説明

差圧制御弁及び容量可変型圧縮機

【課題】圧力損失を低減できるとともに、弁孔を確実に閉鎖可能な差圧制御弁を提供する。
【解決手段】弁座110は、磁性材料からなり、弁孔111回りに弁座座面115aが形成されている。弁体120は、磁性材料からなり、弁座座面115aと着座又は離座する弁体座面125aが形成されている。弁座110及び弁体120の一方には、弁座110と弁体120とを吸引力により互いに接近するように付勢する永久磁石150が設けられている。弁座座面115a及び弁体座面125aの少なくとも一方の近傍には、磁性材料からなる異物を収容可能な第1、2異物収容部115c、125bが設けられている。永久磁石150は、離座時の第1、2異物収容部115c、125bにおける磁束密度が着座時の第1、2異物収容部115c、125bにおける磁束密度よりも高くなるように、配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は差圧制御弁及び容量可変型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図1〜11に従来の差圧制御弁が開示されている。これらの差圧制御弁は、上流側から下流側に流体を流す流路上に配設されるものである。各差圧制御弁は、弁座と弁体と案内部材とを備えている。
【0003】
弁座には、流体が通過する弁孔が形成されている。この弁座は磁性材料又は永久磁石からなる。この弁座には、弁孔回りに弁座座面が形成されている。
【0004】
弁体は弁座に対して下流側に位置している。案内部材は、弁座に固定され、弁体を案内する。弁体は、上流側と下流側との圧力差に応じて弁座に対して着座又は離反することにより、弁孔を開閉する。引用文献1の図1〜8に開示された弁体は、弁座が磁性材料であれば永久磁石からなり、弁座が永久磁石であれば磁性材料からなる。この弁体には、弁座座面と着座又は離座する弁体座面が形成されている。引用文献1の図9〜11に開示された弁体は、永久磁石又は磁性材料からなり、弁体座面が形成された弁体本体と、この弁体本体を包む樹脂とからなる。
【0005】
これらの差圧制御弁では、永久磁石と磁性材料との間に作用する磁力により弁体が弁座に着座すれば、弁座座面と弁体座面とが当接して弁孔が閉じられ、流体の逆流を防止することが可能である。また、これらの差圧制御弁では、磁力に抗して弁体が弁座から離座すれば、弁座座面と弁体座面とが離れて弁孔が開かれ、流体が上流から下流に向かって流れる。これらの間、弁体は磁力によって弁座に向かって付勢される。永久磁石と磁性材料との間に作用する磁力は、弁体が弁座から離座しておれば吸引力として作用し、弁体が弁座に着座しておれば吸着力として作用する。
【0006】
ここで、バネのみによって弁体を弁座に付勢する一般的な差圧制御弁と、これらの差圧制御弁とを比較した場合、バネの付勢力は弁体が弁座から離れるほど強くなるのに対し、永久磁石による吸引力は弁体が弁座から離れるほど弱くなる。このため、これらの差圧制御弁は、一般的な差圧制御弁と比較して、弁孔の開放時に弁体が弁座から離れ易い。このため、この差圧制御弁は、圧力差が小さくても、弁孔を確実に開放でき、流体が上流側から弁孔を介して下流側に流れる際の圧力損失を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−55223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の図9〜11に提案された差圧制御弁では、永久磁石が流体に含まれ得る磁性材料からなる異物を吸引し、弁座座面と弁体座面との間にその異物を吸着させて噛み込むおそれがある。この場合、弁座座面と弁体座面との間に隙間を生じ、弁孔を確実に閉じることができない。このため、これらの差圧制御弁を逆止弁として採用した圧縮機にあっては、流体の逆流を確実に防止することができない。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、圧力損失を低減できるとともに、弁孔を確実に閉鎖可能な差圧制御弁を提供することを解決すべき課題としている。また、本発明は、差圧制御弁を備えた容量可変型圧縮機において、圧力損失を低減できるとともに、流体の逆流等を確実に防止することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の差圧制御弁は、流体が通過する弁孔が形成された弁座と、前記弁座に対して下流側に位置し、上流側と下流側との圧力差に応じて前記弁座に対して着座又は離座することにより、前記弁孔を開閉する弁体とを備える差圧制御弁において、
前記弁座は、磁性材料からなり、前記弁孔回りに弁座座面が形成された弁座本体を有し、
前記弁体は、磁性材料からなり、前記弁座座面と着座又は離座する弁体座面が形成された弁体本体を有し、
前記弁座及び前記弁体の一方には、前記弁座本体と前記弁体本体とを吸引力により互いに接近するように付勢する永久磁石が設けられ、
前記弁座座面及び前記弁体座面の少なくとも一方の近傍には、磁性材料からなる異物を収容可能な異物収容部が設けられ、
前記永久磁石は、離座時の前記異物収容部における磁束密度が着座時の前記異物収容部における磁束密度よりも高くなるように、配置されていることを特徴とする(請求項1)。
【0011】
本発明の差圧制御弁は、弁座と弁体とを吸引力により互いに接近するように付勢する永久磁石を採用していることから、弁体が弁座から離れるほど永久磁石の吸引力が弱くなり、一般的な差圧制御弁と比較して、弁孔の開放時に弁体が弁座から離れ易い。このため、この差圧制御弁は、圧力差が小さくても、弁孔を確実に開放でき、流体が上流側から弁孔を介して下流側に流れる際の圧力損失を低減できる。
【0012】
また、永久磁石は、その配置されている位置により、弁座座面及び弁体座面に対し、着座時に弁座と弁体とが着座可能な磁束密度を作用する。このため、弁座座面と弁体座面とは着座時に当接可能とされている。そして、弁座座面及び弁体座面の少なくとも一方の近傍には異物収容部が設けられている。また、永久磁石は、その配置されている位置により、離座時の異物収容部における磁束密度が着座時の異物収容部における磁束密度よりも高くされている。このため、流体に含まれ得る磁性材料からなる異物は、開弁時に磁束密度が高い異物収容部に吸引される。このため、閉弁時には、当接する弁座座面と弁体座面との間にその異物は吸着し難く、弁座座面と弁体座面との間に異物が噛み込み難い。このため、この差圧制御弁では、着座時に弁座座面と弁体座面との間に隙間を生じ難く、弁孔をより確実に閉じることができる。
【0013】
したがって、本発明の差圧制御弁は、圧力損失を低減できるとともに、弁孔を確実に閉鎖可能である。
【0014】
弁座は弁座本体を有する。弁座本体は磁性材料からなる。また、弁座本体は、弁孔回りに弁座座面が形成されている。また、弁体は弁体本体を有する。弁体本体は磁性材料からなる。また、弁体本体は、弁座座面と着座又は離座する弁体座面が形成されている。磁性材料としては、S45C等の高炭素鋼、SCM435及びSCM440等のクロムモリブデン鋼等の鉄系材料、並びに磁性を持つマルテンサイト系ステンレス鋼等を採用することができる。弁座が弁座本体そのものでもよく、弁体が弁体本体そのものでもよい。弁座本体や弁体本体が摺動性等のために樹脂によって包まれることにより、弁座や弁体とされてもよい。異物収容部は、弁座に形成されてもよく、弁体に形成されてもよく、両者に形成されてもよい。
【0015】
永久磁石は、離座時の異物収容部における磁束密度が離座時の弁座座面及び弁体座面における磁束密度よりも高くなるように、配置されていることが好ましい(請求項2)。この場合、異物は、開弁時に異物収容部により吸引され易く、弁座座面と弁体座面との間により噛み込み難くなる。
【0016】
異物収容部は、弁座座面及び弁体座面の少なくとも一方に形成された切欠き内に配置されていることが好ましい(請求項3)。この場合、弁座座面及び弁体座面の隣に異物収容部及び永久磁石が位置し、本発明の作用効果を生じやすい。
【0017】
永久磁石は、弁座座面及び弁体座面の少なくとも一方から段差をもって奥まった位置に配置されていることが好ましい(請求項4)。この場合、段差によって異物収容部が確保され、本発明の作用効果を生じやすい。
【0018】
永久磁石の先端側に異物収容部が位置する場合、永久磁石の先端面は凹設されていることが好ましい(請求項5)。これにより、異物収容部を大きくすることができ、多くの異物を収容することができる。
【0019】
先端面は、弁座座面及び弁体座面に近い方が弁座座面及び弁体座面から遠い方よりも段差が大きいことが好ましい(請求項6)。この場合、弁座座面と弁体座面との間に異物がより一層噛み込み難くなる。このような先端面は、テーパ状に形成されてもよく、階段状に形成されてもよい。
【0020】
永久磁石は、弁座本体における弁孔側に配置されていてもよく、弁体本体における弁孔とは反対側に配置されていてもよい(請求項7)。
【0021】
具体的には、永久磁石は弁孔と同心の環状であり得る。そして、弁座本体は、先端が弁座座面とされて筒状に形成され、外周又は内周に切欠きが形成され得る(請求項8)。この場合、弁体本体は、先端が弁体座面とされて筒状に形成される凸部を有し得る(請求項9)。弁座本体が永久磁石を保持すれば、弁体の重量を軽くできるので、上流側と下流側との圧力差の変動に対する弁体の作動性が向上する。
【0022】
また、永久磁石は弁孔と同心の環状であり得る。そして、弁体本体は、先端が弁体座面とされて凸状に形成され、外周又は内周に切欠きが形成され得る(請求項10)。この場合、弁座本体は、先端が弁座座面とされて筒状に形成される凸部を有し得る(請求項11)。永久磁石が弁体本体に固定されている場合、永久磁石の重量によって弁体を付勢することができる。
【0023】
さらに、永久磁石は弁孔と同心の柱状であり得る。そして、弁体本体は、先端が弁体座面とされて筒状に形成され、内部に切欠きが形成され得る(請求項12)。この場合、弁体本体は、先端が弁体座面とされて筒状に形成される凸部を有し得る(請求項13)。永久磁石が弁体本体に固定されている場合、永久磁石の重量によって弁体を付勢することができる。この場合、弁体本体は筒状に形成されていてもよい(請求項14)。
【0024】
本発明の差圧制御弁は、弁座に固定され、弁体を案内する非磁性材料からなる案内部材を備えていることが好ましい(請求項15)。この場合、永久磁石の磁束線が案内部材に向かって流れ難くなる。このため、弁座本体と弁体本体との間の磁束密度が高くなるので、弁座本体と弁体本体との間に作用する磁力が大きくなり、弁体が弁座に向かって移動し易く、かつ弁座に安定して着座する。このため、この差圧制御弁は、永久磁石を小さくでき、小型化が実現される。非磁性材料としては、樹脂、アルミニウム系材料等を採用することができる。
【0025】
本発明の差圧制御弁は、弁体を弁座に向かって付勢するバネを備えていることができる。永久磁石の吸引力は弁体が弁座から離れるほど弱くなる。このため、バネによって弁体を弁座に向かって付勢すれば、弁体が弁座から大きく離反しても、弁体を確実に弁座に着座させることができる。バネは、SUS316、樹脂又はFRP等の非磁性材料からなることが好ましい。
【0026】
本発明の差圧制御弁は、弁体を弁座に向かって付勢するバネを備えていなくてもよい。この場合、弁体は、永久磁石と磁性材料との間に作用する吸引力のみによって弁座に向かって付勢される。このため、この差圧制御弁は、バネが不要となるので、部品点数の削減及び組み付け作業の簡素化を実現できる。
【0027】
永久磁石は接着剤を用いて弁座本体及び弁体本体の一方に設けられ得る。また、永久磁石を圧入や嵌合によって弁座本体及び弁体本体の一方に設けてもよい。圧入や嵌合によって永久磁石を設ければ、永久磁石を接着剤で設けるよりも、組み付け作業の簡素化を実現できる。また、永久磁石が接着剤を用いて設けられる場合には、接着剤が高温により劣化して永久磁石が剥がれるおそれがあるのに対し、圧入や嵌合によって設ければ、永久磁石が高温の影響を受け難く、耐久性を向上させることができる。
【0028】
永久磁石としては、(1)バリウムフェライト磁石、ストロンチウムフェライト磁石等のフェライト磁石、(2)アルニコ磁石や希土類磁石である金属磁石、(3)ゴム磁石やプラスチック磁石であるボンド磁石等を採用することが可能である。希土類磁石としては、1−5系磁石や1−17磁石等のサマリウム−コバルト磁石の他、ネオジム磁石を採用することができる。ゴム磁石としては、フェライトゴム磁石、ネオジムゴム磁石を採用することができる。プラスチック磁石としては、フェライトプラスチック磁石、ネオジムプラスチック磁石を採用することができる。サマリウム−コバルト磁石は、ネオジム磁石と比べて磁力はやや低下するが、磁力の温度変化率(温度低下率)がネオジム磁石より小さく、温度特性に優れているとともに、錆びにくい。
【0029】
本発明の差圧制御弁は、着座時に流体の逆流を防止する逆止弁として具体化できる他、着座時に弁座と弁体との間に一定の隙間を確保して差圧を制御するものとして具体化することもできる。
【0030】
本発明の容量可変型圧縮機は、圧縮室と吐出室とを備え、前記圧縮室内に吸入された流体を圧縮して前記吐出室に吐出可能であるととともに、前記圧縮室から前記吐出室に吐出される前記流体の吐出容量を変更可能に構成された容量可変型圧縮機であって、
前記吐出室又は前記吐出室に連通する吐出通路に上記差圧制御弁が配設されていることを特徴とする(請求項16)。
【0031】
本発明の容量可変型圧縮機では、吐出室又は吐出通路における上流側と下流側との圧力差に応じて、差圧制御弁が弁孔を開閉する。具体的には、流体の吐出容量が最小となり、上流側と下流側との圧力差が所定値以下となれば、差圧制御弁が弁孔を閉鎖する。その結果、吐出通路から吐出室又は吐出室から圧縮室への流体の逆流が防止される。つまり、差圧制御弁は逆止弁として機能する。一方、流体の吐出容量が最小から増加し、上流側と下流側との圧力差が所定値より大きくなれば、差圧制御弁が弁孔を開放する。その結果、圧縮室から吐出された流体が吐出室から吐出通路へと流れる。
【0032】
この際、この容量可変型圧縮機は、本発明の差圧制御弁が奏する作用効果により、圧力損失を低減できる。また、この容量可変型圧縮機は、本発明の差圧制御弁が奏する作用効果により、流体の逆流等を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の差圧制御弁は、圧力損失を低減できるとともに、弁孔を確実に閉鎖可能である。また、本発明の容量可変型圧縮機は、圧力損失を低減できるとともに、流体の逆流等を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1の差圧制御弁を採用した容量可変型圧縮機の断面図である。
【図2】実施例1の差圧制御弁の断面図である。
【図3】実施例1の差圧制御弁に係り、弁体の変位量と、弁体に作用する付勢力との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1の差圧制御弁に係り、離座時における永久磁石の磁束線を示す説明図である。
【図5】実施例1の差圧制御弁に係り、着座時における永久磁石の磁束線を示す説明図である。
【図6】実施例2の差圧制御弁の断面図である。
【図7】実施例2の差圧制御弁に係り、離座時における永久磁石の磁束線を示す説明図である。
【図8】実施例2の差圧制御弁に係り、着座時における永久磁石の磁束線を示す説明図である。
【図9】実施例3の差圧制御弁の断面図である。
【図10】実施例3の差圧制御弁に係り、離座時における永久磁石の磁束線を示す説明図である。
【図11】実施例3の差圧制御弁に係り、着座時における永久磁石の磁束線を示す説明図である。
【図12】実施例4の差圧制御弁の断面図である。
【図13】実施例4の差圧制御弁に係り、離座時における永久磁石の磁束線を示す説明図である。
【図14】実施例4の差圧制御弁に係り、着座時における永久磁石の磁束線を示す説明図である。
【図15】実施例5の差圧制御弁の断面図である。
【図16】実施例6の差圧制御弁の断面図である。
【図17】実施例6の差圧制御弁の要部拡大断面図である。
【図18】実施例6の差圧制御弁に係り、離座時における永久磁石の磁束線を示す説明図である。
【図19】実施例6の差圧制御弁に係り、着座時における永久磁石の磁束線を示す説明図である。
【図20】実施例7の差圧制御弁の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を具体化した実施例1〜7を図面を参照しつつ説明する。
【0036】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の差圧制御弁100は容量可変型斜板式圧縮機(以下、単に「圧縮機」という。)に組み付けられて逆止弁として機能するものである。この圧縮機は、シリンダブロック1に複数個のシリンダボア1aが同心円状に等角度間隔でそれぞれ平行に形成されている。シリンダブロック1は、前方に位置するフロントハウジング3と後方に位置するリヤハウジング5とに挟持され、この状態で締結されている。シリンダブロック1とフロントハウジング3とによって内部にクランク室9が形成されている。ここで、図1における紙面左側が前方であり、紙面右側が後方である。図2及び図4〜図20も同様である。
【0037】
フロントハウジング3には軸孔3aが形成され、シリンダブロック1には軸孔1bが形成されている。軸孔3a、1bには軸封装置9a及び軸受装置9b、9cを介して駆動軸11が回転可能に支持されている。フロントハウジング3には軸受装置3bを介してプーリ13が設けられている。プーリ13は駆動軸11に固定されている。プーリ13には車両のエンジンやモータによって駆動されるベルト13cが巻き掛けられている。なお、プーリ13の代わりに電磁クラッチを設けることも可能である。
【0038】
クランク室9内では、駆動軸11にラグプレート15が圧入されている。ラグプレート15とフロントハウジング3との間には軸受装置9d、9eが設けられている。また、駆動軸11には斜板17が挿通されている。ラグプレート15と斜板17との間には、駆動軸11回りで傾角縮小バネ19が設けられている。また、クランク室9内では、駆動軸11にサークリップ11aが固定されている。駆動軸11の周りには、サークリップ11aと斜板17との間に復帰バネ21が設けられている。また、ラグプレート15と斜板17とは、斜板17を傾角変動可能に支持するリンク機構23によって接続されている。
【0039】
各シリンダボア1a内にはピストン25が往復動可能に収納されている。各ピストン25と斜板17との間には前後で対をなすシュー27a、27bが設けられている。各対のシュー27a、27bによって斜板17の揺動運動が各ピストン25の往復動に変換されるようになっている。
【0040】
シリンダブロック1とリヤハウジング5との間には弁ユニット29が設けられている。各シリンダボア1aはピストン25と弁ユニット29との間が圧縮室31となっている。リヤハウジング5内には、径方向内側に位置する吸入室5aと、径方向外側に位置する環状の吐出室5bとが形成されている。吸入室5aには、熱交換用の流体としての冷媒ガスが供給される。
【0041】
弁ユニット29は、ピストン25が吸入行程にあるときに吸入室5a内の冷媒ガスを圧縮室31に吸入し、ピストン25が吐出工程にあるときに圧縮室31内の冷媒ガスを圧縮し、吐出室5bに吐出する。
【0042】
クランク室9と吸入室5aとは抽気通路42によって接続されている。クランク室9と吐出室5bとは給気通路44、46によって接続されている。リヤハウジング5内には、吸入室5aと検圧通路48によって連通するとともに、給気通路44、46と連通する容量制御弁2が収納されている。
【0043】
容量制御弁2は、検圧通路48により検圧される冷媒ガスの流量差圧等に基づいて給気通路44、46を開閉する。そうすると、吐出室5b内の高圧の冷媒ガスが給気通路44、46を介してクランク室9に供給され、クランク室9内の圧力が所望の値に調整される。その結果、斜板17の傾角が変化して、所望の吐出容量に変更される。
【0044】
リヤハウジング5内には、吐出室5bに連通するとともに、リヤハウジング5の後面に開口する吐出通路50が形成されている。圧縮機が車両用空調装置に搭載される際、吐出通路50におけるリヤハウジング5の後面側の開口5cは、図示しない凝縮器に接続される。
【0045】
図2に拡大して示すように、吐出通路50は、前後方向と平行な軸線X1を中心軸として、吐出室5bの内壁面から後方に向かって凹設された大径穴部50aと、大径穴部50aと開口5cとを連通させる小径穴部50bとからなる。大径穴部50a内に差圧制御弁100が配設されている。
【0046】
差圧制御弁100は、弁座110と、案内部材130と、弁体120とを備えている。差圧制御弁100は、これらが組み付けられてユニット化されている。そして、差圧制御弁100は、吐出室5b側から大径穴部50aに挿入されて段部50cに弁座110が当て止まった状態で、図示しないサークリップ等により抜け止めされる。弁座110の外周面にはOリング140が設けられている。こうして、差圧制御弁100は、吐出室5bと、吐出通路50とを区分けした状態でリヤハウジング5内に固定されている。吐出室5bが吐出通路50の上流側であり、大径穴部50aにおける弁座110を挟んで吐出室5bとは反対側が吐出通路50の下流側である。
【0047】
弁座110は、軸線X1を中心軸とする基部113と、基部113に対して同心かつ小径の円筒形状とされて、基部113に対して後方に位置する円筒部114とからなる。本実施例では、弁座110は、磁性材料としての鉄(S45C等)からなる弁座本体そのものとされている。
【0048】
基部113及び円筒部114には、軸線X1を中心軸とする弁孔111が貫設されている。弁孔111は吐出室5bと、吐出通路50の下流側とを連通させている。円筒部114は、先端側に位置する小径の凸部115と、凸部115と基部113との間に位置し、凸部115よりやや大径の案内部材保持部116とからなる。凸部115の外周が切欠き115bとされている。凸部115の後方を向く先端は弁座座面115aとされている。弁座座面115aは、軸線X1と直交する平面と平行である。
【0049】
案内部材130は、軸線X1を中心軸とする円筒形状とされた円筒部133と、円筒部133の後端縁を塞ぐ円盤形状とされた円盤部134とからなる。本実施例では、案内部材130は、非磁性材料である樹脂(ナイロン樹脂等)からなる。円筒部133の前端縁133aが案内部材保持部116の外周面に対して外側から嵌合することにより、案内部材130が弁座110に固定されている。
【0050】
円筒部133における前後方向の中間には、円筒部133の内部と外部とを連通させる複数の窓133bが軸線X1を中心とする円周上に並ぶように貫設されている。各窓133bは弁座110側が頂点となる三角形に形成されている。
【0051】
弁体120は、弁座110の円筒部114と、案内部材130とにより囲まれた空間内に収容されて、弁座110に対して吐出通路50の下流側に位置している。弁体120は、軸線X1を中心軸とする円筒形状とされた円筒部121と、円筒部121の前端縁を塞ぐ円盤形状とされた円盤部125とからなる。本実施例では、弁体120は、磁性材料としての鉄(S45C等)からなる弁体本体そのものとされている。
【0052】
弁体120の円筒部121の外周面と、案内部材130の円筒部133の内周面との間には、弁体120を前後方向に摺動可能とするクリアランスが確保されている。これにより、弁体120は、案内部材130に案内されて、前後方向に変位可能となっている。
【0053】
弁体120の円盤部125の外径は凸部115の外径とほぼ等しくされ、円盤部125の前端面の外周域は弁体座面125aとされている。弁体座面125aも、軸線X1と直交する平面と平行である。弁体120が前方に変位して、弁体座面125aが弁座座面115aに当接することにより、弁体120が弁座110に着座して弁孔111を閉鎖する。この際、弁体120の円筒部121は窓133bを閉じている。その状態から弁体120が後方に変位することにより、弁体120が弁座110から離反して弁孔111を開放する。この際、円筒部121は窓133bを開放する。そして、弁体120がさらに後方に変位して、円筒部121の後端が案内部材130の円盤部134に当て止まることにより、弁孔111が全開状態となる。この際、円筒部121は窓133bを全開にする。
【0054】
弁座110の切欠き115bには永久磁石150が接着剤等によって固定されている。永久磁石150は弁座座面115aから段差Dをもって奥まった位置に配置されている。すなわち、永久磁石150の弁座座面115a側の先端面は軸線X1と直交する平面と平行である。また、永久磁石150の先端面は、弁座座面115aよりも弁体座面125aから遠い位置にあり、弁体座面125aとは接触しない。永久磁石150が弁座座面115aから下がれば下がるほど、開弁時における弁座座面115aの磁束密度は下がる。このため、切欠き115bのうち、永久磁石150の先端面から弁座座面115aまでの空間が第1異物収容部115cとされている。永久磁石150は、弁体120と弁座110との間の吸引力、吸着力とともに、開弁時の磁束密度との関係により設定される。
【0055】
永久磁石150は、軸線X1を中心軸とし、弁孔111と同心の環状である。本実施例では、永久磁石150はネオジム磁石である。この位置に設けられた永久磁石150は、弁座110と弁体120とを磁力に基づく吸引力により互いに接近するように付勢する。円盤部125の外周には、閉弁時に第1異物収容部115cと一体になる第2異物収容部125bが形成されている。この差圧制御弁は、弁体120を弁座110に向かって付勢するバネを備えていない。
【0056】
図3に、弁体120の変位量と、弁体120を弁座110に付勢する付勢力との関係を実線S1、S2により示す。実線S1は、弁体120の変位量と、永久磁石150と弁座110との間に作用する磁力との関係を示している。ここで、永久磁石150と弁座110との間に作用する磁力は、弁体120の変位量が0の場合は吸着力であり、変位量が0より大きい場合は吸引力である。
【0057】
一方、実線S2は、バネのみによって弁体を弁座に付勢する一般的な差圧制御弁において、バネが弁体を弁座に付勢する付勢力の一例を示している。この例では、本実施例の差圧制御弁100から永久磁石150を除き、バネ140の代わりに付勢力が強いバネを採用した差圧制御弁を想定している。
【0058】
実施例1の場合、実線S1で示すように、弁孔111の閉鎖時、すなわち、弁体120の変位量が0の場合、永久磁石150と弁座110との間に作用する吸着力は、吐出室5bと吐出通路50の下流側との圧力差が所定の値ΔP以下である場合に弁座110と弁体120との着座を維持できるように設定されている。また、この吸着力は、実線S2で示すように、一般的な差圧制御弁におけるバネが弁孔111の閉鎖時に弁体120を弁座110に付勢する付勢力と同じになるように設定されている。
【0059】
一方、一般的な差圧制御弁の場合、実線S2で示すように、弁孔111の開放時、すなわち、弁体120の変位量が0より大きくなる場合、バネが弁体120を弁座110に付勢する付勢力が比例的に増加する。
【0060】
これに対して、実施例1の場合、実線S1で示すように、弁孔111の開放時、すなわち、弁体120の変位量が0より大きくなる場合、永久磁石150と弁座110との間に作用する吸引力が急激に低下する。
【0061】
以上のように構成された圧縮機は、車両用空調装置において、吐出室5bが吐出通路50を介して凝縮器に接続され、凝縮器が膨張弁を介して蒸発器に接続され、蒸発器が吸入室5aに接続される。そして、エンジン等によって駆動軸11が回転駆動されれば、斜板17の傾角に応じた吐出容量で吸入室5a内の冷媒ガスを圧縮室31で圧縮して吐出室5bに吐出する。
【0062】
この間、例えば、搭乗者による空調温度の変更指令や、車両のエンジン等の回転数の変化等に対応して容量制御弁2が作動する。そして、吐出室5b内の高圧の冷媒ガスが給気通路44、46を介してクランク室9に供給されれば、斜板17の傾角が減少して、吐出容量が小さくなる。逆に、吐出室5b内の高圧の冷媒ガスが給気通路44、46を介してクランク室9に供給され難くなれば、斜板17の傾角が増加して、吐出容量が大きくなる。こうして、この圧縮機では、吐出容量が適宜変更され得ることとなる。
【0063】
ここで、差圧制御弁100は以下のように動作する。斜板17の傾角が最小となって、吐出室5bから吐出される冷媒ガスの吐出容量が最小になると、吐出室5bと吐出通路50の下流側との圧力差が所定の値ΔP以下となる。そうすると、図2に示すように、永久磁石150と弁体120との間に作用する吸引力により、弁体120が弁座110に向かって付勢されて弁座110に着座し、弁体120が弁孔111を閉鎖する。そして、その状態が永久磁石150と弁体120との間に作用する吸着力により維持される。その結果、吐出通路50が閉鎖状態となり、圧縮機、凝縮器、膨張弁及び蒸発器間の冷媒循環が停止する。
【0064】
その一方、斜板17の傾角が最小から増加すると、吐出室5bから吐出される冷媒ガスの吐出容量も増加し、吐出室5bと吐出通路50の下流側との圧力差が所定の値ΔPを超える。そうすると、永久磁石150と弁体120との間に作用する吸着力がその圧力差に負けて、弁体120が弁孔111を閉鎖できなくなり、弁体120が案内部材130に案内されて弁座110から離反する。そうすると、図3に実線S1で示すように、永久磁石150と弁体120との間に作用する吸引力が急激に低下するので、弁孔111を通過する冷媒ガスに弁体120がさらに押される。このため、弁体120が弁座110から大きく離反して、弁体120が窓133bを開放する。その結果、吐出通路50が速やかに全開状態に切り替わり、圧縮機、凝縮器、膨張弁及び蒸発器間の冷媒循環が行われる。
【0065】
ここで、実施例1の差圧制御弁100は、弁座110と弁体120とを吸引力により互いに接近するように付勢する永久磁石150を採用していることから、図3に実線S1、S2で示すように、弁体120が弁座110から離れるほど永久磁石150の吸引力が弱くなり、一般的な差圧制御弁と比較して、弁孔111の開放時に弁体120が弁座110から離れ易い。このため、この差圧制御弁100は、特に低流量時に、吐出室5bと吐出通路50の下流側との圧力差が小さくても、弁孔111を確実に開放でき、冷媒ガスが吐出室5bから弁孔111を介して吐出通路50の下流側に流れる際の圧力損失を低減できる。
【0066】
また、この差圧制御弁では、図4に示すように、永久磁石150は、その配置されている位置により、弁座座面115a及び弁体座面125aに対し、着座時に弁座110と弁体120とが着座可能な磁束密度を作用する。このため、弁座座面115aと弁体座面125aとは着座時に当接可能とされている。図5は、弁孔111が閉鎖され、差圧制御弁が閉じた状態を示している。この状態では、冷媒ガスに含まれ得る磁性材料からなる異物が弁座座面115aと弁体座面125a付近に侵入しても、これらが既に当接しているため、異物はこれらに吸着して噛み込むおそれはない。
【0067】
そして、弁座座面115aの近傍には第1、2異物収容部115c、125bが設けられている。また、図4及び図5に示すように、永久磁石150は、その配置されている位置により、離座時には、第1、2異物収容部115c、125b内の磁束密度が変化し、磁束密度が集中する領域が発生する。このため、図4に示す離座時の第1、2異物収容部115c、125bにおける磁束密度は、図5に示す着座時の第1、2異物収容部115c、125bにおける磁束密度よりも高くされている。一方、図4に示す離座時の弁座座面115a及び弁体座面125aにおける磁束密度は、図5に示す着座時のそれらの磁束密度より低い。また、図4に示す離座時の第1異物収容部115cにおける磁束密度は、図5に示す離座時の弁座座面115a及び弁体座面125aの磁束密度より高い。図4は、弁孔111が開放され、差圧制御弁が開いた状態を示している。この状態では、弁体120と弁座110との距離が広がるため、永久磁石150からの磁束線が変化し、弁体120よりも近い弁座110を磁束線が通る。このため、永久磁石150と弁座110との間に磁束線が集中する領域が発生し、異物が吸い寄せられる。吸い寄せられた異物は、弁座110側の第1異物収容部115c及び弁体120側の第2異物収容部125bに収容される。
【0068】
このため、異物は、開弁時において、永久磁石150が設けられた弁体120の弁体座面125a近傍に設けられ、磁束線が集中して磁束密度が高い第1異物収容部125bに吸引される。吸引された異物は、第1、2異物収容部115c、125bに収容される。このため、閉弁時には、当接する弁座座面115aと弁体座面125aとの間にその異物は吸着し難く、弁座座面115aと弁体座面125bとの間に異物が噛み込み難い。このため、この差圧制御弁では、着座時に弁座座面115aと弁体座面125bとの間に隙間を生じ難く、弁孔111をより確実に閉じることができる。
【0069】
なお、この差圧制御弁では、磁性材料からなる弁座110が永久磁石150により磁化するため、弁体120が弁座110から離座しても、第1、2異物収容部115c、125bに磁力により吸着している。
【0070】
したがって、この差圧制御弁は、圧力損失を低減できるとともに、弁孔111を確実に閉鎖可能である。また、容量可変型圧縮機は、この差圧制御弁が奏する作用効果により、圧力損失を低減できるとともに、冷媒ガスの逆流を確実に防止することができる。
【0071】
また、この差圧制御弁では、弁座110が永久磁石150を保持しているため、弁体120の重量は軽く、上流側と下流側との圧力差の変動に対する弁体120の作動性が向上している。
【0072】
さらに、この差圧制御弁は、非磁性材料からなる案内部材130を備えているため、永久磁石150の磁束線が案内部材130に向かって流れ難い。このため、弁座110と弁体120との間の磁束密度が高くなるので、弁座110と弁体120との間に作用する磁力が大きくなり、弁体120が弁座110に向かって移動し易く、かつ弁座110に安定して着座する。このため、この差圧制御弁は、永久磁石150を小さくでき、小型化が実現されている。
【0073】
また、この差圧制御弁は、弁体120を弁座110に向かって付勢するバネを備えていないため、部品点数の削減及び組み付け作業の簡素化を実現している。
【0074】
なお、弁体120及び弁座110は、全体が磁性材料でなくともよい。永久磁石150と弁体120又は弁座110との間に磁束集中領域を発生させて異物を吸引できればよいので、弁体120及び弁座110は、少なくとも永久磁石150の側面に配置される部分が磁性材料であればよい。また、弁座座面115a及び弁体座面125a自体が磁性材料でなくともよい。弁体120及び弁座110を磁性材料で形成し、弁座座面115a及び弁体座面125aに樹脂コートをしてもよい。
【0075】
(実施例2)
図6に示すように、実施例2の差圧制御弁200は、吐出通路50の大径穴部50a内に配設されている。この差圧制御弁200は、弁座210と、案内部材230と、弁体220とを備えている。
【0076】
弁座210は、軸線X1を中心軸とする基部213と、基部213に対して同心かつ小径の円筒形状とされて、基部213に対して後方に位置する凸部214とからなる。基部213及び凸部214には、軸線X1を中心軸とする弁孔211が貫設されている。凸部214の後方を向く先端は弁座座面214aとされている。
【0077】
案内部材230は、軸線X1を中心軸とする円筒形状とされた円筒部233と、円筒部233の後端縁を塞ぐ円盤形状とされた円盤部234とからなる。案内部材230は弁座210の凸部214に固定されている。
【0078】
案内部材230の円筒部233における前後方向の中間には、円筒部233の内部と外部とを連通させる複数の窓233bが軸線X1を中心とする円周上に並ぶように貫設されている。
【0079】
弁体220は、弁座210の凸部214と、案内部材230とにより囲まれた空間内に収容されている。弁体220は、軸線X1を中心軸とする円筒形状とされた円筒部221と、円筒部221の前端縁を塞ぐ円盤形状とされた円盤部225とからなる。
【0080】
弁体220の円盤部225の前端面の外周域は弁体座面225aとされている。弁座210の凸部214の内周には切欠き214dが形成され、切欠き214d内には永久磁石250が圧入によって固定されている。永久磁石250は、軸線X1を中心軸とし、弁孔211と同心の環状である。永久磁石250には弁孔211と同径の貫通孔250aが形成されている。
【0081】
また、永久磁石250は、弁座座面214aから段差Dをもって奥まった位置に配置されている。凸部214の内周のうち、永久磁石250の先端面から弁座座面214aまでの空間が異物収容部214cとされている。他の構成は実施例1と同様である。
【0082】
この差圧制御弁では、永久磁石250は、図8に示すように、弁座座面214a及び弁体座面225aに対し、着座時には弁座210と弁体220とが着座可能な所定の磁束密度を作用する。このため、弁座座面214aと弁体座面225aとは着座時に当接可能とされている。
【0083】
そして、弁体220が弁座210に着座した状態においても、永久磁石250の後方には異物収容部214cが存在する。図7は離座時の磁束線を示す。離座時には、弁体220と弁座210との距離が広がるため、永久磁石250からの磁束線が閉弁時から変化し、弁体220よりも近い弁座210を磁束線が通る。このため、永久磁石250と弁座210との間に磁束線が集中する領域が発生し、異物が吸い寄せられる。吸い寄せられた異物は、異物収容部214cに収容される。一方、離座時の弁座座面214a及び弁体座面225aにおける磁束密度は着座時のそれらの磁束密度より低い。また、離座時の異物収容部214cにおける磁束密度は離座時の弁座座面214a及び弁体座面225aの磁束密度より高い。このため、異物は、弁座座面214aや弁体座面225aには吸着せず、異物収容部214cに収容されることとなる。なお、異物収容部214cは永久磁石250の隣にあるため、弁体220が弁座210から離座しても、収容された異物は異物収容部214c内に残存する。他の作用効果は実施例1と同様である。
【0084】
(実施例3)
図9に示すように、実施例3の差圧制御弁300は、吐出通路50の大径穴部50a内に配設されている。この差圧制御弁300は、弁座310と、案内部材330と、弁体320とを備えている。
【0085】
弁座310は、軸線X1を中心軸とする基部313と、基部313に対して同心かつ小径の円筒形状とされて、基部313に対して後方に位置する円筒部314とからなる。基部313及び円筒部314には、軸線X1を中心軸とする弁孔311が貫設されている。円筒部314の後方を向く先端は弁座座面314aとされている。
【0086】
案内部材330は、軸線X1を中心軸とする円筒形状とされた円筒部333と、円筒部333の後端縁を塞ぐ円盤形状とされた円盤部334とからなる。案内部材330は弁座310の円筒部314に固定されている。
【0087】
案内部材330の円筒部333における前後方向の中間には、円筒部333の内部と外部とを連通させる複数の窓333bが軸線X1を中心とする円周上に並ぶように貫設されている。
【0088】
弁体320は、弁座310の円筒部314と、案内部材330とにより囲まれた空間内に収容されている。弁体320は、軸線X1を中心軸とする円筒形状とされた凸部321からなる。凸部321の前端面は弁体座面321aとされている。凸部321の内周には永久磁石350が圧入によって固定されている。永久磁石350は、軸線X1を中心軸とし、弁孔311と同心の柱状である。
【0089】
また、永久磁石350は、弁体座面321aから段差Dをもって奥まった位置に配置されている。凸部321の内周のうち、永久磁石350の先端面から弁体座面321aまでの空間が異物収容部321cとされている。他の構成は実施例1と同様である。
【0090】
この差圧制御弁では、永久磁石350は、図11に示すように、弁座座面314a及び弁体座面321aに対し、着座時には弁座310と弁体320とが着座可能な所定の磁束密度を作用する。このため、弁座座面314aと弁体座面321aとは着座時に当接可能とされている。
【0091】
そして、弁体320が弁座310に着座した状態においても、永久磁石350の前方には異物収容部321cが存在する。図10は離座時の磁束線を示す。離座時には、弁体320と弁座310との距離が広がるため、永久磁石350からの磁束線が閉弁時から変化し、弁座310よりも近い弁体320を磁束線が通る。このため、永久磁石350と弁体320との間に磁束線が集中する領域が発生し、異物が吸い寄せられる。吸い寄せられた異物は、異物収容部321cに収容される。一方、離座時の弁座座面314a及び弁体座面321aにおける磁束密度は着座時のそれらの磁束密度より低い。また、離座時の異物収容部321cにおける磁束密度は離座時の弁座座面314a及び弁体座面321aの磁束密度より高い。このため、異物は、弁座座面314aや弁体座面321aには吸着せず、異物収容部321cに収容されることとなる。なお、異物収容部321cも永久磁石350の隣にあるため、弁体320が弁座310から離座しても、収容された異物は異物収容部321c内に残存する。他の作用効果は実施例1と同様である。
【0092】
(実施例4)
図12に示すように、実施例4の差圧制御弁400は、吐出通路50の大径穴部50a内に配設されている。この差圧制御弁400は、弁座410と、案内部材430と、弁体420とを備えている。
【0093】
弁座410は、軸線X1を中心軸とする基部413と、基部413に対して同心かつ小径の円筒形状とされて、基部413に対して後方に位置する円筒部414とからなる。基部413及び円筒部414には、軸線X1を中心軸とする弁孔411が貫設されている。円筒部414の後方を向く先端は弁座座面414aとされている。
【0094】
案内部材430は、軸線X1を中心軸とする円筒形状とされた円筒部433と、円筒部433の後端縁を塞ぐ円盤形状とされた円盤部434とからなる。案内部材430は弁座410の円筒部414に固定されている。
【0095】
案内部材430の円筒部433における前後方向の中間には、円筒部433の内部と外部とを連通させる複数の窓433bが軸線X1を中心とする円周上に並ぶように貫設されている。
【0096】
弁体420は、弁座410の円筒部414と、案内部材430とにより囲まれた空間内に収容されている。弁体420は、軸線X1を中心軸とする円筒形状とされた凸部421と、凸部421の前方を塞ぐ円盤形状とされた円盤部425と、円盤部425から前方に突出し、軸線X1を中心軸とする円筒形状とされた凸部426とからなる。弁体420における凸部421の内周には、永久磁石450が弁孔411とは反対側に圧入によって固定されている。
【0097】
永久磁石450は弁体座面426aから円盤部425を含む段差Dをもって奥まった位置に配置されている。永久磁石450は、軸線X1を中心軸とし、弁孔411と同心の柱状である。凸部426の前端面は弁体座面426aとされている。凸部426の内周には、異物収容部426cが形成されている。他の構成は実施例1と同様である。
【0098】
この差圧制御弁では、永久磁石450は、図14に示すように、弁座座面414a及び弁体座面426aに対し、着座時には弁座410と弁体420とが着座可能な所定の磁束密度を作用する。このため、弁座座面414aと弁体座面426aとは着座時に当接可能とされている。
【0099】
そして、弁体420が弁座410に着座した状態においても、円盤部425の前方には異物収容部426cが存在する。図13は離座時の磁束線を示す。離座時には、弁体420と弁座410との距離が広がるため、永久磁石450からの磁束線が閉弁時から変化し、弁座410よりも近い弁体420を磁束線が通る。このため、永久磁石450と弁体420との間に磁束線が集中する領域が発生し、異物が吸い寄せられる。吸い寄せられた異物は、異物収容部426cに収容される。一方、離座時の弁座座面426a及び弁体座面414aにおける磁束密度は着座時のそれらの磁束密度より低い。また、離座時の異物収容部426cにおける磁束密度は離座時の弁座座面414a及び弁体座面426aの磁束密度より高い。このため、異物は、弁座座面414aや弁体座面426aには吸着せず、異物収容部426cに収容されることとなる。なお、異物収容部426cは円盤部425を挟んで永久磁石450の背面側にあるため、弁体420が弁座410から離座しても、収容された異物は異物収容部426c内に残存する。他の作用効果は実施例1と同様である。
【0100】
(実施例5)
図15に示すように、実施例5の差圧制御弁500は、吐出通路50の大径穴部50a内に配設されている。この差圧制御弁500は、弁座510と、案内部材530と、弁体520とを備えている。
【0101】
弁座510は、軸線X1を中心軸とする基部513と、基部513に対して同心かつ小径の円筒形状とされて、基部513に対して後方に位置する円筒部514とからなる。基部513及び円筒部514には、軸線X1を中心軸とする弁孔511が貫設されている。円筒部514の後方を向く先端は弁座座面514aとされている。
【0102】
案内部材530は、軸線X1を中心軸とする円筒形状とされた円筒部533と、円筒部533の後端縁を塞ぐ円盤形状とされた円盤部534とからなる。案内部材530は弁座510の円筒部514に固定されている。
【0103】
案内部材530の円筒部533における前後方向の中間には、円筒部533の内部と外部とを連通させる複数の窓533bが軸線X1を中心とする円周上に並ぶように貫設されている。
【0104】
弁体520は、弁座510の円筒部514と、案内部材530とにより囲まれた空間内に収容されている。弁体520は、軸線X1を中心軸とする円柱形状とされた凸部521と、凸部521の後方に一体に円盤形状に設けられた円盤部525とからなる。凸部521の外周には永久磁石550が圧入によって固定されている。
【0105】
永久磁石550は弁体座面526aから段差Dをもって奥まった位置に配置されている。永久磁石550は、軸線X1を中心軸とし、弁孔511と同心の環状である。
【0106】
凸部521は永久磁石550よりも前方に凸部526を有している。凸部526の前端面は弁体座面526aとされている。凸部526の外周には、異物収容部526cが形成されている。他の構成は実施例1と同様である。この差圧制御弁500によっても実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0107】
(実施例6)
図16に示すように、実施例6の差圧制御弁600は、弁座610と、案内部材630と、弁体620とを備えている。
【0108】
弁座610は、軸線X1を中心軸とする基部613と、基部613に対して同心かつ小径の円筒形状とされて、基部613に対して後方に位置する円筒部614とからなる。
【0109】
基部613及び円筒部614には、軸線X1を中心軸とする弁孔611が貫設されている。円筒部614は、先端側に位置する小径の凸部615と、凸部615と基部613との間に位置し、凸部615よりやや大径の案内部材保持部616とからなる。凸部615の外周が切欠き615bとされている。凸部615の後方を向く先端は弁座座面615aとされている。
【0110】
案内部材630は、軸線X1を中心軸とする円筒形状とされた円筒部633と、円筒部633の後端縁を塞ぐ円盤部634とからなる。円筒部633の前端縁633aが案内部材保持部616の外周面に対して外側から嵌合することにより、案内部材630が弁座610に固定されている。案内部材630は、非磁性材料である樹脂(ナイロン樹脂等)からなる。
【0111】
円筒部633における前後方向の中間には、円筒部633の内部と外部とを連通させる複数の窓633bが軸線X1を中心とする円周上に並ぶように貫設されている。各窓633bは四角形に形成されている。
【0112】
弁体620は、弁座610の円筒部614と、案内部材630とにより囲まれた空間内に収容されて、弁座610に対して吐出通路50の下流側に位置している。弁体620は、軸線X1を中心軸とする円盤形状とされた円盤部625と、円盤部625を前端に位置させて円盤部625と一体成形された円筒形状の円筒部621とからなる。本実施例では、円盤部625が鉄(S45C等)からなる弁体本体である。また、円筒部621は、案内部材630と同種の樹脂からなる。
【0113】
円盤部625の外径は凸部615の外径とほぼ等しくされ、円盤部625の前端面の外周域は弁体座面625aとされている。
【0114】
弁座610の切欠き615bには永久磁石650が圧入によって固定されている。永久磁石650は弁座座面615aから段差Dをもって奥まった位置に配置されている。図17に示すように、切欠き615bのうち、永久磁石650の先端面650aから弁座座面615aまでの空間が第1異物収容部615cとされている。円盤部625の外周には、閉弁時に第1異物収容部615cと一体になる第2異物収容部625bが形成されている。永久磁石650の先端面650aは凹設されている。より詳細には、永久磁石650の先端面650aは、弁座座面615a及び弁体座面625aに近い方が弁座座面615a及び弁体座面625aから遠い方よりも段差Dが大きいテーパ状に形成されている。
【0115】
この差圧制御弁600では、図18及び図19に示すように、離座時の第1、2異物収容部615c、625bにおける磁束密度が着座時の第1、2異物収容部615c、625bにおける磁束密度よりも高くなるように、永久磁石650が配置されている。また、離座時の第1、2異物収容部615c、625bにおける磁束密度が離座時の弁座座面615a及び弁体座面625aにおける磁束密度よりも高くなるように、永久磁石650が配置されている。また、弁座座面615aと第1、2異物収容部615c、625bとの磁束密度の差を大きくしている。他の構成は実施例1と同様である。
【0116】
この差圧制御弁600では、弁座座面615aと第1、2異物収容部615c、625bとの磁束密度の差が大きいことから、弁座座面615aと弁体座面625aとの間に異物がより一層噛み込み難い。
【0117】
また、この差圧制御弁600では、永久磁石650の先端側に第1、2異物収容部615c、625bが位置し、永久磁石650の先端面650aが凹設されている。これにより、第1、2異物収容部615c、625bを大きくすることができ、多くの異物を収容することができる。また、先端面650aがテーパ状に形成されているため、先端面650aと弁座座面615aとの間に磁束が集中する領域が発生し、確実に異物を吸着させることができるので、弁座座面615aと弁体座面625aとの間に異物がより一層噛み込み難い。
【0118】
また、この差圧制御弁600では、弁体620の円筒部621が案内部材630と同種の樹脂からなるため、異物が案内部材630と円筒部621との間に噛み込み難い。他の作用効果は実施例1と同様である。
【0119】
(実施例7)
図20に示すように、実施例7の差圧制御弁700では、永久磁石651の先端面651aは、弁座座面615a及び弁体座面625aに近い方が弁座座面615a及び弁体座面625aから遠い方よりも段差Dが大きい2段の階段状に形成されている。他の構成は実施例1と同様である。この差圧制御弁700においても、実施例6と同様の作用効果を奏することができる。
【0120】
以上において、本発明を実施例1〜7に即して説明したが、本発明は上記実施例1〜7に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0121】
例えば、差圧制御弁100、200、300、400、500、600、700の向きを上下方向に向けてもよいし、リヤハウジング5以外の位置に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は空調装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0123】
100、200、300、400、500、600、700…差圧制御弁
110、210、310、410、510、610…弁座、弁座本体
111、211、311、411、511、611…弁孔
115、214、321、421、521、615…凸部
115b、615b…切欠き
115a、214a、314a、414a、514a、615a…弁座座面
120、220、320、420、520、620…弁体、弁体本体
625…円盤部(弁体本体)
125a、225a、321a、426a、526a、625a…弁体座面
130、230、330、430、530、630…案内部材
150、250、350、450、550、650…永久磁石
115c、125b、214c、321c、426c、526c、615c、625b…異物収容部
214b、321b、426、526…凸部
31…圧縮室
5b…吐出室
50…吐出通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が通過する弁孔が形成された弁座と、前記弁座に対して下流側に位置し、上流側と下流側との圧力差に応じて前記弁座に対して着座又は離座することにより、前記弁孔を開閉する弁体とを備える差圧制御弁において、
前記弁座は、磁性材料からなり、前記弁孔回りに弁座座面が形成された弁座本体を有し、
前記弁体は、磁性材料からなり、前記弁座座面と着座又は離座する弁体座面が形成された弁体本体を有し、
前記弁座及び前記弁体の一方には、前記弁座本体と前記弁体本体とを吸引力により互いに接近するように付勢する永久磁石が設けられ、
前記弁座座面及び前記弁体座面の少なくとも一方の近傍には、磁性材料からなる異物を収容可能な異物収容部が設けられ、
前記永久磁石は、離座時の前記異物収容部における磁束密度が着座時の前記異物収容部における磁束密度よりも高くなるように、配置されていることを特徴とする差圧制御弁。
【請求項2】
前記永久磁石は、離座時の前記異物収容部における磁束密度が離座時の前記弁座座面及び前記弁体座面における磁束密度よりも高くなるように、配置されている請求項1記載の差圧制御弁。
【請求項3】
前記異物収容部は、前記弁座座面及び前記弁体座面の少なくとも一方に形成された切欠き内に配置されている請求項2記載の差圧制御弁。
【請求項4】
前記永久磁石は、前記弁座座面及び前記弁体座面の少なくとも一方から段差をもって奥まった位置に配置されている請求項3記載の差圧制御弁。
【請求項5】
前記永久磁石の先端側に前記異物収容部が位置する場合、前記永久磁石の先端面は凹設されている請求項4記載の差圧制御弁。
【請求項6】
前記先端面は、前記弁座座面及び前記弁体座面に近い方が前記弁座座面及び前記弁体座面から遠い方よりも前記段差が大きい請求項5記載の差圧制御弁。
【請求項7】
前記永久磁石は、前記弁体本体における前記弁孔とは反対側に配置されている請求項2記載の差圧制御弁。
【請求項8】
前記永久磁石は前記弁孔と同心の環状であり、
前記弁座本体は、先端が前記弁座座面とされて筒状に形成され、外周又は内周に前記切欠きが形成されている請求項3記載の差圧制御弁。
【請求項9】
前記弁体本体は、先端が前記弁体座面とされて筒状に形成される凸部を有している請求項8記載の差圧制御弁。
【請求項10】
前記永久磁石は前記弁孔と同心の環状であり、
前記弁体本体は、先端が前記弁体座面とされて凸状に形成され、外周又は内周に前記切欠きが形成されている請求項3記載の差圧制御弁。
【請求項11】
前記弁座本体は、先端が前記弁座座面とされて筒状に形成される凸部を有している請求項10記載の差圧制御弁。
【請求項12】
前記永久磁石は前記弁孔と同心の柱状であり、
前記弁体本体は、先端が前記弁体座面とされて筒状に形成され、内部に前記切欠きが形成されている請求項3記載の差圧制御弁。
【請求項13】
前記弁体本体は、先端が前記弁体座面とされて筒状に形成される凸部を有している請求項12記載の差圧制御弁。
【請求項14】
前記弁体本体は筒状に形成されている請求項13記載の差圧制御弁。
【請求項15】
前記弁座に固定され、前記弁体を案内する非磁性材料からなる案内部材を備えている請求項1乃至14のいずれか1項記載の差圧制御弁。
【請求項16】
圧縮室と吐出室とを備え、前記圧縮室内に吸入された流体を圧縮して前記吐出室に吐出可能であるととともに、前記圧縮室から前記吐出室に吐出される前記流体の吐出容量を変更可能に構成された容量可変型圧縮機であって、
前記吐出室又は前記吐出室に連通する吐出通路に請求項1乃至15のいずれか1項記載の前記差圧制御弁が配設されていることを特徴とする容量可変型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−50123(P2013−50123A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186904(P2011−186904)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】