に限定されるものでない。さらに、前側軸受及び後側軸受の潤滑方式も任意に設定することができる。
【符号の説明】
【0025】
10 主軸装置
11 ステータ
12 ハウジング
13 ロータ
14 回転軸
15 前側軸受
16 軸受スリーブ
17 後側軸受
21 ハウジング本体
22 前側ハウジング
23 後側ハウジング
70 ウェーブワッシャ(弾性体)
71 Oリング
Δ1,Δ2 すきま

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータを有するハウジングと、
ロータを有する回転自在な回転軸と、
前記回転軸の工具側に配置されて前記回転軸を回転自在に支持する前側軸受と、
前記ハウジングに嵌合して前記回転軸の軸方向に移動可能な軸受スリーブと、
前記回転軸の反工具側に配置されると共に前記軸受スリーブに内嵌され、前記回転軸を回転自在に支持する後側軸受と、
を備えた主軸装置であって、
前記後側軸受は、複数の玉軸受によって構成され、
前記複数の玉軸受は、前記軸受スリーブにすきま嵌めで内嵌されており、前記軸受スリーブに対して軸方向に移動可能に配置されていることを特徴とする工作機械用主軸装置。
【請求項2】
前記複数の玉軸受の各外輪は、前記軸受スリーブの段部と、前記軸受スリーブに固定された外輪押えによって、前記軸受スリーブに対する軸方向移動を規制されており、
前記軸受スリーブの段部と該段部に対向する前記玉軸受の外輪との間、及び前記外輪押えと該外輪押えに対向する前記玉軸受の外輪との間の少なくとも一方には、弾性体が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の工作機械用主軸装置。
【請求項3】
前記ハウジングは、前記ステータが取り付けられるハウジング本体と、該ハウジング本体の前側に設けられ、前記前側軸受が内嵌される前側ハウジングと、を有し、
前側ハウジングは、前記回転軸、前記ロータ、前記前側軸受、前記軸受スリーブ、前記後側軸受とともに、前記ハウジング本体に対して取り外し可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械用主軸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−40667(P2012−40667A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186039(P2010−186039)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】