説明

差動装置

【課題】4輪自動車の前輪又は後輪の左右輪間に配設する差動装置において、動力ロスの抑制と直進安定性の向上とを高いレベルで両立した優れた差動装置を提供すること。
【解決手段】差動装置1は、2つの出力要素間に差動を発生させる差動モータ40と、4輪自動車100の旋回半径の大きさに相関を有する指標値を計測する計測センサと、差動モータ40を制御するためのモータ制御ユニット6と、指標値に対して差動モータ40で発生させる最大トルクである差動制限トルクを配列したトルクマップを格納する記憶手段604とを有してなる。モータ制御ユニット6は、差動制限トルクを上限トルク値として副駆動輪50L、Rの回転差が直進回転差に一致するように差動モータ40を制御する。トルクマップでは、指標値に基づいて推定される旋回半径が大きくなるに伴って差動制限トルクが単調に増加している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4輪自動車の前輪又は後輪の左右輪間に配置する差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、4輪自動車の従動輪の左右輪の間に配設する差動装置として、例えば、4輪自動車が旋回走行する際の内輪差を吸収するよう、左右輪の回転差を積極的に発生させるように構成したものがある(特許文献1参照。)。この差動装置では、4輪自動車が旋回走行する際の内輪差を積極的に吸収することで、旋回走行時における走行安定性を向上しようとしている。このような差動装置では、差動モータの回転トルクを上記左右輪の差動トルクに変換している。さらに、上記の構成の差動装置を利用し、直進走行状態における走行安定性を向上するよう、上記差動モータの回転を規制して左右輪間の回転差を抑制するように構成したものがある。
【0003】
しかしながら、上記従来の差動装置では、次のような問題がある。すなわち、完全な直進状態に近い大旋回半径の走行状態や、タイヤ空気圧等に起因して左右輪の径差が異なる場合等では、左右輪間で適正な回転差が生じている。このような走行状態で上記差動モータの回転を規制して左右輪の回転差を規制すると、かえって走行安定性が損なわれたり、上記4輪自動車のエンジン動力が損失するおそれがある。
【0004】
【特許文献1】特開平11−91383号公報
【特許文献2】特開2000−203295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を鑑みてなされたものであり、4輪自動車の前輪又は後輪の左右輪間に配設する差動装置において、動力ロスの抑制と直進安定性の向上とを高いレベルで両立した優れた差動装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、4輪自動車の前輪又は後輪の左右輪の間に配設された差動装置であって、
該差動装置は、上記左右輪にそれぞれ独立して連結された2つの出力要素と、該2つの出力要素間に差動を発生させる差動モータと、上記4輪自動車の旋回半径の大きさに相関を有する指標値を計測する計測センサと、上記差動モータを制御するためのモータ制御ユニットと、上記指標値に対して上記差動モータで発生させる最大トルクである差動制限トルクを配列したトルクマップ及び上記4輪自動車が直進する際の上記左右輪の回転差である直進回転差を格納する記憶手段とを有してなり、
上記モータ制御ユニットは、上記指標値に基づいて上記トルクマップを参照して上記差動制限トルクを得ると共に、該差動制限トルクを上限トルク値として上記左右輪の回転差が上記直進回転差に一致するように上記差動モータを制御するように構成してあり、
上記トルクマップでは、上記指標値に基づいて推定される上記旋回半径が大きくなるに伴って上記差動制限トルクが単調に増加していることを特徴とする差動装置にある(請求項1)。
【0007】
上記第1の発明の差動装置は、上記旋回半径の大きさに相関を有する指標値を計測する計測センサと、上記差動モータを制御するモータ制御ユニットと、上記指標値に対して上記差動モータで発生させる最大トルクである差動制限トルクを配列したトルクマップ及び上記4輪自動車が直進する際の上記左右輪の回転差である直進回転差を格納する記憶手段とを有している。
そして、上記モータ制御ユニットは、上記指標値に基づいて上記トルクマップを参照して上記差動制限トルクを得ると共に、該差動制限トルクを上限トルク値として上記差動モータを制御し、上記左右輪の回転差が上記直進回転差に一致するように制御する。ここで、上記トルクマップでは、上記指標値に基づいて推定される上記旋回半径が大きくなるに伴って上記差動制限トルクが単調に増加している。
【0008】
すなわち、上記差動装置の差動モータは、直進状態あるいは、直進状態に近い大旋回半径の走行状態において、直進状態を維持するためのアシスト力を上記差動制限トルクを上限として発生させる。ここで、この差動制限トルクは、上記4輪自動車の旋回半径が大きくなり完全な直進状態に近づくほど、単調に大きくなるように設定してある。なお、上記差動制限トルクが単調に大きくなるとは、広義の単調増加により差動制限トルクを変化させることを意味している。すなわち、旋回半径R1(>R2)に対しての差動制限トルクT1と、旋回半径R2に対しての差動制限トルクT2とが、常にT1≧T2の関係を満たすことを意味している。
【0009】
そして、上記差動装置は、上記トルクマップを参照して得た上記差動制限トルクを上限トルク値として上記差動モータを制御し、上記左右輪の回転差が上記直進回転差に一致するように制御する。すなわち、上記差動装置によれば、旋回半径が大きくなり、完全な直進状態に近づくほど、直進走行を維持するために上記差動モータの発生トルクが大きくなる。つまり、旋回半径が大きくなり、完全な直進状態に近づくほど、その直進状態を維持しようとするアシスト力が強くなる。
【0010】
そのため、上記差動装置を備えた上記4輪自動車を運転するドライバーは、完全な直進状態に近づくほど、ステアリングがスロー(反応が鈍い状態。)になったような直進安定性の高い優れたステアリング操作感を得ることができる。それ故、上記差動装置によれば、上記4輪自動車の直進安定性を向上して、走行安全性を高めることができる。
【0011】
一方、上記差動装置では、旋回半径が小さくなり、完全な直進状態から離れるに伴って上記差動制限トルクを小さくし、上記差動モータの発生トルクを小さくする。これにより、上記左右輪の回転差が生じる可能性が高い走行状態における動力ロスを抑制している。このようにして上記差動装置では、直進安定制御中における動力ロスを抑制している。
【0012】
以上のように、上記第1の発明の差動装置によれば、動力ロスの抑制と直進安定性の向上とを高いレベルで両立させることができる。
なお、上記差動制限トルクを配列した上記トルクマップとしては、上記指標値に応じて差動制限トルクの値を配列したデータマップのほか、上記指標値に基づいて上記差動制限トルクを計算する計算式や論理式等であっても良い。すなわち、上記トルクマップとは、上記指標値に基づいて上記差動制限トルクを決定し得るように構成されたすべてのものを意味している。
さらになお、上記左右輪の径差がない場合、上記直進回転差はゼロとなる。一方、上記左右輪に径差がある場合には、上記直進回転差がゼロ以外の値をもつようになる。
【0013】
第2の発明は、4輪自動車の前輪又は後輪の左右輪の間に配設された差動装置であって、
該差動装置は、上記左右輪にそれぞれ独立して連結された2つの出力要素と、該2つの出力要素間に差動を発生させる差動モータと、該差動モータを制御するためのモータ制御ユニットと、上記4輪自動車の旋回半径の大きさに相関を有する指標値を計測する計測センサとを有してなり、
上記モータ制御ユニットは、上記指標値についてしきい値処理を実施することにより、上記旋回半径が大きく上記4輪自動車が直進状態に近い走行状態にあると判断した際、上記差動モータを回生モードで運転し、かつ、
それ以外の走行状態にあると判断した際には、上記差動モータによる回生モードを実施しないように構成してあることを特徴とする差動モータにある(請求項6)。
【0014】
上記第2の発明の差動装置では、上記4輪自動車が直進状態にあると判定したときに上記差動モータを回生モードで運転する。このとき、上記差動モータが発電するのに要する駆動トルクは、上記左右輪の差動を制限するトルクとして作用する。それ故、上記差動装置を備えた4輪自動車では、上記差動モータが回生モードを実施する際に、上記左右輪の差動が抑制され、直進安定性が向上する。
なお、上記直進状態とは、完全な直進状態を中心として、旋回半径が十分に大きく、完全な直進状態に近い走行状態を意味している。例えば、上記直進状態としては、旋回半径がおよそ300m〜400m以上である走行領域とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
上記第1の発明においては、上記差動装置は、上記計測センサとして、上記4輪自動車の速度である車速を上記指標値として計測する車速センサと、ステアリング操作量である操舵角を上記指標値として計測する操舵角センサとを有しており、上記トルクマップは、上記操舵角及び上記車速に対して上記差動制限トルクを配列したものであることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記車速及び上記操舵角に基づいて、上記4輪自動車の旋回半径を精度高く推定し得る。そして、精度良く旋回半径を推定し得る車速と操舵角に基づけば、上記差動装置を的確に制御することができる。
【0016】
また、上記差動装置は、上記4輪自動車の直進状態を判定するための計測値を得る直進判定センサと、上記左右輪の回転差を直接的又は間接的に計測するための回転差センサとを有しており、上記差動制御ユニットは、上記直進判定センサの上記計測値に基づいて上記4輪自動車が直進状態にあるか否かを判定すると共に直進状態における上記左右輪の回転差を上記直進回転差として学習するように構成してあることが好ましい(請求項3)。
この場合には、例えば、上記左右輪の径差等に起因して直進状態における上記左右輪の回転差がゼロとならない場合にも対応可能になる。すなわち、上記差動装置は、上記左右輪の径差等に関わらず、上記4輪自動車の直進安定性を適切に向上させることができる。
【0017】
また、上記差動装置は、上記直進判定センサとして、上記4輪自動車の自転角速度を計測するヨーレートセンサ又は横Gセンサを有し、上記回転差センサとして、上記左右輪の回転速度を個別に検出する車輪速センサ又は上記差動モータの回転方向及び回転数を計測するモータ回転センサを有していることが好ましい(請求項4)。
上記ヨーレートセンサ又は上記横Gセンサを用いれば上記4輪自動車の直進状態を精度良く判定することができる。そして、上記4輪自動車が直進状態にあると判定したときの上記左右輪の回転差を上記直進回転差として学習させることができる。左右輪の回転差としては、上記車輪速センサを用いて直接的に計測することができるほか、上記モータ回転センサを用いて間接的に計測することもできる。
【0018】
また、上記モータ制御ユニットは、上記指標値についてしきい値処理を実施することにより、上記旋回半径が大きく上記4輪自動車が直進状態に近い走行状態にあると判断した際、上記左右輪の回転差が上記直進回転差に一致するように上記差動モータを制御し、かつ、
それ以外の走行状態にあると判断した際には、上記左右輪の回転差を上記直進回転差に一致させるような上記差動モータの制御は実施しないように構成してあることが好ましい(請求項5)。
【0019】
この場合には、上記旋回半径が大きく、完全な直進状態を中心とした所定範囲内の走行領域において、上記左右輪の回転差が上記直進回転差に略一致するように上記差動モータを制御する。そして、これにより、上記所定範囲内の走行領域において、上記4輪自動車の直進安定性を向上することができる。
なお、上記左右輪の回転差を上記直進回転差に一致させるように上記差動モータを制御する制御範囲としては、例えば、上記旋回半径がおよそ300m〜半径400m以上の範囲に設定することができる。
【0020】
上記第2の発明においては、上記差動装置は、上記計測センサとして、上記4輪自動車の速度である車速を上記指標値として計測する車速センサと、ステアリング操作量である操舵角を上記指標値として計測する操舵角センサとを有することが好ましい(請求項7)。
この場合には、車速及び操舵角に基づいて上記4輪自動車が直進状態にあるか否かを精度良く判断することができる。そして、4輪自動車が直進走行している際に、適切なタイミングで上記差動モータを回生モードで運転させることができる。
【0021】
また、上記差動装置は、上記計測センサとして、上記左右輪の回転速度を上記指標値として計測する車輪速センサを有することが好ましい(請求項8)。
この場合には、上記左右輪の回転速度に基づけば、左右輪の回転差を容易に計算できる。そして、左右輪の回転差に基づけば、4輪自動車が直進状態にあるか否かを比較的容易に判断することができる。そして、4輪自動車が直進走行している際に、適切なタイミングで上記差動モータを回生モードで運転させることができる。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
本例は、4輪自動車100の副駆動輪50L、R間に配設した差動装置1に関する例である。この内容について図1〜図14を用いて説明する。
本例の差動装置1は、図1に示すごとく、4輪自動車100の前輪又は後輪の左右輪(以下、副駆動輪50L、Rと記載する。)の間に配設されたものである。
この差動装置1は、図2に示すごとく、副駆動輪50L、Rにそれぞれ独立して連結された2つの出力要素と、該2つの出力要素間に差動を発生させる差動モータ40と、4輪自動車100の旋回半径の大きさに相関を有する指標値を計測する計測センサと、差動モータ40を制御するためのモータ制御ユニット6と、上記指標値に対して差動モータ40で発生させる最大トルクである差動制限トルクを配列したトルクマップ及び4輪自動車100が直進する際の副駆動輪50L、Rの回転差である直進回転差を格納する記憶手段604とを有してなる。
【0023】
このモータ制御ユニット6は、上記指標値に基づいて上記トルクマップを参照して差動制限トルクを得ると共に、該差動制限トルクを上限トルク値として副駆動輪50L、Rの回転差が上記直進回転差に一致するように差動モータ40を制御するように構成してある。そして、上記トルクマップでは、上記指標値に基づいて推定される旋回半径が大きくなるに伴って差動制限トルクが単調に増加している。
なお、本例では、上記計測センサとして、4輪自動車100の車速を計測する車速センサ61と、ステアリング操作量であるステアリング舵角センサ62とを利用している。
以下に、この内容について詳しく説明する。
【0024】
上記差動装置1は、図1及び図2に示すごとく、2つの出力要素(本例では、等配分デファレンシャル30の出力軸32L、32R。)間の差動を制御するものである。
この差動装置1は、サンギア23、該サンギア23の外周側に同軸配置されたリングギア22及び、該リングギア22とサンギア23とにギア係合するプラネタリギア24を保持するキャリア21の3つの歯車要素である選択構成要素を含む遊星歯車機構20を2個(20aと20b)組み合わせた遊星歯車機構組2と、該遊星歯車機構組2を収容するハウジング25と、一方の遊星歯車機構20bにおけるリングギア22、サンギア23及びキャリア21の各構成要素のうちのいずれかを回転させる差動モータ40(本例では、副原動機を兼用している。以下、副原動機40と記載する。)と、他方の遊星歯車機構20aにおける上記各構成要素のうちのいずれかの回転を停止させるように構成したブレーキ機構251とを有してなる。なお、図2では、車両エンジン8及び主駆動輪80L、80R(図1)は、省略して示してある。
【0025】
遊星歯車機構組2では、サンギア23の歯数とリングギア22の歯数との比であるギア比が一致している。
そして、上記各選択構成要素のうちの第1要素であるキャリア21は、各遊星歯車機構20a、20bのキャリア21a、21bが相互に連結されている。
また、各選択構成要素のうちの第2要素であるリングギア22は、一方の遊星歯車機構20aのリングギア22aがブレーキ機構251により回転を停止可能なように構成されていると共に他方の遊星歯車機構20bのリングギア22bが副原動機40のモータ軸に連結されている。
さらに、各選択構成要素のうちの第3要素であるサンギア23は、各遊星歯車機構20a、20bのサンギア23a、23bが、それぞれ、出力軸32L又は32Rと直接的又は間接的に連結されている。
【0026】
本例の差動装置1は、図1及び図2に示すごとく、1軸の入力軸31と、出力要素としての2軸の出力軸32L、32Rを含むベベルギア式の等配分デファレンシャル30を有してなる。そして、一方のサンギア23bが、等配分デファレンシャル30の入力軸31に連結され、他方のサンギア23aが、出力軸32Lに連結されている。前後輪駆動装置10では、等配分デファレンシャル30の各出力軸32L、32Rが、差動装置1の出力要素となっている。
【0027】
この差動装置1を利用した本例の前後輪駆動装置10は、図1及び図2に示すごとく、4輪自動車100の前輪或は後輪の主駆動輪80L、80Rを駆動する主原動機8(以下、適宜車両エンジン8と記載。)と、副駆動輪50L、50Rを駆動する副原動機40とを備えたものである。
副駆動輪50L、50Rの各ドライブシャフト51L、51Rは、差動装置1における等配分デファレンシャル30の各出力軸32L、32Rに、それぞれ連結してある。また、副原動機40のモータ軸は、クラッチ機構41を介して等配分デファレンシャル30の入力軸31と連結してある。また、主駆動輪80L、80Rは、動力伝達ユニット82を介して車両エンジン8と連結してある。
【0028】
本例の遊星歯車機構組2は、図1及び図2に示すごとく、同一仕様の遊星歯車機構20a、20b(以下、適宜a、bを省略して記載する。)を組み合わせて共通のハウジング25に一体的に収容したものである。そして、各遊星歯車機構20は、内周に配置されたサンギア23と、キャリア21に回転可能なように保持されていると共にサンギア23の周りを公転する複数のプラネタリギア24と、さらに、その外周側に配置されたリングギア22とによる係合構造を有するものである。
【0029】
本例の遊星歯車機構組2では、同図に示すごとく、キャリア21を上記第1要素として構成してある。すなわち、各遊星歯車機構20の各プラネタリギア24が、共通のキャリア21に保持される構造を有する。
また、本例では、リングギア22を上記第2要素として構成してある。すなわち、一方の遊星歯車機構20aのリングギア22aが、ブレーキ機構251によって停止可能なように構成されており、かつ、他方の遊星歯車機構20bのリングギア22bが、差動モータのモータ軸に連結されている。なお、本例では、差動モータと副原動機40とを共用してあるため、副原動機40のモータ軸をリングギア22bに連結してある。
【0030】
さらに、本例では、図1及び図2に示すごとく、サンギア23を上記第3要素として構成してある。そして、一方の遊星歯車機構20bのサンギア23bが、等配分デファレンシャル30の入力軸31に連結されており、他方の遊星歯車機構20aのサンギア23aが、等配分デファレンシャル30の一方の出力軸32L及び一方の駆動輪50Lのドライブシャフト51Lに連結されている。
【0031】
ここで、本例の遊星歯車機構組2の動作について、図1及び図2を用いて簡単に説明する。なお、各サンギア23の歯数を同数のZs、各リングギア22の歯数を同数のZrとする。ブレーキ機構251によって一方のリングギア22aを停止し、他方のリングギア22bに入力する回転数ωiをゼロに設定したとき、一方のサンギア23bを回転数ω1で回転させると、第1要素であるキャリア21の回転数がωc=Zs/(Zs+Zr)×ω1となる。このとき、他方のサンギア23aは、上記一方のサンギア23bと同じω1で回転する。
【0032】
また、ブレーキ機構251によって上記一方のリングギア22aを停止した状態で、回転数ω1のサンギア23aに対して、他方のサンギア23bをω2=ω1+Δωで回転させるためには、第1要素であるキャリア21をωc=Zs/(Zs+Zr)×ω1で回転させる必要がある。そして、このキャリア21の回転数を得るためには、他方のリングギア22bにωi=(−Zr)/Zs×Δωの回転を入力する必要がある。
【0033】
本例の等配分デファレンシャル30は、図1及び図2に示すごとく、ベベルギアを用いて構成されたものである。この等配分デファレンシャル30の入力軸31は、クラッチ機構33を介して、副原動機40のモータ軸に連結された減速機42に連結されている。すなわち、クラッチ機構33を断続することで、副原動機40から等配分デファレンシャル30への回転トルクの伝達を断続できるように構成してある。そして、等配分デファレンシャル30の右側の出力軸32Rは、右側の副駆動輪50Rに連結されたドライブシャフト51Rに連結されている。また、左側の出力軸32Lは、上記のごとく、一方の遊星歯車機構20aのサンギア23aと共に左側の副駆動輪50Lに連結されたドライブシャフト51Lに連結されている。
【0034】
例えば、上記のように構成された差動装置1では、クラッチ機構33を切断すると共にブレーキ機構251によりリングギア22aの回転を規制した状態で副原動機40を回転駆動すれば、図3(A)及び図4(B)に示すごとく、副駆動輪50L、Rに差動が生じる。ここで、図3(A)と図4(B)とでは、副原動機40の回転方向を反転させてある。
【0035】
なお、等配分デファレンシャル30としては、本例のベベルギアを用いて構成したものに代えて、図5及び図6に示すごとく、ダブルピニオンギアを用いて構成したものを適用することもできる。特に、ダブルピニオンを用いた等配分デファレンシャル30の場合には、図4に示すごとく、2軸の出力軸32L、32Rに、各遊星歯車機構20a、20bの第3要素であるサンギア23a、23bをそれぞれ連結することもできる。
また、上記クラッチ機構33としては、多板式クラッチや、単板式クラッチや、油圧式クラッチや、電磁式クラッチ等、さまざまな構造のクラッチを適用することができる。
【0036】
本例の前後輪駆動装置10は、図2及び図7に示すごとく、モータ制御ユニット6により制御されるように構成してある。このモータ制御ユニット6は、接続された各センサのセンサ出力を取り込み、副原動機モータ40、クラッチ機構33及びブレーキ機構251に向けて制御信号を出力するように構成してある。なお、各センサの信号は、モータ制御ユニット6に直接的に入力しても良く、車両エンジン8(図1)を制御するためのエンジンECU等を介して間接的に入力することも良い。
【0037】
車速センサ61は、4輪自動車100の走行速度を検出し、走行速度に応じた出力信号を生成するように構成してある。ステアリング舵角センサ62は、運転者による操舵ハンドルの操作量としてのステアリング舵角を検出し、このステアリング舵角に応じた出力信号を生成するように構成してある。モータ回転センサ401は、副原動機40の回転方向及びその回転数を計測するように構成してある。また、モータトルクセンサ402は、副原動機40の発生トルクと高い相関を有する通電電流値を計測するように構成してある。
【0038】
本例のモータ制御ユニット6は、図7に示すごとく、CPU601と、入出力インターフェースとしてのI/Oユニット602と、記憶手段としてのRAM603及びROM604とを有する。このモータ制御ユニット6は、I/O回路部602を介して、車速センサ601で計測した車速、ステアリング舵角センサ602で計測した操舵角、モータ回転センサ401で計測したモータ回転数及び、モータトルクセンサ402としての電流センサで計測したモータ電流値を取り込む。また、モータ制御ユニット6は、I/O回路部602を介して、差動モータ40を制御するように構成してある。
【0039】
ここで、モータ制御ユニット6のROM604には、4輪自動車100の直進走行状態を判定する第1のプログラムと、直進走行状態と判定されたときに直進安定制御を実施するための第2のプログラムと、モータ電流値に基づいてモータトルクを推定するためモータ特性マップと、車速及び操舵角に基づいて副原動機40の差動制限トルクを得るためのトルクマップを格納してある。さらに、ROM604には、4輪自動車100が完全な直進状態で走行しているときの副駆動輪50L、Rの回転差である直進回転差を格納してある。なお、本例では、この直進回転差をゼロに設定してある。
【0040】
上記特性マップは、副原動機40の通電電流値と回転トルクとの関係をマップ化したものである。この特性マップは、図8に示すごとく、副原動機40に通電する電流値と、発生トルクとの関係を表したマップである。そして、この特性マップを用いれば、副原動機40に通電する電流値に基づいて副原動機40が発生する実トルクの大きさを求めることができる。なお、同図では、横軸に電流値を規定し、縦軸に副原動機40の発生トルクを規定してある。
【0041】
上記トルクマップは、上記直進安定制御において、副原動機40の差動制限トルクを配列したものである。このトルクマップは、図9に示すごとく、操舵角に対して、副原動機40を制御する際の最大トルクである上記差動制限トルクを配列したものである。本例では、車速毎に、仕様が異なるトルクマップを複数準備した。図9に示すトルクマップは、ある車速において、操舵角に対する差動制限トルクを配列したものである。なお、同図では、横軸に操舵角を規定し、縦軸に差動制限トルクの絶対値を規定してある。
【0042】
次に、上記第1及び上記第2のプログラムの内容説明を交えながら、本例の前後輪駆動装置10の制御方法について説明する。
第1のプログラムは、図10に示すごとく、取り込んだ車速及び操舵角に基づいて4輪自動車100の旋回半径Rを推定し、完全な直進状態あるいは完全な直進状態に近い準直進状態にあるか否かを判定する。そして、その判定結果に応じて、直進安定制御を実施するか、通常制御を実施するかの切り替えを実施する。
【0043】
この第1のプログラムは、同図に示すごとく、まず、ステップS110において、車速及び操舵角を取り込む。そして、ステップS120では、取り込んだ車速及び操舵角に基づいて4輪自動車100の旋回半径Rを推定する。
ステップS130では、推定した旋回半径Rが、予め定めた旋回半径のしきい値Rthよりも大きいか否かの判断を行う。すなわち、ステップS130では、旋回半径Rが十分に大きく直進状態又は準直進状態にあるか、あるいは、旋回半径Rが小さい旋回状態にあるかの切り分けを行う。
【0044】
4輪自動車100の走行状態が、直進状態又は準直進状態にある場合には、ステップS140に移行する。このステップS140では、車速及び操舵角に基づいて上記トルクマップを参照し、差動制限トルクTlimを得る。具体的には、車速に対応するトルクマップを選択し、操舵角に基づいてそのトルクマップを参照して差動制限トルクTlimを得る。そして、ステップS160において、直進安定制御を実施する。
一方、4輪自動車100の旋回半径Rが小さく、旋回状態にあると判定された場合には、ステップS150に移行し、予めプログラムされた所定の通常制御が実施される。
【0045】
上記第2のプログラムは、上記ステップS160の直進安定制御を実施するものである。ここで、本例の前後輪駆動装置10は、直進安定制御においては、図11に示すごとく、クラッチ機構33を開放すると共に、ブレーキ機構251を係合させる。この状態で、上記トルクマップを参照して得た差動制限トルクTlimを上限トルク値として副原動機40を制御する。具体的には、副原動機40の発生トルクをリングギア22bに作用することにより、副駆動輪50L、Rの回転差が直進回転差となるよう、第3要素であるサンギア23a、23b間の差動を制御する。に所望の回転差を実現させる。
【0046】
上記第2のプログラムでは、図12に示すごとく、まず、ステップS210において、モータ回転センサ401が計測した差動モータ(本例では、副原動機40。)の回転数を取り込む。そして、ステップS220では、差動モータである副原動機40の回転数に基づいて副駆動輪50L、Rの回転差Δrを計算する。
【0047】
その後、ステップS230では、Δrと直進回転差との比較を行う。Δrが直進回転差と略一致していない場合には、ステップS240移行の処理ステップを実施する。なお、ここで、Δrが直進回転差に略一致しているとは、直進回転差を中心値とした所定の範囲にΔrが属していることをいう。さらに、この所定の範囲としては、制御上好ましいヒステリシスが生じるように設定することも良い。
【0048】
ステップS240では、電流センサであるモータトルクセンサ402が計測したモータ電流値を取り込む。そして、ステップS250では、モータ電流値に基づいて副原動機40(差動モータ)の実トルクであるTrealを計算する。その後、ステップS260では、実回転トルクTrealと上記ステップS140で求めた差動制限トルクTlimとを比較する。そして、Treal<Tlimが成立する際にはステップS270に移行し、成立しない場合にはステップS280に移行する。
【0049】
ステップS270では、差動制限トルクTlimを上限トルク値として、Δrが直進回転差に略一致するように副原動機40(差動モータ)を制御する。一方、ステップS280では、副原動機40(差動モータ)の実トルクTrealが、差動制限トルクTlim以下となるよう、副原動機40(差動モータ)に通電する通電電流値を徐々に低下させていく。
【0050】
なお、本例では、上記直進安定制御を実施しない通常制御(ステップS280)では、旋回アシスト制御を実施した。この旋回アシスト制御では、操舵角及び車速に基づいて推定される旋回半径Rで走行するために適切な副駆動輪50L、Rの回転差を求め、この回転差が得られるように積極的に副原動機40を回転制御するものである。この旋回アシスト制御では、クラッチ機構33を開放すると共に、ブレーキ機構251を係合させた状態で、副原動機40を回転制御する。
【0051】
なお、上記前後輪駆動装置10は、4輪自動車100の発進時には、ブレーキ機構251を開放してリングギア22aの回転を自由にすると共に、クラッチ機構33を係合させて副原動機40から等配分デファレンシャル30に向けて駆動トルクを伝達させる。これにより、副原動機40の回転トルクが副駆動輪50L、50Rに伝達されて4輪駆動の走行状態が実現される。
【0052】
以上のように、上記差動装置1のモータ制御ユニット6は、車速及び操舵角に基づいてトルクマップを参照して差動制限トルクを得ると共に、該差動制限トルクを上限トルク値として副原動機40を制御する。これにより、副駆動輪50L、Rの回転差が直進回転差であるゼロとなるように制御する。ここで、車速毎に規定した各トルクマップでは、操舵角が小さくなる(旋回半径が大きくなる)に伴って差動制限トルクが単調に増加している。
【0053】
すなわち、上記差動装置1の副原動機40は、完全な直進状態あるいは、完全な直進状態に近い大旋回半径の走行状態において、上記差動制限トルクを上限トルク値として直進状態を維持するためのアシスト力を発生させる。ここで、この差動制限トルクは、上記4輪自動車の旋回半径が大きくなり(操舵角が小さくなり)完全な直進状態に近づくほど、単調に大きくなるように設定してある。
【0054】
そして、上記差動装置1は、上記トルクマップを参照して得た上記差動制限トルクを上限トルク値として副原動機40を制御し、副駆動輪50L、Rの回転差が上記直進回転差であるゼロに一致するように制御する。すなわち、上記差動装置1によれば、旋回半径が大きく完全な直進状態に近づくほど、直進走行を維持するために副原動機40の発生トルクが大きくなる。つまり、旋回半径が大きく完全な直進状態に近づくほど、その直進状態を維持しようとするアシスト力が強くなる。
【0055】
そのため、本例の差動装置1を備えた4輪自動車100を運転するドライバーは、完全な直進状態に近づくほど、あたかもステアリングがスロー(反応が鈍い状態。)になったような直進安定性の高い優れたステアリング操作感を得ることができる。それ故、本例の差動装置1によれば、4輪自動車100の直進性を向上して、走行安全性を高めることができる。
【0056】
なお、トルクマップとしては、操舵角に応じて差動制限トルクのデータを配列したデータマップのほか、車速、操舵角に基づいて上記差動制限トルクを計算する計算式や論理式等であっても良い。すなわち、本発明におけるトルクマップとは、車速、操舵角に基づいて差動制限トルクを決定し得るように構成されたすべてのものを意味している。
【0057】
なお、図13に示すごとく、本例の前後輪駆動装置10(図1)から減速機42、クラッチ機構33及び副原動機40を省略する代わりに、差動モータ45を追加して差動装置1を構成することもできる。この差動装置1によれば、差動モータ45を用いて各出力軸32L、32R間の差動を抑制することができる。
さらに、図13に示す前後輪駆動装置10から等配分デファレンシャルを省略して、図14に示す差動装置1を構成することもできる。この差動装置1の出力要素は、従動輪57L、57Rに連結されたシャフト571L、571Rである。そして、このシャフト571L、571Rに対しては、第3要素であるサンギア23a、23bがそれぞれ直結されている。この差動装置1によれば、差動モータ45を用いて、従動輪57L、57R間の差動を制御することができる。
【0058】
またさらに、図15に示すごとく、本例の前後輪駆動装置10に対して、遊星歯車機構組2専用の差動モータ45を、副原動機40とは別に設けることもできる。この場合には、副原動機40によって各副駆動輪50L、50Rを同方向に回転駆動しながら、副駆動輪50L、50Rの間の回転差を、差動モータ45を用いて制御することができる。
【0059】
さらには、図16に示すごとく、クラッチ機構及び副原動機を省略し、車両エンジン8により駆動されるプロペラシャフト310と等配分デファレンシャル30の入力軸31とをハイポイドギア等を介して連結した前後輪駆動装置10を構成することもできる。この前後輪駆動装置10によれば、差動モータ45の回転を用いて各副駆動輪50L、50Rの回転差を制御しながら、車両エンジン8の駆動トルクを各副駆動輪50L、50Rに伝達することができる。
【0060】
(実施例2)
本例は、実施例1の差動装置を基にして、直進アシスト制御と通常制御との切り替えを行う上記第1のプログラムを変更した例である。この内容について、図17を用いて説明する。
本例の第1のプログラムでは、図17に示すごとく、まず、ステップS131において、車速が30km/hであって、かつ、操舵角が30度未満であるか否かを判断する。そして、条件に適合したときには、ステップS141に移行し、操舵角に基づいてトルクマップを参照して差動制限トルクTlimを取得する。なお、本例のトルクマップは、全車速領域に対応するように構成したものである。その後、ステップS160に移行して、直進安定制御を実施する。一方、上記の条件に適合しないときには、ステップS150に移行し、実施例1と同様の通常制御を実施する。
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1と同様である。
【0061】
(実施例3)
本例は、実施例2を基にして、回生モードで副原動機を運転するという直進安定制御を実施した例である。この内容について図18を用いて説明する。
本例では、図18に示す制御フローチャートを用いて副原動機(図1における符号40。)を制御している。同図に示すごとく、ステップS131では、車速が30km/h以上であって、かつ、操舵角が30度未満であるときに、直進状態であると判定した。そして、直進状態にあるときには、ステップS161に移行して直進安定制御を行い、それ以外のときはステップS150に移行して通常制御を実施した。
【0062】
本例の直進安定制御は、実施例2の上記第2のプログラムによる直進安定制御とは異なり、副原動機を積極的に制御するものではない。本例の直進安定制御は、副原動機を回生モードで運転させることにより副駆動輪50L、Rの差動を抑制するものである。そして、副駆動輪50L、Rの差動を抑制することで、4輪自動車の直進安定性を向上している。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例2と同様である。
【0063】
(実施例4)
本例は、実施例1の差動装置を基にして、直進回転差の学習機能を追加した例である。この内容について、図19を用いて説明する。
本例のモータ制御ユニット6は、実施例1の構成に加えて、I/O回路部602を介して、4輪自動車の自転角速度を計測するヨーレートセンサ403の出力信号を取り込むように構成してある。そして、モータ制御ユニット6は、ヨーレートセンサ403の出力信号が十分に小さく、かつ、車速がしきい値以上であるときに4輪自動車が直進状態にあると判定する。そして、この直進状態においてモータ回転センサ401の計測回転数から算出される副駆動輪50L、R(図1参照。)の回転差を求め、この回転差をサンプル回転差として利用して上記直進回転差を学習する。このサンプル回転差を求めるに際しては、差動モータ45の出力トルクが回転差に与える影響を排除するため、差動モータ45にモータ電流を通電していない状態で上記サンプル回転差を計測するのが良い。
【0064】
具体的には、本例では、直進回転差を記憶手段としてのRAM603に格納してあり、上記のように算出したサンプル回転差に基づいて直進回転差を更新する。例えば、(新しい直進回転差=現在の直進回転差×0.9+サンプル回転差×0.1)なる移動平均を求める式により直進回転差を学習することができる。
なお、その他の構成および作用効果については実施例1と同様である。
【0065】
なお、上記ヨーレートセンサ403に代えて、横Gセンサを利用して4輪自動車の直進状態を判定することもできる。さらに、ヨーレートセンサ402に代えて、GPS測位センサを利用して4輪自動車の直進状態を判定することもできる。GPS測位センサでは、一般的に、異なる測位点の相対的な位置関係を比較的精度良く計測可能である。それ故、このGPS測位センサを用いれば、3点以上の測位点の位置関係に基づいて、直進状態を精度良く判定することができる。さらに、ヨーレートセンサ402に代えて、ナビゲーションシステムを電気的に接続することもできる。自車位置の測位機能を有すると共に自車位置における道路データを参照可能に構成したナビゲーションから道路曲率データを取り込めば、直線道路を走行中であるか否かの判定を容易に実施できる。そして、直線道路では、4輪自動車が直進状態にあるとの仮定のもとに上記直進回転差を学習することができる。
【0066】
(実施例5)
本例は、実施例1の前後輪駆動装置に基づいて、遊星歯車機構組2の構成を変更した例である。この内容について、図20〜図24を用いて説明する。
実施例1の遊星歯車機構組2(図1参照。)では、キャリア21を第1要素とし、リングギア22を第2要素とし、さらに、サンギア23を第3要素としている(図20に示す構成。)。この構成は、構造が比較的、単純であり、低コスト、コンパクトに実現できるという特徴がある。特に、この構成では、入力に対して出力が増速されるため、タイヤ径が小さい車両など、左右輪の回転数差が大きい場合に特に有効となる。
【0067】
実施例1の構成に代えて、図21には、リングギア22を第1要素とし、キャリア21を第2要素とし、サンギア23を第3要素とした構成を示している。この構成は、構造が単純であり、低コスト、コンパクトに実現し得る点で有利である。特に、この構成では、入力に対する出力の回転比である増速比を最も大きく確保することができる。
【0068】
また、図22には、サンギア23を第1要素とし、リングギア22を第2要素とし、キャリア21を第3要素とした構成を示している。この構成は、構造を単純にでき、低コストに実現し得る。そして、この構成は、入力に対して出力が減速されるため出力トルクを大きくでき、歯車の負荷を少なくできるので遊星歯車機構を小型化できるという大トルクタイプのバランス型という特徴を有している。
【0069】
また、図23には、リングギア22を第1要素とし、サンギア23を第2要素とし、キャリア21を第3要素とした構成を示している。この構成では、入力に対する出力の回転比である減速比を大きくできるため、出力に大トルクが要求される場合に有効である。
【0070】
図24は、サンギア23を第1要素とし、キャリア21を第2要素とし、リングギア22を第3要素とした構成を示している。この構成は、構造が若干複雑となるもののサンギア23を第3要素とする他の組み合わせよりも歯車の負荷を少なくでき、小型化できるという有利な点を有する。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。さらになお、上記のほかには、構造が複雑になるが、キャリアを第1要素として、サンギアを第2要素として、リングギアを第3要素とすることもできる。
【0071】
(実施例6)
本例は、実施例1における図16に示した差動装置の他の適用例である。この内容について図25を用いて説明する。
本例の差動装置1は、2輪駆動の4輪自動車の主駆動輪60L、60Rに回転差を付与するためのものである。この差動装置1では、車両エンジン8により駆動されるプロペラシャフト310と等配分デファレンシャル30の入力軸31とがハイポイドギア等を介して連結されている。この差動装置1によれば、差動モータ45を用いて、主駆動輪60L、60R間の回転差を制御することができる。
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1の図16に示す差動装置と同様である。
なおまた、本例の差動装置1は、上記のほか、4輪駆動の4輪自動車の主駆動輪或いは、副駆動輪の差動装置として利用できる。さらに、4輪駆動の4輪自動車の前後輪間に回転差を付与する差動装置として利用することもできる。
【0072】
(実施例7)
本例は、実施例1の前後輪駆動装置を基にして、差動装置1の構成を変更した例である。この内容について、図26を用いて説明する。
本例の差動装置1では、同図に示すごとく、一方の遊星歯車機構20aのリングギア22aの回転を規制してある。そして、他方の遊星歯車機構20bのリングギア22bと、副原動機40の回転を減速する減速機42との間に、トルク伝達を断続するための差動クラッチ機構252を配設してある。なお、本例の差動装置1では、ハウジング25とリングギア22aとを間接的に係合させることで、リングギア22aの回転を規制してある。
【0073】
次に、本例の前後輪駆動装置10の制御方法について説明する。
実施例1の前後輪駆動装置との相違点は、副駆動輪50L、R間の回転差を制御する際に、クラッチ機構33を開放すると共に、差動クラッチ機構252を係合させる点である。この状態で、副原動機40によりリングギア22bの回転を制御すれば、第3要素であるサンギア23a、23b間の差動を制御することができる。本例では、一方のサンギア23aには、上記のごとく、左副駆動輪50Lのドライブシャフト51Lが直接的に連結されている。そして、他方のサンギア23bは、等配分デファレンシャル30の入力軸31と直接的に連結され、等配分デファレンシャル30を介在して右副駆動輪50Rのドライブシャフト51Rに連結されている。それ故、上記のごとく前後輪駆動装置1を制御すれば、副駆動輪50L、50Rの回転差を制御できる。
【0074】
なお、4輪自動車100の発進時には、差動クラッチ機構252を開放すると共に、クラッチ機構33を係合させて副原動機40から等配分デファレンシャル30に向けて駆動トルクを伝達させる。これにより、4輪自動車100の4輪駆動状態を実現する。
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1と同様である。
【0075】
(実施例8)
本例は、実施例1のその他の前後輪駆動装置(図16参照。)を基にして、差動装置の構成を変更した例である。この内容について、図27を用いて説明する。
本例の差動装置1では、同図に示すごとく、一方の遊星歯車機構20aのリングギア22aの回転を規制してある。そして、他方の遊星歯車機構20bのリングギア22bと、差動モータ45の回転を減速する減速機42との間に、差動クラッチ機構252を配設してある。
なお、その他の構成及び作用効果については、実施例1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例1における、前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図2】実施例1における、前後輪駆動装置の制御系統を示すシステム図。
【図3】実施例1における、旋回走行時における前後輪駆動装置での伝達トルクのフローを説明する説明図(A)。
【図4】実施例1における、旋回走行時における前後輪駆動装置での伝達トルクのフローを説明する説明図(B)。
【図5】実施例1における、その他の前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図6】実施例1における、その他の前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図7】実施例1における、モータ制御ユニットの構成を示すブロック図。
【図8】実施例1における、副原動機の特性を示す特性マップを示すグラフ。
【図9】実施例1における、操舵角と差動制限トルクの絶対値との関係を表すトルクマップ。
【図10】実施例1における、第1のプログラムを説明するフロー図。
【図11】実施例1における、直進安定制御における前後輪駆動装置の動作を説明する説明図。
【図12】実施例1における、直進安定制御を行う第2のプログラムを説明するフロー図。
【図13】実施例1における、その他の差動装置の構成を示すブロック図。
【図14】実施例1における、その他の差動装置の構成を示すブロック図。
【図15】実施例1における、その他の前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図16】実施例1における、その他の前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図17】実施例2における、第1のプログラムを説明するフロー図。
【図18】実施例3における、第1のプログラムを説明するフロー図。
【図19】実施例4における、モータ制御ユニットの構成を示すブロック図。
【図20】実施例1における、遊星歯車機構組の構成を示す構成図。
【図21】実施例5における、遊星歯車機構組の第1の構成を示す構成図。
【図22】実施例5における、遊星歯車機構組の第2の構成を示す構成図。
【図23】実施例5における、遊星歯車機構組の第3の構成を示す構成図。
【図24】実施例5における、遊星歯車機構組の第4の構成を示す構成図。
【図25】実施例6における、差動装置の構成を示すブロック図。
【図26】実施例7における、前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【図27】実施例8における、前後輪駆動装置の構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0077】
1 差動装置
10 前後輪駆動装置
2 遊星歯車機構組
20a、20b 遊星歯車機構
21 キャリア
22 リングギア
23 サンギア
24 プラネタリギア
25 ハウジング
251 ブレーキ機構
30 等配分デファレンシャル
31 入力軸
32L、32R 出力軸
33 クラッチ機構
40 副原動機
42 減速機
45 差動モータ
50L、50R 副駆動輪
51L、51R ドライブシャフト
6 モータ制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4輪自動車の前輪又は後輪の左右輪の間に配設された差動装置であって、
該差動装置は、上記左右輪にそれぞれ独立して連結された2つの出力要素と、該2つの出力要素間に差動を発生させる差動モータと、上記4輪自動車の旋回半径の大きさに相関を有する指標値を計測する計測センサと、上記差動モータを制御するためのモータ制御ユニットと、上記指標値に対して上記差動モータで発生させる最大トルクである差動制限トルクを配列したトルクマップ及び上記4輪自動車が直進する際の上記左右輪の回転差である直進回転差を格納する記憶手段とを有してなり、
上記モータ制御ユニットは、上記指標値に基づいて上記トルクマップを参照して上記差動制限トルクを得ると共に、該差動制限トルクを上限トルク値として上記左右輪の回転差が上記直進回転差に一致するように上記差動モータを制御するように構成してあり、
上記トルクマップでは、上記指標値に基づいて推定される上記旋回半径が大きくなるに伴って上記差動制限トルクが単調に増加していることを特徴とする差動装置。
【請求項2】
請求項1において、上記差動装置は、上記計測センサとして、上記4輪自動車の速度である車速を上記指標値として計測する車速センサと、ステアリング操作量である操舵角を上記指標値として計測する操舵角センサとを有しており、上記トルクマップは、上記操舵角及び上記車速に対して上記差動制限トルクを配列したものであることを特徴とする差動装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記差動装置は、上記4輪自動車の直進状態を判定するための計測値を得る直進判定センサと、上記左右輪の回転差を直接的又は間接的に計測するための回転差センサとを有しており、上記差動制御ユニットは、上記直進判定センサの上記計測値に基づいて上記4輪自動車が直進状態にあるか否かを判定すると共に直進状態における上記左右輪の回転差を上記直進回転差として学習するように構成してあることを特徴とする差動装置。
【請求項4】
請求項3において、上記差動装置は、上記直進判定センサとして、上記4輪自動車の自転角速度を計測するヨーレートセンサ又は横Gセンサを有し、上記回転差センサとして、上記左右輪の回転速度を個別に検出する車輪速センサ又は上記差動モータの回転方向及び回転数を計測するモータ回転センサを有していることを特徴とする差動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、上記モータ制御ユニットは、上記指標値についてしきい値処理を実施することにより、上記旋回半径が大きく上記4輪自動車が直進状態に近い走行状態にあると判断した際、上記左右輪の回転差が上記直進回転差に一致するように上記差動モータを制御し、かつ、
それ以外の走行状態にあると判断した際には、上記左右輪の回転差を上記直進回転差に一致させるような上記差動モータの制御は実施しないように構成してあることを特徴とする差動装置。
【請求項6】
4輪自動車の前輪又は後輪の左右輪の間に配設された差動装置であって、
該差動装置は、上記左右輪にそれぞれ独立して連結された2つの出力要素と、該2つの出力要素間に差動を発生させる差動モータと、該差動モータを制御するためのモータ制御ユニットと、上記4輪自動車の旋回半径の大きさに相関を有する指標値を計測する計測センサとを有してなり、
上記モータ制御ユニットは、上記指標値についてしきい値処理を実施することにより、上記旋回半径が大きく上記4輪自動車が直進状態に近い走行状態にあると判断した際、上記差動モータを回生モードで運転し、かつ、
それ以外の走行状態にあると判断した際には、上記差動モータによる回生モードを実施しないように構成してあることを特徴とする差動モータ。
【請求項7】
請求項6において、上記差動装置は、上記計測センサとして、上記4輪自動車の速度である車速を上記指標値として計測する車速センサと、ステアリング操作量である操舵角を上記指標値として計測する操舵角センサとを有することを特徴とする差動装置。
【請求項8】
請求項6において、上記差動装置は、上記計測センサとして、上記左右輪の回転速度を上記指標値として計測する車輪速センサを有することを特徴とする差動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate


【公開番号】特開2006−46495(P2006−46495A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228439(P2004−228439)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000003470)豊田工機株式会社 (198)
【Fターム(参考)】