説明

差動制限装置付き差動装置による前輪駆動車の改良

【課題】車輌が一対の前輪にて操舵され且つ差動制限装置を伴う差動装置を経て駆動されるようになっていて、旋回走行中に差動制限装置が作動されると、前輪部に於いて遠心力により接地荷重が増大した旋回外側の前輪により主として駆動されることにより、車輌が旋回内側へ巻き込まれるオーバーステアが生ずる恐れがあることに対処する。
【解決手段】車輌の旋回走行中に差動制限装置が作動されるとき、荷重移動手段により一対の前輪の旋回外側の前輪より旋回内側の前輪へ荷重を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵輪である前輪が差動制限装置を伴う差動装置により駆動される車輌の操舵性に関する改良に係る。
【背景技術】
【0002】
前後輪へのトルク配分量が変更可能なトランスファーと、左右の駆動輪への差動制限力が変更可能な差動制限装置とを備えた4輪駆動車に於いて、前後加速度検出手段により検出された車輌の前後加速度と横加速度検出手段により検出された車輌の横向加速度の値に基づいて車輌の走行状態を判別し、その判別に基づいて前記トランスファーによるトルク配分量と前記差動制限装置による差動制限力を最適に制御する駆動力制御手段を設けることが下記の特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平1-95939
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一対の前輪と一対の後輪とを有し、一対の前輪にて操舵され且つ該一対の前輪が差動制限装置を伴う差動装置を経て駆動されるようになった車輌に於いて、車輌の旋回走行中に前記差動制限装置が作動されると、車輌は、その前輪部に於いて遠心力により接地荷重が増大した旋回外側の前輪により主として駆動されることにより、旋回内側へ巻き込まれるオーバーステア状態を起こす恐れがある。
【0004】
本発明は、一対の前輪と一対の後輪とを有し、一対の前輪にて操舵され且つ該一対の前輪が差動制限装置を伴う差動装置を経て駆動されるようになっている車輌に生じる恐れのある上記のメカニズムによるオーバーステアに着目し、これを抑制することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するものとして、本発明は、一対の前輪と一対の後輪とを有し、前記一対の前輪にて操舵され且つ該一対の前輪が差動制限装置を伴う差動装置を経て駆動されるようになっており、該一対の前輪間に荷重を移動させる手段を備えた車輌にして、車輌の旋回走行中に前記差動制限装置が作動されるとき、前記荷重移動手段が前記一対の前輪の旋回外側の前輪より旋回内側の前輪へ荷重を移動させるようになっていることを特徴とする車輌を提案するものである。
【0006】
前記荷重移動手段は、前記一対の前輪の間に作用する荷重移動手段を含んでおり、該荷重移動手段の荷重移動作動は、旋回外側の前輪より旋回内側の前輪へ荷重を移動させるものであってよい。
【0007】
また前記荷重移動手段は、前記一対の後輪の間に作用する荷重移動手段を含んでおり、該荷重移動手段の荷重移動作動は、旋回内側の後輪より旋回外側の後輪へ荷重を移動させるものであってもよい。
【0008】
前記荷重移動手段は、能動スタビライザまたは能動サスペンションであってよい。
【発明の効果】
【0009】
上記の如く一対の前輪と一対の後輪とを有し、前記一対の前輪にて操舵され且つ該一対の前輪が差動制限装置を伴う差動装置を経て駆動されるようになっており、該一対の前輪間に荷重を移動させる手段を備えた車輌に於いて、車輌の旋回走行中に前記差動制限装置が作動されるとき、前記荷重移動手段が前記一対の前輪の旋回外側の前輪より旋回内側の前輪へ荷重を移動させるようになっていれば、車輌の旋回走行中には、旋回外側の前輪より旋回内側の前輪への荷重の移動が行われるので、車体に作用する遠心力による旋回内側の前輪に於ける接地荷重の低減が抑制され、このとき差動制限装置が作動されても、車輌がその前輪部に於いて主として旋回外側の前輪により駆動されることはなくなり、車輌が旋回内側へ巻き込まれるオーバーステア状態が生ずることが回避される。
【0010】
前記荷重移動手段が、一対の前輪の間に作用する荷重移動手段を含んでいるときには、荷重移動手段を一対の前輪に対し直接作用させて旋回外側の前輪より旋回内側の前輪へ荷重を移動させることができる。
【0011】
また前記荷重移動手段が、一対の後輪の間に作用する荷重移動手段を含んでいるときには、旋回外側の前輪と旋回内側の後輪とを支点として旋回外側の後輪を押し上げることにより、一対の前輪間にて旋回外側より旋回内側へ荷重を移動させることができる。
【0012】
前記荷重移動手段として能動スタビライザまたは能動サスペンションが使用されれば、車輌の走行安定性向上のために設けられている能動スタビライザや能動サスペンションを利用して本発明を実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明による車輌の一つの実施の形態を示す概略図である。但し、本発明は、一対の前輪と一対の後輪とを有し、一対の前輪にて操舵され且つ該一対の前輪が差動制限装置を伴う差動装置を経て駆動されるようになっている車輌に於いて、その旋回走行中に差動制限装置が作動されるときの操舵性を一対の前輪間に荷重を移動させる手段の制御により改善するという、制御上のソフトウエア的事項であり、図1に示されている構成自体は、全て公知のものである。
【0014】
図1に於いて、10fl,10fr,10rl,10rrはそれぞれ一つの4輪自動車の左前輪、右前輪、左後輪、右後輪であり、それぞれ少なくともサスペンションスプリングを含む車輪懸架装置12fl,12fr,12rl,12rrにより図には示されていない車体に懸架されている。左前輪10flと右前輪10frが操舵輪であり、ステアリングホイール(ハンドル)14の回動操作に応じて、ステアリングカラム16、電動式パワーステアリング装置(EPS)18f、タイロッド20f、左右のナックルアーム22fl,22frを経て車輪懸架装置12fl,12fr内に組み込まれたキングピンの周りに回動されるようになっている。
【0015】
24fは一対の前輪10flと10frの間に作用する能動スタビライザであり、中央の捩じりアクチュエータ26fと、その両側に延在する一対のトーションバー半体28fl,28frと、その外端部に連結された一対のアーム30fl,30frとを有しており、アーム30flおよび30frの外端にて車輪懸架装置12flおよび12frに連結され、常時は左右の前輪10flと10frの間の相対的バウンドとリバウンドに対し弾力的な復元力を作用させ、その際、捩じりアクチュエータ26fによりトーションバー半体28flと28frの相対的回動位置が変更されることにより、左右の前輪10flと10frの間の相対的バウンドとリバウンドに対し及ぼす弾力的な復元力がバウンド側とリバウンド側とで異なるように調整され、主として前輪部に於いて車体のロール制御を行うようになっている。
【0016】
また前輪10flおよび10frは、内燃機関または内燃機関と電動発電機とを組み合わせた動力源装置32より差動歯車装置34を経て駆動されるようになっているが、差動歯車装置34には差動制限装置36が組み合わされており、この差動制限装置36が作動(係合)されることにより差動歯車装置34の差動作用は制限されるようになっている。
【0017】
図示の例では、同様の能動スタビライザ24rが一対の後輪10rlと10rrの間にも作用するよう設けられている。即ち、能動スタビライザ24rは、中央の捩じりアクチュエータ26rと、その両側に延在する一対のトーションバー半体28rl,28rrと、その外端部に連結された一対のアーム30rl,30rrとを有しており、アーム30rlおよび30rrの外端にて車輪懸架装置12rlおよび12rrに連結され、常時は左右の後輪10rlと10rrの間の相対的バウンドとリバウンドに対し弾力的な復元力を作用させ、その際、捩じりアクチュエータ26rによりトーションバー半体28rlと28rrの相対的回動位置が変更されることにより、左右の後輪10rlと10rrの間の相対的バウンドとリバウンドに対しおよぼす弾力的な復元力がバウンド側とリバウンド側とで異なるように調整され、主として後輪部に於いて車体のロール制御を行うようになっている。
【0018】
能動スタビライザ24f,24r、動力源装置32および差動制限装置36はいずれもマイクロコンピュータを備えた電子制御装置(ECU)38によりその作動が制御されるようになっている。電子制御装置には、操舵角センサ40より操舵角を示す信号が供給されるほか、図には示されていないアクセルペダルやブレーキペダルの操作状態を検出するアクセルセンサやブレーキセンサからの信号に加えて、他の種々のセンサやスイッチ等より車輌の運行状態に関する種々のパラメータを示す信号が供給されており、電子制御装置はそれらの信号より得られる情報に基づいて予め装填された制御プログラムに従って種々の制御を行い、その一環として、差動制限装置36の作動を制御するが、その際、操舵角センサ40からの信号より得られる前輪の操舵状態に基づき、前輪が或る所定の操舵角以上にて操舵される状態で差動制限装置36を作動(係合)させるときには、能動スタビライザ24fおよび24rを、その本来のロール制御のために作動とは別に、一対の前輪10flと10frの間に於ける荷重配分を、旋回外側の前輪より旋回内側の前輪への荷重の移動が生ずるように制御する。
【0019】
これは、図1に例示する如く一対の前輪および一対の後輪の両方に能動スタビライザ24fおよび24rが設けられている場合には、前輪側の能動スタビライザ24fを前輪荷重が旋回外側の前輪により旋回内側の前輪へ移動されるよう能動作動させ、また後輪側のスタビライザ24rを後輪荷重が旋回内側の後輪より旋回外側の後輪へ移動されるように能動作動させるものである。前輪側能動スタビライザ24fまた後輪側能動スタビライザ24rの何れか一方のみが設けられている場合には、それが上記と同じ要領にて作動されればよい。
【0020】
図2は、一対の前輪および一対の後輪のそれぞれの懸架装置が能動サスペンションとして構成されている車輌に於いて本発明を実施した場合の要部の構成を示す概略図である。この場合、図には詳細には示されていないが、懸架装置12fl,12fr,12rl,12rrには公知の能動ショックアブソーバが組み込まれており、それらが電子制御装置38により能動的に制御されることにより、図1について説明したのと同じ要領により、一対の左右の前輪間および一対の左右の後輪間にて荷重を左右に移動させることができるようになっている。図2に於いて、その他の図1に示す構成と同じ構成の部分には、図1に於けると同じ符号を付し、更なる重複的説明は明細書の冗長化を避けるため省略する。
【0021】
かくして、前輪10flおよび10frが或る所定の角度以上にて操舵されて車輌が旋回走行している状態で差動制限装置36が作動されるときには、能動スタビライザ24fおよび24rまたは能動サスペンションとして構成された懸架装置12fl,12fr,12rl,12rrにより、一対の前輪の旋回外側の前輪より旋回内側の前輪へ荷重が移動されるので、車体に作用する遠心力による旋回内側の前輪に於ける接地荷重の低減が抑制され、差動制限装置36が作動されても、車輌がその前輪部に於いて主として旋回外側の前輪により駆動されることはなくなり、車輌が旋回内側へ巻き込まれるオーバーステア状態が生ずることが回避される。
【0022】
以上に於いては本発明を2つの実施の形態について詳細に説明したが、これらの実施の形態について本発明の範囲内にて種々の変更が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による車輌の一つの実施の形態を示す概略図。
【図2】本発明による車輌の他の一つの実施の形態を示す概略図。
【符号の説明】
【0024】
10fl,10fr,10rl,10rr…左前輪、右前輪、左後輪、右後輪、12fl,12fr,12rl,12rr…車輪懸架装置、14…ステアリングホイール(ハンドル)、16…ステアリングカラム、18f,18r…電動式パワーステアリング装置、20f,20r…タイロッド、22fl,22fr,22rl,22rr…ナックルアーム、24f,24r…能動スタビライザ、26f,26r…捩りアクチュエータ、28fl,28fr,28rl,28rr…トーションバー半体、30fl,30fr,30rl,30rr…アーム、32…動力源装置、34…差動歯車装置、36…差動制限装置、38…電子制御装置(ECU)、40…操舵角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の前輪と一対の後輪とを有し、前記一対の前輪にて操舵され且つ該一対の前輪が差動制限装置を伴う差動装置を経て駆動されるようになっており、該一対の前輪間に荷重を移動させる手段を備えた車輌にして、車輌の旋回走行中に前記差動制限装置が作動されるとき、前記荷重移動手段が前記一対の前輪の旋回外側の前輪より旋回内側の前輪へ荷重を移動させるようになっていることを特徴とする車輌。
【請求項2】
前記荷重移動手段は前記一対の前輪の間に作用する荷重移動手段を含んでおり、該荷重移動手段の荷重移動作動は、旋回外側の前輪より旋回内側の前輪へ荷重を移動させるものであることを特徴とする請求項1に記載の車輌。
【請求項3】
前記荷重移動手段は前記一対の後輪の間に作用する荷重移動手段を含んでおり、該荷重移動手段の荷重移動作動は、旋回内側の後輪より旋回外側の後輪へ荷重を移動させるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の車輌。
【請求項4】
前記荷重移動手段は能動スタビライザであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車輌。
【請求項5】
前記荷重移動手段は能動サスペンションであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車輌。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−216847(P2007−216847A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40152(P2006−40152)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】